───友よ。別れは……───
【ケース23:閏璃凍弥/ロンド】 ───……さてはて。 そして来ましたテストの日。 俺の脳が光って唸る! さあいつでも来い! 真凪 「それでは、始めてください」 真凪が声を出す。 それとともに一斉にテスト用紙が裏返される音。 俺もそれに習い、ぎっしりとかかれた問題に目を通す。 ……………… キーンコーンカーンコーン…… 真凪 「それでは鉛筆を置いてください」 ……うん、まあ出来た方だと思う。 勉強した部分が幾つかは出てた。 これはまあ期待できる方だ。 ……よし、あとの教科も頑張りますか! ───────── ……そんなこんなで一日終了。 クラスメイツが帰り仕度をする中、俺と鷹志は早速己の勘を語り合う。 だがしかし、ふたりが感じた手応えは同じもので、 結局『まあまあの出来』という形に落ち着いた。 ふと柿崎を見やると、どこか満足したような顔で真っ白に燃え尽きていた。 ……よくやったぞ柿崎……。 由未絵「……あの、凍弥くん……」 凍弥 「ん?ああ由未絵か。どうだった?手応えは」 由未絵「………」 凍弥 「うん?」 由未絵「あの……」 凍弥 「……ばか」 くしゃくしゃっ。 由未絵「はうっ……?」 凍弥 「言っただろ?テスト終わるまでだって。なに遠慮してるんだ」 頭を撫でながら言ってやる。 こいつも記憶力がいいのか悪いのか。 俺が言ったこと、もう忘れたのか? なんて思ってる時だった。 由未絵「……〜〜っ!」 ぎゅむっ! 凍弥 「うおっ!?」 突如、由未絵が俺の体にタックルを極めてきた! 凍弥 「なにぃ!?お前がここまで血気盛んだったとは!     白昼堂々決闘を申し込むとはやりおるわ!」 来流美「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ」 凍弥 「お?来流美か。テストどうだった?」 来流美「愚問」 凍弥 「ダメだったか」 来流美「訊くまでもないでしょ……。     凍弥は?由未絵をずっとほったらかしにしてまで勉強してたんだから、     上位ランク行かないと怒るわよ」 凍弥 「まあまあってところだ。現段階ではなんとも言えん」 来流美「……そ。まあダメよりはマシよ」 そりゃそうだ、あれだけ勉強してダメだったら泣くぞちくしょう。 凍弥 「ところで来流美よ。こういう場合はプロレス技に移行してもいいのだろうか」 来流美「ダメに決まってるでしょ!?由未絵が死んじゃうわよ!」 凍弥 「なら……いぞり投げで」 来流美「どっちにしろダメ!」 凍弥 「なにぃ、決闘を申し込んでいる相手に何もしないのは武士として最低ぞ」 来流美「決闘申し込んでるんじゃなくて抱き着いてるんじゃない」 凍弥 「抱きつく?」 来流美「そ」 凍弥 「由未絵が?」 来流美「そ」 凍弥 「俺にぃ?」 来流美「そうだってば」 凍弥 「馬鹿言うな。これはボクシングでいうクリンチだ」 来流美「よし殴らせなさい。脳髄ブチ撒くほどに殴るわ」 凍弥 「やめろ、手出しできない点においてはベイビーと同じ状況下の俺に手だしするな。     それは人としてどうかと思うんだ僕ァ。ああところで話は変わるんだが」 来流美「……なによ」 来流美が拳を構えた状態で体を捻る。 は、花山さん!? 花山さんですか!? 凍弥 「えっとだな、どうして由未絵が俺に抱きつく必要性があるんだ。     そこのところが俺には解らん」 来流美「……あんたさ、どれくらい由未絵のこと無視してたか憶えてる?」 凍弥 「無視?馬鹿言うな、話し掛けられてない」 来流美「かけてたわよ。あんたが勉強に夢中で聞いてなかっただけ」 グググググググ…………!! 来流美がどんどん体を捻る。 来流美「それじゃあ訊くけど。あんたが勉強で1位になりたかった理由ってなによ」 凍弥 「お前には関係無い」 来流美「……そ。それじゃあ問題。握力×体重×スピード……イコール?」 凍弥 「知らん」 来流美「破壊力ゥウウウッ!!!」 ボグシャアッ!! 凍弥 「ぐほぁああっ!!」 来流美の鋭い拳が俺の頬を襲った。 