───肥溜めマッドゴーレム───
───。 悠介 「……来て早々、すいませんでした」 風呂から上がった悠介は申し訳なさそうに頭を下げた。 そして憧れの合掌造りの家にこんなカタチで入ることになるなんて、と嘆いている。 そもそものコトの発端者はと言うと─── 彰利 「か、かかかか夏純ちゃん……!?お、お兄さんとEコトしない……!?」 夏純 「……!……!」 かたかたと震えながら距離をとる夏純へとジリジリ近づいていっていた。 ちなみにもう風呂には入った。 あのままだったらさすがにマズイ。 佐知子「かまわないわよ。あのままだったらこっちがまいってたわ。     それから敬語はなしね。     だからってあの馬鹿みたいにエラそうに言ったらただじゃおかないわよ」 彰利 「へんっ!俺っちが夏純ちゃんに夢中で構ってもらえないからって、     トゲトゲしくヒスるんじゃねぇっすよ!!ねぇ兄貴!」 悠介 「うるさい肥溜めマッドゴーレム」 彰利 「ギャア!?また新たなあだ名が!」 悠介 「ところで───街方面、どこでもいいから出られる場所はないか?     磁石が機能を果たさないんじゃあ何処に居るのかも解らない」 佐知子「んー……ここは地図に載ってないのよ。     だから『何処か』なんて考えるだけ無駄よ」 悠介 「地図に載ってない?」 佐知子「そ。要するにさ、ここは特殊な磁場があって磁石も通用しないし───     それに地図にも載ってなければ政治家も居ない。     『見捨てられた地』、って呼ばれてる場所よ」 悠介 「見捨てられた───?」 佐知子「誰がそう呼んだかは解らないけどね。わたしは『残された楽園』だと思ってる」 悠介 「……ああ、そうだな。俺もそう思う。しかしさ、ここには……えっと」 佐知子「佐知子よ。敬称さえつけなきゃ好きなように呼んでいいわ」 悠介 「え?だって姐さんって」 佐知子「アレは別。わたしの趣味みたいなものよ」 悠介 「………」 俊也 「あー……」 ……だめだ。 話を聞いてるだけでも混乱してくる内容なのに、よく続けられるな悠介は……。 もしかしてそのテの内容には免疫でもあるのか……? 悠介 「続けるぞ?」 佐知子「ええ、どうぞ」 悠介 「ここには姐さんと……夏純、だったか?」 夏純 「!"」 悠介 「うん。姐さんと夏純しか居ないのか?」 佐知子「まあ、そんなところかしら」 俊也 「えぇっ!?ウソだろそれは!」 ごすっ! 俊也 「ぐおっ!」 佐知子「うるさい」 俊也 「姐さん気取りの人がカカト落としするなよ……!」 佐知子「そんなの勝手でしょ。大体なにがウソくさいっていうのよ」 ウソくさいだなんて言ってないんですけど……。 俊也 「だってあの雄大な田畑を姐さんひとりで管理できるわけないじゃん!」 佐知子「……俊也?」 俊也 「な、なに」 佐知子「あなたたちのような都会の愚民どもと、     常に農業をしていたわたしを同等に見比べないで」 俊也 「愚民!?」 悠介 「だな。農業する人が居なけりゃ俺達は米を食えないんだから」 佐知子「あ、解ってるねー。     若い人って反対意見しか出さないヤツらばっかりだと思ってたけど」 悠介 「馬鹿言え。俺はそこら辺の良識は踏まえているつもりだぞ」 彰利 「そうそう。今みたいに『若い人』とかボロ出したどっかの因業ババァとは訳が」 ドボォッ! 彰利 「ゲブボッ!」 佐知子「しょうがないでしょ……!     ここにはわたしより若い子が夏純しか居ないんだから……!」 彰利 「へへーん、言い訳にしか聞こえないやぁ〜!やーいヴァヴァアヴァヴァア!」 ドゴォッ! 彰利 「ヘンリーッ!?」 佐知子「いちいちつっかかるわねっ……!何!?わたしが気にくわないわけ!?」 彰利 「フフフ、それは違うな。     俺が言いたいのは『あんなところに肥溜め作ってんじゃねぇ』ってことだ」 佐知子「今はそんなこと関係ないでしょ!?」 彰利 「なにぃ!?貴様は落ちたことがないからそんなこと言えるんだ!     一度の人生、二度も肥溜めに落ちた俺のガラスのハート、貴様なんぞに」 佐知子「解らないわ」 彰利 「やっぱり!?」 悠介 「解りたくもないな」 彰利 「ゲェーッ!ダーリンたらどっちの味方!?」 悠介 「正義の味方」 彰利 「うっしゃあそれなら安心だ!この悪魔ティックババァ!     今こそ俺とダーリンの友情パワーで追い払ってくれる!」 ……うわぁ、自分が完全に正義だと思い込んでるよ…… 悠介 「……少しの迷いもなく自分が正義だって決めつけるなよ……」 悠介も悩みどころだったらしい。 