───柿崎危機一髪。ゆけゆけぼくらのフロストモービル───
【ケース13:閏璃凍弥/パーシモン=柿】 …………。 柿崎 「…………泣いていいか?」 最初の質問はそれだった。 抵抗出来ない俺達を容赦なくボコった彼は当然の如く洗面所に駆け込んだ。 その2分後に鬼の形相で地鳴りを起こしつつ戻ってきた。 その顔はやっぱり黒いままだった。 だって油性ペンだもの。 そこらの水道水(カルキ入り)で落ちるようなヤワな素材使っとらんわ。 凍弥 「いや、格好いいぞ柿崎。この際半永久的にそのままでいろ」 柿崎 「殴るぞ。今の俺は殴ると言ったら殴れるぞ」 凍弥 「よし落ち着け、俺が悪かった」 鷹志 「折れるの早いのな」 凍弥 「馬鹿者、今のヤツは……目が本気だぞ。     このままいつもの調子でふざけたら刺されかねん」 柿崎 「人聞きの悪いこと言うなよ。こんなになっても俺は冷静だぞ」 凍弥 「『こんな』ってランクであることは自覚してるのか」 柿崎 「当たり前だ!」 凍弥 「怒るな」 柿崎 「無茶言うな!」 凍弥 「怒鳴るな」 柿崎 「もっと無茶言うな!」 凍弥 「あー、でさ。鷹志」 鷹志 「ん?どした?」 凍弥 「男3人集まって何するつもりだったんだ?」 それが結局行き当たる場所なんだが。 鷹志は俺の質問に対して頭を掻き、こう言った。 鷹志 「……人が集まれば少しは退屈しのぎが出来ると思ったんだけどな。     俺としては約束という名目で実家から逃げ出せればどうでもよかったんだが」 柿崎 「なっ……お前俺達を、特に俺をダシに使ったのか!?」 凍弥 「その顔で問われても笑われるだけだぞパーシモン」 柿崎 「パーシモン言うな!ええい鷹志!見損なったぞ!お前がそんなヤツだったとは!」 鷹志 「……葉香さん」 柿崎 「───!」 何かの勢いのように激昂していた柿崎が、姉さんの名前を出された途端真っ青になった。 そこまで苦手か、柿崎よ。 鷹志 「……今、実家の宿に葉香さんが来てる。しかもその両親もだ。     お前、そんな状況下で仕事なんてやってられるか?」 柿崎 「……想像したくもない。俺が悪かった」 ふたりして、だはぁ〜ぁと重苦しい溜め息を吐いた。 凍弥 「あのさ、そんなに脅威か?」 鷹志 「お、おおお前っ、一緒に暮らしててあの人の脅威が解らんのか!?」 柿崎 「お前変!絶対変!一度病院行って精密検査してもらってこい!」 凍弥 「いや、そりゃあボコられて男として夜泣きしたこともあったが」 鷹志 「……十分じゃんそれ……」 柿崎 「活路を知ってるのかと思えば……」 凍弥 「姉さんに弱点なんてあるわけないだろ。     俺だってそんなの散々探したさ。     だがなぁ、そんなものがあったら俺も苦汁飲んだままで枕濡らしてないよ」 鷹志 「うー……」 柿崎 「な、なぁ、なにかひとつでもないのか?なんでもいいから」 凍弥 「なんでも?んー……」 なんでも、ねぇ。 あの最強の姉に弱点……いや、そこまで欲張りじゃなくてもいい。 せめて苦手なものや思わず目の移るものとか─── 凍弥 「……あった」 鷹志 「なにぃ!?」 柿崎 「な、なんだ!?」 凍弥 「……姉さんの苦手なものは母さんだ」 柿崎 「か、母さん?」 鷹志 「……………」 俺の言葉を聞いた鷹志の顔が真っ青をになる。 あれは『こりゃ無理だ』って顔だ。 柿崎 「なぁんだ、それならそのオフクロさんに注意してもらえばいいんじゃないか」 凍弥 「……その前に死ななきゃいいけどな」 柿崎 「へ?」 