───喧噪(けんそう)───
悠介 「ごはんですよぉおおおおおおおおおおおっ!!!!」 某、海苔食品ではない。 水穂 「センパイセンパイッ!なんか肩のハトが居なくなってるんですよっ!」 悠介 「ああ、ちょいと吸い込んでみた。     で、メシだからみんなを呼んできてくれ」 水穂 「それはつまり、ボクに死ねと?」 悠介 「どうしてそうなる」 水穂 「……なんででしょう、何故かそう思えてしまったです」 悠介 「大丈夫大丈夫、半殺しで済むから」 水穂 「実家に帰らせていただきます」 悠介 「ちなみに嘘だ」 水穂 「……せんぱぃい……」 悠介 「情けない声出してないで、ちょっと行って呼んできてくれ」 水穂 「は、はぁ……」 水穂ちゃんがパタパタと駆けて行く。 悠介 「……さて、皆が来訪する前に水でも飲んでおくか」 冷蔵庫をゴパァと開けて、水を取り出す。 悠介 「マイグラスは何故か誇らしい」 マイグラスに水を注ぎ、一気に飲み干す。 くはぁ、染みるねぇ。 若葉 「なにをやってるんですか、なにを」 悠介 「やあ若葉さん、一杯どうだい?」 若葉 「わたしはお茶しか飲みません」 悠介 「大変結構」 水を片付け、冷蔵庫を閉じる。 悠介 「そうでなくては反日本風には勝てないな」 若葉 「お茶一杯でそこまで言われると複雑ですが」 悠介 「まあそう言うな」 畳の上に寝転がり、目を閉じる。 悠介 「ごめんな、なんかゴタゴタして疲れたろ」 ふと、そんな言葉が口からこぼれた。 意図として言ったのではなく、ただ自然にこぼれた言葉。 若葉 「……そうですね、確かに理解の範疇を超える出来事ばかりでした」 若葉が言う。 まあ、当然だろうな。 こうしている今でも、まだ完全に納得できていない自分がいるのだから。 自分は一度死神に会って、そして再会を果たした。 いつか互いに必要と思ったように、今でも近くに居ると安心出来る。 そんな小さな事実が自分の中にあっても、納得の範疇とは話が別だったりする。 それはつまり、『それとこれとは別』ということなのだ。 過去に起きた出来事を思い返せることは出来ても、 その出来事を完璧に再現することはどうあっても不可能。 つまり、そういうことだ。 若葉 「でも……わたしはおにいさまの妹ですから」 悠介 「……それは答えとして機能してるのか?」 若葉 「してますよ、わたしは強い子です」 悠介 「……そっか」 ポムと若葉の頭を撫で、体を起こして座った。 悠介 「木葉は?」 若葉 「そこに居ますよ」 障子の先を指差す若葉。 若葉 「照れて出て来れないみたいです」 悠介 「……何故照れる」 若葉 「おにいさまが頭を撫でるからですよ」 言って、若葉が照れるように赤くなる。 悠介 「……ふむ、それはすまない」 謝る必要があったかも謎だが、とりあえず謝っておいた。 悠介 「木葉、いいからこっち来なさい」 若葉 「おにいさま、なんかお父様風味」 悠介 「う、うるさい」 なんて言っている内に、みんながわらわらと集まる。 セレス「……今日は食べますよ」 ルナ 「まあ、食べれないわけじゃないからね」 水穂 「それはいいから離してくださいぃ……」 ルナ 「面白いから、ヤ」 ルナは何やら水穂ちゃんを抱えて遊んでいる。 悠介 「……降ろしてやれ、ルナ……」 ルナ 「振りまわす度に叫ぶから面白いんだけど」 悠介 「やめいっ!」 ルナ 「つまんないの……」 ストン。 大地?に足を着く水穂ちゃん。 その顔は安心と安らぎで一杯だった。 悠介 「じゃあ、いただきますか」 一同 「いただきます」 こうして、朝昼兼用の食事が始まった。 ルナ 「あ、ネッキー。醤油とって」 セレス「ネッキーはやめろと何度言わせる気ですか」 ルナ 「一生涯」 セレス「……ッ!」 ルナ 「ん、ありがと。