───陽炎の少女───
───……。 小鳥の囀りが聞こえた。 それと同時にゆっくりと意識が覚醒する。 …………覚醒したんだけどなぁ。 うう、明らかに寝不足だ……。 二度寝三度寝は睡眠時間が短くなるから効率が悪くて困る……。 それもこれも─── 彰利 「ヨゥメェーン!おそよう!」 俊也 「うわっ!?」 彰利 「おっと!それ以上は言うんじゃねぇ!     俺がハングドマン状態だなんて言うんじゃねぇぞ!?     ていうかダーリーン!反省してるからこれほどいておくれよ!     自分にしかほどけない縄の創造なんてずるいじゃないのー!」 宙吊り状態でジタバタと暴れる彰利。 これは逃げようがないんじゃないだろうか───と、何か考えついたような顔だな。 彰利 「……フッ、ほどく気がねぇんなら俺様にも考えがあるぞ?     間接を外して駆動部分を細くし、脱出を図る!     ぬおお、なんてエクセレントな思考能力よ!もう愛してる!     さあ、とくと見よ!我が脱出劇!」 ポキポキ……ゴキャア!! 彰利 「!?」 うわっ、なんか今、思いっきりニブイ音が 彰利 「ギャッ───ギャアァアアアアアアアアアアアス!!!!」 うわキモッ! 足首の部分の関節が抜けて、皮が伸びてる! しかも縄から逃げられてないし。 彰利 「いぎゃっ!ぎゃぁああっ!!ギャーッ!ギャアア!!ギャワァアア!!」 足首が伸びたためか肩あたりまでが畳みに付くが、 その所為で余計に手が縄に届かなくなったようだ。 悲しいまでに必死にもがいてる。 解る解る……! 脱臼とかって痛いんだよなぁ……! 本気で痛いのか、涙を撒き散らしながらケモノのように縄に手を伸ばし、 空を引き裂く彰利。 彰利 「あ゙ッ……あ゙ぁああっ!!ア゙ァァアアアアアアアアアアアアッ!!!」 絶叫。 暴れた所為で骨の外れた部分に縄が締まり、足首から先が変色してゆく。 うぇえ、足首が巾着袋の口みたいになってるよ……! もう見てられんっ! 俊也 「い、いまほどいてやるからなっ!」 駆け寄って縄の結び目と格闘する。 だが、その縄は見た目では簡単にほどけそうだというのにビクともしなかった。 俊也 「な、なんだこりゃあ!?どうなってんだ!?」 悠介 「騒ぐな。自業自得な馬鹿を助けようって心は買うけど、     無闇に触れると余計に締まる」 俊也 「それじゃどうするんだよ!」 悠介 「こうするのさ」 トンッ。 ドシャア! 彰利 「ぐはっ!?」 俊也 「は……あ、えぇっ!?」 なんだ!? 悠介が触れただけで簡単にほどけたぞ!? 悠介 「この結び目にはコツがあるんだ。ほどこうとしたってほどけやしないよ。     彰利、朝食の用意、手伝ってくれ」 彰利 「待て、足くっつける。───梵ッ!」 ガションッ! 彰利 「うむオッケン!さあ俺は何をしたらいい?」 悠介 「そうだな、肥溜めに落ちてくれ」 彰利 「えぇっ!?料理との関連は!?」 悠介 「ない」 彰利 「ぬおっ!」 ふたりはギャースカと口論をしながら隣の部屋へと歩いていった。 ……材料とかあるのかな。 声  「───ホーホーホウ!こりゃ見事!都会なんて目じゃねぇな!」 俊也 「?」 目じゃないって……なにが? ちょっと気になるな、覗いてみるか。 俊也 「なんの騒ぎだ?」 彰利 「ヨゥメェーン!まあこれ見てみれ!見てみれ見てみれ!最強でしょう!?」 俊也 「え?……ただの味噌じゃないか」 彰利 「ぬお?……まあ普通はそうか。えーとだね、いいかねメェーン。     これは田舎味噌といってだね、都会で売られてる味噌とは次元が違うのだよ」 俊也 「味噌なんてみんな同じじゃないのか?」 彰利 「かぁあ!そんな決定じみたことは全ての材料味わってから言いやがれ!     世界も回ったことのない小僧がなに悟ったようなこと言ってやがるのさ!     日本国内だけでも味噌っつったらピンキリだぞ!?     