鷹志 「お前はあの人の怖さを知らないからそんなこと言えるんだ……」 柿崎 「な、なんだよ鷹志まで」 凍弥 「母さんはな、自分の考えを曲げられるのが一番嫌いなんだ」 柿崎 「それって?」 鷹志 「つまりこういうことだ。     実際、そのオフクロさんが居るのに葉香さんの性格はあのままだ。     それはオフクロさんがこれでいいと思ってるからだ。     その葉香さんの性格を改めるよう頼んでみろ。     自分の考えを曲げさせるようなものだ。殺される」 柿崎 「殺されるって、そんな大袈裟な」 鷹志 「ば、馬鹿野郎!大袈裟なんかじゃねぇんだよ!お前この服見てみろ!     ちょっと質問をヒートさせて助言みたいに言ったら薙刀でザクッ!だぞ!?     お前そんな些細なことで薙刀振り回す人に、     自分の娘の性格のことで抗議出来るのか!?」 柿崎 「あ、わ、わかった……解ったから泣くなよ……」 鷹志 「バイト代はたいて買ったお気に入りだったのに……」 服を抱きながら泣き出す鷹志は心苦しいが無視した。 柿崎 「しっかし薙刀ねぇ……お前のオフクロさんってどんな人だよ……」 凍弥 「俺の母親だ」 柿崎 「あー……納得」 オイ。 柿崎 「ま、アレだな。オフクロ作戦は却下だな。他になにかないのか?」 凍弥 「ああ。あとひとつある」 柿崎 「どんなだ?」 凍弥 「姉さんはショタコンだ」 柿崎 「ショタ!?そ、それって少年好きってやつだよな!?」 凍弥 「俺が見たところ、5歳以上10歳未満がストライクゾーンだ」 柿崎 「約小学生ランクか……」 凍弥 「そゆこと。だからって弱点とは思えないが」 柿崎 「知り合いに子供の居るところなんてないからな」 鷹志 「それ以前にあの葉香さんが子供を前にしたからって隙が出来ると思うか?」 柿崎 「絶対無理」 鷹志 「だよな……」 だはぁ。 今度は俺も溜め息を吐いた。 どうしてこうも最強な女性が、よりにもよって俺の姉なんだ。 柿崎 「んー……それならさ、なにか身近なものから攻めてみるのはどうだ?     大切にしてるものとかさ」 鷹志 「大切?家族とか?」 凍弥 「え?」 ふたりの視線が俺に留まる。 凍弥 「お、おい……悪い冗談は」 鷹志 「男の尊厳のためにッ!」 柿崎 「尊厳のためにッ!」 凍弥 「宣誓してんじゃねぇーーーっ!ばっ……おいやめ───キャーーーッ!!?」 ───…… ……。 ───…… 柿崎 「───……考えてみれば凍弥ごときを大切にするわけないよな、あの人が」 俺を縄でぐるぐる巻きにしたあたりで柿崎が悟ったように言う。 鷹志 「そういえばそうだよな。じゃなかったら気絶するまで枕を投げたりしないな」 凍弥 「……そう思ったんなら(ほど)いてくれ」 柿崎 「たまにはいい薬だ」 鷹志 「だな」 凍弥 「俺、そんなにヒドイ奴か?」 柿崎 「ヒドくない奴は人の顔に悪戯書きなんぞしない」 凍弥 「それなら鷹志だって」 柿崎 「黙れ、吊り橋の気持ちでも味わってろ」 凍弥 「どんな気持ちだよ。気になるけどなんか嫌だぞ」 柿崎 「だーまーれ。いいからホラ、次の案を考えろ」 凍弥 「……あのさ、気になったんだがいつから姉さん打倒の集いになったんだ?」 柿崎 「男として生を受けた時からだ!」 鷹志 「我ら男の尊厳の名の下に!」 柿崎 「我ら男の尊厳の名の下に!」 ……こいつらこんな性格だったっけ……? 鷹志 「ってわけでさぁ!弱点を!」 凍弥 「すまん、ネタ切れ」 柿崎 「屁理屈以外は全然浮かばないのな、お前の脳って……」 凍弥 「言うな。