───作戦(さくせん)───
彰利 「では、作戦を通達する」 廊下の前で、彰利が隠密体勢をとる。 といっても、ほっかむりを装着しただけだ。 しかもアフロな分、もっさりと無理がある。 悠介 「彰利、これ飲め。喉渇いてるだろ?」 彰利 「え?あ、ああ、悪い」 俺が差し出したジュースを手に、ゴッフゴッフと飲み下す。 彰利 「ぷふぅ、美味」 口周りを袖で拭い、彼奴は微笑んだ。 彰利 「サンキュ」 そして空き缶を返してくる。 悠介 「いらん」 彰利 「そりゃそうか」 笑いつつ、空き缶を消火器の裏側に隠す彰利。 彰利 「で、作戦だが」 なんて言ってる内に、みるみる彰利の髪がもとに戻ってゆく。 彰利 「まず、みんなを集めるに至り……」 しかし気付いてない。 悠介 「彰利、頭」 彰利 「ウィ?……おおぅ!?髪の毛がフサフサと元通りに!     もっさりしてない!キャアア!!」 ぼかっ! 彰利 「いたぁい!」 悠介 「大きな声と妙な声出すな……!     もうとっくにホームルーム始まってるんだぞ……!     これがバレたらまたエライことになるだろが……っ!」 彰利 「うう、ゴメンよ。だが甘い。     俺らが、そげなことに気を使う良い子だったら、まずサボリなんぞしない」 悠介 「まあ、そらそうだが」 反省の『は』の字も見受けられなかった。 彰利 「まあとりあえずだ。     まず、俺がフェイスフラッシュでこの教室の人々を愉快にするから。     その内に悠介は水穂ちゃん達を連れて来てくれ」 愉快にさせるのか……。 悠介 「あのなぁ……。     若葉と木葉と高崎さんと水穂ちゃんを一気に運べっていうのか?」 彰利 「為せばなる!」 悠介 「なるかっ!」 彰利 「じゃあひとりずつでいいから。     それと恵ちゃんはやっぱいいや。彼女はそこまで染まってないだろ」 悠介 「………」 水穂ちゃん、救われんなぁ……。 彰利 「じゃ、いくぞ?準備はいいかぁ?」 悠介 「待て」 彰利 「な、なに?まさか告白タイム!?」 ドス。 彰利 「ぼはぁぅ!!」 喉への地獄突きが彼を叫ばせた。 実に奇妙な叫びだった。 悠介 「寝言は寝て言えっていつも言ってるだろうが。     それよりさ、お前の体ってどうなってるのさ」 彰利 「あいたたた……え?ああ、フェイスフラッシュのことかい?」 悠介 「それ以外に何が……ありまくるな、お前の場合」 彰利 「フフフ、それは誉め言葉として貰っておくよ。     まあフェイスフラッシュ自体が、俺の能力を押さえたものだってこと」 悠介 「能力?家系のか?」 彰利 「まあそうじゃな。     わしの家系にはこんな能力があったってことじゃあ……。ほんとは先輩殿の家系だけど」 どうして年寄り風な口調なんだ? って、最後になにか言ってなかったか?よく聞こえなかったが 彰利 「まあそれはそれ、これはこれ。ゆくぞ!」 悠介 「ん……まあいいか。サングラスが出ます」 というか、フラッシュグレネードでやった方が早いと思う。 なんてことを考えている内に、彰利が教室の引き戸を少し開ける。 彰利 「フェイスフラッシュ!」 ギシャァア!! そして溢れんばかりのフェイスフラッシュを放つ。 教室の中はそれはもうパニックだ。 彰利 「よし!今だ悠介!」 悠介 「おう!」 ドアを開け放ち、中に侵入する。 なんだかんだ言って、俺も結構乗り気である。 えーと?若葉と木葉は……いた! 悠介 「ちょっと失礼!」 ガバッと抱え上げ、そのまま走って廊下へ。 途中、おもいっきり暴れてくれたが、声をかけるとすぐに治まった。 若葉 「もう……おにいさまったら、いきなり駆け落ちしようだなんて」 悠介 「違う」 木葉 「じゃあなんなんですか?」 