───道に迷った彼らの迷走───
夏純についていき、辿り着いた場所。 そこは綺麗な小川だった。 小川……う〜ん、涌き水の流れる場所の方が妥当か? 涌き水と言ってしまえば小川とも呼べないものと思うかもしれないが、ここは違った。 幾つかの涌き水が結合して出来た小川。 その水はどこまでも澄んでいて、本当に綺麗だった。 さすがに魚は居ないが、ヤゴなどが居た。 俊也 「うわ……!ヤゴって初めて見たよ!!」 ガラにも無く興奮している自分に気づく。 冗談などではなく、俺の住む街には虫などは見られない。 いるとしたら蝿や蚊などだ。 トンボだって見たことがない。 そこらへんの知識は本で覚えた程度だ。 夏純 「………」 夏純がなにやら手招きしている。 俊也 「な、なにか居たのかっ?」 何処かわくわくしている自分に少し戸惑う。 でも、悪い気分じゃなかった。 夏純の側まで寄ると、夏純は川に沈めていた手を上げた。 その手には───って、うわぁっ!? 俊也 「な、なんだこれっ!?」 俺は叫んだ。 夏純 「………」 夏純はニッコリ微笑むと、 もう片方の手で小さなヤゴを見せてきた。 俊也 「へ……っ!?こ、これ……ヤゴなのかっ!?」 コクリ。 同じヤゴだそうなんだが……大きくないか?なんか。 俊也 「しっかし、綺麗だよなぁ、この川」 俺は正直な感想を唱えた。 俊也 「これ、涌き水なんだよな?」 コクリ。 俊也 「いったい幾つ、涌く場所があるんだ?」 夏純 「………」 首を傾げて、考えている。 そして指を折っている。 数を数えているようだ。 だが、途中でその指が止まる。 そして苦笑いをしながら頭を掻いてみせる。 俊也 「調べてみたことがあるのか?」 コクリ。 夏純 「………!!」 なにやら必死になって、体で表現している。 頭をしこたまに回転させ、その答を探す。 俊也 「ん……この川を伝って……奥に行った……?」 コクコクコク!! 必死に頷く。 俊也 「そしたら先の方が分かれてて?」 コクコクコク!! 俊也 「その先に行っても分かれてて?」 コクコク!! 俊也 「キリが無いからやめた、と?」 コクコク!! ……なるほど、涌き水の数は尋常じゃないとみた。 夏純 「……、……!」 肩で呼吸を整える夏純。 俊也 「一生懸命説明してくれるのは嬉しいが…」 少しは程というものを考えてやってほしい。 夏純 「………?」 はふぅ、と大きく息を吐き、俺の顔をのぞき込む夏純。 俊也 「いや……なんでもない」 夏純の頭にポンと手を乗せ、俺は苦笑した。 俊也 「あ、そうだ。なぁ、タガメ居ないか?」 夏純 「?」 タガメ?と疑問系が解るほど、首を傾げる。 俊也 「ああ。本で見たことがあるんだ。えっと、背中に卵を背負ってて…」 俺は昔に見た昆虫図鑑の内容を絞り出す。 俊也 「確か……似たような生き物でコオイムシってヤツも……あれ?同じヤツか?」 夏純 「…………………」 目を伏せ、コメカミに指を当て、必死で考える夏純。 夏純 「!」 やがて一致したのか、微笑んでみせる。 そして俺の手を引き、駆け出す。 俊也 「うわったたたっ!急に走るなっ!」 注意してみたが、まったく聞いていない様子だった。 小川を伝い、下ってゆく。 すると、木に囲まれた場所に辿り着く。 川の流れはそこに池のような水溜まりを作っていた。 見上げてみても上は木にびっしりと覆われ、その先の空は見えなかった。 独特な雰囲気。 ここになら居るかもしれない。 そう思えるような場所だった。 俊也 「薄暗いと言うか、なんと言うべきか……」 涌き水の池を見てみる。 最初に発見したのはカエルだった。 俊也 「……何処にでも居るよな、コイツって……」 いくら俺でも、カエルくらいなら見たことはある。 俊也 「なあ夏純、ここって───」 サクッ。 俊也 「………」 夏純 「………」 俊也 「───いってぇえええええええっ!! 俺は叫んだ。 俺の耳たぶにガッチリと掴まったザリガニを掴みながら。 俊也 「だぁあっ!いてっ!いてて痛いって!!」 夏純 「………」 夏純はそんな俺を見て笑っている。 俊也 「お、お前な───いててててっ!!」 こっ、このザリガニめっ!俺に恨みでもあるのか!? 俊也 「ちょっと離すの手伝ってくれっ!」 夏純 「………」 くっつけた張本人と一緒になって、ザリガニと格闘する。 