───病息(びょうそく)───
───やがてお犬様を滅ぼした彰利がこちらを向く。 彰利 「ダ、ダーリーン!見てたんなら助けてくれよ!」 悠介 「いや、なんか入り辛い雰囲気だったんでな」 彰利 「ぬう」 犬β  「ガウッ!」 彰利 「なにぃ!?」 ガブリッ! 彰利 「ギャアア!」 犬α  「ワンワンッ!」 彰利 「ま、まだ居やがったのか……!このっ───っく!?」 突如、彰利がフラつく。 あれも演技だろうか。 彰利 「───チィ、どうやらマジみたいだな……。     このままじゃ戦うことは無理だ……ともなれば」 ブツブツと呟く彰利。 辺りを見渡し、何故か俺を見て微笑む。 彰利 「……うぬは力が欲しくないか?」 悠介 「いらん」 即答した。 彰利 「みなまで言うな、解っとる。ホントは欲しくてしかたないんじゃろ?     だから受け取れ。そして俺の変わりに犬を蹴散らせ。ぬぅううん!」 勝手に話を進めやがり、右手をギシャアアと赤く光らせる彰利。 ああ、どっかで見たことある風景だ。 彰利 「我の拳は神の息吹!」 モシャアアン! 手から紅い闘気が溢れる。 彰利 「“堕ちたる種子”を開花させ、秘めたる力をつむぎ出す!」 ギシャァアアン! 更に闘気を輝かせる。 やがて俺へと手をかざして 彰利 「美しき滅びの母の力を!」 その紅い光を俺に向けて放った。 が、イヤな予感がしたので避けた。 彰利 「アイヤーッ!?」 避けたその光は俺の後ろに居た犬に当たり─── メコッ! 悠介 「え?」 ボコッ!モコッ!メキメキメキ……! 悠介 「う、うそぉ……」 その犬の体が少し大きくなる。 彰利 「ダーリンの馬鹿ーっ!人がせっかく力の求道者の真似までしたのにー!」 悠介 「んなこと言ってる場合かーっ!」 やがて犬の目付きまでもが変わった頃。 俺はその場から逃げ出したい気持ちにかられた。 彰利 「こうなったらダーリン!機神黒掌だ!殺れ!イドになれ!」 悠介 「懐かしいこと言うな!グラーフの真似もするな!そして俺はイドじゃねぇ!」 犬煤@「グルルルル……!」 悠介 「お、おわーっ!」 彰利 「ひぃい退却じゃーっ!」 彰利はひとりで逃げ出した。 悠介 「ああっ!てめぇずるいぞ!」 が、突如倒れた。 悠介 「───彰利?」 犬煤@「ガオォ!」 ガブリ! 彰利 「ギャーッ!な、なにさらすんじゃい失せろこのハゲ!ゴールデンスマッシュ!」 コキィンッ! 犬煤@「ギャワァンッ!」 彰利 「UUURYYYYYYYYYY!!!」 ドシュッ! 犬煤@「キャイッ!?」 彰利が犬の首に掌を当て、ズキューンズキューン!と何かを吸い取る。 ああ、多分さっきの力だろうな。 彰利 「……浄化完了」 どさっ。 悠介 「彰利っ!?」 やっぱり倒れる彰利の傍に寄り、その様子を見る。 悠介 「───お前、顔赤いぞ」 彰利 「恋をしてるんだ」 悠介 「……熱があるじゃないか!」 彰利 「激しい恋をしてい」 ドボォッ! 彰利 「ジェニファーッ!?」 悠介 「喋るなっ!ああもう、どうしてこんなになるまで無茶したんだ!     お前の部屋に戻るぞ!」 彰利 「な、なにぃ、だめだ〜。お、俺はダ〜……」 悠介 「彰利!?……ったくこの馬鹿!喋れなくなるほど無理するんじゃねえよ!」 彰利を抱える。 そして出来る限りの近道を思い出して、俺は走った。 ああもう、まったくなにやりたいんだこのタコ助は! 彰利の部屋に行ったところで、どうせ風邪薬とかは一切無いだろうと思い、神社へ走る。 