───この世界。きみと、あなたといつまでも───
【ケースEND:閏璃凍弥/───】 凍弥 「昨日の授業でXが柿崎だということは解った」 由未絵「いきなり話題が変わった上に、それ違うよぅ」 凍弥 「なにぃ、鷹志だったのか」 由未絵「それも違う」 凍弥 「いや、X=柿崎は鷹志が俺の夢に出てきてまで語っていった真実だ」 由未絵「それ、多分凍弥くんが作り出した柿崎くんだと思うけど」 凍弥 「……やっぱそうか?」 そうじゃないかとは思ってた。 うん、思ってた。 凍弥 「あ、ところで由未絵、ここの問題なんだけどな」 由未絵「うん」 凍弥 「俺にはどうしてこういう答えになるのかがイマイチ謎なのだ。     事細かに解説してはくれまいか。みのもんたの如く」 由未絵「みのもんたの如くは無理だけど、説明なら任せてよ」 凍弥 「みのもんたは却下か」 由未絵「却下」 わぁ、由未絵サンに却下された。 気が強くなったのかなんなのか。 凍弥 「お前も気が強くなったなぁ。まさかお前に却下って言われる日がくるとは」 由未絵「え?あ、ほんとだね。でも……うん、わたしだけじゃあきっと言えないよ」 凍弥 「ん?なんでだ?言葉は自分ひとりで言うものだろ」 由未絵「勇気の問題だよ。     わたしは……凍弥くんに好きって言われて、少しは自信が持てたんだと思うの」 凍弥 「気の弱い由未絵も好きだぞ俺は」 由未絵「わっ……」 俺の言葉に顔を赤くする由未絵。 そうそう、これが無いと由未絵って感じがしない。 俺も自分では予想してなかったほどに真正面に好きだなんて言葉が口から出たもんだから、 あとからかなり恥ずかしくなったが。 凍弥 「あー……あのな?前までの由未絵は……     なんていうか、守りたくなる存在だったんだ。     由未絵が泣き虫だった頃から一緒に居たからってこともあるかもしれないけど。     だけどこうした今もお前を守りたいって気持ちは変わってない。     ……は、恥ずかしいから一回しか言わないぞ?……俺は、お前が本当に好きだ」 由未絵「…………うんっ」 由未絵は目に涙をためて頷いた。 その拍子に涙がこぼれ、その小さな手に弾ける。 ……なんだかんだいって、由未絵を泣かした回数が多いのって俺なんだろうなぁ。 ちょっとショック。 凍弥 「な、泣くなよ……な?お前の涙が苦手なのは変わってないんだよ俺……」 由未絵「嬉し涙は泣き終わるまで泣いていたいよ……」 凍弥 「だめだ」 由未絵「ふぇえっ!?凍弥くんヒドイよぅ〜!」 凍弥 「ぬおお、つい本能が」 案外染みついてるものだな。 正直、驚きましたぞ。 由未絵「うぅ〜……」 凍弥 「悪い悪い、泣くなって。……うー、そ、そうだ。     何か願いはないか?俺がひとつだけ叶えてやろう」 由未絵「どんな願いでも……?」 凍弥 「神龍(シェンロン)じゃないからそれは無理だが……俺が出来る範囲で」 由未絵「うん……」 凍弥 「無いか、それはよかった」 由未絵「わっ、あ、あるよぅ!」 凍弥 「あるのか……」 由未絵「……すごく嫌そうな顔したよ?」 凍弥 「気の所為だ。早く言え」 由未絵「うぅ〜……じゃあ、聞いてくれる?」 凍弥 「おう」 由未絵「…………その、……」 由未絵は指をこねこねと動かして俯いている。 な、なんだ?そんなにヤバイことなのか? 由未絵「えっとね、わたし……」 凍弥 「お、おう」 由未絵「凍弥くんを……呼び捨てしてみたいな、って……」 凍弥 「………」 由未絵「………」 凍弥 「………」 由未絵「凍弥くん……?」 凍弥 「……そんなことでいいのか?」 由未絵「えっ?いいの?」 