. SolitudeDiary






 3/ふたりの一日

───……。

ミア「彰くん……彰くん……」
彰 「ぐごー! ふんごー!」
ミア「起きてよ彰くん……起きてってば!」

ボゴッ!!

彰 「ギャア!」

脇腹に鋭い痛みを感じた。
ふと、目を開けてみれば逆さまの世界。
窓から差し込む朝日が、やけに眩しいと感じた瞬間でござった。

ミア「やっと起きた……おはよう、彰くん」

呆れたような息を漏らしつつ俺を見下ろし、朝の挨拶をする小娘。
足を整えているその仕草からして、俺の脇腹に蹴りを贈呈してくれたらしい。
いや、そげなことより……

彰 「あのさぁ小娘。なんで俺、吊るされてんの?」
ミア「いんがおーほー、って知ってる?」
彰 「知らん」
ミア「彰くん、少しは考えようよ……」

小娘が疲れた表情で逆さの俺を見下ろす。
おのれ小娘……間違い無く俺のことをとんでもない馬鹿だと思いやがったな?

ミア「彰くんって、とんでもない馬鹿だよね……」
彰 「ひでぇ……本当に思ってたなんて……」

しかもそんな、ため息をモシャアと吹き出しながら言わんでも。

ミア「そんなことよりさ、この文字消えないよ? どんな呪いを込めたの?」

小娘、己の額を指差しての質問。
その額には、俺が書いた『漢』という文字。
おお、なんと美しい文字……! 書道をかじっててよかった……!

彰 「呪いなんぞ込めずとも、油性ペンとはそういうものなのだ。知らんのか」
ミア「……知らない」
彰 「そっかそっか。教えてやるから降ろせ」
ミア「ヤ」

俺の願いは小娘の容赦無い一言によって断ち切られた。

ミア「ねぇ彰くん。彰くんがわたしにどれだけひどいことしたか解ってる?」
彰 「全然心当たりが無い。だから俺は潔白だ。降ろせ」
ミア「降ろす降ろさないの問題じゃないんだよ!?
   もう朝なんだよ!? どうしてすぐ起きてくれないの!?」
彰 「……む? するってーと……なに? また一日経ったの?」
ミア「経ったの、じゃないよ! もう一日しかないんだよ!?」

小娘は泣きそうな顔で怒鳴ってきた。
何故にそんな顔をするのか、まるで理解できん。

彰 「何を悲しむ小娘。俺が帰れば貴様の暮らしも安泰なのだぞ? 吊るすぞコラ」
ミア「吊るしてもいいよ……もっとわたしにかまってよ……」

小娘はとうとう涙をこぼし、俺の服を小さく掴んで俯いた。
このシーン、俺が吊るされてなけりゃあいいシーンなんでしょうけどね。

彰 「だめだ」
ミア「っ……!? こんなときまで……そんなこと言うの……!?」
彰 「いえ、感動の場面っぽいのを一度は台無しにしてみたかったんですよ。
   解るでしょ?」
ミア「解らないよぅ……っ!」

むう、ますます謎だ。
この小娘、何を狙ってやがる……!

彰 「で、なんで泣いておるのかね小娘。俺にも解るように平明に答えなさいな」
ミア「………」

黙秘か……いい根性してやがるぜ。
……いや待て、なんか言ってるな。

ミア「……よ……?」
彰 「む? なんぞね! ハッキリ言いたまえ!」
ミア「彰くんが帰っちゃったら、わたしまた独りぼっちなんだよ!?
   だからもっと一緒にいろいろしたいのに! どうして一日中気絶してるの!?」
彰 「なっ……無茶言うな馬鹿者! 気絶させたのは貴様だろうが!
   お、俺が根性で一日中気絶してるとでもいうのかね!?」
ミア「……違うの?」
彰 「違いますよ?」
ミア「………」

思いっきり疑いの眼差しを受けております。
いかん、イビキがわざとらしすぎたか?

彰 「違うっての! なにを疑っておいでか! 俺がそのような姑息な男に見えて!?」
ミア「姑息の塊だよ……いじわるだし、すぐにからかうし、人のこと吊るすし」
彰 「な、なんと! てめぇ鬼か!? 本人の目の前でそこまで言うことねぇじゃねぇの!
   言うに事欠いて姑息の塊などと!
   あ、でもそれなら相手するのも疲れるだろ? だから今すぐ俺を地界に帰せ」
ミア「やだ」
彰 「あ……そ」

溜め息がモシャアと出る。
なんとも勝手なおなごだ。

ミア「彰くん……今日一日、一緒にいろんなことしよ?」
彰 「いろんなこと、って……俺にその趣味はねぇぞ?」
ミア「そういうことじゃないよ!!
   言いたいことは言って、遊びたいことで遊ぼうって言ってるの!」
彰 「だったら最初からそう言いなさい! 紛らわしいじゃないの!」
ミア「言ったのに彰くんが理解しなかっただけでしょ!?」

グウウ……! 好き勝手に言いやがって……!
だが、こんな広い屋敷にひとりぼっちってのはウソじゃないらしい。
これだけ騒いでも誰も来る気配がないしなぁ。
……しゃあない、一日くらいいいかな。

彰 「……わぁったよ。今日一日、貴様に付き合ってやるから。だからひとまず降ろせ」
ミア「……約束出来る?」
彰 「馬鹿にすんなよ小娘。約束なんざ誰だって出来るわ」
ミア「そういう意味じゃなくて!
   わたしに付き合ってくれるってことを約束してくれるかってこと!」
彰 「構わんぞ」

そう言って頷いてみせると、小娘は小指を差し出した。

彰 「……やれやれ」

俺はそれに指を絡め、少し大きく呟き始める。

彰 「ゆーびきーりげーんまん」
ミア「うーそつーいたーら……彰くんを帰さない」
彰 「なにぃ!?」
ミア「ゆーびきーった!」

ぐっ……!

ミア「……あれ? ゆーびきーった!」

ぐぐっ……!
小娘が指をきろうとする刹那、俺はその小指の逃亡を阻止した。

ミア「……彰くん、知ってる? 指きりは指をきらないと指きりにならないんだよ?」
彰 「馬鹿野郎! ンなこと知っとるわ!
   それよりも誰がそんな条約に応じるかスダコ!! 」
ミア「誰が、もなにも……彰くんがだよ?」
彰 「応じん!」
ミア「自分は勝手なルール作って、人のこと吊るしたクセに……」
彰 「お前だって現在進行形で吊るしてるだろうが!!
   まず降ろせよ! 放置プレイなんて大嫌いだ!」
ミア「ほうち……? なにそれ」
彰 「いや、知らんでいい。ピュアなままで生きてくれ。
   そんでもって、『帰さない』ってのは却下。
   そんなルール、なくても付き合ってやるから」
ミア「……? まあいいや」

ヒュキィンッ!
どこか鋭い音が鳴り、
俺の足が天井から吊るされていた縄との感動の別れを果たしドグシャア!

