───髻系(もとどりけい)───
彰利が泣き叫びながら姿を消して一週間が経った。 時間が流れるのは早いものだとか思いつつ、俺は屋根に登って考え事。 悠介 「……今日もお空が綺麗だなっと」 意味も無く呟いてみる。 考えているのは他でもない、冥月と沙姫のことだ。 さっきも語ったように、一度起こった全面戦争もどきから一週間が経つ。 水穂とセレスとは仲がいい沙姫と冥月は、他の人々とは滅法仲が悪い。 いや、どちらかと言うまでもなく……冥月と沙姫は争う気はない。 ただ、何が気にいらないのか妹や姉や死神さんが襲いかかってる。 いい加減にしろと言っても、 『悠介がハッキリしないから!』とか、訳の解らん言葉を返してくる始末。 ……俺、何かしたっけ? とまあ、このようなことで悩んでいるわけであります。 世の中ってホントに解りません。 悠介 「……どうしたものかなぁ」 モシャアと出る溜め息もどこか暗い。 安堵の溜め息なんてここ最近は吐いてない。 そんな中で思うことは友人のその後だった。 悠介 「……どうしてるかな」 彰利の変態的なフェイスを思い出して少し笑う。 やっぱりあいつがいないと別の意味での刺激が足りない。 なんていうか、あいつが居ないと争いごとが本当に争いごとすぎるんだ。 あいつが居るだけでどんな争いも緊迫感が消える。 そんな意味では、あいつは相当貴重な存在だったってことが最近になって解った。 だが、いつもなら呼べば飛んでくるあいつが今では姿も見せない。 呼んだって来やしない。 探すにしたって何処に行ったかなんて解らないわけだ。 なにか手掛かりでもないものか……。 ルナ 「……悠介、考えごと?」 悠介 「ん?ああ、ルナか」 ルナが空中に現れて俺の顔を覗き込んだ。 俺は人と話す気分でも無かったのでそのままボ〜っとした。 ルナ 「ホモっちのことで悩んでる?」 悠介 「んあー……まあそんなとこだ〜」 気のない返事で返す。 実際気がないのは確かだ。 気合の気の字もない。 悠介 「お前はどうしたんだ?屋根に現れるなんて珍しいな」 ルナ 「うん、ちょっと悠介に訊きたいことがあって」 ルナが真面目な顔で俺を見る。 俺はその顔に応えるように意識をハッキリとさせ、体を起こした。 悠介 「どうしたんだ?沙姫のことならもう勘弁してくれよ、耳にタコだ」 ルナ 「あの小娘のことはどうでもいいの。悩むのも馬鹿らしいわ」 だけど不機嫌そうにそっぽ向くルナ。 相当仲が悪いらしい。 せっかく最近はセレスとのバランスも取れてきたのになぁ。 ルナ 「そんなことより悠介、わたしの大根畑、荒らした?」 悠介 「へ?馬鹿お前、俺がそんなことするわけないだろ」 ルナ 「……そうだよね、うん。なんか最近になって、やけに荒らされてるんだよね。     足跡の大きさは猿みたいだったけど、ついこの前までは大人しかったのに……」 悠介 「ふーん……」 大根か。 そういえば猿って大根食うんだな。 今更だが驚きだ。 トウモロコシなら食うって知ってたけど。 悠介 「とにかく俺は知らないよ。猿の足跡があるなら猿だろ?」 ルナ 「……ん、そうだよね。ごめんね、手間取らせて」 悠介 「へ?あ、ああ」 ルナはそれだけ言うとさっさと屋根を通過して視界から消えた。 ……珍しいな、そのまま引き下がるなんて。 いつもならしつこいくらいに纏わりついてくるのに。 ……まあ、これはこれでありがたい。 悠介 「───さて」 先ほどのルナの証言を心の中で反芻させてみる。 ……猿、猿ねぇ。 まあ、暇だし調査してみるか。 息を吐いて立ち上がって、まずは屋根の上に乗ったままルナ畑を見てみる。 ルナ畑はところどころに穴が空き、 それが大根を盗まれたからだということが見て解った。 悠介 「ふーむ……ん?」 およ?動く物体ハッケーン。 ……って、猿だな。 なにやってるんだ? 猿  「………」 猿はキョロキョロと辺りに警戒しながら畑へ侵入した。 