穏やかな時間。

揺るぎ無い、ただ流れるだけの時間。

そんな日常の中を歩いていた。

考えていることなんて特に無い。

ただ今まで通りの、だけどどこか違う日常に身を委ねながら。

俺は変わり映えの無い日々をさまよっていた。

退屈な日常。

前まではそこまででもなかった日常が、もっと退屈になってしまった事実。

馬鹿みたいに騒ぐ奴なんて居なくて。

寂しくないと言ってみても、虚しいだけだった。

人ってものは、当たり前にあるものには関心が無いように見えるけど、

それを無くした時にこそ、それの大切さが解るんだって、改めて知った。

停学が解けた今、俺の学校生活はそれはもう荒んだものだった。

授業には出ない、教師には楯突く、心を開ける仲間も居ない。

家から出て学校には行くけど。

授業に出るなんてことはしなかった。

ただ屋上に出るための出入り口の上に寝転がり、一日中空を眺めていた。

時折ルナが遊びに来て、その場でくだらない話をする。

しばらくすると、『つまんない』などとぶーたれて、ルナは消える。

……解ってる。

自分が無気力なのは解ってるつもりだ。

だけど仕方が無いじゃないか。

自分でもどうにもならないんだよ。

そんなことをひとりで呟きながら、時間はゆっくりと過ぎてゆく。

やがて空は曇り、雨が降る。

そうなっても、俺はずっとその場でそうしていた。

───気持ちの整理に必要なものは時間なのだということを痛いほどに解っていた。

だからこそ時間が欲しかった。

そうして、ずっと考えて、悩んで、精一杯無理してみても、現状はあまり変わらなかった。

くだらなくも、過ぎて行く時。

住み慣れた世界で、自分だけが愚を唱える異端となったあの日。

やがてゆっくりと移ろいゆく季節。

そうして訪れた季節に、俺はまた神社へと登る。

堕落しても自分は自分で、そんな自分が嫌いだと思うこともあったけど。

それを否定した時点で俺は自分さえも否定してしまう気がして、ずっとそうしていた。

……やがて静かに。

だけど、確実に時間は流れる。

蒼い季節に見た輝く月を懐かしく思うこの頃。

いつしか俺は自然に笑っていて、家の縁側で団子を食べていた。

空にはあの頃と同じような満月。

隣に居るのは馬鹿な友人じゃないけど。

俺はやっぱり笑っていた。

それはいつか歩み始める未来へと続く、現在(いま)の物語───















───未来(みらい)───
小鳥が鳴いていた。 そんな穏やかな音色を耳に、俺は目を開けた。 意識は覚醒している。 布団をどかし、制服に着替えて部屋を出る。 ……ハッキリ言って、ヘンな夢を見た。 ヘンな夢、というのは覚えているんだけれど、内容が思い出せない。 ただ、久しぶりに心が穏やかなのは確かだった。 悠介 「んっ……」 玄関の屋根の軒下。 そこで小さく伸びをする。 あの日から今日まで、朝食を作るなんて行為も行っていない。 それでも若葉と木葉は文句を言わなかった。 悠介 「いってきます」 小さく呟き、玄関から離れる。 そして数歩歩いたくらいで振り返り、その家を見上げた。 あの日壊れた家はルナがなんとか望月の印で直し、現在に至る。 彰利と騒いでて壊れた屋根も、最初から壊れた個所など無かったように直っていて。 なんだかそれを寂しく感じた。 悠介 「………」 その景色に背を向けて、俺は石段に足をかけた。 降りるのではなく、上がる。 神社へ。 それが俺の日課になっていた。 相変わらず長い石段をゆっくりと上がる。 悠介 「………」 しばらく同じ動作を繰り返し、ようやく見えてくる神社。 その佇まいの前まで歩き、段差に腰掛ける。 悠介 「感傷ぶるのはらしくない、か……」 自分で言っていた言葉が嘘のように思える。 なにやってんだろうな、俺。 溜め息が出る。 悠介 「こんな所に来たって、彰利が居るわけでもないのに」 そうと解っていても、なんだか来てしまう。 ただ昔のように、この神社の前で『よっ』て笑うあいつが居るかもしれない。 そんな期待を、俺は待っているんだと思う。 悠介 「………」 空を見上げる。 俺の気分とは正反対に、その空は綺麗だった。 悠介 「ルナ、居るか?」 空に向かって言う。 しかし、ルナは姿を現さなかった。 ……居ない、か。それとも出て来たくないのか。 まあしょうがないよな。 まともに会話出来なくなったような奴と一緒に居たってつまらないだろう。 悠介 「………」 刺激が足りないんだな、今の生活には。 頭でも冷やすか。 何か支離滅裂な思考を胸に、俺は滝壷へと歩を進めた。 …………。 滝壷がある。 落ちてみたら気持ちいいだろうか。 嫌なこととか忘れられるだろうか。 ………………どうかな。 悠介 「…………」 俺は小さく小馬鹿にするように笑うと、滝壷に飛び降りた。 なんの躊躇もなく。 景色が通りすぎるのはあっと言う間だった。 一瞬にして崖が自分の周りを通り過ぎて、もう目の前には水面があった。 しかし、俺の体が水に濡れることはなかった。 ルナ 「ばかっ!なにやってるのよばかっ!」 ルナだ。 ルナが俺を抱えて、俺に向かって怒鳴ってる。 悠介 「……よ、ルナ」 ルナ 「よ、じゃないわよ!なにをする気だったの!?」 悠介 「水浴び、かな」 ルナ 「水浴び……!?」 悠介 「───気持ちいいんじゃないかって……思ったんだ」 ルナ 「………」 ルナはそれっきり何も喋らず、俺を足場のある場所まで運んだ。 悠介 「悪い」 ルナ 「……………………ねぇ」 そこになって、ようやくルナは喋った。 ルナ 「なに、考えてたの?」 ルナが訊く。 悠介 「友達のことかな」 ルナ 「男よね?」 悠介 「そうだよ」 ルナ 「………」 悠介 「話、済んだんだな?俺、行くぞ?」 ルナ 「待って」 悠介 「ん?」 ルナ 「さっき、なんのために呼んだの?」 悠介 「なんだ、さっき居たのか」 ルナ 「答えて、悠介」 悠介 「……なんとなくだよ」 ルナ 「………」 ルナはつまらなそうな顔をすると、空へ浮いた。 ルナ 「わたしね、悠介に言っておきたいことがある」 悠介 「……なんだ?」 ルナ 「………」 悠介 「?」 ルナ 「今の悠介なんて大ッ嫌い!!」 悠介 「………」 それだけ言うと、ルナは消えてしまった。 悠介 「そりゃ、奇遇だな……」 ひとり残された俺は、そう呟いた。 悠介 「俺も今の自分なんて大嫌いだ……」 溜め息を吐いて、俺はゆっくりと学校へ向かった。 そんな日から数日後。 俺はいつものようにのんびりと登校していた。 道行く生徒全員が、俺を見て何かを喋る。 もうこんなことには慣れてしまった。 声  「おい」 悠介 「……?」 ボグッ! 悠介 「ッ……!」 聞こえた声に振り向くと同時に、頬に痛みが走った。 男  「ちょっと、ツラぁ貸せ」 顎で校舎裏へと歩を促す男。 いつかの番長だ。 俺は言われるがままに歩を進めた。 ───校舎裏。 男  「どういうつもりだ」 悠介 「………」 男  「答えろ!」 なんのことだか解らない。 男  「俺に勝った男が、なんだその堕落様は!」 声を張り上げる。 男  「歯を食いしばれ!殴らんと気が済まん!」 悠介 「………」 ガツゥッ! 男の拳が俺の頬を捉えた。 しかしさほど痛くはなかった。 悠介 「…………どうした、もっと殴れよ」 男  「…………っ!」 それから、男は何度も殴ってきた。 でも、どれも効くような一発じゃなかった。 男  「貴様、何を悩んでいる?」 悠介 「あんたには関係無い上に、言っても無意味だ」 男  「いいや、喋ってもらう」 悠介 「力ずくでも、か?」 男  「そうだ!」 ガツッ───ゥウゥン!! 悠介 「!!」 体が反動に持ってかれた。 こいつ……手加減してやがった……。 男  「喋る気になったか!」 悠介 「……フン」 上着を脱ぎ、投げ捨てる。 悠介 「憂さ晴らし、させてもらうぞ」 男  「フン、さっきまでの顔よりよっぽどいい顔をしている」 悠介 「あーそうかい、御託はいいからこいよ」 男  「……いいや、これで終いだ」 悠介 「───?」 男  「少しは顔を上げる気になったか?」 悠介 「………」 男  「二度とシケた顔見せるな」 男が俺に背を向けて去っていく。 悠介 「……待てよ」 俺はそんな男の肩に手を置いた。 途端、男が振り向き様の拳をお見舞いしてくれた。 それで、俺の弱っていた心はキレた。 悠介 「……どうなっても知らねぇぞてめぇ……!」 気づいた時には男が吹っ飛んでいた。 意識するより先に体が動く。 男に向かって地面を蹴って走った。 その時。 男の拳がカウンターでモロに決まった。 そこで、足にきた。 悠介 「───ッガァアアアアアッ!!」 それでもそのまま男を殴った。 これも手加減無しだ。 勢いのままに、男を地面に殴りつけた。 ……そんなところで、俺は膝から力が抜け、尻餅をついた。 男  「顔、上げる気になったか?」 お互い落ち着いたあたりで、もう一度訊かれた。 男  「現実ってのは直視したくないものが大半だけどよ。     今のお前は絶対に間違ってる。