それは昔の物語。
 
この世界に生を受けてから、永い時をひとりで生きてきた孤独な子の話。
 
生を受けてから、子供が一番最初に感じたものは孤独だった。
 
周囲には誰も居なかった。
 
ただ、動かなくなったヒトの形をしたものが横たわっていた。
 
記憶の一部は自分の中にある。
 
でも、自分は自分だった。
 
目の前のそれが自分に何かを残そうとしていたかなんてどうでもいい。
 
自分は自分のやりたいことをしていればいいのだから。
 
一通りのことは自分の中の記憶が憶えている。
 
自分はまだ生まれたばかりで、そしてここは産屋でもなんでもない。
 
ただの廃屋だ。
 
埃っぽさがヤケに気にさわる。
 
でも、そんなことはどうでもいい。
 
まずは動いてみよう。
 
自分には、それが出来る筈だ。
 
ゆっくりと目を閉じる。
 
そして、額に力を込める。
 
やがて額に集まった何かを自分の身体に流すように念じる。
 
それだけだった。
 
肉体の時間を操っている。
 
時間を狂わせ、この何も出来ない身体を成長させている。
 
バランスが一番いいくらいの状態で、力の放出を止めた。
 
頭を落ち着かせて、もう一度ヒトの形をしたものに目を向ける。
 
が、そこにそれは存在していなかった。
 
魂が消えた今、その存在が消滅したのだろう。
 
わたしはその場に落ちていた黒い服を着ると、その場をあとにした。
 
向かう場所なんてない。
 
でも、ここに居てもなにもない。
 
黄泉に行ったところで、わたしは亜種でしかない。
 
死神に感情なんて要らなかった。
 
感情なんてものがあるから人間を好きになってしまった。
 
父は母と交わった時に死に、母はわたしを産んで死んだ。
 
かつては死神だった身体も、人の魂が宿って人間になればもろいものだ。
 
そんなこと出来る筈はなかったのに。
 
どうして自分を殺してまで産んだのだろう。
 
そんなことをすれば死ぬということなんて、解っていた筈だろうに。
 
わたしが産まれて、孤独を味わう様を見たかったから?
 
それとも自分は死なないとでも思ったの?
 
