───馬鹿につける薬は……のコト───
───。 土曜ということもあって、午後になる頃にはヒナが帰ってきた。 そして俺の顔をみると『ほぇ〜……』という言葉が合ってそうな顔をする。 微妙に顔が弛んでるんだな、うん。 こいつは俺と一緒に居る時はヒドく隙だらけだ。 無防備、って言うんだろうか。 とにかく力を抜いている。 一緒に居ないときはどうなのか、って訊かれても……まあ解らないんだけど。 さて、それはさておき。 どうして家の中に俺とヒナしか居ないのかというと、これがまたややこしい。 サクラは『極道の修羅たち(劇場版)』を見に行くですー!とか言って飛び出し、 フレアは日本歴史館とやらを見に行き、ノアは天上に用があるとかで、一度天上に戻った。 そんな理由により、今この家には俺とヒナしか居ないわけだ。 俺はリビングでまったりと時を過ごし─── 雛子 「………」 ヒナはヒナで、恋愛小説に釘付けである。 ちなみにその片手は何故か俺の服の袖を掴んで離さない。 なんで? ……まあそんなこんなで成り行き任せというか…… 俺もちらちらとその小説に目を向けては溜め息を吐いている。 タイトルは『蒼の雫』というもので、俺にはちんぷんかんぷんだった。 最初から見てないからかもしれないけど。 雛子 「………」 だけどヒナは夢中である。 ああ、なんていうか俺ってこんなんでいいのか? こうボ〜ッとするのも性に合わないというかなんというか。 つまりはX=神屠りというわけで、その際に用いられるのがチェーンソーであることを、 俺はとあるゲームで思い知ったというわけで……ウヌウ。 まあようするに暇なんだ。 どうしたもんか。 …………うおう、何も浮かばないのは何故? ピンポーン! 遥一郎「……オウ?」 お客人か。 新手の新聞勧誘なら素晴らしい論法で諭してくれる。 ピンポーン。 遥一郎「はいはい、今出ますよ〜」 ……玄関ドアに手をかけて、そのドアを押し開けた。 その先には居たのは─── 女性 「……どうも〜、こんにちわ〜。あの、聖書の配布なんですけど〜」 遥一郎「………」 ウチの状態で、一番現れてほしくない人だった。 神は存在します。 ええ、存在しちゃったんだからしょうがない。 ……ああ。 それならこの人の話を聞くのも面白そうだ。 女性 「まずこの聖書をどうぞ」 遥一郎「はいはい」 聖書を手に入れた。 女性 「それでですね、このページのこのお話でとてもありがたい言葉が……」 遥一郎「ふむふむ」 ノア 「いえ、その見解は一方的な論です」 遥一郎「うおっ!?」 女性 「……妹さんですか?」 ノア 「失礼な、わたしはマスターの忠実なメイ」 遥一郎「あー!だー!わーっ!あはっ、あはははは!なんでもないですっ!」 女性 「…………」 ノア 「マスター?」 遥一郎「そういうことは人前で言っちゃダメだって言っといたでしょ……!」 ノア 「ん……失言でしたか。解りました、ここは任せてください」 ……どうしてそういう言葉が出てくるんだ? ノア 「……あなた。神の道徳を説くなとは言いませんが、神とてひとつの意志です。     その意思を無視した上で崇めるだの称えるだの、     自分に都合のいいように解釈していませんか?」 女性 「神はわたしたちの救世主です。それはつまり───」 ノア 「あなたはひとりの老人を救世主だと思いますか?」 女性 「わたしがしているのは神の話です」 ノア 「言ったでしょう、神とてひとつの意志です。     あなたがたがしていることは老人を救世主だと言い張って、     相手の都合も考えずに救いを求めているそれと同じです」 女性 「しかし神はいつでもわたしたちを見守ってくださって」 ノア 「それが怠慢だと言っているのです。     名前だけの救世主に幽鬼の如く憑りつかれたあなたがたの言い分など、     なんの説得力もありません」 女性 「いいえ、神は人の愚言すらも寛大に受け止めてくれて」 ノア 「……ハッ。