───幾道(いくみち)───
高崎 「……え……と」 セレス「どうぞ、粗茶ですが」 高崎 「ああっ、す、すいません……」 悠介 「悪いね、水穂ちゃん、今は妹達とはしゃいでて」 高崎 「あ、い、いえ……気にしないでください……」 悠介 「………」 セレス「………」 悠介 (怯えてるな……) セレス(怯えてますね……) 水穂ちゃんの友人が来訪した。 その顔は本当に噂を信じ、俺に恐怖する表情だった。 悠介 「ああ、あんまり硬くならないで。普通に楽にしていいから」 高崎 「は、はい……」 悠介 「………」 承伏してやしない。 いや、納得は出来ても実行出来ないといったところか。 やりにくいけど、これでよし。 悠介 「セレス、冷蔵庫に羊羹があるから持ってきてくれ」 セレス「はい」 とたとたと、セレスがその場を離れる。 悠介 「……それで、なんでまたこんな所に?     噂を知らないわけじゃないだろう?」 高崎 「え、は、はい……。よく知ってます……」 悠介 「それなのにどうして?」 高崎 「水穂ちゃんが、あなたは面白い人だって……」 悠介 「面白い……ねぇ……」 高崎 「あ、す、すいません!気を悪くしたなら……っ」 悠介 「ねえ、俺はそんなに怖いかい?」 高崎 「え?あ、あの……」 俺はゆったりと微笑んでみせた。 こんな風に嫌われるのは慣れている。 なんでか、みんなは俺に対して敬語を使う。 それは、親しくしたくないことからの現れだと思う。 悠介 「せっかくだから実践して見せるよ。よく、見ていてくれ」 高崎 「えっ!?や、やめてくださ……」 わぁ、怯えてる怯えてる。 悠介 「……ハトが出ます」 ポムッ。 指で作った穴から、一羽のハトが出た。 そしてそのまま、彼女の肩に留まる。 高崎 「……っ!」 彼女は、ただ驚くだけだった。 そんな彼女を見て、ハトが首を傾げた。 悠介 「見ての通り、俺は穴から大抵のものを創り出せる。     他人から見ればバケモノみたいな力だ。     でも、俺はこの力のおかげで随分助けられた。     俺にとっては捨てようにも捨てられない力だ。     ……これを、より鮮明に脚色つけて言いふらすのはキミの自由。     ただし、二度とここには来ないでくれ」 高崎 「……はっ……はぁっ……」 今ごろ、彼女は驚きから開放されたように息を吐いた。 彼女は、息を整えてから俺を見た。 高崎 「あの……能力って……これ、だけですか?」 悠介 「わからないか?なんでも出せるって言ってるんだ。     あまり生易しく考えないでくれ。     例えば……高崎恵の肩に留まっている     ハトのみを吸い込むブラックホールが出ます」 イメージして、弾かせた。 ……間も無く、ハトはブラックホールの闇に消えていった。 高崎 「あ……」 悠介 「はっきり言って、俺は干渉して欲しくない。     いままで通り、気味悪がって避けてくれればいい。     ……さっき飲み込まれたハトが出ます」 ポム。 先程と同じく、ハトが出る。 それを見ると、彼女は安心したように溜め息を吐いた。 高崎 「……あ、あの……水穂ちゃんは、なんて言ってましたか?」 悠介 「恵ちゃん、逃げて。だそうだ」 高崎 「いえ、さっきの質問に対してです」 悠介 「……いや、彼女の場合はキミより恐怖指数が圧倒的に多かったからね。     来たくはないと思っている筈だよ」 高崎 「……その、恐怖って……?」 悠介 「……知りたいか?」 高崎 「……これでも、オカルトクラブの部員ですから……」 悠介 「現実は架空を凌駕するぞ?それでもいいかい?」 高崎 「乗りかかった船です。水穂ちゃんが無事ならきっと大丈夫です」 悠介 「じゃあ……セレス」 高崎 「え?……き、霧!?な、なにっ!?」 何処からか霧が集まってくる。 それはやがて形をつくり、人の姿に変わってゆく。 悠介 「紹介する。吸血鬼のセレスウィル=シュトゥルムハーツだ」 セレス「耐えられたら、御見知りおきを」 高崎 「───…………!