そして大根をグボォッ!と引き抜いて、そのままの足で去っていく。 悠介 「───犯人発見!」 俺はニヤリと笑って屋根から飛んだ。 自分の体を飛ばせる風を身に纏いますって創造をしてだ。 俺の体は上手く風に乗る。 いつかのように噴射系じゃないので体力が消耗し続けることはない。 悠介 「……空の旅っていいもんだな」 自分の能力に感心を持つ。 こんなスバラシイ眺めじゃあ……『見たまえ、人がゴミのようだ』などと、 ムスカくんの真似をしてしまいたくなるじゃないか。 ……しないけどな。 悠介 「さてさて、あの猿のアジトは何処に───ん?     なんか木が密集してて見えない部分が……あそこか?」 猿は空からでは見えない森の中に姿を消した。 俺はちょっと惜しいなとか思いながら地上に降りて、その姿を追う。 悠介 「いつっ!チィ、まるで獣道だなっ……!     手入れもされてないから枝や草が伸び放題だ」 それでも無視して走る。 ……と、なんだか妙な音が聞こえ始めた。 それはなんていうか、太鼓かなんかの音のソレとよく似ていた。 そんな音に気づいた次の瞬間、視界は開ける。 薄く光の差す森の広場の中、その猿の集落のような場所はあった。 そして。 猿A 「ウィキキキ、ウキャッ」 猿B 「ウィキー、ウェキャッ」 猿C 「ウキャキャキャ、ネギィー」 猿が踊るようにして戯れていた。 俺はそんな光景を眺めながら、 そういえばあの音はなんだったんだろうと思い、辺りを見渡した。 すると、ある一定方向からその音は鳴っていた。 ドンドッコドンドッコ!と、ちゃんとしたリズムを取っている。 悠介 「……猿が数匹集まって太鼓叩いてら……」 すごいな、こんな猿も居るのか。 ……さて。 そんな珍しい景色を目の当たりにした俺は、 この中に大根を持った猿は居ないかと目を凝らした 悠介 「…………居ないな」 何処行ったんだ? 見事に見失ってしまったじゃないか。 そんな悩み事をしている最中も、リズムは続いてゆく。 そしてそのリズムが最高潮に達したとき、それは起こった。 突然、辺りの雰囲気が変わった。 リズムにも変化が訪れ、俺も思わず息を飲む。 ドンドコドンドコ! ズンバコズンドコ! ドンドンドンドンドン! 彰利 「アイヤーッ!!」 ……そして絶句。 リズムが完成されたのち、彰利が猿に崇められていた。 彰利 「ありがとう、ありがとう。いやー、ありがとう」 そして何故か次の瞬間、猿にモノを投げつけられまくっていた。 悠介  <なんで!?> そう思っている間にも彰利は猿の群れに襲いかかって大乱闘をしている。 リーダー争いでしょうか。 しかし崇めた次の瞬間に乱闘ってのもスゴイな。 彰利 「たわけめがーっ!幾度やろうとうぬらではこの変王には勝てぬわ!」 彰利が拳を振るう度に猿達が蹴散らされてゆく。 でも変王は格好つかないだろ彰利よ……。 悠介 「猿相手に勝ち誇ってもしかたないだろうが」 彰利 「え?ギャア悠介!貴様どうしてここが!?」 悠介 「大根奪っていった猿を追いかけてな。……それよりどういうことだこれ」 彰利 「うおう?えーと……話せば長くなるんだが」 彰利が倒れた猿を見下ろしながらぽつぽつと語り始める。 彰利 「山に修行に出たはいいけど腹が減ってね、     だからこの猿の集落に忍び込んで大根とかをかっぱらい返したのよ。     そしたらあっさり見つかって襲われちゃってね、     そして勝ったらいつの間にかボスにされちゃった」 悠介 「………」 そりゃすげぇや。 悠介 「冥月と沙姫のことはもういいのか?」 彰利 「いやー、自然と触れ合ってたらなんかもうどうでもよくなっちまったダスよ。     ってわけで俺はもうちょいこの自然を堪能してから戻るっす」 悠介 「まあ、好きにしたらいいと思うけど……     ここで生活してる割には服とかも綺麗だな。     もうキャミソールじゃないみたいだし」 彰利 「ああ、一応家には帰ってるからな。     