……解らない。
 
解らないから考えるのをやめた。
 
そしてわたしは黄泉へと消えた。
 
死神の居るべき場所は、そこだから。
 
………
 
……
 
結果は……予想していた通りだった。
 
人と死神の混血であるわたしに、留まる場所なんてなかった。
 
黄泉は人を迎えられず、現世は死神を迎えられない。
 
わたしには行くべき場所がない。
 
あんまりじゃないか。
 
わたしはただ産まれてきただけなのに。
 
わたしは何もしていない。
 
ただ……産まれて……
 
………
 


───少女は孤独だった。
 
彼女が悪かったわけではなく、周囲がその存在を受け入れてくれなかった。
 
その結果が孤独という答えだった。
 
───が、その答えはひとつの出来事から大きく歪む。
 


数百年経ったある日のことだった。
 
なにをするわけでもなく、木の上でただ空を見上げていた。
 
悲しむことにも疲れ、わたしはただ綺麗な満月を眺めていた。
 
静かな景色。
 
落ち着いていて、綺麗な星空。
 
色々なものに嫌われても、この月だけは好きだった。
 
だって……意思の無いものはわたしを拒まないから……。
 
そうして、眠ろうとした時だった。
 
ひとつの家が炎につつまれていることに気がついたのは。
 
別に……興味があったわけじゃなかった。
 
ただ、何かに引かれるようにその場に向かい、飛ぶことすら忘れて走った。
 
……
 
間近で見ると、それは鎮火も難しいような火事だった。
 
中に人が居たとしたら、生きてはいないだろう。
 
だけど耳に届く声があった。
 
子供の泣く声。
 
ただ一心に、何かに縋ろうとするような弱々しい声だった。
 
その場に居た野次馬にも聞こえた筈だ。
 
だけどボソボソと隣に居る人と話をするばかりで、誰も助けに行こうとはしなかった。
 
……確かに助けにいったところで、普通の人間ならば間違い無く命を落とすだろう。
 
それほど強い炎だ。
 
……だからといって、見捨てるのだろうか。
 
そんなことを思った途端、自分の境遇とダブって見えた。
 
見捨てられた存在。
 
誰も手を貸してくれず、行き先の解らない道を辿る自分。
 
だからだろうか。
 
わたしはその子供を見捨てることは出来なかった。
 
焼ける家に飛び込み、子供の泣き声を辿った。
 
そして……広間の隅で、少年が泣いているのを見つけた。
 
崩れた天井を持ち上げようとしている少年。
 
瓦礫の下には長い髪の毛。
 
おそらく母親なのだろう。
 
でも、もうそこに魂の形は無かった。
 
それでも持ち上げようとする少年の手は瓦礫に残る炎で火傷をしていた。
 
わたしはその子を抱えると、壁を通過して外に出た。
 
……。
 
身体から煙などの毒素を抜き、力を注入し、しばらくして少年は目を覚ました。
 

目を覚ました少年はもう泣かなかった。
 
そんな少年の瞳が自分に似ているなと思ったのもその時だ。
 
このままじゃ、この子は生きていけないだろう。
 
生きる力が失われて、もう絶望しか残っていないのを感じた。
 
この子はもう、ひとりなんだ。
 
手を貸してくれる人も居なければ、生きてゆく糧もない。
 
そんな自分に似た少年を前に、わたしは言葉を紡いだ。
 
───キミ、名前は……?───
 
それが、わたしの中の物語の始まりだった。
 
全てはそこから始まって、現在に至るまで。
 
そして未来へと続いてくれるだろう。
 
少年は言う。
 
わたしを幸せにしてくれると。
 
その時になって初めて、わたしはうれしいという感情を感じた。
 
───……ああ、やっと見つけた。
 
わたしが留まることの出来る場所……───。
 
 









