───幼い頃の夢を見ている。 その穏やかな夢の中で少年が走っていて、その後を追うように少女が走っている。 そんな……なんでもないようで、とても楽しそうな夢だった。 見えるのは雪景。 雪の積もった白い街の景色を見下ろしている。 夢の中で幾つもの季節が流れていた。 雪解けを待つ人と、桜を待つ人波の中で。 少年と少女は雪が降るのを待っていた。 ───無駄な休日。戦えぼくらのロバート・ガ○シア───
【ケース08:閏璃凍弥/そうだ、旅、出よう】 凍弥 「ええぇえええ!?」 とある朝。 俺は今日も早よから叫んでいた。 凍弥 「……マジですか?」 もちろん俺は絶句して自分の親を見る。 雪奈 「ええ、マジですよ」 それにあっさりと返答する母、雪奈(せつな)。 隆侍 「死ぬ程、楽しんで来い」 歯を輝かせながら笑う父、隆侍(りゅうじ)。 この両親はホント、人の都合ってものを考えない。 こんなことは昔っからよくあったことだが、また巻き込まれるのは勘弁だ。 凍弥 「んな勝手な……!!」 だからそう言った。 が─── 雪奈 「……勝手?」 瞬時、辺りの空気が凍りつく。 葉香 「………!!」 姉さんが後退(あとずさ)る。 雪奈 「わたし達が仕事づくめだからあなた達の事を思っての行為を……勝手……!?     勝手な行為と言うの……!?」 凍弥 「いや問題無い!!全然オッケイ!!」 俺は慌てて言葉を並べた。 雪奈 「……そう、それは良かったわ。     あら?どうしたの葉香、そんな隅っこで……」 葉香 「ひえぇいっ!?い、いえっ!!なんでも……」 姉さんは母さんが苦手だ。 姉さんの唯一の弱点が母さんなわけだが、俺も苦手なわけだ。 そして苦手ではなく怖いのだ。 何故に怖いかは、あえて伏せたいというか。 雪奈 「では、いってらっしゃい」 凍弥 「え!?い……今から!?」 雪奈 「何か問題でも?」 凍弥 「いや、いきなり言われても……」 雪奈 「……そう」 カチャッ!! 凍弥 「はうっ!?」 雪奈 「凍弥ぁあああっ!!!!!!」 凍弥 「うわあああああああ!!!!!!」 母さんが薙刀を構えながら襲ってくる。 その形相、その矛先。 どれをとっても恐怖しか襲ってこない。 凍弥 「か、母さん落ち着いて!!」 雪奈 「問答無用!!」 ズバァッ!!!! 凍弥 「ギャア!」 ヒィ!髪をかすった! このままでは殺される!! 凍弥 「解りました!!こっちで話してみます!!」 俺は慌てて言葉を繋いだ。 雪奈 「………」 俺の言葉を聞いて薙刀を下ろす母さん。 そしてニコッと微笑み…… 雪奈 「では、いってらっしゃい」 ……と言った。 怖い理由はこれ。 人の意思を無理矢理曲げる行為には、俺も姉さんも退く以外に道は無いのだ。 姉さんなら太刀打ち出来るのではないだろうかと思うものの、 姉さんは小さい頃から薙刀で躾されてきたようなもので…… まあその、母さん+薙刀という組み合わせをされるとどうしても弱体化してしまうのだ。 パブロフの犬効果ってやつ? ───……。 ……。 凍弥 「……と、いう訳だ」 俺は事の次第を来流美と由未絵に話した。 由未絵「と、いう訳だ……って言われても……」 凍弥 「おや?理知的な説明が不足してたか?」 来流美「理知的もなにも、説明してないじゃない」 凍弥 「フフフ、俺を騙そうとしてもそうはいかんぞ」 来流美「あのねぇ……」 凍弥 「つまりあれだ。親が行けというから君らもどうザマス?と、こんなとこだ」 来流美「だからぁ……」 凍弥 「行かないと殺される」 由未絵「ふわ……そうなんだ」 凍弥 「ああ」 来流美「で、なんの話だっけ?」 凍弥 「旅行だ」 来流美「誰と?」 凍弥 「俺と」 来流美「誰が?」 凍弥 「由未絵が」 由未絵「え?え……?そ、そそそうなのっ……?」 凍弥 「ああ、生を受けたその日から、既に宿命付けられていたんだ」 由未絵「はぅう、し……知らなかったよ……」 コパァン!(スリッパ音) 由未絵「きゃうぅっ!?」 来流美「信じないの!!」 由未絵「スリッパは反則だよ……」 来流美「安心なさいな、子供用だから」 由未絵「あ、なら安心だね」 凍弥 「待て、なんの話をしている」 由未絵「子供用は今なら半額なんだよ凍弥くん」 凍弥 「……それは答えになっているのか?」 由未絵「ハエ叩きに重宝するスリッパ!今ならサービス期間中で9万8千円!!」 凍弥 「高すぎだボケ者!!」 コパァン!!(スリッパ音) 由未絵「きゃうぅっ!!……う〜、冗談なのに……」 凍弥 「まあいい、それよりもだ」 由未絵「なに?」 コパァン!!(スリッパ音) 由未絵「わきゃッ……!!」 凍弥 「なに?じゃない!