彰 「ギャア!!」

見事に顔面から落下してしまった……おお痛い……。

彰 「しかしヒドイねキミ。なにも顔面から落とすことねぇでしょう……フンッ!」

ひとまず脱出できたところで、
家系の腕力にモノを言わせて、足に存在する縄の切れ端をブチブチィッと引き千切る。
つまりは逃げようとすれば逃げられたわけだが、
俺は場の雰囲気を大事にする男なのです。
なまじっか普通とは違う能力があると、そういう雰囲気が大事に思えるわけザマス。

ミア「彰くん、そんなどうでもいいことはいいからさ、遊ぼう?」
彰 「いや……そんなハッキリ『どうでもいいこと』って言わんでも……」
ミア「ね、一緒にいろんなことしようよ。楽しいこと、い〜っぱい!」
彰 「楽しいこと、ねぇ……うし! ならば地界に伝わる遊戯で楽しもう!」
ミア「わ、わ、なになに? どんなこと?」

小娘が遊びを待つ子犬のように、ハウハウと目を輝かせながら俺の袖を掴む。
俺はそんな小娘に溢れんばかりのドス黒い笑みを送りつつ言った。

彰 「えーとだな、まず貴様の足を縄で縛り……吊るす」
ミア「全然楽しくないよ!」
彰 「たわけ! 楽しむのはあくまで俺だ! 貴様の意見など知らん!」
ミア「わたしは『一緒に』って言ったんだよ!」
彰 「お、俺と一緒に吊るされてぇってのか!? 馬鹿かてめぇ! 何考えてやがる!」
ミア「そんなんじゃないだってば!! どうしてヘンな方向に話を持っていくの!?」
彰 「どうしてって……面白いからに決まっておるでしょう! 先のことなど知らんわ!」
ミア「………」
彰 「なんじゃい、急に黙り込んで」
ミア「あの……さ、彰くん……? もうちょっと……もうちょっとでいいから、
   少しは考えてから行動と発言をしたほうがいいと思うんだよ、わたし……」
彰 「………」

本気で心配されながら言われてしまった。
大丈夫か、俺の未来。

彰 「わぁった、解りましたよぅ……ふたりで遊べるものを考えりゃいいんだろ?」

まったく、末恐ろしい娘ッ子じゃて……。
将来確実に、マンガとかに出るような嫌味な魔女になるぜこいつ。

彰 「というわけで、まず貴様の足に縄を縛って……吊るす」
ミア「だから! どうしてソッチに行っちゃうの!? わたしはふたりで、って───」
彰 「お馬鹿! ちゃんとふたりでしょうが! 貴様が吊るされ、俺が笑う!
   OH! 最強の遊びじゃないですか! これでいこうぜ同志!」
ミア「い〜〜〜やっ!! 誰がそんなことするもんですかっ!!」

さっきとは打って変わり、
子犬のような輝いていた目は、獰猛にして飢えた獣のつぶらな瞳に変わっていた。
獣ってなんだかんだいって目がつぶらですよね、不思議です。

彰 「チッ……しゃあない。では小娘、貴様が考えろ。屋敷の案内でもなんでもいいから。
   あ、なんなら外に出るというのも」
ミア「だめっ!」

……む?

ミア「外は……ダメ」
彰 「ダメって何がかね。外になにかあるのか?」

もしや空中散布をしてるから出るな、とか言うんじゃああるまいな。

ミア「わたし……嫌われ者だから、外に出ると……」
彰 「嫌われ者? ……ああ、だから……」

『また、ひとりぼっち』……か。
やれやれ……仕方の無い。

彰 「よし、行くぞ小娘」

がばっと小娘を肩に担ぎ、ヒタヒタと歩く。

ミア「えっ? い、行くってどこに……?」
彰 「外」

外を指差しながら言ってやる。
すると、小娘は全力で暴れだした。

彰 「ええい、うろたえるなバカモンがぁーーーっ!!
   よいかね! 今から貴様に『孤独に打ち勝つ方法』というものを伝授する!
   それを覚えるのだ! ていうか覚えろ! さもなくば吊るす!」
ミア「そ、そんなの無茶苦茶だよ! お願いだよ彰くん、やめてよぅ……!」
彰 「黙れ! これは俺の勇者としての決定だ! 誰にも文句は言わせん!!」
ミア「勇者ってなに!? は、離してよ! 離してったらぁ〜〜っ!!」
彰 「ギャア! 耳にゴミが入ったーーーっ!
   おかげで何も聞こえーーーん! これは大変だーーーっ!」
ミア「わざとらしいよ彰くん!」
彰 「知らん!」
ミア「聞こえてるじゃない!」
彰 「アイヤーッ!? シマターーーッ!!」

エセ中国語を叫びながらも、小娘の言葉を無視して歩く。
魔術だのなんだのを散々と背中に放たれたが、
『傷を治す』というイメージを創造し続けていたので、どうということはなかった。
……痛いってことには変わりはないんですけどね。



───……。

屋敷の外。
見上げた空は蒼く、なんとも素晴らしい気持ちをもたらしてくれた。
家なんてものより自然が多いこの世界では、その空さえも綺麗に見えた。

彰 「……やっぱ自然っていいなぁ」

ボゴシャッ!

彰 「ベボッ!?」

地界には無い自然に心奪われた途端、小娘の肘が俺の後頭部を襲った。

彰 「って、なぁ〜にさらすんじゃい!
   人がせっかく良い気分になってるところに!」
ミア「降ろしてったら! わたしは屋敷の外には出ないって決めてるのに!」
彰 「安心しろ、もう外だ。見よ、この蒼空。心が晴れるってもんじゃないか」
ミア「こんなのいつでも見られるじゃない! ね、屋敷に戻ろうよぅ……!」
彰 「……あのね、地界は空も空気も汚いんじゃよ。
   よって、いつでも見られるってわけじゃないんだ。解ったかコラ」
ミア「え……あ、じゃあさ!
   彰くん、空界に住みなよ! そうしたらいつでも見れるよ!?」
彰 「……たわけ」

ぺしんっ。

ミア「きゃうっ!?」

ひどく冷静に、小娘の臀部を叩いた。

ミア「な、なにを……!」
彰 「つまらないこと言うな、ばか」
ミア「え……?」

解らない、といった感じの発言に、俺は冷めてしまった心を落ち着かせていった。

彰 「滅多に見れないからこそ、有り難味ってものは解るもんなんだよ。
   それに、言っただろ? 俺には俺の世界がある。
   この世界にいつまでも居るわけにはいかないんだ」
ミア「…………そっ……かぁ……」

寂しげな言葉を呟きながら、小娘は声を小さくしていった。

彰 「しっかし、高いところに建ててあったんだなぁ、この屋敷って。
   人との付き合いを遮断するにはもってこいの……お?」

丘の上の景色を見下ろすように眺めると、その先には村のようなものがあった。
……ふむ、小娘もなにやらブツブツ言ってるし、行ってみるなら今のうちか。
熱心に思考を続ける小娘をよそに、俺はのんびりと坂を降りていった。



───そんなこんなで下界でございます。

彰 「おお、村人がこんなにおるでよ。
   いんやァ〜、やっぱ都会はええもんだべさ。これでオラもシテーボーイだべ」

漫画の中の世界に入ったような景色がそこにはあった。
ゴブリンが居るなら死闘を繰り広げたい気分だが、そんな場合ではない。
ひとりの若者が、俺と小娘の存在に気づいたのだ。

村人「はっ……? あ、ああ……! 丘の魔女だぁーーーっ!!!」

やがて逃げ出そうとする若者……もとい、馬鹿者の首根っこを掴んで引き止めた。
その隙に他の村人はさっさと逃走した。

彰 「……ひどいね、キミが住んでる村の人たちって。キミ、見捨てられたんですよ?」
村人「ひっ……命ばかりは……!」

若者……いや、呼び名が無いのは困り者だな。
よし、今からこやつはムラビトンZだ。
ムラビトンZは小娘を見て体を震わせた。
と、いうことは?