悠介 「ん……あとで話すよ」 ポンと頭を撫でて、次の出撃に備えた。 若葉 「あ……」 木葉 「あぅ……」 悠介 「ん?」 若葉と木葉の様子が少し変なのに気付いた。 ……そっか。 そういえば、最近は彰利のこととかでまともに話す機会もなかったな。 いくら大切な友達だといっても、こいつらも俺の大切な妹だ。 悠介 「……悪かった。今日は、思いっきり楽しもうな」 そう言って、もう一度頭を撫でた。 若葉 「……お……おにいさまぁ……」 悠介 「うわっ!ば、馬鹿!泣くほどのことかっ!」 木葉 「泣くほどのことですよ……。     話は出来ても、まともにわたし達を見てくれなかったんですから」 悠介 「……すまない」 彰利 「姉妹愛かぁ、ええのぅ」 若葉 「あなたには関係ありません」 木葉 「そうですよ、黙っててください」 悠介 「お前らなぁ……」 彰利 「そうそう、ちょっと話があるんだよ若葉ちゃんに木葉ちゃん」 若葉 「わたしはありません」 木葉 「同じくありません」 彰利 「とても大事なことなんだ。すぐ済むから」 若葉 「………」 木葉 「………」 彰利がおいでおいでと手招きする。 若葉 「……ヘンなことしたら許しませんよ?」 木葉 「竹刀で百叩き地獄です」 彰利 「大丈夫だから、そう警戒しないで」 姉妹 『嫌です』 彰利 「うう……」 落ちこみながら、とりあえずは俺から離れて内緒話をする彰利。 …………むう。 なにを話しているのやら。 若葉 「……信用できません」 なんて言葉が聞こえた。 なんだ? 彰利 「信用してもしなくても、俺は今日…………から」 ……ぬおお、肝心なところが聞こえない。 木葉 「………」 木葉は何かを悩んでいるらしい。 若葉も悩んでいる。 彰利は相変わらずのほほんとしている。 若葉 「…………わかりました、そういうことなら」 彰利 「そっか、ありがと」 木葉 「言っておきますけど、馴れ馴れしくしたら怒りますよ」 彰利 「解ってる解ってる〜♪」 若葉 「返事は一回!」 彰利 「……はい」 彰利が落ちこみながら戻ってきた。 なんだったんだ一体。 若葉 「お待たせしましたおにいさま」 木葉 「さっそく、水穂を誘拐しましょう」 なにやら戻って来た途端、物騒なことを言う木葉。 彰利 「うーしゃあ行きますぞー!フェェエエイスフラッシュゥ!!」 ギシャアッ!! 彼の顔面が光り輝く。 その顔は正に煌いて、まともに見てはいられない。 別に醜いからとか、そんなんじゃないぞ。 いやしかし、それにしてもどんな原理で 彰利 「早よ行かんかいっ!」 バッ!と彰利がこちらを向く。 悠介 「ぐああっ!馬鹿!眩しいだろこっち向くな!!」 彰利 「キャア、アイアムノットマイマッチ」 悠介 「帰れ!」 彰利 「冗談だ」 悠介 「まあいいけど。じゃ、行くぞ!」 教室に駆け込み、水穂ちゃんを探す。 えーと……居たぁ! これよりアブダクションを開始する! 悠介 「うおお……お?」 突然、光が薄れた。 彰利 「ゴブゥァハァッ!」 と思ったら彰利が吐血する。 彰利 「く、口の中を切っただけだ!」 ゲェーーーッ!!どこまでお約束なヤツなんだ弦月彰利という男はーっ! 俺は人々の目が眩んでいる内に、廊下へ逃走を図った。 悠介 「馬鹿!お前馬鹿!」 彰利 「フフフ、戦いってのはなにも力だけじゃ」 ボゴシャア!! 彰利 「ゲブボッ!!」 キン肉マンスーパーフェニックスの真似をしようとしていた彰利の頬にナックル進呈。 悠介 「お前やっぱり帰れ!」 彰利 「うう……見事なトラースキックだったぜ……」 悠介 「殴っただけだが」 彰利 「まあまあ、それより今度は俺が行こう」 悠介 「お前が?」 彰利 「えーと、なんだったっけ?フラッシュグレネード……か。それを投げてくれ」 悠介 「いや……本気か?」 