───流刻(りゅうこく)───
空を見上げた。 満月であるその月は、穏やかな光を見せながら空に浮かんでいた。 終わりを告げる日は翌日。 解放と別れを持つ日だ。 好きではなかったにせよ、思い出がないわけでもなかった。 彰利 「よっ、考え事か?」 久しぶりに訪れた公園でヤツと出会った。 彰利は小さく手を挙げながら俺の横に座る。 彰利 「明日だな、卒業式」 悠介 「そうだな」 カラ返事。 空を見上げながら、実感の沸かない返事をした。 彰利 「なんかさ、俺達って大人?って感じだよな。もちろん冗談だが」 悠介 「………」 ツッコむ前に自分で締め括る彰利を軽く小突く。 彰利 「あたっ、ははは、まあ実感無いよな」 悠介 「ん……」 頷く。 ……そう、明日で俺も彰利も漣高等学校を卒業する。 だからといって世界全てが変わるわけでもなく、 変わるのはあくまで自分達の些細なこと。 責任なんかに縛られるのはガラじゃないし、卒業するのに喜ぶ方でもない。 彰利 「卒業したらどっかに旅立つ予定だったよな?」 悠介 「…………」 彰利 「悠介?どうかしたか?」 悠介 「いやさ、お前いいのか?日余置いていく気か?」 彰利 「ふむ、なるほど?俺っちと粉雪のこと心配してたのか。     まああいつはあいつでパワフリャーだから連れていっても最強だが」 悠介 「俺は別に構わないぞ?」 彰利 「いや、連れていかんよ。ヤツは俺の帰る場所になっててもらう」 悠介 「だったらヤツとか言うなよ……」 彰利 「性分だ。気にするな」 かっかっか、と笑う彰利。 実に呑気なものだ。 まあ、俺も案外呑気だが。 彰利 「ダーリンのことだ、計画くらい練ってあるんだろ?」 悠介 「計画ってほどのものじゃない。問題点を考えてた」 彰利 「問題点?」 悠介 「そう、問題点だ」 彰利 「ほほう、気になりますな軍師よ。して、その問題点とは?」 悠介 「卒業するまでは良しとしよう。     だけど卒業式終わったあとにあいつらから逃げられると思うか?」 彰利 「……ああ、ブラコンシスターズ?」 悠介 「それとルナだ」 彰利 「キミが未だに恋人決めないからだろ?段落付けちゃれ段落」 悠介 「あのなぁ、そんなコンビニで材料選ぶみたいに出来るかよ。     あいつらはモノじゃないんだぞ?」 彰利 「ごもっとも。でもいい加減少しはハッキリさせてだなぁ」 悠介 「構わん。俺は死ぬまで独身でもいい」 彰利 「……そういうヤツに限って、いきなり誰かを好きになるんだよな」 悠介 「ほっとけ」 彰利 「心当たりあるのか?」 悠介 「無いよ。興味ない」 彰利 「人の恋路なら散々邪魔するくせになぁ」 悠介 「それはまあオモシロイからな。相手がお前だと特にな」 彰利 「なんかさ、俺が粉雪とくっついてからというもの、性格変わったよねキミ」 悠介 「かもな」 彰利 「あ、あ、もしかしてヤキモチ?」 悠介 「よし殴らせろ」 彰利 「冗談だってば!拳を握るな!」 彰利が慌てて俺から距離を取る。 まったく、どうしてこうポンポンと訳の解らん方向へ話を持っていくのが上手いのか。 彰利 「まあでも確かにオモロイな。毎日毎日オナゴ達に迫られる悠介を見るのは」 悠介 「おあいこだ、とか言うには人数が多すぎるぞ……」 彰利 「言うつもりは無いって。オモロイだけだから」 悠介 「……はぁ」 彰利 「でもアレだよな。     もしブラコンシスターズから逃げられても、     魂結糸で繋がってるルナっちはどうにもならんよな」 悠介 「それは大丈夫だ。     実はな、この数ヶ月の内に蓄えといた創造の理力で自分の魂を創造しといた」 ……ルヒドとの一件は誰も知らない。 わざわざ言う事でもないから俺は出任せを述べた。 あながち間違いでもないからそれでもかまわない。 