だが倒れない。 来流美「なっ……!?」 凍弥 「ふっ……甘いな来流美。     由未絵がしがみついてるのに倒れるわけがないだろう。     こいつを守っていいのは我だけ……ぞ……」 ガクンッ。 ぬおっ!?膝が折れた! 来流美「利いてるじゃない」 凍弥 「ドラマシーンを演出しただけだ」 由未絵「凍弥くん……?」 ふと、ずっと俺の胸の中に顔を押し付けていた由未絵が俺を見上げる。 ……その目は濡れていた。 凍弥 「うわっ!?な、なんで泣いてるんだよっ!泣き止めっ!」 由未絵「だって凍弥くん……ずっとわたしの話聞いてくれなくて……。     一緒に勉強したかったのに……何度話し掛けてもあとにしろって……」 あ、あわわ……涙声だ……! 由未絵は大声で泣かない分、泣き始めると長いんだ……! ど、どうする俺!? 凍弥 「あ、えーとホラッ!こっちにも言えない事情っていうのがあったんだよ!     なんてゆーか……その……っ!」 来流美「……あんたまさか、     クラス内でやってる賭け事に参戦してたんじゃないでしょうね……」 凍弥 「な、ばかっ!そんなんじゃない!」 来流美「なに慌ててるのよ、怪しいわね……。     大方、自分に賭けて儲けようって魂胆だったか……あ!     あんたまさか!賭け事の裏で取り引きされてたっていう盗撮写真が目当てで!?」 凍弥 「うわーっ!なに恐ろしいこと大声で言ってんだ!!     そ、そんなわけないだろうが!俺はむしろその逆で!」 来流美「あんた正気!?人として恥ずかしくないの!?」 凍弥 「ヒートアップしてないで聞けって!     俺はそういうのじゃなくてもっと特別な意味合いでだなぁっ!」 来流美「なによ特別な意味合いって!」 凍弥 「え?あ、そ、それは……その」 俺を見上げる由未絵を見下ろす。 その目がひどく純粋で、自分が盗撮されてたなんてことには気づいていない。 ……言えるわけねぇだろうが。 来流美「ちょ、ちょっと……なに黙っちゃって……って───あ、あーっ!     そうなのね!?あんたそういうことなのねぇっ!?」 凍弥 「え?な、なんだよ」 来流美「あんた自分で撮るのが恥ずかしいからって、     由未絵の盗撮写真を入手しようって魂胆だったのねぇっ!?」 凍弥 「ぎゃあああっ!!ばば馬鹿っ!こんなところでそんなこと言うな!     完全に誤解されるだろ何言ってんだよ馬鹿!」 由未絵「と、凍弥くんっ……!?」 うわ、うわわわっ……! 誤解された完全に誤解された誤解されまくったぁっ! 見れば、俺を見上げる由未絵の顔が真っ赤になって、 体がふるふると震えて目を潤ませて───ぎゃああっ!! 凍弥 「ち、違うっ!違うって!誤解!そう誤解っ!     お、俺がお前を傷つけるようなことすると思うかっ!?」 由未絵「……っ……っく……うっく……」 凍弥 「な、なな泣くなぁっ!頼む泣かないでくれっ!」 来流美「あんたって……最低」 凍弥 「違うっつっとろうがぁっ!」 鷹志 「そっか……お前がそんな裏心もってたなんて……。     全力でやった俺が馬鹿みたいじゃないか……」 凍弥 「違うって言ってるだろぉっ!?     ああもう説明していいか!?いいよな!?男の尊厳のために!」 鷹志 「だめだ」 凍弥 「無慈悲ッ!それすっげぇ無慈悲!」 くそっ、このままじゃ埒があかないっ! 凍弥 「由未絵、来いっ!全部話してやる!」 由未絵「やぁ〜っ……!」 凍弥 「やぁ〜じゃない!来るんだっ!」 来流美「ちょ、ちょっと凍弥っ……!なにしようとして」 凍弥 「黙れこの出任せ馬鹿っ!」 来流美「で、出任せ馬鹿ぁっ!?凍弥に言われたくないわよっ!」 凍弥 「今日という今日は呆れたわこのお馬鹿さん!     冗談を言うにもタイミングってものを知れ!」 来流美「わたしは本気だったけど」 凍弥 「………」 来流美「………」 凍弥 「ばかーっ!」 俺は由未絵を抱えて教室を飛び出した。 来流美「あ、ちょ……!追うわよ橘くん!」 鷹志 「待った。悪いけど追わせない」 来流美「はい?