───序曲(じょきょく)───
【ケース02:晦悠介/モミアゲさんとツンツンくん】 朝食を作り妹達を起こすことから俺の朝は始まる。 というかもう始まったんだが。 先に朝食をとった俺はさっさと家を出て学校に向かった。 別に学校が楽しいわけでもないんだが、 妹達に悪い虫が寄り付かないようにすることはもちろん、 家に居るよりは彰利と馬鹿やっていた方が面白いというのも前提のひとつだ。 悠介 「ちなみに言うと、『悪い虫』ってのは鶴ッパゲのことを意味している」 彰利 「よう、朝からひとりごとか?暗いやっちゃなー」 悠介 「よう神出鬼没世界代表」 彰利 「おお、もう世界ランクか。俺ってば凄いねまったく」 悠介 「ところでどうした?こんなところで」 彰利 「なーに、ちぃとばかしヤボ用がね」 悠介 「ヤボ用?」 彰利 「………………」 何故か顔を赤らめながらもじもじする彰利。 彰利 「あなたを……待ってたの……ってイヤアアアアア!!無視して行かないで!」 悠介 「近づくな変態が伝染(うつ)
るあっち行けボケ!」 彰利 「キャアア!簡潔な言葉の中にもドスの利いた意味が盛りだくさん!     あんまり冷たいとアタイ傷つくぞこの野郎!でもそんなアナタが大好きィ!」 悠介 「だああっ!抱きつくなって!やめろ!こらっ!     こんなところ誰かに見られたら───あ゙」 春菜 「…………」 …………先輩、いつの間に? 春菜 「…………うん、べつに愛にもいろいろなカタチがあるからね……。     あ、別に変な意味で言ってるんじゃないよ?あは、あははははは」 悠介 「あの……先輩?     これはその、別に変な状況ではないというか」 春菜 「うわ……変じゃないって言えるくらいまで染まっちゃってるんだね……。     でも大丈夫だよ、戻れなくなっちゃってもわたしは見捨てないからね……」 ちゃっ、と片手を上げて走り去ってゆく先輩。 悠介 「………」 彰利 「………」 悠介 「──────はっ!」 呆けてる場合じゃない! 悠介 「だぁああっ!違うんだって先輩!これは──────」 彰利 「アタイと悠介の愛の記録YOーッ!!」 悠介 「そうそう!って違うわぁああーーーっ!!!」 ゴシャアッ! 彰利 「ギャァアーーーッ!!!」 腰に抱き付いたままの彰利の首を掴んでブルドッキングヘッドロックをキメる。 首がステキな音を醸し出したが無視して起き上がらせて罵倒。 悠介 「おのれは一体何がやりたいんじゃぁああ!ええ!?言うてみいこのたわけ者!」 彰利 「宣誓ッ!俺様こと弦月彰利はパイレーツシップに乗り組み、     威風堂々と海賊業に専念し、豪華客船を乗っ取ることをここに誓います!」 悠介 「阿呆ゥ!」 ドムゥ! 彰利 「ギャオゥッ!」 解らず屋のアホゥにお馴染みのボディブローを進呈。 悠介 「お前に質問した俺が馬鹿だった!」 彰利 「そして俺も馬鹿だった!OHワタシタチ友達ネーッ!!」 悠介 「帰れ!」 彰利 「帰還命令!?」 悠介 「あーもう……これで変な噂とか流れたらお前の所為だぞ……」 彰利 「安心しろ、これ以上は悪化のしようが無いだろ」 悠介 「…………それもそうか」 彰利 「そうそう、腐ってないで胸を張れって。     刺激があるから日常は成り立つんじゃないか。     それなら自らの手で刺激の元を作るのもまた一興ってな?ハーハハハハー」 目の前の馬鹿者はカタカタと顎を揺らしてわざとらしくもエセ外人風に笑い飛ばすのだが、 俺は内心、気が気じゃなかった。 ───……。 ……。 やがて迎えた体育の授業。 いつも体育だけは出ている。 体動かすのは嫌いじゃないので、理由はまあそんな単純なものだった。 ……まあ、見学だが。 彰利 「ウドンコー!ウドンコー!」 