人の話は聞いておけこのアルティメット大たわけ!」 由未絵「ふぇえ……そんなに叩かないでぇ……」 来流美「つまり、タダで旅行に行けるってこと?」 凍弥 「だからそう説明しただろう」 由未絵「うぅ〜、されてないよぉ……」 凍弥 「おだまり!!俺がさっき熱く演説した『と、いう訳だ』は、     英訳すると『ヘイ・ユー!タダ旅行に行くか!?』と、解読できるのだ!!」 由未絵「熱く語ってなかったよぅ!!」 凍弥 「サランラップ!(訳:黙れ!!)」 来流美「それを言うならシャラップよ。……ちなみに何処の言葉?」 凍弥 「遥か昔、古代インドネシアを栄えとした奇人、     ヨーデルハイム・ボルゲニョーラ酸性だ」 来流美「酸性!?って、人じゃなくて何処の言葉!?」 凍弥 「トリケラトンプソン地方だ」 来流美「トンプソン!?」 由未絵「聞いたこと無いよ……」 凍弥 「俺はそこの生き残りだ」 由未絵「えええぇぇっ!?」 来流美「落ち着きなさい由未絵!!」 凍弥 「いいから、行くのか行かないのか……」 由未絵「行くっ!!」 凍弥 「よし、じゃあ出発だ」 来流美「待ったらんかい小僧!!」 凍弥 「やかましい!」 由未絵「出発って……今から?学校は?」 凍弥 「もちろん行くぞ。旅行は明日からだ」 来流美「……ああ!!明日と明後日連休!!」 凍弥 「そういう事だ」 来流美「オーライ。その話、乗るわ」 凍弥 「だめだ」 来流美「普通そこで断る!?」 凍弥 「馬鹿野郎、お前なんか連れていったら旅館が崩壊するだろうが」 来流美「そ、そこまで言うか……!」 凍弥 「黙れボケ。それより学校だ」 由未絵「うんっ」 来流美「チィ、上手く逃げたわね……まあいいわ、それより……あら?」 腕時計を見た来流美の動きが止まる。 凍弥 「……時計、あまり見たくないな」 来流美「賢明だけど急がないとヤバイわよ」 凍弥 「……遅刻……いや、まだだ!!」 来流美「走るわよ由未絵!!」 由未絵「え?い、今何時なの?」 由未絵の問に黙って腕時計を見せる来流美。 由未絵「間に合いっこないよ〜っ!!」 凍弥 「安心するんじゃポルナレフ」 由未絵「誰!?」 凍弥 「俺に考えがある!!」 俺はガレージへと走った。 由未絵「と、凍弥くん?」 凍弥 「ふふふ、この日のために新調した愉快な仲間!!     速くて軽くて光って唸る!その名もフロストモービル『Λ(ラムダ)』だ!!」 来流美「なんでラムダ……」 凍弥 「気にするな。さあ乗れ!」 由未絵「うん!」 凍弥 「よし!!音速を越えて塵と化すぜ!!」 由未絵「やだぁああああああっ!!!」 凍弥 「冗談だ、行くぞ?」 由未絵「うぅ〜……」 来流美「って、待たんかい」 凍弥 「どうした来流美」 来流美「白々しく置いていかないで」 凍弥 「あ……スマン。精一杯普通に置いて行こうとしたんだが……」 来流美「尚更(なおさら)に悪いわよ!」 凍弥 「よし、乗ったな?」 来流美「まだよ!」 凍弥 「早くしろこのボケ」 来流美「うっさいわね!……よっ……と。いいわよ」 凍弥 「よし!発信!!」 来流美「信号出してどうするの!!」 凍弥 「俺はモールス信号が好きなんだ」 来流美「しかもモールス!?」 凍弥 「気にするな。発進!!」 ───……。 ……。 ゴシャーアー!! 凍弥 「なあ、知ってたか?」 由未絵「え?何を?」 凍弥 「重い物を乗せた動く物ってな、ブレーキかけても止まらないんだ」 来流美「あ、それ知ってる。坂道だとよく事故が起きるアレでしょ?」 凍弥 「そう、アレだ」 由未絵「………」 来流美「………」 凍弥 「………」 ギョキキィイイキキィイイイッ!!! 由未絵「ねえ凍弥くん、そろそろブレーキ……」 凍弥 「この(なまめ)かしいブレーキの音が耳に入らぬか?」 来流美「艶かしいわけないでしょ馬鹿。     ……それにしても坂道以外の通学路、無かったの?」 凍弥 「ここが一番の近道だからなぁ……」 由未絵「………」 来流美「………」 凍弥 「………」 由未絵「きゃぅううううっ!痛いのヤだぁあああああっ!!!」 凍弥 「大丈夫だ由未絵。痛いのは最初だけだ」 由未絵「うぅ……そうなの……?」 凍弥 「うむ。すぐに三途の川が見えてくる」 由未絵「ヤだーっ!」 来流美「これは困ったわね」 凍弥 「冷静だな」 来流美「恐怖を前にして脅えた者が負けるのよ」 凍弥 「相手が壁でもか?」 来流美「意志が無い相手……困ったわね」 由未絵「きゃーっ!わーっ!止めてぇええっ!!」 凍弥 「騒ぐな、俺がついてる」 由未絵「……うん」 来流美「ラブですわね」 凍弥 「やかましい」 由未絵「………」 来流美「学校までの道の途中で坂道終わってるんだからそこで止まれば……」 凍弥 「……だから、鈴問高等学校はここを右に行って一直線に向かった先だろう。     