───恋慕(れんぼ)───
天上に逆さ吊りにされた彰利は、なんともアンコウチックだった。 木葉 「皮でも剥ぎますか?」 彰利 「いやーん!オイラはアンコウじゃないザマス!」 ああ、一応生きてた。 木葉 「では火あぶりに」 悠介 「こらこらこらっ!」 彰利 「助けてダーリーン!」 悠介 「そんなことしちゃだめだろう!」 彰利 「そうだそうだー!」 悠介 「ここは手堅くサンドバックでだな」 彰利 「キャーッ!?」 悠介 「冗談だ冗談。わざわざ叫ぶな」 彰利 「嘘だーっ!今思いっきり本気の目だったーっ!」 悠介 「その気はあった」 彰利 「えぇーっ!?」 悠介 「お前が病人じゃなかったらの話だけどな。ほら、散った散った。     騒がしくしたのは悪かったよ。でももう、良い子は寝る時間だぞー」 彰利 「ボク悪い子でいい!     ていうわけでダーリン、アタイとオールナイトフィーブォッホォッ!!」 悠介 「お前が寝なくてどうする!今日は泊めてやるからとっとと寝ろ!」 彰利 「この状態で、どうして寝れようか」 悠介 「誰がそのまま寝ろと言った」 ルナ 「わたしは推奨するけど」 悠介 「すなっ!」 彰利 「ていうか助けてー!血が登って……い、いや、下がってきたって言うのか?     とにかくただでさえボーッとしてる頭がさらにどうにかなっちゃいそう!     助けてー!助けてー!エウフ!エウファーッ!」 なにやら訳の解らんことを叫んでる。 エウフってなんだよ。 ルナ 「はい」 ヒィンッ! どしゃぁっ! 彰利 「うごっ!」 彰利が落下した。 ルナ 「まったく……せっかくいい夢見てたのに邪魔しないでよね……」 彰利 「え?ルナっちも夢見るの?」 ルナ 「人間とのハーフだからね。一応は見るの」 彰利 「あら、それは悲惨なことをした。     もう騒ぐ力も残ってないから存分に寝てくれぃ。     そして夢を見てくれ。俺とダーリンが結ばれる夢を」 ルナ 「見ないっ!大体どうして悲惨なのよ!」 彰利 「言葉のアヤだな。いいから寝てくれ」 ルナ 「───次起こしたら死なすわよ」 彰利 「イエッサー!」 びしぃっ!と敬礼をする。 それを見ると、ルナは頭に手を当てつつ溜め息を吐いて、天井に消えた。 彰利 「というわけで俺は寝るぞ。     そして早く直して生命の息吹と農村の英雄、茂男さんに感謝するんだ」 悠介 「誰だよ」 彰利 「さあ。ただ、昔っから農村の英雄は茂男さんと決まっているのだ」 悠介 「素性も知れない英雄か」 彰利 「馬鹿だなぁ悠介、英雄は田舎とか村から生まれるもんなんだぞ。     それは一種、探求心と純粋で素朴な心。     さらに目指す心をしっかりと持っている少年だからこそ出来ることだ。     街に居る者がいくら頑張ったところで───英雄を名乗るなど甚だしい」 悠介 「そこまで言うか」 彰利 「半分は冗談だ。というより、英雄になりようがない。     大体にしてモンスターや倒してもいい相手が居ないからな」 悠介 「それもそうだが」 彰利 「倒すべき敵は一杯いるけどな。それが出来ないのが世の中だろ?     もしこの世界から追放されてファンタズィーな世界に飛ばされたら……     俺は、この地球に居る馬鹿者どもに全力でぶつかるぞ。     核でもなんでも撃ってこいだ。     撃ってきた時点で月空力で歴史から消してやる。     