 
───来訪(らいほう)───
小鳥の囀りが聞こえた。 その音色に耳を傾けながら、ゆっくりと目を覚ます。 とたとたと窓に寄って、カーテンを開いた。 シャッ、という軽い音。 窓から差しこむ光は今日も綺麗なものだった。 悠介 「うん、いい天気だ」 グッと伸びて、部屋を出る。 春菜 「あ、悠介くん、おはよう」 微笑みながらの挨拶。 悠介 「ああ先輩、おはよう」 俺もそれを笑顔で返す。 っていや待て。 どうして朝なんだ? 悠介 「……今……何時?」 春菜 「うん?ああ、時間だね。7時10分だよ」 悠介 「……え?」 待て。 俺は確かハト出してキャベツ出して気絶して……。 ポム。 悠介 「夢だ」 春菜 「はい?」 悠介 「そうか、そうだよ。あんなことが現実にあるわけないんだ。     なんだそーだよ!なに暗くなってたのかなぁ、俺!あっははははは!」 ルナ 「あ、おはよ、悠介〜」 悠介 「ああ、おはようルナっ、今日もいいて…ん…」 漫画などなら汗がダラダラと出る心境だった。 悠介 「寝惚けてるんカナ……」 頭をブンブンと振ったあと、顔をぴしゃんと叩いて気合をいれた。 で、廊下の窓の先を見てみる。 ……うん、なにもない。 そして、ほう、と安堵の溜め息を吐いた時だった。 ルナ 「グッドモーニング!」 ドカァッ!とわき腹にタックルを食らい、勢い余って倒れた。 その際、頭だけが壁にぶつかり、身体の重力も手伝って、 首が恐ろしい音を奏でたことを追加しておく。 悠介 「ぎぃいいいゃぁああああああああああああああああああああ!!!!!」 あまりの激痛に、俺は転げ回った。 古風ながらもしっかりした床が冷たくて気持ちいいとか、 そんなことはこの際問題じゃなかった。 なんのことはあるが、壁抜けをしてきたルナが俺に抱き着いてきたのだ。 ……いや、訂正しよう。 タックルしてきたのだ。 フットボール部の皆さんもびっくりの勢いだ。 おかげで朝から激痛に感動の涙をしながら床を転げ回るハメになった。 悠介 「こ、このっ!新品のスリッパが出ます!」 ポムッ、という音がすると、俺の手にはスリッパ。 ルナ 「あ、それ前に向こうの地域で見たことある。     ドナルドマジックっていうんでしょ?」 悠介 「違うっ!」 ゴパァァアアアアアアン!! スリッパがいい音を奏でた。 ルナ 「あきゃぁっ!!い、いったぁぁ……なにするのさっ!」 悠介 「どうしてお前がここに居るっ!」 ルナ 「どうしてって……遊びにきたんだけど」 悠介 「お前は遊びたいと人にタックルするのか!?ええっ!?     せっかくの清々しい朝が台無しじゃないか馬鹿者!!」 ルナ 「そ、そんなに怒らなくても……」 悠介 「いいやっ!大体な!人前であっさりと壁抜けなんてしてくれるなよ!     今この場には先輩だって───はぁあっ……!!」 息を呑んだ。 マズイ。 非常にマズイ。 壁抜けやらなにやらに続き、 俺に抱き着いて尚且つ親しげに話すこの娘ッ子……ッ! どう説明しても納得してくれる筈がない……ッ!! 春菜 「……悠介くん」 にっこりと微笑む。 表情はそんな感じだ。 だが、その裏側が凍り付いていることは俺でも感じ取れた。 悠介 「あ、いやっ!これはつまりその!」 春菜 「なにを……してるのかな」 究極の疑問系。 なにをって、そりゃアンタ。 タックルされて首が痛くてそれで─── 春菜 「劇の練習?」 なんてことを考えるも、よく解らない言葉が返ってくる。 悠介 「劇?劇って……」 訳が解らなかった。 この状況でどうして劇なんて言葉が出てくるのだろうか。 ルナ 「悠介、ゆ〜すけ」 ついついと、服の袖を引かれる感触。 ルナ 「えっとさ、悪いんだけどね」 悠介 「なんだよ」 ルナ 「わたし、悠介以外の人に見えてないから」 悠介 「……はいっ!?」 素っ頓狂。 すっとんきょうを漢字で書くとこんな感じだ。 悠介 「ちょ、ちょっと待て!それじゃあ何か!?     俺は勝手に驚いて滑りそうにない廊下で───そりゃあ毎日掃除したりワックスか     けたりしてるから靴下とか履いてりゃ滑ることもあるかもしれないけどそんな廊下     で突如転んで首を痛めて叫んで転がってスリッパ出して空気を叩いていい音出した     変な男に見られたりしてるっていうのかおデスさん!!」 ルナ 「わあ一呼吸、拍手拍手〜」 春菜 「な、なに!?このパチパチって音……!     ま、まさかこれが噂に聞くラップ音……っ!?」 ルナ 「違うって」 悠介 「お、お前ぇ……!声は聞こえてないんだろうなぁ……!」 ルナ 「ああ、それなら大丈夫ー。     この世界で言う霊能力───まあ悠介は違うだろうけど、     そういう力が一定以上無いと、全然これっぽっちも聞こえないから」 悠介 「待て」 ルナ 「なにかな」 悠介 「それじゃあ俺には『そういう力』とやらがあったりするのか?」 ルナ 「んーん、全然」 うわ……思いっきり否定しやがった……。 ルナ 「悠介にはただわたしが波長を合わせてるだけよ」 悠介 「……そうなん?」 ルナ 「そうなん」 ……なんだ。 意味も無く期待と不安を胸にドキドキしてしまった。 ルナ 「ひょっとして期待してた?」 悠介 「ばっ……馬鹿言えっ!ななな、なぁんで俺がそんなの」 ルナ 「動揺してるの解りやすすぎるよ悠介〜……」 眠たそうな顔で言われてしまった。 