彰利 「……キミ、やっぱバケモノだわ」 悠介 「フフフ、キミには負けるよ」 彰利 「俺は魂の創造なんて出来ねぇってばよ。     でもそっかー、これで魂結糸を切っても暮らし安心ってわけか」 悠介 「実はもう切ってある」 彰利 「うおっ!?」 悠介 「結論を出すぞ?明日、卒業式には出ない」 彰利 「ええっ!?卒業証書は!?俺、あの音楽とともに証書受け取りたいのに!     そして隙をついて校長に毒霧吐いて釘バッティングインパクトしたいのに!」 悠介 「死ぬわっ!ていうかまだ狙ってたのかその隙!」 彰利 「フフフ、男に二言はねぇザマスのYO!     ウェスタンラリアットも捨て難いが、あの分厚い教壇に阻まれちゃあな。     さすがのオイラもラリアットのしようがねぇっすよ」 悠介 「真面目に校長の命を狙うなよ……」 彰利 「命だなんてとんでもないっす!     俺っちはただ純粋に校長の首を狙ってるだけっすよ!」 悠介 「ラリアットで、って意味か」 彰利 「そうっす。兄貴はなんだかんだでいろいろ出来るっすからいいっすけど、     俺っちはこんなヤツだからそんなことくらいでしかお礼参りが出来ないっす」 十分すぎる気がするんだが。 何故かハマーの真似をする彼に呆れを隠す気も起きなかった。 ハマーといってもヒップホップ術の方じゃないことをここに公言する。 ていうか誰が兄貴だ。 悠介 「卒業式出るどころか、そのまま旅に出るのも中々いいだろ?」 彰利 「魅力的な提案だな。俺の冒険心をアイアンクローして離してくれねぇ」 悠介 「その表現は行き過ぎだが、どうだろうか」 彰利 「んー……それで留年扱いとかにならないかね」 悠介 「うむ、実は既に及川に事情を話して了承を得ていたりする。     どうしても抜け出せない神社関連の用事が入ってしまった、とな」 彰利 「おおう、悪だなブラザー」 悠介 「おうよ、悪だぜブラザー」 無意味にフフフと笑い合う。 彰利 「ハッキリ言ってさ、この数ヶ月で悠介変わったよな」 悠介 「だな。自分でも恐ろしいくらいに実感してる。     そういうお前はどうだ?日余と付き合い始めてから変わったか?」 彰利 「さあ、ちと解らんな」 悠介 「そっか……どこまでいってるんだ?」 彰利 「うむ、ふたりきりの時は夕焼けをバックにぶっちゅするほどの仲だ」 悠介 「ぶっちゅ言うな」 彰利 「俺が豆村になる日も近いぜ?     ああ、そういや悠介が提案してくれた名前ってなんだっけ?     納豆だっけ?小豆だっけ?ビーンだっけ?」 悠介 「どれもお前が言ったやつだろうがそれ……」 彰利 「おっと、俺としたことがイッケネェ〜ィェ」 悠介 「みずき、だろ?」 彰利 「おお、そうそう。豆っぽさからはちょいと離れてしまうが、     どうせなら悠介に名付け親になってもらおう。名前はみずきだ」 悠介 「気が早いな、お前って」 彰利 「人生何が起こるか解らんからな。いつ不幸な事故が起こるとも限らん」 悠介 「勝手に殺すな」 彰利 「冗談だよ。俺の方こそ不幸が訪れるかもしれないからさ。     偶然が重なって俺が死んでも、孫呉の意思を継いでくれるようにと」 悠介 「孫呉の意思なんて俺にもお前にも関係ないだろ」 彰利 「ごもっとも」 ───ふう。 同時に息を吐いた。 そして顔を見合わせて苦笑する。 悠介 「なんだかんだ言って、腐れ縁だよな」 彰利 「これが腐れ縁だなんて言ったら親友ってのはみんな腐れ縁になるぞ?」 悠介 「違いない」 彰利 「……サンキュな」 悠介 「ん?」 彰利 「多分俺だけじゃここまで来れなかった」 悠介 「そうか?」 彰利 「そうだよ。