それは今の物語。

幼い頃から続く、その孤独を背負った者たちを思う。

月の家系と云われたそれは、人外だと言われて人々から隔離されてきた。

そう、人々がその存在を忘れてしまうまで、ずっとだ。

世界から隔離され、嫌われ、やがて忘れられ。

だが、その深層意識には『人前では能力は見せるな』とものが植え付けられ、

それでも使ってしまった少年は孤独を背負うことになった。

だけど、いつからか。

一緒に笑い、泣き、怒ってくれる友達が居てくれるようになった。

無駄に元気だったそいつは、自分に生きる喜びを教えてくれたんだと思う。

感謝することはたくさんあった。

言葉に出来ることも出来ないこともたくさんあった。

でも面と向かって感謝するには照れくさくて。

いつか約束の時が来たなら全てを喋ってしまおうって、そう思った。

───夜空に浮かぶ望月。

ぼくらはその月を見上げながら、あの頃のように笑い合った。

その月が輝くことはもう二度とないから、泣く必要なんてない。

だから最後の時まで、ふたりして笑っていよう。

苦笑でもいい。

時には怒るのもいいだろう。

だけど最後は絶対笑っていられるように。

隣に居る男を道連れにして、人生という旅を飽きることなく続けよう。

願わくば。

いつか彼が話してくれたように、笑顔で筆を置けるように───













───騒件(そうけん)───
……その日はとても穏やかな日だった。 なーんとまあ穏やかな日よ、ってオカマホモさんも言っていたし。 そのあと石段踏み外して転がり落ちてって、 道路に転がっていった途端に車に撥ねられていたけど。 だけど平然と着地するとその車に10円キズつけて、 わざわざ靴を脱いで裸足で駆けていった。 その次の瞬間にお犬の落し物を踏んで絶叫してた。 うん、確かに穏やかな日だった。 ……ある人に呼び出されるまでは。 女生徒「ね、ねぇ紅さん」 水穂 「あ、今は晦ですよ。……って……えと、宮間さん?」 宮間 「そ、そう、うん、宮間。宮間加奈子」 水穂 「えっと……なんの用ですか?」 加奈子「え、うー……っと……こ、ここじゃアレだから校舎裏に来てっ!」 水穂 「……?」 この時、その時点で断ればよかった。 押しに弱い自分が人からの真剣な頼み事を断れるわけがなかったんだから。 せめて少しは真剣味のない今が、最後のチャンスだったのに─── ……勢いに引かれて校舎裏。 隣のクラスで中々有名美人だった宮間加奈子さんがボクに何の用なんだろう。 はっ……これはまさかイジメ!? 加奈子「こ、これをっ!」 バッ! 突然何かを取り出してわたしに向ける。 ま、まさか凶器!?……って…… 水穂 「て、手紙……?」 加奈子「あ、あの……晦悠介さんに……」 水穂 「え?…………え……?………………えぇええええええええええっ!!???」 ……叫んだと同時にキンコーンとチャイムが鳴った。 それがオチを知らせる合図みたいに聞こえて、ボクはその場に尻餅をついた。 ビシィッ! 彰利 「むーん!」 バシィッ! 彰利 「フンハァッ!」 バシビシィッ! 彰利 「……うーむ、今日も我が筋肉の躍動が美しい。     やはり朝はラジオポージング体操に限りますなぁ。     あそーれチャ〜ンチャ〜ンチャチャ〜ンチャカチャ〜ンチャ     チャ〜ンチャ〜ンチャチャ〜ン♪フンハァッ!」 ビシバシィッ! 彰利 「ぬおお、このポーズを取った瞬間に鳴る音がたまらん。     もはや俺のポージングは音速さえも超え、自然が織り成す演奏すら奏でる。     音速拳だって目じゃねぇ!ああ!俺、今とっても輝いてる!」 ギシャアア! 彰利 「ハァッ!フンハァッ!フンハァッフンハァッ!」 ビシィッ!