春菜 「ゆ、悠介くん……さっきから何を……?」 悠介 「え?」 あ、そういえばこの人の存在を数秒間忘れてた。 春菜 「ま、まさかぁああ……!!と、憑りつかれてしまったんじゃぁ……っ!」 悠介 「……はい?」 春菜 「い、いやぁあああああああああああああああっ!!」 悠介 「あっ、ちょっと!先輩っ!?」 先輩が叫びながらバタバタと尊敬に値するほどの速さで視界から消え失せる。 悠介 「……なんなんだ、憑りつかれたとかなんとか……」 ルナ 「だって、いきなり倒れるわ叫ぶわ奇妙な行動するわラップ音が鳴るわ」 悠介 「待てっ!ラップ音はお前の拍手だろうがっ!」 ルナ 「いやー、一息であそこまで喋れるなんてスゴイと思うよ、うん」 悠介 「頷くなぁっ!!」 ルナ 「どうしたの悠介、昨日から怒ってばっかりだね」 悠介 「お、怒りたくもなるだろ!?」 ルナ 「わたし、なにか気にさわるようなこと、したかな……」 悠介 「気付いてないなら拍手でもくれてやるところだぞ」 ルナ 「うん、知らない」 悠介 「………」 ルナ 「わー、拍手拍手〜」 悠介 「………」 ルナ 「……しないの?」 悠介 「するかっ!」 ルナ 「つまんないの……」 ぐあぁっ……!どうしてこんな奴に捕まっちまったんだ俺はぁ……っ!! 悠介 「この際だから言っておくぞ!     俺は死神と馴れ合う気も魂捧げる気も全然これっぽっちもないからな!     死神に憑依されるくらいならまだ吸血鬼の方がマシだ!」 ルナ 「え……」 言ってしまった。 でもしょうがない。 このくらい言わないとこいつは調子に乗るような気がしてならない。 ルナ 「……もういい、ごめんね……」 悠介 「えっ?」 ルナは俯いたまま、壁を抜けて姿を消した。 悠介 「……なんだってんだよ」 思っていたことを言った。 それなのに、余計にイライラするのは何故だろう。 大体,さっきの言葉だって飄々とおどけて返せばよかったんだ。 それを……なんなんだよ。 ああ、もうっ!知らん!俺はあんな奴のことなんて知らん! 朝食作ってどっか行って気晴らしすりゃいいんだ! ───……。 悠介 「───とは言ったものの」 街中の一角で周囲を見渡す。 ……で、視線を戻す。 悠介 「………」 なんなんだ、この突き刺すような視線は。 誰かが俺を監視している。 だ、誰だ、そんな物好きは……。 って、ひとりしか居ないか。 どうせルナだろう。 朝、あんなこと言われたから近づこうにも近づけないってとこだろうか。 ……なんでだろうなぁ。 なんか怒ってしまう。 別に腹が立つようなことをされた訳でも……いや、痛かったけどさ。 それでも俺はこれでも温厚で通っている。 あんなことで怒ったことなど、ものの一度だってありはしない。 ───もういい、ごめんね─── 悠介 「………」 あんなふうに怒るつもりなんてなかった。 きっと、ふざけて返してくれると思ってた。 だって…… 悠介 「……あれ?」 だって、なんだ? ───どこかで、分かり合ってるって思ってた。 だって、ぼく達は同じだったから。 親のぬくもりも知らずに育って、周囲からは嫌われて。 そんな育ち方をしたぼくらがあの日に出会って。 互いを必要だと思った。 なにを言っても。 なにをやっても許されると。 そんな感覚がいつのまにか自分の中に生まれてて─── 傷つける言葉の区別すらも忘れて、ぼくは─── 悠介 「あ……」 馬鹿野郎……。 なにやってんだよ俺……。 謝らなきゃ。 この、もう視線の感覚がすぐ後ろまで来ている女の子に! 悠介 「あ、あのなっ!」 バッと振り向いた。 そして、ドン!と突き飛ばした。 いや、詳しくはそういう形になってしまった。 相手は相当俺の近くまで来ていたらしい。 悠介 「な、なにやってんだよおま……え?」 見知らぬ少女が倒れていた。 誰コレ。 などとかなり失礼な言葉が脳内を駆け巡り、 やがて身体中を駆け巡りそしてついには血液の流れを追い抜き、一等賞を勝ち取った。 おめでとう失礼な言葉。 とりあえず平和的に拍手を贈った。 が。 なにあの男、女の子突き飛ばして拍手してる……! うわ最ッ低だな……! などという言葉が思考の中から贈呈された。 誤解だ!俺は善良な一市民だぞ! などと思ってみても、説得力などなかった。 悠介 「キ、キミ、大丈夫かっ!?」 慌てて駆け寄る。 大して距離もないけど、そこらへんに意味がある。 が、ピクリとも動かない。 ───さ、殺人事件!? 動揺しまくった俺の頭はやっぱり動揺していた。 警察のつぶらな瞳から身を隠し、 逃げ回った末に何故か鴨川シーワールドの人垣の中で、 手錠を掛けられて御縄につく自分が僅か1秒間の間に上映された。 色んな意味での感動巨編ドラマだった。 ああはなるまい。 そう思って女の子を揺り動かした。 悠介 「ちょ、ちょっと!もしもし!?お、起きてください!」 でもやっぱり動揺は隠せなかった。 隠す意味など無いが。 悠介 「あ……」 ふと、目に映る女性の顔。 ……綺麗な人だなぁ。 なんて思ってしまった。 物静かそうな女性だった。 が、一向に目を覚まさない。 悠介 「あ、そう救急車を……っ!」 立ち上がり、周囲を見渡す。 ものの見事に誰も居ない。 俺は携帯電話など持たない主義だし、ここらへんに公衆電話があった記憶は無い。 ともなれば…… ─── 悠介 「ぐあぁあっ……」 石段を登る。 