というか、何故こんなところにザリガニが……。 考えてみれば、カエルと同じくらい神出鬼没だよな。 一体何処から涌いて出るのやら。 俊也 「ふう……、危うく耳が千切れるところだった」 夏純はまだ笑っている。 俊也 「……そんなに楽しかったか?」 夏純 「………」 返事は無かった。 ただ、声の無い笑いだけがそこに存在していた。 目には涙が溜まっている。 人種によっては、これでここまで笑えるものなのか。 そんな、とても自然で、とても楽しそうな顔を見ていたら…… 痛かったことは事実としてあるのだが、とても怒る気にはならなかった。 俊也 「………」 ポム。 夏純 「?」 夏純の頭を軽く撫でた。 夏純はきょとんとした顔で俺の顔を覗く。 俊也 「なんでかな……夏純と居るとさ、     なんか懐かしい気持ちがどんどん蘇ってくるんだよ……」 どこか苦笑するように笑った。 苦笑、といっても嫌な気分のものじゃなくて、 どうしてこんな気分になるのかが解らないことからの自然の表情だった。 ───なんて、自分でもよく解らない感情を抱いてる時だった。 突然、水の溜まった泉が部分的に光りだしたのだ。 俊也 「っ!?」 夏純 「!?……!、!」 夏純が信じられないものを見た、という感じで俺の腕を引っ張る。 その様子から、夏純も見るは初めてだということだろう。 俊也 「───!」 光がこちらに近づいてくる。 俺は無意識の内に身構えて、その光を凝視した。 やがてその光は水の中から出てこようとしているのか、どんどんと大きくなってきた。 夏純 「!?」 夏純はただただ怖がって、震えながら俺の腕に抱き着いていた。 ───やがて、その光はその全貌を─── 男  「あなたが探しているのは金の妖精さんですか?     それとも土気色の妖精さんですか?」 俊也 「………」 いや、えっと…… 夏純 「………」 ああ、夏純も何がなんだか解らない、って感じに呆れてる。 男  「ぬう、黙秘かい?     ならばそんなキミには俺様がシンクロナイズドスイミングを披露してやろう」 男は顔を光らせながら水に沈んでゆく。 やがてその場で奇妙なシンクロナイズドスイミングが披露された。 夏純 「……!……!」 夏純はお気に召したのか、満面の笑みで拍手を贈っていた。 男  「ウフフフ、お嬢サン?拍手はいいから『おひねり』ちょうだい?」 夏純 「?」 おひねり?といった感じに首を傾げる。 男  「なっ───て、てめぇ!     まさかアタイの華麗な舞をタダ見しようって魂胆か!?     ダ、ダーリーン!こいつらルール違反だ!しょっぴいちゃってよもう!」 声  「あほかーっ!」 ボゴォッ! 男  「デボラッ!」 ばしゃっ!ぶくぶくぶく……。 水筒のようなものを投げつけられた男が水中に沈んでいった。 のだが。 男  「あなたがアタイに投げつけたのは金の水筒ですか?     それともこのゴールデントマホークですか?答えやがれ悠介」 いきなり復活して無茶な質問をしてきた。 童話に対してかなり失礼な存在だ。 悠介 「金の水筒だ。今すぐよこせ」 男  「ええ!?この嘘つきが!とうとうボロ出しやがったな!?     そんな嘘つきの悠介くんにはこの水筒がお似合いじゃー!」 ブンッ! 悠介 「おっと」 ばしっ! 悠介 「わざわざ取ってもらって悪いな。さっさと水から出て来い彰利」 彰利 「だって気持ちいいですぜ?     遭難してから早数ヶ月、心も体もリフレッシュしたいじゃない。     大体誰だよ、若葉ちゃん泣かせてまでの旅に俺を巻き込んだのは」 悠介 「やかましい。大体だな、遭難したのはお前が───     『こ、こっちに妖精さんの気配がする!』とか言って、     さっさと走っていったからだろうが」 彰利 「まあまあ、おかげでこうしてお水にもカエルにもザリガニにも会えたじゃない」 悠介 「俺は人間に会いたいよ……。     何が悲しくて目指してた村にも辿り着けずにいきなり遭難して、     数ヶ月って長い時間をお前と一緒に過ごさなけりゃならんのだ……」 彰利 「そう言うなよぅ、     俺だって愛しの粉雪とナイトフィーバー出来なくて寂しいんだから……」 悠介 「お前のその邪な考えと一緒にするな!」 彰利 「あ、あんですとー!?