───雪の狭間に見る笑顔。封印されしドナルディア───
【ケース10:閏璃凍弥/ドリームス(再)】 ───……夢を見ている。 夢を見て思うのは少女。 その場に静かな風が吹く。 凍弥 「なあ由未絵」 由未絵「………?」 凍弥 「落ち着いたか?」 由未絵「……うん」 ゆっくりと頷く少女。 それを見て、俺も小さく頷いて安堵する。 凍弥 「じゃあ、とっておきの場所に連れていってやる」 由未絵「………」 凍弥 「……どうした?」 由未絵「………」 凍弥 「べつに怖い所じゃないぞ?」 由未絵「……ホント?」 凍弥 「ああ、本当だ」 由未絵「……うん」 凍弥 「よし、行こう」 俺は少女の手を取り、道を歩いた。 しばらく進むとそこはもう道無き道だった。 少し坂になっている森を歩く。 凍弥 「……あれ?」 由未絵「………?」 凍弥 「目印が無くなってる……」 由未絵「………」 少女がギュッと腕にしがみついてきた。 きっと不安なんだろう。 凍弥 「大丈夫、道くらい体が覚えてるだろうし、それに道に迷っても俺がついてるよ」 由未絵「………」 凍弥 「な?」 由未絵「……うん」 凍弥 「よし、いい子だ」 そして勘だけを頼りに歩く。 確かここをこう行って…… ───……。 ……。 よし迷った。 由未絵「凍弥くんのばかぁ……」 凍弥 「馬鹿じゃないぞ、理知的で聡明だ」 由未絵「お家に帰りたいよぉ……」 凍弥 「駄目だ、俺はまだ連れていってやってない」 由未絵「………」 凍弥 「───それにいま気づいたけど……俺、ここ知ってるよ」 由未絵「え……?」 凍弥 「付いてきてくれ。もうすぐだから」 由未絵「……うん……」 ……嘘。 本当は知らない場所だった。 俺も不安でいっぱいだった。 でも、それ以上に少女の涙が痛かった。 だから俺は歩いた。 不安を声に換えたかったけど、歩いた。 凍弥 「………」 だけど道は開かなかった。 泣きたくなるほどの不安が押し寄せていた。 でも泣かなかった。 俺が泣いたら由未絵も泣くし、俺は由未絵の前では強くなきゃいけない。 限界まで笑っていくんだ。 そうすればきっと由未絵は笑ってくれるから。 だから……お願いです神様。 由未絵に光を……微笑みを与えさせてください。 凍弥 「………ッ」 腕に痛みを感じ、見てみると血が出ていた。 木の枝にでもひっかけたんだろうか。 由未絵「あ……」 凍弥 「はは、大丈夫大丈夫」 俺は傷口をなめて、持っていたティッシュを千切って傷口に張り付けた。 凍弥 「剥す時は痛いけど、今は今を考えればいい」 言って歩き出す。 凍弥 「……あ……!!」 何か目に映る物があった。 凍弥 「あった!!目印!!」 俺は目印を発見した。 凍弥 「よし、こっちだ由未絵!」 由未絵「………」 凍弥 「……え……?」 後ろに振り返ると、由未絵が泣いていた。 凍弥 「なんで……?どうして泣くんだよ……」 訊かなくても解ってる。 少なくともこれで家に帰れるし、目的地にも行ける。 俺だって泣きたい程に安心した。 不安がやわらいだ途端、いままでの出来事が恐怖として襲ってくる。 でも俺は泣かなかった。 泣かなかった代わりに、由未絵の頭を撫でた。 由未絵「……うっ……く……」 凍弥 「ほら、安心した時は笑うべきだぞ?」 そうして俺は、由未絵が泣き止むまで頭を撫でてやった。 心の中では泣きたいくらいに安心しながら。 ───……。 ……。 凍弥 「ほら、こっちだ」 由未絵「……うん」 俺は自分の特別な場所に由未絵を招いた。 高い崖。 静かな風の吹く場所。 もしも信じられない程の突風が吹いたら落ちてしまいそうな場所。 凍弥 「どうだ?いい眺めだろう?」 由未絵「……うん」 あ……反応イマイチ……。 そんなことを考えていたら、景色が変わった。 凍弥 「え……?」 光が広がっていた。 空から幾粒もの雪がゆっくりと降り注いでいた。 