…………!」 口をパクパクさせている。 無理もない。 悠介 「……ルナ、来い」 ルナ 「呼んだ?」 既に待っていたのか、高崎さんの傍の畳からスーッと壁抜けしてきた。 高崎 「ひっ……!」 悠介 「紹介する。死神のルナ=フラットゼファーだ」 ルナ 「どもどもー♪」 高崎 「あ、あ……あぁあああ……」 ぱたり。 気絶した。 無理もない。ホントに。 ルナ 「……悠介、なんなの?この失礼な娘ッ子」 セレス「とりあえず、わたしよりはあなたの方が恐怖という事実が確立しました」 ルナ 「ただ恐怖が上乗せされたから気絶しただけでしょっ!」 セレス「負け惜しみを……。見苦しいですよ?」 ルナ 「むかぁっ!表に出なさいっ!」 悠介 「落ち着け番長」 ルナ 「番長ってゆーなぁっ!」 セレス「で……この羊羹、どうします?」 悠介 「ああ、ルナと分けて食べてくれ。美味いぞ」 ルナ 「じゃ、さっそく」 ビシッ! ルナ 「いたっ!な、なにするの〜……」 悠介 「羊羹を食べる時は、座りながらお茶と共に。     例外は神が許しても一族が許さん」 ルナ 「一族!?」 悠介 「いいからいいから。ほら、座れ」 ポサッ、と座布団を置く。 そこにルナを無理矢理正座させ、頭をポムと撫でた。 悠介 「セレス、日本の姿勢については知ってるか?」 セレス「はい、長生きしているとどうしても退屈になりますから。     ですから、各国大半のことは知識として取り入れてありますよ」 悠介 「じゃあこの死神さんに茶道からなにからを叩き込んでくれ」 セレス「……わたしの指導を受けるとは思えませんが」 悠介 「大丈夫。ほら」 すいっと、ふたつの環を創造してみせる。 セレス「……?それは?」 悠介 「まあ、ちょっと待ってくれ。ハイ、すぽっと」 ルナ 「?」 悠介 「まあ……三蔵法師とでも理解してくれ。この死神さんが猿人だ」 ルナ 「……ここ、怒るとこ?」 悠介 「まあまあ……マスター出来たら、     可能な限りのことをひとつだけ叶えてや」 ルナ 「やるわ」 悠介 「……最後まで、聞こうな。まあいいや。     セレス、キミもこれをつけてくれ」 セレス「わたしも、ですか?」 すぽっと、セレスが自分の頭に環を装着する。 悠介 「俺の許可が出るまで外れない仕組みになってるから。     無理に外そうとすると……何がいい?罰則」 セレス「基本に忠実に、締め付けでいいのでは?」 ルナ 「……なんの話?」 悠介 「聖水とかは?」 セレス「やめてください。ビジュアル的にも怖いし死ねます」 悠介 「ニンニク……は気絶するしな。じゃあ電撃で」 ルナ 「ねーねー、なんの話?」 セレス「恐らく、わたしとあなたが不必要な作法をした。     あるいは、わたしが間違ったことを教えると落ちる罰です」 ルナ 「……この環から?」 悠介 「そういうこと。じゃあ、いくぞ」 ルナ 「あぁああっ!ちょ、ちょっと待った悠介っ!     電撃って『月鳴の裁き』を使うわけじゃないわよねっ!?」 セレス「月鳴の裁き?」 ルナ 「ネッキーも味わった、あのお札に流れた雷のことよ!」 セレス「ひっ……!ゆ、悠介さんっ!?あ、あれだけは」 悠介 「はい、装填終了。安心しなって、間違わなきゃ平気だから」 ルナ 「………」 セレス「………」 悠介 「言うことは無いみたいだな。     じゃあこれから茶道以外の言葉は禁止とする。セット終了」 ルナ 「え!?ちょっと悠す」 ガカァアアアアアアアッ!!! ルナ 「ああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」 ぼてっ。 死んだ。 悠介 「人の話はちゃんと聞けっ!まったく……。     一応、セレスのリングには吸血鬼回復の闇の魔力。     ルナのリングには死神回復の陰の魔力が備わっていて、     雷がスイッチとなってすぐ回復されるから。