凍弥 「いいもなにも……好きなだけ言っていいぞ?」 由未絵「わっ、そうなんだ。え、えとえと……それじゃあ……」 凍弥 「落ち着け落ち着け、はい深呼吸〜」 由未絵「はう〜……」 由未絵が深呼吸をする。 そしてグッと拳を握って俺を見た。 ……人を呼び捨てるのってこんなに一大イベントだったのか。 由未絵「と、とととと……とっ、と……」 凍弥 「コケそうになってる若者かお前はっ!」 由未絵「ふええっ、恥ずかしいんだよぅ!」 凍弥 「落ち着け、まず落ち着け。さっきのお前は怪しすぎた」 由未絵「凍弥くん、何気にヒドイこと言ってる……」 凍弥 「ほら、その『くん』を抜けばいいんだから。簡単だろ?」 由未絵「……………………うー」 凍弥 「うー、じゃなくて」 由未絵「にゃー」 ゴパァーン! 由未絵「きゃうぅっ!」 凍弥 「真面目にやる気あるのかお前はっ!」 由未絵「叩いたぁ!今結構本気で叩いたぁ!」 凍弥 「お黙り!レッスンよ由未絵!レッスンレッスンレッスン!!     ハイ!トゥォー、ウォー、ユゥァー」 由未絵「………」 スパァン! 由未絵「きゃうっ!」 凍弥 「リピートゥ!」 由未絵「う、うー……」 凍弥 「ハイ!トゥォー」 由未絵「ハ、ハイ、トゥォー……」 スッパァン! 由未絵「きゃううっ!」 凍弥 「ハイはただの掛け声ネ!わざわざ言わんでヨロシ!」 由未絵「ふぇえ〜、どうしてエセ中国語なの〜……?」 凍弥 「サランラップ!(訳:黙れ!)」 由未絵「はうー……」 凍弥 「いいデスカ?ミスター由未絵」 由未絵「ミスターじゃないよぅ!」 凍弥 「おっとこいつはミステイク。今すぐ忘れろ。さて……」 由未絵「も、もういいよ凍弥くん……。わたし、頑張って言うから……」 凍弥 「ぬ?そうか?」 由未絵「……うん、がんばる」 むん、と小さくガッツポーツをとる由未絵。 実にミスマッチだったのが逆によかった。 由未絵「え、っと……」 凍弥 「おう」 由未絵「うんと……」 凍弥 「おう」 由未絵「………」 凍弥 「おう」 由未絵「国の偉い人は?」 凍弥 「王」 スパァン! 由未絵「きゃうっ!」 凍弥 「遊ぶなっ!」 由未絵「うぅ〜……凍弥くんがおうおう言うから……」 凍弥 「俺の所為かい……いいから言いなさい。時間は待ってはくれませんことよ」 由未絵「う、うん。由未絵、ふぁいと」 自分を元気づけて俺を見る由未絵。 由未絵「そ、それじゃ……言うね?」 凍弥 「よきにはからえ」 由未絵「茶化さないでよ〜!」 凍弥 「なにぃ!?俺は少しでもお前の気が紛れればと!」 由未絵「凍弥くん、お願いだからわたしが言うまで黙ってて」 凍弥 「うう、寂しい世の中だねぇ……」 老婆の真似をしてオヨヨと泣く。 由未絵「すー、はー……」 しかしあっさりと無視される。 何気にショックだった……。 由未絵「………」 凍弥 「………」 由未絵「と……」 凍弥 「………」 由未絵「と、凍弥……」 凍弥 「…………おう」 由未絵「………」 凍弥 「?」 由未絵「……、…………!〜〜〜〜っ!!」 かぁあああ……っ!! 由未絵の顔がどんどんと赤くなって 由未絵「…………───きゃあああっ!!きゃー!きゃー!」 凍弥 「うおっ!?」 由未絵が顔を究極に赤くして涙目になりながら悶える。 凍弥 「ゆ、由未絵!?どうした!?なにが起きた!?」 由未絵「〜〜っ……はう、はうはう……あうあうあうぅ……!」 凍弥 「由未絵……?」 由未絵「……や、やっぱり……凍弥くん、のままでいいです……」 凍弥 「へ?お、おう……」 敬語を使われてしまった。 