そんでもってアルファレイドカタストロファーで全てを滅ぼす」 悠介 「寝るんじゃなかったのか」 彰利 「ぐっ……確かに熱くなってしまったが、     それなら段取りを経て気づかせて頂戴よ……」 悠介 「お前にはそんな小細工は通用しないだろう。     むしろその段取りを無理やり大袈裟にして騒ぐに違いない」 彰利 「なんか悟られてるーっ!」 悠介 「悟れるかお前をっ!」 彰利 「当たり前だ!俺の先を読めるのはこの世に誰もおらん!     もちろんこの俺も含めてな!」 悠介 「自分のことだろうが!」 彰利 「お馬鹿!ダーリンのお馬鹿!俺は常に風のように生きてるのよ!     言っておくが、真の『風のように生きる』ってのは、     全てにおいて流されることにある!     だがそんなことしたら自我が無くなるからさ、     俺は思いついたことを全て言っているのだよダーリン。     風は同じ場所に留まることは出来ないから考える時間すらも惜しいのYO!     というのは建て前で、風になるってのは本当はアレだ。     自由にってのは確かにあるが、風向きが変わるのは当然のこと。     つまり、捕らえようの無い者!これこそが真の風YO!」 悠介 「ようするに自分に正直なだけだろ」 彰利 「解ってるじゃん。     言いたいことやりたいことを我慢しているヤツが風になろうなどと、     そんなこっちゃダメよダメダメ。でも俺は応援するが」 悠介 「はい?なんで」 彰利 「理由があるから」 悠介 「うん?」 彰利 「言いたいことやりたいことを我慢しているヤツには、     そいつなりの理由があるからさ。     そんなものを無視してまで風になりたいって言ってるヤツなんざ、     逆に俺が密閉して殺してやらぁな」 悠介 「お前はどうなんだ」 彰利 「それは言いっこなし。俺には親も兄弟も居ないから。     だからホレ、このように騒げる。     その代わり雪子さんには迷惑かけてないつもりだ」 悠介 「だな。ていうかさ、お前一体、いつバイト行ってるんだ?」 彰利 「ドッペルゲンガーに任せてる」 悠介 「こらこらこらっ!」 彰利 「収入は玄関のポストに入れておいてもらってるんだ。     会ったら死んじゃうっていうしさ」 悠介 「真顔で続けるな!」 彰利 「俺の真面目な部分だけが滲み出た彼はよく働くし、     人当たりもいいらいくてアタイ嬉しくなっちゃうよ。     その分、ここに居る俺は本能全開でいつでもどこでもハラショー気分さ!     ハラショー同士ザンギエフ!誉めよ筋肉!称えよ祖国!     大地を揺るがすこのパワー、まさに国宝級である!」 ざくっ! 彰利 「ギャーッ!」 彰利が辻斬りされた。 ルナ 「静かにしなさいってば……」 彰利 「ソ、ソーリー!でも代償がこれでは痛すぎる!     ていうか今の俺、回復系の月操力も使えないから致命傷なんですけど!?」 ルナ 「知らないわよ、そんなこと」 彰利 「そげな!た、助けてー!血がぶしーって吹き出てるよ!?」 悠介 「ちなみに俺も無理だ」 彰利 「………」 ギャア、と。 彼は呟いた。 若葉 「……仕方ないですね。協力してあげますからさっさと治してください」 悠介 「あれ?寝に行ったんじゃなかったのか?」 木葉 「あんな五月蝿い状況の中で眠ることが出来たのなら英雄でしょう。     わたしとしては彼をなんとかしてからでなくては、     眠ることなど到底叶わないかと思う所存です」 悠介 「言葉の使い方、間違ってないか?」 木葉 「構いません」 若葉 「ではいきます。