その中でもこれは俺の言うところでチャンピオン!それが解らんのですか!?」 俊也 「そんなこと言われたってなぁ」 彰利 「……ふん……いいだろう。     この雄山が貴様に味噌汁というものを味わわせてやる」 悠介 「そのエセ雄山の味噌汁なんか飲んだら笑い死ぬぞ。ほら、これ飲んでみろ」 俊也 「え?んー……」 つ……。 俊也 「……うん、美味いね、味噌汁って感じだ」 悠介 「ああ。それじゃあ今度はこっちの味噌汁だ」 俊也 「えぇ?分ける意味あるのか?」 彰利 「飲まないと恋人にするぞ」 俊也 「ど、どういう脅しだよ……」 つ……。 俊也 「───……、……っ!?え、えぇっ!?」 味噌汁!?これが!? 俊也 「ちょちょちょっとまった!これ味噌汁じゃないだろ!」 彰利 「あー、そう言うと思ったわこの都会ッ子が」 ぼかっ! 俊也 「だぁっはぁっ!」 悠介 「これは間違いなく味噌汁だ。     両方ともしっかりしたダシの取り方を踏まえ、その上で同じやり方で作った。     違うのは───味噌だけさ」 俊也 「…………!」 彰利 「解ったか、この味が」 俊也 「ばかな……それじゃあ俺がいままで飲んでたのはなんだったんだ……」 彰利 「味噌汁だ」 悠介 「そりゃそうだ」 俊也 「い、いや……真面目に訊いてるんだけど……」 彰利 「だから、味噌汁じゃないか。どんな味にせよ、味噌を溶かして作ったんだ。     味噌汁ってことでは変わらない。だが、問題はその味噌だな」 俊也 「へぇえ……味噌が違うだけでここまで……」 彰利 「これに懲りたら二度と『みんな同じ』だなどと言わぬことだな。     次はこの程度の恥では済ませんぞ。うわぁっはっはっは!」 俊也 「……ここ、怒るところだよな?」 悠介 「ああ」 彰利 「まあ待て。料理も出来ないお坊ちゃんに俺達がまかないを施そう。     ちょほいとババアと夏純ちゃんを呼んできてくれメェーン。     もしババアが料理作ってたら肥溜めのいしずえにして構わんから」 佐知子「構うわよ!」 俊也 「あ、姐さん」 彰利 「ようババア」 佐知子「朝っぱらからご挨拶ね……!それで?なにやってるのよ」 彰利 「自分で考えろボケが」 佐知子「くはっ……!!」 悠介 「朝っぱらから毒々しいこと言うなよ、気が滅入る」 彰利 「先人の言葉で『見て解らんヤツには言っても解らん』というものがあってな」 悠介 「誰の言葉だよ」 彰利 「与那覇わたる」 悠介 「……居たか?そんな人」 彰利 「『わたるがぴゅん!』でな」 悠介 「また漫画かなにかか」 彰利 「まあそうだけど」 佐知子「ああ、朝食作ってるのね?そんなことしなくてもわたしがやったのに」 彰利 「そうザマスか?ならそれは自分だけで食え。我を巻き込むんじゃねぇザマス」 佐知子「くはぁあっ!」 ボゴォッ! 彰利 「ギョオッ!」 ズシャア。 彰利は力尽きた! 佐知子「……あのさ、朝からどうしてこんな嫌な気分にならなきゃならないのよ」 悠介 「はは……悪い……」 本当に申し訳なさそうに頭を掻く悠介。 まったく心が休まらないようだ。 悠介 「その代わりと言っちゃなんだけど、この朝食を食べてみてくれ。     たぶん、気に入ってくれると思う」 佐知子「……都会の味に負けるつもりはないわよ?」 悠介 「ああ。俺も都会の味よりはこういう場所の料理の方が好きだ」 佐知子「そう。だったら期待出来るわね」 彰利 「へへーんだ!自分より美味くて吠え面かくなよー!?」 佐知子「うっさい!」 ボギャア! 彰利 「ベボッ!」 ドシャア。 佐知子「ああもう!毎日歯ごたえなくて退屈だと思ってたけど贅沢な悩みだったわっ!」 怒りを露わにしながらも、上がって腰を下ろす。 ───あら?そういえば─── 俊也 「夏純は?」 佐知子「ああ、夏純なら」 悠介 「小川で見たぞ。