───ゴールデン御手洗。馬に蹴られし愚か者たち───
【ケース15:閏璃凍弥/ダルシムさんへ愛を込めて】 ───……キーンコーンカーン…… 凍弥 「キンコンカーン!?───って、あれ……?」 チャイムの音で目が醒めた。 辺りを見渡すと賑やかで爽やかなクラスメイツどもの喧噪……じゃなくて静寂。 凍弥 「…………誰もおらんではないか」 移動授業か? んー……。 凍弥 「ていうか……下校時刻経過してるんですが」 ああ、だから誰も居ないのか〜。 はっはっはっは……白状者どもめぇっ! 凍弥 「くそ、憶えていろあいつら……!いつか歯磨き粉を服に擦り付けてやる……!」 学生服に歯磨き粉は最強のウェポンぞ……! 凍弥 「馬鹿やってないで帰るか……。おっと、歯磨き粉を買っていかねばな」 教室を出て伸びをした。 う、うーむ。 机で寝てた所為で体が痛いな。 凍弥 「フンッ!フンッ!」 ゴキッ! コロキキッ! 体を捻ると乾いた音が鳴った。 うむ、いい音だ。 凍弥 「さーてと……って」 由未絵「はっ、はっ……あ、凍弥くん」 廊下を少し歩いたところで、向こう側から走ってくる由未絵に遭遇した。 凍弥 「どうしたんだ?忘れ物か?」 由未絵「う、うん……予習のためのノートを忘れちゃったんだよ……」 凍弥 「それはいかんな。……あ、それ取ったらこれから仕事か?」 由未絵「え?……う、ううん……」 凍弥 「そっか。じゃあ一緒に帰るか」 由未絵「うんっ」 ───……。
【Side───Interlude】 鷹志 「……いやー、来流美さん。予想外なことになってきましたねぇ」 来流美「凍弥が置いてけぼりされた恨みで何か仕返しをするとは思ったけど、     まさか由未絵が戻ってくるとはねぇ。張っていた甲斐がありました」 柿崎 「チィ、せっかく先回りして悪戯返ししようとしたってのに」 鷹志 「いやいや、こっちの方が面白いかもしれん」 柿崎 「しっかし、支左見谷って蕎麦屋の娘さんだろ?仕事無い日なんてあるのか?」 来流美「……ウソに決まってるじゃない。     親に怒られないことより凍弥と居る方を選んだのよ」 鷹志 「うおっ……いいな、そういうの」 柿崎 「感動ですか?」 鷹志 「俺ダメ。そういうシチュエーションに弱いのよ」 柿崎 「そして気づいたら泥沼人生か」 鷹志 「喧嘩なら買うぞ」 柿崎 「落ちつけ」 来流美「いいから行くわよ。付いてきなさい、橘二等兵」 鷹志 「はっ、上官殿」 柿崎 「……なんなんだこれは」 【Side───End】
───…… 凍弥 「…………?」 由未絵「はう?どうかしたの?凍弥くん」 凍弥 「いや……誰かに見られてるような気がしてな」 由未絵「ま、まさか幽霊?」 凍弥 「それはそれで見てみたいが」 由未絵「凍弥くん神経図太いよぅ」 凍弥 「普通だ」 ていうか言うようになってきたな、由未絵も。 新田 「お、よう凍弥〜」 ボゴォッ! 新田 「ぶほぉっ!」 ───…… 凍弥 「……?誰か今、呼んだよな?」 由未絵「え?聞こえなかったよ?」 凍弥 「……?」 ───
【Side───Interlude】 鷹志 「イェアーッ!一発命中だぜーっ!ハッハー!」 柿崎 「グッジョブ!友よ!」 来流美「フフフ、こんなこともあろうかと、     野球部から球(硬球)をくすめてきておいた甲斐があったわ」 柿崎 「で、早急に引っ張り込んだ新田の遺体は如何にしましょう上官殿」 来流美「放置」 柿崎 「ラジャー」 来流美「橘二等兵は引き続き邪魔者の排除に当たってちょうだい。     わたしは順次指示を出すわ」 鷹志 「ラジャー」 【Side───End】
