───過去の夢。アイスハンド閏璃───
【ケース06:閏璃凍弥/ラプサンスーチョン】 ───そしてまた、夢を見る。 相変わらずの雪景色の中、俺はやっぱり子供だった。 凍弥 「なあ、え〜っと……由未絵?これからどうする?」 由未絵「………」 凍弥 「いや……頼むから、黙らないでくれ……」 由未絵「……うん」 やっぱり笑わない子だった。 凍弥 「遊ぶなら五体満足では帰れないぞ」 由未絵「……?」 首を傾げる由未絵。 凍弥 「……冗談だけどな」 由未絵「……うん」 もはや会話にもなっていなかった。 凍弥 「ん〜〜〜〜〜〜……」 由未絵「………」 凍弥 「なあ、これからどうする?」 由未絵「……うん」 凍弥 「いや、だから……」 え〜と……俺はひとりで何をしてるんだ? 凍弥 「はあ……まいったな……」 由未絵「………」 凍弥 「……よし、こうなったら……」 意地でも笑わせてやる!! 由未絵「………?」 俺は由未絵に襲いかかった!! 由未絵「………」 由未絵をくすぐり回した!! 由未絵「………」 由未絵の頬を引っ張った!! 由未絵「………!」 ……効果が得られなかった。 それどころか、いじめられたと思い込み(特に頬引き)、泣き出してしまった。 凍弥 「あちゃ……しまったぁ……」 由未絵「うっ……ひっく……」 凍弥 「ごめん……そんなつもりじゃなかったんだ。     ただ……笑ってるところが見たくて……」 俺はまた、由未絵を背中から抱き締めて、頭を撫でた。 由未絵「………」 凍弥 「………」 由未絵「……ごめ……ん……な……さい……」 凍弥 「ん?なんで由未絵が謝るんだ?」 由未絵「笑うって……もうわからないの……」 凍弥 「え……?」 つまり……笑い方を知らないって……? 凍弥 「それってどういう意味だ?」 由未絵「………」 首を振る由未絵。 そして、俺の腕から離れて…… 由未絵「……楽しかったよ……」 そう言って走り去って行った。 凍弥 「………」 楽しかったか……? 解らなかった。 凍弥 「……俺も帰ろっと……」 ───……。 ……。 家に帰ると、家の前に引っ越し屋の車があった。 凍弥 「………」 エンジンの音が五月蝿かった。 凍弥 「動かないなら止めればいいのに……」 文句をひとつこぼして家に入ろうとした時、視界の隅に由未絵の姿を見つけた。 こっちには気付いていない様だった。 由未絵「あっ、あの……」 父親 「こら!作業の邪魔をするんじゃない!!」 由未絵「あ……」 作業員「これはこちらで?」 母親 「はい、そこに」 由未絵「ねえ、お母さ……」 母親 「今忙しいの!後になさい!」 由未絵「ご……ごめんなさ……ぃ……」 最後の方が掠れて聞こえない程に悲しい声だった。 凍弥 「………」 俺はなんだか非常に腹が立った。 由未絵の親に怒鳴ってやろうと思ったけど子供じゃ相手にされないのが目に見えていた。 凍弥 「………」 ただ、由未絵に申し訳無い気がした。 ───……。 ……。 後から解った事だけど、由未絵の家は『鈴訊庵(すずめあん)』という名前のそば屋だった。 父さんに聞いたけど、『鈴訊庵』は繁盛店として有名で、 以前の店が狭くなったらしく、新しく此処に移店したらしかった。 そして由未絵はそんな有名店のひとり娘だった。 凍弥 「凄いんだなぁ」 俺はひとり、窓から見える店に向かって呟いた。 当時の俺から見れば、有名ってだけで英雄な感じがした。 でも、それは間違い。 だって、由未絵は泣いていたから……。 ───……。 ……。 来流美「と〜やぁ!!楽しみだね!!」 次の朝、早速俺の両親とその親友である来流美の家族とで鈴訊庵の前の行列に並んでいた。 凍弥 「………」 来流美「無視しないでよ!」 凍弥 「うるさい」 来流美「なによ〜!!」 そういえば由未絵は何をしているのだろう? 俺はそんなことを考えていた。 やがて、店の中へと足を運ぶ。 空いた席に座り、注文をして、ただただ待つ。 しかし…… 凍弥 「う……」 突然、事に襲われる。 凍弥 「………」 目線を動かして、トイレを探す。 ……あった。 俺は黙って席を立ち、聖地へと足を早めた。 ……… ………………ジョバァアアアア…… 凍弥 「ふう……」 手を洗い、トイレをあとにする。 しかし、出たところで何かの話し合いが聞こえた。 ……知っている声だった。 由未絵だ。 由未絵「お母さん……!お母さん……!」 母親 「うるさいわね!今、忙しいのよ!」 由未絵「うくっ……!」 母親 「明日は休みだから、明日話しなさい!」 由未絵「明日じゃぁ……っ!」 母親 「いいから!外で遊んできなさい!」 由未絵「……ッ!」 その言葉を最後に、歩いてゆく由未絵の親。 由未絵「あ……お母さ……」 由未絵が呼びかけたが、無視して歩いてゆく母親。 由未絵「……うっ……ひくっ……うぅ〜……」 それを見て、その場で静かに泣く由未絵。 ひどい理由だった。 由未絵が大声で泣かないのはこんな環境で育てられたからなんだ。 きっと、初めは大声で泣いていたと思う。 でも、きっと、それすらも親は許してくれなかったのだ。 『笑うって……もうわからないの……』 凍弥 「………」 本当だった。 俺だってこんな環境だったらどうなっていたか想像もつかない。 だから…… 凍弥 「……由未絵」 由未絵「……えっ……!?」 俺は由未絵の側へ行き、頭を撫でてあげた。 由未絵「………」 凍弥 「なあ、とっておきの場所があるんだ。今から一緒に行かないか?」 由未絵「……と〜や……くん……」 凍弥 「ああ、と〜やくんだぞ」 由未絵「……ぐ……うっ……〜〜〜……」 凍弥 「行きたくなくても連れていくぞ。泣き止むまで一緒に居てやる。     笑うまで楽しい事いっぱい教えてやる。     こんな所より、いい場所に連れてってやる!」 俺は返事も聞かずに由未絵の手を取り、 すぐ横にあった勝手口から外へ走った。 凍弥 「奪還成功だ!!」 由未絵「………」 由未絵は走りながら泣いていた。 凍弥 「……ほら、泣いてばっかりだと、悲しい人になるぞ?」 俺はまた、頭を撫でた。 由未絵「うっ……ふぇっ……」 凍弥 「あ、でも俺とふたりの時なら、好きなだけ泣いていいぞ。     大きな声で泣いてもいい。     泣き止むまで一緒に居るし、頭も撫でてやる。     無理することなんて……あっ……」 由未絵「うわぁあああああああああああああん!!!!」 全部言い切る前に、由未絵が抱きついてきた。 凍弥 「………」 そして、俺は何も言わず、頭を撫でてあげた。 由未絵「……なの……!!」 凍弥 「ん……?」 由未絵「……だけっ……なの……!いっしょ……に……!!     お母……さんと……ッ……!!お父さん……と……!!     ただ……みんなで……ぇッ……!!」 凍弥 「由未絵……?」 由未絵「ただ……はなしを……して……!うっ……うわああああああん!!」 凍弥 「………」 由未絵が泣きながら紡いだ言葉。 母親と論争してた理由を聞いて、俺は泣きそうになった。 ……今日。 今日は由未絵の誕生日だったんだ。 由未絵はただ、祝って欲しかっただけだったんだ。 あんな仕打ちをされても。 こんな育てられ方をしても。 大好きな家族に祝ってもらいたかったんだ。 ただみんなが見ている前で、ケーキに立てられた歳の数だけのロウソクの火を、 自分の吹く息でフーッと消したかっただけだったんだ。 プレゼントなんていらなかったんだ。 ただ大好きな家族と一緒に、楽しく話をしたいだけだったんだ。 ……それなら、と、俺は由未絵の涙を拭った。 凍弥 「……俺がさ、祝ってやるよ」 由未絵「え……?」 凍弥 「そりゃさ、ケーキもなければロウソクも無いし、     由未絵の大好きな家族って訳でもないけどさ。     でも、祝ってやることだけは出来るから」 由未絵「………」 凍弥 「だから、もう泣くな」 由未絵「………」 凍弥 「……な?」 由未絵「……うん」 凍弥 「よし、えらいぞ」 ……静かに風が吹いていた。 冬なのに暖かく、心地良い風だった。 【ケース07:閏璃凍弥/アブラハム】 ───……。 凍弥 「………」 朝である。 凍弥 「………?」 ……というか、超早朝である。 凍弥 「ぬおお……?」 