問題はこのスピードでどのように曲がり切るかだ」 来流美「無理ね」 凍弥 「さらっと返すな」 来流美「恐怖を前にした者は冷静であるべきよ」 由未絵「凍弥くぅ〜ん……」 凍弥 「ん?どうした由未絵」 由未絵「やっぱりぶつかるの……?」 凍弥 「いや、それは痛いから嫌だ」 由未絵「わたしもヤだよぅ……」 来流美「安心なさいな由未絵。わたしだって嫌よ」 由未絵「うぅ〜……」 凍弥 「相手は石だからな。石なだけに意志が無く、しかも相手に冷たい」 由未絵「………」 来流美「………」 凍弥 「………」 ヒュォオオオオオオオ……………… 速さにおける風の抵抗以外に、別の寒い風を感じた。 なんてことをしている間にガショォオオオオン!!!! 凍弥 「ギャーーーッ!!」 壁との熱烈な衝突を果たした。 例により、フロストモービル大破。 凍弥 「さよならフロストモービル……。貴様の勇姿は忘れないよ……」 由未絵「ふぇえぇ……凍弥くんのばかぁ……」 凍弥 「馬鹿じゃない、理知的だ」 来流美「嘘おっしゃい!!」 凍弥 「嘘じゃない、義説だ」 由未絵「全然意味解らないよ……」 凍弥 「それより走るぞ」 由未絵「あっ、う、うん!」 来流美「はぁ……」 頷き合って走り出す俺達。 鷹志 「お、今日は早いな」 そこに突如現れる鷹志。 凍弥 「何馬鹿なこと言ってるんだこの馬鹿。遅刻するぞ」 鷹志 「馬鹿はお前だ」 凍弥 「馬鹿じゃない、理知的だ。しかも聡明」 鷹志 「嘘つけ」 凍弥 「即答で返すなよ」 鷹志 「だってまだ7時57分だぞ?     それを遅刻がどうのって騒ぐのは馬鹿しか居ないだろ」 凍弥 「そうか、じゃあお前は馬鹿なんだな」 鷹志 「どうしてそうなるんだよ……」 凍弥 「いや、まあちょっと待て。来流美、ちょっと時計見せろ」 来流美「あ、えと……あはは、腕時計は無闇に見せるなっておばあちゃんの遺言が……」 凍弥 「どうしてそこで照れるんだよ……」 鷹志 「いや、時間以前に周りをよく見ろよ。まだみんな歩いて登校してるだろう」 凍弥 「………」 コッパァン!(スリッパ音) 来流美「はぶぅいっ!!」 凍弥 「くぉの天地崩壊的大たわけ!お前この時計止まってるじゃねぇか!!」 来流美「凍弥だって気づかなかったでしょ!?」 凍弥 「やかましい!俺は見てないだろうが!!」 鷹志 「まあまあ、積もる話は教室で話せって」 凍弥 「任せろ」 鷹志 「どういう返事だ……」 結局こんな朝である。 まあその後は適当に時間を潰してゆったり気分。 さっさと終わって帰って寝ました。 嗚呼、睡眠最強。 【ケース09:閏璃凍弥/お江戸セプテンバーラヴ】 で───……あっという間に翌日。 さて───時が来た。 ついに出発の時!! しかし…… 凍弥 「由未絵は?」 来流美「知らないわよ」 見渡してもみても、幼馴染のひとりの姿が確定できない。 凍弥 「また寝てるのか……?」 来流美「多分どころか絶対ね」 凍弥 「仕方無い……」 俺は由未絵の家に入り、由未絵の部屋のドアを叩いた。 凍弥 「由未絵〜?」 トントン…… 凍弥 「由未絵〜?」 コンコン…… 凍弥 「由未絵〜!」 ドンドン…… 凍弥 「由未絵ぇええ!!」 ドンドン!!カンココドカヘキャスパァーン!! 凍弥 「……ヘキャってなんだ……?」 スパァーンは俺がスリッパを使ったからだが……。 凍弥 「入るぞ……?」 カチャ……ドサドサァッ!! 凍弥 「………」 例のごとく、ぬいぐるみ式雪崩が起こる。 声  「……きゃぅ……!!」 それに次いで、なにか強い力で握られた鳥の様な声が聴こえた。 凍弥 「?」 まあいい。 しかしだ…… またか?また探すのか? 凍弥 「由未絵!居たら返事をしろ!!」 由未絵「……ゃ?」 微かに声が聴こえた。 恐らくまた、『……うや?』と言ったのだろう。 凍弥 「旅行に行くんだろ!早く起きろ!!」 由未絵「ふわ……ぁうぅ……」 ぬいぐるみ草原(ぬい原)の一部がモゾモゾと動く。 しかし、なかなか出てこない。 由未絵「………」 いや…… 由未絵「……う〜……」 出られないようだ。 上にジャイアント猪が乗っている。 アレの重さは俺もよく知っている。 由未絵「うーっ、うーっ」 横にどかそうにも、ぬい原が邪魔して動かせない。 由未絵「………」 凍弥 「………」 由未絵「ふぇえ……」 非常に泣けてきた。 凍弥 「寝る時、どうやって寝たんだよ……」 由未絵「猪の隣辺りに埋まって寝たんだけど……」 凍弥 「それがなんで……ハッ!!」 さっきの雪崩か!? そういえば『きゃぅ!!』