極論だけど、ゼノと戦った時点で死んでただろうな」 悠介 「………」 彰利 「自爆にしたって、悠介が居なきゃ復活できなかったしな」 悠介 「それを言うなら、ルナにも感謝しないといけないな」 彰利 「人生ってホント解らんよなぁ」 悠介 「ああ、どれだけ嫌な目に遭っても、それがプラスになったりするんだからな」 彰利 「その点、悠介と会えたことはプラスでも、マイナスになったことはなかったな」 悠介 「プラスは大体プラスのままってもんだろ?返し難いこと言うなよ」 彰利 「言わせてくれよ。ほんと感謝してるんだ」 悠介 「……ん、サンキュ」 呟いて、その場に立った。 次いで立ち上がる彰利が大きく伸びをして息を吐く。 彰利 「子供が産まれたら真っ先にお前に知らせにいくよ。     俺の子だ、きっと面白おかしく育つ」 悠介 「せめて子供くらい真面目でいてくれよ」 彰利 「うむ、真面目におかしく育てるぞ」 悠介 「……お前は変わらないよなぁ」 彰利 「そうかもな。長い間、何度も繰り返して出来た性格だからな。     こればっかりはそう簡単には変わりそうもないよ」 悠介 「そっか。全ての歴史合わせると100歳近いんだっけ、お前って」 彰利 「うむ。最長老さまだぞ。ていうかもう100歳過ぎてるし」 悠介 「最長老には負けるだろ」 彰利 「何歳か憶えてないし、年齢があったかも解らんな」 悠介 「軽く500歳はいってるんじゃないか?」 彰利 「そりゃ勝てんわ……。俺はせいぜい124歳くらいだ」 悠介 「それだけで凄いって」 彰利 「おうよ、半端な人生歩んでねぇぜ?なにせ毎度毎度死亡確認だしな。     王大人も死亡確認宣告ばっかりで泣けてくるだろうよ。     たまには生存確認くらい言ってくれてもよかったと思うぞ俺は」 悠介 「王大人にケチつけてもしょうがないだろ。     それよりどうだ?どっかでラーメンでも」 彰利 「おお、それなら今日は俺がおごっちゃるぜダーリン!     裏の通どもが集まるいいラーメン屋があるんだよ!     今の時間なら空いてること請け合い!さあさレッツゴー!」 叫びながら威勢良く跳ねまわる彰利を横目に、空を見上げてみた。 穏やかな時間。 周りから少しずつ聞こえる昆虫の息吹を感じながら、彰利の横に並ぶ。 悠介 「元気だな」 彰利 「俺から元気取ったら何が残るよ」 悠介 「変態オカマホモコン」 彰利 「それはもう言わない約束だったでしょ!?しつこいぞダーリン!」 悠介 「だったらダーリンももうやめろボケ者。彼女が泣くぞ」 彰利 「フフフ、お前は粉雪というハニーを解っちゃいねぇ。     あいつは泣くよりちくちくとヤキモチ焼くタイプだ。     付き合い始めてからというもの彼岸達成の所為かどうか解らんが、     昔の性格が滲み出てきてからはもうめんこいったらねぇぜ?     俺が他のオナゴ見てたりするとうつむきながら服の袖引っ張るのよ!     くっはぁ!もう最強!それがまた子猫チックで愛しゅーて愛しゅーて!     ヤツめ、俺のツボというツボをよく解ってやがる!     これが抱き締めずにいられるかねブラザー!否!もちろん抱き締めたね!」 ……俺は今、かなりキミを遠くに感じるよブラザー。 どんどん濃くなっていってる気がする。 変わってないってのは撤回したいな。 悠介 「彼岸達成って?」 彰利 「ん?ああ、話してなかったっけ。     粉雪ってば子供の頃から俺が好きだったらしくてさ。     で、俺と別れる時に約束したわけよ。     いや、約束っていうよりは賭けみたいなもんか?     早い話が当時の俺好みの女になってたら告白してやってもいいぞ〜的な話」 悠介 「お前、何様?」 彰利 「いやいや聞けって!拳を熱く握っちゃならねぇ!     俺だって思い出した時、     ホントに子供の頃の約束か!?って自分の脳髄を疑ったんだぞ!?」 悠介 「脳髄なのか」 彰利 「脳髄だ」 うんうんと頷く彰利。 まるっきり訳解らん上に馬鹿だ。 