人形の方がまだマシだ」 悠介 「なにっ……」 男  「人形ってのはな、首の角度を誰かが調整してくれりゃあ、     ずっと前を見ていられるが───お前はどうだ?     誰かが前を見させてくれたところで、また下を向くだろう」 悠介 「………」 男  「今のお前は人形以下だ」 悠介 「………」 男  「八ツ当たりだけをするようにプログラムされた、クズ鉄に過ぎないんだよ」 悠介 「クッ……!」 俺は男の胸倉を掴み、拳を握り締めた。 男  「……知ってるか?それでもな、クズ鉄は再利用が利くんだぜ……」 悠介 「───!」 拳が、止まった。 悠介 「………」 男  「人生は長い。悩むこたぁ山ほどあるだろうよ。     だからって下ばっか見て、周りが見えるか?     お前の周りは今どうなってやがる?     家族は?知人は?友人は?お前をどういう目で見ているか知っているのか!?」 悠介 「………」 男  「お前がどういう理由で堕落してるかなんざ知らねぇよ。     でもよ、自分の濁った気持ちで周りにまで迷惑かけんじゃねぇ!」 悠介 「………」 ……まったく、言いたいことをズカズカと言ってくれる。 悠介 「ひとつ訊きたいことがある」 気づけば、そんな男に感化されたのか、ゆっくりと口をひらく自分が居た。 悠介 「自分に大切な友人が居たとして、そいつが消えてしまったらどうする?     しかも、そいつを憶えているのは自分だけで、     誰に訊いても『知らない』って言葉しか返ってこなかったら?」 男  「……?」 男は顔をしかめた。 悠介 「真面目な話だ」 男  「………」 俺の目を真っ直ぐに見て、男は少し考えた。 悠介 「お前にも訊くぞ。こいつを、覚えてるか?」 俺は彰利の写真を見せながら言った。 男  「………」 しかし男は解らないといった表情。 悠介 「……やっぱり、憶えてないよな」 もっとも会ったのが一度きりだからな。 男  「こいつが、消えたとでも言うのか?」 悠介 「……もしもの話さ。     今まで一緒に居たのにこいつは消えちまって、     それまで面識のあった妹や知人は、こいつのことを忘れちまった。     そんな中、俺だけが憶えていて、訊いてみても知らぬ存ぜぬ。     この住み慣れた場所で、俺だけが異端を語ってる。     あんたに何が解る?俺だってうじうじと考えていたくない。     でもな、当然のようにそこにあったものが無くなる恐怖ってのは、     そんな簡単に割り切れるもんじゃねぇんだよ!」 男  「……それで、八ツ当たりか?」 悠介 「そう見えるんだろ?」 男  「………」 悠介 「だったら詮索するような言い方はやめて、ハッキリ言ってくれ……」 男  「………」 悠介 「自分が馬鹿だって思うことは腐るほどある。     俺は誰かに八ツ当たり出来る立場じゃない。     解ってるさ、そんなことは。     ひとりだけ世迷言を唱えて、     それが受け入れられない時の気持ちがようやく解った。     それでも相容れない異端同士だってあるってことも解った。けどな……」 俺は溜め息を吐いた。 あの日から、何回溜め息を吐いたか数えるだけ無駄なほどに吐いている。 それでも、今回のは少し意味が違った。 悠介 「殴れ」 男  「なに?」 悠介 「思いっきりだ。手加減なんてしないで、殴ってくれ」 男  「……それで、目が醒めるとでも」 悠介 「こういう時にそういうことを訊くな、馬鹿かお前は」 男  「……そうだな」 男が、距離をとる。 助走をつけての攻撃が来ることはそれで解った。 ───……なあ、彰利。 お前がここに居たとしたら、今の俺を見てなんて言う? 馬鹿にするか?笑うか?それとも呆れるか? …………いや、どれも違うな。 行動の全てが読めないからこそ、彰利なんだ。 読んじまったらつまらないな。 ………………。
彰利 「なぁ悠介」 悠介 「ん〜?」 彰利 「お前さ、もし俺が居なくなったらどうする?」 悠介 「なんだそれ」 彰利 「まあ、好奇心旺盛の思春期高校生が我思う故に我はモハメド・アリ系に考える、     愛しい人の心への探求心とでも受け取ってもらえれば幸い。俺幸い」 悠介 「なんだそりゃ……」 彰利 「いや、アタイ真面目に訊いてるんですけど」 悠介 「そうだな、喜ぶんじゃないか?」 彰利 「!!な、なんで!?」 悠介 「いや、ただ単にそう思っただけ」 彰利 「ひでぇっ!!」 悠介 「でもまあ……寂しくはなるんじゃないか?」 彰利 「アタイのために泣いてくれる?」 悠介 「考えとく」 彰利 「……放置プレイかい」 悠介 「じゃあさ、俺が居なくなったらお前はどうするんだ?」 