死神さん、おにいさまに回復の伝達をしてください」 ルナ 「?……べつにいいけど」 若葉 「木葉、バックアップを任せます」 木葉 「心得ました」 若葉 「では───」 若葉の影が伸びて俺の中に入り込み、木葉と若葉の影も繋がる。 木葉は自分の影を彰利に伸ばし、俺から彰利への影を結果的に繋げた。 そうこうしている内に彰利の傷が消えてゆく。 彰利 「あ、あれっ!?何故に!?」 悠介 「……はぁ〜、応用が効くんだなぁ」 若葉 「………」 くらっ……。 悠介 「若葉っ!?」 とさっ。 突然身体を傾けた若葉を受け止める。 悠介 「若葉!?おい若葉!」 木葉 「騒がないでくださいお兄様。姉さんは気を失っているだけです」 悠介 「だけです、ってレベルかよ!」 木葉 「影を繋げて他人から他人へ物を移すようなことをしたからです。     それもぶっつけ本番で。成功したことこそ奇跡に近いんですよ?」 悠介 「な……なんだってそんなこと……」 木葉 「……癪ですから教えません。     適当に、静かに眠りたかったということで納得してください」 悠介 「木葉……」 木葉 「姉さんはわたしが部屋まで運びます。     お兄様ももう眠ってください。夜は騒ぐべきではありませんよ」 そう言うと、木葉は若葉を抱えて家の中へ入っていった。 悠介 「………」 俺はそんなふたりを縁側に突っ立ったままで見送った。 彰利 「……悪いことしたなぁ……」 ルナ 「そう思うなら少しは自重することね。     それじゃあ悠介、わたしももう眠るから。     ホモっちが騒ぐようだったら手段を選ばないで黙らせてね。     わたしも眠る時間を邪魔されるのは嫌いだから」 悠介 「あ、ああ。おやすみ、ルナ」 少し戸惑いながらも返事をして、その場に座り込んだ。 彰利 「……お?おお、へえ、そうかそうか」 悠介 「どした?」 彰利 「いやいや、なんだかんだ言ってインフルエンザが治ってるからさ。     ルナっちと若葉ちゃんと木葉ちゃんにサンクスだな。     ぬぅううん、なんという清々しい夜ぞ」 悠介 「そうか?」 彰利 「フフフ、あのダルさから解放されれば誰でもそう言いますわい。     さてと、これからどうするか。騒ぐわけにもいかんし」 悠介 「自分の家に帰るなり寝るなり、好きにしろ」 彰利 「だな。そんじゃあ寝ますわ。明日、日余嬢に訊きたいこともあるし」 悠介 「日余?なんでまた」 彰利 「フフフ、スリーサイズを訊ねるのよ……!」 悠介 「そういうことは胸の中だけに留めておけ馬鹿者」 彰利 「そうもいかん。言いたいことは言うよ我は」 悠介 「───」 彰利 「おお、我で思い出したけどゼノは?」 悠介 「知らん。どこかで寝てるんじゃないか?」 彰利 「…………やっぱあいつも寝るのかな」 悠介 「さぁな」 気の無い返事を出しながら夜空を見る。 ……まったく、人の気も知らないで綺麗なものだ。 彰利 「へっへっへ、何か悩み事ですかね?」 悠介 「お前でも病気になるんだな」 彰利 「それは俺が一番驚いているんだが───じゃなくて、悩み事だろ?ん?ん〜?」 悠介 「……いや、どうだろうな」 この暮らしは悪いもんじゃない。 むしろこの生活が好きなのは確かだ。 だけど突然、独りになりたいと思うのは何故だろうか。 悠介 「なあ、彰利」 彰利 「おう、なんぞね」 悠介 「独りになりたい、って思ったことあるか?」 彰利 「───ああ!発作か!」 悠介 「発作?」 