凍弥 「……何か俺の知らんところで面白いことが起きている気がする」 由未絵「世界は広いよ」 凍弥 「……言いたいことはなんとなく解る。よし、どっか寄ってくか?おごるぞ」 由未絵「え?いいのっ?」 凍弥 「気が向いただけだ。お前にまだおごってなかっただろ?」 由未絵「わ……憶えててくれたんだぁ……。もう忘れられちゃったかと思ったよぅ……」 凍弥 「忘れるつもりだったけどな。憶えてる限りは仕方が無い」 由未絵「うん、ありがとうだよ、凍弥くん」 ……変わらないな、こいつも。 なんとなく昔を思い出して、くしゃくしゃっと頭を撫でた。 由未絵「わっ、な、なに?」 凍弥 「いーや。ただ撫でたかったんだ、気にするな」 由未絵「はうぅ……」 凍弥 「頭撫でたくらいでごねるなよ」 由未絵「えぇっ?ち、ちがうよぅ……ごねてなんか」 清水 「あ、支左見谷さーん」 デムッ! 清水 「んあ?な、なんだこの球」 柿崎 「ポセイドンウェーィ!」 ドゴォッ! 清水 「ぐおっ!?」 ───…… 由未絵「ふぇ……?いま、誰か呼んだよね?」 凍弥 「いや……?聞こえなかったが」 ───……
【Side───橘鷹志】 鷹志 「ガッデム!俺としたことが外しちまった!壁に当たって妙な音を出しやがった!」 来流美「軍人としての緊張が足りない証拠よ!     気を引き締めなさい!ひとつの間違いが死を招くのが戦場よ!」 鷹志 「失礼しましたサー!」 柿崎 「ドンマイだ友よ!───上官殿、この男、如何にいたしましょうか」 清水 「な、なにしてんだよお前ら……!」 来流美「縄で縛って猿ぐつわつけて捨てておきなさい」 柿崎 「了解しましたサー!」 清水 「ちょ、ちょっと待ってむぐぅうっ!むー!むー!」 来流美「悪く思わないでね。運がよければ見回りの人に発見してもらえるから」 清水 「んー!!」 鷹志 「報告します上官殿!二時の方向より敵機確認です!」 来流美「落ちついて。ギリギリまで引きつけなさい」 鷹志 「Yes・Sir(ィェッサー)
……!」 柿崎 「………」 来流美「まだ……まだよ……」 鷹志 「………」 御手洗「……あ、さ、さささ支左見谷、さ、ささん……」 来流美「()ェーーーッ!!」 鷹志 「おぉゥるぁあっ!!」 ブンッ!! コキィインッ!! 御手洗「ふごぉっ!!」 御手洗氏の黄金に硬球が突き刺さる。 やがてゆっくりと……アニメとかならスローモーションで、 残像を残してしまうような前のめり方を披露しながら彼は倒れた。 鷹志 「おお、痙攣しとる」 柿崎 「無口と引っ込み思案で有名なオタクの御手洗が『ふごぉっ!』って……」 鷹志 「まあいい、イェアーッ!クリティカルヒッツ!」 柿崎 「グ、グッジョブ!」 鷹志 「さ、痙攣している御手洗を引っ込めて、と」 ズルズル……。 鷹志 「うあ……改めて見ると悲惨だな」 柿崎 「顔見ただけでどれほど地獄だったのかが解るな……」 鷹志 「しかしこれも支左見谷のため。安らかに眠れよ御手洗。恨むなら凍弥を恨め」 柿崎 「無茶苦茶言ってるな。でも正論だ」 鷹志 「ていうかそもそも支左見谷に何の用だったんだよ御手洗」 柿崎 「ああ、そういえば気になるな。     訊いてみる……にしても気絶してるから無理だな」 鷹志 「こればっかりは男として同情するぞ御手洗」 柿崎 「汝に幸多からんことを。アーメン」 柿崎が十字をきる。 来流美「なんなのよ今日は……。なんで今日に限って誰彼話し掛けてくるのよ……。     ああっ!とか言ってる間に今度は真凪先生が!」 鷹志 「くっ、教師に投擲するのは心苦しいが……これも愛のため!」 柿崎 「……どいてろ鷹志、俺がやる……」 鷹志 「か、柿崎!?」 柿崎 「俺を……漢にさせてくれ」 柿崎は今まで見せたこともないほどに、それはもういい笑顔で親指を立てた。 鷹志 「柿崎……お前ってやつはっ……!ただの馬鹿じゃなかったんだなっ!」 柿崎 「どういう意味だっ!……とにかく、俺はやるぞ」 鷹志 「お、おうっ!漢になって帰って来い!」 ザッ……! さー、やってまいりました。 漢へとクラスチェンジする時が。 彼は見事、真凪氏を堕として漢になれるのでしょうか! さあ!