言い返せないのが異様に悲しい」 鷹志 「まあ最初っから無茶な話だったしな。ビデオでも見ようや」 柿崎 「そだな。えーと……って、ビデオ点けっぱなしだったか。     凍弥〜、ここにあるやつで全部か〜?」 柿崎がビデオテープを荒らしながら言う。 凍弥 「そんなもんだぞ。ていうかコレ解け」 柿崎 「つまらんな。えちぃビデオでも探索して弱みを握ろうとしたのに」 凍弥 「あーあー、俺は幸せだよ。こんな友人を持って」 柿崎 「その皮肉、友情として受け取っておくぜ」 鷹志 「嫌な友情だな」 ええ、まったくで。 柿崎 「なぁ鷹志よ」 鷹志 「なんだよ」 柿崎 「今、葉香さんは居ない。加えてご両親も居ない」 鷹志 「ああ。それが?」 柿崎 「……弱みを握るなら、自分らもそれなりに動かなければいかんとは思わないか?」 鷹志 「おまっ……まさか!?」 柿崎 「ふふふっ……本人さえ居なければ家具を荒らしたところで襲われるのは凍弥……。     これほど最高な(にえ)……もとい、スケープゴートはないだろう」 凍弥 「言い直す意味が感じられないんだが」 鷹志 「柿崎……お前の男気、確かに感じたぜ!     友よ、行こう!俺達の未来は俺達が造るんだ!」 柿崎 「我らの未来に夢と希望と栄えあれーっ!!」 とりあえず男気のあるヤツは人を生贄には使わない。 鷹志と柿崎がヒャッホーィ!と叫びながら部屋を出ていった。 が、しばらくすると妙な炸裂音とともに柿崎の絶叫が轟いた。 声  「柿崎!?柿崎ーッ!そんな……!まさかこんな恐ろしい仕掛けがあるなんて!     ていうか馬鹿!お前馬鹿!     キッチョムテープがエンドレスになってるからって無防備に突っ込むなよ!」 どうやら姉さんは侵入するのが柿崎だということを狙って、 テレフォン民話・キッチョム話をエンドレスで流していたらしい。 それに目が……あ、いやもとい。 耳が眩んだ柿崎は見事にトラップにかかったらしい。 父さんの趣味で、トラップのようなアイテムは一通りあったりするのが恐ろしい。 俺も時折、クロゼットにボクシンググローブが飛び出す仕掛けをつけている。 鷹志 「と、凍弥ぁっ!」 しばらくすると鷹志が血相変えながら走ってきた。 凍弥 「訊くまでもないと思うけどさ、柿崎のヤツどうしたんだ?」 鷹志 「飛び出してきたコークスクリューグローブに大地に沈められました」 凍弥 「………なるほど」 鷹志 「解説の凍弥サン?あれはいったい?」 凍弥 「ええ、アレは父さんの趣味でしてね。     (せつ)の父は童心を忘れぬ心暖かき面白い父でして、     そんな父の子供の頃の夢が冒険家だったわけです。     トラップを掻い潜りお宝を手に入れる喜びを味わいたくて、     あんなものを集め始めたのですが……     とどのつまりは自分で仕掛けちゃひっかかるわけがなかったんですよ。     ていうかコレ解け」 鷹志 「ははぁ、痛烈ですねぇ」 凍弥 「そこで急に寂しくなった父さんは姉さんにそれを譲ったわけです。     ええ、私も時々使っています。ていうかコレ解け」 鷹志 「そうですか。わたしが掛からなくてなによりです」 言いながら、鷹志が縄を解く。 凍弥 「ええまったく」 柿崎 「ちったぁ心配しろよ!」 鷹志 「なにぃ、柿崎がゾンビのごとく」 凍弥 「さすが『リビングデッドミノリアン』の異名を持つ男……」 柿崎 「勝手に変な異名作るな!」 凍弥 「しかしだな柿崎よ。