俺の名前って呼び捨てで呼ぶとそんなにダメージがデカいのか? 由未絵がきゃーきゃー言うのなんて初めてだったからなぁ。 あー驚いた。 と、そんな時だった。 廊下の方でガヤガヤと賑やかな声が聞こえた。 声  「なぁ、まだ居るんじゃないか?あいつの入れ込みよう、相当だぞ?」 声  「しょうがないでしょ、教室を見違えるほど綺麗にしちゃったんだから」 声  「グッジョブ!しっかし、やることがなくなると人間も弱いよな」 声  「だな。まあ居たら居たでこっそり拝見するのも手だし」 声  「柿崎よ……それは一種のデバガメ精神では?」 声  「覗きだ。俺は恥じぬ」 声  「妙なところで男前ね……」 ……聞こえてるんですけど。 声  「あ、あー、やっぱりまだ居るわ」 声  「よし行け友よ、そこだ、ちゅー……!ぶちゅー……!」 声  「……お前って……」 ……好き放題言いそうな雰囲気だな。 柿崎はもう言いまくってるが。 凍弥 「あー……由未絵?」 由未絵「うんっ、なになに?」 ……気づいてないようで。 ハウハウと犬のように俺を見上げる由未絵は、 かまってほしくてうずうずしているようだった。 俺はそんな由未絵の頭にポンと手を置くと、 凍弥 「ちょっと待っててくれな、すぐ戻るから」 由未絵「はう……行っちゃうの……?」 凍弥 「すぐ戻るって。な?」 由未絵「うー……うん」 ……さて。 俺は廊下の方へ歩いて行く。 もちろん目的はひとつだ。
【Side───Interlude】 声  「ば、ばか、押すなって……!」 声  「うるさい、友としてヤツの成長の記録をこの目に焼き付けねば……!」 声  「ちょっと、こんなところで喧嘩しないでよ……!」 声  「───よう、壮健かい?」 声  「なに言ってるのよ凍弥、それどころじゃ───あ」 声  「へ?ゲ、ゲェーッ!?」 声  「あー……よ、よお凍弥。掃除終わったからちょっと寄ってみたんだが……」 声  「ははははは!おんどれらぁああ!オイタがすぎますぞぉおおっ!!!」 声  「なにぃ!?ぎゃああああ!!」 声  「ちょ、ちょっと待ちなさい!わたしはやめようって言ったのよ!」 声  「問答無用ォオオオオオッ!!!!」 ドンガラガッシャンドカバキゴワシャアアアアン!!!! ……………… 【Side───End】
凍弥 「やあ、お待たせ」 サワヤカな顔で帰還を果たした。 由未絵「凍弥くん、今の声……」 凍弥 「気の所為だ」 由未絵「まだ何も言ってないよぅ」 凍弥 「目の錯覚だ」 由未絵「か、関係ないよ……?」 凍弥 「他人の空似だ」 由未絵「目は関係ないよぅ……」 凍弥 「夢だ」 由未絵「起きてるよぅ」 凍弥 「夢遊病だ」 由未絵「起きてるってば……」 凍弥 「腰痛だ」 由未絵「そんな歳じゃないもん」 凍弥 「虫歯だ」 由未絵「虫歯、一本もないよ」 凍弥 「幻聴だ」 由未絵「うぅ〜……真面目に話す気、ないでしょ……」 凍弥 「そんなことはないと言えなくもない」 由未絵「うぅ〜……」 由未絵が少し拗ねた。 完全に話を聞いてやらなかったのはちょっとやりすぎたか。 凍弥 「悪い悪い、怒るなよ」 由未絵「怒ってないもん」 凍弥 「それはよかった。じゃあな」 由未絵「はうぅっ、待ってよ〜!」 凍弥 「冗談だ」 由未絵「うー……」 凍弥 「お前が拗ねるからだろ?こうでもしないと俺の方見てくれないじゃないか」 由未絵「凍弥くん、ヒドイよ……」 凍弥 「嫌いになったか?」 由未絵「それ、ズルイ……」 凍弥 「俺は好きだぞ。もう、滅茶苦茶にしたいほどに 由未絵「それはちょっと大袈裟だよ……」 凍弥 「………」 あながち、大袈裟じゃないんだけどな。 