柿崎氏が振りかぶります! 鷹志 「ああ、柿崎……今日のお前、最高にカッコイイぜ……!」 来流美「当社比で0.2%は輝いてるわ……!」 鷹志 「下がってるってそれ」 ああ、柿崎が体を捻って力を込める……! いけ、柿崎……! いって漢に……! 柿崎 「クククク……!よくも授業の時に俺を当てやがったな二枚目ハーンめ……!     今から俺が人誅をくだしてやるわぁ……!」 鷹志 「………」 来流美「………」 鷹志 「わぁ、漢は漢でも冷血漢だー」 来流美「地に落ちたわね……期待したわたしが馬鹿だったわ」 柿崎 「死ねーっ!」 鷹志 「殺す気満々だし」 来流美「だめだわこりゃ」 そうは言っても柿崎の投げた球は意外に速く、真凪氏の側頭部目掛けてパシィッ! 鷹志 「───……!」 あ、あっさりと取っちゃった……! え?ま、まじですか? だってこっちも見てなかったっすよ!? 【Side───End】
真凪 「おやおや、ボールですね」 凍弥 「ボール?」 由未絵「わ、野球の球だ」 真凪 「大方、野球部が練習に使ってた球が校舎の中に迷い込んだんでしょう。     これは投げ返しておきましょうね。……はい」 ブォンッ! どかぁあああん!! 声  「ぐぉわぁあああああぁぁぁぁ───……………………」 声  「か、柿崎ぃぃいいいいいーーーーっ!!!!」 声  「ひぃい!柿崎くんが地面と平行にすっ飛んでいったわ!」 ………… 真凪 「……力加減を間違えましたかね」 凍弥 「?」 真凪 「ああ、すいません。用事が出来たのでこれで」 凍弥 「いや、べつにいいですけど」 由未絵「さようなら〜」 真凪 「はい、さようなら。気をつけて帰るんですよ」 由未絵「はい〜」 つかつかつか……。 凍弥 「…………な〜んだったんだ?」 由未絵「さあ……」 ──────
【Side───Interlude】 鷹志 「柿崎!柿崎ぃいっ!お、おぉお……なんて姿に……!」 柿崎 「た、鷹志……そこに……居るのか……?」 鷹志 「お、お前っ……目が……!」 柿崎 「ははっ……なにも見えないんだ……。     なぁ……鷹志……手を……手を握ってくれ……」 鷹志 「あ、ああっ……!」 鷹志が柿崎の手を握る。 しっかりと、その命をつなぐように。 柿崎 「ふふっ……悪くないぞ、鷹志よ……。息子の腕の中で死ぬのは……」 鷹志 「誰が息子だ」 柿崎 「こういう時でもツッコミはするのか」 鷹志 「馬鹿やってないで起きろよ」 柿崎 「いや、すまん。肩貸してくれ、体が言うことを聞かない」 鷹志 「……マジ?」 柿崎 「いや、驚いた……真凪のヤツ絶対何か会得してるぜ……!     ありゃ中国拳法より派生する技術、勁だ……」 鷹志 「勁って……あの見えない闘気とか飛ばすアレか?」 柿崎 「当たった感触で見切った……あいつはヒットマンだ……」 鷹志 「柿崎、ヒットマンは勁とは関係無いぞ」 真凪 「そうですよ、人聞きの悪いことを言わないでください」 鷹志 「うおっ!?」 柿崎 「はわわー!?」 真凪 「ああ、動かないで。すいません、つい加減せず投げ返してしまいました。     キズがあるかを診ますから動かないで」 柿崎 「は、はあ……」 真凪 「…………」 ……鷹志はなんとなく視線を動かした。 その時、その視線の先で……真凪氏の手がうっすらと輝いているように見えた。 鷹志 (……な、なんだあれ……錯覚……?) 目を擦ってもう一度確認する。 ……その頃には、もう光は見えなかった。 鷹志 (……気のせいか) 気のせいじゃなかったらどうする気だったのか。 ともあれ、柿崎の検診が終わったのか、真凪氏が顔をあげた。 真凪 「うん、どこにもキズらしきものはありませんね。     体が言うことをきかないというのももう治っていたりするのでは?」 柿崎 「え?そんなこと……あった」 柿崎はあっさりと立ち上がって四肢をぐんと伸ばした。 