彰利 「潔く切腹!」 悠介 「やめろ馬鹿!」 彰利 「冗談だ。嫌いな奴の家で首吊り自殺してやる」 悠介 「それもやめろ」 彰利 「どうしろっていうのダーリン!」 悠介 「自殺するな!」 彰利 「じゃあ相手を挑発して刺されて死ぬとか」 悠介 「どうして死ぬことしか考えないんだお前はっ!」 彰利 「ア、アタイ、悠介の居ない人生なんて考えられないッッ!     悠介が居ないんだったらアタイ!アタイィイッ!!」 悠介 「アタイアタイ言うな!ていうかコラ足にしがみつくなっ!」 彰利 「アタイを捨てるの!?捨てるのね!?     どうしてYO!アタイのお腹には悠介の」 ボゴシャア! 彰利 「ギャウッ!!」 悠介 「泣きながら恐ろしいこと言うな!」 彰利 「うう……なにも殴らずとも……」 悠介 「こう言うのもなんだけどさ。     俺は周りの人が居なくなるなんてことは考えたくないんだよ。     それが例え話でもさ。なんか悲しいじゃないか、それって」 彰利 「……俺に散々『死』を唱えてるクセに」 ドムッ! 彰利 「おごっ!!」 悠介 「こういう時に揚げ足とらない」 彰利 「イ、イエッサ師匠……でもなにもサイドストマック殴らんでも……」 悠介 「お黙りやがれこの野郎」 彰利 「あー……まあ、あれだよ。お前の気持ちも解るけどさ。     多少なりとも覚悟ってものは持っておいた方がいいんだよ。     不老不死の人間なんて居ないんだからさ。     それでも別れる時が来て、自分がそれに立ち会えるなら、     その時こそ泣いてやるか笑ってやるかしてやればいいんじゃないか?」 悠介 「そんなもんかね」 彰利 「そんなもんだ。ああ、それと───」 ───俺が居なくなった時、お前には笑ってほしいからさ。 だから、シケた顔していじけるなよな、悠介───
悠介 「───!」 拳が俺に向かって振られていた。 男  「ふんっ!」 男が歯を食いしばって、力を込めたことが解った。 悠介 「………」 ───そうだよな。 そんなことで話したこともあったよな。 もしかしたら、この事を言ってたのかもしれないと思った。 悠介 「───うぅらぁっ!」 ドガァッ!! 男  「ぐっはぁっ!」 俺は男に向かい拳を振るい、カウンターを決めた。 男  「な、なんでやねん……」 ドシャア。 死んだ。 もとい、膝から崩れ落ちた。 悠介 「悪い、やっぱ殴られるのって痛いだろ。     それに殴り返さないとは一言も言ってないし」 男  「ゔ……」 脇腹を抱えて、ピクピクと蠢く男。 悠介 「でもサンキュ、おかげで目ぇ醒めたわ」 手を軽く上げ、その場に背を向けた。 男  「待てこの野郎!」 ドゴッ! 悠介 「だぁっ!な、なにしやがるこのキャベツ野郎!」 男  「黙れ!お前が殴れって言ったから殴ろうとしたんだぞこの野郎!     それをいきなり殴られてあっさりとオチつけられて我慢できるか!」 悠介 「我慢なさい!お兄ちゃんでしょう!?」 男  「くぅわぁああ〜〜〜っ!!コロスっ!」 悠介 「殺す!?上等だこの野郎!     人が爽やかに決めてる時に不意打ちなんてしやがって!     紳士の風上にも風下にも台風の目にも置けない不届き千万の馬鹿者が!     根性叩きなおしてやるからかかってこいこのキャベツ!」 俺と男(番長)は再び殴り合った。 意味は無いんだが、まあ多分ノリなんだろう。 番長 「死ねぇえっ!」 ごすっ! 悠介 「だっ!ってえじゃないのこの野郎!」 ドスッ! 番長 「ハオッ!こ、この!」 ゴンッ! 悠介 「ごはっ!パ、パチキかますなこの馬鹿!」 ドチュッ! 番長 「ギャーッ!」 番長がサミングに苦しむ。 悠介 「死ねーッ!」 番長 「ま、待て馬鹿!落ち着け!おち───ぎゃああああ!!」 さっきまでとは違い気分は晴れやかで、 俺は笑いながら番長をブチのめすことが出来た。 悠介 「はぁっ……はぁ……」 目の前(ていうか視線の下)で、番長がピクピクと蠢いている。 悠介 「お前は強かったよ……でも、間違った強さだった……」 今度こそ、俺は背を向けてその場を去っていった。 ああ、顔痛ぇ……。 しこたま殴られたなぁ。 悠介 「でも……」 悪い気分じゃない。 悠介 「うーしゃあ、レタスでも食いにいくかぁ」 学校はサボることにした。 今更真面目に出たところで、逆に視線が邪魔なだけだろう。 家に帰ってまったりして、教室に行くのは明日からが丁度いいか。 悠介 「んー、いい気分だ」 ぐぅっと伸びて、俺は学校をあとにした。 