彰利 「でさ、そんな約束なんて守るわけないって思うだろ?     ところがギッチョン、守っちゃったんですよ彼女」 悠介 「ギッチョン言うな」 彰利 「ツッコまんと聞け。まあ聞け。いいから聞け、最後まで。今夜は寝かさねぇ」 悠介 「帰っていいか?」 彰利 「待て!まだ何も説明していないっ!」 悠介 「だったらさっさと言え!」 彰利 「ダーリンがいちいち揚げ足とりつつツッコむからじゃない!」 悠介 「……解った、ツッコまないから続けてくれ」 彰利 「フフフ、いいだろう。     約束守って、おどおどした性格を無理矢理変えてきた粉雪だったんだけどさ、     俺ってば思いっきりその約束忘れてたのね。     だってさ、転生ポイントの前の話ですよ?     言っちまえばアレぞ?100年前くらいの話ぞ?     思い出せたことを誉めてほしいくらいぞ?でも反省してます、ごめんなさい。     そんでさ、インフルエンザ治ってから粉雪の家行ってその布団で寝たんだけど」 悠介 「行きすぎた変態かお前は!」 彰利 「ああ!ツッコんだ!邪魔しない約束だったじゃないか!」 悠介 「黙っていられる話か!?幼馴染の家だからってその布団で寝るか普通!」 彰利 「だって俺と粉雪、一緒の布団で寝たこともあれば一緒に風呂にも入った仲ぞ?」 悠介 「……お前、それ子供の頃の話だろ?」 彰利 「当たり前じゃあ!そんなこと(主に後者)したらヤバイだろ!?」 悠介 「お前ならやりかねないだろ(主に後者)」 彰利 「し、しないもん!したかったけど留まったもん!」 悠介 「おお血涙」 彰利 「流すかっ!」 ギャーオウと叫ぶ彼を無視してそのまま歩く。 すると『待ちゃーがれウラァ!』と叫びつつ走り寄ってくる彰利。 彰利 「ヘッヘッヘ、しかしですね旦那。     粉雪ってば中学の時に言った通り、良いボディをお持ちなんですよ。     もう最強。ナイムネも捨て難いがアレはアレで最強ですよ旦那」 悠介 「ボディ言うな……。なんか俺、今までで最もお前の友達で居たくないぞ……」 彰利 「ムヒョヒョヒョヒョ、だがねぇ、こればっかりは最強ですよマジで」 悠介 「解った解った……」 彰利 「あれほど俺の好みに合ったオナゴなどおらんよ絶対。     ああ、しゃーわせだなぁ。掘り出し物ですよ旦那」 悠介 「……日余、絶対考え直すべきだと思うな……」 彰利 「ほへ?なんかおっしゃった?」 悠介 「人の横でそんなこと熱弁するなって言ったんだよ」 彰利 「えー?聞いてよダーリソ。さっきの続きだけどね?     粉雪の布団に潜ってヤツをマッディボムっぽく蟹バサミで捕らえたんだけどさ。     そしたらさ、小さいのね。華奢なのよ。それで思い出したね。     オウ、そういえばこいつも女の子だっけ……と。     なーんかさ、再会した時の印象ってのは強いものでしてね?     俺の中で『粉雪は芯が強い』な〜んて先入観が出来ちまってたみたいなんだ。     実際男勝りなところもあったからさ、半ば男として見てた気もあった」 悠介 「そりゃヒドイな。よくもまあ好きでいられたもんだ」 彰利 「フフフ、それは俺が超絶美男子だからさ」 ボギャア! 彰利 「ゲネファーッ!」 悠介 「図に乗るな愚か者……」 彰利 「うう、激しくすまねぇ……。でもストレートで殴らんでも……」 悠介 「話を続けてくれ」 彰利 「つ、続きが気になるなら殴るなよ〜……」 悠介 「殴るべきだと確信したんでな。悪い」 彰利 「ぬおお……頬が痛ェ……。だが耐えられぬ痛みじゃねぇ……。     お、俺はまだやれるぜ!?」 悠介 「………」 彰利 「ごめんなさい話します。だからその物騒な拳を降ろしてくれ」 悠介 「ん?おお、これはまた無意識な」 彰利 「もう……勘弁してくださいよ坊ちゃん……。     