呆れて果てて殴り倒したくなるな、まったく。 ───。 あまりの珍しさに騒いだ。 意見はいろいろ出回ったが、この馬鹿が風邪を引くわけがないと言う意見が大半だった。 そしてセレスに診てもらったところ─── インフルエンザだということが判明した。 ……死んでも直らなかった馬鹿でも病気にはなるんだな……。 まったく余計な面倒事転がしてきやがって……。 彰利 「うう、いつもすまないねぇ……おトミさん」 悠介 「誰がおトミだ」 彰利 「ウッ……ぐっは……暑ぃ……きもちわりぃ……」 彰利はぐったりしている。 およそ風邪すら引いたことがないであろう彼には、インフルエンザは重いだろう。 彰利 「月操力の乱用、の影響で……月操、力が使用……不能になって、なければ、     さっさと……治せ……んだ、けど…………うぅ……」 喋るのも辛いのか、途切れ途切れに喋る彰利。 いつもの覇気は皆無である。 彰利 「インフ……ルエン、ザに……薬って、あったっけ……」 悠介 「あるらしいけど、なんか別の薬が混ざったらしくてさ。     今は世界に出回ってないらしいぞ」 彰利 「………」 うわぁ、絶望の顔。 悠介 「ちなみに俺も完全に馴染んでなかったのに理力使いまくったもんだからね。     現在、創造の理力は一切使えません」 彰利 「………」 不幸のどん底に落とされたような顔をしている。 悠介 「ああ、その代わり……俺の真の月操力たる月蝕力ならあるが」 彰利 「こっ……殺す気かぁっ!!───ぐぅぁっ……!     うぅー……きもちわりぃよぅ、だぁりぃ〜ん……」 悠介 「楽になれるぞ?」 彰利 「命がけで遠慮します」 真面目な顔で言われた。 悠介 「これも『熱を蝕む』とか、応用が利けばいいのになぁ」 彰利 「そりゃ……無理、だろ……。     もともと、家系が相手じゃなけりゃあ……意味がない、能力なんだ……」 そうだな。 熱や病気は家系とは関係がない。 彰利 「うう……こうなったら……仕方ねぇ……。     だ、だだだぁりん……あなたの手で……俺を看護して……ぷりぃず……」 悠介 「御託唱えてる暇があったら寝とけ。それと月並みだが、風邪薬でも飲んでろ。     それからお粥と生姜湯と玉子酒、どれがいい」 彰利 「うう、すまないねぇ……それじゃあ、レタス湯で頼む……」 悠介 「あるか!んなモン!」 彰利 「ふふふ、俺ならそれで復活も夢じゃないと思わないか?」 立ちあがり、キリッと決めて彼は歯を輝かせた。 と、思ったら次の瞬間になんの受身も取らずにドカーンと倒れた。 彰利 「ぐえぇ……やっぱ、無理……アカン、わ……」 言って、より一層に汗をだらだらと流す彰利。 彰利 「うう、シャツがベトつくよぅ……気持ち悪いよぅ……助けてパパン」 悠介 「誰がパパンだ」 彰利 「貴様だ」 ドゴォッ! 彰利 「ウゴォッ!」 悠介 「寝言は寝て言え。それから倒れた時くらいは馬鹿やるな」 彰利 「な、なにぃ……俺は」 悠介 「いいから寝てろ」 彰利 「……す、すまねぇ……」 そう言うと、彰利は観念したかのように目を閉じた。 彰利 「……あ、今、どうせ看病するなら、女が良かった、とか……思っただろ」 悠介 「思うか。家族や友人が倒れたら、俺は喜んで看病するぞ」 彰利 「そ、それじゃあキミは……喜んだら病人に拳を落とすのかい……?」 悠介 「お前は別だ。たわけ者へのお見舞いなんて拳で十分だろう」 彰利 「うう、切ねぇ……」 彰利の額にあるタオルを水で濡らし、よく絞ってから置き直した。 