彰利 「バッケヤラァ!ダーリンのバッケヤラァ!     自分が自分を正義と思わずにどうやって正義になれようか!     まず自分が自分をその像をイメージしなきゃ始まらないでしょ!?     って訳で、ババァ、お前、悪」 滅茶苦茶な理論を振りかざして彰利。 ていうかなんでカタコト? 悠介 「そしてお前はホモだ」 彰利 「誰がホモだ!」 悠介 「ああすまない。肥溜めマッドゴーレムだったな」 彰利 「ちがわいっ!ダーリンのばかーっ!」 悲しそうに涙を撒き散らしながら、彼は内股で外へと逃走していった。 だがちらちらとこちら───いや、悠介を見ている。 彰利 「ダーリン!?こういう時は追ってきてくれるのが人情ってもんでしょ!?」 悠介 「やかましい!行くなら行け!」 彰利 「ダッ……ダーリンの馬鹿ー!ハゲーッ!」 悠介 「だっ、誰がハゲだ!待てこらてめぇ!」 彰利 「ウフフフフ、こっちよダァ〜リ〜ン!アタイを捕まえ」 ガボシャア! 彰利 「ぐわぁああああああああああっ!!!!!」 浜辺を駆ける男女を演出しようとしていた彼はストレートに肥溜めへと落下した。 彰利 「くっさぁあああああああっ!!!ギャオォオオオオッ!!!」 そして叫ぶ。 佐知子「……ねぇ、もしかしてあの子……」 悠介 「…………ああ」 俊也 「知り合って間も無いけど、誰でも解ると思う……」 佐知子「……そう。それじゃあ本気でハタ迷惑な馬鹿なのね……」 再び肥溜めマッドゴーレムと化した彼が泣きながらこちらへ駆けてきた。 内股で。 そんな彼を長い棒で容赦無くドパンドパンと殴る悠介もスゴイが、 それでも怯むことなく内股で進んでくる彼も相当だ。 そこで俺は理解した。 馬鹿とはここまでしてようやく馬鹿なのだと─── しくしくしくしくしくしく……。 言ってしまえば田舎と呼ぶのが相応しい村に、鬱陶しい泣き声が溢れる。 彰利 「ひどいや……。     どうしてアタイばっかりこんな面白い目に合わなきゃならないの……?」 悠介 「泣くな肥溜めマッドゴーレム」 彰利 「その不名誉なあだ名やめて!」 俊也 「へぇ、それじゃあふたりはここ数ヶ月の間、家に帰らないで旅してたのか」 泣いてる彼を散々無視して話してくれた悠介に言葉を返した。 悠介 「ああ。卒業式すっぽかしての旅だ。当初はどこかの村を目指してたんだけどさ。     この馬鹿が妖精さんを求めて走り出して崖から落ちやがってさぁ」 彰利 「あれはダーリンが突き落としたんでしょ!?     あの時はさすがの俺も生きた心地がしなかったわよ!     あまりの唐突さに涙とヨダレと耳汁が溢れ出したほどだもの!」 悠介 「耳汁なんぞ出すな!」 彰利 「お酒は二十歳になってからって言うけどさ。     アルコール度70%のアタイの耳汁は飲んでいいのかな」 悠介 「知るかっ!」 滅茶苦茶な会話が微妙な間合いで成立している中、俺は呆然とするしかなかった。 彰利 「それにしてもあのババァ……なにが我輩と夏純だけよ♪だ。     今は出払ってるだけで、ホントは他にも人が居るんじゃねぇか……」 夏純 「………」 くいくい。 彰利 「む?なんぞね」 夏純 「……、……」 彰利 「……ふむふむ。なるほど。いやぁまいったな、俺のことが好きだなんて。     夏純ちゃん、気持ちはありがたいけど俺には帰りを待つ粉雪が」 夏純 「……!!」 ぶんぶんぶん! 彰利 「うお、そんなスゴイ勢いで首振ることないじゃない、冗談ですよガール。     で?なんぞねガール」 夏純 「……、……」 彰利 「えぇい喋らんかぁーっ!」 がっしゃーんっ! いきなりちゃぶ台を引っ繰り返す彰利───ちゃぶ台!? どこから沸いて出た!? 夏純 「……!」 悠介 「なにしやがるこの馬鹿者がぁーっ!」 ドゴォッ! 彰利 「ヘルメェーッ!」 捻りを加えた拳が彰利の顔面をとらえた。 悠介 「大丈夫か?どこか怪我してないか?」 夏純 「…………」 ふるふる。 悠介 「そうか、よかった。     ……おい彰利、この娘が喋れないって解っててやるなよ……」 彰利 「エー?ソウダッタノー?ハツミミダッゼェーィ!」 悠介 「死ねェーッ!」 彰利 「いきなり死刑宣告!?ちょっと待って悠介話せばわブボォッフォオッ!!」 バキベキゴロゴロズシャー! 遠慮の無い体重の乗った拳で殴りつけられた彰利が転がり滑っていった。 俊也 「……やりすぎじゃないか?」 悠介 「これでもまだヌルい」 うわっ……そうなんだ……。 俊也 「あ、ところでさ。知ってたんだな、夏純が喋れないって」 悠介 「解るさ。