───義族(ぎぞく)───
───季節はゆっくりと流れる。 ふと気づけば自分は少し成長して、周りの景色も変わってくる。 一日一日は穏やかで、気を配らないと変化に気づくこともなかった。 ……静かに、行事は進んでゆく。 やがて先輩が卒業証書を受け取り、お辞儀をする。 今日は卒業式だった。 静かな音楽が流れ、ゆったりとした雰囲気の中。 俺はそんな景色を眺めていた。 静かに始まった卒業式はやっぱり静かに終わって。 俺はしばらく待ってから先輩に会いに行った。 悠介 「先輩、卒業おめでとう」 卒業生に贈る開口一番はそんなものだと思う。 それに対して先輩もありがとう、と微笑んだ。 悠介 「なあ先輩、このあとは暇か?」 春菜 「うん、終わったらさっさと帰れって、     およそ教師らしくない言葉で送り出されたから」 悠介 「そっか、そりゃ良かった」 春菜 「?」 不思議そうな顔をする先輩の手を取り、俺は走った。 それに引かれるように、先輩が着ている着物が揺れる。 悠介 「若葉と木葉が卒業記念パーティーしよう!って騒いでたんだ。     あんまり待たせると五月蝿いんだ、急ごう」 春菜 「え、えっ?わ、わたしこんな格好だよ?早く走れないよっ」 悠介 「大丈夫大丈夫!着物結構!実に日本人らしくて文句などある筈がない!」 春菜 「そういうこと言ってるんじゃなくてっ」 悠介 「ほら先輩っ」 春菜 「え?わっ───」 俺は先輩を抱きかかえ、そのまま走った。 春菜 「あ、あの悠介くんっ!?みみ、みんなが見てるんだけどっ!?」 悠介 「構うか。どうせ今日だけだろ」 春菜 「はうう、お、お姫様抱っこだよぅ……」 何故だか顔を真っ赤にする先輩。 声  「待ったれや!」 喧噪を掻き分けて走っていると、呼びとめる声を聞いた。 でも走る。 番長 「晦ぃ!今日こそはお前との決着を」 ゴシャア。 番長 「……ぐはぁ」 行き先に立ちはだかった番長の顔面に飛び蹴りをかまし、俺は走った。 声  「お、おぼえてやがれぇええええええっ!」 そして後ろから聞こえた声。 俺は笑いながらそれを受け流した。 春菜 「………」 悠介 「うん?」 春菜 「あっ……えっと」 俺の顔をじ〜〜〜〜っと見ていた先輩に気づく。 春菜 「悠介くんさ」 悠介 「うん、どした?」 春菜 「……なんでもないっ」 悠介 「あぁっ!?な、なんだよそれ」 春菜 「あはははは、それいけシューティングスター号ー!」 悠介 「…………ったく、はいはい」 きゃいきゃいとはしゃぐ先輩を抱きかかえながら、神社への道を走る。 そんな中で先輩が何かを言ったが、聞こえないフリをした。 悠介 「先輩、しっかり掴まってろよ」 春菜 「うん」 神社の石段に辿り着いた。 そしてまあお約束と言うか言わないか。 ロープを縛ってナイフを取り出して、そして切る。 これももう慣れたものだった。 家の景色が見えた時点でロープを切り、地面に着地する。 悠介 「ほい、到着」 春菜 「ありがとう、悠介くん」 先輩を降ろし、ぐぅっと伸びる。 悠介 「ああ重かった」 春菜 「……悠介くん……っ?」 悠介 「ははっ、冗談冗談」 春菜 「もう……」 悠介 「ごめん、まあそれは置いといてさ。家の中に入ってよ。みんな待ってる」 春菜 「うん」 玄関を無視して縁側の方から入る。 玄関はルナが破壊して現在修理中だったりする。 どうして壊れたかは…まあ、人間の女の子らしい振る舞いの云々で力加減を間違えた。 それだけ言えば十分だと思う。 日々はいつも楽しくて。 いつの間にか俺はちょっとのことでも笑うようになっていた。 春菜 「おじゃまします」 先輩は大学に行くための勉強のために実家に帰っていた。 だからここに来るのは久しぶりってことになる。 ていうかもっと早目に実家に帰る予定だったんだが…… 去年はいろいろあったってことだ。 悠介 「ただいまー」 ルナ 「おかえりゆーすけー!」 俺の声に異常なまでの反応をして、間髪入れずに抱き着いてくるルナ。 ルナ 「にゅふふふ〜……う?」 が、満面な笑みが一変する。 ルナ 「…………ゆーすけ、波動娘の匂いがする」 悠介 「ああ、抱きかかえて走ってきたから」 ガブッ。 悠介 「いだぁあっ!いてっ!いててて痛ぇって!!」 この馬鹿!首筋噛みやがった! ルナ 「うーふへほはは!ははひひはひほほふはひははふはんへ!(ゆーすけの馬鹿!わたし以外の女に触るなんて!)」 悠介 「どっちが馬鹿だ!いきなり噛むやつがあるかっ!」 ぼかっ! ルナ 「はうっ!な、なにするのよー!」 悠介 「やかましいっ!こっちだって痛かったんだ!」 ルナ 「うー!」 悠介 「ぬーっ!」 セレス「ふたりとも、みっともないですよ。仮にもお客さんの前じゃないですか」 ルナ 「だってゆーすけが!」 悠介 「ルナの馬鹿が!」 ルナ 「馬鹿じゃないわよ!」 悠介 「じゃあマヌケだ!」 ルナ 「うーっ!」 セレス「いいかげんにしなさい!」 ルナ 「聞いてよネッキー!