───日余(ひあまり)───
彰利 「これは異常である」 風呂から上がって浴衣姿になった彰利が断言した。 彰利 「悠介を好きなオナゴが居たなんて迂闊だった。     こんな、俺以外には穏やか世界代表なダーリンがオナゴに好かれるなんて」 本人の前でどうしてそう言いたいことドカドカ言ってくれちゃいますかねこいつは。 彰利 「間違いねェ、奴ァ敵だ。俺のライバルぞ。     こうなったら一服盛ってくれようか。幻覚剤とか」 言って、ジャラリと錠剤の入った瓶を出す彰利。 悠介 「どっから出した!」 彰利 「フフフ、それは言えないな。     俺には猫型ロボットよりも巧妙な秘密があるのだ。     キャプテンガントレットの秘密、貴様にだけは教えん」 悠介 「暴走するな、落ち着け」 彰利 「おっとすまねぇ、ちなみにこれは単なるビタミン剤だから。     むしろ彼女が健康に。いいことぞ?ということで盛ってきます」 悠介 「あ、裸の美女が歩いてる」 彰利 「なにぃ!?どこぞ!」 悠介 「隙ありゃあっ!!」 バシュゥッ!! ───俺はビタミン剤(?)を手に入れた!! 彰利 「ややっ!?な、なにをなさる!今すぐそれを返しなさい!」 悠介 「いや、最近ビタミン不足でな?困ってたんだ、ありがとう」 彰利 「よせやい、照れるじゃねェの。ってそうじゃなくて!     や、やめろ!やめるんだ!やめてくれ、その薬だけは!」 悠介 「ビタミン剤なんだろ?」 彰利 「そうだ」 悠介 「………」 彰利 「………」 悠介 「飲んでみろ」 彰利 「え?」 悠介 「ぐいっといけ、ほら」 彰利 「ま、待て!そりゃいけねぇぜ奥さん!     俺には帰りを待つ刺身のツマと知り合いの親戚の友人の奥さんの母親の甥っ子の級     友の兄の恋人の浮気相手の姉の息子が!」 悠介 「そりゃ他人だ。誰も待っちゃいない」 彰利 「ま、待って。アタイ、シロップかコーティング剤じゃないと飲めないの!」 悠介 「……コーティング剤だが」 彰利 「ゲェエエーーーッ!!!?こいつぁ迂闊だったーーーっ!!!」 悠介 「ほぅら、待望の苦くない薬ですよー」 彰利 「イヤァアアア!なんか無意味にやさしいーッ!!     ところで悠介、今度個人的にもう一度こうして献身してくれると嬉しいんだが」 ドゴォッ! 彰利 「サムチャイ!!」 気持ち悪いことを言う彰利を殴ると、謎の言葉を発した。 そんなことはひとまず無視して、彼の顎を掴んで上を向かせた。 悠介 「遠慮するな、飲め。飲んでしまえ」 彰利 「がごっ!?ぶっはぁ!ちょごっ!ま、待っ!ゴフホ!」 彰利の口内に薬をザボザボと入れて、ぬるま湯で流し込む。 彰利 「ゴフッ!ゲフッ!ガ、ガハアアッ!!」 それらを一気に飲み込んだ彼は必死に吐こうとしたが、もはや手遅れだったらしい。 やがて体がガクガクと震え始め─── 彰利 「は───あぅぐぉお……!!か、かははああ……!!」 いつしか、ぶるぶると震え始めた。 飲ませておいてなんだが、心配になってきた。 彰利 「オゴッ……!オォォオオ……!!」 悠介 「あ、彰利?」 馬鹿な。 こいつ、本気で毒薬盛ろうとしてたのか!? 悠介 「だ、大丈夫か!?彰利!!」 彰利 「いや、美味かったよ?」 ズパァンッ! 彰利 「ぶべいっ!」 悠介 「心配した俺が馬鹿だった!!」 彰利 「ハハハ、冗談だよ強き友よ。これは単なるステロイドだから」 悠介 「……どっち方面のステロイドだ」 彰利 「アナボリック系」 悠介 「ば、馬鹿ぁ!!は、吐け!