自分本人は愚言を受け止めることすら出来ないくせに」 女性 「わたしは神ではありませんから。神は常に全知全能であるのです」 ノア 「……知っているじゃないですか」 女性 「は?」 ノア 「それなら訊きましょう。神が全知全能だと言うのなら、     何故飢餓に陥る人々を助けることもしないのでしょうか」 女性 「それは神が試練をお与えになっているのです」 ノア 「そんなものは試練などではなく自然の法則です」 女性 「いいえ、神は自然にも関与しているのです」 ノア 「……はらくしゃあ」 女性 「え?」 ノアが少し俺を見た。 そしてその目が『撃ってもいいですか?』と語っている。 俺としては大賛成だが、後始末が大変そうだ。 ノア 「あなたの道徳はもういいです。神はあなたが思っているような方ではありません」 女性 「いいえ、神は全ての人への慈悲を忘れません」 ノア 「ですから───」 女性 「いいえ、それは」 ───…… ───…… 声  「ですからっ!あなたの道徳は聞き飽きたと言っているんです!」 声  「なにを言いますか!神は我々人間をいつでも見守ってくださるという事実に、     あなたはなぜ目を開こうとしないのです!」 …………うるさい。 リビングでテレビを見ている間中、未だに喧噪はやまない。 極道ドラマ一本見てしまったぞ? 声  「人の話を聞きなさい!神様だって普通の老人なんです!     あなたの言うような救世主なんかじゃあ決してありません!」 声  「あなたは神の姿に盲目的です!何故両の目でそのお姿を見ようとしないのです!」 声  「あ、あなたに言われたくありません!どっちが盲目的ですか!     いっぺんブチノメしますよ!?」 ……ああ、ノアがキレた。 珍しいな、あのノアが。 雛子 「…………?」 ようやく小説を読み終えたヒナが、更にようやくその騒ぎに気づいた。 リビングの出入り口を見て不安気に首を傾げている。 なんにせよ、穏やかじゃないよな。 そろそろ止めた方がよさそうツキューンッ! 声  「ゔっ……」 …………なんか、今聞き捨てならない銃声とくぐもった声が……。 ああ、それにおまけされたように何かがドシャアと倒れた音が。 遥一郎「………」 い、いや、俺は何も聞かなかったぞ? 最近の俺は耳が悪いんだ、うん最強。 雛子 「お兄ちゃん……今、なにか音が……」 ! 遥一郎「さ、さあ、気の所為じゃないかーっ!?     お、俺には何も聞こえなかったけどなーっ!わはっ……わはははは!」 雛子 「…………?」 遥一郎「……ほんとになんにも聞こえなけりゃ苦労しねぇっての……」 溜め息がだはぁ、と漏れた。 い、いや、溢れ出たと形容するべきか? なんにしても悲しい限りだコンチクショウ。 でも深く関わるなと俺のハートが物語っている! というわけで今のは気の所為だ。 そういうことにしようね、俺。 うん解決。 とか思っていると、聞こえる足音。 ノア 「お手数をおかけしました、マスター」 にっこりと極上の笑みを浮かべるノアさん。 笑顔と反比例して殺気のオーラが巻き上がって見えるのは気にしてはいけない気がした。 遥一郎「あ、その……ご苦労さま。あ、あはは……お茶、飲むか?ノア……」 カチャ、とティーセットを用意する。 ノア 「申し訳ありませんマスター。     せっかくのお誘いなのですが、わたし……これから用事がありまして」 遥一郎「あれ?どこかに行くのか?」 ノア 「はい、瀬戸内海まで少々」 遥一郎「…………そこで何をすると……」 ノア 「……マスター」 再び極上スマイルを見せてくれるノア。 ノア 「キャッチ&リリースを知っていますか?」 遥一郎「………」 考えたくない。 ていうかその手に持った───ていうか引きずっている黒くて長い、 一見サンドバックのミニチュア版に見えるソレはなんですか? ノア 「? ……ああ、これですか?矢島です」 遥一郎「矢島!?」 