そして何故か反復横跳びを開始した。 柿崎 「おお……俺ってもしかして回復力早い?若いっていいねぇ!」 鷹志 「顔は老けてるのにな」 柿崎 「老けとらん!───って、霧波川は?」 鷹志 「懲りずに凍弥追いかけてった。     俺はもういいや、お前の二の前になりたくない」 真凪 「なにかをやっていたのですか?」 鷹志 「もどかしい友人の恋の手助けを少々。でももういいっす。     今までが今までだったんだから、     そこに誰かが介入しただけでくっつくわけがなかった。     もう帰って寝ますわ。あー、時間の無駄した」 柿崎 「それじゃあ俺が吹き飛ばされ損じゃないか!     俺はやめねぇぞ!諦めねぇぞ!ネバーギブアップだ!うおおおお!!」 ドゴォン!! 柿崎 「ごはぁ!」 鷹志 「ああっ!柿崎の側頭部に偶然窓から入り込んできたホームランボールがっ!」 激しく倒れ、痙攣している柿崎に真凪氏が近寄る。 真凪 「やれやれ……───むん」 柿崎 「───はっ!?あ、あれ?俺、なに?こんなところでなにやってんだ?」 鷹志 「か、柿崎?」 柿崎 「うん?よう鷹志。どうしたんだよ、鳩がガトリングカノンくらったような顔して」 鷹志 「どんな顔だよ」 柿崎 「…………?なんだろ。なぁ鷹志、俺ってこんなところで何やってたんだ?」 鷹志 「なにって……憶えてないのか?」 柿崎 「?」 鷹志 「……うう、不憫な……!     さっきの衝撃で自分の使命を忘れてしまったんだな……!」 柿崎 「鷹志?」 鷹志 「柿崎……もういいんだ……!戦いは終わったんだよ……!」 柿崎 「よく解らんが……まあ帰るか」 鷹志 「ああ……そしてさっさと寝ろ」 柿崎 「さわやかに終わらせる気がないのかお前は」 鷹志 「オチがあってこその人生!」 柿崎 「否定はしない。むしろ同意!」 真凪 「元気があるのは結構ですが、あまり無理をしてはいけませんよ。     それではお気をつけて」 真凪氏がお辞儀をする。 つられてふたりもお辞儀をした。 そんな様子を見て真凪氏は微笑むと、廊下を歩いていってしまった。 柿崎 「…………教師にマジマジとお辞儀されたのって初めてだよな」 鷹志 「変わった人だよなぁ……」 ふたりはぼ〜っとしつつもその背中を見送った。 世の中、いろんな人が居るもんだなぁとか思いながら。 【Side───End】
───……。 凍弥 「うむ、なかなかの味だった」 由未絵「そうだね。こんなところに甘味処があるなんて初めて知ったよ」 凍弥 「男ひとりで来るとなると勇気が必要だったんだ。     それでも来る時は鷹志とかと一緒に来てたんだけどな」 由未絵「……女の子じゃわたしが最初?」 凍弥 「んあ?なんか言ったか?」 由未絵「あ、ううん、なんでもない」 凍弥 「……?」 (チィ……!どこまで鈍けりゃ気がすむのよあの馬鹿……!) 凍弥 「……ん?」 ふと視線と怨念を感じて、後ろを振り向いた。 由未絵「凍弥くん?」 しかし、いつも通りの雑踏があるだけで、特に変わったものはない。 ……勘、鈍ったかな。 (まったく……!こういうことにばっかり鋭いんだから……!) 凍弥 「───!」 再び振り向く。 ……しかし、なにもない。 凍弥 「……誰か居る。絶対誰か居る。俺を見ている誰かの鼓動を感じる……」 これでも念のこもった視線には鋭いのだ。 ───ホレそこぉっ! 凍弥 「来流美、出て来い」 声  「ワタシ、リカチャン」 凍弥 「そうかそうか、なんか今、リカって名前の物体を殴りたい気分だったんだ。     そっち行って今すぐスクラップ直行便に乗せてやるから感謝しろ」 声  「なっ……!」 ゴキベキバキボキ……! 凍弥 「フオオ、腕も指も肩も鳴るのぅ……!リカよ、本性を現すなら今が旬ぞ」 声  「意味解んないわよ!」 凍弥 「それが返事か。いいだろう」 声  「わっ!