この娘自身が何も喋らないで、     騒ぐように喋ってた俺達を羨ましそうに見てた。     それで察してやれないのは今この村に居るヤツではあいつくらいなもんだ」 穏やかに微笑みながら夏純の頭をやさしく撫でる悠介。 どうしてか、その風景がとても自然に見えた。 夏純 「…………♪」 夏純は気持ち良さそうに目を細め、悠介を見上げていた。 悠介 「さてと。それじゃあ俺達はそろそろ行くよ。長居するわけにはいかないから」 俊也 「え?もう行くのか?」 悠介 「旅ってのは歩かないと意味がないんだ。俺はそれを堪能したい」 俊也 「……いいな、そういうのって」 悠介 「うん?」 俊也 「自分でこうしたい、って決めてさ、有言実行できるキミが羨ましいよ」 悠介 「…………羨ましい、じゃあいつまでたっても出来ないぞ」 俊也 「……解ってる」 悠介 「学校卒業したら一度無茶やってみろよ。多分、生き方と考え方が変わるぞ」 俊也 「……そうだな」 悠介 「それじゃあな。縁があったらまた会お───こらこら、付いてきちゃダメだ」 夏純 「……!……!」 悠介 「だ〜め。頭なら俊也に撫でてもらいなさい」 夏純 「〜!」 ぶんぶんぶん! うわぁ、すごい勢いで首振ってる。 ……何気にショックだった。 夏純は悠介の腕を掴んで離さなかった。 悠介は困った顔をしたのち─── 悠介 「───ゴキブリが出ます」 ポムッ。 俊也 「───!」 出てきたゴキブリに、思わず身構える。 が。 夏純 「?」 べちんっ! 悠介 「あ」 俊也 「あ」 デコピン一発で始末された。 ぬおお、強いぞ田舎娘。 悠介 「……これじゃ、蜘蛛も望み薄だな……俊也。夏純の苦手なもの知らないか?」 俊也 「さっき話しただろ?俺もさっきここに来たばっかりなんだ」 悠介 「…………彰利」 彰利 「呼んだかい、この俺を」 悠介 「彼女にキスしてくれ」 彰利 「公認!?そういうことならラブリィイイ!!」 夏純 「!」 ばばっ! 物凄く真剣な顔で夏純が離れた。 悠介 「彰利!今!」 彰利 「オウヨ!もう愛してラブリィイイイ!!」 ボゴォッ! 彰利 「ムチュウ!?な、なにすんのさダーリン!」 悠介 「そうじゃないだろ!転移だ転移!」 彰利 「なにぃ!?また肥溜めに落ちろと言うのですか!?」 悠介 「誰がそんなこと言った!     姐さんに教えてもらった場所にジャンプしろって言ったんだよ!」 彰利 「えー?でもさぁダーリン。     この村来てから転移が上手くいかなかったの知ってるでしょ〜?」 悠介 「じゃあ走るぞ!」 彰利 「え?ああん待って〜ダ〜リ〜ン!」 悠介と彰利がもの凄い勢いで走って行った。 その早さたるや、世界記録も狙えるかもしれない勢いだった。 夏純 「………」 夏純はそんなふたりを悲しそうにして見送っていた。 ───。 佐知子「そっか、もう行ったんだ。あのふたり」 俊也 「うん」 疾風怒濤の勢いだった。 散々騒いだ彼らが去ったあとの空間はとても静かだった。 夏純はしばらく誰も居ない道を眺めていたが、 やがて俺のあぐらの上に座って俺を見上げた。 俊也 「夏純、重い」 夏純 「!」 べちっ! 俊也 「いてっ!」 正直な口から出た言葉に対して、夏純は制裁をくわえた。 デコピンとはやってくれる。 ……まあ、夏純の気持ちは解る。 どうしてだか解らないけど、悠介の近くは空気がとても穏やかだった。 一緒に居ると安心するんだな。 居なくなったのは実際寂しかったし。 俊也 「ところで」 声  「キャーァアアアアアアアアアアアッ!!!!」 俊也 「うわっ!?」 突如、ずどどどどど……という音と供に絶叫が響いた。 佐知子「?なにかしら」 俊也 「うわぁ冷静!これだから田舎ッ子って神経がず太いって」 ドスッ。 俊也 「くほっ……!」 佐知子「やかましいわ。それより……あれ、さっきの子じゃない?」 俊也 「え?」 窓から外を見る。 ……たしかに彰利だ。 ああ、隣で悠介も走ってる。 その後ろで───ええっ!? 彰利 「くっ───熊だぁあああああああああっ!!!」 必死の面持ちで駆けてくるふたり。 その後ろには確かに黒ずくめの熊が。 熊  「グォオオオオッ!!」 バリィッ! 彰利 「ウギャアーッ!」 悠介 「彰利っ!?」 彰利 「イ、イヤァアア!アタイの服が剥ぎ取られたーっ!     この熊ってば変態ヨー!アタイを襲うつもりなのねー!?」 悠介 「だからどうしてお前はこういう状況でもそういう思考しか働かんのじゃあ!」 熊  「ガォオ!」 ボゴォッ! 彰利 「ジブルファーッ!?」 ギュリギュリギュリギュリドカーン! 