相変わらずクラスメイトの視線は冷たいのだが、あいつは元気だった。 もっとも、嫌われているのは俺だけで、彰利は中々人気がある。 あの性格だ、それももっともだろう。 彰利 「イワッツボリエ!イワッツボリエ!」 ただ騒がしいだけじゃなくて、ちゃんと周りも見て騒いでいる。 つまり、視野が広いんだな。 気も利くし、真面目な時はとことん真面目で、暗くなりすぎるとやかましくなる。 そしてなにより……まあ、気が許せる。 あいつとはもう長い付き合いになるが、あの性格は別に生来というわけではない。 きっかけがあった気もするけど思い出せないでいる。 彰利 「麦チョコー!麦チョコー!」 思い出せないことは肝心なことじゃないとは良く言ったものだ。 けれどもどうしてか、引っかかるものがある。 それはずっと前からそうだったものだが、 今まで思い出せないでいたものを今更思い出せる可能性を考えるのもどうかしている。 彰利 「カットしろカットー!いやむしろアデランスだ!トゥギャザー!」 まああいつの言う通り腐ってても仕方ないことだ。 誰かが言ってたけど、物事の結論はいつだってひとつしか無いのだから。 何事も進まなきゃ意味を成さない。 まあ早い話が立ち止まったままのヤツがおつかい頼まれても動けるわけがないのである。 それを上げるならば個人的な歩の幅と唱えるのが決断力と実行力の個人差だろう。 彰利 「いけー!スリーポイントシュート!っかー!惜しい!」 そうして言うならば、彰利の実行力は通常の何倍かはあるのだと思う。 思い立ったが吉日という言葉があるが、 こいつの場合は思い立つ前に吉日が訪れるような馬鹿だ。 それでも自分の行動に後悔するよりはむしろ楽しんでいる。 自分の行動がどんな『先』を見出せるのかが楽しいらしい。 俺はそんなもの、一度きりの人生では試す気にもなれない。 そういう意見から結論を見出すに至り─── 彰利 「石崎くん式顔面ブローック!」 弦月彰利は馬鹿である。 それも極上の。 ドパァン!!! 彰利 「ホイッスゥッ!!?」 稲場 「だぁっ!馬鹿!バスケットボールを顔面ブロックするヤツがあるかっ!」 南牟礼「担架ー!担架持ってこーい!」 彰利 「なンじゃあコラァ!!」 南牟礼「俺に啖呵をキッてる場合かっ!」 彰利 「俺なら大丈夫だ。     こんなこともあろうかとインパクトの寸前でバックステップをした」 稲場 「お前、思いっきり前に飛んでただろうが……人間ロケットも真っ青なくらい」 彰利 「じゃあこうしよう。     俺の体はゴムみたいなもので、攻撃を受けても吸収されるのだ」 南牟礼「ハート様!?」 彰利 「過言ではない」 稲場 「そこまで冗談言えりゃ十分だな、試合続行ーっ!」 オオッ!!と生徒達が吼える。 そんな中で、俺は見学していた。 はあ、平和だねぇ。 悠介 「───殺気!?」 バシンッ! ……なんかバスケットボールが飛んできた。 彰利 「悠介ー、お前もどうだー?」 悠介 「……はあ」 溜め息を吐いてボールを投げる。 悠介 「アホゥ、せっかくみんな楽しんでんだ、熱した油に水差すようなこと出来るか」 ますますドッカリと座り込み、拒否の行為を示す。 彰利 「俺は楽しくないぞー」 悠介 「やかましい、お前なんか数の対象に入るか」 彰利 「うわひでぇ」 南牟礼「弦月ー、早くしろよー!晦は見学者なんだからさー」 悠介 「ホレ、ご指名だぞ、行ってこい」 彰利 「ぬう……じゃあ放課後付き合えよ」 悠介 「考えておく」 彰利 「んー……仕方ない、じゃあガーディアン頑張ってな。     ハゲがイヤらしい目で若葉ちゃんと木葉ちゃん見たりしたら、     俺がバスケッティングブラストで撃沈させてくれてやるから」 悠介 「期待してるよ。証拠は残すなよ」 彰利 「安心しろって、銃殺現場に薬莢残すほど馬鹿じゃねぇのよ俺様は」 カラカラと笑って試合に戻る彰利。 