一度離れてた分、粉雪の顔を見ないと落ち着かないんですよ。     アタイも変わったわぁ。でも悪い気はせん。家庭ってステキ。     ちなみに服は粉雪の親父さんのものを粉雪が譲ってくれてのう」 悠介 「そか。まあ元気でやってるならよかったよ」 彰利 「あら?もしかして心配してくれてた?」 悠介 「まあな、さすがにお前が一週間も顔出さないのは珍しいから」 彰利 「そっか、もうそんなになるか。     俺としてはこいつらとじゃれつくのも悪くないと思ってるんだがね。     蹴散らすっていっても慈しみの調べを装備しながらだし」 悠介 「お山のボスは楽しいか?」 彰利 「案外楽しいぞ。俺としてはこの山にこんなに猿が居ること自体に驚いてた」 悠介 「……確かに」 彰利 「ああちなみにさっきの太鼓のリズムは俺が教え込んだものだ」 悠介 「お前の姿確認したあたりでなんとなく解ってたよ」 彰利 「うおう、何気に知名度高いのね俺様ってば」 悠介 「俺がよく知ってるだけだって。……でもここって悪くないな」 彰利 「だろ?本当なら粉雪も連れてきたかったんだけど、     あいつはあいつでやることあるそうだから無理だった」 悠介 「やることって?」 彰利 「将来のことだと。なにをするにせよ、中途半端は嫌だそうだ」 悠介 「将来か。仕事でもしてるのか?」 彰利 「いや、それが俺にもよく解らなくてな。     でも会社仕事だけはやめとけって言ってある。     上司にセクハラされたら俺がそいつを殺しそうだから」 悠介 「……お前って自分の大切なものを汚されるのってとことん嫌うよな」 彰利 「誰だってそうじゃないザマスか?」 悠介 「まあ、そうだな」 木の幹に腰掛けて苦笑した。 確かに大切なものを汚されるのは我慢ならない。 彰利 「それから最近不況ですしねぇ。会社勤めもいつ終わりが来るか解りませんから」 悠介 「そうだな」 彰利 「だからさ、俺は思ったわけですよ」 悠介 「うん?なにをだ?」 彰利 「悠介の家って祓い業が大元だったよな?」 悠介 「ああ。康彦さんの代で止まったままになってるけど、一応」 彰利 「それを復活させるってのはどうだ?     神主になるんじゃないか、とか言ってたんなら」 悠介 「それか。俺もそれは考えてる。     この能力の有効利用っていったらそういうことになると思う」 彰利 「だよな。     今となっては死神が相手でもザコなら勝てるくらいの能力なわけだし」 悠介 「それで、日余との関係は?」 彰利 「俺達を雇ってくれないか?」 悠介 「───はい?」 今、なんて言った? 彰利 「俺達を雇ってくれないだろうか」 悠介 「……お前、言ってること解ってるか?」 彰利 「解ってるよ。俺は真面目にやれる自信あるし、     粉雪には無理して会社勤めとかしてもらいたくない。     粉雪が言うには結婚資金が欲しいらしいけど、     そのために体とか壊してほしくない。     もちろん俺だってあいつを守りたいから結婚が反対なわけじゃない。     だけど人との交流があまりなかった俺達家系の人間には、     そういう場所での勤めは相当だと思う。     今まで出会ってきたヤツが特殊だったんだと思う。     大勢の人が居る場所で腕力や脚力を見せつけたらきっと世界が変わっちまう」 悠介 「考えすぎじゃないか?腕力や脚力なんてそうそう見せつけるわけが」 彰利 「土壇場ってこともあるだろ?     そういうことを強いられる局面になったら使わないでいられる自信があるか?」 悠介 「………」 彰利 「……あ、まあ……悪い、言い方がキツイよな」 悠介 「いや、それはいいけど。     でも……確かにそうだな。土壇場ってことはある。     大事な人を傍に置きたい気持ちも解るし、汚されたくない気持ちも解る。     