涌き水取りに行った時に見つけた」 佐知子「へえ?よく涌き水の場所解ったわね」 悠介 「いや、えっと……それがさ。なんか道が解るんだ。よく解らんけど」 佐知子「ふーん……」 ……道が解る? 来たこともないのに……? それって、俺と同じ───? ……やっぱりそうなのだろうか。 ここではみんながみんな、自然的に道が解るって……そういうことなのか? 不思議な場所だな、ここは。 彰利 「愚か者め。水の香りを辿っていったのは他でもない俺じゃないか」 佐知子「朝食はもう出来るの?」 悠介 「ああ。もうちょいだ」 彰利 「無視!?」 佐知子「そう。じゃあ俊也?悪いんだけど夏純を連れてきてくれないかしら」 彰利 「それなら俺が行こう。     ひ、ひっ、ひっひひとりきりの夏純ちゃんにあげなことそげなこと」 佐知子「───と、こんなわけだから」 俊也 「……了解」 彰利 「なにぃ!?なにを訳の解らんことをっ!」 悠介 「裁き」 バチィッ! 彰利 「キャーッ!?」 ドシャア。 突然倒れた彰利がぐるぐる巻きにされ、畳みに転がされた。 悠介 「行っていいぞ。こいつはもう動けないだろうから」 彰利 「クォックォックォッ、この程度でアタイを止められるつもりか?     こんなものは縄抜けで───……あら?」 悠介 「特殊なイメージ付きの創造物だ。抜け出せないよ」 彰利 「ゲェーッ!なんてことを!」 悠介 「それに微弱ながら月蝕力も練り込んである。     蝕むことはないけど力を使えない程度に押さえることは出来るって寸法だ」 彰利 「か、考えやがったなダーリン……!」 悠介 「さぁな。ただお前は留守番してろ。お前が行動すると絶対騒ぎが起こる」 彰利 「まるで台風扱いですな……」 悠介 「俺はそう思ってるが」 彰利 「わぁ、アタイってばいつから超自然現象に?」 穏やかな中にも殺気溢れる風景を背に、俺はあの小川へと歩き出した。 ───あれから結局あのふたりが出てきて、タガメどころじゃなかったなぁ。 偶然でもいいから見つけられたらいいなぁ。 ……って、そんなことしてたら朝食が冷めるよな。 俺はいいけど夏純に申し訳無い。 よし、さっさと行くか。 ───小川に辿り着く。 相変わらず小動物達の声と川の流れる音、そして木々の揺れる音のみの世界。 心がとても落ち着く。 俊也 「夏純〜」 軽く声を上げてみた。 ……返事はない。 この程度の声じゃあ人影が見えてても聞こえないよな。 俊也 「夏純ー!」 声を張り上げる。 途端、小動物達の声が止まった。 せっかくの穏やかな世界をブチ壊しにしてしまったような錯覚が滲み出た。 うーわー、なんかすごい罪悪感が……。 後悔していると、少し上流の方で水の跳ねる音が聞こえた気がした。 ───まあ、あいつは喋れないから探しに行かないと埒があかないわけだ。 よし、行くか。 音のした方へと早歩きで進む。 しっかし綺麗な川だよなぁ。 メダカも居るし昆虫も居るし夏純も流れてるし。 あー、本当に自然って感じがするよー。 ───マテ。 なんか今、とてもたわけた光景を見逃さなかったか? 俊也 「って、夏純!?」 川に浸った夏純がサ〜……と流されてゆく。 なな、なにをやってるんだあいつはっ! 慌てて川岸を走り、先回りをしてから川に入る。 俊也 「か、夏純!?」 流れていた夏純を受けとめると、その目は開かれた。 夏純 「───……」 ───あ……『あの』夏純だ……。 目が違う。 俊也 「夏純……だよな?いったい何をして……」 夏純 「…………」 ザパァッ。 起き上がり、俺の問いかけに微妙に首を傾かせ、『?』な感じになる夏純。 よく見てないと表情の変化に気付けない……。 だがそれも少しの間のことで、やがて穏やかな表情を見せて俺に体を預けてきた。 俊也 「うわゎっ!?な、ど、どうしたんだ夏純っ!?」 夏純 「…………」 俊也 「か、夏純……?」 