大体、人ならそこに居るじゃ───なにぃ!?人!?」 ギシャア!と顔を光らせつつこちらを向く男。 ……恐怖以外、何も感じなかった。 ま、まさか伝説の河童ってやつか……? 今のご時世の河童は顔が光るのか……? 悠介 「ひ、人だぁああああああっ!!」 彰利 「ユーアー・ザ・ヒューマァーン!」 ごぱぁああん!!と水飛沫を上げて飛んでくる男。 俊也 「うわぁーっ!?座ったままの姿勢でジャンプを!?」 すたっ! 何故か向こう側の陸地に着地した男がゆっくりとこちらに向き直る。 彰利 「ヒ、ヒト……!ヒトォーッ!久しぶりの肉じゃぁーっ!!」 夏純 「!?」 俊也 「に、肉!?」 まさか───最近の河童は人を食うのか!? 彰利 「ウキョロキョキョーン!フギャ!フギャ!」 ザカザカと走ってくる河童。 ガ、ガニマタなのになんて速さだ! 俊也 「夏純!逃げるぞ!走れぇっ!」 夏純 「!、!」 俺の腕を引っ張ったまま、動こうとせずに首を振り続ける夏純。 ───ヤバイ、腰を抜かしたみたいだ。 彰利 「オギョーァ!」 突如、ドシュウゥウと横っ飛びでこちら目掛けて飛んでくる河童。 ていうか走ってた意味ないじゃん! 俊也 「う、うわぁあああああああああっ!!」 ああ、なんてこった! まさかこんなヘンな場所で河童に食われて死ぬなんて……! 悠介 「トチ狂ってんじゃねぇ馬鹿者ォーーーッ!!!」 バチィッ!バリバリバリィイイイッ!! 彰利 「アゴギャーッ!オ、オネェサーンッ!」 ───ぼちゃん。 あ、落ちた。 ていうか……え?今の、なに? 悠介 「……すまない、ちょっと気が動転してただけなんだ。     なにせ人を見るのも久しぶりなもんだから」 俊也 「は、はあ……」 あとから来た男は、とても穏やかそうな顔をしていた。 そう歳は変わらないと思うのだが、 どこかで絶対敵わないような『なにか』を背負った顔。 そんな男だった。 悠介 「あ……えっと、ところでさ。ここが何処だか知らないか?     ご覧の通り、磁石がまったく利かないんだ」 そう言って見せてきた方位磁石はゴシャーアーッ!ともの凄い勢いで回転していた。 俊也 「あ、いや……こっちもよく解らないですね……」 初対面ということもあって、つい敬語が出る。 人間の信条ってやつだ。 でもそれ以外の何かがあるのも事実ってわけで……。 その何かが多分、さっき感じた『背負ってるもの』ってことでしょうなぁ。 悠介 「そっか……それじゃあどこかに街かなんかはないか?」 夏純 「……、……」 はい、と。 それまで震えていた夏純が手を挙げる。 悠介 「知ってるのか?」 こくこく。 悠介 「そうか、助かるよ。案内してもらえるか?」 夏純 「………」 こくこく。 悠介 「ありがとう。……彰利ー!遊んでないで行くぞー!」 ザパァアアンッ! 彰利 「おんどりゃ人を裁きで落としといて『遊び』とかぬかしやがるか!?」 叫びつつ、何故かまた座ったままの姿勢で河童が水から飛び出てくる。 そんな連中に脅威か、それとも興味を抱いたのか。 俺の口は勝手に動いた。 俊也 「あの、あんたたち何者……?」 彰利 「ッイー質問です!」 ビシィ!と親指を立てた両手を突き出しながら声高らかに喋る河童。 彰利 「俺の名前はガルチネセフ・ボルボンセニフ・ド・ジェントルメン。     黒い髪をしちゃあいるがロシア産まれのボルシチ男ぞ」 俊也 「ボルシチ男!?」 悠介 「俺は晦悠介。列記とした日本人だよ。好きなように呼んでくれていい」 俊也 「は、はあ……」 悠介 「それから敬語は勘弁してくれ。置いてきたやつらを思い出す」 俊也 「?」 彰利 「ほっほっほ、やっぱり寂しいのねダーリンたら。     ほっほっほ……ほ……ほほほほ!ほはははははは!それ見たことか!     無理しねぇでルナっちでも連れてくりゃあよかったのに馬鹿め!     そんな覚悟でこの雄山を越えられると思っていたのか!     うわぁっはっはっはっはっは!!」 悠介 「……身に染みて感じ取ってると思うけどとりあえずこいつは馬鹿だから。     まともに相手してたら疲れるだけだし、無視することを推奨するよ」 彰利 「うわヒデェ!」 俊也 「確かに……」 彰利 「そうだよね!?ひどいよね!?」 俊也 「いや、馬鹿ってところが」 彰利 「そっちかよ!あ、そ、そこのお嬢サン!?