彰利 「なんか行きたくなって」 若葉 「失敗するに300円賭けます」 木葉 「失敗するに200円賭けます」 彰利 「ギャア!賭けにならねェーッ!ゆ、ゆゆ悠介!?     キ、キミは成功するに賭けてくれるよねぇ!?」 悠介 「いつから賭け事になったんだ」 彰利 「フフフ、この世はいつも博打ぞ」 悠介 「……フラッシュグレネードだけでいいんだな?」 彰利 「男に二言は無ェのよ!」 悠介 「……失敗するに3千円」 彰利 「ええっ!?はらたいらさんマネー!?」 悠介 「フラッシュグレネードが出ます」 イメージを弾けさせ、フラッシュグレネードを創造する。 それを彰利に渡して、少し離れた。 彰利 「よーし!弦月彰利!いきまーす!」 フラッシュグレネードを教室に投げ転がして、彼は走った。 彰利 「アァアアブダァアアクショォオオオオン!!」 愉快なまでに駆ける彰利。 何故かスキップだった。 ガカァアアアアアッ!! 彰利 「ギャアアーーーッ!!」 炸裂するフラッシュグレネード 注文通りのフラッシュグレネードのみでの挑戦に彰利は目が眩み、転びそうになった。 しかしその体勢を維持しようとして、てんてんとけつまずきながらドゴォ! 声  「ぐはっ!?」 と、若葉達の担任である笹本にSTOを喰らわせた。 笹本、撃沈。 彰利 「あぁあ〜〜〜……!!目が〜〜……目がぁあ〜〜〜っ……」 ムスカくん、キミは英雄だ。 じゃなくて! 悠介 「馬鹿っ!さっさと戻ってこいっ!」 彰利 「……はっ!ダーリンの声!?どこーっ!?何処なのグレート!」 誰がグレートだ。 まあいいや、あいつは後回しだ。 先に水穂ちゃんを 彰利 「ダァアアアアリィイイイイン!」 ガシィッ! 悠介 「なにぃ!?」 彰利 「ダーリンの香りがするわ!しよるわ!するとですよ!アタイを助けに来てく」 バチィッ! 彰利 「ギャアアア!!」 ドサッ。 軽く裁きを流して、彼を黙らせた。 それから水穂ちゃんの傍まで行き、小声で俺であることを教えた。 悠介 「ごめん、ちょっと失礼する」 水穂 「え?あ、あの……きゃぁっ!?」 水穂ちゃんを抱え、廊下へ一目散。 しようとしたのだが。 彰利 「に、にがさぬ……!我だけ置いて逃げようって魂胆だな……?」 馬鹿に足を掴まれた。 悠介 「月鳴の裁き」 バリィッ! 彰利 「キャーーーッ!!!」 ゴトッ。 彰利、完全に沈黙。 廊下に水穂ちゃんを届けたあとに彰利を引きずり出し、その場を離れた。 ───……。 悠介 「ふう、第一ミッション完了」 階段の躍り場で息をつく。 しかしまあ、なんていうか。 彰利が動かない。 悠介 「えーと」 若葉 「おにいさま、あれほどわたし達には殺すなと言っておきながら」 悠介 「いや、こんなことでくたばるようなヤツではないって」 木葉 「生きてるんですか?ピクリとも動きませんよ?」 悠介 「うう」 水穂 「あ、あの」 ようやく目が治ってきた水穂ちゃんが口を開く。 水穂 「電気ショックというのはどうでしょうか」 悠介 「心臓マッサージってこと?」 水穂 「はい」 ……でもな、一応心臓は…… 悠介 「うおっ!?心臓止まってる!」 若葉 「……お、おにいさまが人殺しを……!」 木葉 「お、お兄様が……」 悠介 「く、くそ!蘇れ彰利!     お前はこんなところで死ぬようなヤツじゃないだろ!」 レベル最大で、思いきり裁きをドグシャァアアアアアアアアン!!!!と放った。 彰利 「あぎゃらぁあああああああああああああああああっ!!     グオォブパペボゥラおぎゃあああああああああああ!!」 ドサッ。 悠介 「………」 若葉 「………」 木葉 「………」 水穂 「………」 生きてた。 だけどトドメを刺してしまった気がする。 