背にはさきほどの女性。 目指しているのは晦神社。 つまり自分の───いや、晦の家だ。 しかしまぁ、誰かを背負って登るような場所じゃない。 昨日のことといい、どうしてこの階段はこんなに長いかねぇ。 はふぅ〜ぅ、さすがの俺も少々疲れ気味じゃよ。 悠介 「………」 いや、実際のところ、この人は凄く軽いわけだ。 あんさん人間ですかとツッコミたくなるほどですよホント。 でもね、それでも何かを背負うのって、結構動きにくいんですわ。 そんな朝模様。 少女 「んん……」 悠介 「ん?起きた?」 少女 「………」 訊ねてみたけど返事はあらず。 寝言か。 悠介 「………」 溜め息を吐いて、タンタンと石段を登る。 あのままにしておくのは忍びないとはいえ、 この選択は正しかったのかと自分を疑いつつ。 だって仕方ないザマショウ。 人違いだったとか死神違いだったとかはともかく、 こっちの不注意とはいえ女の子を突き飛ばしたりして、 ……って、別に突き飛ばしたというよりはぶちかましというか、 ぶつかっただけだけど、いきなり振り向いた俺も悪かったし。 悠介 「……つくづく情けない……うわっひゃぁっ!?」 自虐的にぶつくさと発言しつつも天を目指す俺の首筋に、なにやら異様な感触を覚えた。 ……どうやら、背中の女の子が俺の首筋を舐めたようだ。 アイスを食している夢でも見てるんかいのぅ。 人の気も知らんと……。 悠介 「はぁ……自分の人生が心配になってぎぃやぁああああああああああああっ!!」 今度は鋭い痛みが首筋を襲った。 噛まれてる。 うん、これは噛まれてるな。 まったく、最近の若人は食い気しかないのか。 こんなに綺麗な人も所詮は食い気無しには生きられぬものよのう。 そんなことを考えている時だった。 ブツッ。 小さな音。 聴き馴れないような音が、俺の耳のすぐ近くで鳴る。 何事か。 そう思った瞬間、身体が理解した。 彼女の歯が俺の首筋の皮を突き破ったのだ。 これは痛い。 痛くて当然だ。 悠介 「ッ……くぁあっ!!」 俺は女の子を背から振り下ろそうとした。 が、離れない。 いや、力が出ない。 急激に、身体の中の生きるために必要なものが吸い取られる感覚。 や、やばい……! なんだかよく解らないけどヤバイ!! 血が……血が吸い取られて……!! 意識が朦朧としてきた。 なんてこった。 今更になって答えに辿りついた。 信じたくないけど、そういうことだ。 この女の子……吸血鬼……!! 最初から血を吸うため気絶したフリをしてたんだ! 悠介 「う……ああ……」 まいったな。 このまま血を吸われてミイラみたいになるのかな。 ………冗談じゃない!! ああもうムカついてきた! 俺はもう死にたいなんて思わないって決めたんだよっ!! 悠介 「俺と同じ血液型の血が数分前と同じ量を保つ程度に血管内に流れ出ます!!」 言って、血管の管の穴を想像した。 長い言葉だったけど、言葉にした方がイメージ出来る。 ちなみに『血管内に』と付け足したのは、 血管以外のところに流れ出られても困るからだ。 賭けだったけど、どうやら成功。 そして女の子を振りほどこうとするが、自分から離れた。 どうやらお食事が済んだらしい。 怒りを露わにした俺は、女の子に向き直り叫んだ。 少女 「гомэннасай……а……いえ、ごめんなさい」 もとい、叫ぼうとした。 したんだが、謝られた。 なにがどうなってるのかさっぱりだった。 なんですか、この状況。 俺はとりあえず頭を押さえて悩んだ。 ───……。 悠介 「……つまりキミは吸血鬼で、だけど病弱で、     尚且つ外に出たこともないお嬢様吸血鬼で、     出たはいいけど貧血と太陽光に襲われて、     気持ち悪くなっていたところで俺を発見。     刺すような視線で俺の後を尾行して、     いざ食さんとしたら俺が振り向いて衝突。     で、気絶したのちに気がついたら目の前に俺の首筋があって、     舌で味見したあとガブリ、と」 おなご「お察しの通りです。     好奇心で外に出て、だけど道に迷って。     気がついたらこの街に居て、倒れそうなところであなたを見つけて」 ぞくりと寒気がした。 今でこそ、こうしてお茶など啜り合ってはいるが、 さっきは死ぬかと思ったわけで。 っていうか病弱な吸血鬼ってなんだよ。 おなご「ですが……信じてもらえるなんて思いませんでした」 悠介 「なにが」 おなご「わたしが吸血鬼であることを、です」 悠介 「いやだって、血も吸われたし、なんたってウチには死神」 おなご「……? なんでしょう」 悠介 「なんでもない」 わざわざ言うようなことでもないだろう。 悠介 「でさ、どうして俺にターゲット決めたわけでしょうか」 おなご「……それは」 悠介 「血なんて誰のでもいいんじゃないのか?」 おなご「いえ、それが……一応吸血鬼にも血液型というものが存在してまして。     自分と同じ型のものじゃないと上手く取り入れられないどころか、     ヘタをすれば食中毒になってしまうのです」 悠介 「………」 なんかカッコ悪いな……。 悠介 「そういうのってやっぱり手馴れてるのか?     ほら、相手を捕まえる方法とか」 おなご「わたしは人の血を吸うのは初めてでしたから、そういうのは解りません」 悠介 「初めてって……じゃあ今まではどうやって生きてきたんだ?     