───馬鹿ガッデムと穏やかな仲間たちのコト───
05/大凶とガッデマー  くじを引いて途方に暮れていた俺に、真由美さんが歩み寄る。 「あ、与一くん、どうだった? わたしは1ーDだったけど」  みんなも吉とか大吉なのかと期待をしてみた……のだが、真由美さんの“1ーD”という言葉が希望を破壊する。所詮そんなもんだった。 「……大凶だった」 「…………………………え?」  首を傾げる真由美さんにクジを手渡してみる……と、なんとも愉快そうでいてシャレにならない重苦しい空気が流れた。 「ど、どういう意味かな、コレ……」 「……こっちが訊きたい」 「そう……だよね、うん……」 「うん……」  訳も解らず、うんうんと頷き合う。  と、そんな微妙な雰囲気を払拭するように、「あ〜、静かにっ!」という校長……校長? たぶん校長な人の声が、マイクを通して体育館に響く。 「ちょっとした悪戯心で大凶を入れてみたんじゃ。大凶を引いた者、手を挙げなさい」  その声と共に、俺の方へ視線が集中した。  え? あれっ!? ギャアーーーッ! みんな俺が引いたって知ってたのかっ!? 「早くも注目浴びてるね」 「うー……」  仕方無いので手を挙げるわけだけど……うう、これは新入生イジメじゃないのか……? かみさま───遥一郎は今、とても恥ずかしゅうございます……。 「おめでとう。キミにはクラスを選ぶ権利を与えよう」 「え?」  クラスを選ぶ……って、いいのか? 「キミは、どのクラスになりたいかね?」  この場で言えというのか。 「えっと、それじゃあ1ーDに」 「あい解った! それでは諸君! よい青春を!」  言いたいことを言い、去ってゆく校長。それでいいのかとツッコみたかったが、なんかもうさっさと引っ込んでしまったので無理だった。  なんとも勝手な人だ。 「大凶って割には、いい特典だったね」 「いっ……いやっ、いや……! しっぺ返しがあるのかもっ……!」 「え、あ、ううんと……まさか、そこまではしないと思うよ?」  とか言いながら大凶クジをチラチラ見んでください。  滅茶苦茶気になってるじゃないですか。 「まあそれはそれだよ。ほら、なんにせよ、同じクラスだね」 「あ、そうですね《ぺしっ》あてっ!?」 「敬語は無しっ」  つい敬語が出た途端、額をぺしりと叩かれた。  次いで、条件反射で「あ、すいません」なんて言ったら、今度はポカッと軽いゲンコツ。 「敬語は無しっ!」 「いや、口で言うだけにしてくださいよ《ぼかっ!!》いてっ!」  今度は結構痛いゲンコツだった。 「敬語は無しっ!!」 「い、いや、だからですね……って、あ《コッパァン!》痛ぁあっ!?」 「敬語は無しぃっ!!」  拗ねたような言葉遣いで、あろうことかスリッパで叩いてくる真由美さん。  スナップの利いた、良い攻撃であった。 「待て! ストップ! スリッパは反則だっ!!」 「敬語使われるのって結構緊張するのっ! だからやめてってば!」 「解った! 解ったからやめてくれっ!!」 「むぅ……約束出来る?」 「大丈夫、こう見えても約束は守ったことがない」 「……じゃあ条件つきで約束しよ? 破ったら針千本」 「本気?」 「うん。さすがに針を千本飲ませるわけにはいかないから、魚の方ね?」 「妙にリアルで怖いんだけど!?」 「大丈夫、知り合いに旅館やってる人がいるの。だから、頼んで取り寄せてもらうよ」 「あ、いや……本気で?」 「うん、大真面目だよ」  ……下手に逆らうと本当に取り寄せかねない。なにせ目が本気だ。どういう性格なんだ、まったく。イマイチ把握出来ない。 「……じゃあ、行きますかぁ」 「……《ギロリ》」 「えっ? あ、ああ、違う違うっ。今のは、おふざけ語でっ!」 「………」 「いやホント。インディアン、嘘つかない」  なんか自分で言ってて、かなり懐かしい言葉だった。  昔はよく聞いた気がするのに。 「まあいっか。じゃあ行こっか」  無駄に懐かしさを味わっていると、真由美さんもにこりと笑って歩き出す。ここで話し合っていても仕方ないしなぁ。  向かう先は1ーDだ。個人情報などは入学以前に学校に送ってあるから、その情報をもとに制服は作られるらしい。  だから急に太ったりしなければ、支給される服はぴったりな筈。 ───……。  さて、ずらりと並ぶ教室の前にやってきたわけだが。 