ば、馬鹿な……! 俺は確かに学校の机で爆睡していた筈なのに……! いつの間に家に戻ってきたんだ俺は……! 凍弥 「ミ、ミラクル!」 なんてことはどうでもいい。 また早起きだ。 どうにも、昔の夢を見ると早起きするらしい。 凍弥 「……4時……?」 時間はたっぷりとあった。 再び目を閉じると、いともたやすく眠りにつく。 ぐー…… ───……。 ……。 声が聞こえた。 慌てた声と……苛立ちの声。 声  「……や……!と……!!と……や!!お……てよ!!」 途切れ途切れに喋る、変な奴だった。 凍弥 「……ハッキリ喋れよ馬鹿……」 なんとなく言葉を発して寝返りをうつ。 もちろん、俺の意識がハッキリしていないから途切れて聴こえるだけなのだが。 声  「もうっ!!凍弥っ!!ああもう!!早く起きなさいよ!!     今日は余裕持って行く約束でしょ!?」 ……? 誰かが俺を呼んでいる……。 んん……この声は……そう……確か……。 ……… ………………ぐー。 声  「おッ……起きる気が無いってのね……?由未絵!ちょっと!」 タントンタントン……。 階段を登る音が聴こえた。 声  「あっ、来流美ちゃん。呼んだ?」 声  「……殺るわよ」 声  「え?」 声  「それじゃあ今日はブレーンバスターで……」 声  「くっ……くくく来流美ちゃん!?またやる気なの!?」 声  「だぁ〜いじょ〜ぶよぉ♪今日のは綺麗に決まると、     少ぉ〜しだけ呼吸が出来なくなるだけだから♪」 全然、大丈夫じゃないっス。 ……というか、このパターンって、前にも……。 声  「わたしだって……わたしだって本当は……こんな事、したくないのよ……?」 『嘘つけ』、というのが心の即答だった。 声  「でも……起こしてあげなくちゃ、後で苦労するのは凍弥なの……。     解って……由未絵……ううっ……」 見なくてもバレバレな程の嘘泣きだった。 今時、こんな物が通用するか馬鹿。 恐らくお前以上の馬鹿は居ないと思えてきたぞ。 声  「来流美ちゃん……!!そこまで考えていたなんて……うんっ!!     解ったよ来流美ちゃん!!」 否。 上には上が居る。 素直に納得した。 声  「ありがとう由未絵……っ!!あなたなら解ってくれるとっ……!!」 声  「来流美ちゃんっ!!」 恐らく目を開ければ、 そこには感動の名シーンが展開されているだろう。 声  「じゃあ早速!!」 声  「うんっ!!」 突如、体を抱えられる。 凍弥 「わぎゃああああああ!!起きる!!起きます!!」 俺は俺の体を掴む手を振りほどき、意識を覚醒させた。 来流美「あ、起きた……」 起きないと死ぬ───ていうか殺す気だろ……。 由未絵「あ、おハヨ、凍弥くん」 由未絵が布団を敷きながら朝の挨拶をする。 ……俺は朝の挨拶をする由未絵よりむしろ、 その布団の使用目的に着目してみたくなった。 凍弥 「……何に使う気だ、その布団……」 来流美「何って……クッションよクッション。最悪の状況だけは作りたくないから」 凍弥 「だったらブレーンバスターなんかで起こそうとするな馬鹿!     バックドロップの時、人がどれだけ苦しんだと……!」 来流美「自業自得。そう思うんなら早く起きてよ……」 凍弥 「何を言う。遅刻間際の極限状態で寝る事こそ、真の睡眠と言えるのだ」 来流美「いいからさっさと着替えて……って、そこォッ!」 由未絵「……うや?」 来流美「用意したクッションで寝ないッ!!」 由未絵「うぅ〜……」 凍弥 「解った解った……。着替えるから部屋から出ていってくれ……」 来流美「イヤよ、寒いもの」 凍弥 「やかましい、いいから出てろ」 来流美「まァ非道い、女である私達に寒い思いをしろって言うの?」 凍弥 「あのなぁ……じゃあ、どうしろって言うんだお前は」 来流美「レディ・ファースト」 凍弥 「……なんか意味が違ってないか……?     まあ……つまり、俺に廊下で着替えろと?」 来流美「アイドゥー」 凍弥 「却下」 由未絵「……ス〜……」 凍弥 「あ!て、てめ……!ズルいぞ由未絵!俺も眠いのに!」 来流美「まあまあまあ……。