彰 「……小娘、まさか貴様が殺人鬼だったとは……」
ミア「違うよっ!」

からかってみたら即答されました。

彰 「だってさ、このムラビトンZが貴様を見て『命ばかりは』って」
ミア「…………あのね、わたしはあることがきっかけで人間が信用出来なくなったの。
   だから人があの屋敷に近寄らないように、
   わたしが『人を魔術の実験に使って殺す魔女』だってウソを流したの。
   だからわたしは人殺しなんかじゃないんだよ?」
彰 「ほう……」
ミア「解ったでしょ……?
   わたし、外に出るとこんなふうに言われるから出たくなかったんだよ……?」

……いいや、解ってねぇズラ。
ここはそれを利用して遊ぶべきなのだ。
俺はそれを小娘に教えるべく、小娘を大地に立たせた。

彰 「よいかね小娘。まずここに真実を知らずに怯えてるムラビトンZがいます」
ミア「……? うん」
彰 「そんな彼にはひとつ、天誅を下してやりましょう。
   噂に翻弄されすぎて、目が合った人を殺人鬼を見るような目で見るのは間違ってる。
   と、いうわけで───ひじきが出ます」

頭の中に描いたイメージを、手の平に流すように弾かせる。
すると、モシャアとひじきが創造される。

村人「っ!?」

手の平いっぱいのひじきを見て、明らかに驚くムラビトンZ。
うんうん、そうでなくては面白くないザマス。

彰 「さあムラビトンZ!
   このひじきで強制顔面パックされて美肌になりたくなかったら、
   俺の言うことをよーくお聞き!!」
村人「ひぃい! 殺さないで殺さないで! 死にたくないぃ!」
彰 「ひじきで殺すかっ! ひじきで死ねるかっ! まず人の話を聞こうよキミ!」
ミア「それ、彰くんが言っても説得力ないよ?」
彰 「だ、だまらっしゃい! って、あーーっ!?」

気を抜いた瞬間、ムラビトンZは感心するスピードで走り去っていった。
襟首を掴んでた筈なのに、
服を脱いでまで逃走するとは……まあいいや、俺は服を手に入れた。
手に入れたものは装備するのがファンタジーの基本。
ということで───

彰 「イエイ」

さっそく見捨てられた服を、学生服の上から着てみました。
これでオラも空界人気分だべさ。

ミア「うわ……すっごく似合わない……」
彰 「なんだとてめぇ! ひじき食わせるぞこの野郎!」
ミア「しょうがないよ、ほんとに似合わないんだし。それより話してくれるよね?
   彰くんが言ってた『孤独に打ち勝つ方法』のこと」
彰 「む……」

小娘は真剣な表情で俺を見上げてきた。
俺はそのちっこい小娘を見下ろしながら、空界の服を脱いで、ひじきを捨てた。
どうか、大地の肥やしとなってくれぃ。

彰 「ところで……貴様ってやっぱりチビだよな」
ミア「ほ、ほっといてよ! これから大きくなるもん!
   そんなことで話を逸らさないでよ!」
彰 「逸らしたわけじゃないんだが……ま、いいや。
   これから貴様に『孤独に打ち勝つ方法』を教える!」

ただ話すだけなら屋敷でも良かったんじゃないかな、と言う小娘にデコピンを贈呈し、
俺は簡潔に話して聞かせた。

彰 「孤独に打ち勝つ方法……それは。『たったひとりの親友』を作ることなり!」
ミア「たったひとりの……親友?」
彰 「そう! 冗談を冗談として受け取り、
   好きなことを言い合い、笑いながらドツキ合える!
   そんな親友を作ることに、その道の答えがあるのです! 解るかね!?」
ミア「解らない」

即答でした。
ひでぇ……人には『考えてから発言しろ』とか言ったくせに……。

ミア「だってこの状況を見てよ。
   わたしが降りてきただけで、みんな家に閉じ篭もっちゃうんだよ?
   こんな状況で友達なんてできっこないし、そんな人と友達になりたくないよ……」
彰 「解ってねぇなぁ小娘。そんなことだからいつまで経っても小娘なんだ貴様は」

小娘の頭を、ポムポムと軽く叩きながら言う。
いやしかし……ぬおお、なんと叩き心地の良い頭か……!
って、そんなことは置いておくとして。

彰 「いいか? その親友ってのはな、自分の能力も性格も理解している上で、
   それでも自分と一緒に笑ってくれるバカヤロウのことを言うんだ。
   能力のことも知らんで、
   ある日に見せたら逃げ出すようなヤツを親友だなんて呼ぶか?
   つまり、最初はこれでいいんだよ。
   少しずつ自分のことを受け入れてくれるヤツが現れればな」
ミア「………」

小娘は真剣な表情で俺の話を聞いていた。
というか初めてじゃないですか? 小娘が俺の話を真剣に聞いたのって。
などと感心していると、くいっと俺の服が引っ張られた。
確認するまでもなく、小娘が引っ張ったのだ。

ミア「たったひとりの友達が居ればいいんだよね……?
   なんでも言えて、怒っても気にしないくらいの人が居れば……。
   それ、彰くんじゃダメなのかな……」
彰 「なんですと?」
ミア「だって……彰くんとはなんでも言い合えるし、叩き合えるし……。
   まだ笑い合ってはいないけど、
   魔術を見ても攻撃されても、わたしのこと恐がらないし……」

ぎゅうっ、と。
服を掴む手に力がこもるのが解った。

ミア「わたし、ずっとひとりだったから……こんなに人と話したの初めてなんだ……。
   彰くん、言うこともすることも滅茶苦茶だけど……。
   怒鳴りながらだってわたしの話を聞いてくれたの、彰くんが初めてなんだよ……」

声は震えている。
涙声に近いその声は、俺の心を……───ちっとも揺らさなかった。

彰 「あのね、俺には俺の世界があると言っておるでしょうが。
   なんのためにここにキミを連れてきたと思っておるのかね。
   キミの友達を探すためじゃないですか」
ミア「そ、そんなの無理だよ……! わたし、人間なんて信じられないもん……!
   そんな状態で友達なんて作れるわけないよぅ……!」
彰 「なっ……て、てめぇ!
   そりゃあアレか!? 俺が人間じゃねぇとでも言うのか!?」
ミア「そういう意味じゃないよぅ! お願いだから解ってよ彰くん!
   わたしはわたしの話も聞いてくれない人と
   友達になんかなりたくないんだよぅ!」
彰 「なにぃ!? そういうことは先に言わなきゃダメでしょ!
   これじゃあ俺の計画も全部水の泡じゃないか! まったく何を考えているのかね!
   じゃあもうこんなところには用は無い! 帰りますよ小娘!」

言いたいことを言い、俺はさっさとその場を離れ───

ミア「……彰くん。もしかして、全部わたしの所為にして逃げようとしてない……?」

───られなかった。

彰 「な、なにを言うのかね失礼な! 俺がそんな外道な人物に見えて!?」
ミア「彰くんこそ、自分が外道じゃないって思ってるの?」
彰 「……言うようになったねキミ」

何気に傷ついた───などということはないが、
出会って三日の小娘に言われることじゃないと思う。

彰 「あのねぇ小娘。外道ってのはもっと、残虐非道の人のことを言うんだぞ?
   俺みたいなナイスガイがそんな外道なわけがないだろうが」
ミア「そんなこといいから屋敷に戻ろうよ。……こんなところに居たくないし」
彰 「むぅ……しょうがねぇ」

第二次があるなら構想したいもんだが、ひとまずはアレだ。
第一次・小娘改造絵巻は失敗に終わった。
孤独ってのは俺も知ってるから、
小娘にはそんなものを忘れてほしかったのは事実だったんだが───

彰 「あ……」

……そういや、小娘には両親って居ないのかな……。
そんな、ふと思ったことを頭の中で繰り返しながら、小娘と俺は来た道を戻った。



───ざしゃっ、ざしゃ〜っ……じゃっじゃっ。
創造したフライパンの中で、メシが踊る。
全体に熱が通ったところで皿に移す。

彰 「ほい出来あがり」
ミア「……なにこれ」

小娘屋敷の厨房にて、俺は腕を振るっていた。
それというのも小娘の食生活に怒りを覚えて、喝を入れんが為である。
小娘ったら、ろくなモン食ってなかったんですよ。
毎食が非常食みたいなモノですよ? 体が弱るでしょうが。
あ、ちなみに材料は自分で勝手に創造しました。
俺がひとり居るだけで、家計簿という闇に光が差し込みますよ?
便利でしょう? 一家にひとり、弦月彰。

彰 「俺さま風、シャキっとレタスチャーハンだ。食ってみろ、美味だぞ」
ミア「レタス? ポリットでしょ?」
彰 「馬鹿野郎! 何度言われれば理解しやがるんだ!
   これはポリットじゃないよ……!
   たとえポリットだとしても、ポリットという名のレタスだよ……!」

俺は調理している最中に何度も語ったことを、今一度説教した。
が、小娘は見下すような態度のままに返す。

ミア「それは地界での呼び方でしょ? 空界ではコレのことはポリットっていうんだよ?」
彰 「そんなことは知らん! レタスさまの名前を変えようとするヤツは俺が許さん!」
ミア「やっぱり彰くんって変な人だよね……」

やかましいな……レタスを愛して何が悪いんだよ。
俺の中では『野菜の王様』って言えばレタスなんだよ。
……などとは言わない。
ひとまずはこいつの食生活を改善させるのが先だ。

彰 「オラ食え。さっさと食え」
ミア「……どうやって食べるの?」
彰 「うおっ!? 食い方まで知らんのか! そんなことだからお子様なんだよお前は!
   ホレ、このレンゲ使って食うんだ。食ってみろ」
ミア「う、うん……」

小娘はおぼつかない持ち方でレンゲを使い、小さな口でチャーハンを食べた。

彰 「さぁ! お味のほどは!?」
ミア「…………よく解らない」
彰 「な、なにぃ!?」

馬鹿な! この俺の腕をもってして、食人に『美味』の一言をもたらさぬなど!
な、なにかの間違いだ!

