───別離(わかれ)───
…………目が、醒めた。 目の先にあるのは見覚えのある無機質な天井。 ……あの時と同じ、天井だ。 若葉 「おにいさまっ!」 声が、聞こえた。 まだ重い瞼でその声の主を探した。 相手が誰なのかも解らなかった。 少し考えれば解った筈なのに。 …………わか……ば? ルナ 「悠介っ!?悠介悠介悠介いう」 ボカッ! ルナ 「いたぁっ!」 セレス「病室で何を騒ぎやがりますかあなたはっ!」 ルナ 「ったいわねぇっ!殴ることないでしょっ!?」 …………俺……生きてる……? 木葉 「お兄様、大丈夫ですか?」 木葉……。 春菜 「ふぅっ……これで一安心、かな」 先輩……。 水穂 「先輩、大丈夫なんですか?返事してくださいぃい……」 水穂ちゃん……。 悠介 「………」 頭が痛む。 …………少し、静かにしてもらえないだろうか。 悠介 「……!」 そうだ……そうだ! 彰利は!? 悠介 「あ……う……」 ……なんだ? 声が上手く出ない。 喉の奥に何かが詰まっているかのように。 悠介 「……ッ!ガハッ!グッ!カハッ!」 俺はそのまま咳き込んだ。 まいったな……。 なにからなにまであの時と同じだ。 まぁ……あの時は若葉と木葉しか居なかったけど。 …………だめ、だな。 なんか……眠い……。 悠介 「………」 俺の意識はゆっくりと薄れていった。 …………。 ……。 …………また、目を覚ました。 そしてそこはまた、無機質な天井。 悠介 「……ぐ……」 だけど体が麻痺してるような感覚があるのは相変わらずだった。 ルナ 「……悠介?」 ルナが、俺の顔を覗いた。 ……よう、ルナ。 ルナ 「はお、悠介」 魂結糸から思考を読み取ったのか、ルナが元気に返してくる。 ルナ 「悠介、喋れないの?」 ……ん……まあ、そんなところだ。 ルナ 「そうなんだ」 ああ、体も満足に動かん。 ルナ 「ふむぅ……じゃあ、あれだね。     動かせるようにわたしが力送ったげる」 え?あ、ああ、魂結糸か? ルナ 「そゆこと」 ルナが俺の額に自分の額をつけると、目を閉じた。 その後、暫くして俺の中に活力の波動が流れ込んでくる。 悠介 「………」 それからまた暫くして、ルナが額を離す。 ルナ 「……どうかな」 悠介 「ん……ああ、動く」 声もちゃんと出た。 悠介 「ん〜……解放感……っ!生きてるって感じがするよ〜っ!」 ぐぅっ!と思いっきり伸びをした。 一度の伸びじゃ満足できないように、何度も伸びた。 悠介 「……くはぁっ。……ところで、俺ってどのくらい寝てたんだ?」 ルナ 「え?んーと……一ヶ月くらい」 悠介 「なにっ!?」 驚いた。 一ヶ月も? ルナ 「ちなみに、一度目覚めたのは憶えてる?」 悠介 「ああ、一応。あの時はとてつもなく眠くなってな」 ルナ 「そうなんだ」 悠介 「ああ。今はもう大丈夫みたいだけど。あ、そういやみんなは?」 ルナ 「うん、悠介が一度起きてからは交代制でお見舞いに来てたの。     今日はたまたまわたしの出番だったってわけ」 悠介 「……なるほど」 う〜ん、一ヶ月か……。 以前は確か、二ヶ月半くらいだったか……? 悠介 「みんな、元気にしてるか?」 ルナ 「あーもう元気元気。憎たらしいほどに元気」 悠介 「……そっか」 安心した。 悠介 「って、そうだよ。神社はどうなった?」 ルナ 「あ〜……あの思いっきり壊れてたあれね……。     あれなら大丈夫よ、わたしとネッキーで組み立ててるから」 悠介 「組み立て……って……あれをか!?」 ルナ 「ん……もちろん、凄まじく大変なんだけどね。     だから悠介が手っ取り早く創造してくれれば助かるんだけどね」 創造って……神社をか? そりゃいくらなんでも無理だぞ……。 ルナ 「あ、そうだ。体力の回復が完全じゃなかったら、     なにか回復させるものでも造ってみれば?」 悠介 「……そうだな。