早く吐け!」 彰利 「ふぅおおおおお…………ゥ!!」 大きく息を吐くと、やがて彰利の体がメコモコとマッスルになってゆく。 悠介 「ギャアアア怖ぇ!」 彰利 「ぬぅうん!爆肉鋼体!」 スパァーン! 来客用スリッパが唸りをあげた。 彰利 「ギャア!な、なにをなさる!」 悠介 「やかましい!解り辛そうなネタ使うな!」 彰利 「えぇ〜?だってさ、有名だったじゃん。鈴木」 悠介 「……寝ろ、愚か者」 彰利 「無知な科学者にはたどり着けぬ境地がある……。     ボケと殴られる肉体とのせめぎ合いの果てッ!     薬物をボケで凌駕する例外の存在!!!     日に数十回ボケては殴られるという矛盾のみを条件に存在する肉体!!     数十年その拷問に耐え!俺は今ステロイドを超えた!!」 悠介 「………」 彰利 「無視して寝ないでぇえええええっ!今とっても恥ずかしかったのYO!?」 悠介 「あーすごいね、うんスゴイ。だから寝ろボケ」 彰利 「……泣くぞマジで……」 そう言った彼の声は本気で悲しそうだった。 彰利 「なあ悠介?こういう所では枕投げするのが常識でしょう?」 悠介 「あのなぁ、もうすぐ消灯だぞ?     女子が風呂から上がる頃には完全に消灯時間なんだから、     今の内に寝る準備するのが適切だろが」 彰利 「……え?女子って今ごろなの?だって日余さん」 悠介 「ああ、俺達は本当に最後の方に入っただろ?     男子が先で女子が後ってことになってたらしくてな?」 彰利 「なんでよ」 悠介 「お前みたいに覗こうとする奴が居るからだよ」 彰利 「ぐっ……!」 悠介 「そんなわけで、女子の一番湯が日余さんだったってことだろ」 彰利 「あぁ、彰利納得ゥ。それじゃあこの部屋に俺とダーリンしか居ないのは何故?」 悠介 「みんな他の部屋に遊びに行ったからだろ。少しは自分で考えろ」 彰利 「……言うことキツイよ今日の悠ちゃん」 悠介 「その呼び方はヤメろ」 彰利 「なんでさ、雪子さん万歳ですぞ?」 悠介 「俺は苦手だ。いいから麻野さんの話題は抹消しよう」 彰利 「ダーリンがそうしたいならいいけど。ていうかさ」 彰利が真顔になって俺の目を見る。 悠介 「どした?」 こっちも一応さながらに返す。 なんなんだこいつの切り換えの早さは。 彰利 「───も、もしかして、さ。     みんな、アタイと悠介に気を使ってくれたのかしらブボッ!     キャアア殴った!今本気で殴った!い、いやっ!いやぁあっ!     大人しくするからやさしく!やさブボラッ!やブボッ!     ギャアア!無言で殴らないで!ある意味無言が一番痛い!愛も痛い!     ど、どうして!?結婚する前はあんなにやさしかったベボ!!     や、やっぱり財産が目当てだったブベィ!いや喋らせてマジで!     ていうかせめて喋りながら殴って!ダーリンだったら我慢出来ゴブボッ!!     ギャアアアアもうごめんなさい!俺が悪かった!もうふざけないから!」 悠介 「……寝る準備するぞ……OK?」 彰利 「湯煙が俺を呼んでいる」 悠介 「…………お前って」 彰利 「さっきはあんな話が出てきて驚きのあまりに行動出来なかったが……。     フフン、今の俺は一味違うぜ?     なにせ七味唐辛子より一味唐辛子の方が好きなのだ」 悠介 「訳が解らん」 彰利 「あー、直訳すればね?どうせ先生方が見張りとかしてると思うんだよ。     故に外から回って覗く。馬鹿正直に男子用の風呂から覗くのは愚の骨頂ぞ。     