血がないと生きていけないって、あれはデマ伝承なのか?」 おなご「いいえ、それは本当です。     外部から血を取り入れなければ生きてゆけません。     わたしはそうやって育ちました」 悠介 「じゃあ」 おなご「わたしの場合、家に血が保存されていたんです。     わたし自身の意思で、人と接触して血を吸ったのはこれが初めてなんです」 悠介 「……なるほど」 なんか複雑だ。 だからどうしたってこともないんだけどさ。 なんていうのか……なぁ。 悠介 「って、待った」 おなご「はい」 悠介 「今……さらりと恐ろしいこと言わなかった?」 おなご「なにか気にさわること、言いましたか?」 悠介 「そうじゃなくて……わたしはそうやって育ったとかどうだかって……」 おなご「はい、言いました」 悠介 「……育つの?」 おなご「はい。ちょっと長くなりますけど……いいですか?」 悠介 「ああ、聴きたい」 おなご「……はい」 一度目を閉じたあと、思い出すように少女は語り始めた。 おなご「───遠い昔の話です。     知っての通り、わたし達吸血鬼には繁殖能力はありません。     長い命を保てるといっても、それは血を取り入れていればの話です。     その数が多ければ多いほど、取り入れるための血の数は減っていきました。     そんなことがあって、吸血鬼は渇いてゆき、やがて死に絶えました。でも……」 悠介 「でも?」 おなご「……あるところに、ひとりの研究者が居ました。     その人はクローンや人体復活。     挙句には細胞から新しい命を作ることを目標として、ずっと研究をしていました。     ───ある日のことです。     男は発掘館に吸血鬼の血の結晶が展示されていることを知ると、     それを盗み、実験を始めました。     結果は……散々でした。あるものは入れ物だけの存在。     あるものは空気に触れた途端に灰になり。     その度に燃やされて、処分されていきました。     数十回に及ぶ失敗の末、その時は来ました。来て……しまったんです」 悠介 「その時って?」 おなご「男は今まで結晶を削って、少しずつ使っていました。     だけど、もういい加減無理だと思ったのでしょう。     結晶をそのまま使い、実験を始めました。     そして───それは出来てしまった。     その人はそれはもう喜びました。喜んで……そして死にました。     飲まず食わずで、しかも成功を望みに生きていたのだから、     緊張の糸が切れて、自分を支えていたものが消えたんだと思います」 悠介 「………」 話を聴きながら、俺は内心震えていた。 そんな現実があっていいのだろうか。 死神や吸血鬼の存在は信じても、そういうものは信じたくなかった。 都合のいい考えだなんて馬鹿にされても構わない。 俺はそんな現実に心底恐怖した。 おなご「誕生したソレは確かな自我と記憶を持っていました。     自分が吸血鬼だって理解していたし、どうすれば生きていられるかも知っていた。     そして……自分が種族の最後だということも。     どうして成功して生を受けたかと言えば……     吸血鬼の生命力はそれだけ強かったということになります。     結晶の中の濃い部分。そこに魂が残っていたんです。     入れ物だけじゃモノは動かない。     だけど、部分的に削られてしまった所為か、記憶は鮮明に残らず……     別の人格として生まれ変わってしまった」 悠介 「………」 おなご「ソレは研究所に保存されていた血液を飲んで生命を繋げてきました。     恐らく、成功を祈った研究者が集めた血液だと思います。     日が経つに連れ、肉体の成長しない筈だったソレは成長しました。     それが……男の求めた研究の完成形だったんです。     成長し、歳をとる吸血鬼。そんなモノを、男は作り出してしまった。     人間と変わらないんですよ、なにひとつ。血を吸うということを除いて。     たったそれだけなのに、克服なんてできない人間と吸血鬼の壁。     ソレは、産まれもってそれを与えられたんです」 黙って話を聴いていた。 いや、喋れなかった。 色んな考えが頭の中で渦巻いている。 もしかしたら。 いや、絶対に。 確信や疑惑。 そんなものが頭の中を支配して、俺はやっぱり震えていた。 おなご「もともと初めから吸血鬼だったものなんて存在しないんです。     吸血鬼は歳をとらない。     半永久的に生きてはいられるけど、いつかは肉体が朽ち果てて、     やがて消滅の時を迎えます。     だったら、吸血鬼はどうやって生まれたのか。     どうやって、大人の吸血鬼なんてものが存在していたのか。     それもまた、昔の話です」 …………。 おなご「遥か昔、宝目当てで墓荒らしをしていた盗賊がいました。     盗賊は死者の墓を暴いては、その遺骨に填めてあった指輪や装飾品などを奪った。     そんなことをずっと繰り返していたんです。     死者の魂に呪われても仕方ない人でした。     ある時のことです。盗人が奪った指輪などをつけて、誇らしげに笑っていました。     そして最後に、たった今手に入れたばかりの仮面をつけた時───     彼は呪われ、死にました。