凍弥 「信用できないか?」 由未絵「そ、そういう意味じゃないよ、ただ、ちょっと不安で……」 凍弥 「信用されてないんだな、俺」 由未絵「違う、違うよっ!     ねぇ凍弥くん、ちゃんとお話聞いてっ?わたしは───んっ!?」 俺は目の前の心配性なお姫様の口を塞いだ。 触れるほど近くにある瞳が『ばか……』と語っていて、その不釣合いに笑いそうになる。 あーもう、愛いヤツめ! がばぁっ! 由未絵「ひゃっ!?」 俺は衝動を押さえきれずに由未絵を抱き締め、そして───サイクロンした。 もとい、振りまわした。 由未絵「きゃうっ!きゃうううっ!!」 数回転させると由未絵が泣きそうになったので止まる。 由未絵「うぅっ……ひどいよ凍弥くん……」 凍弥 「すまんすまん、つい、な」 由未絵は俺に抱きかかえられながら涙目になっている。 よく泣くなぁ、って俺の所為か。 涙目のルカもびっくりだ。 凍弥 「そういえば、前にもこんなことした時あったよな」 由未絵「こんなこと?」 凍弥 「お姫様抱っこ」 由未絵「は、はうっ!?」 今気づいたのか、焦り出す由未絵。 凍弥 「あの時のお前の心境、今なら解るな」 由未絵「凍弥くんが鈍感すぎたんだよぅ……」 凍弥 「む。言ったなこの。男は鈍感なくらいが丁度いいんだよ」 由未絵「じゃあ凍弥くんは愚鈍さんだよ」 凍弥 「……どっかの誰かさんみたいなこと言うなよ……」 しかもハッキリと。 傷つくぞ? でも嫌いにはならないが。 凍弥 「………」 ふむ。 由未絵「凍弥くん?どうかしたの……?」 凍弥 「今日も明日も大差無い」 由未絵「ふぇ?」 凍弥 「俺としてはお前をここから連れ出したいんだが」 由未絵「だめだよ、ちゃんと退院してからじゃないと」 凍弥 「だめだ」 由未絵「そ、それはわたしのセリフだよぅ!」 凍弥 「むー……仕方ないなぁ。やめた方がいいか?」 由未絵「明日までの我慢だよ」 凍弥 「……どうしてもか?」 由未絵「どうしても、だよ」 凍弥 「だめだ」 由未絵「訊く意味がないよぅ!」 うう……この子ったらこんなにもツッコミ達者になって……。 もう俺が教えることは何もないわね……。 凍弥 「はっはっは、観念しろ。もはや由未絵、お前は我が手中。     つまるところ、俺がこの窓から外界へ飛び立つ際に、     共に風との邂逅を果たすことさえが自由だ」 由未絵「口調と語調が滅茶苦茶だよぅ……」 凍弥 「というわけで行こう、ハバナイスデーッ!!」 由未絵「わわーっ!!と、凍弥くん、ちょっと待ってぇーっ!!」 俺は由未絵を抱えたまま石の屋根へと華麗に降り立った。 ステキなポテンシャル、申し分ナッスィン。 今日も壮健ぞ! そのままの勢いで大地へと降り立ち、疾走+逃走。 凍弥 「よーしよしよし、全てがオールグリーンだ。     俺の体調も青汁の色もバケモノが吐く胃液の色も」 由未絵「凍弥くん……まずいよぅ……」 凍弥 「大丈夫だ、いざとなったら俺が鉄砲玉になろう。     病院に乗り込んで脅迫してでも退院許可証を手に入れてやる」 由未絵「無茶苦茶だよ〜っ!」 よし、まずは家に帰ろうか。 うん最強。 明日までかくまえば我らの勝利ぞ! 俺は不敵に笑って家へ向かって疾走したのでした。 ───……。 ……。 ───さて。 葉香 「………」 凍弥 「………」 由未絵「あう……」 家に入った途端、姉さんが居た。 どうせ居ないだろうと思ってたっていうか、存在自体忘れていたためにこんな状況が。 葉香 「……確か。由未絵の退院は明日だと聞いていたが?」 由未絵「それが……」 凍弥 「連れさらった」 葉香 「───!」 