ご利用は計画的に。むしろ俺が計画的。     そして俺はその歴史を心のファインダーにそっと秘めるのよダーリン」 悠介 「………」 呆れて声も出ない。 悠介 「しかし、外だからって見張りが居ないとは限らないだろ?」 彰利 「お?ノッてきましたねお客サン。そうなのだ。     教師どもとて馬鹿じゃない。外にも見張りが居るだろう。     いやむしろ、見張りと偽って覗いているエロ教師も居るやもしれん。     まあそんな見張りなんぞ、実力を行使すればどうとでもならァな」 悠介 「……勝手にしろ、俺は知らん」 彰利 「むう、流石にウヴなダーリンには荷が重いか。     仕方ない、今回の作戦は私ひとりで行こう」 悠介 「おお行け行け。そして是非とも捕まってくれ」 彰利 「フフ、望むところだ」 悠介 「望むな」 彰利 「どうしろっていうのダーリン!」 悠介 「知るか!」 彰利 「もう、わがままさんね。ビデオに収めてくるからその時は一緒に見ましょ?」 悠介 「……そんなもん撮ってきたらどうなるか解ってるよな?」 彰利 「うわぁ、そんなもんとはヒドイですよ兄者。いいですか?女性の」 悠介 「だーっ!いいから行くなら行け!」 彰利 「ウフフ、ダーリンにはまだ早かったかしらね♪それじゃあね、ダーリン。     アタイが戻ってくるまで良い子にしてるんだぞこの野郎。     じゃねェとこのレタスの命は無いものと思え。俺のオヤツが無くなる」 悠介 「どうしていきなり脅迫口調になるんだよ。     そしてレタスはオヤツじゃない」 彰利 「ぬ?そうか?まあいいや。見つかっても俺には田辺ヴォイスがあるからな。     これを巧みに利用して、全てをヤツに……!」 悠介 「やめろたわけ!」 彰利 「なに、10分の1は冗談だ。ほんじゃあ行ってくる」 バッ!と窓から飛び出る彰利。 ちなみにここは───馬鹿! 悠介 「彰利!」 彰利 「え?なにダーリン。一緒に来るの?」 悠介 「………」 ここは三階だ、と言いたかったんだが。 彰利は器用に壁に張り付いてワサワサと蜘蛛のように降りてゆく。 ……バケモノめ。 悠介 「……消灯までには帰れよ」 彰利 「おう、夕飯までには帰る」 夕飯ならもう終わったが。 地面に降りて、窓の視界の外へと駆けて行く彰利を見送って、窓を閉めた。 悠介 「…………はぁ」 溜め息が出た。 ようやく静かになった部屋で、俺は布団を出して横になった。 ……あー、疲れた。 なんて思っていると部屋の襖が開く。 心休まる暇もないなまったく。 中井出「おーぅ晦!今さ、皆川のグループの部屋で……って、彰利は?」 悠介 「女風呂覗きに行くって出ていった」 中井出「マジか!?だって見張りがすげぇぞ!?」 悠介 「あいつなら絶対に見つからないだろ。     見つかるとしたらギャグを狙って小枝踏んだ時くらいだ」 中井出「んな古典的な……」 悠介 「奴ならやりかねない」 中井出「……だな。まあいいや。     晦、いま皆川の班の部屋で枕投げやってんだけど、どうだ?」 悠介 「……言っとくが、弱くはないぞ」 中井出「あー、みなまで言うな。お前と彰利の馬鹿力は有名だ。     むしろ、それだからこそ呼んだと言っても過言じゃない」 悠介 「けど大丈夫か?騒いだりしたら教師が黙っちゃ」 中井出「そこんところもノープロブレム。斥候部隊が女湯あたりで騒ぎを起こした。     あの石頭ども、向こうの警備とか、なんとか自分も覗こうとかで手一杯だ」 悠介 「……さすが」 中井出「伊達に委員長やっとりゃせんよ。