───穏やかなサボリ日のコト───
がちゃっ!バタンッ! 玄関ドアを開けて中に入り、すぐにまた閉める。 ……ふう。 まさかあそこまでしつこく追ってくるとは思わなかっドタッ!バタバタバタッ! 遥一郎「お?」 なにやら慌しく聞こえる物音。 しばらくしてノアが走ってきた。 ノア 「も、申し訳ありません!お出迎えが出来ませんで……!」 遥一郎「いや、いいよ。学校に間に合わなかった俺が悪かったんだから」 ノア 「いえ、それでもお出迎えをするのは使用人としての職務です。     わたしは誇りをもってそれをこなすことで、     マスターに仕えることを実感できるのです」 遥一郎「いや……大袈裟だって。そんなに固く考えることはないと思うよ。     大体にして俺のことはマスターだなんて呼ぶことはないんだから」 ノア 「お断りします。マスターはわたしが唯一認めた主人です」 遥一郎「………」 融通の利かないヤツじゃのう。 ノア 「それよりもマスター。これから如何なさいますか?」 遥一郎「あーうー……それを考えてたんだけど……」 どうしようか。 あ、ひとまず家には上がるとして、と。 遥一郎「ひとまずリビングに行って考えるよ」 ノア 「それでしたら何かお飲み物を用意いたしましょうか。紅茶でよろしいでしょうか」 遥一郎「いや、悪いけど飲み物はいいや。んー……サクラは居る?」 ノア 「先ほど自室で匕首の手入れをしていましたが」 遥一郎「……後でいいか。それじゃあヒナ……は学校だな。フレアは居るかな」 ノア 「フレアさまは自室にいらっしゃいます。     ご自分の荷物が届けられたとかで、それを整頓しているようです」 遥一郎「荷物って……」 まさか……あれか? 遥一郎「そ、そっか。それじゃあ俺はその整頓でも手伝うかな……」 ノア 「……そうですか」 ノアは少しだけ寂しそうな顔をすると、キリッと表情を戻して一礼をして下がった。 遥一郎「………」 俺は小さく息を吐くと、フレアの部屋を目指した。 ─── ……コンコン。 小さくノックをする。 声  「はーい」 そして聞こえるフレアの声。 その声を確認してから部屋に入った。 ……で。 遥一郎「……予想通りだな」 フレア「はい?」 目を爛々に輝かせて、和服やら刀を整理するフレア。 本当に予想通りだった。 遥一郎「……どこで刀なんて手に入れたんだよ」 フレア「レイルさんがサービスだって。天界の銘刀、震天丸です」 シャアアア……と刀を抜いて、その刀身を眺めるフレア。 ……すごくいい顔してる。 遥一郎「レイルって……サクラ達が言ってたレイルってヤツ?」 フレア「ええ、天界の知り合いです。言ってしまえば……兄みたいなものですね」 遥一郎「…………俺としては一発でも殴りたい相手No.1の存在だが」 フレア「彼女達の性格ですか?」 遥一郎「聞けば、教育係がそいつとそいつの弟らしいじゃないか。     個人的にステキに殴りたいぞ」 フレア「やめておいた方がいいですよ。     戦闘における能力は天界でもトップクラスですから」 遥一郎「………」 なんか納得いかん。 世界は悪人の味方なんですか神よ。 フレア「それより何か用があったんじゃないんですか?」 遥一郎「ああ、そうだそうだ。えっとさ、学校に遅刻した上に締め出されたんだ。     おかげで臨時の休日みたいなことになっちゃってさ。     やることが無いから手伝おうかと」 フレア「うーん……気持ちは嬉しいんですけど、     こればっかりは人に任せる気が起きないんですよ。     なんといってもコレクションのようなものですから……」 倭に染まった部屋を見てうっとりするフレア。 マニアというわけではなく、ただ好きなのだ。 ……いや、それをマニアって言うのか? フレア「…………あ、そうだ。与一さん、そこの木を持って立っていてもらえますか?」 遥一郎「へ?