ミア「わたし、いつも食べてたもの以外のものを食べたことがないから、
  『おいしい』っていうのがよく解らなくて……」
彰 「おのれ小娘! ちょっと待ってろてめぇ!
   絶対貴様に『美味!』って言わせてやる!」
ミア「え? あ、あの……彰くん、聞いてる……?」
彰 「よし! 次はラーメンだ! 俺の中の究極のラーメンが出ます!」

ラーメンをさっさと創造して小娘に渡す。
ちなみに最初はチャーハンも創造しようと思ったけど、
小娘が俺の腕を疑ったので作ったまででございます。

ミア「わ……なにこれ」
彰 「ラーメンだ! 漢字で書くと〜……こう!」

俺は創造した紙にマジックで『拉麺』と書いて見せた。
が、小娘はラーメンに目がくぎづけで、こっちを見ようともしなかった。
おのれ小娘……。

ミア「ね、ね、食べてもいいのかな」
彰 「そのために創造したんじゃい! 食わなかったら吊るしておるわ!」
ミア「うん、いただきます」

小娘は先ほどのレンゲを手に、麺を掬おうとした。
だが、そう上手くいくわけもなく、麺はポチャンとスープに落ちた。

ミア「あぅ……地界の食べ物って食べ辛いんだね……」
彰 「……あぁもう! お前教養なさすぎ! ちょっとそこに座りなさい!」

まるで玉座みたいな椅子に小娘を座らせ、
その後ろから作法というものを教えることにした。
だって小娘ったら物事知らなすぎるんですもの!

彰 「ほら、ラーメンはこれで食べるんだ」

箸を創造し、小娘に渡してやる。
小娘もさすがに箸くらいは使ったことがあるらしく、持ち方はちゃんと……してなかった。
マジか……? そこから教えなきゃならんのですか……?
ラーメン伸びちまうよ……。




ぴしゃあん!

ミア「ひゃうっ!」

鞭が唸る。
といっても体罰する気は皆無であり、鞭は石造りの床を叩いただけである。

彰 「ええい違うザマス! 何度言ったら解るザマス!? 箸の持ち方はこうザマス!」

口調を変えているのは愛ゆえに。
厳しい教育といったら、やっぱりザマス語でしょう。

ミア「こ、こう……だよね?」

小娘が箸を持ち、俺を見上げる。
だが俺は鞭を『ぴしゃあん!!』と高鳴らせた。

ミア「ひゃうぅっ!? ま、間違ってた……?」
彰 「いいえ、合ってるザマス」
ミア「あぅ……だったらどうして鞭を鳴らすの……?」
彰 「鞭じゃねぇザマス。これは馬に乗る人が持ってる…………鞭、ザマスねぇ」

さて、自己懺悔を瞬間的に終わらせたところで、小娘の教育を続けましょうか?

彰 「よいザマスか? 箸をそう持った状態で、麺を上手く摘むザマス。
   そう、引っ掛けるように摘むザマスよ」
ミア「うん……あ」

つるっ───ぽちゃん。
小娘、あっさりと麺を落とした。

彰 「ッキィーーッ!! てめぇワタクシをナメてるザマス!?
   いっぺんシバキ倒されなきゃ解らねぇザマス!?」
ミア「な───どうしてわたしが彰くんに怒られなきゃならないの!?」
彰 「うっせーザマス! 口答えすんじゃねーザマス!!
   俺が教えて貴様が失敗しまくってるザマス! それだけで十分ザマス!」
ミア「わたしの失敗じゃないよ! 彰くんの教え方が悪いんだよ!」
彰 「な、なんザマスと!? てめぇやる気ザマス!?」
ミア「ふーんだ! 誰が召喚主か思い出させてやるんだから! 泣いても知らないよ!?」
彰 「おのれ小娘ェエエエーーーッ!!」

俺は拳に愛を込め、小娘に向かって猛然と走った!
やがて───どかぁあああああああん!!!

彰 「ヘキャアーーーッ!!」

小娘の光弾で、あっさりと吹き飛ばされました。

彰 「飛び道具なんて卑怯だぞてめぇ! 男なら拳で語れ!」
ミア「わたし女の子だもん。彰くんってそんなことも忘れるくらい馬鹿なの?」

『へへーん』と、まるで悪戯小僧のような態度で言う小娘。
だが甘いわ。
そんなことを言われたら、言い返したくなるじゃないですか。

彰 「そりゃあ忘れもしよう……
   そんな前か後ろかも解らんクソガキャアな体つきじゃあな」
ミア「なっ……!! 彰くんのばかーーーっ!!!」
彰 「ふはははは怒りおったわ! どうやら図星のようだブォッホォッ!!」

胸を張って高笑いしていた俺の景色が光でいっぱいになりもうした。
ふと気づけば俺の体は傾いて、やがて石造りの床にドシャアと倒れる。
ふふっ……勝ち誇るのに夢中で……飛んできてた光弾に気づけませんでした……。
俺ってもしかして……馬鹿……?
がくっ。



ちゃっちゃらちゃ〜!

彰 「え〜……と、いうわけで。 これより!
   小娘が望んだ計画表のもとに一日を過ごしたいと───思うわけねぇだろ馬鹿!!」

光弾で屠られそうになってから僅か5分で目覚めた俺は、
小娘が用意した時間割をテーブルに叩きつけた。
ご丁寧に音楽まで鳴らしたのは愛嬌ってやつです。
ええ、月の家系ってのは、何もないところから音楽とかも出せてしまうのです。

ミア「何が不満なの?」
彰 「全部じゃあ! せっかくのラーメンも無駄にしおって!」

ちなみに俺たちが居る場所は、
漫画の中で貴族が会議をするような、無駄に広い場所でございます。
無駄にデカいテーブルに無駄にデカい椅子、無駄に広いその場所において、
俺は少々どころか盛大に不満を抱いていました。
それはもう狂おしくも愛しいほどに。

彰 「よいか小娘。俺は俺のやりたいことをやるんじゃい。
   このような時間割を作られては、
   俺の自由がアオミドロの大きさほどにも無いだろうが」
ミア「あおみどろ? なにそれ」
彰 「微生物だ」

さてどうしたものか。
いや、どうもこうもない。
俺は自由を縛られるのが一番嫌いなのだ。
孤独が故にもたらされたものは『自由』。
それさえも奪われる理由や道理など……存在していい筈がない!

彰 「だいたいだな、貴様はなんの権利があって俺の自由を奪うのかね」
ミア「奪ってるつもりなんかないもん。い〜い、彰くん。
   その予定表の通りにしてくれないと、帰してあげないよ?」
彰 「お? 何故かね? 俺を帰さなければ貴様はウソつきになるのだぞ?」
ミア「『今日わたしに付き合ってくれる』って言ったの、誰だったっけ?」
彰 「へ? ───はぁっ!」

しまった、やっちまった!
こ、この俺としたことが……小娘に仕返しをされるとは!!
ここはなんとかやり過ごさなければ……!