若葉&木葉『あ』 悠介   「あ」 で、帰り道。 若葉と木葉にばったり会ってしまった。 若葉 「………」 木葉 「………」 ふたりとも、俯いてしまった。 なんだか空気の重さを思わせるように。 『人生は長い。悩むこたぁ山ほどあるだろうよ。  だからって下ばっか見て、周りが見えるか?  お前の周りは今どうなってやがる?  家族は?知人は?友人は?お前をどういう目で見ているか知っているのか!?』 ……ああ、今解ったよ……。 悪い……。 悠介 「これから学校か?」 若葉 「あ、あの……はい……」 悠介 「………」 怯えているように見えた。 妹達がこんなになるまで、俺は一体どんな接し方をしてきたのだろう。 自分に腹が立ったことも確かだけど、今必要なのはそんな感情じゃない。 俺はふたりに近づき、そして抱きしめた。 若葉 「え───」 木葉 「……!?」 ふたりが息を呑むのが解った。 悠介 「……ごめんな、もう……大丈夫だから」 何が大丈夫なのか、自分でも説明することは出来ないと思ったけど。 それでも他に言えるような言葉が見つからなかった。 若葉 「……ひっ……くぅう……おにいさまぁ……」 ただ、そんな言葉でも人を安心させることが出来ること。 それを今、俺は知ることが出来た。 木葉 「お兄様……お兄様ぁ……」 どうしてふたりが泣いてしまったのか。 それを考えると俺は笑えなかったけど…… それでも、ふたりが泣き止むまで一緒に居ることは出来るから。 悠介 「……ごめんな……」 俺はその言葉をもう一度言うと、ふたりの頭を、本当に久しぶりに撫でた。 石段を登る。 家に辿り着くまでの道のりを、ただ黙々と。 ただ、いつもよりダルイ。 悠介 「若葉、腕が疲れる」 若葉 「嫌です」 悠介 「木葉、腕」 木葉 「嫌です」 悠介 「………」 腕にしがみつくふたりの妹に即答を食らい、俺は苦笑した。 悠介 「だめじゃないか、学校サボっちゃ」 若葉 「おにいさまに言われたくありません」 悠介 「馬鹿お前、俺は不良だからいいんだ」 木葉 「わたしの目が黒い内は、お兄様を不良だなんて認めません」 悠介 「小姑みたいなこと言うなよ……」 ドスッ! 悠介 「ぐおっ!」 木葉の地獄突きが俺の脇腹を襲った。 それでも歩は進める。 若葉 「ところでおにいさま……」 悠介 「うん?」 若葉 「えっと……あの、『弦月彰利』という人のことは」 悠介 「ああ、あれな。あれはもういいんだ。     俺しか憶えてないっていうんなら、     俺だけが憶えててやればすむことだったんだ。     別に難しく考えることなんてなかったんだよなぁ……。     あーあ、時間を無駄にしたよ……」 俺は大袈裟に肩をすくめようとして、妹ふたりに腕を固められていることを思い出した。 悠介 「すくめさせろこの野郎」 若葉 「野郎じゃありません」 悠介 「気にするな」 俺は笑っていた。 こんなやりとり、あの日以来本当にやっていなかった。 久しぶりだと思う反面、周りのみんなには申し訳無いことをしたと思っていた。 悠介 「でもな、本当にお前達は俺と違って優等生なんだからな。     一度でもサボると周りの目が変わるぞ」 若葉 「おにいさま、わたし頭痛がします」 悠介 「仮病か」 ドスッ! 悠介 「ぐおっ!」 若葉の地獄突きが俺の脇腹を襲った。 それでも歩は進める。 木葉 「お兄様、わたし気持ち悪いです」 悠介 「………」 ドスッ! 悠介 「ぐおっ!」 木葉の地獄突きが俺の脇腹を襲った。 それでも歩は進める。 悠介 「なにも言ってないだろがっ!」 木葉 「無視しないでください!」 悠介 「どうしてほしいんだお前は!」 木葉 「わたし達を愛してください」 悠介 「寝言は寝て言え」 ドドスッ! 悠介 「ぐおぉっ!!」 妹達の地獄突きが俺の両脇腹を襲った。 俺はとうとう歩を止めた。 悠介 「お前らなぁ……」 俺は溜め息を吐いた。 おお、なんという恐ろしい娘ッ子達でしょう。 こんな妹達と一緒に登ってたら脇腹が幾つあっても足りません。 悠介 「あ、ちょっといいか?」 腕を少し動かし、手を離してくれと合図する。 それを察してくれたのか、ようやく腕を離してくれる妹達。 悠介 「ふう、えーと」 ふたりから離れて、茂みを調べる。 ……あった。 若葉 「おにいさま?」 若葉が不思議そうに声をかけてくる。 そうこうしてる間に、俺は自分の体にロープを巻き─── 悠介 「しまった」 切るものを持ってない。 悠介 「若葉、バタフライナイフとか持ってないか?」 若葉 「ありますかっ!」 当然の返答だった。 