だけど問題はあるぞ?家にある金だって無限じゃない。     給料だってそうそう払えるわけが───」 彰利 「いや、それがさ。昨日偶然、街中で街長に会いまして」 悠介 「黄仁のじいさんに?」 彰利 「ちょっと癪だったんだけどな。     話してみたら『そういうことならワシが給料を出そう』だって」 悠介 「……ちょっと待て。俺はあの人に助け船出される憶えは」 彰利 「孫のためだって言ってたぞ。償いがしたいんだって。     あの人はあの人で悩んでるんだろ?……させてやれよ、償い」 悠介 「…………」 ……だって、今更じゃないか。 確かにあの人のおかげで若葉と木葉が生きてるのは確かだ。 だけど─── 彰利 「悩むなよ。お前だってそう憎んでないんだろ?」 悠介 「………」 彰利 「若葉ちゃん達のことを思うのは解るけどさ、     それだったら黄仁のじいさんのことも思うのも人間ってもんだろ?     憎しみばっかりじゃ生きていけないのを誰よりも解ってるじゃないかお前は」 悠介 「彰利……」 彰利 「……というわけでこの契約書にサインを」 悠介 「ああ……ってするかっ!!なんだよこの怪しげな契約書は!」 彰利 「クォックォックォッ、こんな時のために用意しておいた権利書ぞ。     これでダーリンの身柄はアタイのもの」 びりゃあっ! 彰利 「ウォオオオオオッ!!!ア、アタイの権利書がぁあああっ!!」 悠介 「人の身柄を紙切れ一枚で左右すんじゃねぇ!」 彰利 「な、なにを言う!金は命より重いっ……!って言葉を知らんのか!?」 悠介 「命が無けりゃあ金なんてあっても意味ないだろうが!     そんなことも解らないのか!」 彰利 「……言われてみればそうかも」 悠介 「あのなぁ……マンガとかに感化されるのも解るけど、     そんなことくらい最初っから解ってろよ……」 彰利 「いやぁ、人それぞれだと思うよ、うん」 悠介 「調子のいいヤツだな……」 彰利 「俺はいつだって本調子だ」 どういう意味だそれは。 彰利 「しかしアレですよ。実際悠介がなりたかったものってなんですか?」 悠介 「いきなり話題変えたな。でもそうだなぁ……なんだったんだろ」 彰利 「自分のことも解らないのこの子は!」 悠介 「やかましい!……お前は宇宙飛行士だったっけ?」 彰利 「お?憶えてるね〜ィェ。そう、宇宙飛行士YO。     でもゼノとの自爆によって、その夢も勘弁ノリスケになったのよ」 悠介 「なんでそこでノリスケが出てくるんだ?」 彰利 「暗黙の了解ということで」 悠介 「余計に解らんが」 彰利 「ダーリンて解らないことだらけよね。そんなんじゃ社会の荒波に飲まれますぞ」 悠介 「解らないのはお前の存在だろうが」 彰利 「キャアそうだった!アタイったらうっかりもの!     って誰が意味不明日本代表ぞ!?」 悠介 「誰もそこまで言ってないだろ」 彰利 「うう……急に冷静になっちゃってこの子ったら……!」 悠介 「泣くな鬱陶しい。それよりお前、自分の夢を他に持とうとは思わないのか?」 彰利 「この歳じゃあもう無理YO……とか言いつつ、     夢に年齢制限など無いことをアタイは知っているザマス。     そうっすね、俺っちは……不動明王になりたい!」 悠介 「無茶言うな!」 彰利 「バッケヤラァ!夢ってのは無理って思った時点が終わりなんじゃい!     無理だと思えばそりゃ無理だわな!     本気でなれると信じればなんでも出来るんじゃい!     ……でも不動明王は無理だね、ソーリーボンジョリーノ」 悠介 「誰がボンジョリーノだ」 彰利 「しかしな、悠介よ。何故いきなりこんな猿の楽園で未来の話なぞ?」 悠介 「……お前が話だしたんじゃなかったか?」 彰利 「ウィ?そうザマしたっけ?まあいいコテ、そんじゃあ帰ろう」 悠介 「何処に?」 