頑張るんだぞ」 そう言っている間に、ルナが回復される。 ルナ 「わ、解ったけどそういうことはもっと早」 ガカァアアアアアアアアアアアアアアッ!!! ルナ 「ああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」 ぼてっ。 死んだ。 悠介 「それでも納得出来ないとこうなる。注意してくれセレス」 セレス「!…………」 ビクッ!と身を奮わせた後、ゆっくりと頷くセレス。 悠介 「じゃ、頑張れよルナ」 俺は居間の襖を閉め、部屋をあとにした。 その後、ルナの叫び声が聞こえてきたのは言うまでもないかもしれない。 …………。 ……。 特にやることがあったわけでもない。 自然の成り行きはなんとやら。 俺は屋根に寝そべり、日光浴をしようとした。 そう。 しようとしたんだ。 彰利 「やあ」 悠介 「………」 えーと。 どうしよう。 悠介 「どうしてお前がここに居る」 彰利 「え?やだなー、なに言ってんだよ。     こんないい天気の日に日光浴しない手はねーべさ?」 悠介 「じゃなくて!どうして人ン家の屋根に海パン一丁で寝転がってるのか!     そう訊いてるんだよ!!ご丁寧にパラソルまで立てやがって!」 彰利 「いや、ここ高いじゃない?     ここほどステキな日光浴ポイントは無くってよ?」 悠介 「いつの間に屋根に登った」 彰利 「嗚呼、この大いなる太陽に当てられて、今こそ俺は光合成したい」 悠介 「人の話を聞け!」 彰利 「こうしている間にも、俺の毛根からでんぷんが」 悠介 「今すぐ帰れ!」 彰利 「まあまあそう言わんと。     実はさ、及川の奴に計画指令を承ってございよ?」 悠介 「日本語を喋れ」 彰利 「いやいやいやいや、ほら、文化祭のさ」 文化祭? ……ああ、そういやそんなものがあったような。 悠介 「それで?俺は何をやればいいんだ?」 彰利 「厳密には『俺達は』だ。なにやら看板作りを頼まれた」 悠介 「喫茶店の看板ねぇ……。     及川のヤツ、俺達にそんな大儀を任せるなんてどうかしてるぞ」 彰利 「まあまあ、それは別に我らがどう描こうが許される意味合いだろ。     あ、それとさ……。     俺が考案した看板のイメージ、絵に描いて持ってきたんだ」 悠介 「……お前の思考回路が羨ましいよ」 彰利 「そんな、愛してるだなんて。アタイ、照れちまう……」 ドボッ! 彰利 「おほぅっ!」 悠介 「うらやましい、って言ったんだ。無理矢理すぎる間違いはするな」 彰利 「ボ、ボディーは痛いって……」 悠介 「じゃ、とにかく看板作ればいいんだな?     ……って待て。看板のもとになる骨組みすらないぞ」 彰利 「フフフ、こんなこともあろうかと……」 悠介 「看板用の骨組みが出ます」 ポムッ。 彰利 「あ」 悠介 「え?」 彰利 「………」 悠介 「……?」 彰利 「あ、あのね……?ぼ、ぼくさ、これ……」 ごしゃりと木材を見せる彰利。 それは、言うまでも無く、看板用の木材だった。 彰利は、ゆっくりと虚ろな目で俺を見た。 彰利 「………………重かったんだ…………」 そして涙を流した。 彰利 「ロープで近道しようとしたら、無くてさ……。     それでも悠介の驚く顔が見たくてさ……」 悠介 「あ、いや……わ、悪かった……」 彰利 「う……うぅ……」 こいつが叫ばずに泣くなんて、よっぽどのことだ。 まあこれだけの木材を持ちながらあの階段を登るとなると…… 並大抵の忍耐と根性じゃ無理だわなぁ……。 俺でも泣くだろう。 彰利 「うう、泣いてても始まらん……。じゃあ、始めようか……」 悠介 「……無理、するなよ?」 彰利 「む、無理なんかしてないやいっ!」 悠介 「ならいいけどさ……」 彰利 「そいでさ、まずどんな看板作るかだけど」 悠介 「いや……その前にさ」 彰利 「ウィ?」 悠介 「お前、その格好でここまで来たのか?」 彰利 「いや、そうしたかったのはやまやまだったんだけどね。     