ささ、凍弥様はこちらへ……」 凍弥 「ウム、ごくろう」 ……バタン!!ガチャッ!! 後ろで鍵が掛けられる音が聴こえた。 凍弥 「………」 ……その場のノリで先導された場所は廊下だった。 ご丁寧に、床に制服が置かれている。 ……俺の馬鹿……。 凍弥 「ちょっと待て!!     レディ・ファーストだのファースト・フードだのの問題より、     ここは俺の部屋だろうが!!お前こそ出てけ!     おいコラ!!開けろ!!寒い!!開けろ!!」 ……シィ〜〜〜〜〜〜〜ン…… 凍弥 「……ああああああっ!!!くそぅ!!!     着替えりゃいいんだろ着替えりゃあ!!!」 バサッとパジャマの上着を脱ぐ。 凍弥 「ギョォオオオオオオォォォォォゥ!!!!!!」 寒かった。 寝起きにはキツ過すぎる温度だ。 来流美さん、アータ人をショック死させる気ですか? 廊下ってのは部屋の中より寒いってのは定番じゃないですか。 それを……カションッ。 凍弥 「……オイ」 俺の絶叫を合図にカションと外される鍵。 もしかして、コレはイジメなのか? 泣きたくなった。 ここまでコケにされると、もう引き下がる事は出来ぬ! 俺はパジャマを全部脱ぎ、制服を着た。 もちろん制服はぬくもり知らずのクールガイ(?)。 素敵に冷たかった。 凍弥 「うおおお……」 俺は光の速さで自室のドアを開け、中へと逃走した。 凍弥 「用意終わったぞ!!行くんだろ!?」 さらにヤケになって声を張り上げる。 しかし…… 来流美「………」 由未絵「………」 一切の返事も無い。 凍弥 「こっ!こいつらっ……!!」 いつの間にか炬燵(こたつ)のスイッチを入れて、その中で寝ていた。 凍弥 「お前ら起き……ハッ!?」 閃いた!! そうだよ!! こいつ等だって寝てるんだから……!! おお!!これで俺も寝れば共犯って事で、こいつ等だって強く俺を怒れやしない!! 凍弥 「OH!!ナイス・アイディーア!!」 俺はエセ外人風に叫んだ。 凍弥 「そうと決まればレッツ睡眠グ!!」 俺は暖かさを求めて布団へと駆けた。 が、そこまで来て重要な事を思いだす。 凍弥 「あ゙……」 ……しまった……。 そうすると俺の無遅刻無欠席が……!! (と言っても、それはふたりのお陰なんだが) 凍弥 「どうする……」 考えろ!考えるんだ!! 凍弥 「………」 1:起こす。 2:寝る。 3:ひとりで登校する。 4:マッスルリベンジャーで叩き潰す 5:子守唄を歌ってやる 結論:1 ていうか4はなんだ。 凍弥 「さてと、問題はどうやって起こすかだ。     俺の経験から察するに、このふたりは寝るのは早くて起床に弱い。     つまり、揺すった程度じゃ起きないだろう」 よって方法は……!! 凍弥 「………」 解らん。 凍弥 「仕方無い、昨日買って来たパンでも食ってそれから考えるか……」 そう決断した俺は、部屋を出て階下へと降りた。 台所に行き、コロッケパンを取出して食す。 凍弥 「……うべぇあぁっ!?」 不味かった。 いや、不味いなんてモノじゃない!! ゲロマズだ!! 凍弥 「バッ……バカな!!俺の好物のコロッケパンが!!」 冷たく、その身が凍えたコロッケパンは既に元の味とは次元が違った。 凍弥 「うぶ……!!」 俺はコロッケパンをレンジで暖め、改めて食した。 凍弥 「………?」 サクサク感こそ無いが、いつもの味だった。 どうやら冷めると不味いらしい。 凍弥 「……保管するような物じゃないな、これは」 朝のダイニングでひとり納得した。 ───……。 ……。 凍弥 「ふう……」 程なく、学校に辿り着く。 自分の教室の入り口を開けた先には鷹志が居た。 鷹志 「お、よう凍弥」 凍弥 「ああ、オハヨ、鷹志」 鷹志 「なあなあ、昨日のドラマ見たか?」 凍弥 「ドラマ?」 なんだ、知らないのか。 そんな顔をした鷹志が続ける。 鷹志 「元気な幼馴染が実は病気で、入院してたのに約束を守るために会いに行く!     なかなかいいドラマだったぞ。     ま、お約束のハッピーエンドだったけどな」 凍弥 「……?ハッピーじゃ不満なのか?」 