彰利 「家に」 悠介 「ふーむ……よし、途中まで一緒に行くか」 彰利 「元よりそのつもりでしたが」 悠介 「そかそか。それじゃあのんびりと行きますか」 彰利 「クォックォックォッ……のんびりだなんて、     アタイともっと一緒に居たいなら居たいと言やぁいいのに……。     グブブブブ……ダーリンの照れやさんめ……」 悠介 「寝言は寝て言え」 彰利 「ギャア!とうとう言われてしまった!最近大丈夫だったと思ったのに」 悠介 「ショック受けてないで歩け。あまり付き合ってられんぞ」 彰利 「ウィ?なんか用事でもあるんザマスか?」 悠介 「いや用事っていう用事はないな。でも嫌な予感がする」 彰利 「なにぃそうなのか。そいつぁいけねぇや旦那。     それって紛れもなく冥月のことザマショウ」 悠介 「ああ、多分」 彰利 「俺の予想じゃ今頃ルナっちが『大根盗んだのあんたでしょう!』とか言って」 悠介 「やめろ、想像したくない」 彰利 「あらら、そうザマスか……まあいいコテ。     それよりダーリン、さっきのことだけどさぁ」 悠介 「さっきの?なんだ?」 彰利が一度立ち止って考えるように下を向く。 彰利 「アレ、なんだっけ。アレだよアレ……えーと……そうそう、未来のコト」 悠介 「将来と夢の話か?」 彰利 「そうねィェー!まさにそれ!俺は別に風来坊を気取るのも悪くないと思うぞ」 悠介 「……まあ同感だけどな。     それってさ、せめて目指すものくらいあったほうがいいんじゃないか?」 彰利 「んー……例えば旅人になりたいから風来坊選んでるとか?」 悠介 「道連れが出来るまではひとりで居るのも悪くないって話だよ。     どんな未来を辿るにせよ、自分が生きていける程度は強くあればいいと思うし」 彰利 「ふーむ、つまりキミはこう言うんだな?     一本の割り箸は簡単に折れるが、     二本に連ねた箸は家系の力をもってすれば簡単に折れると」 悠介 「身も蓋も無い例え方するなよ……」 彰利 「いやー、照れるな」 悠介 「誉めてない。お前って本当に話の腰折るの好きだよな……」 彰利 「もはや生き甲斐!」 ズビシィ!と音が鳴るほどにポーズを取る彰利。 彰利 「でもアレですよ。旅するにしても、俺と悠介が組めば困ることはないだろ」 悠介 「自給自足出来るしなぁ」 彰利 「食材なんかも悠介が創造出来るし、調理はふたりとも出来る。     怪我してもアタイが治せるし死んでも悠介が生き返らせられる。     ……もしかして俺達って限りなくバケモノ?」 悠介 「人の生命作り出せること自体がバケモノだよな、俺って。     そもそもハトを出してた時からそんな感じがしてた」 彰利 「うう……辛い人生乗り切ってきたのねィェー」 悠介 「そう思うなら『ねィェー』はやめろ」 彰利 「発音は大事です」 悠介 「お前はただふざけてるだけだろうが」 彰利 「まあそうザマスけど」 悠介 「……ハトが出ます」 ポム。 創造したハトが空を飛んでゆく。 彰利 「あら?なんのために出したん?」 悠介 「さあな」 ぶっきらぼうに答えながら俺は来た道を歩く。 獣道だったそこは、俺の侵入により少しは通りやすくなっていた。 彰利 「あ、そうだ。なあ悠介」 悠介 「ん?」 突然、彰利が思いついたように話し掛けてくる。 俺は振り向いて先を促した。 悠介 「どした?」 彰利 「えーとさ。未来からの来訪者はいつ帰るんだろうな。まだ居るんだろ?」 悠介 「ああ、居るぞ。冥月の話じゃあ俺とお前に自信をつけさせてくれって」 彰利 「自信をつけさせる?誰に」 悠介 「沙姫に。どうやら自分に自信が無いらしいんだ」 彰利 「ほへー、小振りだけど結構イイ体してたが」 ドボォッ! 彰利 「ハングァハッ!」 悠介 「なんでもそっち系で考えるな、ダァホ」 彰利 「うう……スタイルの問題じゃなかったのね……!     じゃけんど……したらいったいどげな悩みなん?」 悠介 「エセ方言ナマリで喋るな。