な、なに言ってるのよ」 鷹志 「凍弥のこと完全に誤解してるよ。     ……まあ俺もあんなところで冗談言ったのはマズったけど。     あいつは支左見谷を守ろうとして1位を狙ったんだよ」 来流美「どういうことなのよそれ……。全部話してもらえるんでしょうね……」 鷹志 「お安い御用だ。喫茶アルカディオ姉妹店のコーヒー一杯で手を打とう」 来流美「……ちゃっかりしてやがるわね……」 鷹志 「冗談だ。その代わりにこれから言うこと全部を信用してくれ」 来流美「……おっけ」 ───……。 ……。 ───……空き教室。 俺はぐすぐすと泣いている由未絵を机の上に降ろし、真正面から見た。 凍弥 「いいか、あれはな」 由未絵「もういいよぅ……。凍弥くん冷たかったし、盗撮のことも知ってて黙ってたし」 凍弥 「……あのな、聞け。あれは」 由未絵「うぅ〜……凍弥くんのばかぁ……」 凍弥 「……聞け」 由未絵「………」 凍弥 「さっきのでお前が盗撮されてたってことは解ったな?     俺はそのことを知って、鷹志と一緒に御手洗のところに殴り込みに行ったんだ。     そしたら全て吐いたよ、苛められて仕方なく盗撮したこと。     悪いのは全部宮治だった。     この前御手洗と一緒に登校しようとした時のこと、憶えてるよな?     あの段階が御手洗と一緒に写真とか滅ぼしたあとのことだ。     もう盗撮写真なんてどこにも無いんだよ。     でも宮治はまだ賭け事をやめなかった。     クラスの中で誰が1位を取るかで賭けてたからな。     お前が賭け事の対象にされるのが嫌だったんだ」 由未絵「……うん」 凍弥 「だから俺が1位になって、あいつらの馬鹿げた賭け事を狂わせてやろうって。     そう鷹志と話して、こういうことになったんだ。     ……あのまま何もなければ自然に終わってた筈だったんだよ。     それがお前を傷つけることになるなんて思わなかった……ごめん」 由未絵「え───?と、凍弥くん……いま、謝ったの……?」 凍弥 「あのな、お前いったいどういう目で俺を見てたんだ?     俺だって本気で悪いと思ったら謝るぞ」 由未絵「……うん、そうだよね」 凍弥 「……でもま、許してくれるかはお前の好きでいい。     結果がどうあれ、お前をほったらかしにしてたのは事実らしい。     ……俺は今まで通り勝手やって生きるさ。じゃあな」 由未絵「え……?ま、待って凍弥くん!     わたし、怒ってないよ!もう怒って───凍弥くんっ!」 ………… 由未絵「……っ……ばかぁ……!     自分ばっかり話して帰るなんて……ずるいよぉっ……!」 ───……。 ……。 ……鞄も持たずに学校を出た。 ぼ〜っと見上げる空は白んでいる。 雪でも降るのかな、とか思いながら、心の寒さを確かに感じていた。 凍弥 「……なんでこうなるんだ……?」 まるっきり解らない。 俺は由未絵を守りたくて勉強して、でもそれが逆に由未絵を傷つけて…… ……世の中って解らないな。 どうしたら良かったんだろうな。 ……解らないよ、俺には。 鷹志 「よっ、黄昏とるかね、少年」 凍弥 「鷹志か」 鷹志 「そう辛気くさい顔するなって。教室の方の誤解は解いておいたから」 凍弥 「なんかもうどうでもいいや……」 鷹志 「凍弥?」 凍弥 「なぁ鷹志……?今回のテストで、いったい誰が救われたんだろうなぁ……」 鷹志 「………」 凍弥 「誰かのためにすることは誰かのためになるってずっと考えてたよ俺……。     そう信じて疑わなかった。     あいつのために何かをしたらあいつは笑ってくれるって思ってたのにな……。     ……もう、なにがなんだか解らないんだよ……」 鷹志 「……フラレたか」 凍弥 「そんなんじゃないよ。なんでも色恋沙汰に持ち込むな」 鷹志 「……だな。悪い」 凍弥 「………」 鷹志 「………」 凍弥 「なぁ鷹志」 鷹志 「……俺ン家来るか?今日は呑もう。……ジュースだが」 凍弥 「……サンキュ」 柿崎 「友よ、俺も混ざっていいか?」 