───月光(げっこう)───
ルナ 「ベニー、ベニー起きろー」 水穂 「うう……んぅ?」 ルナ 「やは」 水穂 「みぎゃああああああっ!!」 ルナ 「なによぅ、そんな怯えることないじゃない」 水穂 「あ、う、う、後ろ……」 ルナ 「え?───しまっ……」 ゼノ 「グゥォオオオオッ!!」 彰利 「前方回転ミサイルキィイイーーーック!!!!!」 ドゴォッ!! ゼノ 「グゥウッ!?」 彰利の妙な蹴りがゼノを吹き飛ばした。 彰利はその場に着地すると、鼻を軽く弾くようにして言い放つ。 彰利 「フフフ、水穂ちゃんを手篭めにしたかったら……俺の屍を超えていけ!!」 ……よし無視だ。 悠介 「ルナ!大丈夫かっ!?」 さて、俺と彰利は面倒ってこともあって、 家を破壊しながら居間にやってきたわけだが……向かう部屋は適当だったが、ビンゴだ。 彰利 「くらえ!月聖力の印!技の弐、標的固定式モード・死神!」 彰利はなにかを唱えて、足場へ向かって何かを払うように手を振った。 それとともに、滑るように畳が光を帯びてゆく。 で、ゼノに光が届いた途端。 ゼノ 「ガハッ……!グゥァアアッ!!」 光がゼノを包むように、その体を駆け上ってゆく。 ルナ 「きゃああああああっ!!」 ……おまけにルナも叫んだ。 彰利 「あれ?」 彰利が間の抜けた声を上げた。 彰利 「ああしまった〜ん、     死神に固定したんだからルナっちもダメージ食って当然じゃないの〜ん」 悠介 「お前、わざとだろっ!」 彰利 「なにを言うのかね失礼な!     俺の家宝に手を出そうっていう輩に裁きを下そうなんて、     そげなこと考えとりゃせんわ!」 悠介 「しっかり考えてるじゃねぇかっ!」 ドムッ! 彰利 「ペポアールッ!」 彰利の腹部……ていうか丹田に、俺の拳が埋まった。 彰利 「むごぉぁああああ……」 彰利がゆっくりと体を折って崩れてゆく。 それとともに、光が消え失せてゆく。 ゼノ 「!」 悠介 「月醒の矢ぁっ!」 ドガァンッ! ゼノ 「ぐぅっ!」 光の消滅とともに動き出そうとしたゼノに月醒の矢を放つ。 怯んだ隙を見て、俺はルナに言葉を放った。 悠介 「ルナ、今だ!早く行け!」 彰利 「なにぃ!?させるかぁっ!」 ドムッ! 彰利 「ギャウッ!」 悠介 「お前が邪魔してどうするっ!」 彰利 「お、俺の宝!宝ぁああああああっ!!」 咆哮する彰利。 その目は涙で輝いていた。 彰利 「盗んだらその命、無いものと唱えろぉおぉぉぉっ!!」 遠ざかって行くルナに向かい、叫ぶ。 彰利 「許さんぞ!許さんぞぉおおおおおおっ!?     盗んだら絶対許さないからなぁああああああああっ!!」 見えなくなってもさけぶ彰利。 彰利 「絶対絶対許さないからなぁああああああああああっ!!」 尚も叫ぶ彰利。 悠介 「しつこい」 彰利 「だってYO!俺の宝が心配でSir(サー)
!!     思わず夜をも眠れないのSir(指揮官)!YES・Sir(指揮官)!!」 悠介 「落ち着け!」 彰利 「だってYO!」 悠介 「彰利っ!」 彰利 「なんじゃいっ!」 悠介 「回れ右」 彰利 「え?───ぎゃああっ!!!」 見ればそこには腕を振り上げたゼノさん。 ゼノ 「フゥッ!」 ドゴォンッ! 畳が割れ、その底の瓦礫が舞う。 彰利 「あ、あぶっ、あぶぅっ!!」 なんとか避けた彼の目が『危なかった』と語っている。 彰利 「まったくっ!片腕だけでよくもまあ頑張るよ!」 体勢を立て直し、手を輝かせる彰利。 彰利 「必切!シャイニングブレェエエエエドッ!!」 