まあいいコテ、続きいきますじゃ。     さっきも言ったみたいにさ、俺は粉雪を男みたいに見てたわけですよ。     『幼馴染』ってこともあって、それは二乗になって精神に染みついてた。     でもねー、蟹バサミして抱き締めたときにさぁ。     ……悪いことしたなぁ、って大後悔したわけですよ。     あ、もちろん抱き締めたからっていきなり約束思い出したわけじゃないぞ?     俺の脳髄はそんな都合良く出来ちゃいないから。     まあそのあと観念した粉雪が一緒の布団で寝ることになったんだけどさ。     その時に俺に言ったのね。『約束本当に忘れたの?』的なことを」 悠介 「……お前さ、その話って聞いてるだけだとすげぇ怪しいぞ……」 彰利 「へ?どこが?」 悠介 「あのなぁ、女の子の布団に潜り込んで蟹バサミして捕まえて?     しかもそのあと抱き締めて、観念するまで離さなかった、ってきたら……」 彰利 「うお、確かに。聞いてるだけだとエライ話だ。     けど誤解しないで聞いてよダーリソ。     俺、寒かったから粉雪を巻き込んだだけだから」 悠介 「いや、もういい。弁解聞いてても怪しくなっていってる」 彰利 「ぬおお、弁解の余地がねぇんですか」 悠介 「……続けてくれ」 彰利 「……イエッサ」 なにやら少々暗くなってしまった。 が、気を取り直して話を再開する。 彰利 「で、粉雪の言葉通りに約束忘れてた俺なんだけどさ。     いろいろ連想してたら思い出したわけですよコレが。     思い出したら今度はそのけなげな粉雪がめんこくなってきてのぅ。     思わず頭撫でてみたら止まらなくなりまして。     これはヤバイと思って窓ガラスぶち破って逃走したわけですよ。     あとは気付けば屋上に居て、粉雪が靴を届けに来たってわけ」 悠介 「ああ、あの場面か。そっか、そんなことが……」 彰利 「俺の直感は間違っちゃいなかった。     おかげでただいま、着々とラヴを育んでますよ。     そして聞いてくれ友よ。     粉雪ったらさぁ、ミズノおばちゃんに料理教わってるのよ。     誰のためって、俺のためだっていうんだからもう震えますよ!?     震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!刻むぞ血液のビート!」 悠介 「目を潤ませながらヨダレたらしてオゾましいほどにいい顔するな。キモイわ」 彰利 「キモッ!?ショック!すっげぇショック!いきなりキモさ爆発ですか!?」 悠介 「ていうかお前が後ろ歩いてどうするよ。     俺はその裏のラーメン屋なんて知らんぞ?」 彰利 「それもそうか。     妖精さんの居場所も理解出来んヤツにあそこを感じ取るのは不可能か。     そうだよなー、あそこは特殊だからなぁ。クソ虫ごときが発見なんてなぁ」 悠介 「……なんかすっげぇムカツクんだが」 彰利 「ダーリンが人の愛をキモイとか言うからでしょ!?」 悠介 「お前の顔面は愛で出来てるのか!?そうじゃないだ───」 彰利 「フッ───バレちゃ仕方ねぇな……」 悠介 「って!なにもっともらしく涼しい顔してやがる!」 彰利 「実は俺は自家製オレンジジャムおじさんに顔を作ってもらった彰パンマンなんだ」 悠介 「自家製!?って待て!無視して話進めるな!     恐ろしいほどに話が捻じ曲がってるぞ!」 彰利 「最初は誰だって怖いのよ。     だが自家製オレンジジャムおじさんの手にかかれば、     どんな顔だって変幻自在で作れちゃうのよ!     そしていつでも食える!キャア!とっても経済的!」 ブチッ、モグモグ。 彰利 「デ、デリーシャス!」 ギシャア! 顔を食った彼はその味に応えるように輝いた。 