ちょ、ちょっと待った!解ったわよ!出るから待ちなさい!」 凍弥 「最初からそう言え」 声  「くっ……」 しばらく待っていると、物陰から観念したような顔の来流美が現れた。 来流美「よくわたしの正体を見破ったわね!」 凍弥 「……影、影」 来流美「うん?」 凍弥 「ホレ、お前の隠れてた場所見てみろ。立ってるとポニーテール目立ちすぎ」 来流美「ぐあっ……!」 由未絵「隠れた場所が悪かったね」 凍弥 「よし、仲間も増えたことだし鈴訊庵に行くかぁ」 由未絵「ふぇ?どうして?」 凍弥 「……はぁ」 まだまだボケ者だなぁこいつも。 感心するにはまだ早かったか。 凍弥 「あのな、俺はお前の顔見れば大体のことは察しがつくの。     お前が仕事あるのに俺に付き合ってくれたことくらい解らないとでも思ったか?」 由未絵「あう、あうあう……」 凍弥 「ま、あんな困った顔したら誰でも気づく。気にするな」 気まずそうに俯く由未絵の頭を撫でてやった。 仕事をほったらかしにした後悔か、俺にウソをついた罪悪感か。 由未絵は少し涙目になっていた。 凍弥 「コラコラこんなことで泣くなよ。サボリ結構。     人はそれくらいしなきゃ疲れるだろうが。     まああのオフクロさんがそう簡単に穏便に済ませるとは思わないけど、     そのために俺と来流美が一緒に行くんだから」 来流美「えぇ?わたしも?」 凍弥 「そう、お前も。断ったら堕とす」 来流美「どういう脅迫よ!───大体、わたしはそんなことする義理が」 凍弥 「よし、お前が今日人の後を尾行していたストーカーだということを、     明日手紙にしたためて学校に送ってやろう」 来流美「なっ───ていうかしたためるの!?」 凍弥 「さあどうする?俺は別に構わないんだがなぁ」 来流美「ぐっ……!い、行かせて……いただきます……!」 凍弥 「よぅし、それでは鈴訊庵に向けて匍匐前進!」 来流美「しないわよ!……うう……見たいテレビあったのに……」 由未絵「ごめんね来流美ちゃん……」 来流美「いいわよもう。全部あいつが悪いんだから。     それにね、義理はないけど友情はあるから。だから構わないわよ」 由未絵「来流美ちゃん……」 来流美「それにしても勇気あるわね由未絵。     まさかあんたが仕事をほったらかしにして凍弥を選ぶとは思わなかったわ」 由未絵「わたしの中じゃ何よりも凍弥くんだよ?」 来流美「……じゃあ今までのはなんだったのよ」 由未絵「…………勇気が出なかったし……いざとなると足が竦んだり……その……」 来流美「ようするにタイミングが悪かったのね」 由未絵「うう、それもちょっと違ってて……」 来流美「ハッキリしないわね。なんなの?」 由未絵「……凍弥くんの傍に立つと恥ずかしくって嬉しくって……」 来流美「…………糸電話でも携帯してなさいあんたら。     呆れてものも言えない気分だわ」 凍弥 「なにやっとんじゃい!置いてくぞー!」 来流美「別にどうぞー?     その代わりわたしたちの分まで仕事頑張ってー!」 凍弥 「なっ……卑怯だぞ貴様!それでも男か!」 来流美「わたしは女よ!」 凍弥 「なにぃい、そうだったのか初耳だ」 来流美「白々しく言ってんじゃないわよ!」 凍弥 「はっはっは、まあそう怒るな。からかう代わりに貴様にはこれをやろう」 俺はその手に輝く美しき新品未開封の歯磨き粉を 来流美「いらないわよ」 凍弥 「なにぃ受け取れ!歯磨き粉だぞ!?ハミがキーコなんだぞ!?」 来流美「いらないってば!意味不明なこと謳ってないでさっさと行きなさいよ!」 凍弥 「そうして来流美はまんまと俺に仕事を押し付けて、     質実剛健に世界を滅ぼすのでした」 来流美「なにいきなり妙なナレーションつけてるのよ……」 凍弥 「デコピンだけで世界を滅ぼすのはどうかと思うぞ来流美」 来流美「勝手に人を使って壮大なエピソード作らないで……!」 