その光を剣の形に変え、それを振った。 ヒィンッ!という綺麗な音が鳴り、ゼノの腕が飛ぶ。 彰利 「───クォックォックォッ、これで腕は使い物にならな───いぃっ!?」 彰利が喋っている内に、切れた腕はモゴモゴと再生されていった。 彰利 「んなぁっ!」 これには俺も驚いた。 なんたること!こんな所に同士が居るなんてッ! ピ、ピッ●ロさーん!! ……とかなんとかやってる場合じゃない。 彰利&悠介『ウッヒョォオオオッ!!!!』 ゼノが、幾つもの黒い光をマントから発射してきたのだ。 俺と彰利はそれはもう一目散に逃げ出した。 丁度家から飛び出たあたりで、家から黒い光が散乱し、家が崩壊する。 悠介 「ぬおお、結局壊れるんかい……」 俺は涙が出そうになるのを堪えた。 彰利 「悠介っ!」 悠介 「なんじゃいっ!」 彰利 「一か八か、やってみるか?」 悠介 「なにを」 彰利 「俺の持ってる月操力と、悠介の月操力と創造の理力。     その全てをあのお馬鹿さんにぶつける!」 悠介 「本気かっ!?さっきの四つだけで神社と石段ふっとんだんだぞ!?」 彰利 「生き残るためならなんだってやってやるさっ!     悠介!どうなんだ!?出来るか!?」 悠介 「───……!!」 覚悟、決めたよな……俺! 悠介 「彰利!」 彰利 「なんじゃいっ!」 俺は創造したエリクサーを投げ渡した。 もちろん自分の分も創造してある。 彰利 「おわっと、ゆ、悠介?」 悠介 「俺と手を合わせろ!」 彰利 「え?あ、いきなりそんな、お、俺達まだ」 悠介 「勘違いすんな馬鹿!いいか?     俺の創造の理力を目一杯開放するからお前もイメージしろ!     あいつを消すことだけをイメージしろ!いいか!?」 彰利 「…………ああっ!」 俺と彰利は正面から手を握り合い、弓を引くような姿勢を取る。 悠介 「───いくぞ!」 彰利 「任せろ!」 一気に、イメージする力を解放する。 彰利も力を解放する。 かつて、この神社で見たようなバケモノを解放するように。 悠介 「…………くぅっ……!」 頭がビキィッ!と音を鳴らした。 その痛みは凄まじい。 吐きたくなるような、そんな痛みだった。 でも。 彰利 「悠介……!」 悠介 「彰利……!」 俺と彰利は笑っていた。 彰利 「生き残ろうぜ……なぁ!」 悠介 「ああ……!死んでたまるかよぉっ!!」 ───昔。 康彦さんが言っていた言葉を思い出す。 魔力を解放するおまじない。 ただ、危険だから人の居るところじゃ絶対言っちゃいけないと。 でもさ……相手は人間じゃない。 だったら……!! 悠介   「解放せよ汝……っ!」 彰利   「!お前、それ……」 悠介   「へへっ……どうせ、全力で行くんならさ……!」 彰利   「……そうだなっ!解放せよ汝!」 悠介   「たとえ、その全てを否定することになっても……!」 彰利   「たとえ、その目に写る愛しき者を否定するとしても……!」 悠介&彰利『我は、その全てをも否定する───』 俺と彰利は、口を揃えて言い放った。 悠介 「がっ───!?」 彰利 「ぐぅぁっ───!!」 体が……いや!その奥が……心の中の闇……魔が暴れ出している! 悠介 「………………か……はぁっ……!!」 彰利 「くぅあああっ……!!ぐ……へ……へへっ……!!」 悠介 「ふ……くっく……ああはははは……!!」 それでも、俺達は笑った。 彰利 「悠介……!」 悠介 「彰利……!」 苦しいけど、力が溢れてくる。 今まで感じたことも無い、力の溢れる感触。 それがたまらなく頼もしい。 悠介 「いくぞ、彰利……!」 