キミなら解ってくれるよね!?     俺が実は日本人でメイド好きなジェントルメンだってこと!」 夏純 「………」 ふるふる。 彰利 「ゲェーッ!首を横に振られたーっ!ショックショック超ショック!     せめて言葉で言ってくれたら泣きながら愛を語ってやったのに!」 夏純 「───……」 男の言葉に、夏純が顔を曇らせる。 俊也 「あ───じ、実は夏純は」 彰利 「……なにも言うな、解る……」 俊也 「え?」 夏純の表情だけで何か感じ取ったのか……? 彰利 「わかっとる。わかっとるよ……。     彼女、この絶世の美男子・弦月彰利のあまりの格好良さに、     声も出なくなってしまったんだろう?」 俊也 「───」 ……ああ、なんかすっげぇ殴りてぇ。 ドボォッ! 彰利 「覇王!」 ぐるぐるぐる……ぎゅっ! 彰利 「え?な、なにぃ!?」 脇腹を打ち抜かれた男が、腹を折っている内にぐるぐる巻きにされていった。 なんていうか手馴れた様だ。 恐らくこんなコントみたいなことをずっと続けてきたのだろう。 彰利 「そ、そんな……アタイ、縄プレイなんて初めボォッフォッ!     キャーッ!トーキックした!いま思いっきりトーキックしたぁあああっ!     いたーい!脇腹にステキな痛覚来襲!どうなる俺の大胸筋!」 悠介 「大胸筋関係ないだろが!黙ってろお前は!」 どげしっ! 彰利 「え?あ、ギャア!」 ぼっしゃーん! 俊也 「うわぁっ!?ちょ、ちょっと待ったぁ!     縛っておいて水に放り込んだりしたら───!」 悠介 「あー、大丈夫。     あいつが溺れ死ぬような男だったら、俺だって落としたりするもんか」 俊也 「へ?そ、それってどういう───」 悠介 「んー……気になるならこのロープ引いてみろ。多分驚くから」 俊也 「……?」 よく解らんが、もしもを考えて早く上げなくちゃな。 ───はっし。 俊也 「ん?」 夏純 「……!」 俊也 「手伝ってくれるのか?」 夏純 「!」 こくこくっ! 俊也 「───よし、それじゃ引っ張るぞ?せーの!よぉっ───とぉっ!?」 ザバァン! 引っ張った瞬間、それはあっさりと水面に浮きあがった。 俊也 「こ、コレは───交通安全とかで使われる模擬人形!?」  ───《そう!その名もやすお君だ!》─── 俊也 「なっ───ど、どこだ!」  ───《貴様ごときに見つかるこの雄山か!うわぁっはっはっは!》─── 俊也 「くあっ……!」 くはぁあ!なんかすごくムカツく! ていうか人の悔しさとか煽るの巧い人だなチクショウ……! 悠介 「それでさ、その……村、かな?それは何処にあるんだ?」 夏純 「……!」 悠介 「そっち?」 夏純 「!」 こくこくこくっ。  ───《ウフフ、元気に頷いたりして……カワイイ娘ッ子じゃのう……無視!?      そんな!ちょっと待ってよ悠介!ていうか待て!      人がせっかく遭難で疲れた心を癒そうとウォーリーに対抗して実行した、      その名も『彰利を探せ!いいから!早く!』を無視するってのですか!?》 悠介 「よし。それじゃあ行こうか」 俊也 「え?でもまだ───」 悠介 「ボルシチ男なら無視していいよ。     どうせひとりでは盛り上がれない悲しいヤツだから」  ───《うわっ!ヒドッ!そんなこと普通、会ったばっかの人に言う!?》─── 悠介 「だったらさっさと出て来いボケ者!いちいち隠れるな!」  ───《グ、グムー!》─── 悠介 「グムーじゃねぇ!」 俊也 「………」 なんなんだろう、このハイテンションは。 このふたりが出てきてから突然、場の空気が変わったぞ……? もはや水の中の生き物などに感動していた心は突風に吹き飛ばされて見る影もないし。  ───《フッ……仕方ねぇ、これが俺の本体のハンサム顔だーっ!》─── 俊也 「!?」 夏純 「!」 突如、模擬人形に亀裂が走った! ま、まさかこの中どげしっ! 俊也 「あ」 夏純 「!」 ぼしゃーん。  ───《ゲェーッ!?な、なにごと!?いきなり水がっ!おぼっ!溺れっ!》─── 悠介 「よし、行こうか」 俊也 「ええっ!?で、でもアレ」 どぱぁあああんっ! 悠介 「ゲェーッ!模擬人形のままの姿勢でジャンプを!?」 彰利 「てめコラダーリン!人を殺す気かダーリン!