もうちょっと慎重に入ったほうがいいと思うぞ」 柿崎 「へへっ。一度くらったトラップには引っかからねぇよ。     行くぞ鷹志!今度こそあそこを攻略するんだ!」 鷹志 「おー」 鷹志が気のない返事で返す。 どうやらトラップのことでなにかを悟ったらしい。 疾走してゆくふたりを見送りながら俺は溜め息をついた。 凍弥 「……姉さんの部屋をそう簡単に攻略出来れば苦労しないって」 ドガァアン! 声  「ギャーッ!」 ……ほれ見ろ。 鷹志 「おお柿崎よ!死んでしまうとはなにごとじゃ!」 柿崎 「ドラクエかよ!ていうか生きてるっての!」 凍弥 「今度の敗因は?」 柿崎 「そ、それがさ。一度発動させた筈のトラップが再発動しやがったんだ。     さすが葉香さんだ。あなどれねぇ」 鷹志 「ああ、あのボクシンググローブならお前がオチてる間に俺が仕掛け直した」 柿崎 「余計なことすんなぁぁあっ!」 鷹志 「俺はお前の成長が見たくてだな」 柿崎 「凍弥みたいな屁理屈こねるなよ!」 凍弥 「ええいいちいちツッコミのやかましいヤツだ」 柿崎 「俺がツッコまなきゃ誰がツッコむ!」 鷹志 「……なにやら妙な使命感を心に抱いて、今日もゆくゆく男道だな」 柿崎 「意味が解らんが」 凍弥 「……っと、なんだかんだいってもう昼近くか。     どうする?なにか食うか?」 鷹志 「一号、料理出来ません」 柿崎 「二号、料理出来ません」 凍弥 「いかんぞパーシモン、そんなことでは独身生活で泣きを見る」 柿崎 「解らないだろそんなこと!独身って決めつけるなよ!」 鷹志 「……いや悪い。俺にも想像できん」 柿崎 「お、おまえらなぁ……」 鷹志 「その点、凍弥はいいよな。もう決まってるようなものだし」 凍弥 「俺が?なんで」 なにを言い出すのだこの男は。 柿崎 「……鈍感なのか馬鹿なのか」 鷹志 「悩むな柿崎。きっと全部だ」 凍弥 「おのれら……」 鷹志 「なに言われてるのか解らないんじゃあ気づけるわけないって。     柿崎よ、凍弥が気づく前に誰かを見つければ大丈夫だと思うぞ」 柿崎 「なんか俺のランクって随分下に見られてる気がするんだが」 鷹志 「お前が女子と話してるところって見たことないし」 凍弥 「そだな。お前っていつも男子と話してるし。     一部で『男色ディーノ』って言われてるのを知らないだろ」 柿崎 「だから異名をつけるな!」 鷹志 「ど、道理で……お前ってばホモだったのか」 柿崎 「違うって!」 凍弥 「まあ冗談は置いといて」 柿崎 「………」 凍弥 「店屋物でも頼むか?ワリカンで」 鷹志 「アルファワン、金銭は乏しいです」 柿崎 「アルファツー、納得出来てません」 凍弥 「アルファスリー、訊いた俺が馬鹿でした」 鷹志 「そうだお前は馬鹿だ!この馬鹿!」 柿崎 「馬鹿め!馬鹿め!」 凍弥 「やかましいわ!」 鷹志 「………」 柿崎 「………」 だはぁ。 やはり出る溜め息。 さてどうしたものか。 冷蔵庫はカラに等しい。 多分、水と氷くらいしか無いと思う。 どうしたものか。 凍弥 「どうする?今日は仕事場のおじさんが用事があるから仕事が休みだけど。     これはこれで退屈だし食い扶持(ぶち)がない」 鷹志 「ふむ。どうするって……」 柿崎 「金は全く無いわけじゃないんだから別にいいんじゃないか?」 凍弥 「俺にここで燃え尽きろと?」 柿崎 「コンビニにでも行こうって言ってるんだよ。パンでも買おうや」 凍弥 「バカモノ、袋ラーメンの方が腹は膨れるぞ。