ゆーすけったら波動娘を抱きかかえてキスしたって!」 悠介 「だれがんなこと言った!ただここまで連れてきただけだろうが!」 セレス「………」 ルナ 「ゆーすけのばかぁっ!わたしというものがありながら」 悠介 「馬鹿はお前だこの自由奔放娘!今日だって一緒に連れていこうと思ったのに」 セレス「……春菜さん?久しぶりに、いいですか?」 春菜 「ん、任せといて」 ルナ 「波動娘!わたしのゆーすけに手を出したらただじゃ───」 悠介 「先輩からも何か言ってやって───」 ルナと俺はほぼ同時に先輩に向き直った。 と。 そこには弓矢を構えた先輩。 うわぁあ、懐かしいやぁ。 弓矢構えるのってどのくらいぶりだろうねぇ。 悠介 「ってギャーッ!」 まあその矢が光るのは時間の問題だった訳で。 俺とルナは一目散に逃げ出した。 が、間に合わなかったことをここで熱く語りたい。 どがぁあああああああああああああああああああああん!!!!! そんな騒音を合図に、今日という卒業記念パーティーは始まった。 月醒の矢は破魔矢を触媒に放った方が強いことが解った。                        晦悠介のレポートより 悠介 「だからどうというわけでもないんだが」 なんてことを呟いてみる。 ルナ 「なにが?」 それを見て首を傾げるルナ。 悠介 「さあ」 俺は敢えてとぼけて見せた。 ルナ 「なに?ねー、なにー?」 それを当然と言うが迄にしつこく問い詰めてくるルナ。 悠介 「いやいや、なんでもないんだって。ほら、団子でも食えって」 ルナ 「むー……わたし、花見団子より月見団子の方が好きだなぁ……」 悠介 「───」 ポム。 ルナ 「う?」 悠介 「……そっか」 ルナの頭に手を置き、撫でてやった。 ルナ 「ん〜……何気に子供扱いしてない?」 悠介 「そんなことはない。自分の数十倍は生きてるヤツを子供扱いになんかするか」 ルナ 「歳のことは言うなーっ!」 ガブッ! 悠介 「いだぁああああっ!!」 最近はいつもこんなものである。 ルナ 「大体、歳ならネッキーの方が上じゃない!」 セレス「喧嘩売ってやがるんですかこの野郎」 ルナ 「やだなー、そんな趣味ないわよ。このネクラ吸血鬼」 セレス「───」 ルナ 「───」 空気が凍った。 悠介 「だぁっ!やめいっ!」 一応叫んだ。 もとい、止めました。 ええ、止めましたとも。 それでも無視して暴れられたらどうすればいいんでしょうなぁ。 セレス「今日こそはその腐った性根を!」 ルナ 「長生きしてる分、ネッキーの方が腐ってんじゃないのー?あはははは」 セレス「クハァ!死なす!」 ルナ 「やーいやーい、ネクラー♪」 ええ、ここが崩壊するのも時間の問題だと思います。 若葉 「おにいさま、止めなくていいんですか?」 悠介 「俺は止めた。もはや何も言うまい」 若葉 「言ってくださいよぅ」 悠介 「馬鹿お前、あんな中に入って仲裁するなんて、     交差する逆回転の渦に入るようなもんだぞ?」 それこそ胴体が千切れかねん。 情けない話だが、今の俺は無力なのだよ妹よ。 悠介 「それよりもお前らの月影力でなんとかならないのか?」 若葉 「はぁ、それが……」 木葉 「今はその時ではないと思われますが、ご必要ならば解放致しますが」 若葉 「……木葉ちゃん、まだ暴走中だから」 悠介 「はぁ……そりゃ無理だ」 あれからのことだが、木葉は頭を強打したショックでなんか妙な人格が現れた。 元の木葉に戻ることもあるのだが、最近は頻繁にこっちの木葉が出てきている。 ルナの話によると今までの性格や人格は連結魂によって引き出された若葉の性格で、 要するにこの木葉が事実上の本物さんということになるそうだ。 結局のところ……悩みの種が増えたのか減ったのか。 木葉 「お兄さま、顔色が優れないようですが。     風邪などでしたら悪化してしまう前にお薬をご用意致しますが」 悠介 「い、いや……なんでもない」 なんにせよこの馬鹿丁寧なところはなんとかならないもんかなぁ。 春菜 「えーと、この度はわたしの卒業記念パーティなんか開いてくれて」 悠介 「そこ、勝手に始めない」 春菜 「だって全然話が進まないし」 正論だ。 確かに俺もぐったりしていたところだが。 ルナ 「ゆーすけ〜っ、ネッキーがいじめるのー」 悠介 「うそつけ」 ルナ 「うわっ、助けを乞う女の子を即答で追い払った」 水穂 「お茶あがりましたよー」 悠介 「ああ水穂、助かる」 水穂 「いえいえ、おにーさんのためですから」 若葉 「水穂、ちょっとツラぁ貸しやがれなさい」 水穂 「あ、ちょっ……ねーさん!?お、落ち着いてくださいぃい!」 木葉 「お断りいたします。懲罰室への連行を要求します」 水穂 「そんなものいつ作ったんですかぁっ!」 木葉 「貴女がこの家の養女になってからです」 水穂 「そんな個人的な部屋、欲しくないですぅうっ!     あうー!おにーさぁあああん!!」 