ああ、いいけど……」 ひょいと、置いてあった木を拾う。 遥一郎「どうするんだ?こんなの」 フレア「動かないでくださいね」 遥一郎「え?」 フレアが刀を構える。 居合の構えだ。 ……って!居合の構えだ。じゃないっての! 遥一郎「ちょ、ちょっと待った!心の準備がっ!」 フレア「閃ッ!!」 キヒィンッ!! 遥一郎「………」 フレア「………」 ……パチン。 抜刀した刀を鞘に収めるフレア。 と、同時に俺が持っていた木がカッ!という音とともに割れる。 遥一郎「ひ、ひぇえ……!」 フレア「……いい刀ですね。切れ味も申し分無いです」 遥一郎「……フレアさ、いつ居合なんて習ったんだ……?」 フレア「独学です。少しずつコツコツと」 ……勘弁してください。 遥一郎「……あ、あのさ。こんなことじゃなくて、他にやることないかな」 フレア「ないです」 キッパリとした口調が放たれる。 ……何気にショックだった。 遥一郎「むー」 フレア「あ、勘違いしないでくださいね。手伝ってもらうのが嫌なわけじゃないですよ」 遥一郎「ああ、それは解ってるよ。でも無理を言うのも悪いから。     ……うん、自分の部屋で勉強でもしてるさ。お邪魔したな」 フレア「邪魔なんかじゃありませんよ。またいつでも来てください」 遥一郎「気が向いたらな。それじゃ」 ドアを開けてフレアの部屋をあとにした。 さて、どうするか……と、部屋を出た廊下でぶつぶつと考える。 遥一郎「まあ、ここでこうしてても仕方ないし……」 ……そうだな、発言通りに部屋に戻るか。 あー、何もないって暇にイコールしますなー。 これなら自然と田畑がある田舎の方が最強なんだけど。 あ、川は譲れないな。 川があってこそだ。 キィ、パタン。 遥一郎「お?」 サクラ「やぅ?」 妙な声を出して振り向いたのはサクラさん。 丁度、部屋から出てきたところのようだ。 遥一郎「やあサクラ、壮健かい?」 サクラ「壮健ってなにです?」 遥一郎「壮快なほどに健康かって意味だ。多分」 サクラ「そですか。サクラ壮健です」 遥一郎「うむ、俺も壮健だ」 サクラ「よかったです〜」 遥一郎「うむ、よかったよかった」 …………無意味に笑い合った。 遥一郎「ところでサクラ」 サクラ「なにです?」 遥一郎「ヒマか?」 サクラ「はう、いま丁度、匕首の手入れが終わったところです。だから今はヒマです」 遥一郎「そかそか。ちょっと話をしたいんだが、いいか?」 サクラ「ヘイ叔父貴、問題ないです」 遥一郎「誰がオジキだ誰が」 サクラ「ちょっとした冗談です。それより何処で話すです?」 遥一郎「俺の部屋に行こう。サクラの部屋は個人的に落ち着けない」 サクラ「そです?とっても落ち着くです」 遥一郎「それが噂に名高い個人差だ。覚えておけ」 サクラ「はう……奥が深いです」 深くない深くない。    遥一郎「まあそれは置いておくとして。こっちだ、付いてきてくれ」 サクラ「与一の部屋くらい知ってるです」 遥一郎「知ってる。言ってみたかっただけだ」 サクラ「……与一って時々変です」 遥一郎「天才よりも変な方がいいんだぞ」 サクラ「天才になる気はないです?」 遥一郎「天才ってのは自然になるものであって、なろうと思ってなるものじゃない。     ……って、昔のお偉いさんは言ってたぞ」 サクラ「簡単にはなれないです?」 遥一郎「つまりさ、『天才』って称号は自分でつけるんじゃなくて、     人が自分を認めてくれた際に、人が自然につけてくれるものだと思う。     自分で天才とか言っているヤツはよほどの自信家か馬鹿のどっちかだ」 サクラ「そですか。与一はどっちです?」 遥一郎「もちろん『変』だ」 サクラ「変人です」 ぽかっ。 サクラ「みうっ!」 遥一郎「だからってそう言われて怒らないヤツは居ないだろ……」 サクラ「うー……」 困り顔をしながらついてくるサクラ。 