エリクサーが出ます」 ………………。 悠介 「……あれ?」 出なかった。 ルナ 「悠介?」 悠介 「エリクサーが出ます!」 …………。 悠介 「あれ?」 ……変だな。 悠介 「玉葱が出ます」 …………。 悠介 「ネギが出ます」 …………。 悠介 「……なんで?」 何も出なかった。 悠介 「ん〜……ハトが出ます!」 ポムッ。 悠介 「…………」 出た。 ルナ 「……悠介、もしかして……」 悠介 「……そうみたい、だな」 創造の理力が、子供の頃の力に戻ってる。 ふりだしに戻る、か。 まあ、無茶したからなぁ……。 やれやれ……。 悠介 「まあいいか。別に歩けないってわけじゃない」 ガバッと病院のベッドから出て、窓を開けた。 悠介 「ルナ、いいか?」 ルナ 「ん、こんな所にいつまでも居たら腐っちゃうわ」 ルナが俺を抱え、そして飛んだ。 目に映る空は、いつもより晴れやかだった。 …………。 ……。 ……神社(崩壊して粉々)に辿り着く。 悠介 「……見事にアレだな」 ルナ 「……アレよね」 俺とルナははぁ、と溜め息を吐いた。 悠介 「そういや若葉達は何処に居るんだ?」 ルナ 「ん?うん、波動娘の家。     なんか親が出かけてるとかで、そこに泊めてもらってるとか」 悠介 「そうか、そりゃひと安心だな」 胸を撫で下ろす。 セレス「あ、悠介さん。……って!いつ退院したんですかっ!??」 悠介 「今日。ていうかさっき」 セレス「くはっ……教えてくれれば行ったのに……」 ルナ 「そりゃ無理よ。正式な退院じゃないんだし」 セレス「……はい?」 悠介 「あ……えっと、さ。俺がルナに頼んで、脱走を図ったってわけで」 セレス「………」 セレスが難しい顔をして頭を押さえた。 ルナ 「?」 ルナはにこにこ顔でどこか楽しげだった。 セレス「今ごろ、病院は大変なことになってますよ……」 だろうな。 悠介 「まあ多分なんとかなるだろ」 セレス「なりますかね」 ルナ 「なるでしょ」 セレス「……っはぁ〜〜〜……」 セレスに思いっきり溜め息を吐かれた。 セレス「あとでいろいろ言われなければいいんですが……」 悠介 「なに、相手もこの惨状を見れば諦めがつくだろう」 セレス「警察、呼ばれますよ」 悠介 「いや、普通はもう来てもいいと思うんだが」 セレス「当時はもう大変でしたよ?     警察やらマスコミやらが押しかけるような雰囲気が。     まあ……わたしが魅了凝視を使ったおかげで、現在も事無きを保ってますが」 ルナ 「わー、さすがネッキー。やることがエゲつない」 セレス「今すぐ天に召されたいのですか貴方は……」 ルナ 「やってみる?日光がある今、あんたは不利だと思うけど?」 セレス「本気を出せば日光なんて、指の枷にもならないことくらい、     あの時のことを考えれば理解出来るでしょう?」 ルナ 「う……」 ルナが一歩引く。 悠介 「………」 なんだか長引きそうだな。 服でも着替えるか。 悠介 「………………どうやって?」 今更気づいた。 服が無い。 今思えば病院の服も着たままで来てしまったし。 どうしようか。 悠介 「んー……」 こんな時、創造出来たら楽だったんだけどなぁ。 ……あ、そうだ。 サイフとか見つけられれば………………この瓦礫の山から? 悠介 「…………場所からして、このあたりだよな」 自分の部屋の辺りを憶測で捜索する。 ごしゃっ。 ガタゴタメシャゴタゴタガタタッ。 悠介 「………………見つからない、な」 溜め息が出た。 悠介 「ふー……む……」 少し考えてみる。 悠介 「なぁルナ」 ルナ 「!」 バッ!と振り向くルナ。 ルナ 「なにっ!?なになに悠介っ!」 こいつはなにをそんなにはしゃいでいるんだ。 悠介 「えっとさ、お前の血の中にはさ、望月の───月癒力があるんだよな?」 ルナ 「え?あ、うん。一度も使ったことないけど」 悠介 「………」 ルナ 「……?」 