ここまでの道のりで工事やっててさ。     巡回員が居るから流石にできんかった」 悠介 「居なかったらやるつもりだったんかい」 彰利 「フフフ、俺という男を甘く見てもらっては困る」 不適な笑みをこぼし、彼は笑った。 ……逃げよう。 彰利 「そう、愛するもののためなら、     たとえ血の中、宇宙のイヤァアアアアッ!無視して逃げないで!」 しまった気づかれた! 悠介 「バナナの皮が出ます!」 バナナの皮を創造し、それを彰利に向かって投げた。 彰利 「ゲェーーーッ!!!こんなもので俺様の愛を防げるとでも!?     ちょいと悠介サン!?流石にコレはヒドイと思ギャアア!!」 滑った。 うん、まさかホントに滑るとは思わなかった。 彰利 「キャアアアアアア!!お、落ちっ!痛ェッ!落ち……!」 そのままズガガガガと瓦を滑り、ついには屋根から離陸した。 彰利 「キャーッ!」 そう、彼は飛んだ。 飛んだんだ。 悠介 「………」 ふと見上げた空。 その空は今も変わらずいい天気だった。 悠介 「洗濯物でも干すか……」 微笑んだまま、小さく息をついて、その場を離れた。 彰利 「イヤァア!!ま、待ってーっ!     洗濯物なんぞより友の生死を確認して然るべきではなかとー!?」 悠介 「なんだ、生きてたのか」 見れば、しぶとく屋根に掴まっている彰利。 大した握力だ。 彰利 「え……えぇーっ!?死ぬ方に3千点系!?     はらたいらさんの馬鹿ーっ!じゃなくてダーリンの馬鹿ーっ!」 悠介 「誰がダーリンだ!」 彰利 「え!?ハ、ハニーなの!?」 ゴリッ。 彰利 「ギャーッ!痛い!痛すぎる!手を踏まないでアンソニー!     落ちる!俺様飛んじまう!」 悠介 「せっかくだから落ちろ。何事も経験ぞ」 彰利 「シャレになってねーっ!いや本気でヘルプ!手が痺れてきた!」 悠介 「それでさ、お前が考案したっていう絵、どこにあるんだ?」 彰利 「そりゃもう、無くさないように大事に胸ポケットに」 悠介 「そうか……ってお前、海パン一丁だろがっ!」 彰利 「安心召され!巡回員が居たからちゃんと着てきたって!     スーツぞ!?一張羅と言っても過言でもなんでもないステキさぞ!?」 悠介 「………」 あたりを見回すが、それらしきものはどこにもない。 彰利 「ヒィイ!た、助けて!お、落ちる!」 悠介 「えーと、何処にあるんかな」 彰利 「キャーッ!み、見てはならねぇ!     それよりも一刻も早くアタイをお救いになってお侍様!」 悠介 「あ、あった」 彰利 「イヤァアアアアアアアアアアアアッ!!     み、見るな!見てはいけない!見る前に助けてーっ!」 悠介 「どらど……ら……」 胸ポケットに入っていた絵は、ただその物体があるだけだった。 いや、ひとことで言えるものだ。 それは……まあ、言うなれば……『メイド喫茶』。 彰利 「み……見た?……見たんでしょ……?」 悠介 「………」 俺はゆっくりと彰利に近づいた。 辛うじて瓦の先を掴んでもがいている彰利。 彰利 「……ど、どうなの!?見たの!?」 ゴリャアッ! 彰利 「いぎゃあああああっ!!やっぱり見てたーっ!」 悠介 「もういい、落ちろ。落ちた方がいい。     是が非でも落ちろ。微力ながら協力する」 ゴリゴリ。 彰利 「ギャアアアア!!微力どころか強大すぎて嬉しくねぇーっ!     ま、待つんだダーリン!友を突き落とすと夢見が悪いぞ!」 悠介 「………」 仕方ない。 悠介 「ほら、掴まれ」 屈んで、彰利に手を差し伸べた。 彰利 「キャアア!待ってたわ!そんなお言葉!」 ガッシィッ!と俺の手を掴み、微笑む彰利。 彰利 「ファイトォオオオッ!!」 悠介 「マイナス一億発」 彰利 「え?」 スパッと手を離した。 彰利 「え?あ、ああ……キャーッ!」 そして彰利は今度こそ、その大いなる大地への旅立ちを 彰利 「ヒィイ!」 果たさなかった。 チッ、しぶとい。 