彰利 「───ふんっ!」 ジュッ! 彰利が気合の入った掛け声をすると、すぐに水分が蒸発する。 悠介 「アホかてめぇっ!人の献身をなんだと思ってやがる!」 彰利 「いやだってしょうがないじゃん!タオルよりパジャマ取り替えてダーリン!」 どさくさに紛れてなんてこと言いやがる……。 彰利 「さあカマーン」 ドゴォッ! 彰利 「ポップス!」 手を広げていた彰利の頬を斜め下から打ち抜いた。 悠介 「もういい、お前の心配なんぞをした俺が馬鹿だった」 彰利 「キャアア冗談YO!アタイほんとに具合悪いんじゃい!     見捨てられたら本気で死ねる!アタイが死ねる!」 悠介 「それだけ叫ぶことが出来れば十分じゃないか?」 彰利 「───」 ドシャア。 悠介 「彰利っ!?」 彰利が倒れた。 どうやら最後の力を使い果たしたらしい。 悠介 「ったく……!どうしてこう馬鹿なんだこいつは……!」 カラカラに乾いたタオルを水で濡らして、また置く。 彰利 「ふんっ!」 ジュッ! そしてまた蒸発させボゴォッ!! 彰利 「もぎゃあっ!」 悠介 「動くな!寝てろっ!」 ガコォッ!ドゴォッ! 彰利 「マウントッ!?斗羽さんっ!?     ちょっ…ちょっと待ブボッ!病人に絶え間無いブボッ!?     マウントパンチってブッファッ!ボッファッ!」 悠介 「死ねーっ!」 ガゴォッ!! 彰利 「ぐほっ!」 ……ガクッ。 彼が気絶するまで花山さんばりのマウントパンチで殴り倒し、俺は一息ついた。 悠介 「さてと……」 顔を腫らして鼻血を出してぐったりと動かない彰利を無視し、 俺は台所に向かい、その場で玉子酒とお粥などを作った。 ───……。 彰利 「う、むむ……」 粥などを作ってから数分後、彰利がわざとらしい声とともに目覚めた。 彰利 「うゎいっつぅっ!?」 で起きた途端に頭を抱えて叫んだ。 彰利 「……あー……全てが夢だったってことを期待したんじゃけんど……」 言って、腕についている物体を見る。 彰利 「───ええっ!?何これ!」 彰利の腕には管がついている。 医療事にも詳しいと言ったセレスが付けた点滴だ。 彰利 「お、俺が人体実験に……!?」 そしてなにやら盛大に勘違いしている目の前の馬鹿。 悠介 「ただの点滴だ。それよりほら、玉子酒だ。温め直したから温かいぞ」 彰利 「え?あ、ああサンキュ」 それを受け取って、グイーッと飲み下す。 彰利 「ぷっはぁ、やっぱり風呂の後のビールはキクねィェー!」 悠介 「玉子酒だ」 彰利 「解ってる解ってる」 至福の表情で手をひらひらとさせる彰利。 彰利 「フフフ、今この瞬間だけはダーリンはアタイの物ぞ……」 悠介 「それはいいから、さっさと直せ」 彰利 「うう、そうしたいのはやまやまだけど、     流石の俺にも病気を治すようなことは出来んよ……」 悠介 「濡れタオルの水分を蒸発出来てもか」 彰利 「そうだ。ていうか足に感覚が無い。なんか俺の足じゃないみたいだ」 言って、布団をどかす彰利。 そして足を擦っている。 どうやら冗談ではないらしい。 彰利 「よっ!」 …… 彰利 「ほっ!」 …… 彰利 「そーぅりゃっ!」 …… 彰利 「……やっぱ動かんわ」 ……動かそうとしてたのか。 彰利 「いやーん!」 それでも物ともしていないように見えるのは俺の幻覚だろうか。 ───しかし、そんなことを言って居られるのもここまでだった。 