広い体育館の向こうの方では一年の女子と二年の女子がバレーボールをやっている。 当然、エロで有名な鶴本は一、二年の男子には目もくれず、女子に見入っている。 時折ぐふっぐふっ、といやらしい笑いをしている。 そんな視線を贈られている女子はそれを忘れようと懸命にバレーに熱中するわけだが。 悠介 「───あ、若葉」 木葉も居る。 見れば、妹達が懸命に二年の女子と戦っている。 しかしまあ妥当に考えて─── 声  「水穂ッ!」 声  「は、はははいぃっ!!」 ばしーん! 声  「若葉姉さんッ!」 声  「任せて木葉ちゃん!───いっけぇええっ!!」 ドカーン!! 若葉と木葉のスパイクを受けきれる奴は二年の女子には居ないだろうな。 三年になら心当たりが無くもない。 結果、二年のグループBは一年のグループBに負けた。 一年の女子が手を合わせて喜んでいる中、ふと木葉と目が合った。 そして何故か大きく手を振る。 ……ハズカシイからやめろ馬鹿……。 しかしそれに反応して、鶴本が俺の方を見る。 …………手を出さなければいいんだよなぁ…… そう、目が語っている。 ようするに目で汚そうって魂胆か。 ……ああ、考えるまでもなく、あいつはもう教師というよりはクズだ。 殴っても罰は訪れないだろう。 もっとも───現実はそうなってはくれないだろうけど。 なんにせよ、このまま妹達があいつに舐めるように見つめられているのは我慢できない。 ……まったく、ニヤニヤといつまでも人を見やがって……。 悠介 「彰利、ボール貸し」 彰利 「死ねーッ!!」 悠介 「へ?」 彰利にバスケットボールを借りようと向き直ると、 手に持ったボールを振りかぶっている彰利がゴシュウ!! ───ドパァンッッ!! 鶴本 「ぶべい!!」 ドゴシャドシャアアアアン!!! 後頭部にバスケットボールを受けた鶴本がパイプ椅子を巻き込むように吹き飛んだ。 悠介 「……え?え?」 彰利 「こ、このスケベオヤジ!アタイの悠介をニヤニヤジロジロ見やがって!!     てめぇ女だけじゃ飽き足らず、とうとうソッチの道に走りやがったか!」 ……なんだかお前が言うと変に感じるぞ彰利。 ていうか 彰利 「お目覚めなさい!これくらいじゃすみませんことよ!     すみませんじゃすみませんことよ!」 暴走して鼻息を荒くしながらハゲに向かって爆走し始める彰利。 悠介 「ば、ばかっ───」 俺はそれを止めるように走った。 さすがに彰利の馬鹿力で殴ったりしたらシャレにならない。 悠介 「ストップ!落ち着け馬鹿!」 彰利 「ダ、ダーリン!アタイというものがありながらハゲを庇うの!?」 悠介 「そうゆこと言ってるんじゃなくて!」 鶴本 「う……ぐ……だ、誰だ……!俺にボールをぶつけたのは……!」 彰利 「俺だーッ!!」 悠介 「あ゙……」 呆れたというか妙に納得してしまっている自分が少し悲しい。 そうだった。 こいつはこういう奴だった……。 彰利 「愛と友情と月名の名の下に貴様に決闘を申し込む!」 鶴本 「弦月……!貴様……どうなるか解っているのか……!」 彰利 「お黙り!俺には悠介というバックがあるんだ!怖いものなどあるものか!」 ギャア!何気に人の名前語っちゃってるよこの人! 鶴本 「くっ……晦、貴様……!退学!退学だ!ふたりとも退学だぁっ!」 彰利 「──────」 悠介 「──────」 鶴本 「ふひ、ふひひひひ……!どうだ?こうなることを解っててやったんだろう?     なら喜んだらどうだ?え?えぇ?ふひっ……ふひひひひひ……!」 視界の隅で、話を聞いていた若葉と木葉が驚愕の顔をする。 悠介 「……なあハゲ」 鶴本 「ハゲと呼ぶなと言っている!」 悠介 「あんた、場所を選ぶべきだったな。