彰利 「あ、愛がーっ!愛が振り払われたーっ!」 悠介 「軽いジョーク」 彰利 「え?あ、そうだったんだ、良かった」 悠介 「今助けてやるから」 言って、彰利の指をペリペリと剥がしてゆく。 彰利 「ぎゃあああああ!!とってもグラビティーッ!     ジョークが!ジョークが重い!」 悠介 「なにを言う、せっかくこの苦しみから開放してやろうと」 彰利 「別の方法で救ってやってーっ!」 悠介 「すまん、これ以外に方法が思いつかなかった……許してくれ」 彰利 「嘘だーっ!とっても白々しいぃいいっ!!     そ、そうだ!それなら俺が最善の方法を教えるから、     それを是非実行してギャアア黙々と指剥がししないでぇえっ!」 悠介 「グッドナイト」 彰利 「夜にはまだ早───あぁあああああああっ!!」 落ちた。 石の海にゴシャァと落ちて、腰を押さえてもんどりをうっている。 彰利 「も、もんどりゃぁあああっ!」 ……元気そうだ。 でも痛そうだ。 ひとりローリングクレイドルをやってもああはなるまい。 ───ジャリッ。 悠介 「ん?」 彰利 「フオオ……ッ」 目を移した先。 そこに、彼女が居た。 春菜 「侵入者に相応の罰を……」 先輩だ。 しかもほうき……ってことは月醒モード!? 悠介 「避けろ彰利ぃっ!」 彰利 「え?」 春菜 「ブラスト」 キュバッ! 彰利 「ひぃっ!」 ドガァアアアアアアアアアン! 彰利 「あ、あ、危なっ……!!」 春菜 「いい度胸だね、ここに来るなんて」 彰利 「そんな、誉めないでおくれよ」 春菜 「誉めてないっ!」 ドンッ! 彰利 「ひょいとなっ」 春菜 「避けるなっ!」 彰利 「お?なんだ?やンのかコラ!!言っとくがおめぇ〜、アレだ。     俺と戦うっつぅんなら相応の覚悟が必要だぜ?お?だから見逃せコノヤロウ!!」 春菜 「逃がさないよ!ガトリングブラスト!!」 彰利 「ガトリング?……って連発!?」 ズガガガガガガガガガガガガガガッ!! 彰利 「ギャアアアアア!!死ぬ!死んでしまう!」 それでも避けてるところは、さすが彰利。 って、感心してる場合じゃなかった。 悠介 「彰利!俺が行くまで堪えろ!」 彰利 「えぇえっ!?流石の俺もこの連発じゃいつだって死ねそうよ!?」 春菜 「だったら!お亡くなりになりやがりなさいっ!     ───母なる月の名の元素を司る我が血の色よ……!」 彰利 「……な、なに?念仏!?」 悠介 「馬鹿!んなこと言ってる暇があったら逃げとけ!」 彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」 春菜 「幾多に分かれし力の濃さよ!     我が血より光となりて、我の敵なる者を討たん!     覚悟なさい!ホーミング・レイ!!」 先輩が構えたほうきから幾多もの光が放出され、 彰利に向かって降り注いだ。 彰利 「え!?こ、これマジ!?マジなの!?」 悠介 「驚いてる暇があったら避けろ!!」 彰利 「ま、任せろ!」 うおう、彰利が頼りなさげな返事を! って、んなこと言ってる場合でもない! さっさと下に降りよう! ─────────。 彰利 「よっ!はっ!とっ!とととっ!おっ!おわわっ!ギャア!!」 ドチュン!ドチュン!ガカァッ!ドガァッ!! 彰利 「ひぃっ!えひゃいっ!のわいっ!?ギョエェッ!!」 ゴバァンッ!ドガァンッ!!ズガァッ!!ギシャァアアン!! 彰利 「し、死ねっ!死ねる!死んでしまう!」 春菜 「ぐぅうっ!当たれ!当たれぇえ!!」 彰利 「て、丁重にっ!お断りっ!しとくよっ!よしラストォッ!!」 ドガァッ!! 彰利 「く、くはぁっ……!!はぁっ、はぁっ……!」 春菜 「う、うそ……全部避けた……!?」 彰利 「ふ、ふふふ……ゆ、夕飯前だ……!」 そんな声が聞こえた。 余程に自信がなかったということだろう。 ちなみに俺は今、玄関に居る。 