彰 「えーと……知らん」
ミア「往生際が悪いよ彰くん!!」
彰 「なにが往生際じゃあ! 俺はまだピンピンしとるし生きとるわ!
   てめぇやっぱり粉骨砕身して吊るしてやる!!」
ミア「だからそんなことしたら彰くんは帰れなくなるの!」
彰 「なんだとてめぇ! あの時の約束はウソだったのか!? このウソつきめ!」
ミア「彰くんこそ約束を守ろうとしてくれないじゃない!
   わたしがウソつきなら彰くんもウソつきだよ!」
彰 「なんだと小娘ェエーーーッ!!」
ミア「なによぉーーーっ!!」

俺と小娘は激しく睨み合った。
が、ふと思い立ち、顔をグニィッと変形させてみせた。

ミア「ぷふっ!?」

結果、小娘は吹き出した。
やがてケラケラと笑い出す。

彰 「……また、つまらぬ勝利を手に入れてしまった」
ミア「く、くふふふふ……! に、にらめっこなんてしてないよぅ……!」
彰 「馬鹿め、日常とは常に戦いなのだ。地界ではアレだぞ?
   目が合ったら戦わなきゃならんのだぞ?」
ミア「えっ……!? そうなの!?」
彰 「ウソだ」
ミア「なっ……うきゃあああああああっ!!!」
彰 「クォックォックォッ……まんまと騙され───なにぃ!?」

勝ち誇った俺が見たものは、
大きなテーブルを飛び越すように俺に向かって飛翔してくる小娘の姿だった。
まさか───まさか小娘がフライングボディプレスを!?

彰 「甘いわーーーっ!!」

俺はそれを美しく回避してボガァアアアアアン!!!

彰 「ギャアーーーッ!!」

放たれた光弾で吹き飛ばされた。
が、小娘も無理な体勢で光弾を放った所為もあり、思いっきり転倒した。

彰 「───って、馬鹿!」

俺は、放たれた光弾で背中を燃やしながら、倒れた小娘に走り寄った。

彰 「う……こりゃひでぇ」

予想通り、小娘は頭から血を流してぐったりしていた。
まったく……家主なら、床が石造りだってことくらい考えて攻撃しろよな……。

彰 「だが、己の身を捨ててでも敵を屠ろうとするその意気やアッパレ!
   ということで、その傷……癒してしんぜよう」

能力のひとつ、月生力を解放して小娘の傷に触れる。
するとその傷はあっという間に消え、血の跡も消え失せた。
人間の力じゃないが、こういうものがあるからこそ、小娘の攻撃にも耐えられる。

ミア「あ……う……?」

っと、小娘復活。
うっすらと開けたその目が、俺を見つけたその刹那───

彰 「うわははははは! 自分で攻撃を仕掛けておいて自爆するとは!
   やはりその体に比例して、脳も薄いようだな! 馬鹿め! 馬鹿め!」

盛大に馬鹿にして差し上げました。

ミア「う、うううう……! 彰くんがいきなり逃げるからだよ! 彰くんの臆病者!」
彰 「フッ……攻撃するのに夢中で、
   床が石造りだということを忘れた貴様に何を言われようが痛くないわ!」
ミア「うぐぐぐぅううううっ!!」

がぶっ!

彰 「おぎゃわっひゃぁああああああっ!!!!?」

何を思ったのか、小娘は俺の首筋に噛みついてきた。
だがまあ……なんていうか、元気な姿を見たら……ガラにもなく安心した。
だからこれはきっと気の迷いなんだろう。
俺は、俺にしがみ付きながら首を噛んでる小娘を小さく抱きしめて、
その頭をポンポンと叩いた。

ミア「……あふぃらふん……?」
彰 「あんまり無茶すんな。孤独しか知らないままで死ぬのは悲しすぎるだろ」
ミア「………」

……きゅむ。
小娘の腕が、俺の首に回された。
と言っても絞めてるわけではなく、小さな体なりに抱き着いているのだろう。
ていうか、何かを疑問に思う時くらい、噛みついた口を離しましょうよ。
───なんてことを思っている時でした。
なにやらとっても焦げ臭い匂いがしたのは。

彰 「……? なんの匂いだ?」
ミア「熱っ!? わ、わぁーーーっ!!」
彰 「あ〜ん? どぎゃんしたのかね小娘」

正面から俺に腕をまわしていた小娘が、腕を引っ込めた。
そしてなにやら叫ぶが……何事?

ミア「あ、彰くん背中! 背中が燃えてるよ!」
彰 「背中? せ……お、おわぁーーーっ!!」

しまった! 小娘の介抱に夢中で忘れてた!

彰 「おあちゃぁっ!! うあちゃちゃちゃちゃちゃぁあああっ!!」
ミア「う、うわわぁーーーっ!!」

ややっ!? 小娘の野郎、ビビって逃げやがった!!

彰 「逃すかぁーーっ!!」
ミア「きゃうっ!?」

ドラゴンスープレックス型の羽交い締めで小娘の行動を封じ、
俺は燃え盛る炎の熱に根性で耐えた。

ミア「やっ、離してよ彰くん! わたし、火が苦手なんだよぅ!」
彰 「そげなこと知るか!
   てめぇ今、身も心もバーニングな俺を見捨てて逃げようとしやがっただろ!
   貴様ひとりで助かろうったってそうはいかねぇぞ!!」

そして俺は、頭に言い聞かせるのだ───心頭滅却しても熱いものは熱いと!
───ダメじゃん!! 結局熱いじゃん!!

ミア「やだやだやだぁああっ!! 離して! 離してよ彰くん!」
彰 「フフ……安心しろ小娘……。俺は、孤独な貴様ひとりを残して死なん……」
ミア「だからって一緒に死んでも意味ないよ!」
彰 「正論だ」

だからといって、逃がしませんがね。
さて、気になることはとことん訊く俺ですから、謎が謎のままなのは嫌でゴワス。
ということで。

彰 「ふはははは、小娘よ!
   俺の愛の炎に焼かれたくなければ、貴様が火が嫌いな理由を話せ!」
ミア「言ってることが滅茶苦茶だよ! 話しても離す気なんてないんでしょ!」
彰 「そうとも限らんぞ? 俺だって焼身自殺まがいのことはしたくない」

ちなみに、背中の火はもう消えていたりします。
『背中の火を消す霧が出ます』ってイメージを弾かせれば一発ですから。
それを小娘に悟られないように羽交い締めを実行したわけだし。

彰 「さあ言えーーっ! こんがり焼けたくなければ言うのだーーっ!」
ミア「う、う……うー……! 
   料理しようとして火傷したから嫌いになったの! 解ったなら離してよぅ!」
彰 「さっぱり解らん! だから一緒に死にましょ!?」
ミア「やだよぉおっ!! うわぁあああああああん!!」

いやァしかし、人をからかうのはやめられませんなぁ〜!
でも泣く子は苦手なんで解放します。

ミア「はっ……はっ……あ、あれ……? 火……消えてる……?」

解放された小娘はカタカタと震えながら、俺を見た。
その様子から、本当に火が苦手らしい。
が、そげなことはどうでもいい、からかえる時はからかうべきだ。

彰 「クォックォックォッ……なにを怯えておるのかね小娘。
   なにが恐かったのかね? えぇ〜っ? 言ってごらんよホラァ〜ッ!」
ミア「う、うぐぐ……! やっぱり彰くんて性格悪いよ! 最低だよ!」
彰 「馬鹿野郎! からかえる時にからかわんで何が人生か!
   俺の生き甲斐は人をからかうことぞ!? だからからかう! それが人生!」
ミア「うわ……やっぱり最低……」
彰 「や、やかましい!」

面と向かって最低って言われるのはやっぱり遠慮したい。
時折、自分を疑ってしまうし。

ミア「初めて彰くんがやさしくしてくれたと思ったのに……やっぱり彰くんは彰くんだね」
彰 「フフフ、馬鹿め。アレは貴様を油断させるための演技だ」
ミア「え……?」
彰 「ウィ?」

なんぞ? 小娘が目を見開いて俺を見つめておるでよ……もしかして惚れた?