彰利 「いや〜、聞いてくれよダーリンていうか聞け。     俺もあるよそれ。あるある。もう大辞典。     それね、多分家系全般にある発作なんですのよきっと。ホホホ。     俺ももう何度も体験しておりますの。オホホホ」 どうしてマダム語になってるんだ? 彰利 「一定の人数に慣れてくると孤独を望むようになってるみたいなのよこの血。     でもまあ俺の場合は早めに出てな?     悠介と別れてから───幼馴染に対して発動しちまって、泣かせちまいました」 三本指に入るほど嫌な思い出だと語る彰利。 彰利 「まあ和解はしたけど。あ、ところで友よ。キミってばどうする?」 悠介 「なにが」 彰利 「卒業したら」 悠介 「いきなりだな。でも前に言っただろ?どっか旅に出るさ」 彰利 「そうそうそれよ。何処行くんかな、と」 悠介 「ん?旅に行き先なんて無いよ。風来坊で十分だ」 彰利 「風任せか?」 悠介 「風任せだ」 彰利 「うむ、最高の返事じゃねぇの。俺も同行するぜ?」 悠介 「その前に卒業出来るかが問題だけどな」 彰利 「向こう側が追い出すだろ、たぶん」 悠介 「そうかな」 彰利 「こっちに親が居ないからな。     ガキの言うこと聞くほど出来ちゃいないよ、教師ってのは」 悠介 「それもそうか。気兼ね無く追い出すだろうな。問題児なんて邪魔なだけだ」 彰利 「そうそう。俺もその方がさっぱりするし」 悠介 「見送りは必要ないな。当然だ」 彰利 「そうなると卒業式とかどうなるンかな」 悠介 「出られるわけないだろ」 彰利 「ぬう、校長に近づける、高校生活1度きりのチャンスなんだが。     俺は常々、ヤツに毒霧を吐いてみたいと思ってたんだ。     なんてーか、こう……『以下、同文です』って部分でブシィッ!て。     『以下、どうぶぅわはぁあっ!』とか言わせてみてぇ。     以下同文てのが気に入らねぇのよ俺としては。     てめぇはホントに見送る気があるのかって感じだろ?」 悠介 「どうして毒霧なんだかが一番気になるが」 彰利 「ビッグファイヤーの方が良かったか?お前がそこまで言うなら変えるが」 悠介 「そこまで言ってないし変えなくていいっ!」 彰利 「ぬう」 悠介 「でも……そうか、俺らもそろそろ卒業か」 彰利 「……フッ、そういうことだ」 ……なにを威張ってるんだこいつは。 彰利 「まあアレですよ。お礼参りもいいんでないかい?とね」 悠介 「お礼参り?」 彰利 「そうそう。まずだな、御礼ある及川を俺が肩車してハワーッ!と叫んでだな。     あの魚類が『おいおいやめろ弦月、恥ずかしいじゃないか』と言ったら、     ここで悠介がダイビングラリアット。比類無きダブルインパクトの完成だ」 悠介 「出来るかっ!」 彰利 「狙い目としてはオイちゃんが恥ずかしそうに照れた辺りが最高だ。     至福からどん底に突き落とすのはもう最強に面白い。なにせ相手が及川だ。     『おいおいやめブッファアッ!』くらいは言ってもらわんと」 悠介 「やらんっ!」 彰利 「そして最後はお別れのストンピング!最強!これ最強!     非の打ち所があるとすれば、それは及川のフェイイスだな。     せっかくの二枚目が台無しだ」 悠介 「ならやるな!ていうかフェイス言うな!」 彰利 「まあまあ、ここは着々と計画を練ろうじゃないか」 悠介 「独りでやれ。俺はやらん」 彰利 「よし来た!ならば俺が四身の拳で分裂して実行しよう!     