たらたらた〜」 セレス「……その白い物体に醤油をかける行為は正当化されますか?」 ルナ 「大根おろしには醤油でしょ」 悠介 「……どうしてそう通好みなんだお前は」 ルナ 「え?ち、違うの?」 悠介 「いや、間違っちゃいないけど」 水穂 「はうぅ……」 木葉 「どうしたの水穂、食が進んでないみたいだけど」 水穂 「あ、の……生姜は苦手で……」 若葉 「おにいさまの料理を残した時点で、     五体満足には帰れぬものと唱えなさい」 水穂 「ひぃい……」 木葉 「好き嫌いなんて克服しようと思えば出来ますよ」 悠介 「お前は出来たのか?トマト」 木葉 「お兄様、あれは食材ではありません」 悠介 「お前なぁ……」 若葉 「仕方ないですね、ふたりとも」 悠介 「若葉、そういうお前はどうなんだ?赤飯」 若葉 「愚問です。あんなゴリゴリした豆の入っているものは食べ物ではありません。     どうしてあんなもので祝い事をするのか……まったくもって理解し難いです」 悠介 「そういう食い物なんだって……」 木葉 「ではお兄様?」 若葉 「おにいさまこそ大丈夫なんですか?ピーマン」 悠介 「あれは人類が食すようなものじゃない」 木葉 「……同志です」 悠介 「別に志を持って、好き嫌いがあるわけじゃないんだが」 若葉 「細かいことは気にしません」 木葉 「ですね」 春菜 「へぇ、みんな嫌いなものあったんだ」 木葉 「春菜先輩はどうですか?」 悠介 「見るからに好き嫌いなさそうだけど」 春菜 「わたし?わたしはなんでも食べるよ」 若葉 「嫌いなものとかは?」 春菜 「実はただひとつだけ、どうしても喉を通らないものがあるんだよ……」 悠介 「なにぃ、先輩でも食えないものがあったのか」 春菜 「どういう意味かな、それ」 悠介 「なんの意味でもないぞ」 春菜 「……まあいいけど」 水穂 「それで、どうなんですかっ?」 春菜 「うん、わたしがダメな食べ物は……」 悠介 「食べ物は……?」 春菜 「……とろろだけはダメなんだよ……」 悠介 「……と、とろろ……ですか」 春菜 「もう、食べただけで寒気がゾワ〜って」 若葉 「おいしいですよ、健康にもいいし」 木葉 「ですね」 春菜 「……味自体はどうってことないんだよ。     ただ、体自体が拒否反応を起こすから、どうしても受け入れられないの」 セレス「アレルギー体質ですね、わかります」 ルナ 「ネッキーのはただのヴァンパイア体質でしょ」 セレス「大差ありません」 悠介 「わかった、それじゃあとろろも献立から除外する」 若葉 「好き嫌いがあっては成長しませんよ」 木葉 「とろろは美味しいです」 悠介 「じゃあトマトと赤飯も復活させるか?」 若葉 「───やっぱり個人の好き嫌いは否めませんよね」 木葉 「そうですね、無理に食べるのは体に良くないです」 悠介 「はぁ……」 ………………。 セレス「これはなんという食材ですか?」 悠介 「これはレタス盛だ」 ルナ 「ネッキーったらそんなことも知らないの?」 悠介 「ほい、じゃあこれはなんだ?ルナ」 ルナ 「セイヨウノコギリソウ」 悠介 「んなわけあるかっ!」 セレス「そんなこともわからないんですか?」 ルナ 「うぐ……じゃ、じゃあなんなのよネッキー」 セレス「ほうれん草です」 悠介 「小松菜だ」 ルナ 「………」 セレス「………」 ルナ 「今日のところは引き分けにしてあげるわ」 セレス「いい勝負でした」 悠介 「お前らなぁ……見栄を張ろうとしてるのが解りやすすぎだぞ」 ルナ 「……!」 セレス「……!」 ルナ 「これはなに!?」 セレス「醤油!ではこれはなんでしょう!」 ルナ 「ドレッシング!じゃあこれは!?」 悠介 「こらこらこらぁっ!調味料引っ張り出して遊ぶんじゃないぃっ!!」 