水穂が連れてかれた。 うーん、お茶運んできてくれただけなのにどうしてこんなことに? 春菜 「悠介くん、いま水穂ちゃんのこと『水穂』って……」 悠介 「ん?ああ、そういや先輩は知らなかったんだっけ。     水穂ちゃん、ウチの養子……というか養女になったんだ」 春菜 「え……えぇっ!?養女ってあの養女!?どうして!?」 しこたま驚く先輩殿。 悠介 「んー……ちょっと複雑でね。     先輩が実家に帰ってからすぐに、水穂の意地悪ばーさんが死んだんだ。     で、一応水穂は死に目に立ち会えたんだけどな?そこで言われたんだよ。     『ここから出て行け、お前なんぞに財産は渡さん』って」 春菜 「…………ひどいね」 悠介 「それからは転々と友達の家に泊まらせてもらってたらしいんだけど、     とうとう行く当てが無くなってさ。     追い出され方がひどかったもんだから人間不信……     いや、拒絶されるのが怖くなってたんだろうな。     だからいつしか友達の家にも行かなくなって……」 春菜 「………」 悠介 「人の出す雰囲気に敏感になってたんだろう。     その友達が少しでも『迷惑かな』って思っただけで彼女にとっては重かった。     それで……雨の日だったな。石段の前で倒れてる水穂をルナが見つけたのは。     多分……俺達しか頼る当てが無くて、     でも拒絶されたら……とか思ってたんだろうな」 春菜 「そっか……そんなことがあったんだ……」 悠介 「それから若葉と木葉を実力行使で頷かせて養女って形で受け入れた」 春菜 「気になってたんだけど、どうして養女にしようって思ったの?」 悠介 「ん?そんなの決まってるだろ。     泊めるだけだと、いつ不安が爆発するか解らないからだよ」 春菜 「あ……」 先輩は納得した顔をして、小さく頷いた。 春菜 「でもさ、財政とかって大丈夫なの?」 悠介 「いや、それは全然問題無い。     康彦さんと奈津美さんの保険金もあるし、     そもそもそれ以前に金は腐るほどあるんだよこの家……」 ほんと呆れてしまう。 祓い業以外になんか別の怪しいことでもしてたんじゃないかと怖くなる。 それでも─── 悠介 「それでも、さ。金で親は買えないんだよな……。     保険金受け取ったとき、それが本当に痛いほどに解った……」 春菜 「悠介くん……」 それはもう随分前になるけど。 でも、若葉と木葉が隠れて泣いていたことくらい俺は知っている。 それでもあいつらはそれよりも俺を支えてくれた。 まったく、どっちが年上だか解ったもんじゃない。 悠介 「まあそんなわけだ。まあ金銭感覚が薄れてるのはあるかもしれない。     でも無駄遣いは絶対にしていない自信はあるよ。     なによりセレスが節約と買い物上手でさ。助かってる」 セレス「そんな、わたしも居候ですから」 ルナ 「解ってるなら出てけー」 悠介 「お前が言うなお前が。     あ、それとルナ、お前時間外に摘み食いしたな?」 ルナ 「ゔ」 悠介 「最近どうにも大根と醤油の消費が激しいと思ってたんだが……」 ルナ 「ど、どうしてゆーすけがそれ知って」 あ、と口を押さえるルナ。 悠介 「あのな、調理はもっぱら俺の担当だ。     材料が無くなれば気づくのは当たり前だろうが」 ルナ 「ぶーぶー!誘導尋問はんたいー!」 ぼかっ! ルナ 「はうっ!」 悠介 「だから……お前が言うな!」 ルナ 「わ、わたし誘導尋問なんてしてないもん!」 悠介 「子供ぶるなっ!罰として晩飯ぬき!」 ルナ 「なっ───!ちょ、ちょっと待って悠介ぇ!     謝るからせめて大根おろし醤油だけでも」 心から異常な死神さんを横目に、俺は先輩に向き直る。 春菜 「一番訊きたかったことがあるんだけど、いいかな」 悠介 「うん?なんだ?」 春菜 「どうして『水穂』って呼び捨てなの?」 悠介 「?……妹を呼び捨てにするのは当然だろ?」 春菜 「……納得できてるんだったらいいんだけどさ……」 悠介 「ああ、まあ最初は抵抗があったんだけどな。     水穂が『家族だと思ってくれてるんだったら』って言うから。     それにももう馴れてしまった」 春菜 「ふーん……じゃあさ、悠介くんお姉さん欲しくない?」 悠介 「いらない」 春菜 「うわ、即答」 悠介 「ひとまず理由を聞きたいんだけど、いいかな」 春菜 「ゔ……言ったら了承してくれるって神に誓ってくれる?」 悠介 「だめだ」 春菜 「それじゃあ話がちっとも進まないよー……」 悠介 「神はチェーンソーで惨殺すべき相手だ。     それにどっちかって言うと俺達は神に誓える立場じゃないだろ」 春菜 「……神社が聞いて呆れるけど、確かにそうかも。     それじゃあ何に誓ってくれるの?」 悠介 「んー……暴走メイド喫茶に」 春菜 「うわっ、悠介くんたらそんな趣味が」 ぼかっ! 春菜 「きゃっ!」 ぼかっ!ぼかっ! 