ひでぇじゃないのダーリン!     でも愛してダブボッ!ギャアア殴った!今かなり本気でなブボッ!     イヤァアごめんなさい!殴らないでぶたないで!     俺には帰りを待つスウィートハニーがブボッ!やめっ!ブボッ!やブボッ!」 俊也 「ストップストップ!そんな殴ったら死んじまうよ!」 彰利 「この俺がどうかしたかい?」 俊也 「おわっ!?無傷!?バケモノだぁっ!」 彰利 「バケッ!?しょ、初対面の人に対してなんて無礼な対応!     てめぇなんかジェントルメンじゃねぇ!というわけで一杯いかがかなレィディ」 悠介 「失せろホモ」 彰利 「いつもの冗談ですよ!もうホモって言うの勘弁してよ!     子供生まれたら親がホモだなんて知られるのは冗談じゃないよ!?     フッ、だがそれも親としての尊厳になるかもしれねぇ。     あ、でもだからってアタイはホモじゃないからね?     そこんとこ解っててね、そこゆくお嬢サン。ああ、ついでにそこの小僧も」 俊也 「こ、こぞっ……!?」 人をオマケみたいに……! 悠介 「気にするな。あいつはただのオカマだ」 俊也 「うわっ……!?」 彰利 「うわぁ盛大に誤解されたッ!     この瞬間的に図られた間合いがそれを物語っているぜベイベーッ!     ていうかなに?ベイベーって」 知るかっ! ああもうなんなんだこの人……! 彰利 「言っとくけどさ、アタイホモでもオカマでもなぎゃあもっすよ?     アタイは万国共通ピングー語で語られるくらい列記とした」 悠介 「変態オカマホモコンだ」 彰利 「そうそう、って違うわぁっ!なに!?なんなの!?     悠介がすっげぇおもしれぇ!違った意味でおもしれぇ!     てめぇまさか粉雪が送ったスパイか!?     んもうハニーったらそんなに俺のことが気になるなんて」 悠介 「寝言は寝て言え」 彰利 「一蹴!?もうちょっと付き合ってよ!」 悠介 「しかし、いい場所だなここ。こんな綺麗な場所があるなんて知らなかった」 夏純 「?"」 耳をピンと立てる猫のように、悠介って人の言葉に嬉しそうに反応する夏純。 夏純 「♪」 上機嫌に手を引くと、夏純は村に戻ろうと歩を進めた。 俊也 「うわっと!ど、どうして俺の手を引っ張るっ!」 夏純 「?」 俊也 「あ、いや……責めてるわけじゃないぞ?」 夏純 「♪"」 またもや耳をピンと立てる猫のように反応する夏純。 ……腕の件は諦めた方がよさそうだ。 悠介 「ほら彰利、遊んでないで行くぞ」 彰利 「うう、その言葉、アタイが水に濡れる前にききたかったワ……」 悠介 「水に濡れたのはあやつらに会う前だろ?言ったって無駄だっただろうが」 彰利 「ぬう……あ、それよりダーリン、水汲んだ?木陰から出ると暑いぞ?」 悠介 「お前が沈んだ水なんか飲めるかボケ」 彰利 「ひでぇ!カエルやザリガニより俺を嫌悪!?ひどいやダーリン!でも解ってる。     アタイに真実を知られたくなくてそんなウヴなこと言うんでしょ?     ウフフちくしょうカワイイったらないぜダー……ダーリン!?     ダーリン何処!?ダーリンが消えた!?ダーリン!?ダーリーン!     ちょっと待って!待てこらダーリン!     模擬人形が思いの他アタイのボディにジャストフィットしてて外れないの!     ギブミーヘルプミーエクスキューズミー!バードンミー!バードンミー!     ザ・バイソン右だ!ていうかさ、ザマぁねぇなはヒドイよね?     ヘルプミー!ていうか、え!?なにこれ!ヒ、ヒル!?ギャア!助けてー!     アタイの血が吸われる!ていうか吸われてる!なにこのヒル!     すげぇ勢いで膨らんでいってる!え!?血ィ吸ってんの!?こんなに!?     ひじきだと思ってたベイベーがこんなに立派に成長してるーっ!     嬉しくて涙が止まらねーっ!て、え!?な、なに!?     なんかズボンの中に何か───はう!?こ、この甲殻な感触はまさか!?     イ、イヤァーァアアア助けてダーリン!やばい!マジでヤバイ!     ヤツが!ザリガニが!淡水産系海老の壱が俺の中華キャノンを狙」 ざくっ。 彰利 「!!」 ───。 俊也 「大丈夫だったんですか……?その、あの人」 悠介 「大丈夫だろ。あれしきのことでヘコむヤツじゃないよ。     