悠介 「木葉、アーミーナイフでもいいんだが」 木葉 「持ってません!」 やはり当然の返答だった。 悠介   「むう、じゃあ十得ナイフで手を打とう」 若葉&木葉『ありませんっ!』 ハッキリと言われてしまった。 悠介 「カッターナイフは?」 若葉 「……それはありますけど……」 悠介 「そりゃよかった、貸してくれ」 俺は若葉からカッターナイフを借りると、ロープに食い込ませた。 ざしっ、ざしっ、ざしっ……ブツンッ。 ロープが切れた。 と同時に、俺の体は宙に浮いていた。 悠介 「ウヒョオオオオ!!」 その速さたるや、まさに国宝級。 途中、若葉とも木葉ともとれる声を聞いたが、言葉を理解する余裕がなかった。 こりゃあエキサイティングだ! なんて思っていられたのも途中までだった。 とあることを思い出す。 ───そういや、途中の衝撃吸収マット……俺、取り外したんじゃなかったっけ─── 結論に辿り着くと、俺は 悠介 「ギャア!」 まずは小さく叫んだ。 そして予想通り、かつてマットがあった所にはそれが無く、 俺を恐怖のどん底にやさしく招いてくれた。 悠介 「ダ、ダイブ!?ダイブですか!?ロープで縛ってあんのにダイブですか!?」 やがて神社を飛び越し、滝壷が見えてきたところで、俺は死を覚悟───しなかった。 ヘイトニー、背水って知ってるかい? なんだいマイケル、背水って。 背水ってのはね、死中に活ありと謡われるべき言葉さ。 へえ、そうなのかい。 おいおい、まだ驚くのは早いぜトニー。物語はこれからさ。 へえ、どんな物語なんだい? 結論:俺が死ねる物語。 キャア、始まったばかりなのにとっても最終話チック。 悠介 「ギャアアアアアア!!!!」 嗚呼、ここに自ら飛び降りた自分が神に思えるよ。 そしてそんな俺を、俺はチェーンソーで叩っ斬りたい。 まあ何はともあれ死ねる。 とか思ってたら、滝の先の───下の方で、何かが爆発した。 それとともに、石の欠片が飛んできた。 ということは、先の方に縛ってあった石が壊れたと。 かと言って、落下スピードが変わったかといえば、まったくそんなことはないのだ。 ヘイマイケル、ニュートンの法則って知ってるかい? おいおいトニーそんなことくらい僕にもわかるさ。あれだろう? そう、鉄球とリンゴは同じ速度で落ちるってあれさ。 結論:結局ヤバイ。 悠介 「はぁあっ!死ぬ!死ねる!」 いつかルナと一緒に行った夜空の散歩を連想させる状況だった。 しかし今度は創造の理力は使えない。 ───ウギャア死ねる。 とかなんとか言ってると、景色がゆっくりに感じた。 ぬおお、これが無我の境地? ていうか死に間際の集中力? おおおお、ホントにゆっくりだぁ。 なにやら不思議な体験をしている最中。 ふと、視界の片隅を掠める景色。 ───先輩が構えてた。 ほうきの先には輝く光。 で、夜空の散歩が再度連想されたのは言うまでもない。 というか察してください。 ていうかぎゃあああ!!待って先輩!今の俺、創造理力使えないに均しいんです! そんなの食らったら俺、今度こそ死ねますぞーっ!? とか思っている内に、ドチュゥウウン!!と発射される月醒の矢。 悠介 「ギャヤーッ!」 奇妙な声で俺は叫んだ。 し、しかしこの集中力を持ってすれば、避けられるかもしれぬ! ……ていうか、先輩。 どうして落下速度と落下地点予測して撃つんですか。 落下地点……というか、その通過地点に合わせて見事に放たれた光を見て思う。 あんた完璧すぎだよ……。 もう駄目だ!と思った瞬間。 ───そういや、創造理力はアレだけど、月操力は使えるよな、とか。 そういうようなことを思った。 手に月鳴の裁きを集中させて───って、そうじゃん。 悠介 「月鳴力+月醒力!」 先輩の月醒の矢に向かって、印を解放した。 光がぶつかり、青白くも雷を帯びた光が散漫し、崖の層や水面を弾けさせる。 もちろん今回は創造理力が無かったため、威力は少なかったが。 落下速度を殺すには十分だった。 発射の反動で俺は少し浮き上がり、そこから水面に落ちた。 悠介 「ギャーッ!」 そして感電した。 水面に弾けた月鳴力の所為だろう。 考えてみれば威力を上げるためとはいえ、月鳴の裁きを使ったのは失敗だった。 俺はしばらく、仰向け状態で水面にプカプカと気絶していたのであった───。 それからしばらくして、俺は自分で泳いで水面から出たらしい。 というかその時点ではまだ気絶してたんだが。 多分、若葉と木葉による月影力だと思う。 こんな状況で役に立ったりするとは、解らんものだ。 それから若葉と木葉と先輩にあることないこと説教されまくった。 