凍弥 「うわぁ……」 初めて見る光景だった。 綺麗な白い雪。 眺める景色は素晴らしいが、雪の降り注ぐ景色は言葉では現せそうになかった。 凍弥 「綺麗だな、由未絵」 由未絵「………」 凍弥 「由未絵……?」 由未絵「………」 凍弥 「あ……」 由未絵が微笑んでいた。 雪に囲まれながら。 静かに吹く風を受けながら。 雪が舞い降りる街を見下ろしながら。 凍弥 「なん……だよ……」 ふいに、俺の目から涙がこぼれた。 何故だか解らないけど……いや、違う。 嬉しかったんだきっと。 凍弥 「ちゃんと笑えるじゃないか……」 由未絵「え……?……あ……」 凍弥 「やっぱり、笑ってる方が可愛いよ……」 由未絵「………」 凍弥 「……雪、好きなのか?」 由未絵「うん……なんかね、安心するんだぁ……。     変だよね、初めて見た筈なのに……。     ……あれ?ううん、初めてじゃない……。なんか、前にも……」 凍弥 「器用なんだな」 由未絵「あ、え?ど、どうして?」 凍弥 「雪を見ると安心するんだろ?」 由未絵「……うん。なんだか楽しい気分になるの」 凍弥 「そうか……」 確かに由未絵の言葉には今までに無い元気が感じられる。 だからかな、由未絵の笑顔が暖かく感じた。 凍弥 「よし、約束をしよう。ふたりだけの約束!」 由未絵「え……?」 凍弥 「これからず〜っと、雪が降ったら笑っていよう」 由未絵「約束……」 凍弥 「そう、約束だ。     由未絵が笑っていれば俺も笑うし、俺が笑っていれば由未絵もきっと笑ってる」 由未絵「………」 凍弥 「泣きたくなったら俺のところに来い。いつでも胸を貸してやるぞ」 由未絵「………」 静かに首を横に振る由未絵。 凍弥 「遠慮するな」 由未絵「……ううん……」 凍弥 「ん?」 由未絵「わたし……凍弥くんと一緒なら笑ってられると思うから……」 凍弥 「……そうだな」 由未絵「……うん」 凍弥 「出来る限りふざけるから覚悟しておけよ?」 由未絵「……うんっ!」 雪が静かに揺れていた。 街や俺達を包むように降り注ぐ雪。 そんな中で少女が微笑んでいた。 ぎこちないわけでも無く、ただ無邪気に微笑んでいた。 俺はそんな少女の笑顔を守りたいと思った。 約束という名の、ひとつの絆で。 ───……。 ……。 ───……翌日の朝。 俺は布団から出て外着に着替えて家を出た。 凍弥 「由未絵〜!」 待ち合わせをしていた。 昨日、あの場所から帰る途中に約束をした待ち合わせだ。 明日も遊ぼう、と。 玄関から出た先の路地に由未絵が立っていた。 凍弥 「おはよう、由未絵」 由未絵の側まで駆け寄って朝の挨拶。 由未絵「おはよう、凍弥くん」 そしてそれをぎこちない笑顔で返す由未絵。 凍弥 「顔がひきつってるぞ」 由未絵「え?」 まだ笑い慣れていないせいか、変な笑顔だった。 凍弥 「昨日みたいに笑えばいいんだよ」 由未絵「え〜っと……」 必死に何かを考える由未絵。 凍弥 「ほら、雪景色を思い浮かべて」 由未絵「うん」 凍弥 「尚且つ腹筋に力を入れて」 由未絵「え?」 凍弥 「天に轟くように斬新かつ古めかしい雄叫びを」 由未絵「う、うん……」 本当に頷く由未絵。 由未絵「えっと……」 必死に頭の中で俺の言葉を組み立てる由未絵。 由未絵「難しいよ……」 悲しく声をあげる由未絵。 凍弥 「そんなことないぞ」 由未絵「うぅ〜……」 凍弥 「よし、手本を見せてやる」 由未絵「うん」 俺は大きく息を吸い込んだ。 スゥウウ───ッ…… 凍弥 「ヒョォーーーロロロロロロヒーーーヒィーーーッ!!」 笑顔で腹筋に力を入れながら天高らかに雄叫びを上げた。 ───途端! 声  「───やかましい」 ボゴッ! 凍弥 「痛っ!?」 ペンギンのぬいぐるみが飛んできた。 見上げると二階の窓に姉さんが居た。 凍弥 「うわっ……姉さん」 葉香 「……『うわっ』とはなんだ」 凍弥 「えーと……あーっ!!