ビシバシィッ! ビシビシバシビシィッ! 彰利 「……FUUUUUM、朝のラジオポージング終了っと。……って、どしたの水穂ちゃん。     あ、もしかして俺の体操に見惚れてた?いやーんアタイ照れちまう」 水穂 「………」 彰利 「無視!?」 ……次の日の朝。 わたしは手紙を持ったまま渡すべきかを思案していた。 朝早くということもあって、まだお兄さんしか起きてない。 静かに考えれる時間だった筈なのに…… 彰利 「ウィ?」 ……なんの誤算か、オカマホモさんが朝の庭でポージングを取っていた。 ご丁寧にラジオまで持ってきている。 彰利 「気分晴れないなら一緒にどうだい?これでキミもマッスル物語のファン決定!」 水穂 「そんなファンになりたくないです」 彰利 「なにぃ!?マッスル物語を馬鹿にするなよ!いいか!?マッスル物語はなぁ!」 突然熱弁し始めるオカマホモさんを無視して、手の中の手紙を見る。 ……渡してくれ〜って…… 学校に居る人はてっきり、みんなおにいさんのこと嫌ってると思ったのにな……。 ご丁寧に赤くなって渡すなんて、律儀というかなんというか…… 彰利 「お?手紙ですかな?」 水穂 「……へぅ?あ、はい……」 彰利 「……ぬう、なにやら嫌な予感を彷彿させる紙だな。誰宛?」 水穂 「おにいさんです……」 彰利 「───……えっとさ。     もしやとは思うけど……ラブレトゥァーの配達頼まれた───     ……なぁんてことないよねー!?ははははは!」 水穂 「………」 時々、この人の鋭さには感心する。 彰利 「ゲェ!?黙りこくっちゃならねぇー!     それってもしかしなくても肯定の合図!?     さ、させねぇ!アタイのダーリンに向かってなんてもん送りつけやがるか!     よこしなさい水穂ちゃん!そんなモン俺が食ってやる!」 水穂 「えぇ!?だ、駄目ですよそんな!」 彰利 「なにぃ!?ええのかい!?うぬだって渡すか渡すまいか悩んでたのは、     悠介が取られるかもしれないって不安があったからじゃろぅ!?えー!?     黙ってたって無駄さ!あたしにゃちゃーんと解るよ!」 水穂 「違います」 彰利 「……そ、そう?決め付けるのはよくないよね、うん」 ひとりで納得してうんうんと頷くホモさん。 水穂 「いえ、あの……ラブレター……かもしれません」 彰利 「コケェーッ!」 ガチンッ! 水穂 「ひゃあっ!?な、なにするんですか!」 彰利 「それをよこしなさい!アタイがヤギのごとく食っちゃるから!」 水穂 「今コケェーッて言ってましたよ!?」 彰利 「インドのヤギはニワトリのように鳴くんじゃい!」 水穂 「わー!すっごく無茶苦茶ですよーっ!」 ガチンッ! ガチンガチンッ! ホモさんの歯が空を噛んで音を鳴らす。 どうやら本気で食べるつもりらしかった。 ボクはそれをかわしながら───ドンッ! 水穂 「あっ!」 ───いつの間にか追い詰められていた。 彰利 「クォックォックォッ、さ、さあ水穂ちゃん、大人しくその手紙をアタイに」 水穂 「だめですっ!渡せません!」 彰利 「なにぃいい、それじゃあ体に解らせるしかねぇのぅ……ムヒョヒョヒョヒョ」 水穂 「や、やだぁああああああっ!!」 彰利 「うお!何気にショック!そんな声高らかに叫ばんでも冗」 悠介 「───……」 彰利 「んお?やあダーっぎゃああああっ!?あ、いや、違うんですよ!?     別に本気で何かしようとしたわけじゃ……ねぇ水穂ちゃん!」 水穂 「うぐっ……ひっく……ホ、ホモさんがボクのこと弄んで、     『クォックォックォッ、ここか?ここがええのんか?』って……」 彰利 「イヤァアアアアアアアアッ!!なんかえらいこと言ってるーーっ!!     