妹達を巻き込むなって言ったよな……」 鶴本 「へ?」 キョロキョロと辺りを見渡して、若葉と木葉の驚愕の表情を見つける。 鶴本 「あ……え?」 彰利 「そ・れ・か・ら♪     退学なら俺と悠介はもうお前を教師として認めないってこったからさ。     ……覚悟は出来てるんだよな、クズ野郎……ッ!」 鶴本 「な、なななにをっ……!?     俺は教師、教師だぁっ!お前等、俺に手を出したらどうなるか───」 悠介 「あはははははは、コレ以上どうなるって言うんだよクズ野郎」 鶴本 「あ───はぁ───は、はは……そ、そうだ!     今すぐやめろ!それ以上近づくな!そうすれば停学で済ませてやるぞ!?     な!?な!?だ、だから───」 彰利 「……情けねぇ」 悠介 「……はぁ」 彰利 「どうするよ、悠介」 悠介 「……若葉と木葉のこともあるからな、そう無茶は出来ないことも事実だし」 鶴本 「!そ、そうだ!俺に手を上げる気ならお前の妹らを」 悠介 「本気で怒らせるんじゃねぇよクズ野郎ッ!!」 鶴本 「ひぃっ……!」 彰利 「それと言っておくけど、     あのふたりなら兄の意思を尊重するからお前がどんなこと言っても無駄だぞ。     むしろ退学になっても悠介と行動を共に出来るなら本望ってくらいだ。     あ、もちろん俺もね」 鶴本 「あ、あ……?」 声  「そこっ!何をやっている!」 静寂を保っていた体育館に聞き慣れた声が響く。 及川だ。 鶴本 「あ、ははは、お、及川先生っ!こ、こここいつらがいきなり俺に暴力を!」 及川 「───お前等……何を考えてるんだ……」 鶴本 「こ、こいつらに考えなんてありませんよ!不良なんてものはっ!」 及川 「鶴本先生、少し黙っていてください」 鶴本 「え……?」 及川 「答えないか、弦月、晦」 彰利 「お望みとあらば。コヤツが女子の胸や太股とか舐めるように見てて、     手を出さなければいいんだよなぁとか目で語りながら、     若葉ちゃんと木葉ちゃんをいやらしい目つきで凝視してた所為で、     珍しく悠介が本気で怒りまして。     悠介の手を煩わせるまでもないと察した俺がバスケットボールを投げました」 何故か及川の耳元で何かを話している彰利。 何を言ったのかは俺には聞こえなかった。 及川 「……なるほど、晦が怒るならよっぽどのスケベな目つきだったんだろうな」 彰利 「え〜え、そりゃもう」 ボソボソと話をしている。 及川 「晦、何か言い訳はあるか?」 悠介 「妹達を巻き込まない処分ならなんでも受けるよ。     ただし、そこのクズに命令されたりすること以外ね」 鶴本 「な、なにをこのっ!」 及川 「……はあ、まったくこのふたりは……」 鶴本 「は、ははははは!やっぱりお前等は退学だ!退学!ねぇ、及川先生!」 及川 「……調子のいいやつだ、まったく」 鶴本 「へ?」 及川 「鶴本先生?晦は貴方に直接手を下しましたか?」 鶴本 「そんなもの、弦月にやらせたに決まっているでしょう!」 及川 「ほう、それではその証拠は?」 鶴本 「え?あ……それは……」 及川 「確かに晦は授業に出ない馬鹿者だが、     自分から人に暴力を促すことはしたことがない。それを貴方はどう思う?」 鶴本 「な、何を言ってるんだ及川先生!こいつは不良だぞ!?     不良が人に真実を伝えるわけがないでしょう!     信じるだけ無駄!無駄なんだよこんなやつらは!」 及川 「クズ野郎……」 鶴本 「なっ……!及川ァッ!貴様───」 悠介 「俺が言ったんだよクズ野郎。とうとう耳まで悪くなったか?」 鶴本 「ぐ───貴様!」 及川 「晦……」 悠介 「話なんてものはいいからさ、結論出してくれ及川センセ。     