あんな所にアントニオ猪木が!!」 葉香 「何ッ!?ど、何処だッ!?」 凍弥 「逃げるぞ由未絵!!」 俺は由未絵の手を掴み、走った。 由未絵「え?う、うんっ」 葉香 「───あッ!待て貴様ぁああああ!!!!」 姉はずっとあんな感じである。 由未絵「ふ……あはははっ……」 ふと気づくと、走りながら由未絵が笑っていた。 凍弥 「ど、どうしたんだ?いきなり……」 由未絵「だって、こんなに楽しいの初めて……」 凍弥 「そっか……あ、じゃあ何処か行きたい場所、あるか?     ここらへんじゃ姉さんに捕まるかもしれない」 由未絵「えと……公園」 凍弥 「よし、行くか!」 由未絵「うんっ!」 冬の風なんて気にならなかった。 走ることが楽しかった。 こんな日がずっと続くことを願っていた。 夢の中の少女の微笑みは暖かくて……いつまでも一緒に笑っていたいと願っていた。 凍弥 「とうちゃ〜く!!」 由未絵「はっ……はぁ……」 凍弥 「疲れたか?」 由未絵「うん、少し……でも大丈夫だよ」 凍弥 「よし、じゃあ遊ぶか!!」 由未絵「うんっ!」 あの景色、あの雪を見てから…… 由未絵は初めて会った時とは別人のように元気だった。 俺は神様に感謝した。 きっと俺の願いを叶えてくれたんだと。 凍弥 「五体満足に帰れると思うなよ〜!!」 由未絵「うんっ!!」 素直に笑っていられた。 冬の空に汗が飛び散っていた。 昼ごはんを食べるのも忘れて、俺と由未絵は遊んでいた。 由未絵「あははっ、あはははははっ!!!」 凍弥 「ゲハハハハハハ!!!」 由未絵「あははは、変な笑い方〜!!」 俺はもっともっと由未絵の笑顔が見たかった。 だから、どんな時も笑っていた。 でも……確かこの頃からだっただろうか? 父さんと母さんが仕事を増やして家事などをしなくなったのは。 ───……。 ……。 ……ある朝のことだった。 凍弥 「………」 由未絵「おはよう、凍弥くん」 いつものように待ち合わせて、朝の挨拶。 由未絵「凍弥くん……?」 凍弥 「……おはよ」 その日、俺は不機嫌だった。 由未絵「元気ないね……?どうしたの……?」 凍弥 「べつに、どうもしないよ」 理由は本当に些細な事だった。 今日から姉さんと交代で朝食当番をすることになった。 初めは誰が作るかでもめて、作ったら作ったで…… 『不味い』の一言のみ呟いて家を出ていった。 凍弥 「作れって言われたから作ったのに……あんな態度とることないだろ……?」 由未絵「凍弥くん……元気出して……」 凍弥 「ん?なに言ってるんだよ、元気だぞ?」 由未絵「……ううん、無理してる」 そっと、由未絵が俺の頭を撫でた。 凍弥 「ッ……やめろよッ!!」 バシィッ!! 由未絵「あっ……」 俺はその手を払った……払ってしまった。 ただ恥ずかしかったんだ。 男の子が女の子に撫でられるなんて我慢できなかったし、 それに、立場が逆になっていたのが悔しかった。 俺は由未絵を笑わせていようって願ってたのに、そうしてやれない自分が悔しかった。 凍弥 「………!」 でも……そこに残るのは後悔だけ。 馬鹿だよ俺は。 由未絵にあたってどうするんだよ。 由未絵「ご……ッ……ごめんなさ……」 由未絵が泣いていた。 ただ俺を元気づけようとしてくれだけの由未絵が。 凍弥 「なんでだよ……」 俺は後悔した。 凍弥 「なんで……由未絵が謝るんだよ……」 ただ、自分が憎かった。 元気な由未絵を見ていて忘れてしまっていたこと。 それは、由未絵が覚えたのは笑うことだけだということ。 どう元気づければいいかなんて解らないんだ。 だから自分が元気になれた方法。 頭を撫でることしか出来なかったんだ。 凍弥 「悪いのは……俺じゃないか……」 由未絵「………」 凍弥 「……ごめん」 俺は素直に謝った。 こんなことをしても後悔は消えないけど……でも、謝りたかった。 