先輩も俺が元気になったことが嬉しく思ってくれた。 ……と、ここまでは良かったんだが。 それとは裏腹に、言いたいこと訊きたいことが爆発でもしたように、 反論を許さないガトリングトークを発動させた。 まともな言葉すら言わせてもらえず、 それでも俺は疲れ果てた顔でそれらが終わるまで付き合った。 悠介 「……だはぁ……」 ばたっ。 畳の上に体を寝かせた。 親に叱られる子供ってのは、こういう気持ちなんだろうなぁ。 ……俺は、叱られるんじゃなくて殴られてたから。 だから、こういうのはなんだか新鮮だった。 思わず苦笑してしまうような状況。 反論すら許してもらえなかったのはちょっと辛かったけど、なんだか楽しかった。 声  「こってりとしぼられたようですね」 ふと、耳を掠める声。 悠介 「セレスか」 聞こえた声に向かって、声を上げる。 そうすると、部屋に霧が現れ、人の形にまとまった。 セレス「ごきげんよう、悠介さん。お元気そうでなによりです」 そう言って、セレスが微笑む。 悠介 「これが、元気そうに見えるか?」 苦笑しながら訊ねる。 セレス「精神面の話ですよ。     今朝までの悠介さんはそれはもう、     ダメ人間の代表と言っても過言ではありませんでしたから。     どうしたらあそこまで堕落出来るのか不思議なくらいダメでダメで腐って」 悠介 「ス、ストップ!そこまで言うか!?」 セレス「ふふっ……また腐らないようにするための伏線ですよ」 俺の言葉にクスクスと笑うセレス。 セレス「いいですか?人間はわたし達亜種族と違って寿命が短いです。     けれど、その中で懸命に生きる姿は誇っても余りあるものだと思います。     わたし達は長い命を生きますけど、その中には死ねない命もあったりします。     そんな中で悩むこともやはりありますが、希望は持っているんです。     人に限らず、わたし達も夢だとか希望を糧に生きます。     まあ……流石にずっと同じものを追っていると疲れますから、     その度に別の興味を持ったり」 悠介 「あ、あのさ」 セレス「そうやって生きてきますが、生きるのを諦めるような輩は滅多に居ません」 聞いちゃいねぇ……。 セレス「ハッキリ言いますよ?     人の命は短いのに一時の鬱に翻弄されて時を無駄にするのは愚行です。     短い人生だからこそ立ち止まらずに、     猪突猛進の心構えで走るくらいがいいんです」 悠介 「………」 俺、さっき先輩に同じようなこと言われたんですけど……。 か、勘弁して……。 悠介 「だはぁ……」 ばたり。 昼過ぎの穏やかな時間。 今度こそ、ぐったりと体を寝かせた。 ああ、畳のザラザラとした感触が制服越しにも感じられてぐはぁ……。 寝転がった自然運動で天井を見ることになったんだが、俺は嫌な予感がした。 目を爛々と輝かせたルナが、天井から覗いていたのだ。 お、おい、頼むぞ? 今、俺は疲れてるんですぞ? ルナ 「ゆーすけーっ!」 がばしっ! ルナがもの凄い勢いで抱きついてきた。 反動で畳が……っていうか背中が軋むほど。 悠介 「がはっ───!!」 血を吐いてしまうんじゃないかと思うほど、俺は咳き込んだ。 ルナ 「ゆーすけ!悠介悠介悠介〜っ!」 ぼかっ! ルナ 「あきゃっ!……ど、どうして殴るの〜……」 頭を押さえて、悲しそうな顔で言うルナ。 悠介 「お前はどうしてそう、究極猪突猛進派なんだ!     背骨が折れるかと思ったぞ!」 ルナ 「だって、悠介が元気になってくれたから」 ぼかっ! ルナ 「はうっ!……だ、だからどうして殴るの〜……」 悠介 「お前はなにかっ!?     俺が元気だったら背骨が折れそうになるほどタックルするのか!?」 ルナ 「別に背骨折ろうだなんて」 悠介 「これを見てもまだそう言えるか?」 俺はその場から移動し、ルナに畳を見せた。 ヘコんでる畳。 ルナ 「あう……で、でもそれと背骨を折ろうとする意気込みは関係」 ぼかっ! ルナ 「あきゃっ!……うう……」 悠介 「説教づくめで疲れてるんだ、少し休ませてくれ」 ばたり。 その場に横になり、目を閉じる。 ルナ 「悠介?ゆ〜すけ〜……」 ぺちぺちぺち。 頬を叩かれる感触。 ルナ 「悠介、悠介〜」 揺すられる感触。 ルナ 「………」 ゴリッ。 悠介 「でゃやぁっ!!」 噛まれる感触で目が醒めた。 ルナ 「あ、起きたー」 ぼかっ! ルナ 「はうっ!」 ぼかっ!ぼかっ! ルナ 「きゃっ!あきゃっ!」 べしん!ぼかっ!ベチベチベチ! ルナ 「あう……ゔ〜……」 デコピン、ゲンコツ、デコピンに怯むルナ。 