凍弥 「壮大なのになんの文句があるんだ貴様」 来流美「人をバケモノ扱いするところ」 凍弥 「いやいやそれは違うぞクルーミング大尉。俺はだな」 スッパァーーン!!! 凍弥 「ぐあっ!?」 来流美「アホやってないで行く」 凍弥 「チッ……俺のハイセンスジョークが解らんとは……。     というか人の携帯スリッパ勝手に使うな」 来流美「どうしてそこまで自信が持てるのかが謎だわ……。ねぇ由未絵?」 由未絵「ふぇ?来流美ちゃん世界征服の続きは?」 来流美「……気になるんだ……」 凍弥 「うむ、その世界では誰しもが特殊な能力を持っていてだな」 由未絵「うんうん」 凍弥 「透視能力や空に浮く能力、なんでもござれ。     そんな中で来流美が手に入れた能力がデコピンだったのだ」 由未絵「わぁ、すごいすごいー!」 来流美「デコピンなんて誰でも使えるじゃないの!」 凍弥 「なにぃそれは違うぞ来流美よ。     デコピンていうのは誰しもがその絶技を使いこなせるわけではなく、     選ばれた指筋肉を持ったものだけが奥義伝承を」 スパーン! 凍弥 「ぐおっ!な、なにをする貴様!     説明途上にスリッパで殴るなど!男の風下にも置けんぞ!」 来流美「くっ……!よっぽどわたしを男に仕立て上げたいみたいね……!」 凍弥 「気のせいだ」 来流美「どう考えても仕立て上げる気満々じゃないの!」 凍弥 「目の錯覚だ」 来流美「いーえ!どう見てもそう映りますっ!」 凍弥 「他人の空似だ」 来流美「人の話聞く気あるの!?」 凍弥 「夢だ」 来流美「………」 凍弥 「夢遊病だ」 来流美「聞く気無いわけね」 凍弥 「うむ、絶無」 スパァーン! 凍弥 「ぐはっ!」 来流美「もういいわ、行きましょ由未絵」 凍弥 「それでな、来流美はその能力を生かし、デコピンのみで世界を征服したのだ」 由未絵「わぁ、そうなんだ、来流美ちゃん最強」 来流美「当然のように話を戻してるんじゃなぁーいっ!!」 突如、来流美がスリッパを振り上げて幽鬼のごとく襲い掛かった! 凍弥 「な、なにぃ!?ぎゃああああっ!!」 スパァン!コパコパァアン!! 凍弥 「ぬおっ!ぐはっ!な、なにをする貴様!不意打ちするなど紳士の」 スパァーン! 凍弥 「ぐお!」 来流美「いーくーわーよ、由未絵」 由未絵「う、うん……」 凍弥 「お、おのれぇ……!」 スパァアン! 来流美「きゃあっ!?」 凍弥 「ふははは!隙だらけじゃぞ来流美!貴様それでも軍人か!」 来流美「……んのっ……!って、どっから出したのよそのスリッパ!」 凍弥 「ドナルドマジック!」 来流美「ウソおっしゃい!」 凍弥 「今日はこれくらいにしてやる!     いつか貴様が寝ているときを見計らって、     その馬の尻尾をアフロにしてやるから憶えてろ!」 来流美「わ、笑えない冗談はやめなさいよね!」 凍弥 「なにぃ俺は本気だぞ。今日辺りに機材を持ち込んで、     貴様をドナルドをも凌駕するほどの立派なアフロにしてやろう」 来流美「こ、このっ……!待ちなさい凍弥!今日という今日はトサカに来たわよ!」 凍弥 「うわぁたっけてー!幽鬼が追ってくるー!未来派アフロー!近未来アフロー!」 来流美「クハァアアア死なすーっ!」 由未絵「わっ、ま、待ってよ凍弥くん、来流美ちゃん!走るの速いよぅ!」 ───こうして我らの戦いは幕を下ろした。 いやもとい、幕を開けた。 ようするに俺と来流美はこれがきっかけで、再び客取り争いをすることとなる。 由未絵がオフクロさんに怒られそうになった時は俺が巧みな話術で丸め込み、 急いで帰ろうとしていた由未絵を来流美が引っ張りまわしていたということで落ちついた。 それにより来流美の給料が微妙に減給されたが、うむ結果オーライ。 ……のちにその事実を知り、 修羅と化した来流美が俺に襲い掛かったのは紛れもない事実である。 Next Menu back