春菜 「いたっ!痛いよっ!」 悠介 「これは俺の趣味じゃない」 春菜 「うう……3回も殴った……」 悠介 「で?理由は?」 春菜 「えーと、目標大学落ちちゃいました」 悠介 「………」 春菜 「………」 いきなり『現実』が襲ってきた気分だった。 春菜 「お父さんもお母さんも爺やも婆やも『こんな馬鹿はいらーん!』って言って、     揃ってわたしを追い出したんだよぅ……」 なにやらすっごくシビアだった。 春菜 「しかもその際、水蒔いたあとに塩まで蒔くんだよ?ひどいと思わない?」 ひでぇ。 悠介 「先輩、頭いいと思ってたんだけどな」 春菜 「……ここで問題です。授業の予習復習が出来なかったのは誰の所為でしょう。     1:どっかから死神さんを拾ってきたどっかの誰かさんの所為。     2:どっかから吸血鬼さんを拾ってきたどっかの誰かさんの所為。     3:いつも騒ぎの中心に居たどっかの誰かさんの所為。     さて、どれかな」 悠介 「………」 殺意が混ざってた。 なにやら理不尽な逆恨みのような気もしたが、 ルナやセレスが現れてから落ち着ける時間が無かったのもまた事実。 悠介 「じゃあ、また家政婦さんで」 春菜 「あー、わたし遠慮しちゃうなー。拒絶されたら怖いなー。     わたしだけ仲間外れだと泣いちゃうかもしれないなー。     そしたらレインボーブリッジから伸身ムーンサルトダイブしちゃうかも」 この野郎、策士だ。 悠介 「あ、そうだ。いいアパートがあるから紹介してやろっか。     あそこなら家賃気にせずにバッチリだし」 春菜 「……そっか、わたしだけ仲間外れなんだ……。     そっか……そうだよね……。いいよ、解ってたから……。     どうせわたしは唯一の力を開花されたら影の薄い女ですよーだ……」 悠介 「……先輩、俺が言いまわしに弱いの、解っててやってるだろ」 それ以前に、なんて子供っぽい人だろうか。 春菜 「知りませんよーそんなことー」 悠介 「そうか、ならいいや」 春菜 「あ、嘘だよっ!知っててやってたんだよっ!」 ぼかっ! 春菜 「いたっ!」 悠介 「そんなお行儀の悪いコ、この屋敷にはいりません!」 春菜 「悠介くんヒドイよ……最初っからそう言うつもりだったクセに……」 悠介 「あ、解った?」 春菜 「解るよ。悠介くん冷たいから」 悠介 「で?行く当てはあるのか?」 春菜 「うん、家系とは関係無いところで親の友人の家があるの。     そこの人がまたスケベでスケベで」 悠介 「鶴本か」 春菜 「あれ?よく解ったね」 悠介 「ああ。家系に関係あって、     先輩にちょっかい出そうとするオヤジなんてあいつくらいだ。     先輩にだけ正面きってスリーサイズ訊くんだ、     それくらい面識はあるんだろうってな」 春菜 「うあ……まだ憶えてたんだ、文化祭の時のこと……」 悠介 「ああ、先輩よりは憶えてる」 あの馬鹿のことを踏まえてだが。 春菜 「でも……ああ、わたしの操もこれまでなんだね……。     あんな男の家に行ったらそれこそ、     口では説明出来ないようなあげなことそげなことをされて、     人前に出られないような体にされるんだね……」 悠介 「あのさ、その言い方やめない?」 春菜 「面白い言い方だと思うんだけどな、あげなことそげなこと。     でもね、もし襲われたら悠介くん恨むから」 悠介 「………」 それで折れた。 ていうか折れるしかないだろうがチクショウ。 だがこのままでは引き下がらん。 悠介 「でもさ、それはまず捨てておくとして」 春菜 「捨てちゃダメでしょ!」 ……チッ。 悠介 「えーとさ、先輩にはまだ帰る家があるんだからさ」 春菜 「うん、きっとそう言うって思ってたよ。じゃあ……ハイ、これ」 悠介 「?」 先輩が封筒を渡してくる。 えーと、なになに? 『絶縁状   更待家はこの馬鹿娘を放棄するとともに、  二度と敷居を跨がせないことを総出で同意します』 ………………うおう。 しっかりと『更待』って判子と『春菜』って判子が押されてる。 ていうかオイ!大学落ちただけで絶縁ですか!? どういう家系ですかこの更待って家は! 春菜 「ね……?この一生残る『馬鹿娘』の烙印とともに、     わたしには帰る家が無いんだよ〜……」 果てしなく泣ける溜め息を吐く先輩。 悲惨だなぁ。 馬鹿娘の烙印は痛いだろう。 春菜 「わたしの家は規律が厳しくてさ。     頭の悪いコは置いておけないって昔から言われてたんだよ」 悠介 「うわぁ……」 家系の人物ってみんな馬鹿ばっかりだ……。 悠介 「はぁ……わぁったよ……」 やっぱり折れるしかなかった。 春菜 「あ、お姉さんになる人にその口調はどうかなぁ」 悠介 「気が変わった。鶴本に好きなだけあげなことそげなことされて来い。     あいつは筋金入りのエロで、     その内に学校で問題起こしてクビになりそうな将来性を誇ってる。     