……月操力のことだよ」 彰利 「月操力?あーあー、そういや彼女、俺と悠介の子孫だっけ。     言われてみれば滅茶苦茶な強さだったなぁ。     アタイのアルファレイドも簡単にコピーされちゃって……。     完敗だ……フフ……どうしようもないくらい完敗だよ……。     あれなら諦めもつくってもんだよ……」 悠介 「彰利……」 彰利が珍しく諦めにも似た表情で俯いた。 だがどこか笑みも混じっているような顔だった。 彰利 「……思えば歓迎会もしてなかったな。     知り合いの居ないこの時代は不安だろうし……。     ここはひとつ、パァっと騒いでやるか、なんか料理でも作ってさ」 悠介 「………」 こいつも落ち着いてきたよな。 こんな風に言えるヤツじゃあなかったよ。 なんだかんだ言って、誰かに負けることがきっかけだったのかもしれないな。 彰利 「……そんでもってヤツの料理には俺が調合した毒薬を……!」 悠介 「オイ」 ……前言撤回。 悠介 「なんだよ、せっかくいいヤツになったなぁとか言おうとしたのに」 彰利 「ハッ!ハッ!ハァーッ!!     俺を負かしといて祝ってもらえるんだから至福じゃない!     これ以上なにを望む!?アタイの最強の称号返してー!     もう俺様最強、超最強にもハクがつかないじゃない!冥月のバカー!ハゲー!」 悠介 「お前さ、その言葉の時点で究極に負け犬だぞ……?」 彰利 「かまわん!自分が負けたと思わなきゃ負けじゃねぇのよ!     ヂギール魂万歳ーッ!ユリーさん万歳ーッ!あんた今なにやってんのーっ!?」 彰利は両の腕を天高く掲げ、ユリー・チャコフスキーへの激励の言葉を大きく叫んだ。 ……言うまでもなく、現段階ではなんの意味もないし、これからもきっと意味は無い。 彰利 「ラァ〜ンランランランランランラァ〜ラ〜ララァ〜♪     ラララ〜ラ〜ラ・ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜♪」 その後、彰利が何故か上機嫌になった。 のんきに鼻歌なんぞ歌っている。 彰利 「それは違うぞ、これは鼻歌じゃない」 悠介 「冷静に人の心を読むなよ」 彰利 「おっとこりゃ失敬、いやだわアタイったら」 悠介 「いや……気まずい顔するより先に『心なんて読めない』くらい言えって……」 彰利 「実は先日、とうとう開眼しまして」 悠介 「すなっ!」 彰利 「こんなこともあろうかと、     粉雪との接吻の時にはかならず月操力のコンタクトをして、     どういう能力パターンなのかを分析していたんです!うおうステキ!」 悠介 「お前って……」 彰利 「フフフ、もちろん冗談だ」 悠介 「だ、だよな……焦らせるなよ……」 彰利 「ウィ?何故にお焦りになられるのダーリン」 悠介 「だって……それじゃあお前、     能力のために日余に近づいたように聞こえるじゃないか」 彰利 「え───……そ、そう聞こえたか?」 悠介 「え?あ、まあ……少しな」 彰利 「あ……悪い、俺……そんなつもりじゃなかったんだけど……」 悠介 「………」 彰利が、あの彰利が謝った!? 悠介 「……お前さ、修行してる時って何食べてた?」 彰利 「うおう?そこらへんに自生しいてたキノコさんをチャトランの如くモシャリと。     と、ところがな……それからというもの、バランスが上手くとれないんですよ」 悠介 「……馬鹿かお前は」 彰利 「愚問!」 悠介 「威張るな!」 彰利 「まあこれで俺もチャトランの気持ちが解ったよ。     思えば川に流されたり熊に襲われたり滝に落ちたり、     鳥に襲われたり蛇に襲われたりアライグマに獲物奪われたりと大変だった」 悠介 「お前は襲われてないだろうが」 彰利 「ぬぅ、もうちょっと引き伸ばそうとは思わないのか悠介。     無駄話も悪くないぞ?