あ、でもアタイの口調を的確に掴んだコメントだね。     100点満点だ。オウイェーイ♪でもこんな嘘で騙される人が居るわけ」 ボゴォッ! 彰利 「ゼブラ!」 悠介 「……覚悟した上でやったんだな……?」 彰利 「イヤァ騙されてるーッ!ちょっと冷静になって考えてダーリン!     こんなのちょっと考えればいいだけじゃない!ね!?今ならお得でっせ!?」 悠介 「死ねぇえええええええっ!!」 彰利 「殺人確定!?ギャアアアアアアアアアアアアッ!!」 目の前でボコボコにされていくホモさんを眺めながら十字をきった。 どうか大往生できますように。 ……しくしくしくしく…… 家の中に鬱陶しい泣き声が響き渡る。 誰のでもない、彰利のものだ。 悠介 「いい加減、嫌なことがあったらそうやって泣くのなんとかしろよお前……」 彰利 「だったらダーリンも少しは人の話聞いてよ……」 悠介 「お前の話は真面目かどうか見極めるのが大変すぎるんだよ」 彰利 「うむ、いつも真剣に冗談言っているからな。俺様最強!超最強!」 悠介 「落ちつけ」 彰利 「でさ、結局どんな手紙だったん?」 悠介 「教えん」 彰利 「ええ!?なんで!?」 悠介 「いや、なんとなく」 彰利 「……イジワルしないで見せてよダーリン……アナタの生まれた時の姿を」 ドボォッ! 彰利 「ッッゴ───!」 悠介 「寝言は寝て言え」 彰利 「よし、添い寝は任せた」 ドボォッ!! 彰利 「ゲブゥ!」 悠介 「夢遊病なら余所でしろ」 彰利 「うう、いっそホントに夢遊病だったらその人格にこの痛覚を送りたい……。     ところでさ、夢遊病の時ってちゃんと動かしてるのは自分の人格なのかな」 悠介 「そんなこと俺が知るか」 彰利 「だよね〜ィェ」 ……実際、まだ手紙は読んでいなかったりする。 なんていうか読むのが拒まれるっていうか、本能っていうか。 でも……ま、見なきゃ書いた人に失礼だわな。 えーと……? 俺は封を開けて中から手紙を取り出すと、目を通してみた。
───拝啓、晦悠介さま。 此の度、あなたに手紙を贈らせていただいたのには理由があります。 まずそれをご理解ください。 実は神社の神主であるあなたにお願い事があるのです。 どうかわたしとお義理でお見合いをしてください。 ……お返事は明日までならいつでも構いません。 どうか───                          宮間加奈子
…………これって……。 悠介 「なぁ彰利」 彰利 「えぇ!?いきなり告白!?」 悠介 「寝言は寝て言え」 彰利 「……まるで待ち構えてたような即答ですな」 悠介 「でだ。お義理ってなんだ?」 彰利 「オウ?なんじゃいダーリン、神主なのにそんなこともしらんのか。     お義理ってのはさ、誰かの義理を立てて、     その人が喜ぶようなことをすることだよ。     ホレ、例えばお世話になった人が居たとして、     その人がなんらかの何かが見たい〜とか言ったら、     ウソでもそれを演じるとかそんなことだ。……多分」 悠介 「そっか。……ていうかそれ、神主がどうとかって全然関係ないぞ」 彰利 「そうね」 悠介 「………」 彰利 「ねぇダーリソ?お義理がどうかとか書いてあったのか?」 悠介 「ああ」 彰利 「どんなことを要求?」 悠介 「……怒らないか?」 彰利 「怒る」 悠介 「決断早ェよ!」 彰利 「ダーリンがそんなこと言うなんて天変地異の前触れでも無ェよ!     テメェこらダーリン!いったいなんのお義理を授かった!」 悠介 「………」 彰利 「あーん!?」 悠介 「あーんじゃねぇ!」 彰利 「はい、あーん♪」 ボギャア! 彰利 「アビバ!」 悠介 「ふざけてる場合じゃないんだよ!