悠介 「ホントに食うなぁっ!」 彰利 「安心したまえダーリソ。今ちぎって食ったのは美肌のためのパックだ     アタイほどの男になると肌にも気をつけないといけないのよ。     ああもう、紫外線が憎オェエエエ……!」 悠介 「うおっ!?」 パックを食した彼が吐いた。 当然だ。 彰利 「ゲェエッ……!アタイの胃袋が美肌に……!?ていうかオェエ……!     究極に不味ィ……!は、吐かねば……!     このままでは胃液までもが美麗になってしまう……!     ゲェ……!ウゲェ……!ゴッポ……ォ……」 どしゃあ。 弦月彰利、死亡。 ただいまの勝負『●彰利(14秒 美麗殺し)美肌パック○』となりました。 悠介 「……で?ラーメンはどうなったんだ友よ〜……」 ついついと、木の棒で突ついてみる。 が、反応無し。 悠介 「……はぁ」 吹っ切れるように溜め息を吐く。 悠介 「仕方ないな、今日はお前の部屋にお邪魔することにするよ。行くぞ、親友」 胃の中が美麗になった彼を背負う。 よほどに体に害があったのか、ホントに反応が無い。 時折『ルゥウォオオオ……』と唸っては、コポコポと汁を吐き出す。 ……おかげで服が汚れてしまった。 まあ気にするほどのことでもない。 着替えは持ってきてあるし、旅立ちの準備も持ってきてあったりする。 悠介 「……明日───か」 期待と不安を胸に秘めながら、やがて夜道を歩き出す。 ───さて。 大切な行事をすっぽかしてまでのこの旅は、 いったいどんなことをもたらしてくれるのか。 興味が絶えないことも確かだが、 それよりもこいつがどんなパートナーになるかが楽しみだったりする。 彰利 「お、お得……でっせ……」 気絶してもなお、意味不明を放つこいつは生粋のボケ者に違いない。 ……正直不安ではあるが、俺よりは頼りになると思う。 結局のところ俺だってこいつが居なければここまで来れなかった。 悠介 「……ありがとうな」 だから、小さく感謝した。 彰利 「……気にするなよ、友達だろ……?」 悠介 「……やっぱ起きてたか」 彰利 「まあな……それよりラーメンは……?」 悠介 「保留だ。帰ってきたら食おう」 彰利 「なにぃい、だめだ……青鳥軒のニンニクラーメン(ネギぬき)を食うんだ〜……。     ラーメン食いながら人々に忘れられて泣くんだ〜……」 悠介 「なんだそりゃ……」 微妙にズレた知識を披露しながら唸る彰利。 どうやらまだ美白の脅威は抜けないらしい。 その証拠に、未だにオゥィェーィ!とか言ってるし。 悠介 「歩けるか?」 彰利 「いやーん、ポックン歩けないでちゅー」 ドゴシャア! 彰利 「ぽぎゃあ!」 悠介 「そこまで言えりゃあ上出来だ、歩け」 彰利 「な、なにもデスパレーボムやるこたぁねぇだろ!?三途の川見えたよ今!」 悠介 「あーあハイハイ、剛麺ナサイヨー」 彰利 「K1!?」 悠介 「で、どうする?ラーメン食いに戻るか?」 彰利 「おお、なんだかんだ言ってアタイのことを想ってくれてたのね?     でもいいや、このまま帰ろう。     安心せぇって、粉雪が布団で寝ててりとかそんなことはないから」 悠介 「……寝かせたことあるんかい」 彰利 「あるわけねぇでしょ!?いやもちろん誘ったが」 悠介 「誘ったんかい……」 彰利 「そしたら顔真っ赤にして俯き加減に震える声で断られました。     俺はそんな粉雪が見れただけで満足でした」 ……端から見るとアブナイだけなんだよな……。 彰利 「あ、言っとくけどなー、別にやましい気持ちで誘ったわけじゃないぞ?     俺は俺の体臭が満ち溢れてる布団に寝かせてみたくてだな」 悠介 「それ、やましくないのか?」 彰利 「………」 悠介 「………」 彰利 「微妙だな……」 悠介 「だな……。って、そういえばあれから数ヶ月経つけどさ。     