熊に殴られた彰利が大回転して吹ッ飛んでいった。 やがて地面に落下。 俊也 「さ、佐知子さん!銃とかないんですか!?」 佐知子「マタギじゃないんだから在っても使えないわよ!」 夏純 「……!……!」 そうこう言っている内に、倒れた彰利に近寄って大きな牙を露わにする熊。 彰利 「フフフ、甘いぞ熊よ。俺はこの時を待っていたのさ!     そろそろ来るぜ!スリー!トゥー!ワァン!ファイヤーッ!!」 バブゥーッ! 熊  「グオッ!?」 何を思ったのか、彰利は屁を放った。 熊はそれを食らってドシャア。 俊也 「───へ?」 倒れた。 彰利 「ふははははは!『伝説のタフネス』と呼ばれたゴキブリすらも屠る我が放屁!     貴様ごときが耐えられる臭さではないわァーッ!うわぁっはっはっはっは!     うっしゃあダーリン!今夜は熊鍋ぞ!」 悠介 「よっしゃあよくやった彰利!これで腹が膨れる!」 俊也 「どこまでパワフルなんだあんたらーっ!」 彰利 「ヨゥメェーン!また来たよ夏純ちゃーん!……それとそこのババァ。     熊って食えるよねー!?」 ズキューンッ! 彰利 「キャーッ!?」 佐知子「聞こえたわよ!?ババァって言うなーッ!」 彰利 「ゲゲェーッ!?どっから銃を!?ていうか無かったんじゃないの!?」 佐知子「聞こえてたの!?どういう聴力してるのよ!」 彰利 「俺様の耳はロバの耳ー!」 高らかに叫びながら耳をモシャアと伸ばす彰利。 悠介 「ダンボになってる!ダンボになってるぞ彰利!」 彰利 「え?キャア!アタイったらなんてイージーミスを!」 イージーか? ていうか何者? 彰利 「イージーイージーイージーネ!」 夏純 「……!」 ぱちぱちぱち……。 彰利 「フフフ、拍手はいいから───身体で払ってもらおうかーっ!」 ボゴォッ! 彰利 「デボイ!」 どしゃあ。 顎を横からストレートに殴られた彼は膝から崩れていったのだった。 そんな彼を引きずり、ふたりは家の中に入った。 ───。 彰利 「ウ、ウェッヘッヘッヘ……かかか夏純ちゃん、おにいさんと」 ボギャア! 彰利 「ゲブボ!」 悠介 「ごめん姐さん。よかったら空いている家を貸してもらえないか?」 彰利 「うわぁ人を殴っておいてさらりと話題を変えやがった!」 佐知子「どうしたの?出ていったって聞いたけど」 彰利 「ババァも無視!?」 ボギャア! 彰利 「ヘブボ!」 悠介 「お前は黙ってろ。……1日だけこの自然を堪能していくことにした。     だってもったいないじゃないか、     ここまで自然の残ってる場所に来ておいてそのまま出て行くなんて」 佐知子「……そう。村の住民として嬉しい言葉だわ。……好きなだけ使っていいわよ。     なんだったらここの住民になってくれてもいいし」 悠介 「魅力的な提案だけど、俺にも帰る場所があるからさ。それは出来ない」 佐知子「はぁ〜……ねぇ、あなた本当に学校卒業したばっかりなの?     とてもじゃないけど子供の思考があるとは思えないんだけど」 悠介 「ソレ、チガウ、オレ、コドモ」 佐知子「なんでカタコトなのよ……」 悠介 「旅に出る前にさ、自分が子供だって思い知らされたことがあってさ。     だから俺は自分が子供だってことにあまり嫌な気分も無いし───     だからって大人って言われて嫌な気分もしない。     どちらかっていうと子供ってくらいの思考のつもりだよ俺は」 佐知子「……そうは感じないんだけどね」 悠介 「……ところでさ。この娘、なんとかしてくれないか?」 夏純 「〜♪」 悠介の足の間で彼に自分の身体を預けたままで見上げる夏純。 どうやら懐かれたらしい。 佐知子「夏純がそこまで懐くのは初めてね。いいんじゃない?そのままで」 悠介 「いや、待ってくれ……俺、少し女は苦手気味で……」 佐知子「あらそうなの?なんでまた」 彰利 「クォックォックォッ、それはね?     ダーリンがハーレム状態でハニー達に引っ張りだこにされてたからだよ」 佐知子「へぇ、つまりモテるんだ」 悠介 「そんなんじゃない。こんな極馬鹿下郎の言葉を信じるな。     大体、殺気まで撒き散らした状況をハーレムだなんて言う方がどうかしてる」 彰利 「だねぇ。アタイなんて囲まれたら待っているのはリンチだけだしねぇ。     ていうか極馬鹿下郎ってなんですか?」 俊也 「どうしてそう軽く言えるんだか……」 彰利 「うっふっふ、それはね?アタイが生半可な衝撃ではコワレないからなのヨ。     アタイってば最強!もう最高にして最強!」 