夏純 「───、……、……、……!」 くちゅんっ! 俊也 「……ぐあ」 突然のくしゃみ。 なにやらとてつもなくかわいいくしゃみだった。 が、……俺の学生服がぁ……。 夏純 「…………」 俊也 「あ、ちょっと───夏純!?」 少々ついてしまったくしゃみのアレに罪悪感を憶えたのか、 悲しそうな顔をすると夏純は川を出てひとりで雑木林の中に消えていってしまった。 俊也 「……な、なんだってんだ……」 そうしてひとり残された俺は唖然。 ひとまず学生服を川で洗って、それをしぼってから仕方なく家を目指した。 ……あー、なんか悲しい……。 ───……。 家に辿り着く頃にはもう、そこらへんにいい匂いが溢れていた。 ああ、腹の虫が騒ぎ始めた。 俊也 「ただいまー」 開け放たれた玄関をくぐると、その先のテーブルには料理が並べられていた。 そして視界を掠める夏純の姿。 佐知子「ああ、遅かったわね」 俊也 「いやちょっとね……」 佐知子「まあ仕方ないでしょ。入れ違いだったみたいだし」 俊也 「へ?」 入れ違いって……俺、そんなに遅れて帰った憶えはないんだが……。 俊也 「……夏純、置いていくことないだろ?俺、まだここに慣れてないのに」 夏純 「?………………、…………?」 え?と首を傾げられた。 そして何か自分がしてしまったのかと考えて───やっぱり首を傾げた。 だけど何かしてしまったんだ、と思ったのか、ペコリとお辞儀をした。 俊也 「お、憶えてないのか……?」 夏純 「?、?」 おろおろとする夏純。 本気で解らないらしい。 ……待ってくれ……それじゃああれは本当に夏純じゃないのか……!? それじゃあ誰だよあの女の子───! 夏純 「…………」 俊也 「あ、いやっ、別にいじめてるわけじゃないんだっ!     また人影を見てさっ!それがお前に似てたから───」 夏純 「……、……」 俊也 「怒ってない怒ってないっ」 夏純 「…………」 ……にっこり。 ああ、どうやら落ち着いてくれたようだ。 満面の笑みで料理の前に座る夏純を見て、悪いことをしたなと思った。 ……って、ああっ!だから『悪いことをしたな』じゃないって! 誰なんだよあの子! 佐知子「なに?また人影っていうのを見たの?」 俊也 「う、うん……。     ところでさ、夏純って俺がここを出てどのくらいで帰ってきた?」 佐知子「そうね、俊也の姿が見えなくなって少ししたらてこてこと歩いてきたわよ?」 俊也 「その時息切れとかはっ?」 佐知子「全然なかったけど……どうしたのよ、いったい」 俊也 「いや……ちょっと決定的事実が……」 これで決まった。 彼女は夏純じゃない。 大体にしてまず気付くべきだった。 ここに居る夏純の服は彼女と同じものだけど、全然濡れてない。 川の流れに身を委ねていたというのに濡れてないのは明らかな違いだ。 それはつまり、同一人物じゃないからだ。 俊也 「て、ことは……」 本当にあの子供の頃の友達ってのが戻ってきたのか───? あ、でも待てよ!? 彼女が幽霊ってこともあるかもしれない……! だってあの廃墟で会った時、音も立てずに居なくなってたじゃないか……! あんなボロボロの場所で物音ひとつ立てないなんて不可能だろ……! も、もしかして父親を探しに行って見つからなかったから単身炎の中に走っていって、 それで不幸があったからこそ行方不明とか───! 佐知子「……百面相やってないで座りなさいよ俊也……」 俊也 「へっ?あ、ああごめん……。あの、さ、姐さん?」 佐知子「うん?いただきます」 俊也 「いただきます。えと……夏純に双子かなんかって居たの?」 佐知子「居ないわよ?ひとりっこだったし」 俊也 「うあ……」 佐知子「なによ。なにか不満?」 彰利 「クォックォックォックォックォックォックォックォッ……。     そやつ、恐らく夏純ちゃんに姉妹が居たら姉妹どんぶりを」 ボグシャア! 