ルナ 「負けられないわ、闇のものとして」 セレス「負けられません、最後の吸血鬼として」 悠介 「……頼むからもっとハイレベルなことで争ってくれ……」 …………。 ルナ 「悠介、味噌汁おかわりちょうだい」 セレス「わたしにもお願いします」 春菜 「あ、わたしも」 若葉 「………」 木葉 「………」 若葉 「おにいさま、わたしのを先にお願いします」 木葉 「わたしもお願いします」 ルナ 「あ、ちょっと、割り込みはズルイわよ」 セレス「味噌汁ごときで順位を競うなんて低俗ですね」 ルナ 「あ、そ。セレスは一番最後でいいって」 セレス「……!悠介さん、わたしを先にお願いします」 ルナ 「低俗」 セレス「やかましいです」 春菜 「大変だね」 水穂 「あ、あの、ボクも……」 ギロッ!!(×5) 水穂 「な、なんでもないですぅ〜……」 春菜 「悠介くん、実は喉が詰まってるんだよ」 セレス「みえみえの嘘ですね」 春菜 「嘘は貫き通すから嘘と呼べるんだよ」 ルナ 「あ、やっぱり嘘」 春菜 「……失敗」 若葉 「おにいさま、わたしのを」 木葉 「いえ、わたしのを」 ルナ 「一番初めに言ったのはわたしなんだからね」 セレス「悠介さん、お願いします」 悠介 「自分でやらんかぁあっ!!」 …………。 悠介 「それで、どうして俺は味噌汁を注いでるのかな……」 ルナ 「悠介、まだ?」 悠介 「あ〜はいはい、今持ってくよ……ったく」 ルナ 「態度悪いぞ〜」 悠介 「俺は給湯係かっ!」 セレス「悠介さん、漬物が切れてしまいました」 悠介 「……俺が出すんかい」 若葉 「おにいさま、醤油が残り少ないです」 悠介 「……言う前に自分でやろうよ」 木葉 「お兄様、ごはんが冷めてしまいますよ」 悠介 「この状況を見て、どうしてそんなことが言えるかな……」 なんか悲しくなった。 悠介 「ほら、とりあえず味噌汁」 ルナ 「ん、ありがと」 悠介 「これは若葉、木葉……ほい、セレス、先輩」 セレス「はい、ありがとうございます」 春菜 「ありがとね」 ルナ 「あれ?座らないの?」 悠介 「お茶淹れてくる」 ルナ 「あ、手伝う」 若葉 「!」 木葉 「!」 がしぃっ! ルナ 「わっ」 若葉 「ダメですっ」 木葉 「お兄様に任せてくださいっ」 ルナ 「な、なんなのよ」 若葉 「殿方と台所に立っていいのは妻たる者のみ!」 木葉 「それをあなたのような異形のものに譲ってたまりますか!」 春菜 「じゃあわたしが」 姉妹 『それはもっとダメぇっ!!』 春菜 「わっ……どうしてかな」 若葉 「死ねる気がします」 木葉 「毒を盛らずして毒の味、というやつです」 春菜 「……何気にヒドイこと言ってない?」 若葉 「そんなことないです」 木葉 「わたし達は善良な一市民です」 春菜 「善良市民かどうかは関係ないと思うよ」 悠介 「お茶、はいったぞ〜」 若葉 「早いですね」 木葉 「ちゃんと淹れましたか?」 悠介 「事前に用意はしておいた。これぞ極上」 木葉 「なるほど」 若葉 「納得です」 悠介 「ほい、じゃあこれそっちに回して」 春菜 「うん」 木葉 「はい、姉さん」 若葉 「はい、水穂」 水穂 「はい」 かちゃかちゃとお茶が回ってゆく。 悠介 「……で、どうして俺のところに戻ってくるかな」 ルナ 「え?ち、違うの?」 悠介 「アホォッ!」 ルナ 「うぅ……そんな怒鳴らなくても」 今度こそお茶が全員に渡る。 俺はさっさと自分のメシをたいらげ、そして落ち着く。 悠介 「それでは、ごちそうさまでした」 一同 「ごちそうさまでした」 一斉に、お茶を飲む。 温めだから火傷はしない。 やがてカラになった湯のみを回収して、食事は完全に終了した。 