じゃないと、巻き添え食って暗くなってるみんなに申し訳ないだろ」 及川 「……ったく、お前な、他人を気遣えるゆとりがあるなら授業くらい出ろ……」 彰利 「何を言う、そこがダーリンのいいところだ。それよりズバッと言えズバッと」 及川 「よし、ズバッとだな。弦月、おまえ流島の刑」 彰利 「うむそうか、って、ええ!?」 ズバッと言われた。 彰利 「……悠介、アタイのこと忘れないでね……」 悠介 「アホゥ、学校処分で流島の刑があるわけないだろう」 彰利 「な、なにぃ!?ハメやがったなブッチャー!」 及川 「誰がブッチャーだ誰がっ!     ……まったく……ふたりとも一週間の停学。それで……いいな?」 鶴本 「なっ、なにを言っている!こんなやつら!」 及川 「このスケベハゲのことなら任せておけ。晦、お前の妹に手を出させやしない」 悠介 「………」 彰利 「んもう、お礼言いたいなら言えばいいのに、ゆっくんの照れ屋さん♪」 ドボォッ! 彰利 「ニーチェ!」 人のことを『ゆっくん』呼ばわりする馬鹿者にボディブロー。 しかしそれを見た鶴本がここぞとばかりに目を光らせた。 鶴本 「!ほ、ほら見ろ!暴力だ!校内暴力だぞ!?     はは、なにが暴力をしないだ!言ったそばからすぐにこれだ!」 及川 「……あんた、ホントにカラッポだな」 鶴本 「なに!?」 彰利 「まったくだ。ダーリンは心を許している相手には遠慮はしないのよ。     何より、ダーリンは『友達はひとりでいい』の信条に基づいて行動している。     あ、って言っても男女差別が徹底してるから、     ひとりと言っても、男女で分けてひとりずつってわけ。     アタイだけがダーリンの友達じゃないってのがちょっと残念だけどね。     だからこれは、そう……まさに最上級の求愛行為……」 スパーン! 彰利 「アウチッ!」 悠介 「お前はちょっと黙ってろ……」 彰利 「上履きで殴るのはやめてダーリン……」 及川 「そんなわけだ。どうせバスケットボールだってたまたまぶつかったんだろう」 鶴本 「そんな筈はッ!証拠だってあるぞ!」 及川 「ほう、どれはどのような?」 ビシッ!と彰利を指差して、鶴本は叫ぶ。 鶴本 「俺にボールをぶつけたのは誰だと訊いたらこいつが自分で『俺だ』と言った!」 彰利 「失礼な。俺はそげなこと申してないぞ」 鶴本 「嘘をつくな!」 彰利 「俺は『俺だーっ!』って叫んだんだ。そんな弱々しく言った憶えはない」 鶴本 「はっ……」 及川 「馬鹿正直な奴だな……」 鶴本 「み、みろ!やっぱりそうじゃないか!」 及川 「これからは気をつけろよ」 彰利 「任せろ」 鶴本 「待て!どうしてそうなるんだ!」 及川 「故意に当てた、という証拠は?」 鶴本 「だ、だから……!」 及川 「すっぽ抜けて当たったという可能性もある。     パスした時に相手が取れなくて当たったという可能性もある。     そうだな!?お前達!」 男子衆『おうともさーっ!!』 オオッ!と男子達が叫ぶ。 みんなよっぽど鶴本が嫌いらしい。 彰利 「なにぃ!?俺はんむぅううっ!?」 南牟礼「ハハハ、ちょっとこっち来いお前」 彰利 「むむぅっ!?んむぅう!」 田邑 「昨日のツナ焼きそばのことで話したいことがある」 彰利 「ンムゥウウウウウッ!オブゥム!?グブゥム!」 あ、また殴られてる。 及川 「そういうことですが、まだ何か?」 鶴本 「……くっ……!もういい!不愉快だ!俺は帰るぞ!」 声  「そーだそーだ帰れー!」 鶴本 「だ、誰だ!」 ………… うーむ、どうやらかなり素直な奴が居たらしい。 声からして彰利じゃない。 それなのに 彰利 「俺だブボッ!」 南牟礼「お前は喋るなっ!」 彰利 「キャア!いたっ!いたいっ!は、初めてなの、もっとやさしく」 稲場 「アホかーっ!!」 