彰利 「エドウィン!?」 悠介 「お前じゃあるまいしそんなこと考えるか」 彰利 「うう、姉妹どんぶりってだけで解るダーリンもどうかと思う……」 悠介 「お前が遭難中に語ってたんだろうが……」 彰利 「あ、そうだったそうだった。いやぁダーリンの人格疑っちまったよアタイ」 悠介 「……自分で言っててどこかおかしいって思わないのか……?」 彰利 「ほへ?なにが?」 悠介 「いや、いい……食おう」 今こそ、彼が自分自身で自分の人格異常を認めた瞬間だ。 俺は笑いを噛み殺しながら朝食を口に運ぶ。 俊也 「おっ……」 佐知子「わっ……」 夏純 「───……」 彰利 「うわぁっはっはっは!それみたことか!これが貴様と悠介の腕の差だ!     これで己の腕の落ち度が身に染みてわか」 ごすんっ! 彰利 「痛い!」 悠介 「お前はもう雄山の真似するのやめとけ……」 彰利 「そんなぁ、妻に対して多少の無理を言ってたところは嫌いだったけどさ、     彼はアタイの食の先人なんですよ?」 悠介 「お前の場合、その先人の顔を確実に汚してるよ。いいから黙って食え」 彰利 「食を嗜む人が言葉を無くして、どうして食べ物漫画が成り立ちましょう。     俺はそのことを知らしめるためにこの世界に降り立ったっ……!」 悠介 「はーいはいはい、無頼伝はもういいから。静かに食え、頼むから」 彰利 「ぬう……」 俊也 「これ、なんて料理なんだ?」 悠介 「名前?名前はない。俺と彰利がこの旅で開発したものだ」 俊也 「何者ですかあんたら……」 彰利 「フフフ、美食を志す者にこれしきのモノを作れぬと思うたか」 悠介 「悪食大王がエラそうなことぬかすな。     第一これじゃあまだミズノおばちゃんには勝てない」 彰利 「あ、やっぱり?絶対おかしいよあのおばちゃん。最強すぎて困る」 俊也 「こ、これより美味い料理が……?     もしかしてふたりともどっかの料理店の息子とか?」 悠介 「へ?───くっ……くくく……」 彰利 「うわぁっはっはっはっは!」 悠介 「その笑い方やめろ!」 彰利 「ええ!?なんで!?」 俊也 「お、おーい……?」 悠介 「はは、悪い。まあそう思われてもしかたないよな。     なんだかんだで得意なのが料理だけだもんな、俺達」 彰利 「俺は床業も自信があるんだが」 悠介 「お前のことなど訊いとらん」 彰利 「うわっ!ひでっ!」 俊也 「じゃあふたりとも……実際何者なわけ?」 悠介 「んー……俺は一応、神社の神主だけど」 俊也 「はいっ!?」 悠介 「で、こいつが」 彰利 「イタリアが産んだ絶世の美男子、パルコ・フォルゴ」 悠介 「ホームレスだ」 彰利 「違う違う!!!部屋あるよ俺!ちゃんと金払って住ませてもらってるってば!」 悠介 「あ、そういやこれだけ部屋空けてたらもう追い出されてるかもな。     バイトだってもう辞めたんだろ?」 彰利 「バイトは……そりゃあ卒業する前に辞めたが、     追い出されるってのは───ありえそうで怖ぇ。なにせ俺だし」 どうして俺の人生って波乱のオチだらけかなぁ、とホロリと涙を流す彰利。 そんなに荒んだ人生歩んでるのか……? 彰利 「あー、しっかしこうやって淹れたての真緑茶飲んでると縁側が恋しくなるな。     ていうかさ、ここってどういう場所よ。     野菜あれば米もあり、果物あれば茶畑あり。なんでもござれじゃん。     これで柿の木とかあったらアタイ、サルの真似して独り占めしたい気分よ」 佐知子「あるわよ?すぐ裏手に」 彰利 「なにぃ!?あ、ほんとだ」 窓からあっさりと見える柿の木。 うわぁ、全然気付かなかったよ。 夏純 「!」 悠介 「ん?よしよし、おかわりだな?」 夏純 「〜♪」 おかわりを受けとってモクモクと食べる夏純。 