ギロリ。 由未絵「あわ、あわわわ……」 姉さんは俺を睨んだまま、傍まで歩いてきた。 そして俺の肩に手を置くと 葉香 「───よくやった!」 置いた手を上下しては、バシバシと俺の肩を叩いた。 葉香 「今日も明日も大差ない、だが一日早まれば共に居られる時間が増えるというもの。     腰を打った程度であんなに入院するほうがおかしいんだ。     医者には解らぬ好き者同士の時間とやらがあるだろう。     それを先にと選んだお前は偉い。わたしが認める」 凍弥 「でも殴るんだろ?」 葉香 「当たり前だ。面倒事が起こるのは目に見えているだろう。     一撃で勘弁してやる、あとはわたしに任せろ」 凍弥 「……OK」 葉香 「目を閉じて歯を食いしばれ。今度のは今までの中で一番イタイぞ」 凍弥 「うへっ……勘弁してくれ……」 でもやっぱり目を閉じる。 それくらいの覚悟はあったからだ。 声  「よし、いくぞ?」 凍弥 「お、おう!」 ─── 声  「えっ!?わ、わわっ!」 凍弥 「へ?」 すぐさま来ると思った拳は来ず、何故か由未絵が驚いたような声を出す。 慌てて目を開けると、姉さんは既に居なかった。 …………忍者? 凍弥 「……なにがあったんだ?由未絵」 由未絵「……うー……キスされた」 凍弥 「んなぁっ!?」 な、な、───!? なんてことしやがるあの馬鹿姉ぇえっ!! おのれおのれ……!俺の由未絵に……! くそっ!これは確かに今までで一番イタイ……!! 凍弥 「……やられたっ……!まんまとっ……!このやり場のないもどかしさっ……!     これだっ……!これこそがっ……!やつのっ……姉さんの真の狙いっ……!」 思わずカイジ風に喋ってしまう。 あぁあああくそぉっ! なんかすごくムズムズする! どうしてくれようかあの姉め! 由未絵「……えっと……凍弥くん」 凍弥 「な、なんだよぅ!俺は今やつをどう屠ろうかと───んぐっ!?」 俯いて由未絵を見下ろした途端、 由未絵が俺の首に手を回し、俺の口に自分の口を押し当てた。 ……復讐の思考はそれで真っ白になってしまった。 由未絵「───……あの、落ち着いてくれたかな……」 凍弥 「………」 ……こくりと頷く。 考えてみればパープルコーヒー事件とあの夜を除けば、由未絵からされたのは初めてだ。 それがなんだか異様に恥ずかしくて、由未絵の顔を見れない。 由未絵「……凍弥くん。こっち向いてほしいな……」 凍弥 「………」 由未絵「凍弥くん」 凍弥 「……うー」 顔が赤くなっていることを実感しながら、由未絵を見る。 由未絵「わ、凍弥くん顔真っ赤」 凍弥 「……今のお前には絶対負ける」 由未絵「う……だ、だって自分からするのって恥ずかしかったんだもん……。     凍弥くんすごいよ……」 凍弥 「好きなんだから恥ずかしいことはないんだが……。     こう、逆にそっちからされると不意打ちみたいでどうにも……」 実に照れくさい。 由未絵はそんな俺を見てクスクスと笑う。 それがなんだか悔しくて、俺は彼女の口を塞いだ。 なんてことをした、まさにその時! 来流美「あーもう、まったくやってられないわよ。     なんだっていきなり襲われなきゃいけないの?」 鷹志 「腐るな腐るな、覗いてた俺達が悪いんだから」 柿崎 「しかしながら、ヤツめ……随分とナンパな男になったものぞ……って、うお!?」 来流美「?どうし───あ゙」 鷹志 「むお?なんかあるのか?ちょっと見えないぞ……どけ柿崎───って、うお!?」 ───……時間が止まりました。 来流美「な、あ、あ───……?」 