彰利 「ぐはぁ……!ゆ、悠介よ……」 悠介 「生きてたのか」 彰利 「俺はもう長いこたぁ無ェのよ……。     というわけで、俺の夢を受け継いでくれ……」 悠介 「メイド喫茶以外なら」 彰利 「………」 悠介 「……図星?」 彰利 「…………ゲボッ!」 ガクリ。 死んだ。 あからさまに血を吐いて。 悠介 「よし、電気ショック作戦2だ」 彰利 「イヤアア!死ねる!」 悠介 「馬鹿なことやってないで次行くぞ」 彰利 「あ、ちなみに心臓はスタンドで止めて」 悠介 「訊いてない」 彰利 「うう……ほんとは脇に柔らかい球をギュっと」 悠介 「それは脈の止め方だ」 彰利 「………」 悠介 「………」 彰利 「……え?お、俺……本気で死んでた……?」 悠介 「知らん」 彰利 「うぅ……」 一息ついたあと、俺達は先輩の教室前へと足を運んだ。 彰利 「FUUUM、今度はどんな作戦で行こうか」 若葉 「ここはわたし達に任せてください。……木葉」 木葉 「はい、若葉姉さん」 若葉と木葉が目を瞑り、手を前にかざす。 悠介 「お、おい若葉?木葉……」 俺の発した声は無視された。(いや、多分聞こえてなかった) 少し傷つきながらもふたりの様子を見ていると、 ふたりの影が教室へと消えていった。 悠介 「?」 彰利 「………」 彰利はそれを当然のように眺めていたが、気になった俺は引き戸の隙間から中を覗いた。 ……あ、居た。先輩だ。 悠介 「……少し見づらいな……」 もうちょっとこう、引き戸が開けば……。 彰利 「ゆゆゆ悠介、俺にも見せろ」 悠介 「なにを興奮してるんだおのれは」 彰利 「の、覗きというキーワードが俺を熱くさせるんだ」 悠介 「お前、根っからの変態だな……」 彰利 「なにぃい、そりゃお前、俺に対する挑戦か?それとも告白か?」 悠介 「どっちでもない」 彰利 「そ、そげな!」 ……お?先輩が立ち上がった。 テキパキとした感じで……こっちに向かってくる!? なんか顔は困ってるけど。 いや、困ってるどころじゃない。 慌ててるというか驚いてるというか驚愕してるというか。 悠介 「こ、こっち来るぞ!?」 彰利 「ギャア!もしかしてバレた!?」 慌てて教室から見えない角度へ隠れ、やりすごそうとする。 と思っている内にドアは開けられ、先輩が屈んでいた俺達を見下ろす。 先輩はそのまま廊下に出て、ドアを閉めた。 な、なにが起きようとしているんだ? とか思ってたら、先輩がガクリと倒れそうになる。 悠介 「せ、先輩っ!?」 それを抱きとめようとした。 したら…… 彰利 「うおお!俺が受け止めてラブリィイイ!!」 それより先に彼が走っていた。 そしてまあ、お約束というかなんというか。 ヘッドロックをされた後、そのまま倒された。 いわゆるブルドッキングヘッドロックというやつだ。 ゴシャァ! 彰利 「グヘッ!」 筋肉メンばりに吐血して、彼は倒れた。 春菜 「……説明、してもらえるかな」 そう言いつつ、立ち上がる先輩。 とりあえずはまず、場所を変えた方がいいかもしれない。 …………。 ……。 階段の躍り場。 そこに我等は集まった。 春菜 「それじゃあ、さっきのが若葉ちゃんと木葉ちゃんの能力……?」 先輩が驚いていた。 ちなみに俺には訳解らん。 若葉 「影を通して物を操れる程度ですが。     意思の連結はあくまで双子の特性のようです。     わたし達の場合、一族の血の所為でその特性が濃くなっていますが」 春菜 「破壊の力じゃないんだ」 悠介 「誰かさんと違って」 ゴリィッ! 悠介 「いぎゃぁっ!」 春菜 「誰かサン、って誰かなぁ?」 悠介 「いやごめんなさい悪かったです謝るから足の指踏むのやめてくれっ!」 春菜 「あのね、悠介くん。     