彰利 「じょ、じょうだゲハッ!やややめっベボッ!やブボッ!!」 イヤアアアとかギャアアとか聞こえる中で、鶴本がブツクサ言いながら去っていった。 及川 「……はぁ、まったく冷や冷やさせる……。お前ら、勘弁してくれ」 彰利 「オイちゃん最高ーッ!」 男子衆『オオォーーーーーーッ!!』 彰利の言葉に男子衆が叫ぶ。 そしてまた意味もなく殴られてギャアと叫ぶ。 及川 「……悪いな、あいつはああいう奴だから、     何かしら結論を出さないと引かないと思ったんだ」 悠介 「いい、サンキュ」 及川 「……それはそれとしてだ。お前はもう少し俺を教師だと思ってくれ」 彰利 「オイちゃんはボクラの友だーーーッ!!」 男子衆『オオォーーーーーーッ!!』 男どもが叫ぶ。 大した人気だ。 悠介 「……だ、そうだけど?」 及川 「……もういい、あとは好きにやってくれ……」 悠介 「了解。彰利ー!及川がバスケットボールでのドッヂボールを許可したぞー!」 彰利 「な、なにーッ!?マジか!?」 彰利の言葉に男衆もどよめく。 が、それも一時的なもので、あっと言う間に喧噪が再開された。 彰利 「うっしゃあ!二年対一年だ!覚悟はいいか一年!」 仁間 「負けませんぜ先輩!」 彰利 「悠介ー!ボール先制の儀式をやってくれ!」 悠介 「ああ、解った」 彰利からバスケットボールを受け取り、中央に立つ。 悠介 「いくぞ」 彰利 「おう!」 仁間 「いつでも!」 悠介 「正々堂々、試合開始!」 ブンッ!とボールを宙に放る。 彰利 「彰利ジャーンプ!」 ドシュゥッ! 仁間 「うおっ!?」 彰利 「稲場、ヘイパース!」 稲場 「オーライ!くらえ!スーパー稲場ショット!」 バスンッ! 仁間 「おっと!そう簡単にはやられませんぜ!おおらっ!」 ドバンッ! 彰利 「ギャウッ!」 おお顔面。 稲場 「弦月がやられたぞ!」 南牟礼「馬鹿な!貴重な戦力が!拾え!なんとしても拾え!」 彰利 「任せろ!彰利横っ飛びーッ!!」 ドシュウッ! 仁間 「うわっ!?」 彰利が相手陣地にまで飛んでいき、ボールを弾く。 彰利 「南牟礼(みなみむれ)!頼む!」 南牟礼「任せとけっ!よっ!───とぁあっ!?」 ズルッ!ボテンッ!ギャルルルルルルズザーッ!! 床に落ちたバスケットボールが床を回転して滑ってゆく。 彰利 「わあ、スピンかけてみたんだけど大成功♪」 南牟礼「アホかーっ!」 どかぁっ! 彰利 「痛いっ!」 今この時をもって、ドッヂボールが彰利射的に変わった。 仁間 「そっち!そっちの方が早い!パスパス!」 民也 「先輩!パス!」 久隅 「任せろっ!おおらぁっ!」 バスンッ! 彰利 「ギャウッ!お、俺外野!外野ですぞー!?」 佐野 「聞く耳持たんっ!」 やがてそれがリンチに変わるまで、そう時間はかからなかった。 ───結局、だ。 俺が学校で最後に聞いたのは、そんな彰利の悲鳴だった。 ───……。 ……。 彰利 「あー……いて……」 ところどころ赤く腫らした彰利がぶつぶつと言いながら俺の隣りを歩いている。 彰利 「んもう、嫁入り前の体になんてことを」 こいつが馬鹿だということはもう完璧に解っているんだが。 それでも何度でも言えるほどの馬鹿はそう居ない。 彰利 「はあ、まあいいザンス。こんなの舐めときゃ治るザンスね。悠介が」 悠介 「舐めるかっ!」 彰利 「ちぇーちぇー、いいザンスよもう、自分で舐めるから」 言って、舌をズルゥリと伸ばして 悠介 「ぎゃああああああっ!」 彰利 「ど、どうした悠介!」 悠介 「ど、どどどどうしたじゃないだろお前!なんでそんなに舌が伸びるんだよ!」 彰利 「え?ああこれ?エクトプラズム」 悠介 「失せろ半妖態!」 彰利 「ええ!?どこへ!?って、落ち着いてダーリン。