ミア「あ……彰くん……? わたしの心配、してくれたんじゃなかったの……?
   わたし、嬉しかったのに……その気持ち、利用したの……?」
彰 「む……? いかにも!」
ミア「───……」

小娘の声があまりにも震えていたんで、なんと言ったのか聞き取れんかった。
だが無視して返事をしてみましたが……なにやら震えておりますぞ?

ミア「冗談……だよね?」
彰 「いかにも!」
ミア「なっ……彰くんのばかぁーーーっ!!」

ワケも解らず、半ばヤケクソ気味に頷いてみたら───小娘激昂。
放たれた光弾はあまりに早く、
あまりに雄大で───って考えてる暇があったら避けドガァアアアアアン!!

彰 「ギャォオオーーーーッ!!!!」

ああ、大方の予想通り、間に合いませんでした。
小娘のバカデカイ光弾が逃げ出した俺の背を襲い、
俺は冷たい石の壁に顔面から衝突した。

やがてズルズルと倒れた俺に、
どこか嬉しそうな顔で駆け寄る小娘の姿を見ながら、俺は意識を失ったのでした。




───えーと? はい。
気絶状態から回復した俺は、小娘に正座をさせて、向かい合いの説教してました。
もちろん石造りの床に正座なんてことは、いくら俺でもいたしません。
創造した座布団の上に座らせておりますから、肌を痛めません。
お肌のケアは身近なところから───とまあ、それはそれとして。

彰 「小娘、些細なことですぐ光弾撃つクセなんて、今すぐ直すべきザマス」
ミア「だって彰くんが……」
彰 「今は俺の話なんぞしてねぇザマス!」

小娘は正座なんかしたことが無いらしく、すでにモゾモゾと足を庇ってる。
……痺れてるな。

彰 「小娘よ、正座は終わりだ。足を伸ばして楽にするがよいザマス」
ミア「え? ほんと?」

ぱぁっ、と明るくなる表情。
そんな小娘の笑顔を穏やかに見守る。
やがて、小娘が足を伸ばした───刹那!

彰 「あたぁっ!」

その足を、創造した孫の手で『てしっ』と叩く!

ミア「うひゃわひゃぁあああああああああああっ!!!!!」

案の定、小娘は足を庇って絶叫。
あらやだ、面白いわこの娘ったら。
痺れた足に触れられるのも初めてみたい。

ミア「ななななにするの彰くん!」
彰 「いやいや、家の都合で正座に馴れてるとはいえ、やっぱり退屈じゃないか。
   だからこうして、些細だが愉快なひとときを作ろうとだな」

言いながらも『てしてし』と叩く。
そのたびに小娘は『わひゃあああ』と絶叫。

ミア「こ、このっ───っひゃあああああっ!!!」

魔術を使って俺を攻撃しようとしたのか、俺に向けて手をかざす。
が、痺れた足への攻撃に、魔術に集中できないらしい。

彰 「これは愉快! 散々と顔面を焦がされた我が恨み、存分に晴らしてくれようぞ!」
ミア「な、や、だだだだめだよっ!! 足に触ったら怒るよ!?」
彰 「構わん! のちの報復よりも今の嫌がらせだ! 電動マッサージ機が出ます!」

『じゃじゃーん!』という音とともに、電動マッサージ機を創造。

彰 「さあこれで───しまった電気が無い!」

いや、構うか! 電気さえも創造してくれるわ!
そもそもこの機械が動くイメージさえあれば十分だ!

彰 「スイッチオン!」
ミア「はうっ!?」

スイッチを入れると、マッサージ機が『オドドドド……』という独特の音を鳴らす。
その音に驚いたのか、小娘の肩が跳ねた。

彰 「さて問題です。この機械の用途はなんでしょう。
   1、小娘の足の痺れを治すために使用。
   2、小娘の痺れた足を攻撃することに使用。
   3、以下同文」
ミア「以下同文ってなに!?」
彰 「そーかそーか、3番がいいのかー。言うまでもないが、3番は2番と同じだぞ」
ミア「そういう意味じゃなくって!」
彰 「あたぁっ!」

ヒタッと、小娘の言葉を無視してマッサージ機を押しつける。

ミア「あわひゃひゃふひゃぁあああああああっ!!!
   ややややめっ……! 彰くんやめてぇえええええっ!!!
   きゃはははははははは!! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

痺れと足の裏へのマッサージの相乗効果で……小娘爆笑、大爆笑。

彰 「そーかそーか、そんなに楽しいか。
   ならば目盛りをマックスにしてマッサージを実行しよう!」

───それは、目盛りを『弱』から『強』に変えようとした刹那だった。
苦しみのあまりに小娘が暴れだし、振り上げられたその足が俺のつむじをゴシャアと襲撃!

彰 「ギャア!」

大激痛───しかしだ! これしきのことで挫けては、真の嫌がらせ好きとは言えぬのだ!
俺はチカチカと輝く視界の中で目盛りを『強』にし、小娘の様子を窺った!
が───

ミア「………」
彰 「あれ?」

小娘は涼しげな表情で俺を見るだけだった。

彰 「えーと、何故に平気な顔してるんですの? そこゆく小娘さん」
ミア「痺れ、治っちゃった。くすぐったいのにも馴れたよ?」
彰 「………」

……それってつまり?

彰 「は、ははは……そりゃあなによりだ。
   俺もこれを見越して、貴様に辛い試練を課せたんだぞーう?
   それを貴様は見事に乗り越えた。
   フッ、大した野郎だぜ……額の『漢』の字も伊達じゃねぇな。
   って、あの……小娘さん?
   なんで、今まで見たこともないような大きな光弾を右手に凝縮してるんですか?
   はは、やだなー、冗談じゃねぇザマスか。
   そうだ、話し合いをしよう。
   そうしたらきっと、分かり合えると思うんだ、ボクら───って!
   待て! 青すじブチブチ鳴らしながら光弾を大きくすんな!
   おやめなさい! 花火は人に向けるなって教わらなかったのか!?
   これだってきっと同じことなんですよ!?
   恐いって! やめろ! やめ───キャーッ!?」

───その景色が白かった。
俺はまるで、夜明けの陽の光が全身を包むような錯覚の中、
視界の全てを白く覆うバカデカい光に飲まれてギャアアアアアアアアア!!!!!




前略、親父さま。
俺は今、小娘が見る逆さの世界存在しております。
つまりは危うく殺されそうになったことで、小娘を吊るしながら説教をしているのですが。
広いわりに使ってない部屋が多いようで、
吊るすのに最適な……と言うのも妙だが、そんな場所で吊るしております。

彰 「答えなさい! 趣味は殺人かね!」
ミア「全然違うよっ!!」
彰 「ウソおっしゃい!
   ならばなぜ、あんな殺傷能力の高そうな一撃をお見舞いしてくれたのかね!
   嬉しくて死んでしまうところだったよ!」
ミア「ウソじゃないよ!
   たしかに威力が大き過ぎたのは誤算だったけど……彰くん生きてるもん!」
彰 「結果論だけ引っ張って、過程の問題を無視するでない!
   俺じゃなかったら死んでたと言ってるんだ!」
ミア「生きてるんだからいいじゃない!」
彰 「こ、この馬鹿めが! 一歩間違えれば人殺しに発展していたというのに、その態度!
   体罰にあたいする! 歯ァ食い縛れ!」

軽い助走から、靴を脱ぎ捨てての軽い跳躍。
やがて、低空ドロップキックの要領で、小娘の顔面に軽過ぎる蹴りを見舞ってやった。
───が、軽いはずのドロップキックで、小娘は活動を停止した。