俺はやがて見えてきた自室になんとなくな安心感を覚えながらそのドアを開けた。 遥一郎「ああ、自室があるってスバラシイ。自分だけの空間ってこういうものだよな」 うむぅと頷く。 その横で俺の真似をしてうむぅと頷くサクラ。 サクラ「与一の部屋、なにもないです」 遥一郎「置くものがないと言ってほしいな。あんまり多すぎても邪魔なだけだし」 サクラ「もっと雄々しく飾るです」 遥一郎「……あのね、俺は天界人みたいに趣味に色濃くないの。     ひとつの趣味にそこまで没頭できるキミ達が変なの」 サクラ「極道は最強です」 遥一郎「そういうところとかね。サクラは極道、ノアはメイド、フレアは倭道。     ……ひとつのことでそこまで出来る人ってそうそう居ないぞ?」 サクラ「……染まるです?」 言いながら匕首を取り出すサクラ。 遥一郎「染まらん」 サクラ「今ならサクラが一から教えてあげ」 遥一郎「染まらんっ」 サクラ「……つまんないです」 頬を膨らませるサクラに、俺は苦笑しながら頭をポンポンと叩いた。 遥一郎「あのなぁ、俺は趣味のことでお前を呼んだんじゃないよ。     ちょっと話したいことがあったんだ」 サクラ「話したいことです……?」 ちょっと『?』顔をしながら首を傾げるサクラ。 だが何を思ってか、部屋の中をキョロキョロしだし、俺を見て サクラ「あ、愛の告白です!?」 そう叫んぼかっ! サクラ「みうっ!」 遥一郎「そんなわけあるかっ!」 サクラ「みぅぅ〜……」 サクラは頭を押さえて、目の端に涙を浮かべながら俺を見上げた。 俺はそんな様子を見て一度咳払いをして話を開始することにした。 遥一郎「えっとさ、サクラ」 サクラ「………」 物事に感心のないような猫目で俺をじぃ〜〜っと見るサクラ。 ゲンコツはやりすぎたらしい。 遥一郎「お前に姉って居るよな?」 サクラ「………」 未だ猫目のサクラ。 なにかしらの反応があると思ったんだけどな。 遥一郎「さっきまでその人と会ってたんだけど、いつから地上に居るんだ?」 サクラ「………!」 が、突然の反応。 サクラ「お姉さま、居たです……!?」 遥一郎「居たです」 うん、と頷いてやる。 サクラ「探しても見つからなかったです……。どこに居たです……?」 遥一郎「公園近くの小さな診療所にな。気が向いたら行ってみるといいよ。     自分から動く気無いみたいだし」 サクラ「……天界を捨てて地上人になることを選んだ人です。     地上で出会った男の人に心底ラヴだったらしいです」 遥一郎「知ってる。あの人は相当だ」 サクラ「……男の人も居たです?」 遥一郎「居たぞ。俺の友達だ」 サクラ「やぅうっ!?」 サクラがザシャアと後退る。 遥一郎「だが安心しろ、そいつは確実にいいヤツだ。俺が保証する」 サクラ「…………うー」 遥一郎「まあ……そいつが姐さんのことが好きなのかは解らんけど」 サクラ「姐さん?誰です?」 遥一郎「レイチェルの姐さん。俺はこう呼んでる」 サクラ「……お姉さま、別に姉御肌じゃないです」 遥一郎「呼んでるだけだって。深い意味はないよ」 サクラ「………」 サクラは何かを考えているようで、俯いて唸りだした。 遥一郎「サ、サクラ?」 サクラ「……でも、行かないです。もともとお姉さまからは逃げてたです」 遥一郎「探してたんじゃなかったのか?」 サクラ「見つからないように細心の注意を払ってたって意味です。     お姉さま世話焼きだからいろいろ五月蝿いです」 遥一郎「そ、そうか……」 確かに相当世話焼きだったが……あれは蒼木のためだけかと思ってた。 サクラ「……あう?話ってこれだけです?」 遥一郎「そうだな。ただ本当に姉妹なのか確認したかったってこともあるけど」 サクラ「姉妹です。それ以上でもそれ以下でもないです」 遥一郎「そりゃそうだろ。姉妹は姉妹だ」 サクラ「です」 遥一郎「うむ」 奇妙に頷き合ってフフフと笑う。 