きっと滅茶苦茶にされること請け合いだぞ?よかったなー先輩」 春菜 「あぁぁああ嘘っ!嘘ですっ!     わたしあんなハゲに好きにされるのは嫌だよっ!」 まったく……。 悠介 「あ、そうそう。セレスが『居候』って言い張ることには干渉しないこと。     したら殺されかねないぞ」 春菜 「えーと……ああ、年齢が……───っ!?」 セレス「『年齢が』……なんでしょう……?」 春菜 「な、なんでもないですっ、はいぃ……」 セレス「そうですか、わたしの気のせいだったようですね」 ルナ 「おばーちゃ〜ん」 セレス「殺すぅっ!」 ルナ 「やー、殺しちゃいやー、ひぃひぃひぃひぃひぃおばーちゃーん」 セレス「なにを言いやがりますかっ!     貴方だって悠介さんと比較すればクソババァでしょうが!」 ルナ 「アルティメットクソババァに言われたくないわよーだ」 ブチリ。 そんな破滅的な音とともに景色が歪んだ。 悠介 「落ち着け!破壊はご法度だって言ってるだろっ!?」 セレス「悠介さん?ちょぉ〜っと……黙っててくださいね……?」 青筋がビクビクと痙攣を起こすように怒ってる。 だがここで引いていまえば家は間違い無く崩壊するだろう。 悠介 「……血、あげないぞ」 セレス「───」 あ、止まった。 セレス「……お茶が冷めてしまいましたね。淹れ直してきます」 水穂が持ってきた盆を抱え、退室するセレス。 ルナ 「あー、ちょっとネッキー……むー」 悠介 「ルナもさ、あんまりからかうなよ」 ルナ 「んー……解ってはいるのよ?でも構いたくなるってゆーか」 悠介 「そうか、つまり好きなのか」 ルナ 「なっ───だ、誰があんなネクロード級のクサレ馬鹿を!」 悠介 「はいはい落ち着け、大根おろし醤油食わせてやるから」 ルナ 「うん」 慌てた顔もどこへやら。 すっかり大人しくなったルナを見て、俺は苦笑した。 悠介 「そうだ、ルナ。若葉達を呼んできてくれないか?     来なかったら実力行使でかまわないから」 ルナ 「ん、わかった」 笑いながら壁抜けをして消えて行く。 喜怒哀楽の激しい死神さんだ。 およそハーフがどうのなんてものは激しく関係無いと思う。 しばらくしてギャースカと騒ぎが響き、ドカーン!と激しい地震が家を襲う。 ルナ 「おまたせー」 ちょっぴり焦げたルナと妹達が壁から現れる。 ルナ 「あんまり抵抗するもんだから悠介の力借りてドカーンって」 悠介 「そりゃやりすぎだ」 まあいいけど。 悠介 「じゃ、そろそろ始めるか。セレスー、いいかー?」 セレス「はいはい、準備できてますよ」 俺の呼び声にすぐさま現れるセレス。 盆には暖かいお茶が人数分あった。 セレス「どうぞ」 それらを器用に回して行く。 悠介 「よしっ。それでは晦春菜さんの卒業を祝しまして!」 一同 『………』 悠介 「若葉、こういう時はカンパーイと言わなきゃだめだろう」 若葉 「おにいさま、『晦春菜』とはどういうことですか?」 悠介 「喜べ、お前達に姉が出来た。変わりに俺が泣くから勘弁してくれ」 若葉 「おにいさまぁあっ!」 悠介 「いやっ、仕方なかったんだ!いろいろあったんだ!」 若葉 「そんなことを訊いているのではありません!     そ、それはつまり春菜先輩がおにいさまと結婚したってことですか!?」 ……へ? あ、ああ……そうか。そういう受け取り方もありか。 悠介 「いや、純粋にこの馬鹿娘さんが更待家を追い出された上に絶縁されたそうだ」 若葉 「ぜっ……!?」 木葉 「この度はご愁傷様でした」 春菜 「殺さないで木葉ちゃん」 悠介 「そしてな?ここに置いてもらえなきゃ鶴本の家に行くことになったとか……」 若葉 「ご愁傷様です」 春菜 「殺さないでったら」 若葉 「わかりました。そういうことなら仕方ありません。     ……それにしても、これで四姉妹になるんですね……」 木葉 「姉妹とは双子か三姉妹が定常かと思います」 悠介 「なんだ、やけにあっさり引き下がるんだな」 若葉 「わたしも女ですから。鶴本先生と一緒に住むハメになったら耐えられません」 だな。 若葉 「よろしくお願いします、姉さん」 春菜 「え?あ、うん……でも若葉ちゃん、わたしのことは姉さんじゃなくて」 若葉 「駄目です。ここの家族になる以上、女性には規定をこなしていただきます」 春菜 「規定?」 若葉 「木葉ちゃん」 木葉 「はい。晦の規定を読み上げます。     一つ、女性は口調に気をつけるべし。     一つ、家族を大切にするべし。     一つ、作法を尊ぶべし。     一つ、邪魔者とは全力でぶつかるべし。     一つ、想いに忠実に生きるべし。以上の五点です」 悠介 「最初の3点までどれもこれも該当してない気がするんだが」 若葉 「そんなことはありません。     口調にも気をつけていますし、おにいさまを大切に思ってますし、     作法もきちんとこなしてますし」 悠介 「そのどれもがルナとかと対峙すると崩れると言ってるんだが」 若葉 「邪魔者とは全力でぶつからなければいけないんです。