わたしだって好きでこの能力になったんじゃないんだから」 悠介 「その割にはぶっぱなしまくって」 ギロリ。 悠介 「……なんでもござんせん」 うう、先輩が怖いよぅ。 若葉 「ちなみに、影を通して何かを送ることもできるんです」 悠介 「………」 オチが読めた。 若葉 「さっきは苛立ちとか不安を送ってみましたが」 ……やっぱり……。 どうりで怖い筈だよ……。 彰利 「吸収することは?」 若葉 「出来ますよ、こんな風に」 ズズズ……。 影が、また動く。 そして彰利の影に溶け込んだと思ったら…… 彰利 「ウギャアーーーッ!!!」 彰利がしおれてゆく。 若葉 「この通り、若ささえも奪えるのです」 そう言う若葉はホントのホントに子供になっていた。 ちなみに彰利は爺さんに。 彰利 「……なにもかもがみな、懐かしい……」 ほろりと涙を流す彼は、それはもう究極なまでに老人だった。 春菜 「あ、あ、いいなぁ、その能力。わたしもそれが良かったなぁ」 彰利 「ほっほっほ、小娘が甘い夢を見るものじゃあございませんよ」 春菜 「わっ、わたし小娘じゃないもん!!     大体どうして当たり前のようにあなたがここに居るの!?」 彰利 「ほっほっほ、まあそうカッカするもんじゃないよ……。     これだから近頃の若いモンは……なっちょらん」 春菜 「……なんだかすごくムカツクんだけど」 悠介 「老人になったところでこいつは変わらないってことだろ」 春菜 「あ……なんだか頭痛くなってきたよ……」 彰利 「頭痛にバファリン」 春菜 「いらないよっ!」 彰利 「なんじゃとテメコラこの野郎!バファリンのやさしさを無下に扱うとは!」 春菜 「あなたから貰うものなんて無いって言ってるのっ!!     もう話し掛けないでよね!!」 彰利 「…………なにもかもがみな、懐かしい……」 先輩にキッパリと否定された彰利は、どこか以前を懐かしむように遠くを見つめた。 老人になってるってだけで、随分とまあ雰囲気が出てる。 木葉 「送る力はわたし、受け取る力は姉さん。     そういう風に分けられています。確かに中々便利ですよ。     もっとも、やろうと思えば送受信の役割交代も出来ますが」 悠介 「……ん?ちょっと待て。     もしかして、時々彰利が憎くなる時があったんだが、まさかそれも」 木葉 「ね、姉さん、見てください。北斗七星が輝いています」 若葉 「まあ綺麗」 ごすごすっ! 木葉 「はうっ!」 若葉 「あうっ!」 悠介 「お前らなぁ……」 なんて言っている時。 彰利が先輩と何かを話していることに気付く。 悠介 「珍しいな……なにを話してると思う?」 若葉と木葉に訊いてみる。 若葉 「……ああ、多分」 悠介 「解るのか?」 木葉 「まあ、今日は無礼講ってことです」 悠介 「? 訳解らんが」 若葉 「それでいいんですよ」 木葉 「……お兄様」 悠介 「うん?」 改まった口調で話し掛ける木葉に向き直る。 そして木葉は真っ直ぐに俺を見て、言った。 木葉 「今日だけです。今日だけ……あの男と一緒に行動してあげます」 悠介 「……え?」 ますます訳が解らなかった。 あれだけ嫌っていたのに、どうして? 若葉 「せっかくのお祭日和ですから。今日くらいは忘れてあげます」 悠介 「忘れる?なにを」 木葉 「それは……今日、あの男から聞くんでしょう?」 悠介 「………」 過去関連か……。 なにもかも、今日で解るんだな……。 春菜 「……うー」 話が終わったのか、先輩がこちらにやってくる。 春菜 「えーと、悠介くん」 悠介 「どうした?先輩」 春菜 「…………うー」 なんなんだ? 春菜 「今日だけ、だから」 悠介 「……先輩も?」 