ていうかそのウィンナー何処から出した!」 彰利 「こんなこともあろうかと冷凍庫で凍らせておいたやつだ。噛むと唇剥がれるぜ?」 悠介 「……お前ってどうしてこういう無駄なことにしか時間割かないんだよ……」 彰利 「ハッハァーッ!愚問軍門ドラエもーん!無駄こそパワー!無駄こそコスモ!     俺には無駄を無駄と思う心意気なぞ無いのだ!」 悠介 「…………立派な理論だな」 彰利 「オオウ、センキュベリマー」 悠介 「てわけで俺もう寝るから」 彰利 「待って」 悠介 「止めてくれるな。俺はもう眠いんだ」 彰利 「眠りにつくその前に手紙の内容を教えて?」 悠介 「だめだ」 彰利 「ああんいけず♪そんなダーリンはザ・ワールドォオッ!時よ止まれ!」 悠介 「なにぃ!?」 ドッギャァアーン!! 彰利 「…………フフフ、今より10秒間だけこの世界は我の者ぞ。     どうやら、俺を軽く見たのがお前の敗因のようだな……。     こんなこともあろうかとシェイドの野郎にコツを教わっといたのよ……!」 スッ─── 彰利 「……ふむ、なになに?───ギャアア!?」 ドッギャァアーン!! 悠介 「───はっ!」 彰利 「は、はああ……!」 悠介 「……あ、あーっ!てめぇそれ返せ!」 彰利 「き、貴様ダーリン!お見合いってどういうこった!」 悠介 「だぁぁあっ!馬鹿!声が大きい!」 ルナ 「お見合い!?」 ギャア!来ちゃった! ズパーン! 彰利 「キャア!?全自動フスマ!?なんてハイテクな!……って若葉ちゃんか」 若葉 「お見合いってどういうことですか!」 木葉 「……無断失踪の次は帰って早々見合い……?さすがにキレますよお兄様……!」 悠介 「ま、待て!落ち着け!これは」 彰利 「これは!?これはなんだっていうのよダーリン!」 悠介 「急かすな煽るな黙ってろボケ!」 彰利 「キャアヒドイ!なにも一気に4回も罵らなくても!」 ルナ 「悠介!どういうこと!?」 悠介 「うー……俺に手紙が届いたんだよ。ほら」 ルナ 「うん……?」 若葉 「よこしなさい!」 ルナ 「あっ!ちょっと!」 若葉 「───なっ……!」 手紙に目を通した若葉が青筋をヒクつかせながら唸った。 若葉 「……宮間加奈子……前から気に入らないヒトでしたが……。     まさかこのようなことをねぇ……!」 木葉 「暗殺はいけませんよ姉さん」 若葉 「しませんっ!」 ルナ 「ちょっとー、よこしなさいよー」 若葉 「………」 ルナ 「ん、ありがと。なになに……?───」 ギロリ。 悠介 「俺は無実だ」 何かを言われる前に弁解を果たしておく。 うむ、なんて経済的。 ルナ 「どういうことよこれはー!」 悠介 「俺は無実だって言っただろ!?理由訊かれても解らんわ!」 ルナ 「ホモっち!」 彰利 「なんじゃいルナっち」 ルナ 「宮間加奈子って知ってる!?」 彰利 「フッ、愚問だなルナっち。     俺のオナゴデータベースにかかりゃあ、     この月詠街の10〜20までの年齢は完璧ぞ。     なんならその年齢対象全員の名前とスリーサイズを網羅してくれようか?」 悠介 「……それやるならその前に友達の縁切らせてくれ」 彰利 「なにぃ、それはいけねぇ。それなら仕方ねぇ、素性だけにしとこうか。     宮間加奈子───性別=女。身長158、B73、W46、H78。     上流家庭……まあつまりはお嬢様として生まれ、     習い事やらなにやらをやらされて文武両道最強女子高生。     髪の色は当然黒。髪を染めることとチャラリーナさんを嫌い、     流行にも無関心のためにソレ系の友達は少ない。     好きなものは日本文化など。習い事ってのも日本文化……まあ茶道とかだな。     