彰利 「───!」 悠介 「?」 彰利 「ダーリン!ダァアアリン!やばいよダーリン!」 悠介 「どした?」 彰利 「………」 悠介 「なんだよ」 彰利 「ダダ、ダーリィイイィイイン!!」 悠介 「だから、なんだよっ」 彰利 「ト、トトトト……」 悠介 「ト?」 彰利 「便所!」 悠介 「『ト』はどうした!」 彰利 「いやぁんおトイレ行きたぁい!」 悠介 「行けばいいだろう」 彰利 「足が動かん」 悠介 「這って行け」 彰利 「アタイをグアムに連れてって!」 悠介 「グアムなんぞ行かなくていいから便所へ行け」 彰利 「足が動かないんだってば!」 悠介 「這って行けって」 彰利 「なんか知らんけど握力も無いのよ!これでどうしろと!?」 悠介 「いいから行け」 彰利 「ゲェーッ!あんた鬼だ!頼む!WCに連れていってくれ!     ていうかトイレでどうしてWCって書くの!?     ワールドカップじゃないの!?軍曹さんの如く!     ハッ!?まさかワイルド・クランチって読むの!?     座って猛るの!?ギャア納得!     ていうかワイルドってどういう意味だっけ!?」 悠介 「叫んでないで行けっての!」 彰利 「いやすまん、正直な話、本気で動かん」 悠介 「………」 彰利 「ダーリン、助けて」 彰利の顔に余裕が無くなってきた。 ……ちなみに彰利が寝ているのは俺の布団だ。 悠介 「漏らしたら殺す」 彰利 「ええっ!?じゃあ連れていっておくれよ!」 悠介 「なんか嫌だ」 彰利 「なんかって何!?あ、じゃあ尿瓶を」 悠介 「余計に断るっ!」 彰利 「ぐぅぐぐぐ……!お、俺にどうしろと……!」 彰利の額に脂汗が滲み出る。 悠介 「直るまで絶えろ」 彰利 「む、無理だぁぁああっ!!本気で無理だぁあっ!!」 悠介 「じゃあムーニーマンでも装着するか?」 彰利 「イヤァアアッ!絶対イヤァアアッ!!」 悠介 「諦めろ」 彰利 「か、かんにんしてぇっ!     俺この歳になってまでムーニーマンのお世話になりたくねぇよ!」 悠介 「パンパースの方がいいか」 彰利 「変わらない!それ変わらないッス!」 悠介 「なにぃ、吸収力が違うんだぞ友よ。メーカーごとのこだわりを馬鹿にするな」 彰利 「そんなこと訊いちゃいねぇえっ!───はうっ!」 悠介 「……彰利?」 彰利 「うう、も、もうだめだ……!俺の膀胱が破裂しそうだYO……!     か、解放が近い……!かなり近い……ッ!     俺の……俺の中華キャノンが解放の時を待ち望んでいる……ッ!」 悠介 「おぉわっ!?馬鹿!漏らすなよ!?」 俺は彰利を抱え上げた。 彰利 「キャア!悪夢にまで見たお姫様抱っこ!」 今回ばかりは彰利にツッコミもせず、俺は走った。 彰利 「ダ、ダーリンがアタイのためにこんなに一生懸命に……」 やがて俺は家を飛び出て 彰利 「あ、あれ?どうして外に出るんですか悠介サン」 石段を段抜かしに登り 彰利 「ゆ、悠介?」 辿り着いた神社の横を通りすぎて 彰利 「あ、あの……悠介!?ちょっ……まさかっ!」 やがて見えてきた滝壷目掛けて 彰利 「イヤアアアアアやっぱりぃいいいっ!!」 ブンッ! 彰利 「ギャア!」 彰利を投げた。 彰利が華麗なアクロバットを披露しながら落下してゆく。 やがてごっぱあああああああああああああああああん!!!! という音を響かせて、彼は沈んだ後にプカプカと浮いた。 しくしくしくしく…… 鬱陶しい泣き声が家の中で静かに響く。 