水穂 「それでは、ボクはそろそろ帰ります」 悠介 「そか、気をつけてな」 水穂 「はい」 若葉 「水穂、今度ゆっくり話し合いましょう」 水穂 「だ、だからあれは、ヘンな意味じゃなくて……」 木葉 「……冗談です、気をつけて帰りなさい」 水穂 「は、はい、それではまた明日!」 パタパタと走ってゆく水穂ちゃん。 ルナ 「ちょっと見送ってくる」 悠介 「え?お、おい」 止める間もなく、ルナが飛んでいった。 のちに『ひぃいやぁあああああっ!!』とかいう悲鳴が聞こえたが、無視した。 悠介 「……散歩にでも行くか」 ルナが居ない今がチャンスだ。 石段から行くとすぐ見つかるだろうから山道から降りよう。 うん、自然の中を歩く喜び。 そうと決まればレッツゴーさ。 …………。 チュンチュン……チチチ……。 小鳥のさえずりが耳に届く木漏れ日の山道。 ああ、何度来てもこういうのっていいよな。 落ち着くっていうのかな。 静かに吹く風が気持ちいい。 こうして赤くなってゆく季節に身を置くのは何度目か。 そんなどうでもいいことを考える。 そして、その度に苦笑する自分は嫌いじゃなかった。 こういう時間があるからこその日常だよな、うん。 悠介 「さてと……」 これから彰利の家に行くのも悪くない。 な〜んにもない家だけど、まあ暇は潰せる。 パイロットウィングスもあるし。 よし、冷やかしに行こう。 それがいい。 うん決定。 ……で、彰利の家である。 といってもアパートだが。 彰利は家系の知り合いである麻野さんのところに厄介になっている。 弦月の家主は既に他界していて、その家も既に無い。 そうしてひとりになった彰利を引きとってくれたのが麻野さんだ。 ……ちなみに女の人だぞ。 彰利を引き取った時が丁度今の俺と同じ年だった筈だ。 彼女自身が孤独の身だったせいか、 誰よりも彰利の気持ちが解ったんだと思う。 でも高校生が二人分を稼ぐのは半端な苦労じゃなかった筈だ。 それでもこの現在は存在するのだから、彼女はすごいと思う。 今は彰利もバイトをしていて、少しでも彼女の負担を無くそうと頑張っている。 現在、麻野さんは学校で教師をしている。 なんでも昔からの憧れだったらしく、今では活き活きとしている。 もちろん、俺の知る昔の麻野さんは仕事づくめで大変そうだった。 そういうイメージしか沸かない人だったが、今では本当に楽しそうだ。 ピーンポーン。 とりあえずここに立っていても仕方ない。 奴を召喚しよう。 …………。 …………。 声  『ウチは既に新聞とってますから』 悠介 「よっ、彰利。遊びに来たぞ」 声  『えっ!?悠介!?きゃぁああっ!     ちょっと待ってね!今部屋の中片付けるから!』 ドタバタと走ってゆく騒音。 どうして俺と会話してるときは女言葉になるんだ?アイツは……。 彰利 「と、見せかけて、さぁ入ってくれ」 目の前のドアが開き、彰利が微笑む。 彰利 「珍しいじゃん、お前がここに来るなんて」 悠介 「ああ、家は落ち着かんから」 彰利 「え?じゃああの死神と吸血鬼、まだ居るんだ」 悠介 「ん〜……ああ、なんか居着いてる」 彰利 「そっか、ん〜……まあ、上がってけって」 靴を脱ぎ捨て、中に入る。 悠介 「相変わらず綺麗に整ってるなぁ」 中に入るなり、俺はホゥと溜め息をついた。 彰利 「フフフ、俺はこう見えて家庭的で掃除好きなのだ。     雪子さんが別の家に住むようになってからも、     一度として手抜きをしたことはない」 雪子さんとは麻野さんのことだ。 悠介 「……ふ〜ん……ショック受けたとか思ってたけど、     そうでもなかったのか」 彰利 「いや、俺はあの時枕を濡らした。     そう、俺は彼女にフォーリンラブ。     意味の云々は知ったこっちゃないが、今でも好きだぜ」 悠介 「ほう……で、お前の初恋の相手って麻野さんだよな?」 