彰利 「任せろ……!」 イメージを膨らませる。 ゼノの存在を否定するイメージ。 そして、彰利のイメージとその魔力をも『否定する力』にするイメージ。 悠介 「イメージ、詰めたか……ッ!?」 ギシギシと歪み始めた世界の中、彰利に話し掛ける。 彰利 「おお……大丈夫だ……!そろそろ、いくか……?」 悠介 「……おうっ!」 俺と彰利は、崩壊した家に向かって構えた手を振りかざし、 そして再び家に向かって構えた。 悠介&彰利『我らは否定する!我らの前に立ちふさがりしその存在を!』 言って、俺と彰利は持ち得る全てを解放した。 途端。 視界は割れ、景色すらも否定する力が景色を滅しながら俺達から遠ざかり、爆発した。 俺と彰利はその場から離れようとしたのだが、 力を使い果たした所為で体も満足に動かせなかった。 しかも俺は創造理力による体力消耗で、意識が遠くなるのを感じた。 悠介 (……っ……エリクサーを……!) 俺は懐に仕舞っておいたエリクサーを取り出し、それを飲んだ。 エリクサーが体に染み渡ると視界も回復し、その視界で彰利を見た時。 彰利はエリクサーを飲み終えたところだった。 ……それだけなら良かった。 でも彰利は、迫り来る余波を見た途端、俺の前に立ち─── 悠介 「馬鹿っ!やめ───」 俺は叫んだ。 けれども、その轟音が俺の声を掻き消した。 やがて光に飲まれる前に、俺は目を瞑った。 …………自分がどうなったか。 それはよく解らなかった。 だけど、考えられるってことは生きている。 それだけを確認してから、俺は目を開けた。 悠介 「……ぐっ……つぅ……!?」 痛む体を押さえ庇いながら、辺りを見渡した。 そして……。 悠介 「あっ───彰利っ!」 俺の近くの瓦礫に倒れていた彰利を見つけた。 急いでその場に走り、その生死を調べた。 悠介 「───!」 良かった……生きてる……! でもその息はとても弱々しかった。 悠介 「エリクサーが出ます!」 すぐさまにエリクサーを創造し、彰利に…… 声  「……死ね……っ!」 悠介 「っ!?」 すぐ後ろから、声がした。 振り向いた時には既に、ゼノが手を振り下ろしていた。 死ぬ。 そう、思った。 それなのに。 彰利 「ぐぅっ!」 悠介 「え───」 彰利が俺を突き飛ばし、そのまま───死んだ。 悠介 「…………え?」 ゼノの腕が、彰利の体を貫いていた。 一瞬で絶命したのか、彰利の顔は俺を突き飛ばした時のままで…… ゼノ 「こ……ろ……す……!!コロス……!     ワレハ……狩ル者……!サバく……モの……!!」 半身を無くしたゼノが、俺を見て言った。 そして、その腕に付いた邪魔な者を、俺に向かって投げた。 ドシャッ。 血が、跳ねた。 言葉を失う。 思考は動いている。 無意味な問答だけが流れている。 わけがわからない。 なんだ、これは。 どうしてこうなった? どうして……あいつは生きている? どうして…… 悠介 「彰利……?」 彰利を揺すってみた。 でも。 彰利は、微動だにしなかった。 あれだけ騒がしかった彰利が、ピクリとも動かない。 ……馬鹿げてる。 あの彰利が死ぬって? ははっ、馬鹿な。 殺したって死ぬヤツじゃないだろ……? なぁ……。 なにやってんだよ彰利……。 また笑えよ……。 死に真似なら任せろ、とか言ってみろよ……。 なぁ……!! 悠介 「彰利ぃいっ!!」 叫んだ。 その途端。 俺の記憶が弾けた。 押さない頃の、あの神社での記憶が。 それは神社での出来事だった。 俺はぐったりと横たわる友達を見ていた。 俺が殺されると思っていたのに。 