俺、あれ以来日余に会ってないんだよね。どうしてる?」 彰利 「会ってねぇのは当然よ。     俺が『恋人馬鹿』と言われても胸張れるくらいに過保護してるから。     すっかり俺に頼ってくれるようになった粉雪のカワユイことカワユイこと。     あ、でも監禁してるとかそんなんじゃないからな!?     ダーリンたら言っておかないと盛大に勘違いするから先言っとくけど」 悠介 「ああ、勘違いするとこだった」 彰利 「ふはははは!それみたことか!     それしきのことでこの雄山の裏をかいたつもりか!     片腹痛いわ!うわっはっはっはっは!」 悠介 「威張るな!なんかムカツ───雄山!?」 彰利 「まあまあ、それだけ俺のプロファイリングが優れてるってことよ。     この調子なら草薙葵にも追いつけるぜ?」 悠介 「猫口か」 彰利 「猫口だ」 意味もなくニヤリと微笑み合う。 うーむ、俺もこいつと変わらんのかもしれん。 彰利 「そうさのう、子供が生まれたら是非とも猫口に育ってほしいものぞ」 悠介 「育つ育たないの問題じゃないだろそれ」 彰利 「うむ確かに。あ、それとな。     粉雪は昔に戻りつつあるってことですよ。さっきも言った気がするけど」 悠介 「昔の日余なんて知らんぞ俺は」 彰利 「んー、そうじゃのう。たとえばアレだ。     どこか怯えた表情で頼りなくトコトコと人の後ろを付いては来るんだが、     一定の距離は確実に保ってるような兎チックな性格だ。     ところが一度近づいて抱き締めたりすると微妙に甘えてくるわけですよ。     この微妙さがもうツボですよ!聞いてくださいダーリン!ていうか聞け!     もうもどかしいったらないんですよ!父性本能くすぐられるわけですよ!     懐かなかった小動物がある日突然指を舐めてくれたみたいな微妙さですよ!     もう頬擦りだけじゃ治まらないわけですよ!頭撫でても足りないんですよ!     こんな生活を強いられて平常心保ってられるかね!?えぁ!?     もう柔らかで穏やかでムズ痒い思考が治まってくれんとですよ!     辛抱たまらんのと同時に粉雪を傷つけたくない気持ちがごっちゃになって!     ああもう最強にして最高!ていうかこのホロ苦い思考をどうしろと!?     落ち着いて思考!ゆったりマイハートで落ち着くのよ!     思考ストップ!ストップ!NO!違ウ!ストップママさん!     あ゙───あ゙ぁあああああああああああっ!!」 うわっ!コワれた! こりゃヤバイ!いろんな意味で彼がヤバイ! というわけで 悠介 「煩悩退散」 バリィッ! 彰利 「ぎゃあああああああああああああああっ!!!!!!!     アガゴオボベボグギャゴギャ……ギィイイイイイイイッ!!!!」 どしゃあ。 真・裁きを流された彼は大地にその身を委ねた。 悠介 「目、覚めたか?」 彰利 「セ、センキュウ……おかげで穏やかなハートが帰国子女……」 ガクッ。 意味不明な言葉を残して、彼は天に召された。 悠介 「あ、彰利ぃいっ!帰国子女ってなにさぁあっ!」 そして俺は泣き真似をするのだった。 ああ、三度のメシよりウェスタンラリアットが好きな男だった……。 彰利 「いや生きてるって」 悠介 「当たり前だ。お前がこの程度で死んでたまるか」 彰利 「そうそう。なんか人間としての尊厳を傷つけられた気がするけどその通りだ。     いやぁまいったなぁ、悠介には敵わねぇや。って誰が无(ウー)だ!」 悠介 「不死人だなんて言ってないだろうが!お前は八雲か!?」 彰利 「俺はベナレスが好きだったんだが」 悠介 「俺もだ」 彰利 「あと名前的にチベットのパドマー寺院が好きだなぁ」 悠介 「俺は個人的にあのうでタマゴ食ってた院長(?)