ああ、なんていうか 彰利 「こうしてるとなんだか……家族みたいね♪」 俊也 「───」 悠介 「───」 佐知子「───」 夏純 「?」 うわぁ……思いっきし引いた……。 い、言わないでよかったァ……。 彰利 「もちろん俺が旦那で悠介が妻で夏純ちゃんがカワイイ娘。     そんでもって貴様がグレて非行に走った愚息で。     ───ババア、てめぇがいちいちやかましい姑だ」 佐知子「くぁあ……!!いっぺん殴る!殴らせなさい!」 ペギャア! 彰利 「アキム!な、なーにしやがんでぃ!」 俊也 「いきなり非行はないだろ!?しかもあっさり愚息扱いかよ!」 彰利 「うう、グレゴリ男ったら……昔はこんな子じゃなかったのに……」 俊也 「もしそうだとしたら絶対父親役のお前が悪いわ!     ていうか息子役ってグレゴリ男って名前なのか!?そりゃグレるわ!」 彰利 「えぇい聞き分けなさいグレゴリ男!どうして言うこと聞けないの!」 俊也 「聞けるか!ってかグレゴリ男言うなぁっ!!」 彰利 「なにぃ!?若者語!?貴様いよいよもって逸れてきたな!?     母さんはそんな喋り方許しませんよ!?」 俊也 「父親じゃなかったのかよ!     そもそもお前なんかに許可を請うなんて冗談じゃないわ!」 彰利 「あ、あんですとー!?いつから品行方正が捻じ曲がっちゃったのグレゴリ男!」 俊也 「だからグレゴリ男言うな!」 悠介 「まあまあ落ち着けグレゴリ男」 俊也 「おぉい!お前までそんなこと言うか!?」 悠介 「俺は元々笑い好きだが」 俊也 「なっ……そうは見えなかった……」 悠介 「どこまで本気か、自分でもよく解らんのだがな。ふう、ごちそうさま」 うわっ!もう食い終わってる! いったいいつ食ったんだよ! 彰利 「ごっそーさん。ふう、食した食した」 ええっ!?マジでいつ食ったんだ!? 佐知子「あんたら、ちゃんと噛んだの?」 彰利 「ああ。ババアと違って歯は頑丈だからな」 佐知子「いちいち突っ掛かるわね……」 彰利 「ハハーン?オラァ別に貴様のことだなハんて言ってますぇんがねィェ?」 佐知子「やろッ……!!」 俊也 「あぁああストップストップ!ケンカはダメだ!」 悠介 「同感だ。やめとけ」 彰利 「ボケた人を真っ先に殴るの誰だよ……」 悠介 「ボケてたのか?真面目なんだと思ってた」 彰利 「ぬおっ……」 微妙にショックだったのか、部屋の隅でしくしく泣きながら『の』の字を書き始める。 実に鬱陶しい。 俊也 「あ、そういえばさ。ふたりとも今日帰るのか?」 悠介 「いや、気の済むまで居ることにした」 彰利 「あれ?そうなん?」 悠介 「そうなん」 彰利 「なんでまた」 悠介 「いーや、ちょっとな」 彰利 「……なにかに感づいたとか?」 悠介 「知りたがりは長生きしないぞ」 彰利 「うおっ、解る人にしか解らないマニアック(?)な言葉を」 悠介 「解ってるなら異常だ」 彰利 「あー、でも他のヤツが言ってたかもしれんし」 悠介 「俺とお前の中じゃあ神を惨殺するもの以外はありえないだろ」 彰利 「あ、やっぱり?」 俊也 「なんの話だよ……」 彰利 「なに、遠い昔の話ぞ。気になさるな。気にしたらシメる」 どういう理屈だ。 佐知子「……ごちそうさま」 俊也 「うおっ!?……騒いでないで食うか」 彰利 「あとは貴様だけだし」 俊也 「へ?」 夏純 「?」 うわ、ほんとだ。 ごちそうさまも言えないから気付かなかった。 俺もさっさと朝食を掻っ込み、手を合わせた。 ……そういえば、誰かと一緒にメシ食うなんて久しぶりだったよな。 悠介 「じゃ、片付けは俺がやっとくから。みんな適当に好きにしてくれ」 佐知子「そう?それじゃあわたしは家に戻ってるわ」 夏純 「………」 佐知子「夏純も来る?」 夏純 「!"」 姐さんと夏純は一緒になって自分の家へと戻っていった。 さて、それじゃあ俺は─── 彰利 「悠介ー!愛してるー!」 ボギャア!! 