凍弥 「よ、友よ」 鷹志 「ああ、もちろんだ。御手洗も誘って、今日は男の宴会と行こうや……」 柿崎 「そうだな。……と、御手洗発見」 鷹志 「御手洗ー、ちょっといいかー?」 鷹志が前を歩いていた博樹に声をかける。 俺は振り向いた博樹に手を上げて接近を促した。 ……友が仲間に加わった。(強制) ───……。 凍弥 「なにぃ!?それ本当か!?」 博樹 「うん……」 橘邸。 俺はジュースや菓子などを食べながら聞いた博樹の言葉に驚いた。 凍弥 「転校って……唐突だな」 博樹 「前から決まってはいたことだったんだ。父さんの仕事の都合でね……」 凍弥 「お前だけひとり暮らしってことにはならなかったのか?」 博樹 「ぼくも無茶してみたんだけど……父さんが転校手続きしちゃったらしいんだ」 凍弥 「うはっ……」 鷹志 「決定的だなそれは……」 柿崎 「せっかく四馬鹿になったんだがなぁ。数字的に縁起が悪くて好きだったんだが」 鷹志 「どうせそういうの信じないしな」 柿崎 「俺は好きだぞ?4」 鷹志 「俺も好きだぞ?4」 凍弥 「俺も好きだぞ?4」 俺と鷹志と柿崎はフフフと笑い合った。 が、現状は変わらない。 凍弥 「明日かぁ……急だよな、ほんと」 博樹 「これでも限界まで引き伸ばしてもらっていたんだ。     今日、みんなに会えてよかった」 凍弥 「だな。こうやって宴会も出来たし」 鷹志 「よし!景気付けに───歌え柿崎!強羅の如く!」 柿崎 「うっしゃあ任せろ!一番、柿崎稔!いっきまーす!」 柿崎が橘家名物・カラオケマッスィーンで歌い出す。 ご丁寧に防音部屋であるここはまさに最強な場所だった。 柿崎 「今こそォーーッ!叫びたまえ奈落のォーッ!!雄叫びィイイーーーーッ!!     ア゙ァアアアーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」 ああ、ちなみに。 柿崎は絶叫系で景気付けをするらしい。 毎度毎度叫んでは、あとで震えるようなか細い声で悲しそうに歌う。 柿崎がタイミングを見計らって叫ぶように歌い、 やがてリズムの良いいかにも絶叫系って感じの音楽が流れる。 それに合わせて柿崎が叫ぶ叫ぶ。 喉が痛いのか、時折涙目になりながらでも叫ぶ。 さらに叫ぶ。 ……のち、音楽が終わる頃に、彼はドシャアと倒れた。 柿崎 「………」 パクパクと口を開きながら何かを言おうとするが声は出ず、ただマイクを差し出す。 景気付けは終わったと言いたいのだろう。 凍弥 「次、誰行く?」 鷹志 「俺が行こう。俺の歌声に酔いしれるがいい」 凍弥 「御託はいいからさっさとやれー」 鷹志 「御託扱いすなぁっ!……コホン。あーそれでは聴いてください。     マンホールズで……俺より偉い人へ」 また随分懐かしいものを……。 鷹志は新しい歌よりひと昔前の歌の方が好きらしい。 俺は良い歌ならどれでもって感じだが。 鷹志 「……ほい、次」 鷹志はさっさと歌い上げ、マイクを渡してくる。 俺はそれを博樹に促し、博樹はそれを受け取った。 博樹 「……え、と……僭越ながら歌わせていただきます。     Wind&Windowで───蒼い風に抱かれて……」 博樹がセットした番号が読み込まれ、やがて音楽が流れる。 鷹志 「ウィンド&ウィンドウ……知ってるか?」 柿崎 「いや……」 凍弥 「インディーズで一曲出して消えた幻のグループだよ。     その一曲ってのがこの『蒼い風に抱かれて』だ」 柿崎 「……よく知ってるな」 凍弥 「俺もこの曲、相当好きだし。でも問題は……」 歌ってた人が女だったってことだ。 何度も歌いたいって思ってたんだが、あんな高い声とやさしい声は俺の喉からは出ない。 試しに来流美に歌わせてみたが……全部歌い終える前に喉に地獄突きを刺して黙らせた。 好きな人にとっては、おいそれと歌えるものじゃない。 イメージが壊れるからだ。 だが。 鷹志 「……お、おい……これって御手洗が歌ってるんだよな?」 柿崎 「どこかにテープが隠されてるとか!?」 