だから該当します」 悠介 「……五点目は考えるまでもないな?」 若葉 「当然です」 溜め息が出た。 木葉 「どちらにせよ、お茶で乾杯はおかしいかと思いますが」 悠介 「木葉、ツッコミはいいから」 木葉 「残念です」 悠介 「じゃあもう一度!乾杯っ!」 一同 『カンパーイ!』 ゴシャア! それぞれが思い思いに湯呑みを合わせる。 というか割れた。 悠介 「うわぁちゃあっ!」 若葉 「あっつ……!」 そしてそれぞれが思い思いに小さな悲鳴をあげた。 悠介 「ちったぁ加減しろルナ!」 ルナ 「え?えっ?だ、だってネッキーが……     こういうものは思いっきり合わせるのがいいって……ち、違うの?」 セレス「馬鹿ですかあなたは。     冗談を冗談と理解出来なくては、人生面白くありませんよ」 ルナ 「あー!そういうこと言う!?」 セレス「正論ですよ」 悠介 「あー、そこそこ。喧嘩しない」 ルナ 「だってー」 悠介 「だってじゃない。先輩、ここで一言どうぞ」 春菜 「今日という日にこうしてお祝いしてもらって大変ありがとうです。     捨てられたわたしを拾ってくれた悠介くんにもとってもありがとうです。     ていうか大学落ちたからって絶縁されるとは思ってもみませんでした。     今日からわたしはここの娘になるわけですが───」 先輩は待ち構えていたように喋り始めた。 用意周到というか、準備万端だったというか。 春菜 「───というわけで、これからよろしくお願いします」 話の締めくくりとともにお辞儀をする先輩……いや、姉さんに拍手が贈られる。 悠介 「あーそうそう。参考までに訊くけど『姉さん』と『お姉さま』と、     『姐さん』と『姉御』と『オンディ』と『馬鹿娘』と『春菜姉さん』と、     『春菜さん』と『波動娘』と『グレートハンマーヘッド』。     どう呼んでもらいたい?」 春菜 「………………」 悠介 「………………」 先輩は『うわぁ、どれも嫌だなぁ』って顔をあからさまにする。 解らなくも無い。 自分で言っててアレだが。 春菜 「と、とりあえず……オンディと馬鹿娘とグレートハンマーヘッドと波動娘と、     姐さんと姉御は勘弁してもらいたいなぁ……」 なるほど納得。 俺がその立場だったら死人を出してでも逃げる自信がある。 物騒ではあるが、そこはまあ男として。 悠介 「じゃあお姉さまで」 しかし飽くまでからかうことは忘れない。 最近になってようやくこういうものの楽しみを知った俺にとっては、 こういう話……まあ話題か。 それは新鮮味はあっても退屈は無いものだから。 春菜 「はうっ……それもなんかヤだなぁ……」 悠介 「我が儘だな、姉さん」 春菜 「わたしが悪いんじゃないと思うけどなぁ……」 若葉 「わたしはお姉さまと呼ばせていただきます」 春菜 「あう……だ、だからね?若葉ちゃん……」 木葉 「それではわたしはオンディと呼ばせていただきます」 大真面目な顔で木葉が一歩前へ出る。 春菜 「それは嫌だってば!」 木葉 「何故ですかオンディ姉さん」 春菜 「誰が言われたって嫌な呼ばれ方だよそれは!     悠介くん!木葉ちゃんがおかしいままだよ!」 悠介 「俺に言われてもな……」 春菜 「悠介くんお兄ちゃんでしょ!?」 悠介 「そういう先輩は今からお姉ちゃんだな」 春菜 「話を逸らそうとしてもだめだよ!」 悠介 「逸らしてない逸らしてない……」 木葉 「落ち着いてくださいオンディ姉さん。やかましいです」 春菜 「そう言うならまずオンディって言うのやめてよ!」 木葉 「何故ですかオンディ姉さん」 春菜 「だ、だからやめてったら!」 悠介 「ぶっ……!」 それがまた面白くて、思わず俺は噴出してしまう。 悠介 「オ、オンディか……よろしく、オンディ姉さん」 春菜 「………………」 悠介 「話し合おう。弓矢は人に向けるもんじゃないし光らせるものでもない」 春菜 「話し合いが出来る状態だったらこんなことにはならなかったよね……?」 悠介 「ご、ごもっとも」 溜め息を吐いて、先輩は座った。 ルナ 「ねー、ゆーすけ」 悠介 「ん?どした?」 そんなことには興味をもたずにしきりに酒瓶を振りかざすルナ。 元気なのはいいことだがどことなく目が据わっている。 見ればその酒瓶は空だった。 ルナ 「これなに?」 朱みの差した顔で語りかけてくるルナ。 酔っ払ってる。 この目は間違いなく酔っ払ってる。 悠介 「ああ、鬼神だ」 ヘタにツッコミを入れたら暴走しそうな彼女に、極めて冷静に話す。 丸くなったなぁ、俺も。 ……い、いや、どっちかって言うと臆病になったのか? ………………情けないが、俺じゃあ彼女らに勝てないのですよそこのキミ。 …………なんのこっちゃ。 ルナ 「きしん?」 悠介 「毎年この時期になると注文して造ってもらう酒だよ。     