スープも飲めばなかなかだ」 柿崎 「不健康だぞ」 凍弥 「健康の云々唱えて、この乱世を乗り切れるか」 鷹志 「乱世って……」 凍弥 「この世界は未だ乱世よ。我らは駒として戦うが、日々生き残ることのみを望む。     なにせ、我らは君主にいいように使われるだけの人形ではないのだからな」 鷹志 「……お前見てると人形にしか見えないんだが」 凍弥 「それを言うなよ……俺だって抵抗してるんだぞ」 柿崎 「結局力で捻じ伏せられてるんだろ?」 凍弥 「おのれらに解るか!最強の姉と母を持った俺の気持ちがっ!」 鷹志 「熱くなるなよ、お前らしくもない」 凍弥 「……俺らしさってなんだろな」 柿崎 「冷静に屁理屈投げつけてくるところ」 凍弥 「即答だな」 鷹志 「そんなことはどうでもいいだろ。考えてみたら腹が減ってきた」 柿崎 「そうだなぁ。じゃ、カップラーメンでも買うか」 凍弥 「しかないか。よし行きまショ」 鷹志 「んー……まあ金は無いわけじゃないしな。行くか」 立ち上がり伸びをして階下へ降りた。 そのまま玄関まで歩いてさっさと外へゆく。 凍弥 「ぬおお、冬の陽光のなんと暖かなことよ」 鷹志 「ぬおおってなんだよぬおおって」 柿崎 「ここの近くって言ったらヘブントゥエルブだな。歩きか?」 凍弥 「フッ……案ずるな。     こんなこともあろうかと修繕していた愉快な仲間!     速くてステキで光って唸る!その名も!フロストモービル『Ω』!!」 鷹志 「オメガ!?」 凍弥 「しかもオプション機能を駆使したためにラムダよりも楽に三人乗りが可能!     見よ、この見事な造型!滑らかなボディー!     そしてやっぱり固定されてる天気の日には無意味な傘!」 鷹志 「……たしかに最初から開いてる分、邪魔でしかないな」 凍弥 「フフフ、だがこの傘は向きを変えられるのだ。     上手く風に乗れば70キロは出るぞ」 鷹志 「死ぬわっ!」 凍弥 「サイドオプションとしてメーターもあるし。     これで何キロ出てるか一目瞭然ぞ。さあ、漕げや柿崎、荷馬車の如く」 柿崎 「俺が漕ぐんかい!」 凍弥 「ダイジョブだって。愉快な仲間、フロストモービルを信じろ。     今回のフロストモービルは防御力重視だからな、そう簡単には大破せんぞ」 柿崎 「大破したのかよ……」 凍弥 「うむ、二回ほど」 柿崎 「………」 鷹志 「よし乗ろう。そして漕げや柿崎、荷馬車の如く」 柿崎 「くっ……」 かしゃん。 柿崎が苦悩の末にフロストモービルに跨った。 俺と鷹志はそれに同乗し、言葉を唱える。 凍弥 「風向き良好!状態・オールグリーン!」 鷹志 「ブレーキロック解除!風強度・ランクA!」 凍弥 「傘の向き、セット完了!」 鷹志 「射出準備整いました!カウントを始めます!」 凍弥 「1000!!」 柿崎 「1000秒からか!?」 鷹志 「5!」 柿崎 「994秒無視かよ!」 凍弥 「2!」 柿崎 「3秒くらいカウントしてやれよ!」 鷹志 「0!あ、1秒抜かしちゃったぁ」 柿崎 「997秒も抜かしたのに1秒に驚くのか!?!」 凍弥 「イグニッション!」 ───……。 柿崎 「…………風、止んだな」 凍弥 「そうだな」 鷹志 「普通に漕ごうか」 柿崎 「そだな……」 チャリッ……。 柿崎がフロストモービルを漕ぎ出す。 柿崎 「うおぅ……重いなやっぱ……」 鷹志 「ようし凍弥、カタパルト大作戦だ!」 凍弥 「足で地面押して助走つけるだけでしょうが」 とか言いつつやる。 