って…… 凍弥 「………」 由未絵「うぅ〜……」 凍弥 「達者でな、由未絵」 由未絵「うぅ〜、いきなり見捨てないでよ〜……」 凍弥 「よし、助ける方法を考えてやる。諦めろ」 由未絵「1秒も経たずに断念しないでぇ……」 凍弥 「どうしてほしいんだお前は!!」 由未絵「助けてほしいんだよぅ……」 凍弥 「それならそう言え」 由未絵「言わないでも察してよ〜!」 凍弥 「安心しろ、俺は変なこと以外には鈍いんだ」 由未絵「それは……よく解るけど」 凍弥 「……少しは否定しろ」 由未絵「ヤ」 凍弥 「達者でな」 由未絵「ふぇえ……冗談だよぉ……」 凍弥 「仕方無い、ひとつずつどかしていくか」 ───……。 ……。 来流美「遅かったわね」 凍弥 「由未絵が潰れてた」 由未絵「うぅ〜……」 来流美「ぬいぐるみね?」 由未絵「うぐ……」 素敵に図星だ。 来流美「なんでもかんでも貰うからそうなるのよ」 由未絵「だって……」 来流美「まあ、理由は知ってるけどね」 由未絵「わっ!く、来流美ちゃ……!!」 凍弥 「理由?」 来流美「そ。理由」 由未絵「わー!わー!!」 凍弥 「やかましい!」 由未絵「うぅ〜……」 来流美「……と、いう訳なのよ」 凍弥 「なるほど。奥深くも味わい深く、     大海を渡り、日に百里の道をも歩めそうでいて、尚且つ(なおかつ)さっぱり解らんな」 来流美「そこがポイントよ」 凍弥 「なるほど」 由未絵「意味不明だよ……」 凍弥 「安心しろ。こう見えても俺はジェントルメンだ」 由未絵「紳士は問答無用で叩かないし、全然話に関係無いよ……」 凍弥 「そこがミソだ」 由未絵「うぅ〜……」 来流美「さ、解決したところで行きましょう」 凍弥 「ミジンコ大程度の解決もしてないが、まあ気にせず行こうか」 由未絵「例えが無茶苦茶だよ……どうして微生物単位なの……?」 凍弥 「それが通のやり方だ」 由未絵「うぅ〜……」 凍弥 「行くぞ、由未絵」 由未絵「う、うん」 ───……。 ……。 来流美「やってぇん来ました温泉の国!!」 凍弥 「帰れ」 来流美「来たばっかりよ」 由未絵「ふわ〜……温泉宿だったんだぁ……」 宿を見上げて呟く由未絵。 凍弥 「最近、肩が凝っててのう」 来流美「テレビの見すぎでしょ?映像ばっかり見てると凝るっていうからねぇ」 凍弥 「サランラップ!!(訳:黙れ!!)」 来流美「どういう訳よ!!」 由未絵「早く入ろ?ねっ?」 凍弥 「うむうむ、そうしよう」 来流美「早く入ろ?ねっ?」 凍弥 「だめだ」 来流美「そう来ると思ったわ」 凍弥 「お前に女らしい仕草なんて似合うかボケ」 来流美「そ、それってわたしを女として見てないってこと……!?」 凍弥 「馬鹿野郎!そんなことしたら男に失礼だろう!」 来流美「どーいう意味よ!」 凍弥 「お前なんぞ両生類で十分だ。このオカマ」 来流美「こ、このっ……!」 由未絵「こんなところにまで来て喧嘩はダメだよっ!」 凍弥 「……元気だな」 由未絵「うんっ!」 来流美「せいぜいノゾキに注意なさいよ」 凍弥 「だな。この艶かしいボデーを覗く変態両生類に注意せねば」 来流美「だぁれがアンタの体なんか覗くか!」 凍弥 「うわ!俺じゃなかったら覗く気だったのかこの変態!     しかも変態両生類って部分を否定しなかった!この変態!」 来流美「いっちいちムカツクわねぇ〜……!     いーい由未絵!こういう男こそムッツリスケベなんだから!     覗かれないように気をつけるのよ!」 凍弥 「何故俺を見る」 来流美「アンタが男だから」 凍弥 「それは偏見という物だ」 来流美「偏見の云々の前にコケにされて黙ってるわけないでしょ!?」 由未絵「早く行こうっ!ねっ?」 凍弥 「解った解った。ほら行くぞ両生類」 来流美「妙な呼び名つけてんじゃないわよ……!」 カラカラカラ…… 来流美を無視して入り口の戸を開けて中へ。 凍弥 「すいませ〜ん!」 鷹志 「はいはいって、うおっ!?」 凍弥 「ぬおお!?」 由未絵「あれ?鷹志くん?」 来流美「あ、そういえば『温泉宿の橘』って……」 鷹志 「………」 凍弥 「………」 鷹志 「くっ!!い、いらっしゃい……ませ……」 凍弥 「おお、引きつっとる」 鷹志 「やかましい!」 由未絵「大変だね」 鷹志 「くそ!まさかお前らだったとはな……」 凍弥 「なにがだ?」 鷹志 「ここを貸し切りにした輩だ」 凍弥 「かッ……!?」 鷹志 「なんだ、知らなかったのか?雪奈と名乗る女の人から電話があってな」 凍弥 「母さん……」 な〜にやってんですかアンタ……。 鷹志 「あれ、お前の親か?」 凍弥 「ん?