「……1ーDは……ここかぁ」  ひとつの教室を前に、何故か出る溜め息。  いや、理由は解っている。  体育館で有名になりすぎた。  廊下で擦れ違う生徒がチラチラと俺を見るのだ。  俺が何をしたっていうんだ……大凶引きましたね、はい。  はあ……この分じゃ、教室は…… 「はぁ……」  考える度にどうしても出てしまう溜め息を止められない。  どうしても入らなければならないのでしょうか。 「真由美さん、俺の分の教科書と制服、貰ってきてくれない?」 「嫌だよ?」  息をもつかせぬ即答だった。  ……覚悟、決めるしかないんだろうか。 「……仕方無い」  愚痴っていても始まらない。仕方無く教室へと足を運ぶ───と、視線が集まる。  思わず「うぐっ……」と声を漏らすくらい、皆様の瞳が縁日で大凶を引いた民草の眼差しに見える。  そんな俺へと誰よりも先に駆け寄り、声をかけてくる変わった存在が居た。なんか頭から触角のような髪がぴょんと跳ねている。 「ねえねえキミ、体育館で大凶引いた人だよね?」 「ぐっ……」  第一声だけでまったく遠慮を知らない人だと理解させてくれる、とても失礼な女性であった。  クラスを選べたのはいいけど、大凶を引いて喜べるほど神経は図太くなかったのだ……そっとしていてほしい。 「あ。私、観咲雪音っていうの。お手軽にゆきちゃんでいーよ? でさでさ、キミの名前は? わたしと友達になろう!」  そして喋るのが好きなのだろうことがものすごーく解った。  あと気軽にとか気安くとかじゃなくて、何がどうお手軽なのだろうか。  もしやとは思うが……あ、いや、この高校に入学出来たなら……いや、でも……。 「人に名前を訊ねる時に、まず自分から名乗るのはありがたいんだけどさ。こういう場合って気軽に、とか言うんじゃないか? お手軽だとちょっと違うだろ」 「え? やだなー、お手軽って軽いって意味だよ? よく何かの喩えで“軽い気持ちで”〜とかあるよね? 同じ同じ〜♪」 「………」  どうしよう。この子、馬鹿かもしれない。 「えぇっと。あのさ。その観咲ちゃん家の雪音さんは、どうやってこの高校に入ったのかな……?」 「徒歩で《どーーーん!》」 「………」  即答。  やっぱり馬鹿だ。  そしてその“どうやって”じゃあない。  い、いや落ち着け、落ち着くんだ遥一郎。もしかしたらただの冗談かもしれないじゃないか。 「ひとつ問題を出そう。マラソンで三位の人を追い抜くと何位になる?」 「二位だよ!」  よし馬鹿だ。  やっぱり馬鹿だ。 「……あのな。答えは三位だ」 「なんで!? 三位を抜けば二位だよー! もしかしてキミって馬鹿!?」 「《ぐさり》……最近周囲に振り回されまくって、時々そんなことを思ってたとしても……まさか馬鹿なんじゃって思ってた相手にキッパリ言われるなんて……」 「んうう……? まあいっか、自己紹介しよ? 私は観咲雪音。さあ、次はキミだよ?」 「ああうん……俺は穂岸遥一郎……。一応、よろしく」 「ホギシ?」 「穂岸」  あまり聞かない苗字だとは自分でも思っている。  鈴木や斉藤などといったよく聞く苗字とは明らかに違うし。  けど、きっと地域によってだとも思っている。行ったことのない場所に行けば、もっと変わった苗字なんていくらでもあるに違いない。  と、自分の苗字について考えていると、目の前の観咲嬢がにっこり笑って仰った。 「じゃあ“ホギッちゃん”だね」  ……今、なんと? 「……? ホ……ホギッ……ちゃん……?」 「いえ〜す! 穂岸だからホギッちゃん《ビッシィーーーン!》」  (>ヮ<)←こんな顔で、サムズアップまでされた。  ええい、親指立てるなとは言わないから突き出すな。 「却下」 「ダメ。インプット完了」 「消去しろ」 「ヤ」 「与一って呼んでくれていいから」 「ホギッちゃんがいい」 「やめて」 「ヤ」 「………」 「よろしくね、ホギッちゃん」  強引。そして自由。  そんな言葉が頭に浮かんだ。  頭から伸びている触角みたいな髪の毛、もいでしまっていいだろうか。  触角……いや、これどうなってるんだ? 寝癖では説明しきれないほどに伸びているんだが。しょ、触角? 本当に書ッ買うなのかもしかして。 「……真由美さん、何か言ってやって」 「似合ってるよ?」  真由美さんい救援を要請。