でも───死んだ筈なのに、彼は蘇りました」 …………。 おなご「その時からです。彼は自分の身体の異変に気付きました。     喉が渇き、血を求める自分。太陽の光を浴びると余計に渇き、消滅した自分の指。     これは異常だと、そんな答えを出しても無駄でした。     あとは……夜になるのを待って、己の欲望を満たしました。     人の血を吸い、自分が化け物だと気づき、道連れと同朋を増やして」 ……… おなご「それが───わたしの知っている吸血鬼の誕生です。     ですが伝承なんて全てにおいてあやふやですから。     信じなくてもいいですよ」 そんなこと言われたって…… 吸血鬼本人に説明されちゃあ……さぁ……っ!! 背中の寒気はまだ消えない。 悠介 「ひとつ、訊いていいかな」 おなご「はい、どうぞ」 悠介 「その、研究で造られた吸血鬼って……もしかして」 おなご「ええ、わたしですよ」 悠介 「!!」 衝撃! 思わず逃げるように退いてしまった。 だが、彼女は寂しがる様子もなく、 おなご「正直な人ですね、あなたは」 と言って、微笑んだ。 悠介 「あ……ごめん」 おなご「謝ることなんてありませんよ。それが普通の反応です。     そうなるって解ってましたし、現にわたしはあなたの血を吸いました。     怖がられても仕方ありません」 悠介 「いや、そうじゃないんだ。     血を吸ったことなんて忘れてくれていいし、気にしなくてもいい。     本当にただ、驚いただけなんだ……。ごめん、本当に、悪かった」 おなご「………」 悠介 「………」 おなご「変わった人ですね、あなたは」 悠介 「え?」 おなご「普通、致死に至る程に血を吸われて『忘れていい』なんて言う人、居ませんよ」 少し、警戒するような顔つきで言う目の前の吸血鬼。 悠介 「いいんじゃないか?別に死ななかったんだし。     そりゃあ、吸われた時はかなり怒ったさ。     だけど俺自身、もうどうでも良くなってるんだから。     それをまた怒れっていわれても無茶な話だよ」 おなご「……ちょっと待ってください」 悠介 「ん?」 おなご「そうですよ、どうしてでしょう」 悠介 「なにが」 おなご「どうして疑問に思わなかったのか、それが今疑問です」 悠介 「だから何が」 おなご「あなた、人間ですよね」 悠介 「ん……ああ、まあそうだけど」 おなご「どうして死なないんですか」 悠介 「どうしてって……何が」 いきなり失礼な方だ。 おなご「致死量ですよ?どうして平然とお茶すすりながら語らってるんですか」 悠介 「………」 ナルホド。 そら確かに事情を知らねば理解に悩む。 逆に、致死量吸っておいて平然と話をする方もする方だ。 悠介 「お茶は淹れたんだから飲まなきゃ無礼。で、血のことに関しては忘れたまへ」 おなご「それは無茶だと思いますが」 悠介 「無茶でも苦茶でも構いません。忘れなさい」 おなご「………」 悠介 「ふう、じゃあ今日はもうお帰り。おみあげにおしるこあげるから」 おなご「いりません」 そうですか。 悠介 「残念だ」 おなご「それよりもです。伝奇について話したんです。次はそっちの番ですよ」 悠介 「ああ、解った。俺は晦 悠介。歳は17、漣高校の二年。     現在停学処分中の極々普通の高校生」 ……やったんやけど、とは続かない。 否、続かせん。 悠介 「以上」 おなご「わたしが聞きたいのはあなたの生命力についてです」 悠介 「どうもこうも、俺は生きている。それで万歳」 おなご「そうではなくて。どうしてそんなに普通でいられるんですか」 悠介 「どうしてもなにも……まいったなあ」 ホントにまいった。 どうしたものか。 ルナ 「悠介……あ、あの」 そんなときだった。 死神さんが壁抜けして現れたのは。 おなご「………」 ルナ 「………」 そして向き合う瞳と瞳。 その両方が見開かれるのは言うまでもない。 ルナ 「そう……ホントに吸血鬼にしたんだ……。     話がしたくて来たのに……こんなのってないよ……」 誤解もいいところだ。 おなご「………」 一方も驚きの表情。…なのか? ルナ 「覚悟はしてたけど……なにも家に連れ込むことないじゃない!     悠介のばかぁあああああああああああっ!!」 絶叫。 そして逃げようとするルナの手を掴む。 悠介 「待たれよ」 ルナ 「な、なに?わたしなんかもう悠介の側に居られないんでしょ?」 悠介 「………はぁ」 一部始終を見られてしまった。 ともなれば…… おなご「説明、していただけますよね?」 こうなるわけだ。 ……はぁ。 ………。 おなご「……冗談ですよね」 疑問の声。 声の主は目の前の吸血鬼だ。 悠介 「論より証拠、だな。えぇと……イメージイメージ」 創造するモノの形をイメージする。 そして、弾かせる。 おなご「………」 目の前の吸血鬼が驚……いてるのか? とりあえずニンニクを出してみた。 言葉にしないで創造したのはこれが初めてだ。 悠介 「と、まあこういうわけだ」 おなご「ニ、ニンニ……ぐ……ふぐぅ……っ」 悠介 「? どうかしたのか?」 おなご「うっ……ぐぅっ」 ゲフゥッ!! 悠介 「うわっ!?」 突然吐血する吸血鬼。 パタリ。 そして倒れる。 近寄ってみたが、見事に気絶していた。 悠介 「……そういや、吸血鬼ってニンニク駄目なんだっけ」 ルナ 「そうなんだ。