ああ」 鷹志 「……怖いだろ」 凍弥 「よく解ったな」 鷹志 「電話相手してた父さんが凄く脅えてたよ」 凍弥 「……すまん」 鷹志 「気にするなって。父さんが脅える姿はなかなか笑えたからな」 由未絵「わぅーっ♪広い広いーっ!!」 来流美「あら、熊のフェイスが……」 凍弥 「落ち着け!……それにしてもいつもここから登校してるのか?」 鷹志 「あのな……それじゃ遊ぶことも出来んだろ。     輝かしき連休に手伝わされるハメになったんだ。     普段は学校近くでひとり暮らしだ」 凍弥 「そうなのか、災難だったな」 鷹志 「ちなみに料理は上手いぞ」 凍弥 「聞いとりゃせんて」 鷹志 「まあいいや、部屋に案内するよ。     一番広い部屋だ、好きなように使ってくれ」 凍弥 「最近水墨画に目覚めたんだ。好きなように使っていいか?」 鷹志 「今すぐ帰れ」 凍弥 「冗談だ。そういえば代金だが……」 鷹志 「もう貰ってあるよ」 凍弥 「……いくらだ?」 鷹志 「聞いて恐れ戦慄(おのの)け。……ボソボソ……だ」 凍弥 「なにぃ!?ボソボソだとぅ!?」 鷹志 「人の話はよく聞けボケ!」 凍弥 「よしいいだろう。近こう寄れ」 鷹志 「……なぁ、一発殴っていいか?」 凍弥 「金返してくれるんだったら考えてやらんでもないが」 鷹志 「このデビルが……まあいい、耳貸せ」 凍弥 「馬鹿野郎、耳をおいそれと貸せるか」 鷹志 「いちいち屁理屈こねるなよ……知りたくないならいいけど」 凍弥 「是非聞かせろ」 鷹志 「よし、それがだな……」 ヴォソヴォソ…… 凍弥 「ぬぁァッ!?」 鷹志 「俺はあんな大金初めて見た……」 凍弥 「………」 鷹志 「お前、金持ちだったんだな」 凍弥 「ばッ……馬鹿言うな!!     俺の小遣いなんて、それに比べりゃ塵にも満たなかったぞ!?」 鷹志 「今も貰ってるのか?小遣い」 凍弥 「『満たなかった』と言っただろ!?遥かなる遠い過去の記憶だ!!」 鷹志 「そうか。……ホラこの部屋だ」 鷹志に案内されて辿り着いた部屋。 そこは他の部屋と比べれば非常に大きかった。 というか広かった。 由未絵「……ふゎ……」 来流美「……ここ……!?」 凍弥 「3人で使うような場所か……?」 鷹志 「依頼人がそう言ったんだ」 凍弥 「母さん……」 来流美「こ、これは広いわね……」 由未絵「体育館くらいありそうだよ……」 そこまで広くはない。 凍弥 「よし鷹志、ありったけの枕を用意してくれ」 鷹志 「……あれだな?」 凍弥 「もちろんお前もやるよな?」 鷹志 「遊びを捨てるのは愚考と唱えよ」 凍弥 「よし、手伝うぞ」 来流美「待ちなさい凍弥」 凍弥 「なんだ?いまさら命乞いか?」 来流美「枕投げは入浴後と相場が決まってる物なのよ」 凍弥 「なるほど正論だ」 由未絵「そうと決まれば温泉温泉っ!」 鷹志 「先に入るのか?ならこっちだ」 ガララララ…… 案内しようと先んじた鷹志だったが、玄関の戸の開く音を聞いて立ち止まる。 鷹志 「っと、客か?今日は貸しきりにしてた筈なのに……」 鷹志が足早に玄関口に走っていった。 凍弥 「……誰だろな」 来流美「さあ。おじいさんかなんかじゃない?」 由未絵「んー……じゃあわたしはおばあさんに3000点」 凍弥 「3000点ならはらたいらさんだろ」 よく解らない会話をする。 というかこれで会話が成立しているんだから驚きだ。 ゴシャー! 凍弥 「お?どうした鷹志。廊下は歩くものであって滑るものじゃないぞ」 鷹志 「あっ、がっ、がが……よ、よ、よう、よ、う……!」 凍弥 「YO(ヨー)!!」 鷹志 「違うわ!よ、よよよ葉香さんが……!」 凍弥 「───」 一瞬にして視界が真っ白になる。 葉香ってアレですか? 俺にとっては母より苦手なあのヒトですか? なんてことを思っている内に微かなタバコの匂い。 うあ……!このマルボロチックな香りは───! 葉香 「……ん?なんだ凍弥、お前ももう来てたのか」 ね、姉さん……! は、はああ……!憩いの旅になるはずのものがどうしてこんな……! 葉香 「……鷹志、先に部屋に案内しろ。邪魔な荷物を置いてくる」 鷹志 「はっ……はははいぃい!」 鷹志も姉さんの恐ろしさはよく知っている。 というか、俺の友人であり、 俺の家に遊びに来たヤツなら姉さんの怖さを知らないヤツは居ない。 柿崎だって例外ではない。 あいつはあいつで人の家で大好きなテレフォン民話を大音量で聞いていたら、 その五月蝿さに起きてきた姉さんにアッパーカットブレイクをされて宙に舞ったほどだ。 鷹志は間違えて姉さんの部屋に入ってしまい、 その部屋の殺風景っぽさから俺の部屋だと勘違いした上に、 少し荒らした罪において地獄を見た。 