ノア 「いえ、なんでもありません。イワンもなにも知りませんから」 遥一郎「ノ、ノア?」 ノア 「それでは失礼します」 遥一郎「あ、おいっ!?ノ、ノアー!?     その悪魔めいた極上スマイルにはなんの意味がぁああっ!?」 ペコリとお辞儀をして去ってゆくノア。 その過程、ブツブツと呟いた声の中から『秩父山中もいいですね……』という声が 遥一郎「いやいやいや!今度こそ俺は何も聞かなかったぞ!?     もし聞いていたって公言して『証拠隠滅です♪』なんて言われたら死ねる!     考えただけでも地獄!ああ……!この緊張感がたまらねぇYO!」 雛子 「お、お兄ちゃん……?」 遥一郎「はっ!?お、俺はいったい何を!?」 人格変えてる場合じゃないっての。 えーと、落ちつけ。 ひとまずさっきの聖書さんのことは忘れていいだろう。 ピンポーン。 遥一郎「………」 誰だ。 俺はもう犠牲者を出したくないんですが? あー、でも居留守は主義に反するし。 ということで。 遥一郎「ヒナ、出てくれないか?」 雛子 「………」 きゅむ、と俺の服の袖を掴むヒナ。 イコール、……俺も一緒に来いと? 遥一郎「いやいやいや、まあ待て落ち着けよく聞けヒナ」 雛子 「…………?」 こくり。 ああ、一応聞いてくれるみたいです。 ……さて。 遥一郎「むかしむかし、ある所にお爺さんとパツキン美女が居ました」 雛子 「ぱつきん……?」 首を傾げるヒナ。 っておい、何語ってんですか俺は。 イカンぞ、なんかネジが一本外れてそうだ。 遥一郎「ああいや、なんでもないんだ。こうなったらもう行くしかないだろ」 うむ、と頷いて起立。 さっさと応対して、なんかの勧誘だったら去ってもらうとしよう。 こういう日こそ勉強してればいいんだろうけど、生憎と授業範囲が解らん。 基礎知識を学ぶ場所だから常識を凌駕する難しい勉強はしない筈だからな。 と、そんなことを考えている間に、目の前に玄関。 俺はそのノブに手をかけ、その扉を開いた。 遥一郎「はい?どちらさま?」 雪音 「はろはろ〜♪」 バタン。 ドアが聞きなれた音を鳴らして閉まった。 う〜ん、いい天気ぞ。 こんな日は陽光に当てられながら眠るに限るかもしれないこともなきにしもあらず。 よし寝よう、それがいい。 だんだんだんだんだんっ! 声  「ちょ、ちょっとホギッちゃーん!?どうしていきなり閉めるのよー!」 遥一郎「うるさい、俺の時刻表には貴様なんぞに関わるための時間項目など無いのだ。     大人しく去れ。去らねば貴様は子供だ」 声  「うわっ、ヒドイこと言ってる」 遥一郎「よぅしヒナー、俺と遊ぼうな〜」 声  「わー、シスコンだー」 遥一郎「うっさい馬鹿!」 声  「ばっ……馬鹿ぁ!?     ちょっとホギッちゃん!頭ごなしにそれはないんじゃない!?」 遥一郎「安心しろ、腹ごなしだ」 声  「……〜〜〜!」 バタム! 聞きなれた音を鳴らしてドアが……って 遥一郎「なにい!?貴様、アンローフルインヴェイジョン罪で訴えるぞ!?」 雪音 「裁きをもーし渡す!その方、わたしを愚弄した罪において……打ち首獄門!」 遥一郎「いきすぎだろそれは!」 雪音 「まだまだ生ぬるいよ!」 遥一郎「死ぬ時点で微熱いどころか灼熱のマグマ級に熱いわ!!     お前やっぱり馬鹿!大馬鹿!クレイジー!」 雪音 「馬鹿ってゆーなぁ!」 遥一郎「愚者」 ぐしゃ!! 遥一郎「ギャアア!」 俺の足が目の前の歩く粗悪生産工場に踏まれた。 その痛みはまるで草原を駆け抜けるバカップルがミツバチに刺される絶望感に似ていた。 遥一郎「って、どんな絶望感やねーん!」 雪音 「わっ、ホギッちゃんがラリった!」 遥一郎「ラリ言うな!」 くっ……!それにしても俺が放った言葉と同一の擬音をもって踏み潰すとは……。 この馬鹿、侮れん……! 