凍弥 「………」 博樹の歌は完璧だった。 高く優しく、時には低く。 ……男じゃあ絶対再現無理だと思ったのに。 考えてみれば博樹って女みたいな声だったよな。 それでか? 鷹志 「……友よ」 柿崎 「友よ」 凍弥 「なんだよ」 鷹志 「これのCDあったら今すぐよこせ。気に入った」 柿崎 「いや、譲れ。クラスメイツのみんなに貰った1円がぎっしりとここにある」 凍弥 「あれから持ち歩いてたのか!?     ───あ、黙れ。これから俺の一番好きな部分なんだ」 鷹志 「なにぃ!?貴様話を逸らすのか!?」 柿崎 「いや待て鷹志!黙らっしゃい!」 鷹志 「むごっ!?むー!んむー!」 柿崎もその歌に耳を傾ける。 心なしどころか確実に、 柿崎の声がヘリウムガスを吸ったような声に聞こえるのは気の所為じゃない。 叫びすぎだ馬鹿たれ。 ……しっかし上手いな博樹。 こんな才能があったとは。 ……やがて彼が歌い終える頃、俺達は惜しみない拍手を送った。 凍弥 「ブラーボー!おお……ブラボー!」 鷹志 「えがったー!えがったでー!」 柿崎 「顔もよくて歌上手いなんて何者ですかキミはーっ!」 それぞれが好き勝手に叫ぶ中、博樹は優雅にお辞儀してマイクを置いた。 鷹志 「よし行け凍弥、今度はお前だ。     ……まあもっとも、あの歌の後じゃあどんなに頑張っても、     せいぜい三下の歌唱にしか聞こえんだろうがな」 凍弥 「せいぜいで三下かよ……」 最近ホントひどいなコイツ。 まあ面白いからいいが。 ふざけてるって解ってるしな。 凍弥 「じゃあアレ行くか。『落ち込む男ら涙の絶叫夜明け前』」 鷹志 「俺はかなり賛成だが……御手洗、この曲知ってるか?」 博樹 「うん、歌には大体手をつけてるんだ」 柿崎 「金あるんだなぁ」 博樹 「父さんと母さんが音楽関係の仕事やってて。……それで全自動式で」 凍弥 「なるほど。じゃ、いくぞ」 じゃっちゃかじゃっちゃっ!じゃっちゃっちゃっちゃ! じゃっちゃかじゃっちゃっちゃーん! じゃっちゃかじゃっちゃっ!じゃっちゃっちゃっちゃ! じゃっちゃかじゃっちゃっちゃーん! 凍弥 「キミと〜した約束〜やぶら〜れて〜ぇ」 柿崎 「涙〜したあの日〜を〜忘れ〜ない〜」 鷹志 「だけど実は忘れないんじゃ〜なく〜ぅって〜」 博樹 「ホント〜は〜傷口が深すぎて〜忘れられないのさ〜……」 ちゃんちゃんちゃんちゃ〜ん…… じゃかじゃんっ! 四人 『オウコラちくしょうなに見てやがんだ見世物じゃあねぇぞー!!     オイラーにゃあ帰る家があるんーだーぞぉおっ!?     それだけでぇーもォー、十分じゃないかオラァッ!     今はただー!この家さえありゃあ、それでぇーいいーっ!!』 じゃかじゃん! 凍弥 「都会は……ホント恐ろしいとこです……。     だってこんなにも人が冷たく……人を平気で騙すから……」 柿崎 「街が明るい分だけある……人々の裏心……」 鷹志 「この街頭のようにキレイなだけじゃないってことが……よく解りました……」 博樹 「だけどきっと彼女だけは違うって信じてました……。     それなのに……見事に騙されてもう田舎さ帰る金がないんです……」 ちゃんちゃんちゃんちゃ〜ん…… じゃかじゃんっ! 四人 『オウコラちくしょうなに見てやがんだ見世物じゃあねぇぞー!!     オイラーにゃあ帰る家があるんーだーぞぉおっ!?     それだけでぇーもォー、十分じゃないかオラァッ!     今はーただー!この家さえありゃあ、それでぇーいいーっ!!』 じゃかじゃんっ! ヒートアップする我ら。 なんかもう叫べたらそれでいいってくらいに出来あがっている。 実際、由未絵のことはこの時は忘れていたし、思い出しても辛いだけだったから。 正直……勝手に生きるなんて言ったことを後悔してる自分は、 ホントの表側の方に居るのかもしれない。 凍弥 「……フウ、やはり叫ぶなら『落ち込む男ら涙の絶叫夜明け前』だな。     最後のサビで、路上で寝てるところを警官に補導されるのがまたイイ」 鷹志 「無慈悲だけどな。さて、どうする?