それ以来、彼らが俺の家に寄りつくことは無くなった。 葉香 「……なにをボーッとしている。風呂に行くならさっさと行け」 凍弥 「はっ!……あ、ああ……そうする」 葉香 「……鷹志、早く案内しろ」 鷹志 「は、はいぃっ!」 鷹志がビシィッ!と敬礼をしたのちに早足で部屋へと歩いてゆく。 それのあとを追うように妙な殺気を撒き散らしながら歩く姉さん。 ……鷹志のヤツ、生きた心地してないだろうなぁ……。 凍弥 「それじゃ、いくか……」 来流美「……そうね」 由未絵「温泉温泉〜♪」 俺達3人は少し鬱になりながら……あ、いや。 由未絵はのん気なものだったが、とりあえず温泉に行くことにした。 そのすぐあとに姉さんが来て、さっさと入っていった。 ……なんか嫌な予感。 ───……。 ……。 凍弥 「は〜、いい湯でござった」 鷹志 「……平和な感想だな」 風呂から出た俺を待っていたのは疲れた顔をした鷹志だった。 凍弥 「……よし、それじゃあ早速枕投げだ」 鷹志 「少しは俺の疲れた顔を気にしてくれてもいいんじゃないか?」 凍弥 「おおどうしたんだその顔はー」 鷹志 「……やっぱいい。誠意を感じられん」 だはぁと溜め息をつかれる。 と、そんな時。 由未絵「と、凍弥く〜ん!!」 凍弥 「んあ?おお、由未絵」 由未絵「よ、葉香さんがぁ〜!」 凍弥 「姉さんがどうかしたか?     ……まさか日頃の行いが祟って、のぼせて病院送りに!?」 葉香 「阿呆が」 ドゴォッ! 凍弥 「ぐおっ!」 葉香 「わたしが風呂の熱ごときで倒れるか。少しは考えてものを言え」 凍弥 「……くうう……」 だとしたら姉さんがどうしたっていうんだよ……! 葉香 「それはそうと……凍弥。申し分無いぞ」 凍弥 「なにがっ!」 葉香 「……ふむ。弾力性といい形といい、大きくもなく小さくもない。     将来、いい形に育つ。よかったな凍弥」 凍弥 「だから何が!」 由未絵「ふぇぇ……」 葉香 「……これだけ語ってやっても解らんとはな。     まーいい。わたしはわたしで好きにやらせてもらう」 それだけ言うとタバコに火をつけてゆっくりと歩いていった。 凍弥 「…………なんなんだ?」 鷹志 「馬鹿だなお前、女が風呂でスキンシップ。しかも弾力性と形といったら」 ボゴォッ! 鷹志 「ギャア!?」 ドシャア。 凍弥 「た、鷹志!?鷹志ーッ!」 た、鷹志がいきなり闇討ちをされた!? 由未絵「……っ!」 で、後ろを見れば謎の棒を持って、涙目でカタカタと震えている由未絵。 来流美「容赦無いわね……」 凍弥 「どこから沸いて出た」 来流美「沸かないわよ。それより枕投げするんでしょ?行くわよ」 凍弥 「いきなり出てきて仕切るなよ。訳解らんのだ今の状況」 来流美「悪いとは思わないけど、     それ言おうとしたら間違い無く橘くんの二の前になるからやめとくわ」 凍弥 「……由未絵。なにがあったのさ」 由未絵「…………一番最初の人は決めてたのに……」 凍弥 「はい?」 来流美「ほらほら、由未絵も誤解しか招かないような招待状振り撒いてないで」 由未絵「うぅぅぅ……ふぇえ……わたし汚れちゃったよぅ……」 来流美「だーかーらー。胸揉まれたくらいでそんな」 ボコォッ! 来流美「ふぎゅっ!?」 ドシャア。 由未絵に頭部を激打され、雄々しく前のめりに倒れる来流美サン。 そして─── 由未絵「……っ!」 凍弥 「っと……」 ギロリ、と……俺を睨む由未絵。 かつてないほどの殺気だ……!! 由未絵「……………………聞いた……?」 凍弥 「……いや、聞いてない。聞いてないぞ。姉さんに胸揉まれたなんてそんな」 由未絵「うわぁあああああああああんっ!!!!!」 凍弥 「な、なにぃ!?ギャアアアアアアア!!!!!!」 容赦無い棒の一撃が幾度と無く俺を襲う。 いや!ヤバイってこれ!死ぬ!死んでしまう!や、やめれー! ギャアアアアア!!! ───……。 ……。 目を開けたら見慣れない天井があった。 凍弥 「こ、ここはどこ?わたしは俺?だとすると……俺はトニー!?グゥウレイトォ!」 鷹志 「落ち着け!」 凍弥 「あれ?鷹志じゃないか。おはよう」 鷹志 「朝じゃないって」 凍弥 「目覚めたらおはようだろ。ていうか……」 辺りを見渡す。 凍弥 「ここどこ?」 鷹志 「俺の家の旅館だ」 凍弥 「……あーあーあー!そういやここに泊まりに来たんだっけ。     そんでもって風呂入って姉さんが来て……あら?そっからどうしたんだっけ」 鷹志 「……いや、俺もそこらへんから覚えてないんだが」 来流美「奇遇ね。わたしもよ」 凍弥 「………………キミは誰?」 