彰 「ややっ!? これはどうしたことか!」

謎は謎を呼ぶものだが、ふと思い立った俺は───自分の足の匂いを嗅いでみた。
刹那、魂が幽体離脱したくなるほどに気が遠くなった。

彰 「ぶわっ! くさっ! ごほっ、ゴエェッ!!」

物凄い匂いだ……これ人類の匂いなのか!?
認めるのも癪だが、こりゃあくさい。
気絶するのも頷けます。

彰 「あー……俺の足の匂いを消し去る霧が出ます……」

やがて俺は、物凄く惨めな気持ちのままに、自分の足の匂いを消す霧を創造したのでした。
ええ惨めですとも。
惨めだから、小娘をさっさと起こすことにした。
だってさ、人ひとりが俺の匂いで『気絶』ですよ?
ショック受けないほうがどうかしてる。
おまけに罪悪感のひとつも覚えるってもので、俺は小娘を床に降ろした。

ミア「う……?」

しばらく頬を叩くと、小娘はゆっくりと目を開けた。
その目が、ぼ〜っと俺を映す。

彰 「目、醒めたか?」
ミア「……うん」

返事は立派だが、完全に意識が朦朧としているような状態だった。
朦朧っていうか、寝惚けてるような気がしないでもないが……
気絶して寝惚けるのは、かなり違うと思う。

彰 「すまん。さっきのは完全に俺のエチケット不足だった」

悪い、と小さく頭を下げると、小娘は目をクワッと開き───

ミア「彰くん、熱でもあるの!?」

そう叫んだ。
おろおろとしている様子から、本気で心配されていることが窺える。
ははは、まいったなぁオイ……。
せっかく降ろしたっていうに、また吊るしたくなっちゃったよ俺。

彰 「あのなぁ小娘……俺だって悪いと思ったときは謝るぞ。それくらいの良識はある」
ミア「ウソだよ!」
彰 「ウソって……あ、あのなぁ」

そんな力いっぱいに否定されるとさすがにショックだ。
まあ俺もしょっちゅう、小娘の言葉を強引に否定してるけど。

ミア「彰くん、正直に話して。頭打ったりしたの?」
彰 「……この短い時間の中で、貴様が俺をどういう目で見てたのかが解った気がする」

俺もこういう性格だから仕方ないかもしれないけど。
けど、このままじゃあダメだな。
いくら孤独だっていったって、いつかは誰かと一緒になるのかもしれないんだ。
『謝る』ってことくらいできないようじゃ、底が知れる。

彰 「俺はべつにどこもおかしくなんかない。言っておくけどな、小娘。
   悪いことをしたのに謝れないってのは心が貧しい証拠だぞ。
   孤独だった所為でそういう知識が薄かったにしても、
   それは覚えおかなきゃいけないことだ」
ミア「知ってるよそれくらい。でも彰くん、人のこと吊るしても謝らないよ?」
彰 「吊るしはするが、実際に傷つけてないからな。
   頭に血が昇る以外に辛いことなんてないだろ?」
ミア「精神的に嫌だよ?」

ぬ……たしかに。

彰 「だがしかし、謝るってことは悪いことじゃない。だから謝れ、この俺に」
ミア「どうして?」
彰 「殺人未遂したから。相手が俺じゃなかったら、こうも穏便にいかないのですよ?」
ミア「ふーん……でも謝らないよ」
彰 「む……」

小娘はつーんとソッポを向き、俺の目を見ようともしなかった。
完全に、自分は悪いことをしていないと言い張る気なんだろう。
そりゃあ結果から言えば俺は死ななかった。
が、もし召喚されてたのが俺じゃなかったら……今ごろソイツは死んでいた。

彰 「あのな、小娘……」
ミア「だって彰くん生きてるもん。彰くんは地界の人でしょ?
   彰くんじゃなくても、同じ地界の人が光弾で死ぬはずないよ」
彰 「……はぁ、そんなことだろうとは思ったけど」

呆れた。
会ったばっかりのときに言ってやったのに、もう忘れてやがる。

彰 「月の家系ってのは特別なんだ。とくに弦月はな。
   ちょっとやそっとじゃ死なないし、傷を治すことだってできる。そう言っただろ?」
ミア「そんなの覚えてないよ」
彰 「……いい根性してるねキミ」

さて困ったぞ?
どうやってこの小娘に謝ることを教えたもんか。
いや、謝ることは知っているんだろうが、ようするに俺に謝りたくないわけで……むむむ。

彰 「……待て。いつから俺はそんなお節介男になった?」
ミア「彰くん?」
彰 「ちょっと待て。考えごとをさせてくれ」

そうだよ、べつに俺は心やさしき男を気取ってたわけじゃない。
どうせ今日の夜には帰る野郎だ。
だったらべつに、小娘がどんな生き方をしてようが関係ないんじゃないだろうか。
───けど、帰る前に惨殺されたりしたら困るのも事実。
ということで……よし、これは俺の未来のためだ。
小娘のためなんかじゃない───よし納得。

彰 「……小娘よ」
ミア「なに? 彰くん」
彰 「お前がなんて言おうが、ここに召喚されたのが俺じゃなかったら人殺しになってた。
   お前はそれをどう思う?」
ミア「わたしが召喚しちゃったのが彰くんじゃあなかったら、
   光弾を撃つようなことにはならなかったと思うよ? 彰くんはそれをどう思う?」

……しまった、たしかにそうかも。
だがしかし……
召喚されてから突然に『言うことを聞きなさい』とか言われたら……どうだろう。
今の地界人なら絶対に、反発して見下した態度をとるに決まってる。
それを小娘が見逃したりするだろうか。
いや、絶対に見逃さないな。
言い合いが始まって、自分が不利になった途端にドカーンだ。

彰 「馬鹿」
ミア「え? な、なんでいきなり馬鹿って言うの!?」

小娘がその手に光を凝縮させる。
ほらみろ、たった一言でこれだ。

彰 「お前さ、『馬鹿』の一言で光弾をかまえておいて、
   よく『撃つようなことはない』なんて言えるな」
ミア「あ───うぐ……!」
彰 「しかも謝ることすらできないくせに、
   俺を『たったひとりの親友』にしたいなどと……笑えぬ冗談よ!
   ふはははははは! この愚か者めが───って、しまった笑っちまった!」

なんとも恥ずかしいかぎりだ。
有言実行できる人ってスゴイよね。

ミア「……あの……じゃあ、わたしが謝ったら……
   『たったひとりの親友』になってくれる?」
彰 「だめだ」

即答。
それとこれとは話が別だし。

ミア「もぉーーーっ!! 彰くんって言うこともやることも滅茶苦茶だよ!
   あれもダメこれもダメじゃあ、世の中を渡っていけないよ!?」
彰 「そんなこと小娘に心配されたくないわ!
   それに『親友』ってのは
   『ハイそーですか』って決めていいもんじゃねぇだろうが!」
ミア「そうだけど、彰くんならいいって思えるもん!
   他の人を探すなんて面倒くさいもん!」
彰 「面倒ってだけで俺を選ぶんかい!
   俺の言うことが滅茶苦茶なら、貴様の言うことも滅茶苦茶だ馬鹿!」
ミア「滅茶苦茶でいいよ! だいたい彰くんが悪いんだからね!?
   わたしにこんな感情を持たせるから!」

───む?
俺が悪い? こんな感情?
……えーと、よく解らんが、それってつまり……

彰 「惚れた?」
ミア「惚れないってばっ!!」

かなり本気で怒鳴られてしまった。

ミア「……彰くん。わたしは孤独に馴れてたんだよ?
   『寂しい』なんて感情も小さなものだった。
   それなのに彰くんの所為で『寂しい』って感情が勝っちゃったの。責任とってよ」
彰 「異義アリ! なんですかそのクソッタレな方程式は!
   なによりもまず意味不明すぎる!
   貴様が勝手に召喚したのにどうして俺の責任になる!」
ミア「召喚しようとしたのは死神だもん。
   死神なら静かな会話ができたし、興味が無かったらすぐに帰してたよ?
   彰くんがこんなにうるさい人だったから悪いんだもん」
彰 「なっ……人の性格にツッコミ入れて、俺を帰さないってハラかてめぇ!!
   そんなもん却下だ却下! 夜になったらちゃんと帰すんですよ!?」