それよりさっきも言ったけどさ、敬語は」 ───……ァァァァアァアアォオオオオオオオオオオオオオゥウウ!!!!!! 夏純 「!?」 俊也 「な、なんだっ!?」 突如、雑木林を切り裂くような絶叫が響いた。 それはまるで魔物の咆哮を彷彿させるような雄叫びで、俺と夏純はすくみあがった。 悠介 「……いつものことだから、行こう」 俊也 「え、えっ!?さっきの人の悲鳴ですか!?」 悠介 「敬語は無しだ。何度も言わせないでくれ。     そしてあいつを気にかけてたら精神がいくつあっても足りないぞ」 俊也 「は、はい……あ、いや……ああ……」 夏純を促してさっさと先に行ってしまう悠介って人……いや、悠介を追いかける。 なんでか解らないけどこの人には敬語が自然に出てしまった。 うーむ、なんでだ? 彰利 「それはね、キミがまだ妖精さんの存在に気付いてないからだよ」 俊也 「うわっ!」 悠介 「よう、生きてたか親友」 彰利 「ああ、危うく俺のスペシャルウェポンが奪われるところだった。     だがまあ劇的な衝撃の甲斐もあって、模擬人形の鎧は破壊出来ましたよ。     そしてあまりの痛さに涙がとまらねぇ。     野郎、まだ俺のウェポンを捕らえて離してくれねぇんだ」 悠介 「ウェポン言うな」 涙をどばどばと流している彰利という変態は、 ズボンに手を突っ込む度にアーォオオウ!と叫んでいる。 その目が真剣なことから、彼が本気であることは間違いなかった。 彰利 「こ、このままではいかん……!なんとかしてこやつを取り外さねば……!」 ざくっ。 彰利 「はうっ───」 悠介 「?」 突如、顔面を蒼白にして滝のように汗を流す彰利という変態。 やがて悠介を見て涙を流しながら悲しそうな瞳で顔を横に振っている。 そして咆哮。 彰利 「アァアアアアアアォオオオオオオオゥウッ!!     ギャッ───ギャアアアア!!アタイの黄金が!     アタイの黄金にかつて無い痛みが!アタイの孫呉の意思が潰れる!     淡水産系海老の壱に俺の黄金とウェポンが潰されギャアアアア!!     助けてダーリン!たすっ!おぐぅ!はぐぅっ!」 悠介 「……仕方ない、歯ァ食い縛っとけ。一撃で済む」 彰利 「オ、オッケン……!て、な、なにをするつも」 悠介 「ゴールデン・シュート!」 ボグシャアッ! 彰利 「ギョオッ!!───」 ……どしゃあ。 黄金をシュートされた彼は受身も取らずに大地に沈んだ。 そしてなにやら泡を噴いていた。 も、もしかしてゴールデン・マッシュ……? 悠介 「潰れちゃいないよ。ただ……その、ウェポンへの衝撃がキツかっただけだろ」 顔を赤くしながら言う悠介。 どうにもそういうことには慣れていないらしい。 悠介 「まったく世話のやける……よっと」 俊也 「え……?」 悠介は軽々と片手で彰利って人……ああもう、彰利を担いだ! ていうかどういう腕力してるんだこの人! 悠介 「うん?どうした?先に行ってくれないと道が解らないだろ」 俊也 「あ、いや、俺より夏純の方が───」 夏純 「!"」 夏純が俺の言葉にピンと反応して先をぱたぱたと走ってゆく。 そして元気な笑顔で手招きをする。 元気なのはいいことだ。 これで俺の腕も離してくれてたら最高だったんだけどなぁ。 悠介 「お連れさん、元気だな」 俊也 「いや……俺もお客さんなんだ、実は」 悠介 「そうなのか?随分と馴染んだ顔をしていたが」 俊也 「夏純が?人懐っこいからじゃないかな」 悠介 「お前さんのことだよ。とても初めて来た場所に居る人間の顔じゃなかった」 俊也 「?」 悠介 「あれは……そうだな。故郷で遊ぶ人間の顔だ」 俊也 「……どうしてそう思う?」 悠介 「なに、ちょっとした勘ってやつだ。確信なんて皆無の、な」 俊也 「…………えっとさ。もしかして───あ、悠介って呼ばせてもらうよ?」 悠介 「ああ」 俊也 「もしかして悠介ってさ、変なヤツ?」 悠介 「───そうだな。こいつには劣るけど変なヤツだ。     まああとあと解るかもしれないからそれに備えての種明かしをしとこうか。     俺達は……ああ、アレだ。超能力者みたいなもんだ」 俊也 「超能力?人の心が読めるとか?」 悠介 「こいつはたまに読んでくるけど俺は違う。     