あっさりと裏切りに遭った。  しかもきょとんとした顔で面と向かって言われてしまう始末。 (…………女性の感性って解らない)  女性の感性だとしても、相当特殊であってほしい。 「そいでさぁホギッちゃん、明らかに平和そうでいて、のほほんとした男、見なかった?」 「のほほん? いや、会ってないけど。ていうかな、俺はホギッちゃんじゃなくて」 「ホギッちゃん《びしぃっ!》」 「人を指差すの、やめなさい」 「ホギッちゃん《ぱたぱた》」 「扇ぐなっ!!」  ていうかどこから出した、その下敷き。 「見てないならしょうがないね、いいや。またあとでね、ホギッちゃん」  言いたいこととやりたいことだけ言ったりやったりすると、彼女はパタパタと生徒の集まる中に潜り込んでいった。 「………」 「元気なコだね」 「台風みたいな人って、ああいう人のことを言うんだろうか……」  先が思いやられる。  むしろそんな人に目をつけられてしまい、これからの学生生活はいったいどうなってしまうのやら。  軽く頭痛を感じたその時、「よーし、席に着けー! 教科書等は話のあとで取りに来るようにー!」と教壇側の引き戸から教師がやってくる。  それをきっかけに、生徒がわらわらと席に着いた。当然俺も真由美さんもだ。  席順は黒板参照。  なんて用意がいいんだ。  そういえばクジ引きしたあと、教師の何人かが体育館を出ていってたな。  わざわざ書きに行ってたのか。お手数をおかけしますと言いたいところだけど、そもそも大凶を入れなければよかったんじゃ……と思わずにはいられない。 「え〜、私が今日からキミ達の担任になる|浅田亮錐《あさだりょうすい》だ。よろしく」  っと、考え事修了。教師が教卓に手を置いて自己紹介を始めたあたりで、意識を先生へと移す。りょうすい、か……結構珍しい名前だ……よな? 世界中の名前を知っているわけじゃないから、もっと珍しいものもありそうだけど。 「いいか? 用水じゃないぞ? りょ・う・す・い・だ」  区切るようにハッキリと言う。  ……過去に嫌な思い出でもあるのだろうか。  珍しい苗字や名前だと、周囲の子供って容赦無くからかってくるからなぁ……苗字も名前も選べないっていうのに。 「ハイハーイ! どんな漢字ですかぁ?」  そんなセンセに、生徒の一人が手を挙げて質問する。  って、さっきの娘じゃないか。  観咲さんっていったっけ。 「こうだ」  その言葉に応えるように、チョークで黒板になぐり書く。そういえば先生って、自己紹介はするけど名前を黒板に書くとかってしない気がするな。  あるのかもしれないけど、そういった光景を見るのはこれが初めてだったりする。   “浅田亮錐”  そうして書かれた漢字は、そんな四文字だった。  “すい”の文字、もっと解りやすくしたら良かったのに。 「……先生! 難しいので“お水”の“すい”に変えませんか!?」 「誰が変えるか! ていうか高校生ならこれくらいで難しいとか言うな!」 「むー! 年齢とか職業に係わらず、難しいものは難しいと思いまーす! 許可を! センセのことお水センセと呼ぶ許可をー!」 「……あー、観咲、だな。あとで職員室まで来なさい」 「あれぇ!?」  入学初日に早速職員室に呼ばれるっていうのも珍しい。  そして何故ここで俺の方を見る。やめて、先生に目をつけられるからやめて。  救いを求める視線から逃れるように、ツイッと先生へ視線を向ける……と、その先生が、誰も座らずぽつんと空いている席を見ていた。 「……うん? そこの席……あー、蒼木はどうした」  黒板を見て、空いた席の生徒の名前を唱える。  蒼木。先生は“あおぎ”、と呼んだが、これまた珍しい苗字だ。  ていうか、柏鷺も蒼木も穂岸も観咲も、会った人の大体が珍しい気もする。……その中で、観咲はまだありそうって思うと、どうしてか漂う敗北感。  ほんと、どうしてだろう。 「澄ちゃんならまだ来てないですよ」  口を開いたのは観咲さん。……澄ちゃん? もしかして、さっき言ってた平和そうな男のことか? 「何処に居るか、知ってるのか?」 「探したケド居ないんだもん。きっと宇宙人に攫われちゃったか、どこかで見つけた猫さんと一緒に日向ぼっことかして寝てるんだよ!」 「宇宙人に攫われる異常さと、あとの猫との差はなんなんだ……」  先生のツッコミももっともだ。 