悠介 「よかったじゃないか、動けるようになって」 彰利 「うう……解ってて投げるなんてヒドイや……」 そう。 手足が動かなくなったなどという言葉は戯言だった。 投げた瞬間、こいつは盛大に手足をバタつかせて暴れたのだ。 その後にしっかりと便所に行き、コトを済ませた。 彰利 「うう、お陰で風邪まで便乗したような、     そんな切なさとひもじさと心細さが俺を襲う……」 ゲホゴホと咳をする彰利。 まあこの季節に水に沈むなんてことは馬鹿でもしない。 居るとしたら海女さんくらいじゃなかろうか。 彰利 「もういいッス……オイラ寝るッス……」 彰利は寂しそうに布団に潜り、目を閉じた。 悠介 「晩飯の時には起こすから、そのまま寝てろ」 彰利 「了解……」 そこまで言うと今まで耐えていたのか、彰利はぐったりとして動かなくなった。 口数も少なくなり、冗談抜きでぐったりしている。 ……はあ。 心配かけまいとしてるのは解るんだけどなぁ。 こうまでいつも通りに暴れられると、俺もいつも通りに殴ってしまう。 なんとかならんか、こいつの脳天気さ。 悠介 「さてと……」 俺は自分の部屋を後にした。 悠介 「あ、そうだ。彰利」 スッ。 襖を開け、思い出した用件を 彰利 「───」 悠介 「………」 言おうとして……固まった。 俺の視線の先にはビデオカメラを手に持った彰利。 そしてそれを机の影に設置しようとしている。 ……俺は拳をベキボキと鳴らして、彼に近づいた。 彰利 「イヤアアアア!!」 彼は逃げ出したが、熱の所為で途中で倒れ、再びマウントパンチの餌食となった。 …………。 ……。 そんな調子でやがて日は傾き、夜が訪れた。 何時間たっても変わらない彰利の様子に俺は、 こいつは病気を治す気があるのだろうかと疑問を抱いた。 それでも点滴が効いたのか、朝よりは症状は軽くなっていた。 彰利 「悠介……」 悠介 「ん……起きて大丈夫なのか?」 彰利 「ああ、まだボ〜ッとするけど大袈裟なもんじゃない」 悠介 「そかそか」 彰利が俺の隣に腰掛ける。 彰利 「月、見てたのか?」 悠介 「ああ。なんとなくな」 彰利 「涼しいなぁ、ここ」 悠介 「熱い体には丁度いいってか?」 彰利 「そんなとこだ」 彰利が笑う。 俺は縁側に腰掛けたままの状態で後ろに倒れた。 悠介 「んー……っ」 そしてぐうっと伸びをする。 彰利 「………」 悠介 「なあ彰利」 彰利 「ん〜?」 悠介 「お前、ホントは知ってたのか?」 彰利 「なにを」 悠介 「俺が十六夜の子じゃないってこと」 彰利 「んー……まあ、実のところはそうだ。あ、でも勘違いはするなよ?     あのキチガイヴォーイが十六夜の息子だってことを知ってただけで、     案外兄弟なのか、とか思ってたくらいなんだ。     悠介が朧月の家系だったとは思わなかった。確認出来たのはあの時が初めてだ」 悠介 「構わないよ。別に気にしちゃいない。     むしろ、なんとなくだけどそんな感じがしてた」 彰利 「そうなのか?」 悠介 「ああ。いくらなんでも、     実の子供をあそこまで痛めつける親は居ないだろうって。     こうして育って、心に余裕が出来た時にそう思った」 彰利 「……そっか」 悠介 「でも、ショックが無いって言ったら嘘だな。     俺が十六夜の息子じゃないとしたなら、     康彦さん達は死ぬ必要なんてなかったんだ。     それだけが申し訳無い気がする。