まあこいつの場合は先読みが上手いだけなんだろうけどさ」 俊也 「じゃあ……?」 悠介 「んー……まあいいか。     どこかも解らない場所のヤツに嫌われようがどうでもいいことだ」 俊也 「ん?なにか言った?」 悠介 「んーにゃ。じゃあ一発だけ見せるよ。よく見ておけよ?」 俊也 「よく見とけって……なにを?」 悠介 「俺の手さ。───ハトが出ます!」 ポムッ。 バサバサバサ……。 夏純 「!?」 俊也 「えぇっ!?」 なにもないところからハトがっ!? ま、まじっすか……!? シルクハットもなにもないのに……!? 悠介 「と、まあ。こんな感じだ。俺達のことは旅芸人とでも思っててくれ」 俊也 「え?違うのか?」 悠介 「───あ〜……芸人が移動中に遭難したって、格好つかないだろ?」 俊也 「あ、あー、確かに」 悠介 「……はぁ。それじゃ、先を急ぎますか」 彰利 「オウヨ〜」 悠介 「ノーザンライトボムゥッ!」 ゴシャア! 彰利 「ボォッフオォッ!?」 悠介 「起きてたんなら降りろボケ者が……」 彰利 「降りようとした途端にノーザンライトボムやられたってのに、     そんな状態で逃げられるわけないでしょ!?ダーリンのお馬鹿さん!     ああんもう……アタイの顔に傷がついちゃったわ……!     この借りはでけぇぜ?ダーリン……」 悠介 「わかった、後でレタス創造してやるから」 彰利 「なにぃ!?貴様俺がそんな買収で納得するとでも」 悠介 「水洗いの無農薬+虫食い無しなんだが」 彰利 「アタイ、良い子になる!」 悠介 「ならんでいいから歩け」 彰利 「並んでいいの?」 悠介 「そうじゃないって」 俊也 「………」 よく喋るなぁ、この人達……。 夏純 「……、……」 悠介 「うん?ああ、あれがそうかい?」 夏純 「!」 夏純はぴょんぴょん跳ねて先を促す。 ていうかいい加減、腕が疲れてきた。 いつまで掴んでる気ですか夏純サン。 やがて雑木林に遮られた家造りの全貌が見えてくる頃。 悠介 「───!お、おぉおお……!」 悠介が唸った。 悠介 「うおー!うおー!うおー!ゆゆゆ、夢にまで見た合掌造り!?」 それまでの印象を破壊するような子供のような顔。 その視線は家の屋根に釘付けだった。 俊也 「がっしょうづくり……?」 悠介 「まさかナマで見れるとは思わなかった!遭難万歳!」 よほど嬉しいのか、その場で跳んで跳ねる悠介。 でも遭難万歳というのはちょっと違う気がする。 夏純 「♪、♪」 夏純も悠介に触発されてか、その場で飛び跳ねる。 ノリのいいやつだ。 俊也 「この変な屋根がどうかしたのか?」 悠介 「変だなんてとんでもない!これぞ屋根だ!瓦屋根なんて目じゃねぇ!     日本的って感じのする瓦屋根も好きだが俺はこっちの方が好きだ!     い、いいか?この合掌造りってのはな、     屋根のカタチが合掌に似ていることから名付けられたんだ。     その寿命、それこそ何十年───いや、百年以上ももつと言われている。     釘なんぞ一切使わない職人技の集大成だ。     自然の力のみで支えられたこの屋根はもう最強だ。キングオブ屋根だ。     俺は常々、一度でいいからこういう場所に住んでみたいと思ってた。     村を目指したのもそのためだし住めなくても見れたらそれで構わなかった。     だ、だけどこう目の前にあると───あーっ!あ゙ーっ!!     自然の恵み万歳ーッ!村万歳ーッ!黒髪万歳ーッ!日本万歳ーッ!」 俊也 「ゆ、悠介っ!?か、帰ってこーい!」 あっちの世界へ旅だってしまった彼はもう俺では止めることが出来なかった。 変態さんがそれに便乗してからはもう抑えようが無い。 夏純はそんな彼らを見て、どこか満足そうに微笑み─── 夏純 「〜♪」 俊也 「とわっ!?だ、だから引っ張る───うゎわっ!」 俺の腕を引っ張って駆け出した。 佐知子「ちょっとなに?この妙な騒ぎは───って、あら夏純」 夏純 「!」 佐知子「うん?ああ、おかえり夏純。俊也もおかえり」 俊也 「呼び捨て!?」 佐知子「この村ではみんなが家族よ。家族を呼ぶのに敬称なんて必要?」 俊也 「いつから家族に……」 佐知子「ぐだぐだ言わないの。ところでなんなのこの騒ぎは。……って、あら。     また増えたの?」 俊也 「あ、えっと……夏純に連れていかれた場所で会った人達。