とくにこうムシャクシャしてる時は」 悠介 「なんだかんだ言って冥月に負けたの悔しいんだな」 彰利 「フフフ、なにをトチ狂ったことぬかしとんじゃいダーリンこの野郎。     こ、この俺が誰かに負けたくらいで落ち込むわけがなかろうがオォ!?」 悠介 「いっつもトチ狂ってるのはお前だろうが」 彰利 「墓石に名前刻みますよ!?」 悠介 「どういう罵声だよ!」 彰利 「そしてその隣にはアタイの名前を」 悠介 「寝言は寝て言え」 彰利 「うわヒデェ!」 悠介 「っと、神社も見えてきたな。ここらで別れるか」 彰利 「そうじゃのう。……なあ悠介?思ったんだが……」 悠介 「ん?」 彰利 「結局さ、旅も途中で終わったよな」 悠介 「ああ」 彰利 「また行かないか?今のお前って冥月のおかげで自由だし」 悠介 「へ?───………………おお、言われてみれば監視もない」 彰利 「どうだ?」 悠介 「………」 右良し、左良し。 悠介 「行こう。依存無し」 彰利 「おっし!そんじゃあまず手を拝借!」 悠介 「え?お、おい」 彰利 「空間翔転移!」 キヒィイイ……───ン……! バシュンッ! ───……。 妙な音を聞いて空を見た。 青空であるその空は、見ているだけで妙に穏やかな気分になった。 しかし、そのような気分もそれまでだった。 突然、空が光って……その光が小さくなったと思ったら降りてきたのだ。 俺は慌ててその光の正体を突き止めようとして走った。 あの場所は公園だ。 俺の足で考えれば、着地と同等に俺も辿り着ける筈だ。 とか言う内にその光は公園に下り、俺もその場に立っていた。 やがてその光が薄れていくとともに、その光はふたつの塊になってゆく。 ゆっくりと光は消えるのかと思った。 ところが少々薄れた光は突然弾け、そのふたつの塊が人であることが解った。 そしてその人は俺を見て言う。 彰利 「貴様……何故ここに!?」 ダオス様の真似をしているそいつは、俺のよく知る男だった。 ─── 彰利 「ヨゥメェーン!ひっさしぶりやのう!」 俊也 「久しぶりって……お前、なんだってここに……」 悠介 「あ、あれ……?俊也?」 転移した先に俊也が居た。 朝月俊也。 忘れられた村で出会ったあいつが今、目の前で唖然としていた。 彰利 「あれから景気はどうよ。夏純ちゃんやババアは退院したかね?」 俊也 「あ、ああ。おかげさまで元気してるよ」 彰利 「そかそか。そりゃ良かった」 悠介 「彰利……お前何したいわけ?」 彰利 「いやー、ちょっと考えがあってな。なに、心配するようなことはねぇザマス」 俊也 「?」 彰利 「そんじゃ、ちょっと会って行っていいか?」 俊也 「ああ、ていうかもう来ると思う」 俊也がそう言うと同じくらいに、遠くからふたりが走ってきた。 佐知子「あ、あんたねぇ……!いきなり走ってどうしたのよ……!」 俊也 「いや、ちょっと懐かしい顔ぶれに会ったもので」 佐知子「えぇ?……うあっ……!」 彰利 「な、なにかねチミィ!その世にも奇妙な物体を見た顔は!」 佐知子「実際奇妙でしょうが……」 彰利 「……返す言葉もねぇや……」 佐知子「自覚はしてるのね……」 夏純 「……♪」 きゅむ。 悠介 「っと、おいおい、いきなり腕を掴むなよ」 夏純 「♪"」 上機嫌で俺の腕に顔を摺り寄せてくる夏純。 どうやらみんな、相変わらずのようだ。 佐知子「あ、そうそう。ケーキありがとね悠介」 悠介 「え?ああ、ちゃんと……食えたか?」 佐知子「なに言ってるの、あれだけのヤツ、お店でもそうそう食べれないわよ」 夏純 「………!」 こくこく。 悠介 「そっか、好評でなによりだ」 夏純の頭を撫でてやると、彼女はとても幸せそうに目を細めた。 俊也 「それで……どうしてここに?」 彰利 「いや、しばらく会えないだろうから、顔を見にな」 俊也 「ってことは……また旅に出るのか?」 