雪音 「……なによぅ、その永遠のライバルに遭遇したような視線と溜め息」 遥一郎「冗談じゃないぞ、     お前なんかがライバルになったら何回白骨化しても明日が拝めない」 雪音 「人殺しなんてしないよっ!」 遥一郎「馬鹿な。『ユッキー・ザ・キラー』の名は我が校でも有名なんだが」 雪音 「ホギッちゃん入学式以来、一度も来てないじゃん」 遥一郎「ゔ……」 こ、この触覚小娘が……! 何気に気にしてることを……! 遥一郎「所詮、ピッコロ大魔王である貴様に俺の気持ちなんか解らんのだよ」 雪音 「ぴ、ピッコロぉ!?ちょっとホギッちゃん!?」 遥一郎「どうした大魔王」 雪音 「どうしてわたしがピッコロ大魔王なのよぅ!」 遥一郎「ホレ、この触覚が動かぬ証拠だ」 ついつい、と触覚紛いの髪の毛を突つく。 観咲の感情のままにクネクネ動くその様は、まるでヒルのようだった。 ……ていうか動いてるな。 遥一郎「いや、悪かった。動かぬ証拠ってのは取り消すよ」 雪音 「もっと大元の部分を取り消してよ!」 遥一郎「悪い、二言は謡うなって、じいちゃんの遺言なんだ」 雪音 「うぐっ……!そ、それならしょうがないかもしれないけど……」 遥一郎「というわけで帰れ」 雪音 「うわっ、悪びれもせずにキッパリ言ってきた……。     ってそうじゃなくて!ホギッちゃん、わたし退屈だから遊びに来たんだよ?」 遥一郎「人違いだ。俺にナメック星人の友人は居ない」 雪音 「そんなのわたしにだって居ないよ!」 遥一郎「隠すことないじゃないか。事情があるのは解るけど、     母星に帰れば同志がアジッサの苗木を植えてるんだろ?」 雪音 「………」 俺の言葉に、にこー、と笑う観咲。 肩あたりの景色がモシャアアアと歪んで見えるのは気の所為だろう。 最近疲れてるんだな、俺。 雪音 「実戦組み手の相手が居なくて困ってたんだ。ホギッちゃん、覚悟できてる?」 遥一郎「待て、殺人は犯罪だぞ」 雪音 「殺さないって言ってるでしょっ!」 遥一郎「まったく、すぐに人を殺そうとするなんて……。     これだからナメック星人の馬鹿者……もとい、若者は」 雪音 「ナメック星人じゃないってば!」 遥一郎「隠さなくたっていいじゃないか。名前はマイーマあたりだろう?」 雪音 「違うよぅ!」 遥一郎「なにぃ!?ツムリーだったのか!?」 雪音 「───」 ブンッ! 遥一郎「ひょいとな」 雪音 「あっ!」 ツムリーが放った下段回し蹴りが空を裂く。 雪音 「どうして避けるのよぅ!」 遥一郎「無茶言うな!あんなもんくらったら足が折れるわ!     俺はこれでも軟弱者で通ってるんだぞ!?」 雪音 「うわー、自慢になってない」 遥一郎「お前の頭の悪さには負けるよ」 雪音 「ガッデムー!」 遥一郎「ヒィイ、あな恐ろしや、あな恐ろしや……!さあヒナ、リビングに戻ろうな」 雛子 「……うん、お兄ちゃん」 雪音 「あ、ちょ、ちょっと……ホギッちゃぁ〜ん……」 少し拗ねたような声が聞こえたが、俺は無視してリビングに帰還するのであった。 …………。 遥一郎「……で。どうしてお前が居るかな」 雪音 「カタイこと言わないでよ。     暇だったのは事実だし、ホギッちゃんだって暇そうじゃない」 チィイ、世が世なら不法侵入罪で告訴+極刑ですぞ? 遥一郎「俺はお前が関わってくると年中無休で忙しいんだ。解ったらとっとと帰れ」 雪音 「うー……ホギッちゃんヒドイよぅ……わたしが何したっていうの?」 遥一郎「出会っても居なかった俺に飛び蹴りかまそうとして飛んできた」 雪音 「うぐ。……あ、あれは薬の所為で仕方なく……」 遥一郎「……その割には大暴れだったなぁ」 雪音 「うー……」 遥一郎「大体さ。俺なんかの家に来なくても蒼木が居るだろーが。     なんだって俺を訪ねてくるかね」 ひとつの疑問を語ってみる。 その質問にツムリーは首を捻り、頬に人差し指を当てながらとぼけた顔をした。 