やっぱり異様以外のナニモノでもない。 遥一郎「……そっかそっか。まあ確信持ててスッキリしたよ。ん〜……」 訊きたかったことを訊くだけ訊いて満足だ。 根掘り葉掘りは趣味じゃないが、謎が謎のまま残るのは人間の習性として癪だ。 サクラ「与一、これからどうするです?」 遥一郎「寝るのも一興かと思っているところだ」 サクラ「お昼寝です?」 遥一郎「お昼寝です」 伸びをしながらベッドに座る。 ボフッという音が鳴る。 なんともこの感触がたまらんのぅ。 ……って、老人か俺は。 サクラ「一緒に眠ってもいいです?」 遥一郎「自分の部屋で寝るって気はないのか?」 サクラ「与一、いい匂いがするです。一緒に寝ると大往生です」 遥一郎「死ぬのか」 サクラ「違うです、やすらかに眠れるって意味です」 言葉的にマズいだろそれは。 とか思っている内にサクラがベッドに乗って来た。 遥一郎「……どうでもいいけどさ、そのてるてるスーツ、なんとかならないのか?」 サクラ「スーツじゃないです、ケープです」 知ってる。 ただ言葉的に好きな方を選んだだけだ。 ……でも脱がないみたいです。 遥一郎「ていうかやっぱりここで寝るのか」 既にごそごそと猫のように丸くなるサクラを見て言う。 しかもさりげなく人の脚を枕にしていらっしゃる。 サクラ「心頭滅却しても熱いものは熱いです……。     タイムイズマネーは言葉として変です……時は時です……タイムイズタイム〜」 ……すかー。 呪文のように訳の解らんことを言っていたサクラはもう眠ってしまった。 何者ですかアータ。 遥一郎「…………結局俺にはこの体勢で寝ろと?」 あまり寝る体勢には適していない体勢のまま呟いてみた。 あえて言葉に出すことで皮肉っぽさを演出しています。 遥一郎「………」 他に誰も居ないから意味がないんですけどね。 俺は片方の脚だけあぐらをかいたような体勢のまま寝転がった。 ……まあ眠気がないわけじゃないからな。 あー……陽射しが気持ちいいのぅ。 …………ぐー。 {ケース7:穂岸雛子───驚愕との邂逅} ……トコトコと帰路を歩む。 雛子 「うー……授業あんまり解らなかった……」 転校扱いとはいえ、こうまで前の授業が噛み合わないとは思わなかった。 ……またお兄ちゃんに教えてもらおうかな。 雛子 「……うん、がんばろ」 頼りない気合を入れて、やがて見えてきた家の玄関ドアを開ける。 そして靴を脱ごうとした時、お兄ちゃんの靴があることに気がついた。 あ、帰ってるんだ───! わたしは少し慌てながら靴を脱いで小走り。 まずはリビングを覗いてみる。 だけどそこには人の姿はなく、シンと静まり返っていた。 ……お部屋かな。 そう思い至ったわたしはお兄ちゃんの部屋を目指して歩く。 自然に早歩きになるのが不思議だった。 いつからだろうか。 お兄ちゃんが絡む物事には冷静でいられなくなったのは。 たったひとりの兄として大事だし大好きだし……。 でもそれ以上に、わたしは─── 雛子 「……あ」 気づけばお兄ちゃんの部屋の前だった。 おずおずと手を小さく伸ばし、ドアをノックする。 コン、コン、という音が鳴った。 だけど、しばらく待ってみても返事はなかった。 ……居ないのかな。 そう思いながらもちょっとドアを開けてみた。 雛子 「お兄ちゃん……?」 キィ、という馴染みのある音を出してドアが開かれる。 そこから覗くように顔を出して、部屋の中を 雛子 「───え……?」 ……見たら。 お兄ちゃんのベッドで、お兄ちゃんと……サクラちゃんが寝て…… ……え……? なにこれ……。 え……?どうしてサクラちゃんがお兄ちゃんと一緒に眠ってるの……? やだ……やだよ……お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんだよ……? ─── {ケース8:穂岸遥一郎───グッド・ハプニング} 遥一郎「…………ん?」 