悠介 「……噛むな」 目に涙を溜めたルナに向かい、言った。 ルナ 「だ、だってわたしとだけ遊んでくれないし……」 悠介 「遊びと言いますか、あの地獄のような時間を」 深い溜め息を吐いたあと、ルナに言う。 悠介 「つまらない思いばっかさせて悪いけどさ、今は本気で疲れてるんだ。     頼むから今はゆっくりと眠らせてくれ……」 ルナ 「えー」 悠介 「えー、じゃない」 ルナ 「ぶー」 悠介 「ぶー、じゃない」 ルナ 「後方伸身大回転エビ投げ1/3ひねりトカチェフ前宙」 悠介 「後方伸───ってなんだそりゃっ!」 ルナ 「あはっ…あははははは」 楽しそうに笑うルナ。 悠介 「………」 そんな笑顔を見て、少し安心してしまう自分が居た。 でもそれとこれとは別だ。 悠介 「……ぐー」 ルナ 「あ、寝るなー!」 ドスッ。 悠介 「くほっ!」 喉仏を突かれた。 悠介 「こ、この……いいかげんにしろっ!」 声を張り上げてルナに掴みかかった。 ルナ 「あははははは、やっぱり元気な悠介じゃないとこうはいかないよねー」 それでもルナは楽しそうだった。 ルナ 「はぁっ」 ばしぃんっ! 悠介 「うおっ!」 足を払われ、宙に浮いた。 そしてそのまま畳にドカァッ!と叩き伏せられた。 悠介 「うがぁあっ!」 俺はすぐさま起き上がり、再び掴みかかる。 そして大外刈りを 悠介 「あら?」 俺が仕掛けた大外刈りはピタリと止められた。 ルナ 「残念だけど、悠介の力じゃわたしは動せないんだよね。     いくら家系の魔の血で元々の力が強くても、ね。     だってわたしハーフだし、人間の血も家系の血だし」 にこにこ笑い、フロントスープレックスに移行される。 悠介 「おぉわっ───」 俺は無意識にルナの足に自分の足を絡ませ、庇いに入った。 ルナ 「え?あ───」 と、その時。 ズルッと、ルナの足が滑った。 悠介 「だぁあっ!」 ルナ 「───!」 どさっ! 俺とルナはふたりして畳に倒れた。 悠介 「あ───つぅ……!!」 鼻が痛む。 思いっきり鼻を打ったしなぁ。 そう思った途端、鼻血が出た。 悠介 「うわっ!」 小さく叫ぶ。 で、それを俺の下敷きになって見てたルナが ルナ 「悠介、なんだかやらしー」 そう言って笑った。 悠介 「う、うっさいっ!」 なんとなく感じる情けなさと気恥ずかしさにしどろもどろになった。 と、そんな時。 水穂 「あの、先輩。若葉さんと木葉さんがお昼ごは」 がしゃんっ。 水穂ちゃんが襖を開けて中に入り、俺を見て固まった。 その際、持っていた昼食らしき謎の物体が落下したことも付け加えておく。 水穂 「あっあぁああのっすいませんボクそんなつもりじゃっ!」 慌てふためく水穂ちゃん。 水穂 「ボボボク、おふたりがそんな関係なんて知らなくて、     ノックもせずに入ってあのそのっ!」 悠介 「あ、あのね水穂ちゃん!これは激しい誤解っていうか!」 顔を真っ赤にしている水穂ちゃんの肩に手を置き、誤解を解こうと声を上げる。 水穂 「すすすいません!覗くつもりなんてなかったんですっ!     ボクなにも見てませんからぁっ!     せせせ、先輩がルナさん押し倒して鼻血出してる姿なんてボクッ!!」 悠介 「だから誤解なんだって!これはちょっとした事故で!」 水穂 「だだ、誰にも言いませんからっ!ボクには構わずごゆっくりぃっ!」 悠介 「あっ───だああっ!水穂ちゃぁあああんっ!」 水穂ちゃんが俺の手を振り払い、顔を真っ赤にして走っていってしまった。 悠介 「俺が何したっていうの……」 心の奥底から悲しみが溢れてきた。 悠介 「い、いや、大丈夫だ……。     水穂ちゃん、誰にも言わないって言ってたじゃないか。     信じてるぞ水穂ちゃん……っ!」 天を崇めるように手を合わせた。 ルナ 「悠介、暴走してるところで悪いんだけど」 悠介 「うん?」 相も変わらずにこにこ顔で、窓を指差すルナ。 悠介 「んん?なにかあるのか?」 光沢でよく見えない。 悠介 「よっ……と」 カラカラと窓を開け、その先の景色を 悠介 「うぎゃぁあああああああっ!!!!」 見た途端、俺は逃げ出した。 そこには光輝く竹箒を持って、般若の顔をした先輩が立っていたのだ。 光沢だと思っていた光は月醒力によるものだった。 悠介 「ま待ってくれ先輩ぃぃいっ!これはごかっ誤解っ」 なんて言っている間に、光は発射された。 悠介 「イヤアアアアアッ!!!!」 ドガァアアアン!! ───その日……俺の部屋と、その直線上にあった場所の全てが消滅した。 Next Menu back