注文予約限定でとても高い。でも康彦さんが好きだったんだ。     だから墓参りの時は墓にこれをかけてる。     で、今日のこれは康彦さんのとは別に予約したってわけだ」 ルナ 「なんで?」 きょとんと首をかしげるルナ。 こいつはこいつで気紛れなところは実にハトチックだ。 是非とも穴から創造してみたくなる。 悠介 「今年はお客様も居るしな。酒、飲めるだろ?」 ルナ 「飲んだことない」 悠介 「うそつけっ!既に空じゃないか!」 ルナ 「えー?これ、ベニーが飲んだのよ?     『我が人生に夢と希望と栄えありーっ!』て」 水穂……お兄さん、ちょっと哀れに思えてきたよ。 いろいろ苦労してるんだろうなぁ。 俺の目に見えるところでも見えないところでも。 主に姉妹の語らいに。 ルナ 「すごかったよ、一気に飲んじゃうんだもん。あ、でもそのあと泣いてた」 悠介 「いや、まあ……なんだ?そっとしといてやれ。     それよりせっかくだ。飲んでみるといい。     ていうかお前、なんで顔朱いの」 ルナ 「え?ネッキーがくれた『うい○きーぼ○ぼん』っていうのを」 悠介 「…………で?何個食ったんだ?」 ルナ 「さあ、百個くらいじゃない?」 悠介 「…………」 馬鹿だ。 うん、こいつは馬鹿以外の何者でもないだろう。 悠介 「あのな、そんなことしてたら太るぞ」 ルナ 「あ、それは大丈夫よ。わたしが願わない限り、体系は絶対に変わらないから」 全国の悩める女衆を敵に回しかねないセリフをしれっと言う死神さん。 悠介 「……そか、で?うまかったか?」 ルナ 「あははー、やだなぁ悠介。美味しくなかったら百個も食べないわよ」 なるほど、正論だ。 それでも程度を知らないこいつはやっぱり馬鹿だ。 ルナ 「それよりさ、これって美味しいの?」 酒瓶を振りまわすルナ。 周りの迷惑なんぞ知りませんといった感じだ。 悠介 「美味さは保証する。アルコール度数も低いしあっさりしてるしな」 ルナ 「ゆーすけ、飲んだことあるの?」 ───パキン。 春の幕開けどころか、破滅の幕開けのような音がした。 若葉 「……おにいさま?まさか───」 悠介 「ば、馬鹿っ!飲んでない!飲むわけないだろっ!?」 ルナ 「じゃあどうしてそんな細かい味とか知ってるの?」 鋭い指摘をしてくるルナ。 ええい、どうしてこの娘どもは人を追い込む立場になると首を突っ込みたがるんだ。 悠介 「康彦さんの言葉そのまんまだ!俺はまだ未成年だぞ!?」 若葉 「良い子ぶってないで、飲みたいと言ったらどうなんですか?」 悠介 「そ───」 そりゃ飲みたい。 そう言いそうになる口を慌てて閉じた。 康彦さん、本当に美味しそうに飲んでたからなぁ。 飲みたくなるのも仕方ないじゃないですか。 人として当然……いや、必然の欲望なんです康彦さん。 このグラスに注がれた綺麗な透明の液体。 香りはとてもよく、本当に酒なのかと疑いたくなる鼻腔擽る香ばしさ。 悠介 「って、なにを勝手にグラスに注いでますかお前は」 ルナ 「え?だってモノ欲しそうに見てたから飲むんじゃないかなーって」 悠介 「………………」 液体を見る。 見れば見るほど美味そうだ。 こんな香りのものが不味いだろうか。 否!不味い筈がない! 悠介 「───よし」 ルナ 「え?」 悠介 「飲め」 ルナ 「………」 悠介 「なに、味は知らんが効能は知ってる。いろんな意味でキクぞ」 ルナ 「?……うん」 悠介 「ほら、ぐぅっといけ」 ルナ 「ゆーすけ、コレなんか特殊な匂いが……」 セレス「クスッ……子供ですね……」 ルナ 「むかっ!の、飲んでやるわよ!なにさ、こんな水!」 ぐいっ。 ルナ 「───……」 ばたり。 飲んだ途端、耳まで真っ赤にしてルナは倒れた。 そして幸せそうにスヤスヤと眠りについた。 セレス「やっぱり子供ですね」 それを見てセレスがクスクスと笑う。 そんな姿を見て、こやつ……できる!などと思っている俺も結構馬鹿だろう。 悠介 「セレス、飲むか?」 セレス「はい、いただきます」 コポコポコポ……。 セレス「はい、こんなものでいいですよ」 悠介 「ああ」 セレス「それでは、いただきます」 くいっ……。 セレス「あ───れ───?」 ぱたり。 ルナに次いで、セレスもダウンした。 セレス「ゆ、ゆうすけさ……こ、これ……」 悠介 「ご名答。霊力や魔力を抑制する力が宿ってる。     造ってるのが月清力で有名な、家系の人なんだなぁ」 セレス「……一服盛られてることに気づかないなんて……ふ、不覚……」 ガクッ。 眠りについたようだ。 悠介 「康彦さん、力を押さえられるこの酒だからこそ好きだったんだ。     その時だけは人間の体でいられる感覚があるって言ってた」 若葉 「あ……それ、憶えてます……。     お父様、このお酒を飲む度に『私は普通の人間だーっ!』って叫んでました」 木葉 「子供みたいな人でした。