そんでもってふたりで抱え上げてトリプルインパクトを完遂してみせよう!     残りのひとりにはアレだ。記念写真をグッドタイミングで」 悠介 「………」 彰利 「そんな顔しないの。男の子でしょう?」 悠介 「なんの話だ」 彰利 「メロドラマ」 悠介 「……寝るわ、俺」 彰利 「なにぃ、寝るのか」 悠介 「ああ寝る。そんじゃな」 彰利 「おう、おやすみ。俺はちょっと出掛けるわ。     熱も下がったし、家に帰るのもいいし」 悠介 「そうか。おやすみ」 彰利 「おう。いい夢見ろよダーリン」 手を振って彰利は走り去っていった。 そんなあいつを俺は、その姿が見えなくなるまで見送った。 いつまでも……いつまでドグシャア! 途中で石に足を取られてコケた彼をいつまでも見送った。 彼は恥ずかしそうに手を振ると、また走ゴコォッ! 今度は木に衝突して、ごぉおお……っ!と唸った。 それでも彼は手を振り、去ってズリャァッ!バキベキゴロゴロゴシャシャーッ!! 今度は石段を踏み外して、とうとう俺の視界から消え失せた。 俺はそんな姿の見えない彼の断末魔を聞きながら、部屋に戻ったのだった。 ───教訓。 いつまでも後ろを見ながら走るもんじゃない。 ───……コン。 小さくノックをした。 このまま中に侵入するのも一興なんだが、それはまあ……否!やるべきだ! むうう!やるとなると心が踊るわい! 彰利 「ウェッヘッヘッヘ……」 窓にガムテープを貼り、そこを 彰利 「破ッ!」 メシャアと破壊した。 彰利 「クォックォックォッ、ちょろいものぞ……」 粉雪 「なにやってるのよ……」 彰利 「よー粉雪。夜這いに来たよ」 粉雪 「よっ……!?」 彰利 「冗談だ。お前相手にンなことするか」 粉雪 「───」 彰利 「ちょほいと訊きたいことがあってな。     えっとさー、文化祭の時にお前に占ってもらったじゃん?     あの時ってどんな未来が見えたンかなーって」 粉雪 「……あのさ、ひとつ訊きたかったんだけど」 彰利 「質問を質問で返すなァーッ!質問しているのは私だァーッ!」 粉雪 「どうしてわたしにはそんなに邪険にするの?」 彰利 「無視!?いやまあいいけど。そうさのう、幼馴染だからじゃないか?」 粉雪 「……答えになってない」 彰利 「そうか?んー……解らん」 粉雪 「……眼中にないわけね。そっか、解ったわ。帰って」 彰利 「なにぃ!?来たばっかりだぞ!?ていうか俺の質問は!?」 粉雪 「うるさい。近所迷惑。邪魔。家屋破壊容疑で通報するわよ」 彰利 「よし来い。すべて蹴散らしてやる」 粉雪 「今の彰利にそれが出来る?」 彰利 「ぬ───!き、貴様いつの間に!」 慌てて触れられていた手を離す。 ゆ、油断も隙もねェズラ! このオラを出し抜くなんて! 粉雪 「解ったらさっさと視界から消えて。窓まで壊してなんの用かと思えば……」 彰利 「……ウィ?なんか顔赤いぞ?風邪か?」 粉雪 「う、うるさいわねっ!なんでもないわよっ!     よよよ夜這いなら晦くんの家にでも行きなさいよねっ!」 彰利 「いや、悠介の家からここに来たんだが」 粉雪 「……え?どうしたのよ、そのパターンじゃ泊まっていくでしょ普通」 彰利 「……キミね、俺をケダモノと勘違いしてませんか?     人を常に人様の家に蔓延る夜這いンジャーと勘違いしてるだろ」 粉雪 「夜這いンジャー?そうじゃないの?」 彰利 「うわ、きっぱり言いやがった。失礼だぞチミィ。     俺は確かに悠介が大事だが、それは純粋なる友情からだ。     