茶道弓道華道など、さまざまな物事をこなしてる。     憧れだった先輩が更待先輩殿で、     彼女に触発されて元々は入るつもりの無かった弓道部に入部。     ……こっからはちと気に入らんが、当時中学生……まあ女子校だったらしいが、     その時に男にからまれているところをひとりの漣生に救われる。     ……名前を明かさずにさっさと男どもを気絶に導き、彼女を救った男。     その男の最後のセリフってのが……『寝言は寝て言え』だそうですよ悠介」 悠介 「……あの時のか……ていうかご丁寧にサイズまで言ってんじゃねぇ」 彰利 「その助けられた際に男に面識の無かった彼女が興味とともにホレてしまって、     その名前を明かさなかった男の素性をガード達に調べさせた。     まあ制服姿だったのが災いしてあっさり発見される。     そんで、彼女は中学卒業後に漣高等学校に入学。     が、入ってみればホレた人は校内の嫌われ者。     しかも近づこうとすると……ひとりの変態に行く手を阻まれ……変態……」 悠介 「……自分の言葉で傷つくなよ……」 彰利 「あー、まー、そういうこともあって、     周りが気になってその彼に話し掛けることが出来なかったらしい。     ところがギッチョン、その彼の妹が同じクラスだと知ると、     早速彼についていろいろと詮索する。     それによって若葉ちゃん+木葉ちゃんに嫌われる」 若葉 「馴れ馴れしいんですよ。わたしのおにいさまのことを根掘り葉掘り」 木葉 「姉さん、わたし達の、です」 彰利 「しかし懲りずに聞き出そうとしたため、     とうとうキレた若葉ちゃんにマッスルリベンジャーで叩き潰されたのだ」 若葉 「潰しません!」 彰利 「いや驚いたよ、空に飛んでいったと思ったらさ、     『その賢いオツムを完璧に破壊してやるーッ!』てニセリベンジャーを」 若葉 「してないと言っているんです!」 彰利 「なにぃ!?アタイの情報が間違っているとでも!?」 悠介 「当たり前だ。だいたいそんなことされた人がここに手紙出すわけないだろ」 彰利 「しまった!裏をかかれた!」 裏って……そうかぁ? 彰利 「そんなことよりどうすんのダーリン!行くの行かないの!」 悠介 「んー……まぁ、明日までならいつでもいいっていうし。     適当に考えるよ。そんじゃな、俺は部屋に戻ってる」 彰利 「……賢い判断を期待しておりますぞ!」 悠介 「解った解った……」 どういう言い方だよまったく……。 ───……。 彰利 「んー……」 ルナ 「むー……」 彰利 「なぁルナっち」 ルナ 「なによホモっち」 彰利 「ダーリンてば懸命な判断をしてくれると思うか?」 ルナ 「そんなのわたしが知るわけないでしょ?」 彰利 「チッ、使えねぇヤツ」 ザクッ! 彰利 「キャーッ!?せ、背中がー!背中に愛の鎌が深々とー!」 ルナ 「せめて聞こえないように言いなさいよねまったく……」 彰利 「………」 ルナ 「……ホモっち?」 ズル……ズルズル…… ルナ 「なっ……あわわわわっ!!背中の亀裂から脱皮していってるーっ!」 彰利 「フフフ、これでアタイも男として一皮剥けたぜ?」 ルナ 「剥けすぎよ!あなたホントに人間!?」 彰利 「少なくともルナっちよりは人間じゃぜ?」 ルナ 「ぐっ……確かにそうだけどなんか納得いかない……っ!」 そもそも人類として見ていいかが問題だ。 彰利 「さてと、そろそろダーリンも決断出来たかのう」 ルナ 「さあね」 彰利 「ア、アアアアタイがそっと覗いて、の、のぞっ……!」 ルナ 「……わたしが行くわ」 彰利 「なにテメこのヤロ!そげなこと言って、ダーリンの着替えを覗く気だな!?」 ざくっ! 彰利 「キャーッ!?」 