じゃ、行こうぜ」 悠介 「委員長は普通、そんなことはしないと思うがな」 中井出「気にすんなって、こんな時くらい羽伸ばし出来ないで何が委員長だよ。     俺はな、この日のためにお硬い委員長を気取ってきたんだ。     肩が凝ることこの上無しだ。     だってのにこんな時にまで学校行事の心配しなきゃなんねぇなんて、     それこそまったく冗談じゃねぇやい」 フン!と、どこぞの江戸っ子のように肩をすくめる中井出。 中井出「に、してもだ。相変わらず心配性だな。     ま、そのお陰で俺達が今まで目をつけられることはなかったんだけどな。     こんな時くらいはいいんじゃないの?」 悠介 「はは、状況判断と情報が欲しかっただけさ。     こっちこそ根掘り葉掘り訊いて悪かった。じゃ、行くか」 中井出「行く必要はない。ここの襖をこう開ければ───」 ストン! 中井出「この通り、奥まで続いている」 襖を開けると、3部屋が連結して戦場と化していた。 中井出「なんか嬉しいよな、3階でしかも3部屋結合型なんてさ」 中井出は高揚していた。 中井出「清水ーっ!心強い味方を連れてきたぞー!」 清水 「おお晦ーっ!助かる!すぐに加わってグハッ!」 こちらに振り向いた清水の横っ面に枕がボファア!とヒットする。 田辺 「ぐあっ!晦!……フッ、相手にとって不足無し!     ていうか、おつりが欲しくなる!!」 田辺が構える。 俺はそこらに転がっていた枕を手に取る。 それを見て田辺やらの相手グループが構える。 その距離は随分離れている。 普通なら投げても届かないだろう。 だが。 悠介 「せいっ!」 ブオッ! 田辺 「ははは、そっから届くわけ」 ドパァン! 田辺 「ぶへぇあっ!」 枕が田辺の顔を捉えて、彼が体勢を崩した。 途端、味方側が田辺を一斉攻撃する。 ボスボスバスンドスベス! 田辺 「おわっ!?ちょ……やめっ……!」 あっと言う間に田辺が立っていた場所はこちらの枕で一杯になり、 こちらの球はなくなってしまった。 それと引き換えに田辺が前線を離脱。 後方で回復を図っている。 飯田 「つ、晦に気をつけろ!あいつの攻撃がトリガーだ!」 飯田のひとことに相手側が俺を見る。 ───馬鹿め、それが命取りだ。 中井出「───いただきっ!」 中村 「お───ああっ!?」 静かに相手側に廻った中井出が相手陣地の枕を持てる限り強奪。 中井出「受け取れみんなーっ!」 中井出がこちらに枕を放る。 味方はそれを受け取り攻撃態勢に入るが、次の瞬間中井出が相手の集中攻撃を受ける。 中井出「ぐあぁあああっ!」 清水 「てっ───提督ーーーっ!!!」 膝裏を狙われてバランスを崩した中井出は、逃げる間もなく枕に埋もれていった。 清水 「っ───ていッ……提督っ!提督ぅっ!!」 清水が駆け寄る。 清水 「し、しっかりしてください提督!     ……なにやってんでありますか!貴殿がこんなに簡単に……!」 中井出「な、なにやってんだ……!俺に構わず闘え……!     お、俺たち……サイヤ人の……強さを……ッ……!!     思い……知らせて…………や…………れ…………」 ガクッ。 清水 「てっ───」 コトッ。 中井出の手が、力を失ったように畳に落ちた。 清水   「提督ぅううううううっ!!!」 藍田   「……中井出博光……!三度のメシよりエロビデオが好きな奴だった……!」 島田   「俺達は忘れない……!       