遥一郎「……とくに理由がなかった、とか言うんじゃあるまいな」 雪音 「えっ……や、やだなー、そんなことしないよー」 遥一郎「……図星か」 雪音 「うぐっ……」 やれやれ……つまり適当に俺を巻き込みたくて来訪したってわけか。 遥一郎「まあいいや、ひとつ訊きたいことがあったんだ」 雪音 「え?珍しいね、なに?」 ……コロコロ表情変えるヤツだな。 妙なところに才能があるのかもしれん。 遥一郎「簡単なことだからそんな肩肘張らなくていいぞ。     えっとさ、今……学校の勉強範囲ってどこらへんだ?」 雪音 「ほへ?」 遥一郎「ほへ?じゃなくて勉強範囲だよ勉強範囲。今日行ってきたんだろ?」 雪音 「え?あ、あー……うん」 遥一郎「?」 なんだよ、歯切れが悪いな。 俺と口論する時は恐ろしいまでにやかましいのに。 ……と、そこまで考えて、ひとつの答えに行きついた。 遥一郎「…………よく寝れたか?」 雪音 「うん!もうぐっすり!───て、あ……」 遥一郎「………」 雪音 「………」 遥一郎「帰れコノヤロウ」 雪音 「べ、勉強したからって青春を謳歌できるわけじゃないもんっ!     わたしが目指す青春とは友情、努力、一撃必殺!」 遥一郎「マテマテマテ!普通最後は勝利だろうが!殺してどうする!」 雪音 「え?え〜と……風化させる、かな……」 遥一郎「恐いわ!それ以前に真面目に答えるなよ!」 雪音 「ホギッちゃん滅茶苦茶だよ〜……」 遥一郎「お、お前に言われたくないわっ!───て、ぬお!?」 い、いかん!イカンぞ! いつの間にかツムリーのペースに飲まれてる! 遥一郎「謀ったなツムリー!」 雪音 「ツムリー言うなぁっ!」 遥一郎「ブッチャー!?」 雪音 「───殴るよ」 遥一郎「話し合おう。俺は何よりも会話が好きなんだ」 雪音 「話をする気がホギッちゃんにあったらこんなことにはならなかったよぅ……」 遥一郎「……カタツムリの化身が何を……」 雪音 「なにか言った?」 言って、拳を血管ムキムキにするツムリー。 すげぇ、こいつぁ既に女を捨ててる。 遥一郎「落ち着けツムリー、俺を殴っても何も出ないぞ」 雪音 「血が出るよ」 遥一郎「はっはっは、おいおいツムリー。冗談は名前だけにしとけよ」 雪音 「ツムリーじゃないってば!」 遥一郎「やかましい!俺は貴様をそんな暴力的な女に育てた憶えはないぞ!」 雪音 「育てられてないよ!」 遥一郎「だから育てた憶えはないって言ってるだろうが!馬鹿かお前は!」 雪音 「ギムーッ!勝負だー!」 遥一郎「ギムーってなんだギムーって。     とうとうガッデムからクラスチェンジしたのか?     流石は怪光波システム搭載型触覚標準装備ガッデマー。     そのままで終わるとは思っていなかったぞ」 雪音 「う、うんん……!?かいこう……なに?」 遥一郎「あ、すまん。ツムリーだったな、ごめん」 雪音 「違うってば……!」 遥一郎「ごめん……マジでごめん……ごめんなツムリー……!」 雪音 「本気で謝らないでよっ!」 くいくい。 遥一郎「うん?」 言葉遊びの中、ふと袖を引かれる感触に気づいて横を見た。 雛子 「………」 そこには俺と同じソファにちょこんと座ったヒナ。 まあ家の中にはヒナしか居ないんだから当然と言えば当然だ。 ノアも帰ってきたと思ったら瀬戸内海を目指して消えたし。 遥一郎「どうした?」 雛子 「……お腹、空いた」 切なげな表情。 結構我慢していたらしい。 遥一郎「そっか。じゃあなにか作るから待ってろ」 雛子 「……うん」 俺の言葉にこくりと頷くヒナ。 まったく、どっかのツムリエルショッカーにも見習って欲しいものだ。 雪音 「料理?あ、わたしが作ろっか?」 遥一郎「結構だ。そこでじっとしてろツムリエルショッカー」 雪音 「ツム……!?」 遥一郎「あーもう、今説明するから待ってろ。     いいか、ツムリエルショッカーっていうのはツムリーの名を冠す者。     つまりツムリエル。ショッカーは語るまでもないが……     まあお前の薄い頭のために語ろう。