彰利 「ごっはぁっ……!」 俊也 「うおっ……」 悠介 「……俊也。確かに俺は好きにしてくれと言った。     ───ただし、こいつみたいに俺の邪魔しやがったら全力で叩きのめすからな」 彰利 「がふっ……ゆ、ゆ、すけ……手加減……」 悠介 「『好きにしてくれ』の意味を穿き違えるな。今度は消しにかかるぞ」 彰利 「ちょ、ちょっとしたオチャメで消されるの!?」 悠介 「黙れ。考えたいことがあるんだ。ほっとけ」 彰利 「う、うー……ダーリンの馬鹿ー!おたんちーん!」 ズドドドドドド! 俊也 「あっ───行っちまった……」 悠介 「ほっとけば帰ってくるよ。それより俊也も」 ガボシャーン! 声  「ぐあぁあああああああああああああっ!!!!!」 悠介 「───」 俊也 「───」 ……沈黙。 悠介 「あいつさ、実は肥溜め好きなんじゃないか……?」 俊也 「俺に言われてもなぁ……」 悠介 「もういい加減付き合いきれんわ……」 悲しげな声とこちらへ向かってくるズッチャベッチャという音。 そんな嫌な雰囲気の中で悠介は目を閉じた。 悠介 「───イメージ完了」 彰利 「ダーリーン!たすけ」 悠介 「パニッシュメント・レイ」 彰利 「へ?」 悠介が何かを言い放つと、彰利の周りに光の弾が幾つも浮かぶ。 そしてある一定の大きさになった途端ズドドドドドドドドドドドォオオオンッッ!! 彰利 「ウ、ウギャーァアアアアアッ!!!」 光はその球体から光線を放ち、彰利を襲った。 なにがなんだか解らない状況の中、騒音が無くなったと同時に彰利は倒れた。 悠介 「肥えと匂いを除去する水が彰利を襲います。メイルシュトローム」 バシャァアアアアアアアアアアアンッ!! 彰利 「ギャーッ!」 突然現われた水流に彰利が巻きこまれてゆく。 それは空中で渦を巻き、彼の体を浮かせていた。 やがてその渦が弾け、彰利が─── 悠介 「彰利の服を乾かす風が吹きます。サイクロン」 ───落ちる前に、次は小さな竜巻に呑まれる。 ビュゴォオオオオオオッ!!!! 彰利 「ギャッ───ギャアアアアアアアアアアアアッ!!!!」 ───ドシャア。 服が乾いた彰利はあっさりと落ちた。 悠介 「彰利が動けなくなる岩が出ます。ロックプレス」 ドッガァンッ!! 彰利 「ックギャッッ!?」 空中に岩が現われ、彰利を押し潰した。 いや、潰してはいないけど。 悠介 「朝っぱらから人騒がせやってんじゃねぇウスラボケ。いい加減にしろ」 彰利 「う、うわ……悠介が怒ってる……!しまった調子に乗りすぎた……。     て、ていうか重……なんか血が、圧迫されで……ごえが……だ、だずげ……」 俊也 「そ、それより今のなんなんだ……?どうなってるんだよ……」 悠介 「言っただろ、旅芸人だって。それと知りたがりは長生きしない。     余計な詮索はしないこった。まあ安心しろ。害はないよ」 俊也 「……あのさ、別に俺、怖がってるとかじゃないぞ?     むしろこの世の中、そういう手品でも超能力でもあった方がいいって思う」 彰利 「ぞ、ぞーよね゙……!ぞのぼがじるいのだめ、に゙……」 何言ってるか解らん。 悠介 「……ただの、なんでも出せるマジシャンさ」 パチンッ! 俊也 「うわっ!?」 悠介が指を弾かせると、俺の頭の上にハトが現われた。 悠介 「彰利、面倒ごとになったら全部消せるか?」 彰利 「ば、ばがぜど……!」 発音からして『任せろ』らしい。 悠介 「よし。それじゃあ見せるよ。隠し事ってのは苦手だ。心の準備はいいか?」 俊也 「え……?あ、ああ」 悠介 「俺の能力……まあここの部分は超能力だと思ってくれていい。     他の例えを考えるのも面倒だ。で、その能力ってのが」 ポムッ。 ポポムッ! ポポポポポポムッ!! 悠介 「『創造の理力』っていう、イメージを物質化する能力だ」 バササササササァッ! 