部屋の中に何かの気配を感じて起きた。 いや、実際には自然に起きたら何かの気配を感じた。 ぼやける視界で辺りを見渡す。 まず目につくのがサクラ。 あ、そういえば強制的に脚枕されたんだっけ。 ……な〜んて思いながら視線を動かした時だった。 部屋に立ち尽くしているヒナを発見したのは。 遥一郎「───オワッ!?」 ガバッと起き上がる。 俺は状況にただただ驚くだけだった。 なんてったって、ヒナが呆然と立ち尽くしながら涙を流していたから。 遥一郎「どっ……どうしたんだヒナーッ!?」 ほんとに訳が解らず、俺は声を張り上げた。 雛子 「………」 だけど何も言わずに俺を見て涙を流すヒナ。 うわぁ訳が解らん! ……って、いかん!まず落ち着こう……! えーと……俺の今の状況を考えるに…… 遥一郎「………」 もしかして、妙な勘違いしてるとか? 俺がサクラと寝てるってことで、恐ろしい思考が現れたとか……? 遥一郎「あの……雛子サン?」 おそるおそる訊ねる。 いや、訊ねるべきことも訊ねてしまったので言うこともない。 どうしたものか。 雛子 「……お兄ちゃん……」 とか思案している内にヒナが語り始める。 遥一郎「な、なんだ……?」 雛子 「どうしてサクラちゃんと……」 ……やっぱりかろやかに誤解してるみたいだぞ。 遥一郎「これはだな、俺がサクラを招いて話をしていたんだ。     外出たところでサクラの姉に会ったんでな。     その確認を名目にするような感じで話をしたんだ」 雛子 「………」 じーーー……と俺を見るヒナ。 なんていうか、こやつまで猫目で俺を見る。 だけど感心が無いわけじゃあなさそうだ。 遥一郎「え、えーっと……それで話し終えたら、     急にこの天然記念ボケが人のベッドに乗っかってきてな?     しかも俺の脚を勝手に枕にして、ものの10秒程度で寝てしまったのだ。     寝た娘を起こすのも気が引けてな……俺も眠かったからそのままうとうとと」 雛子 「………………」 遥一郎「あ、あのなぁ、言っておくが俺はなにもしてないいぞ。     話が出来ればそれでよかったんだぞ?」 雛子 「………」 遥一郎「……むう。このオニイサマが信じられんというのか」 雛子 「う───そ、そうじゃないけど……」 よし、反応アリ! 遥一郎「解ったらもうそんな目で見るのはやめてくれ。頼むよ」 雛子 「…………」 ……こくり。 ヒナは渋ったものの、しっかりと頷いてくれた。 やがてヒナは俯き加減に後ろを向いて─── 遥一郎「……えーと、こいつも連れていってくれた嬉しいんだが」 サクラの頭をポンポンと叩いて言う。 それを見て、ヒナは複雑な表情をして───やがてこっくりと頷いた。 目を赤くしながらサクラに手を伸ばす。 が、その手はサクラに触れることなく……じーっと見る。 雛子 「………」 遥一郎「………」 で、なんでか俺とサクラを見比べるヒナ。 ………………? まさかとは思うが。 遥一郎「……寝るか?」 雛子 「!」 ゴバァンッ!という音が聞こえてきそうなほどに顔を灼熱させるヒナ。 雛子 「あ、あ、あ、あう、あぇうぇいぁあ……!!」 そして赤い顔のままで体全体でオロオロするヒナ。 遥一郎「じょ、冗談だ、そんなに慌てるな」 雛子 「───……」 冗談、という言葉に反応したヒナが俺を見る。 ……うわぁ、すっごい残念そう。 遥一郎「……やっぱり寝てくか?」 雛子 「………っ」 再び顔を真っ赤にしたヒナがゆっくりと、一度だけ頷いた。 で、どんどんと赤くなり、ガクガクと震えながらベッドに上がった。 ───……そんでもって俺の膝に頭を乗せて丸くなるヒナ。 遥一郎「……あのさ。べつに俺の脚を枕にしなくても……」 雛子 「………」 俺の言葉に対して、幸せそうな寝顔で応えるヒナ。 早いってば。 