ようするに触覚だ。ショッカー」 雪音 「薄い頭は余計だよっ!嫌な気の回し方しないでよね!」 遥一郎「怒るとシワが出来るぞ。ただでさえナメック星人は横線が多いんだから」 雪音 「ナメック言うなぁっ!」 遥一郎「じゃ、料理作ってくるな、ヒナ」 雛子 「うん」 雪音 「あ、ちょ、ちょっとホギッちゃん!?」 ツムリエルショッカーの叫びを無視してキッチンを目指した。 見事に逃げることに成功したぞ。 あのままじゃあ夜が明けるまで論争してそうだったし。 ……さてと。 やっぱり料理はどこかワクワクしますな。 ここ最近、天界の味覚に地獄を見せられてきたからな。 ヒナのためにも俺のためにも、ここはひとつ腕を振るいますかぁっ! ───。 遥一郎「ヒナ、お待たせ」 雛子 「あ、お兄ちゃん」 いつの間にかダイニングテーブルに座っていたヒナの前に料理を並べてゆく。 フレアやサクラやノアはいつ戻るか不明なので、作った料理は少なめだ。 雪音 「いただきまーす。うあー、おいしそーだねー」 遥一郎「待てい」 雪音 「え?なになに?どしたのホギッちゃん」 遥一郎「どうしてお前が箸を構えてるんだ」 雪音 「どうしてって……やだなー、ホギッちゃん。     どっかの民族じゃないんだから、素手でなんか食べないよ」 遥一郎「いや、真面目にすっとぼけてないで話を聞け。     俺はお前を食卓に誘った憶えはないぞ」 雪音 「うん、誘われた憶えもないし」 オイ。 遥一郎「自覚してるなら家に帰って自炊でもしてろツムリエル。     俺はこれから家族団欒をだな」 雪音 「一日姉妹ー!……ていうのはだめ?」 遥一郎「激しくダメ。森へ帰れ」 雪音 「あう……取りつく島もない」 溜め息を吐いて自分のリズムを思い出した俺は、 ひとまずいただきますを言って箸と顎を動かした。 雪音 「むー……しょうがない、帰るよ」 遥一郎「ん……ふぉのふぁふぁひはひひは」 雪音 「お行儀悪いよ、ホギッちゃん」 遥一郎「………………んぐ。物分りがいいな」 雪音 「なんか引っかかる言い方……。でもいいや。     わたしもお腹が減ったから家に帰るって、そういうことだから」 遥一郎「そか。気をつけて帰れよ」 雪音 「わ。心配してくれてるんだ〜」 遥一郎「ああ。いくらナメック星人だからって、     必ずしも敵無しとは考えられないからな」 雪音 「ぐっ……しつこいなぁホギッちゃんはぁ……!」 遥一郎「冗談だよ。また明日な」 雪音 「あ…………うん」 にっこり笑って、観咲は手を振って去っていった。 遥一郎「……ふう」 一息をついて再び食事に取り掛かる。 ……が、視線を感じてヒナを見てみた。 雛子 「………」 その目が俺を捉えて離さない。 遥一郎「ど、どうかしたか?」 雛子 「……お兄ちゃん……あの女の人……その、と、友達なの?」 遥一郎「んお?……友達?……んー……」 友達、なのか? そりゃあやかましさのあまり、不覚にも承認してしまったことはあったが。 暦として認めるのはどうかと思う存在だ。 ムードメイカーには成り得るが、それは『トラブルムードメイカー』としてだけだ。 いらん時に突発的に出現する者は昔っからそう決まっているのだ。 でも……だからって友達と認めないのはどうかと思う。 遥一郎「ああ、友達、かな」 言葉を選ぶように言う。 その言葉に、ヒナは何故か安心したように息をついた。 遥一郎「あれ……どうかしたのか?」 雛子 「え、あ、ううんっ、なんでもないよっ」 ……? よく解らんが、そういうことらしい。 遥一郎「……ま、いいか」 誰の耳にも聞こえない程度に呟いて、俺は料理をつついた。 その後、何故かヒナはずっと上の空状態で、俺の話は右から左へ流れていた。 ───結局、今日一日中は思考の中が『これからどうしようか』で流れ。 ……風の向くままにその日は過ぎていったのでありましたとさ。 めでたしめでたし……。 Next Menu back