友達……彰利は、自分の体を貫いて、その場で動かなくなった。 その顔は俺に見せた笑顔のままで、動かなかった。 悠介 「彰利……?」 俺はこの時も、同じように呟いていた。 何が起きたのか解らず、 だけどそれがじわじわと理解の形になってゆくと……泣かずにはいられなかった。 叫んで。 揺すって。 息が苦しくて。 同じことしか言えなくて。 彰利の血が、俺の体を濡らしていて。 俺が動くたびに血が嫌な音を出して。 それでも彰利は動かなくて。 俺は……泣いた。 …………それから、どのくらいの時間が経っただろうか。 俺は彰利が生きかえるように何度も念じたり、神頼みしたりして。 その姿が無様でも、自分が間抜けだなんて思わなかった。 そして、生きかえることと、ハトを出す時のイメージを爆発させた時。 俺の意識はブツリと切れた。 ……………………。 目が醒めた時、そこは病院だった。 傍らには泣き顔の若葉と木葉が居て、俺は状況を飲めずにいた。 ……退院してから俺が向かったのは、彰利の家だった。 でもそこには誰も居なくて、嫌な予感ばかりが俺を襲った。 それからいろいろな思い当たる場所を探しても───彰利は居なかった。 絶望しながら神社にあがった時。 ……そこに、彰利は居た。 俺に気づいて、振り向いた彰利。 ただ気軽に、あいつは『よっ』と手を軽く上げた。 そこに居るのは確かに彰利だったのに、何故か印象が違うと思った。 それでも……彰利は生きていた。 奇跡的に成功した、望月の印の力で。 ───。 ………… …… 悠介 「……!」 そうだ。 あれから成長した俺なら出来るかもしれない。 悠介 「ルナ……力を貸してくれ……!」 イメージを膨らませた。 魂を振り絞るように念じる。 力の解放。 自分の中にある魔力の全て。 体力を望月の力に変換するイメージを……爆発させた! 悠介 「彰利ぃっ!!」 いつの間にか光っていた俺の手を彰利の傷口に当て、思いっきり解放させた。 悠介 「ぐっ……ぐぅううううっ!!」 自分の中のいろんなものが流れてゆく。 体の至る所に存在した生命が消えてゆく感触。 悠介 (こんなことは……ははっ、どう足掻いたってこんな時にしか味わえないな……) やがて、俺の意識はあの時のように途切れた。 この感触。 あの時と……同じだな……。 消えてゆく意識の中、絶対に彰利は大丈夫って確信が持てた。 ………… ……友達のために……馬鹿になれる…………。 悪い気分じゃ……ない……かな………………。 最後に、自分の体が瓦礫に倒れる音を聞いて、俺の意識は完全に途絶えた。 ………………。 …………。 ……。 ……気づけば、自分は血まみれになって倒れていた。 だけど体に痛みは無くて、自分が生きていることを実感した。 何故?と自問をする。 だが、その理由はすぐ傍で倒れていた友達を見つことで理解に繋がった。 彰利 「悠介っ!」 ぐったりと動かない悠介を揺する。 しかし反応がない。 心の中に不安がよぎる───が、呼吸をしているのに気づくと、ひとまずは安心した。 彰利 (よかった……生きている) ───それを確信した時だった。 ゼノ 「コ……ロ……ス…………ワレハ……死……神……。     貴様ラ……人間ナゾ……ワレラノ糧に……スギヌ!!」 ゼノが体を再生させて突っ込んできた。 彰利 (どこにそんな力が!) そう思った時。 周囲の瓦礫を見て解った。 ───この騒ぎで死んだ、何匹にも渉る虫やなにかの魂! ゼノ 「ルゥォオオオオオオッ!!」 彰利 「くぅっ!」 ゼノの突進を避け、体勢を整える。 