彰利 「ザッツラァ〜イ♪まあ旅がどうのこうの言うにしても、     ここにも滅多に来ないからしばらく会えないもクソもないんザマスが」 俊也 「はは、違いない」 悠介 「……いい顔するようになったなぁ、俊也」 俊也 「え?あ、ああ……まあお前らに感化されたんだろうな。     あれだけ騒がれちゃあ変わるしかないだろ。     あ、でも仕方なくじゃないからな?俺、今の自分がすごく好きなんだからな?」 悠介 「顔見れば解るよ。ホント、いい顔してる」 俊也 「……ああ、サンキュ」 彰利 「なぁグレゴリ男」 俊也 「……まだその呼び名なのか」 彰利 「まあまあ、俺が人に心を許すことなんてメンズラスィのよ?     むしろ誇りに思ってほしいものだな。ていうか思え」 俊也 「……こいつの馬鹿っぷりも変わってないみたいだな」 悠介 「解るか……?苦労してるんだよこれでも……」 彰利 「ええぃ妙な友情築いてんじゃねィェーッ!     ……あ、いや、ま、ひとまず罵声は置いておくとして」 俊也 「うお、珍しい」 夏純 「………」 こくこく。 佐知子「なにか変なものでも食べたんじゃないの?」 彰利 「てめぇら人をなんだと思っていやがっちゃってるの!?」 悠介 「変態オカマホモコン」 彰利 「それはもうええわっ!ああもうアタイがツッコミ役やってどうすんのよ!」 悠介 「俺だってやりたかないわ!」 彰利 「だったら話させなさいよもう!とにかく!言いたいこと言うぞ俺は!」 俊也 「あ、ああ」 彰利 「……実は俺、子供の頃……ホウサン団子って食べられるモノだと思ってたんだ」 ……………… 悠介 「…………で?」 彰利 「え?ウギャア!思いっきりハズした!?キャー恥ずかしい!」 悠介 「穴があったら入りたいってか?」 俊也 「彰利……悪いけどここには肥溜めはないんだ……」 彰利 「どうして穴=肥溜めがデフォルトになってるんだよ!」 悠介 「なにぃ違うのか!?」 彰利 「驚かないでよダーリン!」 佐知子「悪いとも思わないけど、ここに居る全員が同じ考えみたいよ?」 夏純 「………」 こくこく。 彰利 「ギャアもう!なんかもうギャアよギャア!     みんなで俺を肥溜めマッドゴーレムに仕立て上げようとしてるんだなー!?」 悠介 「…………ああ、あったな、そんなあだ名」 彰利 「!」 彰利が心底驚く。 『ギクゥッ!』という擬音が大きな文字で現れそうなその現状に、彰利は震えるだけだ。 彰利 「ダ、ダーリン?今、俺は何も言わなかった。───OK?」 悠介 「言っただろ?肥溜めマッドゴ」 彰利 「だありゃあ!!ウダラいま鼻で笑っちょがぁっ!!     売ってンぞ!こいつ完璧に売ってンぞ!」 悠介 「何語だ」 彰利 「キャンディなめんなよ」 悠介 「なめないから落ち着け」 彰利 「……で、話は戻るけど」 俊也 「戻すまでに一体どれだけ騒げば気が済むんだよお前は……」 相変わらずすぎるぞと苦笑する俊也には、俺も同意見だった。 彰利 「俺様と悠介でまた旅をすることになったから、     その前に顔を見に来たいってダーリンが熱望しまして」 悠介 「言ってない言ってない」 彰利 「会えて嬉しかったデショ?」 悠介 「む……そりゃまあ」 彰利 「ああ、それとグレゴリ男。     十数年後の未来に集って騒ごうと思うんだが、依存は?」 俊也 「それは構わないと思うけど……どうして十数年後なんだ?」 彰利 「ベイビーが産まれてたら面白そうじゃないの!     グレゴリ男ったらそげなことも解らないの!?」 俊也 「なんでいきなり叫ぶんだよ!!」 彰利 「そんな気分だったんだ」 俊也 「………」 彰利 「まあそんなところでございます。それじゃあアディオス!」 俊也 「ええっ!?お、おいっ!」 キィンッ!! 俊也 「…………な、なんだったんだ一体……」 佐知子「考えても解らないわよ、あの馬鹿のことは」 夏純 「……、……」 こくこく。 Next Menu back