春菜 「……今日だけ、ホモも一緒に居ることを許可してあげる」 彰利 「どうあっても、更待先輩殿の俺に対する人称はホモですか?」 春菜 「呼ばれるだけマシなの。あなたの場合」 彰利 「こ、この小娘が……」 春菜 「むっ!年上に小娘なんて言ったらダメでしょ!」 彰利 「このババア!!」 べちぃーーーん!! 彰利 「ほげぇええーーーっ!!!」 春菜 「それはもっとダメ!!」 彰利 「ゲブッ……ゲブッ……!     あ、あれもダメこれもダメ……これだから近頃の若いモンは……」 ビンタされて落ちこむ彰利。 彰利 「うう……急に動機が激しく……ッ!」 悠介 「彰利?」 彰利 「わ、わしが死ねる……!」 そういえばこいつ、じいさんのままだった! 悠介 「わ、若葉ーっ!一刻も早く若さを返してくれっ!」 若葉 「ああ、そういえばそのままでした」 彰利がゴシャアと膝から倒れる。 そしてカタカタと震える。 いよいよもって彼が死ねる。 そんな感じがした。 若葉 「では、木葉ちゃん。連結魂から若さを返してあげなさい」 木葉 「はい、姉さん」 木葉が手をかざし、目を閉じる。 ……しばらく訪れる沈黙。 ハッと気付くと、彰利の体がメキメキと若返ってゆくのが解った。 ハタから見ると恐ろしい。 彰利 「は、はぁあ……!!我が青春が蘇る……!」 なんか遠くを見て泣いてる。 返却(?)が済んだのか、木葉が大きく息をつく。 悠介 「あ、彰利?大丈夫か?」 少し不安を覚え、俺は声をかけてみた。 彰利 「うん?おお、悠介くんか。相変わらずラブリーな体躯をしている」 悠介 「うおっ!?」 彰利は中年……というか、ダンディーな人になっていた。 どこから出したのかまったく解らない葉巻にワイン。 そしていつの間に着替えたのか解らないガウン。 まさにダンディズム。 彰利 「ところで……今晩泊まっていかんかね?」 悠介 「お断りします」 彰利 「なにぃ!?私の何処が!どこが嫌だというのかね!?」 悠介 「その髭がいやだ!その葉巻が嫌だ!そのガウンが嫌だ!     そのとてつもなく穏やかな瞳が嫌だ!     そのさりげなく手に持ってるワインが嫌だ!その全てが嫌だ!!」 彰利 「…………!!」 うおう、落ちこんでる。 悠介 「こ、木葉っ!どうなってるんだ!」 木葉 「いえ、大人になったらマシになるかと思ったんですが」 若葉 「無駄でしたね」 悠介 「どうでもよくないから直してくれ……」 木葉 「わかりました。では……」 木葉の影が彰利の影に入る。 そして、今度こそ彰利が元に戻る。 ……と思っていた。 彰利 「……ぬおお、やはりこの体躯じゃなければ落ちつかない」 悠介 「いや……誰?」 彰利 「え?やだなぁ、俺だよ俺」 悠介 「誰?」 彰利 「……………………………………鏡、あるかな」 悠介 「残念だけど無いんだ」 彰利 「………」 今、目の前に猿人が居る。 何故か筋肉ゴリモリで。 ゴリラじゃない。 あくまで猿だ。 その分、不気味だ。 彰利 「……なんか毛深い、よね?」 悠介 「気の所為じゃないのか?」 彰利 「えーとさ、木葉ちゃん?……元に戻してくれないかな」 木葉 「我が儘ですね」 彰利 「悪は俺ですか?」 木葉 「ええ」 彰利 「そ、即答ですか……」 木葉 「では……」 木葉が(略) 彰利 「どうだ!?今度は毛深くないだろ!?」 悠介 「……うん、そうだな、元通りだ」 彰利 「よし、じゃあ作戦を開始しよう」 悠介 「ルナとセレスは?」 彰利 「そういや時間かかりすぎだな、あのふたりにしちゃあ」 悠介 「ふむ……」 なんの気なしに、窓から空を覗く。 その空は今も綺麗に輝いていた。 それはつまり…… 悠介 「セレス、来れないかもしれないな」 溜め息を吐きつつ、思いっきりそう思った。 セレス「来ましたけど」 悠介 「うおっ!?」 