滅茶苦茶なことばっかり言う小娘に、一気に言い放った。
小娘は少し驚いていたようだが、やがて俺をキッと睨むと、口を開いた。

ミア「……だ、だから……!
   帰っちゃうなら『友達』になってくれるくらいいいじゃない!!
   友達が居るってことくらい頷かせてよ!」
彰 「ぬ……」

自分の内側から湧き出したなにかに飲まれるのを耐えるように叫びだした小娘。
恐らく本気の本気、心からの叫びだろう。
偉そうなわけでもなく、挑戦的なわけでもない。
ただの、ミア=チェルシートンっていう小娘としての言葉が、そこにはあった。

ミア「心の中でくらい……ひとりぼっちじゃなくたって……いいじゃない……っ!」

なにより、こぼれる涙がそれを心からの言葉だと理解させた。
……こいつも孤独だったのだと。
それが辛かったから、死神召喚なんてことをしようとしたのだと。
けど死神なんてものは感情が無い無機質な存在だって聞く。
そんなヤツを召喚して、こいつは一時でも笑えただろうか。

彰 (……はぁ、情でも移ったかな……)

頭をガリガリと掻く。
孤独が嫌で無理矢理明るい自分を作って、
それを自分とした俺と重なってみえた少女を前に。
……俺はまだ、嫌々ながらも人垣の中で生きてきたからいい。
けど、小娘はこんな、見上げても見渡しても石ばっかりの屋敷の中でたった一人だ。
これだけ暴れても騒いでも誰も来ないってことは、それで間違いないだろう。
立派な建物だけど、立派なだけに小娘一人じゃ広すぎるし寂しすぎる。
バカに走って周りを躱しながらも、
一応は家族と一緒に居た俺とは状況からして違う。

ミア「だから……だから……彰くん……わたしと友達に───」
彰 「ならぬ!」
ミア「なっ……」

だが頷けないものは頷けない。
何故って、『友達』ってものはひとりでいいから。
そもそも『帰ってしまうから友達になれ』ってのはダメだ。
投げ遣りな感があるし、なにより───

彰 「よいかね小娘。遠距離恋愛がうまくいかないように、
   そんな急造の友情なんて脆いもんだ。
   いや、まず根本的に貴様と俺が友人になる、ということが考えられん。どうだ?」

諭すように言ってやる。
と、小娘はこんな返答しか寄越さない相手を思って泣いたのが悔しかったのか、
ぐしぐしと力強く涙を拭うと裂帛の気合とともに叫んだ。

ミア「彰くんのばかぁっ!! わたしがいいって言ってるの!!
   彰くんは黙ってわたしの友達になればいいの!!」

お、おおお……これがさっきまで泣いていた子供の気迫だというのか……!?
物凄い迫力だ……! 思わず頭の中がひどく冷静になってしまうくらいに……!
えーと……あれだな、うん。普段怒らない人に怒られたときのような感覚というか。
だがこのままのまれてしまってはいかん。
そう判断した俺は、出来る限りの気迫を以って真正面から言葉を返した。

彰 「なぜかね!? そういやそうだ、キミの考えがまず解らん!
   どうして俺を友達にしたいのかね! 400字以内で述べてみよ!」
ミア「心が許せるからだってば!」
彰 「それじゃあなにかね!? 貴様は心が許せる輩には魔術をぶっ放すのかね!?
   いやいやいや違う! 話が流れてる! 謝れこの馬鹿!
   話を逸らそうったってそうはいかねぇぞ!?」
ミア「あー、はいはい、ごめんね彰くん」

……小娘はとても面倒くさそうに謝りました。
しかもそのあとに、その目が『……満足?』と、見下してきやがるのです。

彰 「おのれ小娘ぇえええええええっ!!!!」
ミア「彰くんの分からず屋ぁあああっ!!!!」

そして始まる言い合いと攻防。
攻防といっても、俺には小娘の光弾のような飛び道具がないので、
雪球を創造しての投擲だが。

彰 「オゥルァッ!!」
ミア「きゃっ!?」

投げた雪球が、小娘の顔面に『ボゴシャッ!』と弾ける。
硬度はそう高いものではないので、遠慮無しに投げられます。

彰 「……?」

状況の確認をしていると、ふと気づいたことがあった。
人種差別をしない俺が、なんだかんだで小娘には加減をしていることに。
今までの俺ならば、こんな柔らかい雪じゃなくて、
強く握れば氷球にでもなりそうな雪を創造していたに違いない……。

彰 「……これはこれは」

認めざるをえまい……なんだかんだで俺も、
遠慮無しに怒声を飛ばせる小娘のことが気に入っているということを。
フッ……俺も丸くなったもんだぜ……。
だが気に入ったならばこそ、対等に戦う意味がある!

彰 「この部屋の床を覆うほどの雪が出ます!」
ミア「わっ!?」

まずは創造。
床を覆い尽くす雪を用意して、その雪を拾いあげて雪球にする。
驚いた小娘など、このさい無視だ。

彰 「さあ小娘、貴様も雪球を作れ! いわばこれは同じ武器、同じ状況での聖戦ぞ!」
ミア「……勝てたら友達になってくれる?」
彰 「そうさのう……戦いの末に芽生える友情もあるらしいしな。
   よいじゃろ、貴様が勝ったら友達になってしんぜよう。
   だが……貴様が負けたら、
   悪いことをしたら謝るということを胸に刻み、忘れるな。よいかね?」
ミア「う、うん! 覚悟してね彰くん!」
彰 「いい度胸ォオオ……!!」

小娘は小さな手で、頼りない雪球を作った。
とても冷たそうに雪球を作る姿は、どこか楽しそうだったが───

彰 「小娘、これ使え」
ミア「え? あ……」

俺は手袋を創造して、小娘に投げた。
どうにもまいったね、俺ってこんなにやさしかったっけ?

ミア「あ、ありがと、彰くん……って、この文字、なに?」

小娘が見下ろした手袋には、『漢』の文字がうざったいほどに装飾されていた。
ああもちろん、俺がそうイメージしたからだ。

彰 「俺様特製、漢手袋だ。身につけると雄度が増すぞ」

男なら喜ばないヤツはおるまいて。
だが小娘はそれをゆっくりと手につけると───

ミア「……絶対に叩きのめすから」

何故だかとても大きな怒気を抱きながら、俺を睨んできました。
その怒気に同調するように、額の『漢』の文字もヒクついている。
えーと……まあ、アレだ。
一応『雄度』は上昇したということで、効能は立証されたわけですね?

彰 「それではルールを説明する! 互いに使える武器は」

ボゴシャアッ!

彰 「ベップ!?」

喋り途中にもかかわらず、雪球が俺の顔面に熱烈なアタックをしてきました。
嗚呼、雪球さん……!
あなたがそれほどまでに俺を愛していたなんて───ってそうじゃねぇだろ!

彰 「なにをするのかね小娘! まだルール説明の途中ぞ!?」
ミア「あはっ……あははははは! おもしろいー!」

ボフッ、ボスッ。
投げられた雪球が俺の体に弾ける。

彰 「こ、これ! やめんか!
   ルールも決めんと、どうやって勝負をつけるつもりじゃ!」
ミア「あはは、あははははっ!」

小娘は笑いながら雪球を投げる。
その威力はたいしたことはないが、何度も当てられると……やはりムッとくる。

ミア「彰くん、弱いねぇ〜っ♪」
彰 「な、なんと!」

まだ投擲もしていない俺にこの言い草!
おのれ許せん、成敗してくれる!

彰 「おのれ小娘がぁっ! 調子に乗るでないわぁーーーっ!!」
ミア「きゃーっ♪」

こうして小娘との雪合戦の火蓋は、ぶった切られて落下した。
最初は笑いながら攻防をしていた小娘だったが、梅干入り雪球を投げられたことで激怒。
ちなみになぜ梅干だったかというと、石を入れるのはさすがに反則だと思ったからです。
なんとなく、梅干って石に似てる気がしたので。
が、激怒した小娘の勢いはすさまじく、顔を真っ赤にしながら攻撃のみに集中した。
顔が赤かったのは顔面に炸裂しまくった梅干の所為か、
小娘の怒りの所為かは不問にします。





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