彰利 「オホホホホ、あんさんごときの月操、お茶の子さいさいぞ」 春菜 「むかっ……!」 彰利 「だぁいたい、なんザマスの?靴も履かんと、はしたない……。     そんなことでバレエのトップは得られなくてよ!?     ヌゥォオオオオッホホホホホホ!!」 春菜 「ぐぅ……っ!悠介くん!靴取って!」 突然、俺に声をかける先輩。 靴?靴ですか。 悠介 「ほらっ!先輩!」 先輩の靴を投げる。 それを振り向きもしないでキャッチし、履きはじめる。 春菜 「み、見てなさいよ!あなたと同条件でボロボロにしてやるん」 サクッ。 春菜 「痛っ!」 彰利 「キャア!引っかかったァッ!!」 春菜 「がっ……!画鋲……!?」 彰利 「キャアアア!お馬鹿サーン!     バレエのことが出てきた時点で気づきなさいヨ!馬鹿め!馬鹿め!」 春菜 「むきぃいいっ!死なすぅっ!!」 弓を構える先輩。 悠介 「って状況確認してる場合かっ!      先輩!やめてくれっ!人殺しはよくないっ!」 春菜 「あっ!!は、離して悠介くん!     わたしは人としてこの人外魔境3号を抹殺しなきゃ!!」 悠介 「ッ───いいから落ち着けって言ってんだよ馬鹿ぁっ!!」 春菜 「きゃっ……!」 自分でも驚くほどに、俺は大きな声で叫んだ。 そんなつもり、なかった。 でも……やっぱり友人を『抹殺』とか言われたら黙ってなんか居られない。 悠介 「何度言わせれば解る!?こいつは俺の友達なんだ!     この世でただひとりの、男の友達だ!     それを『殺す』なんて言われて黙っていられるわけないだろ!?     いい加減にしてくれ!本気で怒るぞ!」 春菜 「あ……あ……」 彰利 「悠介……お前こそ落ち着け」 悠介 「……解ってるよ……!そんなことは……!     でも解んないんだよ……!どうして殺すだなんて言うんだよ……!」 春菜 「……ごめんね、悠介くん。     悪いと思ってるよ。……でもね、やっぱりわたしは……」 彰利 「これ!それ以上言うでない!そりゃおめぇ、ルール違反じゃぜ!?」 春菜 「っ!あ、あなたなんかに言われる筋合いはっ!」 悠介 「先輩っ!」 春菜 「あ…………───……なによぉ……!     どうしてそんなヤツ、かばうのよぉ……!     悠介くんのばかぁ……っ!!」 彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」 悠介 「先輩……!?」 先輩は、声を殺して叫んだかと思うと、踵を返して走り去っていった。 ……追うことなんて……出来なかった。 彰利 「泣いてた……な?」 悠介 「………」 彰利 「……悪い、またやっちまった……」 悠介 「……返事は?」 彰利 「NO。文化祭まで待ってくれ」 悠介 「……お前……俺がどんな気持ちで仲裁してるか解ってるのか……?」 彰利 「ほんと、ごめん。     謝ることくらいしか出来ないけど……。     それでも、今は言えない。言えないんだよ……」 悠介 「……どうしてだ?」 彰利 「───それも、言えない」 悠介 「……いつか友達無くすぞ」 彰利 「お前が居ればそれで満足だ。     心の許せるヤツが居るってのは、本当に嬉しいことだよ……」 悠介 「……俺は許してもらってるようには見えないんだがな……」 彰利 「だーかーらーさぁ、文化祭なんてすぐじゃないか。     それまでの辛抱だよ辛抱!楽しくいこうぜ友よ!」 悠介 「はぁ……どのツラ下げて先輩に会えばいいんだよこれから……」 彰利 「そのツラに決まってるでしょうが」 悠介 「……もういい、それより悪かったな。     俺が落とさなかったらこんなことにならなかったかもしれない」 彰利 「心配してくれてんの?それって」 悠介 「そうならなかったかも、という理想論だ」 彰利 「照〜れちゃって、カワイイッ!」 ドゴッ! 彰利 「ベブラ!!」 彰利がその場にうずくまる。 彰利 「───!───!くあっ……!い、い、痛っ……!」 