もう結構な時間だけど」 柿崎 「あっと、俺ちょっとやっておかなきゃならんことがあったんだ」 凍弥 「泥棒か?」 柿崎 「いきなり犯罪方面に話持ってくんじゃねぇ!     親の手伝いだよ!今日部屋の模様替えするっていうから!」 凍弥 「はっはっは、叫ぶな叫ぶな」 柿崎 「ったく……あ、じゃあ俺帰るな。また明日〜」 鷹志 「ああ。そんじゃな〜」 柿崎が出ていった。 それに次いで博樹も立ちあがる。 博樹 「ぼくも帰るよ。そろそろ父さん達が帰ってくる時間だし」 鷹志 「気をつけて帰れよ……って、明日には転校だったな。学校には来るのか?」 博樹 「……実は……これで家に帰ったら多分すぐだと思う……」 鷹志 「なっ……!ちょっと急すぎやしないか!?     あー───柿崎ーっ!ちょっと待てーっ!」 鷹志が叫ぶ。 が、防音のため、聞こえるわけがない。 凍弥 「チィ、身勝手なヤツめ。これだからあいつはパーシモンなんだ」 柿崎 「なんだとコラァッ!」 ズバーム! 凍弥 「うおっ!?き、貴様……何故!?」 柿崎 「いや、なんか悪口オーラを感じとってな」 ……人間じゃねぇ。 鷹志 「ああ、でも良かったよ。丁度お前を呼ぼうとしてたところだったんだ。     えーと……あったあった」 鷹志は部屋の隅に詰まれた厚紙……あれは色紙だな。 それを手に、何かを書き連ねた。 鷹志 「ほい、次凍弥な」 凍弥 「俺?」 渡された色紙を見れば、そこには鷹志のメッセ−ジと鷹志のフルネームが書いてあった。 ……寄せ書きか。 いいな、こういうの。 凍弥 「それならこう、真中に大きく『友よ』と……」 カキカキ……と。 鷹志 「お、いいな、それ」 鷹志が感心する中、俺もメッセージと名前を書き連ねる。 書き終えるとそれを柿崎に渡し、柿崎も書いてゆく。 そして最後に。 それは博樹の手に渡った。 鷹志 「最後は御手洗、お前だ。     これは我ら『友』の寄せ書きだ、他の余計な名前は要らない。     お前が最後。……そして、それはお前が持っておけ」 博樹 「ぼくが……?」 鷹志 「なんだかんだ言って、俺と凍弥と柿崎はこうやって近くに居るからな。     お前はここを離れるわけだけど……それを持ってる限り、ずっと友だから」 博樹 「橘くん……」 鷹志 「ノンノン、我らに名前は必要無い。さあ、共に叫べ!」 四人 『友よぉっ!!』 俺達は同時に声をあげた。 多分、他の誰が見ても変な光景でしかないのだろう。 だけど俺達は楽しんでいた。 それと同時に寂しい気持ちに苛まれていた。 ……明日からまた三馬鹿か。 誰かがそう呟くと、どこかしんみりとした空間がそこに現れた。 ……だけど時間は待ってはくれない。 俺達は誰かともなく立ちあがり、別れの言葉を言いながら解散した。 柿崎が去り、博樹が去り。 そして俺が立ちあがった時、鷹志が言った。 鷹志 「凍弥、支左見谷のことあんまり気にするなよ。     多分もうあっちの方が気にしてないと思うぞ」 凍弥 「……解ってたか」 鷹志 「吹っ切れようとして普段より馬鹿騒ぎしたくなるのは解るけどな。     いつもより騒がしい分、がむしゃらが配合されてた。無理はよくない」 凍弥 「配合なのか」 鷹志 「配合だ」 ニヤリと笑って頷き合う。 凍弥 「まあ、どうなんだろうな実際。     あいつがどうであれ、俺は好き勝手に生きるつもりだったけどさ。     なんかこうシャッキリしないんだよな」 鷹志 「そっか。でも自分からはもう説明したんだろ?     だったらもう今の段階でお前が出来ることって無いんじゃないか?」 凍弥 「そうかな」 鷹志 「だってさ……幼馴染だからって、     許してもらいたいから女を追っかけるのってお前のキャラじゃないよ」 ……キャラってなんじゃい。 言いたいことはなんとなく解るが。 鷹志 「それともゴマすって許しを請うか?」 凍弥 「ゴマ……」 …………間。 凍弥 「ダメだ、絶対に嫌だ」 鷹志 「いやな想像したみたいだな」 凍弥 「こうなったら俺も転校するかな」 鷹志 「姉か母に現実思い知らされるのがオチだよ」 だよなぁ。 