鷹志 「プ、プリンセスブリーカーでキス……!?」 柿崎 「は……ははは……ブリーカーは違うだろ鷹志〜……」 鷹志 「あ、あーそうかぁ、ブリーカーじゃなくてインブレイスかぁ〜……」 柿崎 「それも違う気がするけどさぁ〜……は、ははは……疲れてるンかナ俺……」 来流美「あ、あはは……なんで由未絵がここに居るのかしらね〜……」 いい具合に意識がブッ飛んだらしい。 今の内に逃げるか……。 鷹志 「って待てこらぁ!」 来流美「アンタ病人を持ち逃げしてなに不純なことしてんのよ!」 柿崎 「お客様!お持ち帰りはやめてください!」 鷹志 「あ、でも俺は祝福するぞ!おーめでとーぅ!     お姫様抱っこでキスなんて見れるもんじゃないもんなー!     うらやましくなんかないぞこのスダコー!」 凍弥 「スダコとまで言われて信じれるか!」 柿崎 「よっ!色男!ていうか色魔!この恥さらし!タコ!ボケ!イモ!」 凍弥 「ドサクサ紛れに言いたい放題言ってんじゃねぇそこぉっ!」 柿崎 「うるせぇこのエロプリンス!王子様気取りでそげなことを白昼堂々と!」 凍弥 「夕方だ!ていうかエロプリンス言うな!」 柿崎 「だーっ!うっさいうっさい!     恥ずかしくねぇのかてめぇ!友として旅立った御手洗に詫びやがれ!」 鷹志 「しかとこの目でみたからな凍弥!きさん、明日学校で後悔するがよか!」 柿崎 「黒板に書いてやる!デカデカと!     陰湿なイジメに勝るとも劣らぬ直筆サイン入りで公開してやる!     憶えてろよこの幸せモンがァーッ!!」 鷹志 「凍弥のブッチュマーン!!」 鷹志と柿崎が泣きながら走り去っていった。 しかも相当の罵倒を残しながら。 凍弥 「あ、あいつらぁ……!好き放題言いやがって……!」 来流美「……いつまでもお姫様抱っこしてるからよ……。説得力なさすぎ」 凍弥 「うぐっ……」 来流美「でも呆れたわね。     文句のひとつでも言おうと思ってここで待とうって話になったのに、     それがドア開けた途端、目の前でコレだもの……」 頭に手を当てて溜め息をモシャアと吐く来流美。 わざわざ説明せんでも……。 凍弥 「コレ、ってなんだよ……」 来流美「凍弥の腕の中で幸せ顔でホウけてるボケ者」 凍弥 「ぐ……」 目を潤ませてぽ〜っとしている由未絵を見る。 言い逃れ出来る要素が皆無だった。 来流美「あー……まあ?好きなだけ乳繰り合いなさいよ。わたしはもう知らないわ」 凍弥 「ちちくり言うな!」 来流美「冗談よ。でも幼馴染として祝福するわ。頑張りなさい」 凍弥 「母親みたいなこと言うなよ……」 来流美「苦労したからねぇ、凍弥に付き合うの」 凍弥 「俺だってお前に付き合う毎日は血が滲むような日々だったぞ」 来流美「結婚式には呼びなさいね」 凍弥 「呼ばん。絶対来るな」 来流美「わー、する気あるんだぁ。気が早いわねー。     あ、もしかして子供の名前まで決めてあるとか?     きゃー、すごいですねー、パパでちゅかー?」 凍弥 「……由未絵?ちょ〜っと待っててくれな?」 トンと由未絵を降ろす。 と同時に、来流美が玄関を開け放って逃走した。 凍弥 「待ちやがれてめぇえええええええっ!!!!!」 俺は大きな唸りをあげてそのあとを追跡する。 やがて現れる騒音。 そんなことをしていると、ふと安心する自分が居た。 変わったとは言っても、こういう本質的なものはさほど変わっちゃいなかった。 本質っていうのは元より、子供の頃から培ってきたものだ。 確かにそれが急に変わることはあり得ないと頷ける。 願わくば。 こうして、いつまでもみんなで笑い合えるような日常が続くようにと。 