名前は」 彰利 「お姉さん、俺と新しい愛を育みませんか?」 ドパーン! 彰利 「ウバァアォ!!」 佐知子「子供が何を寝ぼけたこと言ってるの。十年早いわよ」 彰利 「なにぃ!?実年齢なら負けちゃいねぇぜ!?」 佐知子「へぇ?何歳だって?」 彰利 「184歳!」 ズパーン! 彰利 「ゲブボ!」 佐知子「寝ぼけてるみたいだから向こうの川で顔洗ってきなさい」 彰利 「あぁんバレちゃった?実は眠かったのよ。ありがとう姐さん」 佐知子「あら、呼び方解ってるじゃない」 彰利 「いえいえそれほどでもー。では洗ってきますねー」 ひらひらと手を振ってその場を離れる彰利。 彰利 「……チッ、ババァめが……年甲斐もなく粋がりおって……。     きっとアタイの美肌に嫉妬したに違いねぇわよ……!     はふぅ、やっぱりアタイってばシンデレラ向き?」 そしてすれ違い様にとんでもないことを言ドカーン! 彰利 「キャーッ!?」 背後から何かを投げられた彰利がゴロゴロズシャー!と転がってゆく。 佐知子「聞こえたわよこのバカッ!誰がババァだって!?わたしはまだ24よ!」 彰利 「ギャアババァ!」 佐知子「なっ───なんですってぇっ!?」 彰利 「助けてダーリーン!ババァ・ザ・ヒステリックがアタイの美肌を狙ってるー!」 佐知子「どっかの女子プロのリングネームみたいなの付けないで!」 彰利 「いやー、お客さん。物事のノリがまるでルナっちだ。     からかいたくなるのもしょうがあるめぇ?というわけで許せ」 佐知子「……このっ……」 ばさぁっ! 彰利 「おわっぷ!?ゲホッ!ゴホッ!な、なにごとっ!?貴様何を掛けた!」 佐知子「灰」 彰利 「灰!?」 佐知子「シンデレラ向きなんでしょう?それで頭冷やしなさい」 彰利 「これで!?どうやって!?」 悠介 「うははははシンデレラ!このシンデレラめが!」 彰利 「いやーん!悠介がいじめっこに見えてしょうがねぇー!     ていうか何!?憧れのシンデレラの名前でどうして罵倒が!?」 悠介 「シンデレラってのは『灰被り』って意味だろが。     シンデレラになりたい、なんて言ってみろ。     灰かけられて泣きを見るのがオチだぞ」 彰利 「ええっ!?美女達の憧れのマトをシンデレラって呼ぶんじゃないの!?」 悠介 「んなわけあるかっ!」 彰利 「そ、そんな……アタイてっきり、     シンデレラって姫さんとかソッチ系のことの意味かと……!     ああっ!穴があったら入りたいわっ……!」 悠介 「穴?穴ならあそこにあるが」 彰利 「まあ!なんてステキな穴!タコも思わずウットリの造形だぜ!     蛸壺なんて目じゃねぇ!ありがとダーリン!これで心置きなく入れるぜ!」 彼は走った。 何故かバク転で。 ハイヘヤというワケの解らない掛け声付きで。 夏純 「……!……!」 俊也 「え?」 そんな中で夏純が俺と彰利を交互に見ながら腕を引っ張る。 ……それは『止めてくれ』と言っているようだった。 彰利 「ハイヘヤハイヘヤハイヘヤハイヘヤワンツースリーフォーファーイ!ハァッ!」 がぼしゃーん! 彰利 「ぎゃああああああああああああっ!!!!」 佐知子「あ、そこ肥溜め」 俊也 「うえ……っ!」 夏純 「………」 ああ……だから止めようとしてたのか夏純……。 彰利 「オエェエエエーッ!くっさぁあーーっ!!!オゥィェーイ!!」 佐知子「安心しなさい、家畜の糞だから」 彰利 「そういう問題じゃねィェーッ!お、おえぇっ!ゲェーッ!」 悠介 「よっ!マッドゴーレム!」 彰利 「イエーィッ!熱烈な声援あーりがとーぅ!ってやかましい!」 うーん、挫けない人だ。 彰利 「くそったれがぁーっ!こうなったら誰かを熱烈に抱き締めてやるぁーっ!」 悠介 「現在進行形でくそったれなのはお前だろ」 彰利 「なっ……ターゲットロックオォーンッ!」 悠介 「うわっ!馬鹿っ!寄るな!」 彰利 「逃げても無駄YO!空間翔転移!」 キィンッ! 悠介 「ば、ばかっ!人の前で月操力を」 彰利 「抱き締めてモナムゥーッ!」 がばぁっ! 悠介 「ぐ、ぐわぁあああーーーーーーーっ!!!!!」 熱い抱擁が展開された。 俺達はその様子を見て、ただただ呆然とするしかなかったのでした───。 Next Menu back