ええ、解ってます。 鷹志 「まあいいや、言いたかったのはさっきの通りだから。     ただちょっとお前の意見聞きたかったんだ。悪いな、引きとめて」 凍弥 「べつにいいけどな。あ、それじゃあな。達者で暮らせよ」 鷹志 「悠久の別れみたいな言い方やめろよな……」 ドアを開けて部屋から出た。 そのままわき目も振らずに玄関まで直行して外へ出る。 凍弥 「……結構な暗さだな。寄り道してる暇は無さそうだ」 今日はもう帰ってさっさと寝よう。 ───…… 家に入る前。 ふと眺めた鈴訊庵はもう閉まっていた。 二階は……と目線を上げると、由未絵の部屋であるそこも、もう電気は消えていた。 ……俺はなんとなく溜め息を吐いて家の中に入った。 ───……。 ……。 ───……翌朝。 なにかの音に目を覚ますと、時間はまだ6時だった。 俺はぼやけた視界をハッキリさせようと目を擦って、辺りを見まわす。 ……気の所為? そう思った次の瞬間、部屋のドアがノックされた。 ……とても小さなノックだ。 普通、この時間で人に気づいてもらおうとしてするノックじゃない。 俺はなんとなく気になって、そのドアへ近寄って───ドアを開けた。 そこには─── 凍弥 「由未絵……」 目を涙で真っ赤にさせた由未絵が立っていた。 凍弥 「ど、どうしたんだよこんな時間に……」 由未絵「……避けられちゃうんじゃないかって思って……。     朝起きたら、もう居ないんじゃないかって……」 凍弥 「そんなことするわけないだろが……。     言っただろ、俺は今まで通り勝手やって生きるって」 由未絵「………」 凍弥 「……中、入るか?」 由未絵「……ん」 泣き声交じりに由未絵が頷いた。 俺は由未絵を部屋に促すと、ベッドに体を預けた。 由未絵はその横に座って、寝転がる俺を見下ろした。 由未絵「……わたしね、いっぱい考え事したんだ……」 凍弥 「……うん」 由未絵「凍弥くん、どうしてわたしの話、聞かないで帰っちゃったのかな……とかね?」 凍弥 「……ん」 由未絵「……むしのいい話だよね。先にわたしが誤解したままだったのに……。     ごめんね、凍弥くん……」 凍弥 「謝るな。謝られるのは嫌いだ」 由未絵「……うん」 凍弥 「………」 天井を見た。 なんの変哲もない天井。 ……そして今の現状を考える。 多分、由未絵は俺に合わせようとしている。 それが自分の意思かは解らないけど、嫌なら嫌と言うべきだ。 人の話を聞かない幼馴染なんかとは友達でさえなくなればいい。 だけど……こいつはそうしない。 由未絵「……凍弥くん……わたしもう怒ってないよ……?     凍弥くんがわたしのためにいろいろしてくれたって解ったし……     確かにずっとお話してくれなかったのは悲しかったけど……でも……」 凍弥 「無理に俺に合わせることはないんだぞ?お前が好きなようにしたらいい」 由未絵「───ッ……好きにしてるもん!!」 凍弥 「……由未絵?」 由未絵「わたしは凍弥くんと喧嘩したままで暮らすなんて嫌だもん!     だから……だから仲直りしようとしてるんだよ!?     わたしっ……もう怒ってないもんっ……!     それなのにっ……どうして仲直りさせてくれないの……!?     こんなのヘンだよぅ……!」 凍弥 「………」 ……ああ、またやっちまった。 なにやってるんだ俺……。 泣かせたくないとか、傷つけるようなことはしてないとか……。 この現状の過程に、実際どれだけそんなことがあった……? 現に傷ついてるじゃないか。 子供みたいに泣きじゃくってるじゃないか。 ……なにが守ってやるだ。 くそっ……。 凍弥 「………」 ……ぽん。 由未絵「…………?」 黙って、由未絵の頭を撫でた。 幼い頃そうしたように。 もちろん今は昔とは違う。 だけど……俺は昔っから由未絵が泣いた時、こうすることしか出来なかった。 凍弥 「お前、変なヤツだなぁ……。     せっかくこんな変わり者の幼馴染と離別するチャンスだったのに」 由未絵「そんなの……したくないよぅ……」 凍弥 「……泣くなよ。