なんだろう。 なにかを期待してしまった。 まあいいか。 悠介 「それならさ、その印を解放して再生の力でここを直せばいいんじゃないか?」 ルナ 「え?」 セレス「え?」 悠介 「うん?」 セレスが、ギシャアアアアとルナを睨む。 ルナ 「ま、待ってよ。わたし、望月にそんな力があるなんて知らな」 セレス「日光を浴びながら肉体労働をしてきたわたしに対して、     喧嘩を売ってんですかあなたはぁあああああああっ!!!!」 セレスが咆哮を発した。 その衝撃で、瓦礫が少々吹き飛んだりした。 よっぽど頭にきたんだろう。 悠介 「なんだ、お前結構詳しいかと思ったのに」 ルナ 「だって望月っていったら転生と融合でしょ!?     再生の力があるなんてわたし知らなかったわよぅ!」 悠介 「元素となる印が『再生』と『融合』なんだよ。     先輩の持ってた本に書いてあっただろ?」 ルナ 「そんなの憶えてない……」 悠介 「お前はもうちょっと記憶力をつけるべきだと思うぞ……」 ルナ 「あはっ……あはははは……」 口からゴファアアアア……と湯気を出し、 おキレになっているセレスからジリジリと逃げながら乾いた笑いを漏らすルナ。 悠介 「……彰利の家にでも、行くか」 ぽつりと呟いて、空を見上げた。 そうすれば爽やかな気分に包まれる筈の俺だったが。 ルナ 「うわわっ!ちょ、ちょっと落ち着きなさいよネッキー!」 セレス「クオォオオオオオオオッ!!」 壊れ果てた瓦礫を、尚も壊しながら騒ぐふたりを横目に、俺はまた溜め息を吐いた。 そしてそのままの格好で歩き出す。 ルナ 「ゆ、悠介っ!?助けてくれないのー!?」 悠介 「元はと言えばお前が悪い上に、挑発するのが尚悪い」 セレス「ウォオッ!」 ルナ 「うっさい!今悠介と話してんの!」 ドチュッ! セレス「グオッ!!」 ルナのサミングがセレスを襲った。 セレス「……ハッ!?わ、わたしは一体」 悠介 「……おかえり」 俺は正気を取り戻したセレスに向かって呟いた。 サミングで正気を取り戻すのってどうよ。 ルナ 「それより悠介、どこ行くのー?」 ルナが飛び、俺の首に掴まって訊いてくる。 悠介 「ああ、ちょっと彰利の家までな」 ルナ 「?」 悠介 「というわけで、留守番……するまでもないか。     出来たら望月の印で直しておいてくれると助かる」 ルナ 「それはいいけどさ、悠介」 悠介 「うん?」 ルナ 「あきとしのいえって、どんなとこ?」 悠介 「え?お前、水穂ちゃんを運ぶ時、そこまで行かなかったのか? ルナ 「?」 悠介 「でも珍しいな、お前が彰利のこと『ホモっち』って呼ばないなんて」 ルナ 「…………ホモっち?」 悠介 「ホモっち」 ルナ 「……なに?それ」 ───! 悠介 「なにって……お前が言い出したんだろ?彰利のことをホモっちって」 ルナ 「だからさ、その彰利って誰?」 悠介 「───」 目の前が一瞬、暗くなった。 ……なんだ? どうなって…… 悠介 「セレス、お前はからかったりしないよな?」 ルナ 「ぶー、わたしは悠介をからかったりしないわよぅ」 悠介 「わかってるよ!そんなことはっ!」 ルナ 「わっ……」 張り上げた声に、ルナが驚く。 悠介 「なぁっ!セレス!」 なんだろう。 とても嫌な予感だけがする。 俺……なに焦ってるんだ……? セレス「悠介さん……わたしはその、彰利という名前には聞き覚えがありません」 悠介 「───!!」 汗が、滲んだ。 体が震える。 なにがどうなってるのか、わからなかった。 だから、俺は走った。 ルナ 「あっ───ちょっと悠介ー?」 ルナが走る俺に何かを言った。 でも俺の様子から何かを探ったのか、付いてくるようなことはしなかった。 悠介 「───……どうなってるんだよ……一体……」 訳が解らない。 俺と彰利が居たからこそ神社は崩壊して、家だって木っ端微塵になった。 