「ふむ。居ないなら仕方ないな。では制服と教科書を配る。制服は一名札とともに詰めてあるので、取りに来るように。ああちなみに、見栄を張って自分を偽った報告をしていようが、別に制服を支給したりはしないから、自分に正直に生きることだ。自己管理も忘れるなということでもあるが」  ……3サイズを偽った人は、せいぜい苦労しなさいって話らしい。  そりゃそうだ、支給でしか用意してくれないんじゃ、そうなる。  でも事故等で破けてしまった時はどうするんだろうか。  ……その時はその時か。 「えぇと」  じゃあ取りに行こう。頷きながら席を立って教壇側まで歩いていく。  当然だけど、教壇の周囲はクラスメイトで溢れていた。  そんな中にあって、透明の袋に入っていた制服を早速取り出して広げて騒ぐ人、一人。 「わぁっはぁっ! 凝ってるねぇっ!」  観咲さんである。  元気だなぁ、なんて普通に当然のことを思っていると、視線に敏感なのか、それとも別のなにかを察知したのか、バッとこちらを見て笑う。 「やっほうホギッちゃん!」  ……ホギッちゃんで決定らしい。  しかもまたサムズアップ。 「元気だな、観咲さん」 「あぁん、観咲さんだなんて水臭いなぁ。雪音ちゃんでいいよ、ホギッちゃん」 「───雪音ちゃんさん」 「おやくそくなボケだね、好感度マイナス1」  もっと面白いことを言おうよー、なんて無茶を促される。  キミはこの高校になにをしに来てらっしゃるのだ。そりゃ、つまらないよりは楽しい方がいいのは頷けるけどさ。 「あのな。人のことを好き勝手な名前で呼んでおいて、言えるような言葉か?」 「ありゃりゃ、根に持つタイプだねぇ。もっと気楽に楽しくいこーよ。ほらほら笑顔、にこーって」 「いや、根から木の頂点まで抱えるタイプだ。現実では非力でも、脳内では力持ちでいたいんだ」 「わあ、ヘンな人」 「キミにだけは言われたくない」 「むむ? じゃあ私こと雪音ちゃんのこと、卒業するまでずうっと雪音ちゃんさんって呼ぶ? そっちがその気なら勝負だよー! ……あ、私が勝ったら報酬はホギッちゃんの自腹でビエネッタだよ?」 「地味に高い……!」  しかしビエネッタとは、なかなか解ってらっしゃる。  そうだよなー、高価なアイスといえばビエネッタだ。  そんな妙な仲間意識が自然と視線から絡み合ったのか、怪しく見つめ合って、ふふふと笑い合う我ら。  ……───傍から見れば怪しい人にしか見えないな。 「穂岸くんに……えと、観咲さん? ……怪しいからそのへんで止めておいた方がいいよ」  思った先から言われてしまった。  それも、真由美さんに遠慮無用に。 「真由美さん、訂正してくれ。怪しいのは俺じゃなくて、むしろこいつだ」 「むぅぅっ、じゃあホギッちゃんはその一味だね」 「怪しさは認めてるんだな」 「ガッデムぅ!」  拳を握り締め、睨む観咲。  ガッデム……God damnと書くが、ようするに“こんちくしょう”的な言葉。  ……youをつければ神はあなたを呪いますって感じになるものの、言葉遊びみたいなものだから気にしなくてよろしい。むしろ考えすぎてから使うような言葉じゃない。 「随分と仲がいいね」 「んっへっへー! ホギッちゃんからかうと面白いから!」 「真由美さん、こいつ頭から触角が生えてるんだ。きっと前世はカタツムリだ」 「がっでむぅ……!!」 「がるるるる……!!」  お互いに睨み合う。  というか待て、どうして俺が睨まれる。からかわれてるって解ったから言い返しただけだろう。……それとも返し方が悪かったんだろうか。  ……そうかもしれない。俺、そういうのは苦手だから。  じゃあ、ええと。どう返したものか。んん……。 「よし、今日からお前をガッデム夫人呼んでやる」 「夫人? あっはっは、ホギッちゃんたらボカ全快だね〜。私夫人じゃないよぅ?」 「ボカ?」 「うんボカ。ボケバカの略」 「《ぐさ》……物凄いダメージだ……ああ、ああ、それならこっちも返してやらないとな。というわけでお前はこれからSTBだ」 「えすてぃ〜びぃ? なにそれ───……はっ!? もしかして新しいプロレス技かなにかかな! どうしよう! 時代の先に立っちゃってるよ! えっと、S……す、すとろんぐ……? T……たらばがに? Bは……ばーべきゅー!」 「ちなみに意味は“救いようがない、てっぺん、バカ”だ」 「きぃいいいいっ! 