悠介 「肥溜めマッドゴーレムだけどな」 彰利 「おだまりゃあ!」 悠介 「行き倒れたお笑い芸人だし」 彰利 「うわっ!憶えてたの!?」 悠介 「そして変態オカマホコンだし」 彰利 「それはもう忘れろ!」 再び叫び合うふたりに溜め息を吐かざるをえない。 元気だなぁほんとに。 彰利 「ところで小僧」 俊也 「……その小僧っていうのやめてくれない?」 彰利 「こわっぱめが……」 俊也 「それは人を呼ぶ時に言う言葉じゃないだろ!」 彰利 「相手にされないからって腐るな腐るな。     大体貴様が全然喋らないから話に置いていかれるんじゃないの〜」 き、貴様……? 俊也 「ふたりの勢いの中で喋れること自体、すごいと思うけど」 彰利 「なにぃ、それならば水穂ちゃんは最強だな。     あれだけ喋れればステキってことだろう」 俊也 「水穂?」 彰利 「ふっ……」 ファッサァア〜とおぞましいほどに優雅に髪を払う変態。 彰利 「髪の毛払っただけでおぞましいのかよ俺は!」 俊也 「人の心を読まないでくれ!怖い!」 彰利 「やかぁしゃあ!貴様の言いたいことなんて目を見れば解るわ!     貴様がオーマイコンブの会員だとかキャッツカードを常時持ってることとか!」 悠介 「それはお前だろうが!」 彰利 「ギャアア!バラしちゃならねぇ!」 俊也 「人に不名誉な物事を押し付けるなよ!」 彰利 「あんじゃとグラァ!」 悠介 「キレてないで『ふっ……』の続きを話やがれ!」 彰利 「おっとそうじゃった。よし小僧、仕切り直しだ」 俊也 「小僧って言うな」 彰利 「こわっぱめが……」 俊也 「そこからかい!」 悠介 「言う気があるならさっさと言え馬鹿!」 彰利 「バッケヤラァ!ダーリソのバッケヤラァ!     物事には段取りってもんが必要なことくらい知ってるでしょ!?」 悠介 「知らん」 俊也 「うわっ……即答!」 彰利 「ダーリン!?オイちゃんとの別れの際に言った言葉覚えてる!?」 悠介 「そんな昔のことは忘れた」 彰利 「こっ……このご都合主義さんめ!憶えてろくそう!夜這いしてやるからな!」 俊也 「ほんとにホモだったんだ」 彰利 「間に受けるな小僧!」 俊也 「小僧言うなっての!」 悠介 「だぁっ!いいから言え彰利!話が進まないだろ!?」 彰利 「そんなに聞きたいのか。そうかそうか。うっふっふ、仕方ねぇのぅ。     えーとですね。俺様はこう言おうとしてたんですよ。     小僧、もう一度さっきの言葉通り訊いてくれ」 間合いを取って、髪の毛を払い直す彰利。 俊也 「えーと……」 なんて言ったんだっけ? って、そうか。 確か名前だったな、水穂だっけ。 俊也 「水穂?」 彰利 「ふっ……俺の恋人だ」 ピクッ。 なにやら悠介の眉間がメキャアと動いた。 悠介 「よし、日余に言いつけてやろう」 彰利 「ああっ!勘弁!ごめんなさい!調子に乗ってました!     そったらことしないでプリーズ!粉雪泣いちゃう!だがその顔も見てみたい」 俊也 「随分正直な人だな」 悠介 「だろ?」 彰利 「やかぁしいわい!」 俊也 「ホモなのか女好きなのか解らないヤツってことか」 彰利 「遠慮なく言うようになったじゃねぇの!でもアタイはホモじゃないからね?     アタイは女好きですよ。歴史に残るくらい女好きさ。     なにせ彼女も居るし、ふたりきりの時は夕焼けをバックに」 悠介 「それはもういい!遭難中に散々聞いたわ!」 彰利 「えー?言わせてよダーリソ。愛を語りたいのよ〜。     ああくそっ……!帰還したら絶対愛してやる……!     抱き締めて撫で刳りまわして振りまわしてからギガティックサイクロンに派生」 悠介 「ところで熊、どうする?」 彰利 「うわ無視!?ヒドイ!キィイーッ!」 佐知子「熊鍋ねぇ……男衆が居た時は作ってたけどね、あまり美味しいものじゃないわ」 悠介 「あれ、そうなのか?」 彰利 「じゃあどうしようかあの熊」 悠介 「どうするって……んー……」 彰利 「あ、じゃあアタイが鷹村さんに並ぶために戦っていい?」 悠介 「やめとけ」 彰利 「はい、動物愛護会員NO.6万9千3の者として、     動物には放屁どまりにしときますわ」 悠介 「というわけで野に返してこよう」 佐知子「運ぶの?どうやって?」 彰利 「はいはーい、オマカセー!」 未だに気絶している熊の足を掴んで持ち上げぇえええっ!? 俊也 「ババ、バケモノ!?」 彰利 「馬鹿野郎!旅芸人に不可能はねぇのよ!」 俊也 「うわぁ言い切った!」 彰利 「芸人は人が驚くことが出来てこそ芸人!生半可なことでは名乗ることすら無理!     