が好きだったが」 彰利 「うでタマゴか」 悠介 「うでタマゴだ」 彰利 「あれってば結局ゆで卵だったんだろ?」 悠介 「腕の卵なんてないだろ普通。例え方をもじっただけじゃないか?」 彰利 「だな。そして俺はグレースが中々のお気に入りだ。     なぜぇえっ!?なぜなのグレェエエス!って」 悠介 「あー、そういえばたまに言ってたな」 彰利 「グレースをグレートと言うのもやめられん」 悠介 「お前らしいな。……ところで、なんの話をしていたんだろうか」 彰利 「……あら?」 ふと気付けば、話の内容など忘れてしまっていた。 むう、いかんな。 彰利 「まあいいんでないのかい?その時その時で風向きなんぞ変わるもんデショ」 悠介 「そうだな。そんじゃ帰りますか」 彰利 「オウヨ!一緒に熱い夜を過ごそうぜダーリン!」 悠介 「近寄るなホモ」 彰利 「そういう意味じゃねィェーッ!」 ぶつくさ言いながらも笑い合い、俺と彰利は帰路へと歩を進める。 その途中、何故か彰利がバク転して遊んでいた。 例のごとくハイヘヤハイヘヤと言いつつ電柱にゴシャアと衝突してぐああと唸った。 そして振り向きざまに極上のスマイル。 鼻血が出てなければまだよかったんだが。 そんな彰利に苦笑して、俺は手を貸した。 彰利は彰利で、どっかのドラマみたいに手を服でゴシゴシとこすってから俺の手を握る。 そうして立ちあがった彼は異変に気付き、靴の裏を見てギャアアアと叫んだ。 そこにはお約束のお犬様の落し物がぎっしりと付着していた。 交換してダーリン!と泣き叫ぶ彰利に対しての俺の反応は拒否一点張りだった。 当然だろう。 何を無茶苦茶なこと言っとるんだと突き放し、俺はその場をあとにする。 慌てて追ってきた彼は靴を履いていなかった。 靴はどうしたと訊くと、彼は『天気占いに使った!』と無邪気に笑うのだった。 ……ああ、なんか脱力。 そして気になって足元を見てみると、彼は浮いていた。 お前何者!?と心底驚いたが、彼は至って冷静に『マグネットパワーだ』と語る。 そして『マグニートーだって空飛べるんだから俺に出来ねぇ筈がねぇ』とまで言う。 そのマグネットパワーじゃない気もするんだが、ツッコんでたらキリがない。 彰利が言うには月空力の転移の能力を抑えているものだそうだ。 ただ集中してないとすぐ転移してしまうらしい。 なんて言った矢先に謎の光が地面に浮き上がり、彰利の体が空へと浮かんでいく。 実に空間翔転移っぽい。 おおう、今、彼がアルベイン? なんて思っていると、彰利が『蛍一さぁん!』とか言って手をこちらに伸ばしてきた。 こんな時になっても何かの真似だけは忘れないなんて、いい根性してる。 俺がその手をスパンと払いのけると彼は『ゲェーッ!』と叫んだ。 真似していたキャラには到底似合わないセリフだ。 やがて『蛍一さんのばかーっ!』という捨て台詞を残して彼は消えた。 どっかに転移したんだろうな。 行き先は解らん。 ───しばらくして彼は戻ってきた。 その風貌はまるで修羅粘土闘衣を身に着けたような格好だった。 そして彼は臭かった。 証言によると、彼は転移した先でダイレクトに肥溜めへのダイブを果たしたらしい。 アタイ、スキューバーダイビングって初めて!と歓喜する彼だったが、 絶え間無く流れるその涙が彼の心情を物語っていた。 やがて悔しさに促された彼がバイオブロリーのように俺に襲いかかった。 当然俺は逃げた。 死に物狂いで逃げた。 そうした季節の中。 その騒ぎはたまたま様子を見ていた街の住民に、 『這い寄る混沌の怪』として伝えられることとなる。 ……ウソだぞ? ───そうしてやがて、時間はゆっくりと流れる。 訪れる翌日を思うと少し変気分になったけど、 騒ぐ彰利を黙らせて俺は布団に潜った。 明日が、そしてこれからの未来が幸せでありますようにと願いながら─── Next Menu back