中井出……お前のような立派なファイターが居たことを……」 灯村   「俺は待ってるぞ……!       貴様が目覚めて、俺らにエロビの横流しをしてくれるのを……!」 中井出  「あ、悪い。その話なら流れた」 灯村&島田『死ね!』 中井出  「うわヒデェ!!」 D組はとっても自分に正直な人達の集合であることで有名である。 清水 「てめぇら!気合入れていくぞ!提督の弔い合戦だっ!」 味方 『オォオーーーーーッ!!!』 中井出の死によって、俺達の心のストーブに火が灯った。 ちなみに言うと5発当たった者は死亡するというルールの上に、 この戦いは展開されている。 まあ投げた攻撃が必ず当たるとも限らないので何回ぶつけても構わないのだが。 丘野 「晦、頼む!」 悠介 「オーライ!おぉらぁっ!」 ブオッ! 飯田 「おあっ!?」 飯田が避ける。 しかし計算の上だ。 蒲田 「狙撃隊!撃てぇーいっ!!」 蒲田の一声で構えていた狙撃隊が飯田に枕を一斉射撃。 哀れ、飯田は一瞬にしてリタイアとなった。 皆川 「くっ……やるじゃないか!」 清水 「そっちこそな!」 相手側にも火がついたようで、作戦なんぞお構いなしで投げてきた。 もちろんそうなると、もうこちらも構えている場合ではなくなる。 皆川 「うぉおおっ!」 清水 「だぉおおおおっ!!」 悠介 「───」 みんなが騒いでいる中、俺は冷静に司令塔のみを探っていた。 皆川は……あいつは影武者みたいなものだ。 だとすると、さっきから後ろの方で控えてる飯田こそが───! 悠介 「───受けてみやがれ!俺のダイリーグボール一号!おぉらぁっ!」 距離も考えて、一撃で粉砕するくらいの考えで投げた。 ゴパァン! 飯田 「ぶぼっ!」 ドシャア。 皆川 「え!?な───」 清水 「飯田が怯んだぞ!狙え狙えーっ!」 皆川 「くぅ!飯田を守れ!」 佐野 「しかし皆川!それでは我等も喰らうことになる!」 皆川 「そうだね。各自!己の意思を信じて思う存分闘え!」 敵群 『オォーーーーッ!!』 敵軍の総指揮力が上がった! 所詮枕投げに指揮官など必要じゃない。 野生の勘こそが全てを左右する。 司令塔をあっさり見放した相手勢力はそれはもう強くなった。 途中、騒ぎを訊きつけてやってきた女子群もいつしか混ざり、 戦いの行方は段々と解らなくなってきた。 なによりも強いのが、日余さん。 ホントに女ですか!?と言いたくなるほどの投擲力。 あんな細腕からどうやってあんな破壊力が……! やがて相手側は日余さん、こっち側は俺だけになってしまった。 粉雪 「……さすがにやるね、晦くん」 悠介 「さすがって言われても困るけどね。俺としては日余さんの方が意外だ」 粉雪 「それって誉め言葉?」 悠介 「どうだか」 俺の言葉に日余さんはクスッと笑って、枕を投げた。 俺はそれを枕で弾き、自分も投げた。 粉雪 「わっ!」 言葉のわりにあっさりと避けてみせる日余さん。 粉雪 「あはは、そう簡単に当たってあげないよ」 余裕だ。 彼女はまったくもって余裕だ。 悠介 「日余さん……キミ何者?」 粉雪 「どこをどう見ても汚れを知らない清純女子中学生!」 悠介 「いや、そうじゃなくてその腕力とか!」 粉雪 「───それ、この腕を見ても言える言葉?」 日余さんが細い腕を見せる。 いや、だからこそなんだって。 こんなことが実現可能なのはよほどのテコ原理者か───まさか!? ボスン。 悠介 「あ」 粉雪 「戦いの最中に考え事は良くないよ」 彼女が笑った。 清水 「くっ……!この勝負、俺達の……負けだ!」 