ルナ 「あなたと一緒にしないで」 彰利 「なにぃ!?俺様を『あなた』と呼んでいいのはハニーとダーリンだけぞ!?」 ルナ 「そっちの意味じゃないわよ!」 彰利 「へん、ヒス女の嫉妬はいつの世もやかましいっす。     そこで一生空気と談笑してればいいっす。俺っちは兄貴の様子を見てくるっす」 ルナ 「……シャドウ」 ズブリュ───! 彰利 「ん?ややっ!?な、なんザマスかこの黒いドロドロは!」 ルナ 「物質固定式体、シャドウよ。つまりは使役してる影ってとこかしら。     人ひとり固定するくらい、わたしの力でも簡単よ」 彰利 「な、なにー!?これルナっち!今すぐ外しなさい!     ダーリンの悩む姿はアタイだけが」 水穂 「あのー」 彰利 「なんじゃい!この忙し水穂ちゃーん♪どうしたんだい突然」 水穂 「突然にしたのはあなただと思いますけど。     おにいさん何処に行ったか知りませんか?」 彰利 「ほへ?ダーリンなら部屋に」 水穂 「え?居ませんよ?なんか窓が開いてて」 彰利 「………」 ルナ 「………」 彰利 「しまったぁっ!」 ルナ 「謀られたわ!そういう手があったか!」 彰利 「ダーリン!?ダァアアアリィイイイン!!」 こうして彼は行方をくらました。 忘れられた村以来の失踪だった。 ─── 悠介 「……ここか。手紙の裏に指定場所があったから来てみたが……」 加奈子「悠介、さん?」 街の公園の裏側にある広場のベンチ。 そこに、彼女が座っていた。 加奈子「ああ、やっぱり悠介さんだ……。     お久しぶりです、いつぞやはありがとうございました……」 悠介 「………」 加奈子「……あの、何を泣いておらっるのですか?」 悠介 「い、いや……普通の子っていいなぁ……って……」 嗚呼、この知らず知らずの内に頬を伝う涙はなんなの……? そう心に訊ねてみたら、答えはあっさり返ってきた。 つまりは『普通』に少しからず憧れていた己自身の涙ザマスと。 加奈子「それで、あの……お返事を聞かせてもらえるのでしょうか……」 悠介 「その前にひとつ訊かせてくれ。     ……もし俺がここに来なかったら、ずっとここで待ってるつもりだったのか?」 加奈子「はい。それがなにか……?」 悠介 「……いや、なんでもない。それで返事だけど」 加奈子「は、はい。覚悟は出来ています」 どこか諦めたように俯く宮間さん。 ……元より、吉報は望んでいなかったようだ。 悠介 「……いいよ、やろうか」 加奈子「そうですよね、やっぱり……ええっ!?」 悠介 「構わないよ、お義理」 加奈子「───……」 ふらぁっ…… 悠介 「ぉおわっ!?ど、どうした!?貧血か!?」 加奈子「あ───す、すいません……あまりに嬉しかったもので……」 悠介 「……なんか理由があるんだろ?もう学校卒業した俺に頼むくらいの」 加奈子「…………解りますか?」 悠介 「これでも人を見る目はあるつもりだ」 言って、支えてた彼女を立ち上がらせ、頭を撫でる。 加奈子「あ───……」 悠介 「……ぐあっ」 ギャア!また撫でちまったい! し、しかも久しぶりに会ったっていう女の子に……! ……少々自分の人間性について悩む瞬間だった。 加奈子「………」 悠介 「……うん?どうかしたか?あ、もしかして顔に何かついてるか?」 加奈子「い、いえ……ただお父様もこうして頭を撫でてくれたことがありました」 悠介 「……過去形なんだな」 加奈子「あ、いえ、父はまだまだ元気です。ただ、少し変わってしまわれたのです。     後継ぎが欲しいと言って、わたしにお見合い話ばかりを持ってきて……」 悠介 「……ふむ。好きでもない人と見合うのは嫌だな。それでお義理ってわけか」 加奈子「はい。わたしはお父様が大好きです。     