───終わりへの序曲。空に唱えた思い出の歌───
【ケース28:閏璃凍弥/…………】 ───しょうがない、素直に納得して由未絵の要求を受けるか。 凍弥 「……解った」 由未絵「ホント!?やったぁ!!」 凍弥 「で?何時に落ち合うんだ?」 由未絵「9時にあの空き教室で」 凍弥 「バイト終了時刻だろうが!殺す気か!!」 由未絵「あ、そっか……そうだったね」 凍弥 「10時。これで行くぞ」 由未絵「うんっ!約束だよっ!!」 凍弥 「じゃあな、風邪ひくなよ」 由未絵「おやすみ、凍弥くん」 凍弥 「はぁ……何やってんだろうな、俺……」 こうして、ようやく解放された俺は、帰路へと赴いた。 ……この約束が全てを崩すとも知らずに……。 ───……。 ……。 仕事場・鈴訊庵。 その洗い場に立ち、黙々と皿を洗う。 凍弥 「………」 来流美「どしたの?なんかソワソワしてるケド」 凍弥 「フットワークの訓練だ」 ガシャーン!! 来流美「じゃあ、なんで時計をチラチラ見てるのよ」 凍弥 「首筋を強化中なんだ」 ゴシャッ!パリーン!! 来流美「………」 凍弥 「………」 来流美「どうでもイイけどさ、少しは落ち着きなさいよ」 凍弥 「なにがだ?」 来流美「皿破壊するの何回目?」 凍弥 「2回だ」 来流美「8回目よ!!」 凍弥 「チッ、何を訳の解らん事を……」 来流美「解るわよ!!」 凍弥 「よし終了!最強!」 来流美「そこ!!勝手に終わらせない!!」 凍弥 「気にするな」 来流美「するわよ!!」 凍弥 「ホレ、もう9時だぞ」 来流美「まだ6時よ!!」 凍弥 「しまったバレた!」 来流美「アンタ、わたしのことバカにしてるでしょ」 凍弥 「俺は通常通りだ」 来流美「答えになってなァーい!!」 凍弥 「解ったから耳元で喚くな、やかましい……」 来流美「……あ、そう。せっかく手伝ってあげようと思ったのに……」 凍弥 「へっへっへ、アネさん。お茶でもいかぁっスヵ?」 来流美「素直でよろしい」 ───……。 ……。 凍弥 「ふぅ、今度こそ終了〜……」 来流美「おつかれさま、じゃあ先にあがるわね」 凍弥 「おう、おつかれさん」 来流美「ん、おやすみ」 そう言って帰宅する来流美。 凍弥 「……本格的に、やること無くなった」 仕事が終わってしまえば暇だった。 凍弥 「……俺も帰って少し休むか」 そして俺も仕事場を後にした。 ───…… ……さて。 凍弥 「……遅いな」 ただ今10時27分。 凍弥 「……どうせ捕まったんだろうな、まったく」 俺が暗い教室に来てから、そろそろ30分が経過する。 凍弥 「はぁ……」 【ケース29:支左見谷由未絵/お別れの言葉の無いお別れ】 由未絵「凍弥くん、怒ってるかなぁ……」 わたしは夜道を一生懸命走っていた。 約束した時間は大幅に過ぎ去っていたから凍弥くんが帰ってしまう前に到着したかった。 だから走っていた。 由未絵「寝ちゃうなんて、わたしの馬鹿ぁっ……」 やがてひとつの横断歩道が見えてくる。 由未絵「うぅ〜、赤〜……」 信号が赤だった。 ここは人も車もあまり通らないから、何度か信号を無視して走ろうかと思った。 ……でもわたしは待った。 もし事故にでも逢ったら、それこそ大変だと思ったから。 由未絵「うぅ〜、凍弥くんゴメンね……もう少し遅くなりそう……」 しばらく待つと、信号は赤から青に変わった。 由未絵「はうぅ、急がないと……」 それを確認してからわたしは走り出した。 でも…… 由未絵「え───!?」 横から車が勢いよく走ってきた。 多分、わたしと同じ考えだったんだと思う。 ここは人通りが少ないから。 信号なんて待つだけ無駄だと考えたんだと思う。 キィイィイィィィィッ!! 轟音のようにブレーキが鳴り響く。 でも、わたしの耳には何も聴こえなかった。 ただわけが解らなくて。 気づいたら……衝突音と共に、自分の体が宙に舞っていた。 ……やがて地面に叩きつけられるわたしの体。 一瞬、時間が止まった。 なんの音も完全に聞こえなくなって、何も動かなくて。 車のドアが開かれる音が聴こえて、ようやく時間は動き出した。 男  「どこ見て歩いてんだ馬鹿野郎っ!!」 男の人だった。 けれど、出てきた言葉はわたしへの非難の言葉だった。 男  「……あ?……血……!?ひ……うわぁああっ!!!」 男の人はわたしを見て悲鳴を上げた。 男  「こ、こいつが悪いんだ!!きゅ、急にッ……飛び出すから……!!」 そう言い残すと男の人は車に乗って去ってしまった。 由未絵「……コフッ……!……う……」 目が霞んでいた。 目の前が真っ白になりそうだった。 ……凍弥くん、怒ってるかなぁ……。 わたしが死んだら悲しい顔になっちゃうのかなぁ……。 『お前が冗談みたいなこと言うと笑えるって事だよ』 由未絵「……ア……ハハ……ほら、わたしの血……真っ赤だよ……。     鉄分取って……る……証拠だね……」 体が動かなかった。 体を刻むような激痛も一瞬だった。 荒く吐いていた呼吸も、しているのかも解らなかった。 最後に、ゆっくりと大きく呼吸する。 それで終わり。 後には何も残らない。 由未絵「凍弥く、ん……笑って……くれてる、かな……」 記憶の中の微笑みが冬空に暖かかった。 小さな灯が消えるように、意識も消えてゆく。 それだけは実感できた。 色々な思い出が頭の中をよぎる。 そんな中で、ふと、目につく景色。 由未絵「あ……」 雪が降っていた。 ゆっくりと、ゆっくりと。 白黒な夜空から雪が降っていた。 由未絵「凍弥くん……よかった……。     凍弥……くんが……笑って……くれてる……」 頬に涙がこぼれた。 由未絵「……雪の……景……色を眺めて……そっと歌……う……私の……勇気……」 ゆらゆらと雪が降り注ぐ夜の空。 そんな広く果てしない白黒の夜空に。 小さいけど、消えるような声だけど……悲しい歌が奏でられた。 その歌は泣きそうになるほど力無く、弱々しくて、誰も聴いていなかったけど……。 空だけはその歌を聴いて、雪という涙をこぼしていた。 その歌が最後まで空に広がる事は無かったけど。 少女の寝顔は、ずっと笑顔だった……。 Next Menu back