俺だけじゃああんなこと出来なかったじゃないか。 それに……なんでルナやセレスは知らないなんて言うんだ……? ふたりとも嘘をつくような性格じゃない。 だったら、一体どうして……!! 悠介 「はっ……はぁっ……はぁっ……!」 息を落ち着かせるまでもなく、俺は彰利の部屋の前に立った。 鍵はかかってなくて、そのドアはあっさりと開いた。 悠介 「彰利!」 叫ぶように呼んだ。 でも、部屋の中はひっそりとしていて、そこに人の存在が無いのは雰囲気で解った。 悠介 「……どうなってんだよ……!」 焦った。 なんだかわからない。 わからないのに。 悠介 「くっ……!」 じっとしてなんかいられなかった。 俺はその部屋から飛び出て、彰利が居そうな場所へ行くため、駆け出した。 ………………。 ───日が沈みかけていた。 それに気づいたのは、全身が汗で覆われてからだった。 悠介 「………」 見つからない。 どこにも居ない。 俺は怖くなって、学校に走った。 こんな格好で学校に行ったもんだから、みんな驚いていた。 だけど俺はそんなこともお構いなしに訊いた。 声を張り上げて。 彰利が何処に居るか知らないか、と。 でも……返って来た言葉は、希望していたどんな言葉よりも残酷だった。 『……彰利?誰だ?』 クラスメイトに訊いても。 教員に訊いても。 誰に訊いても、同じ答えしか返ってこなかった。 ……とても、怖くて。 足がガタガタ震えているのが自分でも解ったのに。 それでも、俺は走った。 ただ、雪子さんに会うために。 会って、聞きたかった。 『彰利の馬鹿がどうしたの?』って。 ただ、それだけ聞ければ満足だった。 ……それなのに。 『彰利?……そんな人、知らないわよ?』 返ってきたのは、そんな残酷な言葉だった。 何回も繰り返し、訊き直す俺を、雪子さんの真剣な目が見据えた。 ……雪子さんが真面目であればあるほど、俺は悲しくなった。 そんな眼差しが、とても悲しくて。 俺は自分でも気づかない内に、事実を認めてしまって。 それでも信じられなくて。 だけど不安が胸を押しつぶして。 それなのにそれを否定して笑ってくれる人は居なくて。 周りには事実を述べる人しか居なくて。 押さえていた不安が爆発して……。 ……俺は、何年かぶりに……声を出して、泣いた─── ───……。 何を求めて、歩いたのだろう。 気づけば俺は彰利の部屋に寝転がっていて。 その先に見える天井を赤くなった目で見つめていた。 悠介 「………」 彰利の存在が、この世界から消えた。 写真とかは残っているのに、その姿をルナやセレスに見せても…… そいつは彰利ではなく、見知らぬ誰かに過ぎなかった。 自分の知らない内に、友達が消える。 それは例えようの無い矛盾しか生まなかった。 悠介 「………」 整理出来てない思考で、ゼノはどうなったのだろうと考えた。 ……だが、考えれば考えるほど、それが答えと結びつき─── 悠介 「……っ!」 それを事実として確信してしまう自分が嫌になった。 彰利とゼノの間になにかが起きて、彰利は消えた。 確かに、これが一番確実だ。 だけど、現実味がまったく無かった。 自分の家系が現実とどれほど離れているかを自分が知っているくせに。 それを棚にあげてまでして、そう思っていたかった。 悠介 「………」 ……疲れた。 足は走りづくでガクガク。 頭は訳の解らない現実に混乱して。 悠介 「………」 目を閉じる。 そうすることによって、疲れた体は自然に俺を眠りに誘った。 外から差し掛かる夕暮れの輝きを窓越しに浴びながら。 俺はゆっくりと、眠りについた。 ………………。 …………。 ……。 が。 俺の頭に何かがひっかかり、俺は覚醒した。 悠介 「……そうだ」 バッ!と起き上がり、部屋の中を見回した。 そして───目にとまるタンス。 悠介 「タンスの裏、だったよな?」 何かに導かれるように、そのタンスの裏を調べた。 