彰利 「………」 悠介 「彰利?」 彰利 「お、俺の初恋……う、うぐぐ……ウウーーーッ!!!」 悠介 「お、おい……?」 彰利 「お、俺の……あ、あのさぁ悠介!?初恋に年齢制限なんざないよな!?」 悠介 「?」 ……麻野さんのこと……だよな? 悠介 「そりゃ……ないだろ」 彰利 「そ、そうよね!?別に幼女が初恋の相手でもいいのよね!?     生後一日のおなごに恋をしてもいいのよね!?     だって楓巫女ったらめんこかったんですもの!ありゃ反則だ!!」 悠介 「幼女?楓巫女って……」 彰利 「なんでもござらん」 悠介 「………」 彰利 「………」 なんだろうか、この妙な沈黙。 彰利 「ま、まあとにかく俺は雪子さんの生き方には憧れている!     そして悠介には漢気溢るる薔薇の世界を」 悠介 「邪魔をした、俺は帰る」 彰利 「イヤァアアア!帰らないで!暇してたのよ!」 悠介 「それは構わんが、俺に指一本触れるな」 彰利 「………」 悠介 「………」 彰利 「………………」 悠介 「………………」 彰利 「もちろんだ」 悠介 「だから、その間はなんなんだ」 彰利 「愛ゆえに。それよりさ、何しに来たんだ?」 悠介 「そりゃあ暇つぶしさ。やることが本格的になかった」 適当な場所に腰を下ろし、話をする。 彰利 「あ、そうそう、お前メシ食ったか?」 悠介 「食ってきた」 彰利 「………」 悠介 「何故うらめしそうに睨む」 彰利 「気のせいだ」 悠介 「それはいいとしてさ、悪いけど水一杯くれないか」 彰利 「任せろ」 悠介 「……どうして自身満々に応えるんだ」 彰利 「俺コスモの摂理」 悠介 「なんだそりゃ」 彰利 「知らん」 とぼけてみせて、水を取りに行く彰利。 悠介 「ちなみに、ヘンな薬は入れるなよ」 彰利 「まっ……任せろ」 どもった。 入れる気満々だったようだ。 彰利 「ほれ」 悠介 「悪い、サンキュ」 水をゆっくりと飲む。 悠介 「で?それからどうよ」 彰利 「なにが?」 悠介 「麻野さんとは会ってるのか?って」 彰利 「ああ、週末に時々。ちなみに昨日会ってきた」 悠介 「ほう、初耳」 彰利 「いやいや、昨日はホントに偶然だったんだ。     学校帰りにばったり遭遇してさ。     それで近くの茶店で近況の話とかなんとか。     はふぅ、やっぱ綺麗だよなぁ……いかにもお姉さん、って感じでさぁ」 悠介 「歳もそう離れてないしな」 彰利 「嗚呼、雪子さんと淡い恋物語を築けるなら、アタイ死んでもいい」 悠介 「そうか、手伝ってやろうか」 彰利 「えっ、マジ!?手伝ってくれるのっ!?」 悠介 「ああ、御託はいらん。今すぐ死ね」 彰利 「そっちの方かよ!俺は恋人になれるなら、と言ったんだ!」 悠介 「恋人になってから死んでも意味ないじゃないか」 彰利 「……そう、だよな。なんかヘンだよな、あの言葉……」 なにやらしんみりとしてきた。 彰利 「まあそれは置いといて」 悠介 「いや、捨てよう」 彰利 「お前、捨てるの好きだよな……」 悠介 「置いといても復活しないだろ」 彰利 「ま、そりゃそうだわ」 苦笑しながら水を飲む。 こういう場合、ジュースの方がカッコいいかもしれん。 などと考えを巡らせる。 いや、別にカッコつけたいわけじゃないんだが、なんかこう……なぁ。 悠介 「……ふぅ」 少し横になってみた。 ……と、なにやら妙な物体が視界によぎった。 悠介 「彰利……コレ」 彰利 「え?あ……」 ベッドの下になにやら見えた。 で、引き摺り出してみれば出てきたのは…… 悠介 「お前、本当に作ってたのか……」 彰利 「インディアン嘘つかない」 メイド服が発掘された。 彰利 「いい出来だろ?ちょっと着てみてくれよ」 悠介 「な〜にをトチ狂っとるか馬鹿者!」 