そのためなら、たとえウソをつくことになっても……」 悠介 「そっか。わかった、それじゃあ俺はどうしたらいい?」 加奈子「その、大変差し出がましいのですが、     以前からわたしとお付き合いをしていただいていたということにしてもらって、     あとはわたしの話に合わせてください」 悠介 「待った。俺はキミをなんて呼べばいい?」 加奈子「あ、の……そ、そこまで考えていませんでした……」 悠介 「そっか、それじゃあ加奈子ちゃんでいいかな?     あ、もちろんその親の前ではさん付けで呼ぶけど」 加奈子「あ───出来れば……呼び捨ての……方が……」 悠介 「うん?何か言った?」 加奈子「めめめ滅相もございません!」 ブンブンと激しく首を振る加奈子さん。 悠介 「それで、そのお義理の日付は?」 加奈子「今日です」 悠介 「…………なにぃ!?」 加奈子「悠介さんが来たらすぐに始めるつもりでした。     最低でも明日実行できれば申し分無かったんです。だから……」 ……しかし、心の準備というものが、だな……。 加奈子「それではこちらにいらしてください。迎えの者を待たせております」 悠介 「あ、い、いや、ちょっと待ってくれ心の準備が───!」 黒和服「……失礼します」 悠介 「おわっ!?あ、や、やめろってこらーっ!」 無理矢理車に詰められ、その車がさっさと発進する。 さすがに殴るわけにはいかなかったので済し崩し状態のまま、 俺は面倒事に巻き込まれることになった……。 ……いや、自分で決めたから毎回ほどじゃないんだけどさ。 あ、精神面の巻き込まれ状況の話ね。 …………。 ガチャッ。 ドアを開けられた先は江戸時代のような場所だった。 どこもかしこもそれっぽい。 もちろん俺がそれに反応しないわけもなく…… 悠介 「お、おおお……!江戸だー!日本だ和服だ黒髪だー!」 例のごとくハシャいでしまった。 加奈子「昔ながらの風景はお好きですか?」 悠介 「嫌いなわけがない!むしろ好きだ!今の世の中がどうかしてるんだ!」 加奈子「……やっぱり思った通りです」 悠介 「え?なにが?」 加奈子「初めて助けていただいた時から、昔などの風景好きの波動を感じていました」 悠介 「波動……」 まあ一種の同類探知機か。 加奈子「それではついてきてください。衣装を替えましょう」 悠介 「和服?和服か?」 加奈子「はい。洋服などでお見合いをしたらお父様に首を撥ねられますよ」 悠介 「うお……」 加奈子「……はい、ここです。この部屋にある服、どれでも好きなものを選んでください」 悠介 「ん?ああ……」 スゥ───トン。 襖をずらして中に入る。 その部屋は衣装部屋のようになっているのか、それとも俺のために用意してくれたのか。 和服だらけで埋まっていた。 悠介 「………」 思わず口が半開き状態になる。 こ、こりゃ驚いた。 加奈子「悠介さん……?あ、もしかして着付けが解りませんか?それならばわたしが」 悠介 「それは大丈夫だ。     女の着物でさえ着付けの手伝い出来るほどだ。まあ待っててくれ」 加奈子「はい」 ───…… ………… 悠介 「お待たせ」 加奈子「わぁっ、確かに慣れていますね」 悠介 「趣味みたいなものだからな。流石に舞踏とかはやらないけど」 加奈子「そうですね」 加奈子さんはそう言うと、クスクスと笑った。 黒和服「か、加奈子さま!剛漸(ごうぜん)さまがお越しです!」 加奈子「お父様が?」 悠介 「うおっ……」 あ、あの……なんか展開がすごく早いんですけど? 心の準備くらいさせてくれないのでしょうか。 加奈子「悠介さん、こちらです」 悠介 「あ、あぁぁちょっと!こ、心の準備をぉお!あーっ!」 Next Menu back