これオモチャだから」 悠介 「──────」 彰利 「よく出来てるだろ?     昨日帰りがけにモノリス寄ったんだけど、そこで変なオッチャンが売ってた」 呆れた。 ちなみに言うとモノリスというのは彰利の住まいの近くにある裏路地のことだ。 そこで時折誰かしらが商売をしている。 彰利 「息を吹き込むと伸びるのだ。そして少し空気を入れた状態で揺らす。     するとイエローテンパランスもびっくりの舌遣いが実現可能に!」 レロレロレロレロと唸りながらオモチャを揺らす目の前の愚か者。 悠介 「……殴っていいか?」 彰利 「それが愛なら♪」 悠介 「………」 彰利 「ふっ……このかけひき、俺の勝ちだな」 悠介 「馬鹿やってないで帰るぞ」 彰利 「あん、待ってダーリン」 悠介 「誰がダーリンだ!」 彰利 「いや、深い意味は無いが浅い意味は九分九厘」 悠介 「意味解らんよそれ……」 彰利 「俺もそう思う。まあでもあれだ。     人間、同じ性格じゃあつまらんから俺みたいな奴が居るんだろ」 悠介 「それじゃあなにか?お前のソレは産まれつきか?」 彰利 「素質はあったのかもしれん」 悠介 「威張るな」 彰利 「まあまあ、人の人格ってのは個々であって然るべきでありますよ」 悠介 「そりゃそうだろうけど」 彰利 「人格なんてのはさ、人に言われてどうこう出来るもんじゃないだろ?     例えばガッコで真面目にしてて、プライベートでぐーたらしててもさ、     やっぱり自分は自分なわけじゃないか。     それらの自分が気に入らないなら変わるしかないんだろうけど、     俺は揺れることなく自分でいたいかな。     無理に明るく騒ぐのはガラじゃないし、     だからって静かにするのもガラじゃない。     ほら、そうすりゃもうひとつしか残ってないだろ?     俺は俺であればいい。それが普通だ。     普通ってのはさ、その『人間』っていう『イレモノ』に性格が見合って初めて、     それを普通と呼べるんじゃないのかなって俺は思うわけだ。     それなら弦月彰利は迷わず普通を選ぶさ。     ま、ようするに俺は俺だから俺であって、俺であるからこそ普通なんだよ」 悠介 「訳解らん。解りやすく平明に話せ」 彰利 「フフン、俺は悟ってるからな。この境地に辿り着くのは半端な覚悟じゃ無理だ」 悠介 「お前にはそれがあるのか?」 彰利 「──────」 突然、俺の目を真っ直ぐ見る彰利。 悠介 「な、なんだよ」 俺がそう言うと、にぱっと笑って言った。 彰利 「悠介、俺達は友達だよな?」 悠介 「?そんなの訊くまでもないだろ?じゃなきゃこうして話したりするか。     ……まあ、どっちかって言うと悪友の部類なんだろうけど」 彰利 「そりゃ友達ではランクが高いって意味だよな?」 悠介 「わざわざ訊くな」 彰利 「……サンキュ、それが解れば俺は十分だ」 悠介 「……変な奴」 彰利 「それは誉め言葉として受け取っておこう」 悠介 「勝手にしろ」 彰利 「───ああ、毎度、勝手で悪い」 彰利はそれだけ言うと満足そうに笑った。 なにやら『今度こそ』、とかブツブツ言っていたけど、俺にその意味は解らなかった。 彰利 「なあ悠介」 悠介 「なんだよ」 彰利 「もしさ、俺が……」 悠介 「お前が?」 彰利 「………………うんにゃ、なんでもない」 悠介 「なんなんだお前は」 彰利 「貴方の恋人♪」 ドボォッ! 彰利 「ヘルイェーッ!?」 世迷言を言う馬鹿者にボディ(略) 悠介 「世迷言言ってないで歩け馬鹿……」 はぁ。 こいつと一緒に騒ぐだの遊ぶだのして吐いた溜め息の数なんてもう覚えていない。 ただそれは、およそ数えるのも面倒なほどの回数に他ならない。 溜め息は出るけど許せる範囲だから面白いんだよな、こいつは。 