皆川 「うっしゃぁああああああああああっ!」 みんなが喜んだり悔しがったりする中、俺はただ呆然としていた。 ……まさか、な。 家系の中で『日余』なんて聞いたこともないしな。 そうした雰囲気の中、俺達はみんなで騒いだあとに部屋へ戻った。 消灯が目前に迫る頃、ようやく彰利が戻ってきた。 彰利 「…………」 彼は鼻血を垂らしながら幸せいっぱいの顔をしていた。 彰利 「パ、パラダイス……」 ドシャア。 そして気絶した。 中井出「……この様子からするに、成功したらしいな……」 チッ、羨ましい奴。と中井出。 清水 「見ろよこの顔……思わず殴りたくなるほど幸せそうだぜ……」 いっそ殴ったろか。と清水。 丘野 「でも頬に青タンが出来てるぞ?見つかったんじゃないのか?」 それでもビデオカメラは死守したんか。と丘野。 藍田 「これはあとでゆっくりと見させていただこう」 楽しみは最後に取っておくもんだ。と藍田。 悠介 「まあ見つかったならそれでいいだろ。いい薬だ。問題なのは───」 田辺が心配だ。と俺。 中井出「田辺が?なんで」 悠介 「彰利のやつ、田辺の声色が上手いんだ。     逃げる際に投石か手桶とかくらったとしても、     田辺ボイスで声とかあげてたとしたら───」 清水 「おい!廊下の方で田辺が教師に説教くらってる!」 藍田 「あー、A組の山中だ。あいつエロいもんなぁ。そら、羨ましいだろうよ」 丘野 「真犯人がここに居るのも知らず……よくやるな」 俺達がボソボソと話している中、教師がそれぞれ消灯を告げにきた。 やがて部屋の電気を落とし、彰利を布団に突っ込んで寝る準備は整った。 中井出「……そんじゃ、夜も更けてまいりましたところで……クク」 藍田 「こういうの好きなぁ、お前って」 中井出「アホ、俺は素直なんだ。     だって〜四時間半だもん♪スタミ○ハンディ〜○〜ム♪」 中井出が彰利の手から奪っておいたビデオカメラを手にし、再生する。 中井出「ぶっ!」 そして噴出した。 笑いたかったためじゃないだろう。 なんにせよ、五月蝿くて眠れん。 中井出「ど、どんな距離で撮ったんだ弦月の奴……!     こりゃ相当接近してるぞオイ……うぉおお……!」 ゴクリ、と唾を飲む音が聞こえた。 丘野 「……あれ?つーかこれ、どっかで見たことねぇか?」 藍田 「俺もそう思ってたところだけど……」 中井出「や……実は俺も───つーかこれ!     俺のエロビ全集『湯煙の旅』第二巻じゃねぇか!!」 清水 「……あー、どうりで見た覚えがあると」 藍田 「そりゃそうだよなぁ。     弦月ってエロを気取ってる割には、誰かを傷つける行為ってしねぇもんな」 中井出「……ま、いいや。これ見るのも久しぶりだし、見るか」 藍田 「だな。じゃなけりゃあ田辺が浮かばれん」 清水 「それ考えると、田辺も災難だよな。あれって傷ついたって言えないのか?」 中井出「構うかよ。見ただろ?     田辺の野郎、マクラ投げの時にドサクサ紛れで水島の胸触りやがった」 清水 「うわっ……そりゃ気づかなかった。最低だな」 藍田 「けどさ、べつに弦月はその現場見たわけじゃないよな?どうして解ったんだろな」 中井出「気づかなかったのお前。彰利ならチラリとここ覗いていったぞ」 清水 「うそっ!?」 藍田 「そりゃ気づかなかった……」 ……喋るならもっと小さな声で話してほしいんだが……。 まあいい。 興味が沸くわけでもなかったので、そのまま寝ることにした。 Next Menu back