悠介 「………………手紙?」 そこにはアルバムなんかじゃなく、一通の手紙が隠してあった。 悠介 「悠介へ……?俺に宛てた手紙、ってことだよな?」 俺はその手紙の封を丁寧に切って、中身を見た。 悠介 「拝啓、晦悠介さま……」 《───拝啓 晦悠介さま。  悠介がこれを読んでるってことは、多分俺はこの世に居ないんだと思う。  無事に何事もなくゼノを倒せたなら、俺はこれを燃やすつもりだったからだ。  もっとも、悠介も俺のことを忘れてたら、この手紙はきっと、  このアパートの次の住居人か、管理人が見るんだろうけど。  はは、そうなったら俺、かなり格好悪いよなぁ。  俺が語ることが出来なかった事実は、この手紙が解決してくれると思う。  だから、面倒だと思っても最後まで読んでくれな。あ、字ぃ汚くて悪い。  まず、俺がいろんなことを知ってるのは、もう何回も歴史を廻ってるからだ。  それを説明する前に、まず知っておいてほしい。  弦月の月操力は月壊力っていって、破壊が主の印だ。  そして、弦月は一族の中でも一番、魔の血が濃いんだ。  だから力をコントロール出来ないと判断された子孫は、幼い内に殺される。  あの時、俺も殺されそうになったの、憶えてるよな?  あれも、俺という出来損ないを始末するための儀式だったんだ。  まあその話はいったん置いておこう。  弦月の一族は魔の血が濃いって言った……あ、いや、書いたよな?  いいや、言ったで。一見、得が無いようにしか見えない血だけど、  血が濃い分、全月操力の開花が可能になるんだ。  晦の月影力も開花させることは出来る。出来るんだけど効率が悪いんだ。  影を操って相手を操ることは出来ても、送受信はひとりじゃ魔力消費が激しい。  これはやっぱり、双子……魂を同じくした状態が一番みたいだ。  そして、より適正をあげる力が『連結魂』だ。  これを開花させてるだけで、負担が半分になるんだ。  でも、これの条件が厳しい。  連結魂は名前の通り、魂を連ねる人物が居ないと駄目なんだ。  考えるに、一卵性双生児がもっとも適正であると俺は思う。  ああ、まあこんな話はいいんだが。  とにかく、月操力の中で『鳴、影、療』以外の印の開花に成功した。  俺一代で、各歴代の歴史を超越したのよダーリン!  あ───て、そんなこと書いてる場合じゃないよな。  ……そろそろ、本題に入っていこうと思う。  十三夜の月操力が確認されてないのは知ってたよな?  でもさ、俺、子供の時に見たんだよ。  十三夜のカゴじいさんが、力使ってるのを。  じいさんが力を使ったと思った途端、じいさんは消えてた。  その場から。そして、歴史からも。  知っているのは、その時近くに居た俺だけだった。  最初は自分の存在が消えるだけの力だと思ってた。  だけどそれから数年後……俺が処刑される一週間前くらいの日、  じいさんは変わり果てた姿でこの世界に戻ってきた。  それで悟ったよ。十三夜の月操力は……時空移動。  『存在』を別の歴史に移動させる秘術だ。  下手すると二度と戻れなくなるようなこの秘術。  だけど俺はじいさんに聞いた。それをコントロールする術を。  そして……じいさんは子孫に伝えてくれって言って、死んだよ。  それから俺はコントロールの方法をもっと効率良くして、それを完成させた。  厳密に言えば一度過去とかに飛んで、そして戻ってこれたってわけだ。  もう予想はついてると思うけど、俺はゼノを巻き込んで時空転移した。  悠介が俺のこと憶えているとしたら、比較的俺の近くに居たからってことだと思う。  そして───憶えてるよな?昔見た、輝く月。  あの時は俺もなにがなんだか解らなかったけどさ。  俺は、ゼノを巻き込んで月に時空転移した。  これはまあ毎度のことだから『転移した』って書いとく。  そこで俺は全月操力を爆発させて、ゼノとの自爆を図った。  