来流美「実力行使で思い出させてあげるからちょっと立ちなさい」 凍弥 「ごめんなさい憶えてます」 由未絵「………」 凍弥 「……なに気まずそうな顔してるんだよ由未絵。     あ、そうだ。お前は覚えてるか?」 由未絵「う、ううん、憶えてない憶えてないっ」 凍弥 「そうか?むう」 鷹志 「それよりホレ」 ボフンッ。 凍弥 「お?おお、枕……そっか、枕投げをしようとしてたんだよな。     そうかそうだった、うん。よーしやるかぁ!」 鷹志 「そんじゃまずはチーム編成だな」 葉香 「男対女。文句はないな?」 鷹志 「キャーッ!?」 凍弥 「ね、姉さん!?」 いつの間に……! 葉香 「……そこに戦いがあれば、それが理由だ」 かったるそうに言う姉さん。 相変わらずマルボロ吸ってる。 葉香 「そらどうした。もう始まってるぞ、かかってこい」 凍弥 「───」 ……そ、そうか。 これなら合法的に攻撃出来るぞ。 所詮は枕だ。 それも羽毛枕。 当たったからって痛いわけでもない……。 だが、ぶつけた喜びってのはあるわけだ……ククク。 凍弥 「よーし受けて立つ!まずはくらえ!おぉらぁっ!」 ブンッ! 葉香 「……遅い」 バシィッ! うわっ!?軽々と片手で取られた!? 葉香 「お前達なにをボサっとしている。相手はもう撃ってきてるんだぞ」 来流美「はっ……!は、はい!覚悟しなさい凍弥ぁっ!」 ブンッ! 凍弥 「……遅い」 ドパァン! 凍弥 「ぷおっ!?」 鷹志 「な、なにやってんだアホォ!真似までしといて掴めない馬鹿が居るか!」 凍弥 「フフフ、せ、世界初……。あ、あとを、た、頼んだ……」 ガクッ。 ドボォッ! 凍弥 「ゴォーッホォオッ!!」 葉香 「枕が当たったくらいで倒れる馬鹿があるか。さっさと起きろ」 凍弥 「ゲ、ゲフッ……!」 そ、そんなこと言ったって…… こりゃ来流美の枕はともかく、これは倒れるなってのは無理ですぞ……! 凍弥 「くっ……た、鷹志!とにかく勝つぞ!男の尊厳のために!」 鷹志 「尊厳のために!」 ビシィッ!と手を合わせドボォッ! 鷹志 「はごぉおおぉおおぉぉ───……ッッ!!」 ゴォシュウウウウ……ンと鷹志が吹っ飛んでゆく。 やがて広い畳の上をゴロゴロスシャーァアアアと滑って死亡。 葉香 「……チッ」 そこへ容赦の無い枕が投げられまくる。 ドゴドボバシベシボフンボゴォッ! 鷹志 「ギャアアーッ!!」 葉香 「休む時間はくれてやらん。そんな暇があったらかかってこい男ども」 鷹志 「……つ、強ぇ……こいつ強ぇよぉ……!」 ドパァンッ! 鷹志 「ごっ!」 ドシャア。 あ、また死んだ。 葉香 「……目上に向かってこいつとはなんだ。……そら、どうした凍弥。     かかってこないのか?いつからそんな腑抜けになった」 凍弥 「チィッ……!くらえぃっ!!」 ブンッ! 俺は渾身の力を込めて枕を投げガシブシャドパァンッ! 凍弥 「がはぁぁあっ!」 山崎さんの倍返しの要領であっさり投げ返された枕が腹にめり込む。 由未絵「……なんだかわたし達の居る意味なさそうだね……」 来流美「これぞ一騎当千……」 葉香 「立て、と言っている。何度も言わすな鷹志」 鷹志 「く、くそぉっ!!」 凍弥 「鷹志!一気にいくぞ!」 鷹志 「おおっ!」 ブンブンブンブンブンッ! ブォォッ!ブシャア!ゴォッ! 葉香 「……無駄な動きが多すぎる。……そらここだ」 バシィッ! 凍弥 「ぐお!?」 密かに投げていた大仏マクラがキャッチされゴシャアン! 鷹志 「ぐわぁああああっ!!」 瞬く間に鷹志に投げつけられ、彼が吹っ飛んだ。 来流美「うわ……容赦無いわね……」 由未絵「ううん、やっぱり姉弟だよ。凍弥くんにはあまり当ててないもん」 葉香 「……気絶したか。……さて、メインディッシュだ凍弥。楽には堕とさん」 来流美「……あれでも?」 由未絵「……撤回していいかな」 凍弥 「チィ!ホントは使いたく無かったが───どうやらそうも言ってられないらしい!     いくぞ姉さん!こんなこともあろうかと持ってきた由未絵のロバの力!     いけロバート!龍虎乱舞だ!そぉおりゃあーっ!!」 ロバのぬいぐるみ、ロバートを投擲! なかなかボリュームのあるボディが空を飛翔する様は正に……滑稽? 葉香 「………」 ドカッ。 凍弥 「ややっ!?」 だがしかし、ロバートはあっさりと蹴り上げられ……ギャア!キャッチされた! 葉香 「愚かしいな凍弥。敵に武器を渡すなど器が知れる。くたばれ」 ブォンッ! ドゴォンッ!! 凍弥 「ぎゅっ!?」 ……ああ、俺飛んでる……飛んでるよ……飛んドシャア!ゴロゴロゴシャーッ! ……がくっ。 来流美「……今、両手で遠心力つけて投げた凍弥より……」 由未絵「うん……片手で投げた葉香さんの方が早かった……ね……」 とんだバケモノが姉に居るものだと同情するふたりであった。 