由未絵「……うんっ」 俺が謝ると、由未絵は涙を浮かべながら微笑んだ。 そんな笑顔が俺の胸には痛かった。 【ケース11:閏璃凍弥/モーニングスター】 ───………………。 凍弥 「ん……?」 朝である。 凍弥 「んん〜……!!」 ぐうっと伸びをする。 辺りには枕が散乱している。 凍弥 「……さて、と」 見慣れない景色が広がっていた。 凍弥 「何処なんだろうな、ここは」 俺の部屋ではないことは確かだった。 ……というか、昨日のことがさっぱり思い出せん。 由未絵「ん……」 凍弥 「………」 例のごとく、隣には由未絵が寝ている。 これは夢だろうか……。 凍弥 「………」 試しに頬をつねってみる。 グキキ…… 由未絵「きゃうぅっ!?」 飛び起きる由未絵。 由未絵「うぅ〜、痛いよぅ……何するの凍弥くん……」 凍弥 「いや、夢かどうか頬をつねってみた」 由未絵「はうぅ〜、自分の頬をつねってよぅ……」 もっともな意見だ。 凍弥 「つまり、これは夢ではないな」 由未絵「当たり前だよ……すごく痛いもん……」 凍弥 「悪い悪い」 由未絵「おはよう、凍弥くん」 凍弥 「ん?どうしたんだ?いきなり……」 由未絵「えへへ……昔の夢、見たんだぁ」 凍弥 「朝の待ち合わせか?」 由未絵「あ、覚えてるの?」 凍弥 「いや、俺も夢を見た」 由未絵「ふゎ……奇遇だね?」 いや、奇遇と言うべきなのか? 凍弥 「ま、いいか。それより……由未絵」 由未絵「ふぇ?なに?」 凍弥 「……ここは何処だ?」 由未絵「え?旅行先の宿だよ」 凍弥 「どうにも昨日の記憶が無いんだ」 俺がそう言うと、由未絵が明らかに確信の顔をした。 凍弥 「何か心当たりあるのか?」 由未絵「……ロバートで殴られたんだよ」 凍弥 「………」 周りを見ると、枕の他にロバとマグロが落ちていた。 凍弥 「……思い出した」 あれから最後にロバ式斬馬刀で頭を強打されたんだ。 それからの記憶は無い。 凍弥 「まあいい、着替えて遊びに行くか」 由未絵「うんっ!」 パッと私服に着替えて……ってぇっ!! 凍弥 「ここに個室は無いのか?」 由未絵「わたしに訊かれても知らないよ〜」 凍弥 「俺だって知らん」 由未絵「うぅ〜……」 凍弥 「とりあえず鷹志を起こそう」 由未絵「うんっ」 俺と由未絵は鷹志を囲むように立った。 さて、どう起こしてくれようか…… 鷹志 「う……う〜ん……」 由未絵「あ……」 凍弥 「お?起きたか?」 鷹志 「………」 凍弥 「鷹志?」 鷹志 「ト〜テムポォ〜〜〜〜ゥル……」 凍弥 「やかましい!」 ゴドォンッ!! 鷹志 「ギョギャーーーッ!!?」 ロバートで鷹志を殴ってみた。 鷹志 「痛いだろうがっ!なにしやがる!!」 凍弥 「サランラップ!!(訳:黙れ!!)」 由未絵「ねえ鷹志くん、ここって着替える場所無いの?」 鷹志 「へ?あ、ああ、それなら隣の部屋とか使ってくれ。どうせ客はお前等だけだしさ」 凍弥 「ふむ、それもそうか」 由未絵「うん、解ったよ」 来流美「スー……」 スパァン!! 来流美「イタァッ!?」 凍弥 「オラ起きろ!」 来流美「どっから出したのよそのスリッパ!!」 凍弥 「ドナルドマジックだ」 由未絵「わわっ、すごいすごいぃ!」 来流美「信じないの!」 鷹志 「ドナルドってスリッパ芸人だったのか……」 凍弥 「俺も驚いたよ」 来流美「もっともらしく頷くなぁっ!」 凍弥 「だってあんなに顔が白いんだぞ?」 来流美「顔の白さは関係無いでしょ!」 鷹志 「いや、あれは見事なホワイトフェイスだ」 凍弥 「うむ、しかもアフロ」 由未絵「うん、アフロ」 来流美「あのねぇ……!」 凍弥 「そういえばな、昔、ドナルドに憧れた……」 スパァン!! 凍弥 「ぐはっ!?」 来流美「それ以上言うと殴るわよ……!」 凍弥 「もう殴ってるだろうが!ていうか俺のスリッパ返せ!」 来流美「力とはこういうものよ!」 