彰利 「唸れ月醒力!アンリミテッド───ッ!?」 ドクンッ……! 彰利 「ぐ……はっ……!?」 体が軋む。 月操力を発動させるための何かが、圧倒的に足りない。 彰利 「マズったな……!魔力解放の時の後遺症か……!     全開した魔力が使えなくなってる……!」 攻撃系、ひとつくらい残しときゃよかった……! ゼノ 「グオオオッ!!」 彰利 「くっ……!しつっ……こいんだよォッ!」 ガンッ! 足に微量の魔力を込めて、ゼノを蹴った。 ゼノ 「はぁっ……!」 彰利 「くっ!?」 くはっ───効いてねぇっ……!! バシッ! 彰利 「くあっ!?」 ゼノ 「はぁあああっ!!!」 やべ……蹴りこんだ足が掴まれた! 彰利 「───っ!」 ドガァッ! 彰利 「ッ───がはっ……!」 掴まれた足ごと振り回され、地面に叩きつけられた。 くっは……!響く……!! ゼノ 「まだだ……!まだ貴様は殺さん……!     くふふはははは……!楽しいなぁ……!魂を狩るのは……!!」 彰利 「ぐ……ふっ……!」 背中がギシギシと悲鳴をあげた。 骨が軋む。 瓦礫の幾つかが刺さったみたいだな……っ。 ゼノ 「ククク……どうした……?最初の勢いは……!」 彰利 「……この……クソ野郎……」 ゼノ 「フハハハハハハッ!」 ドカッ! 彰利 「がっ!」 ドカァッ! 彰利 「っ───ぁあああっ!!」 ゼノが俺の足を掴みながら瓦礫に叩きつけまくる。 体のあちこちが悲鳴をあげてやがる……骨がいったか……!? 彰利 「弱っても死神……ってか……?はははは……」 まだこんな力が残ってるなんて……。 まいったなぁ……はは……。 ゼノ 「ふっ……ふぅっ……ふははは……!     そろそろ辛かろう?今殺してやるから待っていろ……!」 彰利 「………」 ゼノ 「安心しろ、そこのゴミも、すぐに殺してやる。     貴様が寂しくないようになぁ……くはははははっ!」 彰利 「───……!」 …………。 彰利 「……なぁ」 ゼノ 「なんだ?命乞いか?」 彰利 「いいや、遺言と質問さ。あんた……死神なんだよなぁ?」 ゼノ 「そうだ。貴様とは種族として格が違う、絶対の存在だ!」 彰利 「くっ……はははは……あはははははははっ!」 ゼノ 「っ!?なにがおかしいっ!」 彰利 「だったら、狩られるのはやっぱお前だ!!」 力を解放。 魔力解放の時に使わなかった力を。 ゼノ 「なっ!?なにをした貴様っ!」 彰利 「へ……へへへ……!死神は感情を持っちゃいけないんだろ……!?     だから……裁きを受けるのは……!!」 ゼノ 「そんなことは訊いていない!何をしたっ!」 彰利 「怖いか?……く……ははは……怖いよな……死ぬのは……!」 ゼノ 「なっ……!我は絶対の存在だ……!そのような感情なぞ……!」 彰利 「俺は怖いさ……。いつだって怖かった……。     今度こそって……思ったのになぁ……」 俺とゼノの周りを、幾つもの虹色の光が包んだ。 彰利 「……死ぬのは……怖いな……」 ……ごめんな悠介。 また……駄目だった。 彰利 「……いいこと教えてやるよ……!」 でもさ。 今度こそ……上手くやるから……。 彰利 「俺は、悠介のためならなんでも出来るのさ……!」 だから今は……さよならを。 ゼノ 「き、貴様!何を考えて───」 死神が叫んだ。 でも、その言葉が最後まで繋がれることなく、俺とゼノの姿はこの時代から消え失せた。 ───……。 ゼノ 「貴様───!人間の分際で……!」 彰利 「……どうだい……月の上に立つ気分は……」 俺とゼノは月の上に立っていた。 