そう願いながら、俺はいつも通りの馬鹿騒ぎの渦中に身を置いた。 友として、幼馴染として。 そんな付き合いがいつまで続くかは解らないけど…… 双方がそれを願えば、それはいつまでもつ続く永遠であると信じている。 いつか交わした指きりが永遠であることを願いつつ…… いつの日か、大切な人と終わりを迎えよう。 それまでは───いつまでもこうして……─── 「───ねぇ凍弥くん。幸せって何かなぁ」 ……春。 桜の舞う季節に、隣を歩く彼女が俺に訊ねた。 それは昔、彼女が俺に言った言葉そのものだった。 「幸せ?」 俺はそれを思い出して、少し笑った。 それでもその言葉を言い返す。 彼女は微笑みながら俺の腕に抱きつき、俺を見上げて言った。 「凍弥くんは何が幸せ?」 その笑顔がとても好きで、俺はこの笑顔を守るためならなんでも出来る気がした。 もちろんそんなものは自分の幻想でしかないことを自分は知っている。 だけど俺が気づける限り、手の届く限り。 俺はその思いを守りたいと思う。 「俺か?……そうだなぁ……トイレの紙があった時とか」 子供の頃と変わらない冗談を言う俺に、彼女はおかしそうに笑った。 そして『変わらないね』と言いながら、もう一度俺を見上げる。 「下品なのは、ダメだよ?」 そして叱り付けるような口振り。 確かに変わってゆく自分達を感じながら、桜並木の遊歩道を歩く。 「ははっ……悪い、真面目に考えるよ。え〜っと……」 不釣合いな言いぐさに笑みを噛み殺しきれずに、少し笑うと彼女は拗ねた。 それでも頭を撫でてやると機嫌が直るのは変わっていない。 「そういう由未絵は?」 あの頃のように訊き返すと、彼女は待っていましたと言わんばかりに微笑んだ。 そして俺の腕に頬を寄せ、照れながら言った。 「わたしの幸せは───」 俺はその言葉を聞きながら空を見上げる。 「ああ」 そこには真っ青な蒼空。 どこまでも遠く澄みきったその蒼は、とても綺麗だった。 「……お父さんとお母さんと話せること」 いつしか俺と彼女は立ち止まって、お互いを見つめて微笑む。 「そして……あなたと一緒に居られること───」 やがてどちらともなく顔を近づけ、キスをした。 桜の樹が揺れ、花びらを散らすこの景色の中で。 俺はこのなんでもない当たり前の日常こそが幸せであることに喜びを感じていた。 確かに幸せの在り処は人それぞれだけど、 それはそれだけ、この世界には幸せがあるということじゃないだろうか。 それは本当に些細なことの集まりであったり、手の届かないものであるのかもしれない。 でも……それでも、大切な人がずっと傍に居てくれる。 俺にとっては、そんな中で迎える日常がこそが一番の喜びなんだ。 だから───どうか。 ……願わくば、いつまでもこの大切な人と、ともに生きていけますように───
───桜の樹を揺らす風が治まる頃、遠くで誰かの呼び声を聞いた。 俺と由未絵は微笑みながらその子の名前を呼んで、 一生懸命に走ってくるその小さな体を受け止めた。 満面の笑みで微笑むその子は、幸せそうに桜の花びらに手を伸ばして笑っていた。 ……見上げれば蒼空。 その空の下で限りある幸せを感じながら、俺は微笑んだ。 いつか交わした『ずっと一緒に居る』という約束を心に抱き、 いつかは終わりが訪れるめぐりゆく季節に身を置きながら、 この幸せが永遠に続くようにと願う。 そんな約束という名の永遠と終わりの中で。 ───俺達は……この一生を精一杯、互いのために生きてゆく───
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