見よ!我が精神と耳汁の胎動!ぬぅううん!爆肉鋼体!」 メコッ……モココッ……! 彰利 「ぬぉおおおおおおおおおっ!!!!」 びりゃあぁあっ! 俊也 「ぎゃー!怖ぇええっ!」 彰利 「なにぃ!?美しいと言え!見よ!この流れるように滑らかな上腕二頭筋!     泣く子も黙るパワーでありマッスル!フンッ!ムッフン!ヌゥッフゥ〜ン!」 夏純 「……!」 何故か次々に目の前でポージングをとる彰利に、夏純は怯えている。 彰利 「ほ〜れほれほれマッスルマッスルマッスル!     この熱き魂と汗の香りと耳汁の滑らかさに酔いしれるがいい〜!」 夏純 「!、!」 ぶんぶんぶん! 夏純は本気で怯えている。 しかも耳汁関係ない。 悠介 「人の目の前でポージングするな。暑苦しい上に鬱陶しい」 彰利 「ニョウニョウ、アタイは夏純ちゃんに筋肉の羽ばたきを見せたのよ。     さあ夏純ちゃん、悠介にしがみついてないで俺様に甘えなさい。     今なら漏れなく俺のスパイシーなワキガを嗅がせてあげよう」 夏純 「───!───!」 彰利 「うわ、滅茶苦茶首振ってる。ワキガじゃ足りませんか?」 俊也 「どうしてそういう方向にしか脳が動かないんだこの人!」 彰利 「はっはっは、ここはツッコむ場所じゃないだろ小僧」 俊也 「今ツッコまなくていつツッコむよ!」 悠介 「まったくだ」 彰利 「ダーリンてめぇどっちの味方!?」 悠介 「現時点ではお前の敵だ」 彰利 「なにぃ!?それなら話は早い!梵(はん)ッ!」 ババッ! 夏純 「!?」 彰利 「ふはははは!この娘ッ子は頂いていくぞ!返してほしくば───えーと」 俊也 「そこで考えるのか!?」 悠介 「考えも無しにさらうな!アホかお前は!」 彰利 「だ、だまれー!かか返してほしくば───俺を愛してると言えーっ!」 悠介 「シン!?」 俊也 「ええっ!?なになに!?」 彰利 「言えないなら話にもならんわーっ!ではさらばだ!     俺はあの泉で貴様を待つ!告白の覚悟が出来たら1秒以内に来やがれ!」 俊也 「行けるかぁーっ!」 悠介 「今日のお前異常だぞ!いいから夏純を離せ!」 彰利 「あー!?いいのかなーそんな、別の地域で女の子庇うようなこと言ってー!     言〜ってやろー言ってやろー!ルナーっち〜に〜言ってやろー!」 悠介 「ガキかお前は!いいから止ま───止まれ!?ていうか何浮いてやがる!」 彰利 「俺は旅芸人!旅芸人は浮くことくらい造作もないのさ!」 俊也 「うわぁ無茶言ってる人が居る!」 悠介 「人としてせめて走って去れ!」 彰利 「ふはははは!他ならぬダーリンの頼みだ!それくらい聞いてやろう!     ではさらばだ!この娘を返してほしくばこの俺の足跡を追って来い!     そこで勝負だ!深淵なる泉で僕と握手!」 ずどどどどどど! 悠介 「あっ───待てこらっ!」 彰利 「サヨーナラー!あなたのこと、愛していたわー!」 涙をホロリと流しながらハンケチーフをひらひらと揺らしてガボシャーン! 彰利 「ぎゃああああああああっ!!!!」 夏純 「───────────────!!!!!!」 あ─── 悠介 「あの馬鹿また落ちやがった!」 俊也 「夏純ぃっ!」 俺と悠介は揃って駆け出した。 彰利 「オゥィェーイ!ああっ、た、助けにきてくれたのねダー」 ドパァン! 彰利 「ベボッ!?」 悠介 「俊也!夏純だけ助けるぞ!」 俊也 「意義無し!」 夏純 「……、……」 夏純はよっぽどショックだったのか、しゃくりあげている。 まったくなんてムゴイことを……。 がしっ。 俊也 「っ!?」 彰利 「グブブブブブ……!     貴様だけマッドゴーレムにならずに逃げられると思っていたのか……!     誘おうっ……!嘔吐の世界へっ……!」 ずっ! 俊也 「うわっ!」 ずずずずっ……! 俊也 「ちょ、ちょっと……!?」 な、なんて力だ! 彰利 「グブブブブ……!我が冥王の力、この程度では」 バリィッ! 彰利 「キャーッ!」 俊也 「えっ!?」 悠介 「俊也!今の内だ!早く!」 俊也 「あ、ああっ」 彰利 「逃がすかーっ!」 がばぁっ! 俊也 「ぐっ───ぐわぁああああああああああっ!!!!」 ガボシャーン! 俊也 「うぐっ!?お、おえぇえっ!」 彰利 「ゆったりたっぷりの〜んびり♪」 俊也 「うわぁすげぇ余裕だ!」 彰利 「馬鹿野郎!鼻歌なんぞ歌ってる場合か!」 俊也 「あんたが歌っとったんだろうがぁ!」 彰利 「助けてダーリーン!」 俊也 「だぁあっ!付き合ってられん!」 