柿崎 「お、おお……よし、これなら」 ビュゴォオオオオオッ!! 柿崎 「あ」 鷹志 「うおっ」 凍弥 「おお」 助走に乗ったところで急な突風。 傘がしなり、その風を受け止めて 柿崎 「ぎゃあああああああああああ!!!!」 ものすごいスピードを醸し出した。 柿崎 「死ぬ!死ぬスピードですよこれは!ぶ、ブレーキ!ブレーキを!」 ギギッ!ギギィイイイイイイイイイッ!!ブチィン!! 柿崎 「あ」 鷹志 「おわっ!?」 凍弥 「おわぁーーーっ!!」 柿崎がその底に眠る力を目覚めさせて握り締めたブレーキがあっさりと千切れる。 凍弥 「どういう握力してんだ馬鹿!」 柿崎 「うはっ……うわははははは!」 鷹志 「ああっ!柿崎がコワレた!───ってうわぁ!ホントに70キロいってるし!」 鷹志が備え付けのメーターを見て驚愕した。 まさかホントにカタパルトになるハメになるとは……。 鷹志 「か、柿崎!壁!壁がある!よけろ!」 柿崎 「うわはははは!ははははは!!」 鷹志 「うわ!視点が合ってない!と、凍弥!」 凍弥 「運転を鷹志に移行!体ごと曲げるように左側から右折!」 鷹志 「ラジャーッ!おぉりゃあーーーっ!!!」 ザシャシャシャシャア!! プップーーー!! 鷹志 「あ、あわぁああああっ!!?」 曲がった先に突然のトラック。 鷹志 「い、いやぁああっ!!」 凍弥 「左!左!曲がれ曲がれ曲が……いやああああああっ!!」 ザシャアアアア!! ゴォオゥウウン!! 鷹志 「はっ……はぁっ、はぁっ!……た、助かった……」 凍弥 「か、髪掠った……」 安心するのも束の間、結局フロストモービルは止まらない。 鷹志 「ととと凍弥!か、傘だ!傘なんとかしろ!」 凍弥 「そ、そうか!えーとこれをこうして───はあ!」 ガチンッ! 鷹志 「………」 凍弥 「………」 鷹志 「なぁ、今……なんか思いっきりロックしちゃったような音が聞こえたんだが」 凍弥 「……奇遇だな、俺もそう聞こえた……しかも傘動かないし」 鷹志 「戻そうって気は無いのか……?」 凍弥 「この傘、ロック機能なんてないんだよね……。     つまりさ、風の所為で中の方がねじれたってことになるんですわ……」 鷹志 「………」 凍弥 「………」 鷹志 「なんか今、トリップした柿崎が羨ましく思えてきた」 凍弥 「よし、柿崎を落として着地出来るかどうかを調べよう」 鷹志 「死ぬわ!」 凍弥 「死にはしないだろ。重傷かもしれんが」 鷹志 「ていうかなんなんだよこの風!人の行く道にばっかり方向転換しやがって!」 凍弥 「フッ……ボカァこの風に意思を感じるヨ……。     これは風がボクラをトリップさせたいがために御伽(おとぎ)の世界へ」 鷹志 「壊れてる場合か!ああもうなんでこんなことにっ!     っておおい!ヘヴントゥエルブ無視してかっとばしてますぞー!?」 見れば、ヘブントゥエルブがごしゃー!と遠ざかってゆく。 鷹志 「は、速ぇえって!───あぁああああああっ!!100キロ超えてるぅううう!     たっけてー!ママーン!     高速道路じゃないのにこんな速度やってたら捕まってしまうー!     って、それ以前の問題じゃあああっ!!」 ああっ!鷹志がコワレてひとりノリツッコミを披露してる! 凍弥 「戻ってこい鷹志ー!お前そんなヤツじゃなかっただろー!?」 鷹志 「ああ、まだ見ぬ成長した真由美よ……俺はもうダメかもしれん……。     