鷹志 「いや、べつにそうは言ってないだろう」 凍弥 「ふむ……あ、そういえば鷹志にも幼馴染、居たっけ?」 鷹志 「ん?あ、ああ……。小学の時に転校したっきりだけどな……」 凍弥 「ほほう……初耳だ」 鷹志 「その点、お前は同じクラスだもんなァ……」 凍弥 「ああ……あ?」 鷹志 「………」 凍弥 「………」 鷹志 「……そういやぁ……その幼馴染みは……?朝、一緒じゃなかったのか?」 凍弥 「うむ、それは俺も考えていたところだ」 鷹志 「………」 え〜っと、まず部屋を出て…… パン食して……家を出て……って…… 凍弥 「……ぬおゎぁあああああああ!!」 鷹志 「どっ、どうした!?」 凍弥 「家の炬燵……」 鷹志 「……コタツ!?」 家の炬燵で寝ております!! しまった!! 起こすの忘れてた!! 凍弥 「すまん鷹志!!忘れ物をした!!間に合わなかったら出席の代返を頼む!!     俺と来流美と由未絵のだ!!     出来てなかったらお前の下駄箱にラブレター入れてやるから覚悟しろ!」 鷹志 「なにィ!?無茶言うな!!ていうかどういう脅迫だよ!」 俺は泣き叫ぶ鷹志を無視して走り出した。 鷹志 「ま……待てぇえええええっ!     男のお前はともかく女の声をどうやって代返しろってんだァッ!!」 後ろから鷹志の悲鳴が聴こえた。 だがやはり無視する。 いや、この場合は無聴だろうか? 凍弥 「……って、そんなことは、どうでもいい!!」 俺は来た道をひたすら走った。 ───……。 ……。 凍弥 「おいっ!!ふたりとも!!」 俺は家に着くなり二階に駆け上がり、自分の部屋へと走った。 そしてドアを開けたその場には 来流美「………」 由未絵「……スー……」 未だに寝ているふたりの幼馴染が居た。 凍弥 「なッ……!!」 心底呆れた。 凍弥 「おい!起きろふたり共!!!」 来流美「……Suu……」 由未絵「……スー……」 凍弥 「……こっ、このっ……!!」 耳元で絶叫してやろうかと思ったが、 それよりもいい方法を思いついた。 つーかもうレッツファイア!くすぶるハートに火をつけろ!! 凍弥 「俺の拳が凍気で冷える!くらえ!眠気覚醒奥義アイスハンド!!」 説明しよう!! 眠気覚醒奥義アイスハンドとは外気や物によってよく冷えた手の事で、 これを喰らって尚、寝ていられる奴などおらぬ筈!! 凍弥 「コオオオオォォォォ……!!」 この技は首にやるのが定である。 ………… ………………ヒタッ!! 来流美「ひィやッキャァアアアァァァァッ!!!!!!」 閏璃家に来流美の悲鳴が轟いた。 ドゴォッ! 凍弥 「いべぃ!?」 そして、迷いも無く俺の顔に放たれるナックル。 凍弥 「なにすんだ貴様ァアアアッ!!」 来流美「こっちの台詞よ!このアルティメットバカ!!」 凍弥 「なにおう!?クィーン・オヴ・バカに言われたくないぞ!!」 由未絵「……ス〜……」 凍弥 「お前も起きんかぁああああ!!!」 由未絵「……うや?」 来流美「うや?じゃないっての!!」 凍弥 「喝!!」 ……ヒタッ!! 由未絵「うっきゃァアアアアアアアアッ!!!!!!!」 今度は由未絵の声が轟いた。 由未絵「……うー……」 悲しそうな声だった。 凍弥 「『うー』やない!いいから目を覚まさんかい!」 来流美「……って、もう8時20分じゃない!!     なんで着替えにこんなに時間がかかるのよ!」 凍弥 「やかましい!!考えるより走るぞ!!」 由未絵「……ス〜……」 凍弥 「……この……ッ!!」 ……ヒタッ!! 由未絵「きゃうううううううううううっ!!!!!!」 再び絶叫。 凍弥 「行くぞ由未絵!!」 由未絵「うぅ〜、驚いたよぉ……」 来流美「足には自信があるわ!!」 凍弥 「よし!先に行って担任を暗殺してこい!」 来流美「オーライ任せて!!って、無茶言わないで!!」 凍弥 「頼んだぞ」 来流美「出来ないってば!!」 凍弥 「まあいい、急ぐぞ!!」 由未絵「う、うんっ!!」 …………………… 結局、遅刻はせずに済んだ。 鷹志が心底ホッとした顔で、俺達を迎えただけだった。 Next Menu back