ホモとかオカマとか変態オカマホモコンとか言うな。     俺は女の子が好きなの。決して、妙な性癖なんざ持っている男じゃない」 粉雪 「…………」 彰利 「少しは信用してる目で見ろよ……泣くぞコラ」 粉雪 「女好きってところが信じられないだけだけどね」 彰利 「なにぃ、俺は女の子が最強に好きなんだぞ?     日々、常々と襲いたい気持ちを抑制してるんじゃよ」 粉雪 「襲う、って……」 彰利 「うむ。気を抜くとうっかりウェスタンラリアットしちまいそうでな」 粉雪 「…………そんなことだろうと思った」 彰利 「特に好きなのがメイド様だ。もう最強だ」 粉雪 「訊いてないわよ……。もういいでしょ?帰りなさいよ」 彰利 「よし、泊まっていこう」 粉雪 「───え?」 彰利 「まだ質問に答えてもらってなぎゃあも。     そんすたらわだすも引き下がれねぇべや?」 粉雪 「だ、だって余分な布団なんて……」 彰利 「気にするな、昔は一緒に寝た中じゃないか」 粉雪 「あれは布団を並べて一緒に寝たんでしょ!?」 彰利 「気にするな」 粉雪 「あっ、ちょっと───彰利っ!……もう!」 ───。 ……。 彰利 「それで?どんな未来を見たんだ?」 粉雪 「じ、実際体験してきたんでしょ?その通りよ」 彰利 「ありゃ。そんじゃあ今回は運命に勝利出来なかったか」 粉雪 「───」 彰利 「……粉雪?」 粉雪 「ひゃっ!?な、なによ……」 彰利 「お前さ、寒くないの?」 粉雪 「さ、寒くないわ」 彰利 「震えてるじゃないか。さあ、おいで。俺様が温めてあげよう」 粉雪 「気遣う心があるなら彰利が床で寝なさいよねっ!」 彰利 「だから一緒に寝ようと言っとるではないか」 粉雪 「……くしゅん!」 彰利 「ホレみろ、秋っつってももう冬になるんだぞ?     気にするな。どこからでもかかってきなさい」 粉雪 「ヤだ」 彰利 「……ったく。じゃあホレ、毛布貸してやるから来い」 粉雪 「『貸してやるから』じゃないでしょうが!」 彰利 「カタイこと言わないの。使わないんなら別にいいけど〜?」 粉雪 「こ、この……!わかったわよ!使うわよ!」 とたとたとた……がばぁっ! 粉雪 「きゃっ!?」 彰利 「ツカマエタ」 粉雪 「マッディボム!?」 彰利 「いや〜、正直な話、俺ひとりでも寒かったのよ。というわけで一緒に寝ろ。     俺は病み上がりなんだぞ、丁重に扱え」 粉雪 「ちょ、ちょっと離しなさいよ!」 彰利 「だめさ!さあさ誘おう!布団の世界へ!───おろ?」 粉雪 「な、なによっ!離しなさいよ!」 彰利 「いや……あら?お前ってこんなに小さかったっけ?」 粉雪 「なに、それ」 彰利 「……んー、いや。えーと、あらぁ?錯覚か……?     馬鹿な、あれほど雄大で力強かった貴様が、こんなに小さかったなんて……」 粉雪 「……ケンカ売ってるの?黙って聞いてれば雄大だの力強いだの……」 彰利 「……そっか、そうだよな。お前、女だったっけ」 粉雪 「殴っていい?」 彰利 「今はマズイ。回復が追いつかない」 粉雪 「………」 彰利 「……寝るか」 粉雪 「………とりあえず、離してくれる?」 彰利 「それはダメだ。凍死しちまわぁ」 粉雪 「どういう体してるのよ、まったく」 彰利 「いや……解らん」 粉雪 「……もういい、わたしも寝る」 彰利 「そうか?そんじゃあ寝ますか」 粉雪 「……はぁ」 彰利 「キミの性格も随分変わったもんじゃねぇ」 粉雪 「……ホントに憶えてないの?」 