悠介 「すまん、今のこんな状況だ。手加減なんぞ出来なかった。     もとい、するつもりもなかった」 彰利 「そ、そういうのを八つ当たりと……!」 悠介 「八つ当たり?ほう、八つ当たりねぇ。     お前は加害者を攻撃することを八つ当たりと言うか?     言うのか?言うんだな?どうなんだっ!!」 彰利 「ま、待て……落ち着け悠介……!     お、おおお俺が悪かった……!     俺の知ってる悠介はそんな怖い顔一度としてしたことないぞ?     頼むから落ち着いてくれ」 悠介 「……初めて……」 彰利 「え?」 悠介 「……初めて……女の子を本気で泣かせちまった……」 彰利 「悠介……」 悠介 「言い訳なんかしない……出来る訳がない……。     俺のためにやってることだなんて、解ってた……。     それでも、理由も話してくれずに友人を敵視するのが許せなかったんだ……!」 雨が降っていた。 天気だった空は濁り、今では雨雲だけしか見えない。 悠介 「自分でもどうしようもなかったんだ……っ!     泣かせるつもりなんてなかったのに……!     嫌いになる理由なんてなかった筈だったのに……!     俺の能力を受け入れてくれる人を……俺は……!」 彰利 「悠介、もうやめよう……。中、入ろう?な?」 悠介 「傷つけたのに、追いかけることすらしてやらなかった!     最低だ!自分にヘドが出る!自分が許せない!」 彰利 「ぐああっもう!落ち着けって言ってんのが聞こえないのかたわけっ!」 悠介 「なっ……!」 彰利 「あのなぁ!     そんな自分の理想通りに日常が成り立つわけないでしょうが!馬鹿かねキミは!     確かに俺達は異能力を持っとりますよ!?でも人間だ!神じゃない!     よいかね!貴様は欲張りすぎなんじゃよ!     みんないつまでも仲良しこよしでいられるわけないだろうが!     人にはそれぞれの生き方と人格がある!     それなのに相手の意思だけ押し付けられて我慢出来るか!」 悠介 「くっ……!」 彰利 「さらによいかね!?人間はちっぽけな生き物ぞ!     誰かと交わした小さな約束すら守ってやることの出来ない安い存在だ!     なにが出来るかなんて言われたって出来ることなんてない!     後悔に対してでも答えをつけられる!     正解なんて誰にも解りはしないなら、自分の考えを貫けよ!     泣かせるつもりはなかった!?それならそれが答えじゃねぇの!     悔やむことなんて誰でも出来るんだよ!     悔やむことが!それが嫌なら───!!」 悠介 「!」 ……そうだ……。 なんで気づかなかったんだろう……。 追えばいい。 なんて言えばいいかなんて関係ない。 追えば捕まえられる。 でも、逃げれば遠ざかるだけじゃないか。 彰利 「嫌なら───その日常ってのを、取り戻してこいっ!」 悠介 「ああっ!」 頷いた。 そして走った。 雨の中を、ただひたすらに。 先輩がどこに行ったのかなんて解らないけど…… それでも、俺はその日常を取り戻したかった。 だから俺は走った。 そしてあることに気づいて、そして─── ボカッ! 彰利を殴った。 彰利 「ギャア!!な、なにをなさるの?」 悠介 「元はと言やァ、お前が挑発したからだろうが馬鹿!!」 彰利 「あ……気づいちゃった?」 悠介 「弁解の言葉はいらん。いますぐ眠れ」 彰利 「やーーーん!!悠介ちゃんたらやーーーん!!」 悠介 「月鳴の裁きぃいっ!!」 ズガァアアアアアアアアン!! 彰利 「きゃあああああああああああああああああああっ!!!!」 俺の体を媒介に、その場に雷が爆裂した。 その後、ゆっくりと彰利が倒れる。 ───弦月彰利、気絶。 雨降りだったから伝導率も相当だったようだ。 煙が出てる。 でも生きているところは流石は彰利。 呆れと尊敬もどきな気持ちが滲み出てくる気分だった。 Next Menu back