ドカグシャボカドゴスッ!! 彰利 「ギャアア!!痛い!愛が痛い!」 悠介 「ったく、まさか本当に作るとは思いもしなかったよ……」 彰利 「フフフ、テラ光りせず、布地から選んで作ったこの造型。     中々の逸品だと、鴨川の野中さんもおっしゃってる」 悠介 「誰だ」 彰利 「知らん。だが、メイド喫茶が却下された今、     雪子さんが着てくれれば俺は幸せだ」 悠介 「その前に死ねると思うぞ」 彰利 「いや、案外笑ってOKが出るかも」 悠介 「……ありそうだな、楽観的思考だし」 彰利 「夜、ウチで食ってくか?」 悠介 「なんか異様に食わせたがるな。なにかあるのか?」 彰利 「俺の手料理をあなたに」 悠介 「あ、もうこんな時間か、俺帰るわ」 彰利 「イヤァアアアアアアア!!!     水飲んで談話しただけじゃない!なにを急ぐのダーリン!」 悠介 「ただ単に、身の危険を感じただけだ」 彰利 「うう……いけず」 そんなことで笑いながら、しばらくの時間を過ごした。 落ち着く、といった意味合いでは、こいつの近くも悪くない。 ……別に、ヘンな意味は含まれてないけど。 彰利 「あ、俺すこし寝るわ。6時くらいになったら起こしてくれ。     その時にまだ居たらの話でいいから」 悠介 「ん、解った」 彰利 「ああ、ゲームとか適当にやってて構わないからさ。     もうさ、やりつくして飽きたやつしかないから」 悠介 「了解」 彰利 「それとさ」 悠介 「なんだ」 彰利 「台所におやつがあるから、チンして食べてね」 悠介 「………」 彰利 「今日のおやつは悠介の好きなイチゴショートよ♪」 悠介 「チンして食う食い物かっ!!」 彰利 「……言われてみれば、そうかもしれない」 悠介 「いいから寝ろ、さっさと寝ろ」 彰利 「あ、それでさ」 悠介 「なんだよ」 彰利 「来てくれてサンキュ、暇してたのはホントなんだ」 悠介 「それですぐ寝ちゃ意味はないと思うが」 彰利 「ハハハ、だな。まあいいって、こういうのは気持ちが大事なんだ」 悠介 「そんなもんかね」 彰利 「ああ、そんなもんだ。じゃ、悪いな」 悠介 「ああ、とっとと寝ろ」 彰利 「おやすみのキスは?」 ゴドッ! 彰利 「いってぇっ!な、殴った!今本気で殴った!」 悠介 「殴り足りん。殴っていいか?」 彰利 「いや、痛かったから勘弁。このまま寝ますから殴らないで」 悠介 「よろしい、寝ろ」 彰利 「グッドナイト」 悠介 「夜にはまだ早い」 彰利 「ぐー」 ようやく静かになる。 あからさまな彰利のいびきも、次第に普通の息遣いになり、 やがては一定した呼吸へと変わる。 悠介 「6時、ねぇ……」 落ちていた新聞のテレビ欄に目を通す。 6時……6時……。 それぞれ6時の欄に目を通す。 『トニーは見た』『パンジャブの奇跡』『英会話のススメ』『所天』……。 ……へんなものばっかりだ。 最後に目を通した6時の欄。 これはないだろうと思いたいが、何故か納得してしまう自分。 『マッスル物語』 …………。 悠介 「まさかな」 口に出して言うのは、そうしないと落ち着かないと思えたからである。 悠介 「いくらこいつでもな」 ははは、と渇いた声で笑う。 ……アホらし、俺も少し寝よう。 寝れたらの話だが。 …………。 こうして毎日は過ぎてゆく。 いつも退屈だと思える時間は、それでもどこか楽しくて。 自分はその瞬間その瞬間がとても好きだった。 時々に思う。 自分は満足出来ているのだろうかと。 夢の中でささやく悲しい顔をした少年と向かい合う度に、自分は恐怖で足がすくむ。 時々に思う。 自分はなんのために生きているのかと。 興味のない人にしてみれば笑い飛ばして終わらせるような、小さな疑問。 