彰利 「ウィ?なにが」 粉雪 「わたしとの約束」 彰利 「約束?なにかあったかのう」 粉雪 「───もういい。おやすみ」 彰利 「?」 約束、ねぇ。 こいつとした約束っていやぁ……んー……転生前の記憶だからもう随分前なんだよなぁ。 思い出せん。 カゴ爺さんに会う前。 粉雪に会ってからのこと。 こいつが俺によく話し掛けてきて、少しは俺の心も和らいだこと。 それから……? んー……約束、ってんだからアレだよな。 ドラマとかだと別れ際とかに─── 彰利 「あぁっ!!」 粉雪 「きゃあっ!」 あ、あれか……!? 気が強くておどおどしてなくてスタイル抜群で……って、ホントに子供の約束か!? うわぁアホか俺! 繰り返す人生、悠介のことで頭がいっぱいで、こんな大事なこと忘れてやがった! 粉雪 「なんなの?いきなり叫んで……!」 彰利 「………」 ……馬鹿だよ、俺。 あんな大人しかったやつが、あんな口約束を守って頑張ってきたんだ……。 性格を変えるのなんてそうそう出来ることじゃない。 ……そこで思う。 確かに、どうして自分はこいつに邪険にするのだろうかと。 幼馴染だから? 本当にそうか? ───え?もしかしたら、俺───? 粉雪 「……?」 彰利 「………」 よく見ると、そうそう居ないよな、こんなカワイイ娘ッ子。 彰利 「…………」 うわ、ヤバイ。 いきなり可愛く見えてきた。 そして大後悔。 前の粉雪のままの性格だったら、メイド服が似合ってたに違いない。 おどおどした娘にメイド服……ぬおお、最強。 って何を考えてるんだ俺は。 ここまで振りまわしたんだ、俺のことなんて眼中にはないだろう。 喜んで告白してやるぜよ?なんて、よくもまあ偉そうなこと言えたもんだ。 彰利 「………」 なでなで。 粉雪 「?」 彰利 「…………」 粉雪 「なに?」 彰利 「いや、なんだろ。? な、なんだ?なにやってるんだ俺は」 何を頭を撫でておりますか俺は。 ……いかん。 これはマズイことになった。 そんな馬鹿な。 これが……これが愛!? なんかもう滅茶苦茶にしたくなってきた。 破壊衝動にも似た、でももどかしい感情。 ば、馬鹿なっ……! この俺様が感情をコントロール出来ないだとっ……!? 彰利 「………………」 なでなでなで。 粉雪 「あ、彰利っ……?」 綴じ目がちに上目遣いで俺を見る粉雪。 ───いやーん! ヤバイヤバイヤバイ! これはいかん!いかんぞ!?……いかんよね? 彰利 「ギョォオオオオオッ!!!!」 がしゃぁああああああああんっ!! 俺は布団から抜け出て窓ガラスをぶち破って大いなる空の下へと降臨した。 が、二階だったことを忘れていて落下しボグシャア! 彰利 「オルゴッ!」 ゲ、ゲフゥッ……!これが直撃の痛みか……! 今まで痛み自体を能力でカバーしてたからこんな痛みは泣けてくる……! 粉雪 「彰利っ!?」 彰利 「うわーうわーうわーうわーっ!!」 聞こえてくる声に頭を振って俺は走り出した。 途中、粉雪の部屋の窓に靴を掛けてあったままだったことに気付いたが、 その直後にガラス片を踏んだので意味がなかった。 ───…………。 キーンコーンカーンコーン……。 午後。 相変わらず屋上に寝そべりながら、その時間を迎えた。 視線をずらすと彰利。 朝っぱらからホケ〜として、話し掛けても返事は妙な言葉ばかりだった。 悠介 「彰利〜?」 彰利 「ヘメモロケフヌフメフルヘモロケヒカ〜ァンヌ……」 悠介 「…………」 実に妙な言葉だ。 