彰利 「あ、そうそう。キミこれからどうする?」 悠介 「家帰る」 ていうかどういう回復力だ。 彰利 「俺の部屋に寄って行かん?今夜は寝かさないぜ?」 悠介 「寝言は寝て言え」 彰利 「オウ、久々だなそれ」 悠介 「一昨日言ったが」 彰利 「気の所為だ」 悠介 「よしよし、そうかそうか。思い出させてやるから頭貸せ」 彰利 「なにぃ!?そんなことしたら死んでしまう!」 悠介 「死に直面することくらいしないとお前は思い出さないだろ」 彰利 「アラ痛いお言葉。でも俺の馬鹿は死んでも治らんぞ」 悠介 「断言するな、悲しくなる」 彰利 「だな。まあいいや、そんじゃ、ゆっくりと休みをエンジョイするか。     チャンスがあったら神社の方に行かせてもらうからさ」 悠介 「なんなら今───は、無理か。なんでだろうなぁ」 彰利 「気にしない気にしない。     若葉ちゃんと木葉ちゃんは麗しのオニイサマが大事なのよ」 悠介 「そんなもんかね」 彰利 「おうそんなもんぞね。まあそんなわけで、家族サービスしたれよー」 手を振りながら去って行く彰利。 どうでもいいが、その恋人に手を振る少女系の手の振り方は勘弁してくれ。 悠介 「お前に言われるまでもない!いいから帰れ!」 彰利 「やーーん!!怒っちゃいやーーん!」 それでも笑いながら手を振る彰利。 やがてゴスゥ! 彰利 「ニーチェ!」 前方不注意で電柱に頭をぶつけた。 彰利 「あら嫌だわアタイったらハズカシイ」 悠介 「じゃあな」 彰利 「ええ!?ツッコミ無しッスか!?」 知らん。 彰利 「まあいいや、そんじゃなー!」 今度こそ大きく別れを言って、奴の歩が消えてゆく。 悠介 「……ふう」 もう一度小さく息を吐き、自分の帰路をしっかりと踏みしめた。 さて、これからどう未来への時間が進んでゆくのか。 楽しみといえば楽しみだ。 でもまあ、今は先のことより今日の献立だな。 悠介 「お茶漬けとかにしたら怒るだろうか……」 少し苦笑する。 これじゃあまるで主婦だな、まったく。 面倒といえば面倒だが、妹達も先輩も料理が出来ないからしょうがない。 最近の女って……はぁ。 ちなみに彰利は俺より料理が上手い。 本人はひとり暮らしだから慣れるしかなかったとか言っていたが、 普通ひとり暮らしだからこそ上達しないんだと思うが。 妙に家庭的なんだよな、あいつ。 悠介 「……でも、なんでか若葉と木葉には嫌われてるんだよな……」 最近になって、先輩の目つきも変わってきた気がするし。 なんなんだろうかな。 悠介 「まあ、知らないことに関してアレコレ自問自答してても意味ないしな」 割り切って歩を進めることにした。 悠介 「よし、今日はさっぱり系でいくか」 献立を考えながら俺は家を目指した。 ───……。 ……。 ───やがて、この街にひとつの異端が訪れるまで。 俺は自分がどういう生き方をしてきたのかも解らないまま、その時間を過ごす。 自分の中にあった筈の記憶がゆっくりと歯車を動かし、 運命では唱えきれない、ひとりの孤独な少年の物語が再び分岐点へと辿り着くまで。 俺はその涙の意味すらも知らずに答えを探し続ける。 だけど、せめて夢の中でだけは。 それを夢と気付かずに、いつまでもその景色の中で笑っていたいと─── ───そんな願いを、幼いころ。    大きな木の下で、思い出と一緒に埋めた。 ……そんなことでさえ。 そんな大事な思い出さえ、ぼくは忘れてしまっていた─── そんなことでいつかぼくが泣いてしまうとしても、 ぼくはその意味すらも思い出せずに生きていくのだろう。 理不尽な申し訳なさを抱きながら、ぼくはまた夢を見る。 いつか大人になった時も、変わらずにこの景色がある、そんな幸せな夢を─── Next Menu back