せっかくの可愛い顔が台無しだ」 由未絵「ふぇっ……!?」 凍弥 「もちろんお世辞だ」 由未絵「………ひっく……」 凍弥 「すまん泣くな今のは俺が悪かった場を和ませたかっただけなんだ許してくれ」 しっかしホント変わってる。 来流美ならあの時点で『あっそ、それもそうね』とか言って斬り捨てそうなんだが。 ……ま、幼馴染ってこういうものなのかな。 傍に居るのが普通って……。 凍弥 「……俺だってもう怒ってない。誤解も解けたんだし今まで通りでいいと思うぞ」 由未絵「……ホントに?」 凍弥 「もちろんだ」 由未絵「………………ゆびきり」 凍弥 「だめだ」 由未絵「っ……うぅ……」 凍弥 「よしやろうすぐやろうゆびきり最強!」 由未絵「……ん」 由未絵が小指を出す。 それに対して俺は親指を出した。 由未絵「………」 ……冗談の通じない状況のようです。 ごめんなさい真面目にやります。 凍弥 「よっと。ゆーびきーりげーんまーん、     うーそつーいたーら……柿崎を飲ます……ゆーびきーった」 由未絵「………」 凍弥 「俺は本気だ」 由未絵「………」 凍弥 「ごめんなさい冗談です。     トラブルが起きない限りは今まで通りだよ。あんまり気にするな」 由未絵「うん……」 凍弥 「くあ……あー、眠い。も少し寝るかな……って由未絵?」 由未絵「………」 由未絵がうつらうつらしている。 …………まさか。 いっぱい考え事したって……寝てないってことじゃ……? そ、そうだよ、由未絵がこんな早くに起きれるわけがない。 イコール……徹夜!? 凍弥 「…………寝てくか?」 呆れながら訊ねると、俺を見てほのかに顔を赤くしつつ、頷いた。 ……俺の布団でこいつが寝るのなんて、子供の時以来だな。 じゃ、俺は床ででもギュム。 凍弥 「……んあ?」 引っ張られる感触に振り返ると、由未絵が俺の寝巻きの袖を掴んでいた。 由未絵「……一緒に……寝よ?」 凍弥 「………」 顔を真っ赤にしながら言う由未絵。 べつに特別な意味はないんだろうな、無駄に純粋だし。 まあいいけど。 由未絵相手に、間違えても問題は起きることはないし。 俺はベッドに潜り直すと息を吐いた。 ……なんか最近大変だったな……。 とか思っていると、腕に何かやわらかいものが押し当てられた。 凍弥 「……?」 と思ったら、由未絵が俺の腕に抱きついているだけだった。 ……なにがしたいんだろな、こいつは。 まあいいや、寒い冬には丁度いい。 俺は仕返しとばかりに由未絵の体を抱き締め、その状態で眠ることにした。 なにやら『あわわわ……』とか聞こえたが、無視する。 …………ぐう。 ───……さて。 それから一時間と数十分後、例のごとく来流美が来訪したわけですが。 由未絵を抱き締めたまま眠る俺を見て絶叫。 由未絵は何故か眠れなかったらしく、俺の腕の中で目を回していたそうな。 なんで眠れないくらいで目を回すのかがまず解らんが─── 解るその前に俺が来流美に撲殺されそうです。 来流美「あんたって男は!あんたって男はぁああああああっ!!!!」 来流美が咆哮しながら俺を殴る蹴るどつく投げるの嵐。 眠気とは別の意味で薄れゆく意識の中、 男を平然と投げまわす彼女にはアマゾネスの名が相応しいと感じた。 …………で、今回のひとつの事件のオチ。 1位に賭けるのはもはや単調なので4位を狙い目にしたそうな。 なんとなく予想がつくかとは思うが、 学校に行った我らを待っていたのは……『4位:柿崎稔』という恐ろしい事実だった。 当然誰も賭けているわけがなく、賭け事は終了。 ああ、ちなみに俺と鷹志は同位の1位だった。 当然由未絵も1位で、凍弥くんと同じ〜と言って喜んだ。 俺は初めて手にした1位の称号に喜んだ。 ……が、翌日にもなると勉強した内容の全てを忘れ、あまり糧にはならなかった。 ───ちなみにそれは鷹志も柿崎も同様であったそうな。 所詮三馬鹿は三馬鹿ねと笑う来流美に殺意を覚えた冬の日の出来事でした。 Next Menu back