酸素がなくなる前にケリをつけなきゃ……。 ゼノ 「時空移動だと!?そんな力が!」 彰利 「………」 あるんだよ……。 十三夜……確認されてない印が……さ。 使えば使用者は時空から消えて、別の次元に辿り着く……。 確認出来るわけ……ないんだよ……。 ゼノ 「貴様ぁああっ!」 ゼノが叫ぶ。 でももう遅い。 俺はもうここから地球に帰ることなんて出来やしない……。 だから、お前を殺さなきゃならないんだ……どんなことをしてでも。 ゼノ 「……フッ……フハハハハ……ッ!     ここから戻れないとでも思っているのか?」 彰利 「………」 思っちゃいない。 お前は毎回、そう言ってたんだから。 彰利 (月然力……微かでいいから、酸素を作り出してくれ……) 命を振り絞るように、唱えた。 彰利 「───」 これで、少しはもつ、かな……。 ゼノ 「我は形として自然の力に影響を受けない存在だ。     大気圏の熱も、酸素も問題無い。     ここで死ぬのは───お前だけだ!」 ボグッ! 彰利 「……ッ!!」 腹に鋭い痛みが走る。 思わず蹲ってしまうが、 それでもゼノを見据えたままの俺は……ただただ覚悟を決めていた。 そう───死ぬための覚悟を。 ゼノ 「ふはは……っ!せいぜいそこで酸欠の死を待っているがいい!」 ゼノが身を翻す。 だが、俺はそれを待っていた。 彰利 「……!」 俺はその体に飛びついた。 羽交い絞めをして、残りカスみたいな月聖力でゼノの動きを固定する。 ゼノ 「ぬぅっ!?」 彰利 「へ……へへへ……冷たいこと言うなよ……!     お前だけ逃げられると思ってんのか……?」 ゼノ 「ぐっ……!離せ!この死に損ないが!」 彰利 「解って……ねぇ……なぁ……。     死に損ない……だからこそ……     決められる覚悟ってのが……あるんだぜ……?」 ゼノ 「くっ……!」 景色が霞んできた。 目が見えなくなる。 もう……ヤバイかな。 ゼノ 「貴様はここで大人しく死んでいればいいのだ!ゴミが粋がるな!!」 ……ふん。 彰利 「……はっきり……言ってやろうか……っ!?     お前はここで死ぬんだよ!この俺と一緒にな!」 自分の中の全ての月操力。 それを一気に爆発させる。 魔力の衰えを自分の生命力で補い、その力を光に変えて─── ゼノ 「やっ───やめろぉおおおおおおおおおおっ!!!!」 死神が、恐怖の悲鳴を上げた。 死神には死がない。 待っているのは───無。 存在なんて、消えるんだ。 最初から無かったように。 そして俺も。 いつか見た輝く月のように……あの光のように───消えるんだ。 彰利 「ははっ……だから決まりきったものなんて……運命なんて嫌なんだ……」 ……視界が完全に暗くなった頃。 最後に綺麗な光が煌いた。 それはいつか見た月の輝きと同じ───儚い、一瞬の輝きだった。 ───月が輝いていた。 そんな景色を、ふたりの少年が眺めていた。 それはいつのことだっただろうか。 繰り返してゆく歴史の理を破って、俺は過去に戻って。 そして、この世から消えた。 そんな景色を眺めていたのもまた、自分だった。 …………ははっ……皮肉、だなぁ。 こんなこと、何回続くのかなぁ。 でも……。 今度は、上手くやるから……。 また会えたら、また……『よっ』て言うから……。 …………。 だからまた……俺を友達って言ってくれよな……。 だから……その時が来るまで───。 「さよなら、悠介───」 ───やがて、全ての音が消え、俺の意識は……完全に途絶えた───。 Next Menu back