凍弥 「やかましい!」 由未絵「あ、それならわたしも知って……」 コパァアン! 由未絵「わきゃぅッ!!」 来流美「……おだまり」 由未絵「うぅ〜……」 鷹志 「なんだ?なんなんだ?」 凍弥 「実は来流美が……」 来流美「チェストォッ!!」 スパァン!コパァン!!ギャパァァアアン!!! 凍弥 「ぱっぴぷっぺぽォッ!!」 鷹志 「ナイス『ぱ行』!!」 凍弥 「やかましい!!」 由未絵「来流美ちゃんがドナルドに憧れ」 ドカン!! 由未絵  「わきゃぁあああああぅうう!!!!」 ロバートが一閃された。 ありゃ痛い。 来流美  「な〜んバラしちょっとか!こげんボケッ子は!!       だまっちょれゆ〜ちょろーが!おお!?」 凍弥   「どこの国の人だお前は!」 来流美  「おう!江戸っ子よぉ!」 凍弥   「国に帰れ!」 来流美  「ここが祖国よ!」 由未絵  「うぅ〜、ロバが痛い……」 鷹志   「堅いしな。マグロマクラでは到底勝てないぞ」 凍弥   「重いから盾にしても反動で飛ばされるし」 鷹志   「投げると核ロケットだし」 凍弥   「脳が飛び出てるし」 由未絵  「えぇっ!?」 凍弥   「冗談だ。そういえば由未絵はなにか持ってきたのか?ぬいぐるみ」 由未絵  「う?」 凍弥   「う?じゃない」 由未絵  「あ、うん。わたしは」 鷹志   「阿ーーーッ!!」 凍弥   「云ーーーッ!!」 来流美  「おだまり!!」 凍弥&鷹志『Sir(サー)Yes・Sir(イエッサー)!!』 由未絵  「………」 ポカーンと口を開けたまま立ち尽くす由未絵。 凍弥 「気にするな」 鷹志 「うむ気にするな」 来流美「気にしなくていいわよ」 由未絵「う、うん……」 訳が解らない様子だった。 まあ当然だが。 何かを思い立った由未絵が自分のバックを漁る。 由未絵「ほら、ペンギュラム!」 そしてパッとバックから出されたのは言葉通り(?)ペンギンだった。 凍弥 「……あ……」 しかも見覚えがある。 凍弥 「確かこれ、あの時のぬいぐるみだよな?」 由未絵「うんっ!」 鷹志 「あの時?」 来流美「実はね、これは凍弥が由未絵にあげた物なのよ」 鷹志 「ほほう?」 凍弥 「……なんだその目は」 由未絵「わゎっ、来流美ちゃん……」 来流美「それからというもの、由未絵がぬいぐるみを集め始めてね〜」 由未絵「わー!わーっ!!」 凍弥 「……?そうなのか?」 由未絵「うぅ〜……」 来流美「さっきのお返しよ」 鷹志 「でさ、結局どんな経緯で支左見谷の手に?」 困惑顔で聞いてくる鷹志。 凍弥 「うむ、実はこのぬいぐるみはな……」 鷹志 「おお」 凍弥 「姉さんが俺に投げつけた物なんだ」 鷹志 「ほうほう……それで?」 凍弥 「それだけ」 鷹志 「………」 凍弥 「つまり、昔の話ぞ」 鷹志 「そ、そうか……」 由未絵「これは宝物だよ」 来流美「随分と小さな宝物ね?」 由未絵「宝物は宝物だよ」 凍弥 「そうだぞ来流美、大きさなんて関係無い」 来流美「べつに悪く言ってる訳じゃないわよ」 鷹志 「愛だ……」 凍弥 「やかましい!」 鷹志 「失礼いたした」 凍弥 「うむ」 来流美「何をやってるのよ何を!!」 由未絵「相変わらず仲がいいね」 凍弥 「う〜ん、性格的に合うんだよな」 鷹志 「俺はお前ほど変じゃないぞ」 凍弥 「あのな……」 べつに変な性格の差で勝負はしてないだろう。 凍弥 「まあいいや、さっさと着替えて外に繰り出そう」 由未絵「うん、解ったよ」 来流美「今日は暖かい方ね」 鷹志 「暖房使ってるだけだって」 来流美「あ、やっぱり……」 凍弥 「いいからさっさと着替えろ馬鹿」 来流美「馬鹿は余計よ」 由未絵「うん」 鷹志 「朝飯は外で食うのか?」 凍弥 「え?何か出るのか?」 鷹志 「あのなぁ……ここを何処だと思っている」 来流美「枕投げ愛好会館」 由未絵「宿」 凍弥 「絶好の遊び場」 鷹志 「帰れ!!」 