こんなヤツと一緒に居たら自分までもがどうにかなっちまう! そうだ、こんなヤツは無視してさっさと上がってガボシャーン! 俊也 「引きずり降ろすなぁーっ!!」 彰利 「へっ、てめぇひとりで助かろうったってそうはいかねぇぜ?」 俊也 「遭難するドラマでエラそうなだけで絶対足引っ張る男役かあんたは!」 彰利 「俺の理想像だ」 俊也 「うわぁ凄い脇役人生!     ていうか自分の理想のために人を巻き込んでんじゃねぇーっ!」 彰利 「んまぁっ!なんて口の聞き方でしょこの子ったら!     こうなったらアナタのお母様に直接伝えるしかないみたいね!」 俊也 「俺のおふくろに?……ははっ、俺の家の電話番号も知らないくせになにを」 彰利 「うむ、そう言うだろうと思ってな。     こんなこともあろうかと貴様の荷物から携帯居電話を」 俊也 「うーひゃーっ!凄い間接的な伝え方な上になに人の荷物漁ってるのこの人!」 彰利 「ああもしもし奥さんですか?     お宅の息子さんねぇ、肥溜めに入って鼻歌なんぞ歌ってるんですよ」 俊也 「イヤァやめてぇええっ!     自分の不名誉な行動を人に押し付けないでぇえええっ!!」 彰利 「冗談じゃよ、大体磁場が変なのに届くわけないっしょ馬鹿ですか貴様」 俊也 「あーあー!居るよこういういきなり冷静に切り返してくるヤツ!     ていうかさりげに馬鹿とか言うな!アンタに言われると凄い屈辱的!」 悠介 「そのへんにしてさっさと上がってこいよ……姐さん呆れてるぞ……」 俊也 「俺は上がりたかったんだよぉ〜……!なのにこのドクサレがぁ〜……!」 彰利 「ドクサレ!?ひでぇ中傷された!」 悠介 「黙れ肥溜めマッドゴーレム」 彰利 「いい加減しつこいよ本気で!」 悠介 「ほら、早く上がって来い」 俊也 「あ、あれ?夏純は?」 悠介 「彰利ほどじゃないにしろ足が汚れてたからな。先に風呂に行かせた」 彰利 「───!」 ゴプリ……べしゃっ、べしゃっ! 彰利 「クォックォックォッ……」 悠介 「覗こうだなんて思うなよ」 彰利 「ゲェ!?さっそくバレてる!」 俊也 「って言ってもなぁ、夏純が上がるまでこのまま?」 悠介 「心配するな、えーと……よし、姐さんは夏純を連れてったから居ないな。     ぬるま湯が大量に出て、ふたりの肥えを洗い流したら跡形も無く消え去ります」 俊也 「え?なに言って」 ざばぁああっ!! 俊也 「うわっ!?うわぁああっ!!」 彰利 「おお、気持ちいいじゃない」 ざぁああああ……っ。 俊也 「……な、なんだよこれ……」 彰利 「異常気象だろう」 俊也 「………」 彰利 「なぁ悠介、匂いが取れてねぇズラよ?」 悠介 「解ってる。ふたりの肥えの匂いを吸収するブラックホールが出ます」 ズゴォオオッ───! 悠介 「ほら、これでどうだ」 彰利 「オウ、パーフェー!」 俊也 「ちょ、ちょっと待ってくれ!今の───なに!?」 彰利 「芸だが」 俊也 「うそつけ!あんな芸があるか!」 彰利 「うわっ、夢の無ェことを」 悠介 「んー……仕方ないとはいえ、面倒なことをしたな。彰利、頼む」 彰利 「オーライ。ボーイ、ちょっと頭貸せ」 俊也 「ちょっと待ってくれよ、まだこっちは返事をもらって───」 彰利 「時間触───」 キィンッ! 俊也 「───あ……れ……?」 彰利 「……どうした小僧」 俊也 「小僧って言うな!……えっと……俺、いつの間に外に出たんだっけ?」 彰利 「さっき『めっちゃ肥溜め見てぇ!』とか言って出たんじゃないか、忘れるなよ」 俊也 「そんなこと言うか!」 彰利 「言ったんだって」 俊也 「……言ってないよな?」 悠介 「……えっと」 彰利  <ダーリン!> 悠介 「……言ったんだ」 俊也 「!?」 こ、肥溜め見たいって……俺が!? 彰利 「……どうしてアタイの言葉は信用しねぇのよ」 悠介 「それはお前がホモだからだ」 彰利 「お黙り!アタイが時間触でヤツの記憶の時間戻さなかったら、     一体全体どうなってたと思ってるの!?」 俊也 「記憶?」 彰利 「なんでもねぇザマス」 ? なんなんだ? 悠介 「ひとまず家に入ろう。それから」 彰利 「はいはいはーい!オイラまた熊と戦いてぇ!」 悠介 「……各自計画を練ろう」 彰利 「熊だ。絶対熊だ」 俊也 「俺はちょっとそのへん歩いてみる」 悠介 「家に入る前に決めやがって……まあいい。     俺は姐さんに訊きたいことがあるからここに残るよ」 彰利 「スリーサイズか?やめとけやめとけ、あんなヴァヴァア」 ドカーンッ! 彰利 「ケンプファー!?」 