でも……大事なたったひとりの父親でした」 春菜 「……ねえ、飲もっか」 悠介 「え?」 春菜 「今日くらい、お父さんは許してくれると思うんだ」 悠介 「………」 若葉 「……そう、ですね」 木葉 「賛成です。一度は飲みたい」 悠介 「……そうだな。よし!今日は無礼講だ!」 若葉 「そうこなくちゃです!さすがはおにいさま!」 木葉 「今のはポイントが高いかと思われます」 悠介 「なんのことだ」 木葉 「謎は謎のままの方が時として有意義なこともあるのです」 ますます解らん。 木葉 「お兄さま、お酌を預からせていただきます」 悠介 「自分で注げるって。     それよりせっかくの無礼講なんだから、お前ももっと砕けていいんだぞ」 木葉 「もったいないお言葉です。せっかくですから甘えさせていただきます」 悠介 「そうそう、祝い事なんて結局、騒ぐための口実なんだし」 木葉 「つまり貴様は新たな姉を祝うどころか、     ただ単にハーレム気分で酒をかっくらっていたかったってわけだなこの下衆が」 悠介 「だ、誰だてめぇ!」 木葉 「………」 あ、不服そうな顔。 木葉 「わたしが思う中で最大限、砕けた言葉を選んでみたつもりなのですが。     …………なにがいけなかったのでしょう」 全部だと思います。 普段、キミがどういう目で俺を見てたかが解ったよ。 若葉 「おにいさまぁあっ!」 悠介 「うわっ!な、なんだよ!」 若葉 「お慕い申し上げておりますっ!」 がばっ!と抱き着いてくる若葉。 悠介 「うわっ!こ、こら離せ!」 若葉 「無礼講じゃないんですかー!?それともなんですか!?     わたしとはスキンシップを取りたくないとおっしゃるのですかおにいさまは!」 悠介 「そういう問題じゃないだろ!     っていうか木葉!ウイスキーなんてどっから出した!そしてガブ飲みするな!」 木葉 「景気付けにはこれくらいやらなければ酔えません」 悠介 「若葉が暴走してるのもそれが原因か!?」 木葉 「……フッ」 な、なんなんだよその怪しげな笑みは! 木葉 「自分の酔いを連結魂で流すことなど、造作も無いことです」 クスリと笑う妹。 いっそ、その笑顔が憎らしい。 水穂 「おにーさん!ボクは……ボクはぁ……!」 今まで何処に行っていたのか、水穂がその姿を見せた。 っていうかうわぁ、顔がすげぇ赤いや。 水穂 「───脱ぎます!」 悠介 「話が見えんわぁーっ!!」 康彦さん!無礼講ってなんですか!? 俺、この言葉の意味が解らなくなってしまいました! 腰にしがみつく若葉をも引きずり、縁側に逃げながら天を仰いだ。 すると康彦さんが苦笑いしたような半泣き状態の顔で笑った気がした。 ───ああ、あの人はあの人で苦労してたんだなぁ。 なんて思ったりする。 そんな時だった。 家の中に呼び鈴の音が響いたのは。 若葉を引き剥がし、玄関に向かおうと思ったが。 玄関には確か、張り紙がつけてある筈だと思い出した。 『玄関は壊れてますから縁側へ回ってください』と。 で、大方の予想通りにジャリジャリと小石の上を歩く音が聞こえてきた。 彰利 「よっ、元気でやっとるか諸君」 悠介 「───」 衝撃を受けた。 目の前に居る人物を見て唖然とする。 彰利 「いやあ、元気そうでなによりだ。エデンっぽく見えるのは俺様の目の錯覚か?」 キョロキョロと家の中を見る男。 悠介 「あ……あ……」 名前を呼ぶ前に、どうしてもしなきゃならないことがあった。 悠介 「この馬鹿野郎!」 バガァッ!! 彰利 「ぶっ!?」 思いっきり殴った。 勢いに任せて小石の海に沈む彰利。 彰利 「な、なにしやがんだこの野郎!不意打ちは卑怯だぞ悠介!」 悠介 「うるせぇっ!人が……人がどれだけ心配したと思ってやがる……っ!」 彰利 「え?……ああ」 視界が滲んでいたのに気づく。 彰利はちょっと決まりの悪い顔をしながら立ち上がった。 彰利 「───ってことは、この時代でも俺は死んだってことか……」 そして溜め息を吐く。 彰利 「悪い、殴られる憶えがなかったからカッとなっちまった。     ちなみに、俺はこの時代の『弦月彰利』じゃないんだ」 悠介 「え───?」 彰利 「あー、ここが何度目の歴史かは解らんけどさ。     手紙とかに書いてなかったか?     カゴじいさんに時空転移の云々を教えてもらって、     過去とかに行って戻ってきたって」 悠介 「……確かに、あったな」 彰利 「いま、成功したところだ」 悠介 「なっ───だってお前!『過去とか』って」 彰利 「未来じゃない、なんて書いた憶えはないぞ」 悠介 「そりゃ……そうだけど」 彰利 「それより……」 悠介 「ん?」 彰利 「会えてうれしいよ、俺の知らない……未来の悠介」 悠介 「……馬鹿野郎」 微笑む親友を見て、俺は俯いた。 魁て咲いた桜の花が、ゆっくりと風に舞う頃。 騒いでいたみんなが寝静まった時に─── ぼくは、随分と久しぶりに嬉し涙を流した─── Next Menu back