あ、でも顔が真っ赤なのは変わってないな。 …………。 起きてるんじゃなかろうか。 いくらなんでもこんな早く寝れるのは変だ。 遥一郎「……うむ」 ……ふに。 頬を突ついてみた。 雛子 「………」 ふにふにふに。 尚も突つく。 雛子 「ん……」 ……ふにふに。 ふふにふふふにふにににに……。 雛子 「……あうぅうう……?」 ムズ痒そうな顔でうなされている。 どうやらマジらしい。 相当な早さだ。 こりゃ驚きだ。 遥一郎「…………ま、いいか」 両足で眠る平和顔なふたりの頭を撫でてから俺も寝転がった。 ……もちろん、いい体勢がとれなかったのは言うまでも無い─── ───。 …………で、次に目を開けてみれば…… フレア「おはようございます、与一さん」 目の前にフレアの顔。 そして何故か体が重い。 遥一郎「な、なんだ……?って───」 俺の横にはノアが寄り添うように眠っていた。 そして今更気づいたが、頭の後ろがヤケに柔らかい。 そこで完全に目が醒めた。 これってば─── 遥一郎「…………フレア、黙って人の頭を膝枕するのはどうかと思うぞ」 フレア「ふふふっ……すいません。     みんな与一さんの上で眠っているので、わたしはどうするか悩んだ結果なんです」 遥一郎「……あのさ、何故にみんな俺の部屋に来てたんだ?」 フレア「解りませんか?」 遥一郎「まったく」 フレア「それじゃあ教えるわけにはいきません。少しくらいは察してくださいね」 遥一郎「………?」 フレアは意味深な言葉を発したあとにとてもやさしそうな顔をして、俺に微笑みかけた。 その笑顔を直視するのが照れくさくて、俺は顔を逸らすように目を閉じた。 フレア「……みんな、与一さんが好きなんですよ……」 そのあとにフレアが何か言ったんだが、声が小さくて聞き取れなかった。 遥一郎「え?なにか言ったか?」 フレア「いいえ。なにも」 フレアがクスクスと笑う。 なにか変な気分だったけど、嫌ではなかったから俺も笑った。 遥一郎「ところでさ、その服以外には無かったのか?」 フレア「巫女装束ですか?これ以外の服はあまり着たいとは思わないので……」 遥一郎「……確かに着物と巫女装束くらいしか見たことないな……」 フレア「別に着たいとも思いませんしね」 遥一郎「そっか。……でもその姿で膝枕ってなんかヘンだぞ」 フレア「そうですか?」 遥一郎「なんか神社で眠ってるみたいで落ち着かない」 フレア「……巫女装束は嫌いですか?」 遥一郎「嫌いとかじゃなくて……なんて言えばいいんだ?」 フレア「……ああっ」 ポム。 遥一郎「え?」 フレアが手を合わせた。 なにかを思いついたらしいけど……なんかあまりいい予感はしなかった。 フレア「それでは膝枕はやめましょう」 遥一郎「あ、ああ。そうしてもらえるとお前にも悪いと思わないし……」 キシキシ……とさっ。 遥一郎「……オウ」 フレアが体を移動させて、何故か俺の隣に寝転がった。 フレア「これなら問題ありませんよね?」 ……あるだろ、チミィ……。 遥一郎「……予測するに、膝枕は拒否されたからノアのように隣で寝ればいいと判断?」 フレア「はい」 遥一郎「………」 フレア「…………いけませんでした?」 不安そうに呟くフレア。 そんな顔を見たら断れる筈もなく…… 俺は幾度となく自分の意思の弱さに溜め息を吐くのであった。 ───結局その日は『サボリ』という、 結果的には罪悪感に襲われることをやってしまった思いにかられながら…… 俺はなんだか一日中寝てばかり居た気がした。 そんなこんなで訪れた夜。 予想通りに俺達は眠れなくなり、 トランプやらなにやらをして楽しいけどどこか虚しい夜を終えた。 教訓。 昼寝は適度にするものであって、寝すぎるのはよくない。 ……翌朝、ようやく訪れた眠気に苦しまされながら学校に行ったことは言うまでもない。 Next Menu back