凍弥 「冗談だ」 由未絵「うん、冗談だよ」 来流美「当然、冗談よ」 鷹志 「はぁ〜〜〜〜ぁ……お前等と話すと疲れるよ」 凍弥 「それは良かった」 鷹志 「良くない!!」 凍弥 「ま、ま、ま、気にするなって」 鷹志 「ふぅ……解った、用意するよ」 凍弥 「ああ、頼む」 部屋を出ていく鷹志。 由未絵「どんな料理が出るのかな?」 来流美「見当もつかないわよ」 凍弥 「宿の料理は期待したら終わりだ」 由未絵「そうなの?」 凍弥 「修学旅行を思い出せ」 由未絵「あ……」 来流美「それと一緒にすると橘くんが可愛そうよ」 凍弥 「そうか?」 由未絵「ごはんが冷めてたんだよね?」 凍弥 「ああ」 来流美「いいから待ちましょうよ」 由未絵「そだね」 凍弥 「……そうだな」 ───……。 ───……。 ……。 さて。 鷹志とその他の宿の人が料理を持ってきたのは、約25分後だった。 凍弥 「うお……」 由未絵「ふゎ……」 来流美「こ、これは……」 目の前に置かれた料理。 その一部。 ギョロォッ!! 凍弥 「どわぁああああっ!!」 由未絵「きゃぅうううう!!目!目が合ったよぉおっ!!」 凍弥 「怖いぞコレ!!」 来流美「これはもっと大人向けでしょ……」 マグロだった。 マグロの生け作りなんて聞いたことないぞ……? 鷹志 「目玉には頭脳を活性かさせる働きがあるんだ」 凍弥 「んなことは訊いてないッ!!!」 来流美「凍弥、目玉食べなさい」 凍弥 「どういう意味だ」 鷹志 「これもまた依頼人からの頼み事だ」 凍弥 「母さぁああああああん!!!!」 叫ばずにはいられなかった。 来流美「落ち着きなさいよ凍弥」 凍弥 「これが落ち着いておられようかぁああああ!!」 由未絵「わたし、お刺身食べられない……」 凍弥 「じゃあこれなんかどうだ?山菜の小鍋煮だ」 そう言いながら鍋を由未絵の近くへ。 由未絵「あ、これ見ると修学旅行思い出すね」 凍弥 「ん、言われてみればそうだな」 鷹志 「修学旅行のそれと一緒にするなよ」 凍弥 「悪気は無いんだ、気にしないでくれ」 鷹志 「……ああ、一応解ってるつもりだ」 凍弥 「よし来流美!料理を食べて口から光を吐いてくれ!」 来流美「無茶言わないでよ!」 凍弥 「なにぃ、やれ」 来流美「やらないわよっ!」 鷹志 「どうしてお前らって静かにメシが食えないかね」 凍弥 「メシ食いに訪れた場所じゃないからだろ」 鷹志 「あー……ま、そりゃそうか。カタッ苦しいことは抜きだな」 凍弥 「そういうことだ」 鷹志 「……けどお前にそこまで偉そうにされる筋合いはないと思う」 凍弥 「ぬう……」 ───……。 ……。 ……さて、そんなこんなで苦労しながらも食べ終えた時、既にすごい時間だった。 凍弥 「……時計、合ってるか?」 鷹志 「旅館の時計にケチつけるなよ……」 由未絵「すごい時間だよ〜……」 来流美「……観光どころじゃないわね……」 凍弥 「何しに来たんだ俺達は……」 由未絵「うぅ〜……解らないよぉ……」 来流美「温泉入って枕投げして寝て起きて食事して……     ……ホント、文字通り遊びに来ただけよね」 凍弥 「まあいいや、帰るかぁ……」 由未絵「うん……」 来流美「一応、楽しくはあったしね」 鷹志 「帰るのか?」 凍弥 「ああ、休む時間くらい欲しいから」 鷹志 「そうか。じゃあまた明日、学校でな」 凍弥 「ああ、じゃあな」 由未絵「ばいばい、鷹志くん」 来流美「おやすみ」 こうして俺達の無駄に近い連休は一瞬の様に流れていった。 ていうか姉さんは? 気になって訊いてみたところ、まだしばらくここに滞在するそうな。 明日あたりに父さんと母さんが乗り込んでくるとかで、 元よりそのための貸し切りだったとかなんとか……。 はぁ……なんか疲れた……。 Next Menu back