佐知子「どうしてあんたは人の悪口しか言えないのっ!」 彰利 「なっ、て、てめぇいつの間に!?ていうかワラの塊投げるのよそうよ!」 佐知子「そんなことはどうでもいいわ。それよりどうしたの?     ふたりとも肥溜めに落ちたと思ったのに」 彰利 「あっさり無視!?……ふっ、まあいいだろう。聞いてくれよヴァヴァア。     あの小僧がさ、突然バトルオーラ発してさぁ。     しかもそれが宙に浮くほどのオーラだったもんだからオイラびっくりですよ」 悠介 「どうしてそうポンポンとウソが出てくるんだお前は……」 彰利 「合わせてくれないとバレるじゃない!」 悠介 「合わせんでもバレるわ!」 佐知子「俊也、あなた何者なの!?」 悠介 「うわぁ信じてる!頭大丈夫か姐さん!」 ドボォ! 悠介 「くほっ!?」 佐知子「冗談よっ!……人の頭の心配するくらいならこの馬鹿の心配してよね」 悠介 「だからっていきなり脇腹打ちは……」 佐知子「そんなことよりどうしたの?三人固まって何か話してたみたいだけど」 彰利 「へへーん、ババアには教えてやんないもんねー!」 悠介 「いじめっこかお前は!」 俊也 「これから何するか話し合ってたんだよ」 佐知子「これから?ふーん……」 彰利 「俺は熊狩り」 俊也 「俺は散歩」 悠介 「そして俺が」 彰利 「ババァの相手」 ボグシャア! 彰利 「ギャアヤヤ!」 悠介 「人の声色真似て何くっちゃべってんじゃいオラァーッ!」 彰利 「イヤァアア堪忍してー!悪気がありすぎたんじゃー!」 悠介 「尚更に悪いわ!」 ……懲りずによく騒ぐ人達だ。 ───あ、っと……。 俊也 「姐さん、夏純は?」 佐知子「まだお風呂よ。誰かサンの所為で足が汚れちゃったからね」 彰利 「まったくだ、何考えて生きてんだババア」 佐知子「真顔で人に罪をなすりつけないでよ!しかも言い方がすっごいヒドイ!」 彰利 「元はと言えばあれはダーリンが走って去れ!なんて言うから」 悠介 「まず人間であれよお前!普通走るだろ!?」 彰利 「芸人が人の驚くことしないでどうするよ!     芸のためなら俺は覗きだって喜んでやるぞ!?」 俊也 「芸じゃない!それ芸じゃない!」 彰利 「主に悠介の入浴を覗く」 俊也 「うわぁゲイだ!!」 彰利 「だめだなぁ、こういう時はサヴって言うのよ?」 俊也 「同じじゃあ!惚れ惚れするようなうっとり顔で言い改めなくてもいいわぁっ!」 悠介 「落ち着け俊也!こいつのペースに飲み込まれるな!」 彰利 「そうだそうだ!のせられやすすぎだぞこの耳毛!!しかもツッコミ馬っ鹿」 俊也 「そうさせるようなことばっかりしてヤツは誰───耳毛!?     ていうか『ばっか』の部分にひどい中傷を感じたんですけど!!」 彰利 「おいおいあんまりヒドイこと言うなよババア」 佐知子「なすりつけないでって言ったでしょ!?」 バチィッ! 彰利 「オロベビャーノーゥ!!」 ……ドシャア。 突然青白い光が瞬いたと思ったら、奇妙な奇声をあげた彰利が膝から崩れていった。 俊也 「ていうかどういう奇声だよ!」 悠介 「ツッコむな!ツッコんだら蘇る!」 佐知子「どういう人間よ」 こっちが訊きたい。 悠介 「はぁ……話がちっとも進まない」 まったくです、ホントに。 悠介 「俊也、散歩行くなら今の内だ。こいつが目覚める前に行ってくれ」 彰利 「実はもう起きてる」 悠介 「早ェ!」 彰利 「クォックォックォッ、     儂を無視して逃げ出そうなどと、そんな夢心地なことが実現出来ると思うたか」 がばっ! 彰利 「な、なにぃ!?」 悠介 「早く行け俊也!この馬鹿は俺が抑えておく!」 俊也 「な、なにを言うんだ!キミを見捨ててはいけない!」 佐知子「なんだかんだいってノリがいいのね」 そうですね。 悠介 「馬鹿野郎!ここでふたりともこいつに惑わされてたら動けないだろう!」 彰利 「そうだこの馬鹿!バーカバーカ!」 俊也 「クーッハァーッ!ムカツク!やたらムカツク!」 悠介 「いいから行け!行くんだ!」 俊也 「す、すまない悠介っ……!」 彰利 「謝るくらいなら逃げてんじゃねぇザマスよこのザコが!     身の程も知らんと我に立ち向かうからそんなことになるのだこのハゲ!」 俊也 「なにこの凄い中傷!真似事でどうしてここまで言われなきゃならないの!?」 悠介 「行けって!相手してたら日が暮れる!」 彰利 「ハゲー!」 俊也 「ハゲてないわ!」 でも確かに相手にしてたら日が暮れるので、 背中にひどい罵倒と中傷を浴びながら、俺はその場から走り去った。 Next Menu back