悠介 「えぇいシャキっとしやがれぇえっ!」 ズパーンッ! 彰利 「ヘメモッ!───あ、あら?悠介?どうして俺の家に?」 悠介 「いつから屋上はお前の家になったんだ」 彰利 「え?あ、あれ?おかしいな、あれ?あれ?なんで俺屋上に居るの?」 悠介 「…………」 いかん、日々殴りすぎたか? パンチドランカーってやつか? 彰利 「ああそんなことより聞いてくれよ悠介。もう最強すぎて困ってんだ」 悠介 「なにが」 彰利 「あ、あのさ。恋する気持ちって……どんな気持ち?」 ボガァッ! 彰利 「ゲブボッ!」 悠介 「真面目に聞こうとした俺が馬鹿だった」 彰利 「真面目だ!俺だって真面目だ!聞いてくれ!困ってるんだよ俺!」 悠介 「金なら無いぞ。他をあたってくれ」 彰利 「違うっつーてんでしょオラァッ!聞けてめぇキレるぞワレェ!」 悠介 「キレる前に用件だけ述べろ」 彰利 「だ、だからな?その……恋って」 悠介 「そろそろ昼飯食うかな」 彰利 「聞けってんじゃいコラァ!」 悠介 「お前の愛だの恋だのはもう聞きたくないんだよ!」 彰利 「違う違う!今回はマジでヤバイんだ!あ、あのさ、俺ってばどうやら……!」 バンッ! 彰利 「!」 粉雪 「あ、居た!ちょっとあき───弦月くん!昨日」 彰利 「キャーッ!」 悠介 「おわっ!?な、ど、どうしたんだよ彰利!」 粉雪 「……弦月くん、それなんのつもり?」 彰利 「伝説のピーカブーブロック」 悠介 「俺を盾にしてるだけじゃねぇか!」 彰利 「ツッコムな!言っちゃならねぇ!」 粉雪 「……あのさ、昨日靴忘れていったでしょ?」 彰利 「───オイラ知らない」 粉雪 「むっ…………はいこれ。それじゃあね」 バタンッ! 彰利 「───はぁ」 悠介 「日余の家に何しに……って、まさかホントにスリーサイズ訊きにいったんじゃ」 彰利 「するかっ!あ、いや───実は文化祭の時の占い師が日余でさ。     ちょっと占い師のコツについて訊ねに行ってたってわけですよ」 悠介 「………」 嘘くせぇ。 悠介 「なんだ、それじゃあ相談てのも大したことじゃなかったんだな」 彰利 「どうしてそうなるんじゃい!聞け!」 悠介 「よし聞こう。言え」 彰利 「え?あ、いや……よ、よし。言うぞ?」 悠介 「だめだ」 彰利 「どっちじゃい!」 悠介 「いちいち確認取ってないで言えって言ってるんだ」 彰利 「あ、あ〜、そうだったのか。よし言おう。     実はサ、俺……恋をしてしまったみたいなんだ」 悠介 「雪子さんだろ?」 彰利 「いや、あげなもんとは次元が違うのよ。     これが恋かぁ!って納得しちまったほどの気持ちだ」 悠介 「ふむ……相手は?」 彰利 「いきなり核心か!?もっとこう、エピソードとか聞く気にならないの!?」 悠介 「俺は答えを知る方が先決される人間タイプなんだ」 彰利 「うわぁ口から出任せくせぇ!だが俺も男だ!いや漢だ!     キミにだけ教えよう!い、1度しか言わないからな!?」 悠介 「腰が引けてるぞ、漢」 彰利 「おだまりゃぁな!え、えっとだな……み、耳貸せ」 悠介 「そんなこと言って、また接吻でもぶちかますんじゃなかろうな」 彰利 「おお、そりゃいい。って、やらん!」 悠介 「それで?誰なんだ?」 彰利 「……なんだかんだで楽しんでないか?」 悠介 「ああ、そうかもな」 彰利 「チィイ……!」 彰利は、彼にしては珍しく顔を赤くして、口を開いた。 Next Menu back