結果、その爆発の輝きで、月が光った。  それを過去の俺と悠介は見てたんだ。  ……皮肉だよなぁ、自分の死に様を眺めるなんてさ。  まあこれも何通目の手紙になるか解らんから要点だけ言うよ。  ん?要点?まあいいや。  俺はゼノを巻き込む際に、過去に時空転移した。  子供だった俺と悠介が輝く月を見れたのもそのためだ。  それで俺はその時代で死に、魂はその時空に残ることになる。  で、それからしばらくして子供の方の俺は暴走して、悠介を殺しそうになったけど、  正気を取り戻すことが出来て、自ら自決。  後、悠介の望月の力で転生させられるんだけど……子供の頃の俺の魂じゃなく、  今の俺───ゼノと自爆した魂をベースに蘇らせてしまったってことなんだ。  あとは……まあ、解るよな?そうやってもう一度地に足をつくことの出来た俺は、  また同じだけの時間を過ごし、また死んでゆく。  もちろんその間、なにもしないわけじゃない。  その努力の甲斐あって、月操力の大半を開花させることが出来たわけだし。  いつか新しい未来を開くために、俺は頑張ってるってこと。  まあそれもまた近い内だろうから。  ゼノの行動パターンとかを完全に攻略出来たら、  その時こそ新しい未来が開けるって信じてる。  ああそれと、言っとくけど俺は人生投げ出したりなんかせんからな〜っ。  んじゃ、この時代では俺は居ないけど、元気で暮らすのよダーリン。  文化祭、面白くなるといいなぁ。  あ、これ読んでる時点で文化祭は終わってるか。そんじゃな。  ───弦月彰利 》 手紙は、なにやら衝撃的なことをあっさりとまとめてあった。 訳の解らないことが大半だったけど、 その答えが解ったら、全てが納得のいくものだった。 悠介 「この時代には居ない……か」 感じたのは違和感。 自分は知っているのに、その存在は無い。 まるで自分だけが世迷言を唱えている感覚。 それでも彰利は確かに存在していて、この手紙を残した。 書いてあることを追ってみれば、文化祭前に書いたことが解る。 彰利の馬鹿みたいな笑い顔が頭に浮かんだ。 悠介 「………」 感傷的になりすぎるなんて、らしくない。 自分でそう思った。 それでも、自分が悲しんでやらないと、誰があいつの為に泣いてやれるのだろう。 悠介 「………」 窓を開けて、夕日を見つめた。 真っ赤に染まった空。 高く、そして遠く見える空。 そんな空を、夕日を眺めながら。 悠介 「でも、俺は泣いてやらないからな……」 俺はそう呟いた。 さっきのはサービスだ。 だって、お前のために泣くなんて、それこそ……らしくないもんな。 悠介 「………」 自分でも解っていた。 これから一度でもこの部屋を出たなら。 俺はもう二度と、ここに来ることは無いのだろうと。 ……それでも。 溜め息を吐いて、その手紙を封に仕舞い、大事に手にとって。 俺は、その部屋をあとにした。 その景色を脳に焼き付けるように、懐かしむように眺めて。 やがて、ゆっくりと玄関のドアが閉まる。 もう二度と、主や友人が握ることのないドアノブを、俺はゆっくりと離す。 悠介 「……じゃあな、彰利……」 最後にそう言って、その部屋は俺にとって意味をなさないものになった。 いつかここにある全てが処分されて、新しい住人が現れたとしても。 それは俺の友人ではなく、まったく知らない人なのだろうから。 でも、驚くんだろうな。 なにせ、メイド服とか置いてあるんだから。 エプロンドレスって言わずに、 メイド服って言いきるのは……ホント、あいつらしかったよな。 思わず笑ってしまう。 最後にもう一度振りかえり、その扉を眺めた。 それから自分でも解るような苦笑いをして、溜め息を吐いた。 ───やがて、背を向けて歩き出す。 二度と、その場を振り向くことなく。 こうして、俺の友達は……この歴史からその姿を消したのだった───……。 Next Menu back