若葉にも、木葉にも……」 彰利 「仕方なかったんじゃないか?     子供だったお前が止められるようなことじゃないだろ」 悠介 「ああ、解ってる。解ってるんだけどな……。     心ってさ、そう簡単には割り切ってくれないだろ?」 彰利 「まあ、な」 悠介 「…………なあ、月蝕力で消した存在はどうなるんだ?」 彰利 「いや……俺にも解らん。俺も見るのは初めてだった」 悠介 「そうか……まあいいか、別に」 彰利 「そうそう、気にすることじゃないだろ。     むしろ敵討ちってことで頷いておこうじゃないか」 悠介 「……そうだな」 空に浮かぶ満月を眺めて、俺は小さく返事をした。 彰利 「……満月の日は、俺達の力が最大限に引き伸ばされる日だそうだぞ」 悠介 「……知ってる」 彰利 「だけど、俺はあまり満月ってのは好きじゃないんだ」 悠介 「……どうして」 彰利 「何度も、あの上で自爆したからだ」 悠介 「……そら、嫌いにもなるな」 彰利 「だろ?それに月壊力まで引き伸ばされて、魔の血が疼くんだよ。     それが一番厄介だ。なんか知らんけど何かを破壊したくなるっていうかさ」 悠介 「………」 彰利 「………」 悠介 「変えろ、って意味か?」 彰利 「イエス。って、出来るのか?」 悠介 「……出来る、と思う。ホントの親父様がな、1度やってた」 反動をつけ、立ちあがる。 そして満月を見上げ、印を解放した。 悠介 「カオス・エクリプス……」 印を解放すると、周りの景色がざわめいた。 木々が揺れ、草がざわざわと騒ぐ。 彰利 「くあっ……!やっぱ近くには居られんわ、これ……!」 彰利は少しずつでも回復していた月操力が蝕まれているのを感じたのか、 俺から距離を置くと、ようやく息を吐いた。 悠介 「懸命な判断だな。近づくと魔力が全部蝕まれるぞ」 彰利 「やるなら先にひとことお願いよダーリン……」 悠介 「はは、悪い」 彰利 「あ、でも忘れるなよ悠介。     たとえ全家系と反発する月操力持ってたとしても、お前は俺の友達だからな。     そして俺はお前の友達。これは不動として歴史に刻まれる栄光だからな」 悠介 「訳解るように言え」 彰利 「俺と悠介の友情は永遠に不滅ぞぉおおおおっ!!」 悠介 「………」 彰利が叫んだ。 そんな声に起き出してきた家族にドスドスと蹴りを入れられて半泣き状態の彼に、 俺は苦笑しながらも静かにありがとうと呟いた。 やがて満月だった月に影が差す。 天体との関係はない。 ただ、闇を操って陰を差しただけだ。 光を蝕むことは出来るらしく、ほんの少しは応用が利くらしい。 若葉 「おにいさま、そんなところで何をしているんですか?」 彰利に蹴りを入れ終えたのか、若葉がこちらにやってきた。 悠介 「月をちょっとな」 若葉 「月?ああ、そういえば今日は見事な満月で───あれ?」 空を見上げた若葉が驚く。 若葉 「あ、れ……?先程見た時は確かに……」 悠介 「なんか知らんけどな、影が差していった」 若葉 「……異常気象でしょうか」 悠介 「さあ」 とぼけてみせる。 わざわざ言うほどもことでもないからな。 悠介 「それより、木葉、姉さん、ルナ、今の彰利は一応病人だから───」 あまり蹴るなと。 そう言おうと振り向いた。 悠介 「………」 その視線の先には、何故か天井に吊るされた彰利の勇姿が。 片足に縄を括り付けられて、ハングドマン状態でぐったりしている彼がそこに居た。 Next Menu back