ルナ 「やー、お待たせお待たせー」 悠介 「セレス……大丈夫なのか?」 セレス「日焼け防止、UVカット仕様です」 悠介 「………それってほんとに効くの?」 セレス「気休め程度ですけどね。ああ、日傘もセットです」 そりゃ良かった。 彰利 「それじゃあルールを説明する」 悠介 「何をする気だ」 彰利 「歌合戦」 悠介 「よしよし、殴っていいわけだな?」 彰利 「ええ!?なんで!?じょ、冗談だって!」 悠介 「いいから真面目にやってくれ……」 彰利 「なにぃ、俺はいつでも真面目に」 こいつは変が常識的だからなぁ……。 彰利 「な、なんぞね、その変なものを見る目は」 悠介 「お前の言葉通りだ」 彰利 「……俺をそんなに泣かせたいの?」 悠介 「不気味だろうからいい」 彰利 「ひでぇ……」 春菜 「それで、麻野さんは?」 彰利 「ああ、もう来てると思うけど」 若葉 「どこにですか?」 彰利 「えーと、多分外で店の骨組み立ててるんじゃないかな」 木葉 「店って……結局なにをするつもりなんですか?」 彰利 「なにってメイド」 悠介 「月鳴の」 彰利 「ままま待てーーーっ!!話せばワカメ!じゃなくて解る!」 春菜 「月醒の」 彰利 「先輩殿まで!?死ねるって!落ちついて!」 木葉 「姉さん、メイド好きを吸いとってしまいましょう」 若葉 「それはいいかもしれません」 彰利 「ええっ!?本気で待った!それだけはやめれ!」 ジリジリと逃げる彰利を捕らえ、吸引を開始する。 彰利 「ギャヤヤーッ!!やめろやめろやめてやぁあああっ!!     ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」 きゅぽん。 そんな音が合うかのように、若葉が彰利の『メイド好き』を奪った。 彰利 「………」 若葉 「………」 お互い、沈黙。 しばらく無言無行動が続いたが、彰利が語り始めた。 彰利 「……私はこんなところでなにをしているのだ?     ホームルームは既に始まっているというのに」 語り始めた彼はなにやら優等生っぽかった。 悠介 「あ、彰利?」 彰利 「うん?ああ、悠介くんか。     キミもそろそろ教室に戻らないといけないんじゃないのか?」 悠介 「………」 そうか……。 彰利から願望を取り除くと真人間になるのか。 若葉 「キャアア!メイドがわたしを呼んでいる!     みんなっ!早速準備をしましょう!わたし達の手で楽園を!」 ……若葉は若葉で豹変しちゃってるし……。 木葉 「あ……あうぅう……んん……!!」 悠介 「こ、木葉?」 木葉 「お兄様……っ!姉さんの中の『メイド好き』が、     わたしの中にも流れてきて……!」 悠介 「なにっ!?」 そりゃヤバイ! ふたりともコワレたら『メイド好き』を元に戻せないじゃないか! 悠介 「木葉っ!急いで返しなさい!」 木葉 「は、はい……!!」 苦しそうに、手をかざす木葉。 影が動き、彰利の中へと消え、やがて戻ってくる。 木葉 「はっ……!はぁ……っ!はぁ……!!」 どうやら成功したらしい。 はぁ……なによりだ。 冗談抜きでなによりだ……。 冷や汗程度じゃ済まなかったよ……まったく……。 若葉 「………………わ、わた……わたしは……」 若葉は若葉で、自分の行動に究極なまでの後悔をしているようだし。 彰利 「フフフ、我以外にこの力、操れるものか」 悠介 「威張るな、そんなもん」 彰利 「そう言うなって。じゃ、とりあえず表に出ようか。     文化祭が完全に始まるまでが勝負ぞ」 そう言って彰利はスキップで階段を降りて、足を踏み外して脇腹を打って唸っていた。 いろんな意味で、ただでは転ばぬヤツよ。 Next Menu back