どうでもいいけど助けるなりしてほしいものである。 ───……。 ……。 …………旅館に来て二度目の気絶。 目を覚ましてみればそこは同じ部屋で、ただ姉さんが居ないだけだった。 凍弥 「う、むむ……む、むおお……」 鷹志 「誰も解らんような起き方してないで正気に戻れよ」 凍弥 「いや、正気だぞ」 鷹志 「それよりも……」 凍弥 「ああ……」 ふたりして『最強だったなぁ……』と溜め息を吐いた。 どうあっても勝てる気がしなかった。 姉さんてば強すぎだよ……。 しかも楽には堕とさないとか言っておきながら一撃だし……。 なんかもう悲しいですよ……。 凍弥 「大丈夫だったかお前。大仏マクラ硬かっただろ」 鷹志 「当たった時、腹をえぐられたかと思ったぜ……」 凍弥 「俺は頭が飛んだかと思った……」 鷹志 「………」 凍弥 「………」 はぁ。 出る溜め息は同時だった。 鷹志 「うう……俺の男の尊厳が……」 凍弥 「泣くな鷹志……相手が悪すぎたんだ……」 来流美「あーもう、みっともなく泣くんじゃないわよ。     どう?わたし達とリターンマッチ。     結局さっきの戦いって葉香さんだけでキメちゃったからつまらなかったのよ」 凍弥 「……男対女?」 来流美「んー……凍弥と由未絵、わたしと橘くんでどうかしら」 鷹志 「その話乗ったァ!」 凍弥 「なにぃ!?貴様裏切るのか!?」 鷹志 「フフフ、俺のことは呂布と呼んでも構わんぞ」 凍弥 「こ、この乱世の覇者が!後悔させてやる!やるぞ由未絵!」 由未絵「え?う、うん!」 それぞれが距離を取った時点で心のゴングが音を鳴らした。 凍弥 「いいか由未絵!なるべくダメージの高い枕で攻撃するんだ!」 由未絵「どれも同じじゃないの?」 凍弥 「見た目に騙されるな!」 由未絵「うんっ、解った」 凍弥 「よし!いざ尋常に勝負!!」 由未絵「いっくよー!」 来流美「ふふふ、返り打ちよ!」 鷹志 「伊達に手伝いやっちゃいないぜ!」 凍弥 「先手必勝ォオオオオオオ!!」 ブンッ!!! 来流美「甘いわ!!」 ビシッ!! 投げた手刀であっさりと落とされる。 凍弥 「………」 来流美「………」 凍弥 「何者だ貴様!!」 来流美「修学旅行の際、枕投げクィーンと呼ばれた者よ」 凍弥 「遊んでないで寝ろ馬鹿!!」 再び投擲する。 ボフッ!! 来流美「……軽いわね」 凍弥 「しまった!羽毛だった!」 来流美「お返しよ!覇亞ッ!」 ドパァアン! 凍弥 「ぐはぁあああっ!!」 ば、馬鹿な!羽毛でこれほどの威力が……!? 来流美「力とはこういうものよ!」 凍弥 「やかましい!」 由未絵「う〜んと……うん、理解完了っ。いくよっ」 ブンッ! ドフッ!! 鷹志 「ゲフッ!?」 由未絵「当たったぁっ!」 来流美「チィ……コツをコピーされた様ね……!!」 凍弥 「よし喰らえ!旅行の娯楽・枕投げ流極奥義!     超絶大仏マックルァアアアアッッ!!!」 ゴバァアアン!! 来流美「キャァアアッ!?」 吹き飛ぶ来流美。 凍弥 「やはり大仏枕は最強だ……」 由未絵「わわわっ、凍弥くんスゴイッ!!」 鷹志 「負けるか!!旅行の娯楽・枕投げ流極奥義!!     お子様用ぬいぐるみ式マクラ!マグロティック・ミサイル!!     ぬおぉおりゃぁああああああ!!!」 凍弥 「なんの!由未絵が持ってきたロバシールド!!」 ドゴォッ!!! 凍弥 「うごはぁっ!?」 凄まじい衝撃が俺を襲う。 凍弥 「なんたる貫通力よ……」 シールドごと飛ばされてしまった。 由未絵「きゃううっ!!ロバートがぁあっ……!!」 凍弥 「しかしまだだ!!翔べ!ロバート!!龍虎乱舞だ!!」 由未絵「龍虎じゃなくてロバだよぅ!!」 凍弥 「そぉおおりゃぁああああ!!」 ブンッ!! 鷹志 「なんの!!受け止めてくれるぼわぁッ!?」 ドガァッッ!! 鷹志   「くうっ……!!」 凍弥   「フ、フフフ……やるな鷹志……」 鷹志   「フフ……お手前こそ……」 凍弥   「しかし!全てを決するはやはり肉弾戦!!いくぜ!!マグロブレード!!」 鷹志   「全てに決着をつけてやる!!いくぜ!!ロバ式斬馬刀!!」 凍弥&鷹志『ズォリャァアアアアア!!!』 ドカァアアアアアン!!! ……… 凍弥 (……なにをムキになってんだよ。血の宿命ってやつか?) 鷹志 (民宿家の血筋など関係ない。遊びが楽しいから遊ぶ。それだけだ) 凍弥 (……そうだったな) 人知れずKOF97主人公チームED(?)が展開された。 とか思っている内に再び気絶。 ああ、なんて平和なんザマショ……。 Next Menu back