迷信かと思ってた」 まったくだ。 まさか吐血するとは。 悠介 「折角だから食うか?」 ルナ 「? 食べるの初めてだけど……」 コリッ。 ルナ 「はう!」 悠介 「うおおっ!?」 いきなり吐いた。 ルナ 「ゲホゴホッ!うぇえ!!ゴフッ!グフッ!!」 そして悶絶。 悠介 「ル、ルナ!?おいっ!!」 ルナ 「………」 しばらくしてルナも動かなくなった。 どうやらルナもニンニクは駄目らしい。 さて、ここで問題勃発。 悠介 「どうしよう」 一応若葉や木葉や先輩は登校したみたいだが、 このまま彼女らが目を覚まさずにいればルナは大丈夫とはいえ、この吸血鬼は見つかる。 それなら起こせばいいんだが、どうしたら起きるものか。 死んだようにぐったりしてるしさ。 まいったな。 本気でまいった。 悠介 「………」 突如、殺人事件などの再現VTRのようなものが脳裏を掠めた。 悠介 「ヒィ!バ、バラバラはイカンよ!バラバラは!冷蔵庫がスプラッタに!」 言ってて馬鹿らしくなった。 悠介 「……とりあえず」 ゆさゆさ……。 普通に揺すり起こすことにした。 悠介 「……ていうかさ、このパターンってさ」 さっきと同じ? つまり血液ですか? そりゃあ豪快な吐血っぷりだったけどさ。 悠介 「……俺、こういう時って小説や漫画やゲームの中の主人公を見直すよ、ホント」 だってアレだろ? 自分の腕をカッターナイフとかで切って、吸血鬼に飲ませるんだろ? スゴイよ本気で。 悠介 「……でも、やるしかないんだよな」 はぁ、と溜め息。 今俺は自分の立場を守るために、あえて自分を傷つけようとしている。 悠介 「………」 ゴクリ。 カッターを取り出すと、無意識に喉が鳴る。 チキ……。 チキチキ……。 刃を押し出す。 ……や、やるのか。 お、俺は……やるのか? カッターを持つ手が汗に滲む。 い、いや。 何を恐れるか悠介。 これは人命救助だ。 人というか、文字で表せば鬼なんだけど。 しかし、命がかかっていることに変わりはない。 それなら多少の痛みなど! 悠介 「………!」 ぐっ、と力を込めて、カッターを震える腕に近づける。 ルナ 「わたしを幸せにする前に死んじゃダメッ!!」 ドカァッ!! 突然の悲鳴にも似た声と衝撃……と、サクッという軽やかな感触。 悠介 「ほぎゃああああああああああああああああああああっ!!!!!」 絶叫。 俺の腕が思いっきり裂けた。 グロテスクだ。 うわぁ、血がビチャビチャ……って 悠介 「う、うわっ……!!うわわわ……!!」 自分でも訳が解らなくなってきた。 肉を貫く感触と、固い何かに刃がぶつかる感触。 そして、その勢いで裂けた自分の腕。 溢れ出る血……!! 悠介 「…………」 言葉も出ない。 どうしてこんなことになったのかといえば、 目覚めたルナが俺に体当たりをしてきたからだ。 悠介 「あ……あああ……」 血を飲ませるだとか、そんな問題じゃない。 このままじゃ俺が死ぬ。 ルナ 「きゃあああ悠介!どうして自殺なんか!     やっぱりわたしなんかとは一緒に居たくなかったの!?」 そんな言葉を叫ぶルナを見ると…… なんつーか、頭の中で何かの止め金が切れた。 悠介 「……ンのっ……馬鹿ボケあほたれ!!     何考えて生きてんだこのアホンダラ!!何が自殺だ!     人が真剣にやってりゃすぐ邪魔しやがって何様のつもりだ!!     どうしてくれるんだよこのままじゃ俺死ぬだろが!!」 キレた。 ええ、一度そういう体験がある俺にとって、理性の箍がはずれるほどのことじゃない。 問題はこいつの馬鹿さ加減だ。 なんか無性にハラが立ってきた。 悠介 「……切れ」 ルナ 「え?」 悠介 「いいから、切れよ……!」 ルナ 「切れって……何を」 なんのことだか解らない、といった感じで問い返してくる 目の前の死神。 悠介 「腕だよ腕!裂けてない部分あたりから先を切れ!!     死神なんだから大鎌くらい持ってるだろっ!?」 なんか無茶言ってる。 ああ、なんだかもう解らん。 理性がどうのこうのとか思ってた割に、 もうとっくに…… 悠介 「さっさとしやがれこの馬鹿死神ぃいいっ!!!!」 理性なんてものは切れていたようだ。 ルナ 「うん……いいけど……。出て、“異端の三日月鎌(ディファーシックル)
”」 キィンッ!! 訳も解らず漫画やなんかでよく見る大鎌を出現させて構えるルナ。 が、そこで止まる。 ルナ 「ほんとにやるの?」 そりゃあ、人の腕を切るのは嫌だろうなぁ。 悠介 「早くしろ馬鹿!!」 ルナ 「ん、わかった」 こくんと頷いて、鎌を振り下ろすルナ。 その鎌が俺の腕を切り抜け、そして持ち直される。 その直後、俺の腕は音も衝撃も無く、畳の上に落ちた。 悠介 「よし!破損した腕の代わりに数分前と同じ俺の腕が出ます!」 メキッ!!ずぼぼぼ……!! ルナ 「あ、なるほど、そういうことかぁ」 うんうんと頷くルナ。 メキメキびしゃっ……。 そして新しく生えて復活する腕。 悠介 「……ふう、清々しい朝ぞ」 なんか今、自分がもう戻れない位置に立っていることを改めて実感した。 ピッコロさんの気持ちが今なら解る。 悠介 「……さてと」 転がっている腕を拾って、その流れ出る血液を吸血鬼の口に流し込む。 悠介 「………」 なんかさ、今……俺ってバケモノかなって、本気で考えちゃったよ……。 Next Menu back