だがもし生まれ変わったら……     その時は、生まれた日は違えど死ぬ時は同じ日同じ場所で」 凍弥 「桃園の誓い語ってる暇があったら止まること考えろよ!」 こ、こうなったら危険すぎるが足でブレーキを───! ゆっくりゆっくり……ボチュンッ!! 凍弥 「が、あ───ってぇえええええええっ!!指!指が千切れ……!」 ……い、いや、千切れてない……。 さ、さすが100キロ……靴が無かったら指、飛ぶか折れてたな……。 凍弥 「とかなんとか言ってる間にどこですかここー!」 いつの間にか見知らぬ道路を走っていた俺は叫んだ。 ああ、このままどこまで行くのでしょうかボクラは……。 そして現実逃避した彼らは戻ってくるのでしょうか……。 凍弥 「……ん?……ギャア!車輪から煙!煙出てる!」 バキャアアン!! 凍弥 「おおわっ!?チェーンが切れた!」 ガシャガシャガシャ!! 凍弥 「車体がガタついてる!し、死ぬ!死んでしまう!」 ああ、これで終わり? 拙の人生、フロストモービルに切られるの……? なんて考えた時、逆風が傘を襲った。 凍弥 「お?お、お……?」 風はゆっくりとフロストモービルを失速さてゆく。 俺は頃合いを見て鷹志達を抱えてフロストモービルから飛び降りゴシャーァアア!! 凍弥 「うおっ!?」 飛び降りた途端、 再び突風が吹いて無人のフロストモービルがすっ飛んでいってゴガシャアアアアン!! ……例のごとく大破。 凍弥 「さよならフロストモービル……キミの勇姿は忘れないよ……」 いやむしろ降りるタイミング間違えてたら肉片になってたな……。 勇姿なのかどうなのか。 凍弥 「ホラ起きろよお前ら。俺にだけ恐怖体験を任せて堕ちやがって」 鷹志 「は……はっ!?あ、あれ?ここはどこ?真由美?真由美……真由美ー!」 スパァンッ! 鷹志 「おほうっ!」 凍弥 「目、醒めたか?」 鷹志 「え?あれ?凍弥?100キロは?」 凍弥 「降りたよ。俺に感謝しろよお前ら」 鷹志 「お前のお陰とは限らんだろ」 凍弥 「……こういう時でもちゃっかりしてるのな、お前って」 鷹志 「ああ、それより柿崎は?」 凍弥 「えっと……フロストモービルから飛び降りる時に、     誤ってツームストンパイルドライバーを極めてしまってな。     例の如く鼻血を出したまま動かなくなった」 鷹志 「おいおい……ていうかまだ顔黒かったのか」 凍弥 「油性だしな。この状態でヘブントゥエルブに行こうとした根性はかうが」 鷹志 「だな。ところで友よ」 凍弥 「うん?」 鷹志 「ここはどこだ?」 凍弥 「俺も今訊こうとしていたところだ」 鷹志 「………」 凍弥 「………」 鷹志 「よし、まずは人を探そう」 凍弥 「意義無し」 鷹志 「しかしここは見知らぬ土地。道に迷うと困るから目印が欲しいな」 凍弥 「パーシモンが居る分には平気だろ。ほーら、こうして引きずると血の跡が」 鷹志 「死ぬっつーの」 凍弥 「それが命の恩人に対する戯言か!!!」 鷹志 「恩人になっちまうような状況を用意したのは誰だ!!」 ……結局。 俺と鷹志は柿崎を引きずって行動を開始した。 適当な家に寄って道を訊くに至り、 柿崎が段差に顔面を強打して鼻血を撒き散らしながら覚醒。 不死鳥というよりはどっかの変態のような復活を遂げた。 ───さて。 それから俺達は散々に路頭を彷徨(さまよ)うこととなる。 道を聞いた人の中に出任せを言った人が居たのか、 余計に知らない場所を歩き続けた我らが家に辿り着いたのは深夜…… いや、朝に近い時間だったとさ……。 Next Menu back