悠介の周りに現われたハトが、窓やら玄関やらから飛び去ってゆく。 悠介 「それと、これ。───」 何かを呟いた悠介の手に、青白い光が集まる。 悠介 「『月操力』っていう、月の家系に流れる能力のひとつだ。     例えばあの木に雷を落としてみようか」 ガカッ───ゴガシャアアアアアアアアアアアアンッ!! 俊也 「ひえっ……!?」 悠介 「今吹き飛んだ部分が再生します。弾けろ」 シャキィンッ! 俊也 「うおっ!?」 悠介 「破壊も再生も思いのままだ。ただちょっと体力と精神を消耗するもんでな。     気をつけながらやらなきゃいかんのが問題だ」 彰利 「だ、だーぎん……づぎ、ぼで……!」 メキメキメキメキ……! 彰利 「だぼばっ……!づぶ、づぶでる゙……」 悠介 「───」 パチンッ。 ボフンッ! 悠介が指を弾かせると、岩は砂へと変わった。 彰利 「どはぁっ!はっ、はぁっ、はぁあ……!し、死ぬかと思った……!」 俊也 「だ、大丈夫か?」 彰利 「ほっといとくれ!まだまだおまえさんなんぞに心配される歳じゃないわい!」 悠介 「お前も見せるのか?」 彰利 「おう、俺もなんかスッキリせんしね。     耐えられんようだったら消すから気兼ねなく見せる」 俊也 「消すって?」 彰利 「秘密だ。えーとだな、俺と悠介は『月の家系』って血筋の末裔なのだ。     その血筋には昔っから妙な能力があってな?     悠介の場合は───まあ、さっき見せたようなやつだ。     だけど俺の能力はちょっと特別でな。大抵の家系の能力が使えるってわけだ」 俊也 「どんなの?」 彰利 「FUUUUM、どんなものがええかのう」 悠介 「転移は見せたよな?」 俊也 「あ、やっぱあれもそうなのか?」 彰利 「ウィ。なんなら見せようか。ほい」 キィインッ! 俊也 「うおっ!?き、消え」 彰利 「キミの後ろに黒い影」 俊也 「どわぁあっ!!」 彰利 「はっはっは、まあこんなわけだ。あとは……むん!」 ───あ、サザエさん。 彰利 「これこのように、音も出せれば光も出せるし波動旋風脚も出来る優れ者です」 悠介 「波動旋風脚は関係ないけどな」 彰利 「うむ然り。さぁ、汝の反応や如何に!?」 俊也 「へ?羨ましいけど」 悠介 「……それだけか?」 俊也 「男なら一度は憧れるものだと思うが───俺だけか?」 彰利 「この変わり者め」 俊也 「どうしてののしる言い方しか出来んのだお前は……」 彰利 「そこんとこだが、俺にも解らん」 悠介 「はいはい、そんなことはどうでもいいから。……彰利、気付いてるか?」 彰利 「───ああ。何故か俺の料理にだけワサビが入ってた。     みんなに気付かれないように涙をこらえるのが大変だったよ」 悠介 「入れとらん入れとらん!俺が言ってるのは」 彰利 「能力が弱まってるってことだろ?」 悠介 「解ってるなら茶化すなこのタコ……」 彰利 「ハハハハハ、コレバッカリハヤメランネィェー。     しかし、確かに能力が弱まってる。しかも昨日よりも今日の方が弱くなってる」 俊也 「それってどういうことだ?」 彰利 「ええい、部外者だからって好き放題詮索しおって。     キミみたいな人、アタイダイッキライネー」 悠介 「知りたがりNo.1が何ほざいてやがる」 彰利 「まあ冗談だが。さて?これからどうする?」 悠介 「俺は姐さんに話がある」 彰利 「またか?なに、口説いてるんザマスか?」 悠介 「馬鹿言え、お前じゃあるまいし」 彰利 「はっはっは、耳汁が痛いなァ」 汁って痛むのか? 悠介 「じゃあ適当に解散とするか」 彰利 「オウヨ。俺は夏純ちゃんと愛を育むわ」 俊也 「俺は───」 どうしようか。 1.姐さんとの話に参加 2.夏純と愛を育む 3.耳汁祭り 4.散歩 ……ろくな選択肢が浮かばなかった。 なんだいこりゃあ。 特に3。 Next Menu back