だけどそこには人の数だけ答えがあって、 その波紋が消えることがないことをぼくは知っていた。 夢の中で微笑む少年。 寂しげな、でもどこか笑っているような顔。 それは……きっと自虐。 ぼくが答えに近づく度に遠ざけてくれる存在。 「知ってるか?世の中には知らない方がいいこともあるんだぞ」 自分の声。 昔、誰かに言った記憶がある。 なにを意図として、なにが欲しくてぼくはその言葉を放ったのだろう。 消えてゆく記憶の狭間で、ぼくはずっと泣いていた。 ……時々に、思う。 ぼくは幸せだろうか、と……。 …………。 気づけば、時間は8時に回っていた。 悠介 「………」 頭がボーッとしている。 ふと、視線を動かす。 ……と、彰利はまだ寝ていた。 ま、いいか……。 今日はここに泊まっていこう。 カーテンを締めて、俺はまた目を閉じた。 今度こそ、いい夢が見られますように……。 つまらないことを願いながら、俺はゆっくりと眠りにおちていった。 そうして過ぎてゆく日常の中、 俺はただ、今この時だけは幸せだと頷きたいと思った。 つまらなくてもいいと笑って答えられる。 それは、どんなに気持ちのいいことだろう。 何も望まず、退屈に身を委ねるのも悪くない。 いつか全てが昔話になるとき、きっと俺は幸せだったと答えられる気がする。 いまはただ、おやすみを言って静かに眠ろう。 それがいつか小さな幸せに変わることを願って……。 ……なんてな。 最近になってからやたらと寝ている気がしないでもない。 まあ、寝れることはいいことだ。 あ〜あ、若葉と木葉になんて言おうか。 彰利の家に泊まった〜!なんて言ったら確実に死ねる。 確率的に言うと…… 死亡(殴られ怒られ、その他もろもろ徳用パックの意)確率99% 生存確率0.5% 田中0.5% うむ、かなりの確率で死ねる。 田中さんが紛れていたのは予想外だったな。 というか誰だ、田中って。 ……ん、まあいいや。 その時はその時だ。 道に迷ってたとでも言えば。 うん、解決だ。 …………。 声  「はぁああっ!!」 やかましい声で目が覚める。 なんのことはなく、彰利の野郎だ。 彰利 「悠介っ!居るのになんで起こしてくれなかったのさっ!」 悠介 「寝てた」 彰利 「ぬおお……マッスル物語、楽しみにしてたのに……」 ……マジか。 ちなみに今は深夜2時 彰利 「ああっ!こんな時間に起きてなにしろと言うのキミは!」 悠介 「……外に出よう」 彰利 「……いいね」 よくわからん内に、外に出ることになった。 悠介 「早くしろよ」 彰利 「んもう、女は仕度に時間がかかるものなのよ」 悠介 「お前のどこを見て女と断定しろとぬかす」 彰利 「男ならハートで勝負」 悠介 「既に男と言いきってるじゃないか」 彰利 「はぁっ!しまった」 悠介 「相変わらずのウスラボケっぷりだな」 彰利 「ひでぇ……」 悠介 「で?何処か行きたい場所とかあるか?」 彰利 「夜の公園って、なんかイイよね」 悠介 「……行く気か?」 彰利 「うん?そうだけど」 悠介 「まあ、さすがにこの時間なら……」 若葉や木葉にとっ捕まることもあるまいて。 ───……と、いうわけで公園へ。 彰利 「ハ〜イキングにゆっこっお〜ホ〜イホイディヤホゥホッホ〜」 悠介 「恥ずかしいから歌うな……」 彰利 「こういうのは気持ちの問題なんだよ。     楽しければ歌う、つまらなければ盛り上げるために歌う。     コレ、ステキナコトザマス。     ハ〜イキングにゆっこっお〜ホ〜イホイディヤホゥホッホ〜」 悠介 「いや、俺が咎めたいのはその歌だ」 彰利 「ウィ?これは俺が作詞作曲した『フヮィ王(キング)にゆこう』だが」 悠介 「今すぐメモリーから消去しろ」 彰利 「えー、いい歌じゃ〜ん……」 悠介 「聞いているこっちがぐったりしてくる……」 彰利 「ハ〜イキングにゆっこっお〜ホ〜イホイディヤホゥホッホ〜」 ピシュンッ! 彰利 「へっ?」 ガカァアアアアアッ!! 悠介 「な、なに……!?」 突然、彰利の顔の横を光が走ったかと思うと、 それは後ろの方で青白い爆発を起こした。 悠介 「……月醒の矢……ってことは」 彰利 「う、宇宙人っ!?」 なるほど、そういう考え方もあるか。 彰利 「ヒィイ!来訪する宇宙人がみんなE・Tなら誰も苦労はしねぇっ!」 まったくだ。 春菜 「……なにやってるのかな、こんな時間に」 悠介 「先輩、そりゃこっちのセリフだ」 彰利 「ヒィイ!む、無駄だぞうっ!     そ、そうやって変装してても正体は解ってるんだかんなぁっ!」 春菜 「わたしが言ってるのは、こんな時間にどうして、     男子ホモ生徒と一緒に居るのか、ってことだよ」 悠介 「ああ、ちょっと家にお邪魔して、今の今まで寝てた」 彰利 「こ、このエイリアンめぇえっ!!」 悠介 「お前少し黙ってろ」 彰利 「……そうする。無視されるのってツライね……」 春菜 「わたしはいつもの弓の練習。悠介くんは散歩かな」 悠介 「ああ、そんなとこ」 春菜 「……悠介くん、いつまでそのホモと一緒に居る気?」 彰利 「ホモって……」 悠介 「先輩、なんで彰利を嫌うのか言えない状態で、     そういうことを言うのはやめてくれ。俺にとっては親友だ」 春菜 「……うん、ごめん。それは謝るよ。     でもね、あまり関わりすぎない方がいいと思うよ」 悠介 「だから、なんでだ?」 春菜 「秘密」 悠介 「……先輩、いくら俺でも怒るぞ」 春菜 「あらら、なんでかな」 悠介 「わけもわからず友人と関わるな、なんて言われて、     それで理由を訊こうとしても知らぬ存ぜぬ。     そんなことで納得出来るヤツが何処に居るんだよ」 春菜 「……それもそうかもね、じゃあひとつ。     悠介くんは、どうして弦月の家系が消滅したか知ってる?」 悠介 「? い、いや……」 春菜 「答えは全てそこにあるよ。じゃあね、わたしそろそろ帰るよ」 悠介 「あ、ちょっと先輩っ!?」 先輩はてくてくと歩いて、俺の視界から消え失せた。 悠介 「……なんだってんだよ」 結局理解できないまま、俺は溜め息をついた。 悠介 「彰利は……知ってるのか?」 彰利 「ん?なにが?」 悠介 「お前の親の死因」 彰利 「……知ってる。でも、教えられない」 悠介 「またか……」 彰利 「文化祭が終わるまで待ってくれ。     終わったら……全部話す。     両親のことも、若葉ちゃんや木葉ちゃんのことも」 悠介 「彰利……」 彰利 「文化祭、絶対成功させような」 悠介 「え?あ、ああ、そりゃ構わないけど、何をそんなに張りきってんだ?」 彰利 「思い出だよ、青春の1ページ!     文化祭終了のキャンプファイヤーの前で、俺はあなたに告白を」 悠介 「寝ぼけてるんだったら目ェ覚まさせてやるぞ」 彰利 「とても痛そうなので勘弁してください」 悠介 「まあ、やるからには成功はさせたいよな」 彰利 「だよなっ!よっしゃぁっ!俄然やる気出てきたぁっ!」 彰利は元気だ。 さっき、あんなことがあったのにどうして笑ってられるのか。 俺には理解できなかった。 彰利 「……悪い、ここらでお開きにするか」 悠介 「そうだな、せっかく外に出たんだから俺も家に帰るか」 彰利 「じゃあな、いい夢みろよ悠介」 悠介 「寝れたらな」 互いに軽く手を挙げ、そして別れた。 ……文化祭が終わったら。 その先には……一体なにがあるというのだろう。 今まで通りの日常は待っているのだろうか。 ……そんな些細なことを家に帰って眠りにつくまで、俺はずっと考えていた……。 Next Menu back