勝負だぁっ!!」 「ど、どうしたSTB! 急に叫んだりして! あれか!? ストロングなタラバガニバーベキューがしたかったのか!?」 「あ、あぅううああああっ!! えすてぃーびぃ言うなぁぁああっ!!」 「はいはい、子供の喧嘩はそこまで」  顔を真っ赤にして叫ぶSTBと俺の間に、真由美さんが割って入る。  うん、実に子供の喧嘩だった。……むしろこっちが完全に乗せられた。落ち着いて対処しようと思えば出来ただろうに……。 「だって略されたんだよ!?これが黙っておられようかぁぁああっ!! ものども! であえ! であえー! こやつは上様を騙る……誰?」 「……観咲さん。昨日、時代劇見たでしょ」 「見た見た! おもしろかったよねぇっ! 特にあの忍者が出るトコ! ええっと、かしわぎさん?」 「柏鷺です」 「うんうんそうそうカーシー!」 「……柏鷺だよ」  つまり、楽しければいいわけだ……なるほど、思い返してみれば、言い争いみたいなことになっても笑ってこなしている。  うん、好感を持てるタイプだ。重たさを感じない。  と、一人状況分析みたいなことをしている俺の視界に、ひょいと現れる亮錐センセ。 「観咲、ちょっといいか?」 「はぅん? なぁに? センセ」  どうやら観咲に用事らしい。  ……うん、なんかもう観咲に“さん”をつけるのが違和感にしか感じられないあたり、完全にペースと彼女の性格に引っ張られている。  ある意味ですごいな。 「たしかお前は、あー……蒼木、の知り合いだったな」 「幼馴染ってやつですよ。関係は深くないからフリーです」 「私は妻子持ちだばかもん。あぁほら、ついでだから蒼木の分の教科書と制服だ。届けてやれ」 「ほえ? 私が持つの? なんで?」 「他に知り合いが居るのかなんて、私は知らん」  なんとも他人任せな先生が担任になったもんだ。  あ、それはそうと……「お前、年上が好みなのか?」「ほえ? なにが?」……フリーって言葉を言ってみたかっただけのようだった。 ───……。  入学初日ということもあり、賑やかな廊下を歩く。  俺、観咲、真由美さんの順に横に並んでの行進。あとは帰るだけだからどう歩いても問題はない。上級生らしき人も通らないし、他の1年はとっくに帰ってしまったようだ。 「はぐぅ……っ! お、重……! オ・モーイ! ……どこかの言葉で“モイモイ”ってなかったっけ」  結局は任された観咲が、自分と蒼木ってやつの制服と教科書等を手に、ぷるぷる震えつつ歩いている。  ……演技だな、ああ演技だこれ。  あとそれフィンランドの言葉でバイバイだ。 「ファイトだ観咲」 「雪音ちゃんでいいってば」 「ダメだ。観咲がいい」 「ヤぁぁあ……」 「だったらお前も与一って呼べ」 「ヤ」 「よろしくな、観咲」 「ぐくっ……ガッデムぅ……」  すっかり口調も砕けて、目を合わせれば軽口を言える間柄になっていた。  いつの間に、と言われれば……こういうのは超自然的なものなので、いつとは言えなかったりする。そんな二人と、付き合ってくれる真由美さんとで、トボトボと校内を歩く。  ガッデムは口癖のようだ。ことあるごとに言っている。 「なんかさ、今日初めて会ったように見えないよ」  そしてそんな軽口を言い合える俺達の様子を見て、真由美さんが“確かに”って頷ける感想をくれた。  そうだよなぁ……今までは周囲に居なかったタイプなのに、物凄く話しかけやすいのだ。 「ん……なんかとっつきやすいんだよね、観咲って」 「うんうん、私も私も私もだよー。遠慮無しに話せるって、そんな感じ。今、私こそが遠慮無し! あえて言うなら最先端! 私、カッコイイ!《どーーーん!》」 「ところで真由美さん、今日帰ってからのことなんだけど」 「無視しないでよホギッちゃん! ほらほら! 私カッコイイ! 私ステキ! 私ー! 私私ー!」 「なんでそんなにまで自分をアピールしたいんだよお前は!」 「んっふっふー! “一生とは一度を生きると書く”って偶然出会ったじっちゃんに教わったのですよ! だから後悔のないように、たとえ後悔しても笑える“一度”を生きるのさー!」 「偶然出会った老人にどうしてそこまで影響されているんだろうかこの触角は……」 「あの、穂岸くん? そういうのは思っても言うことじゃないと思うなぁ……」  それこそ遠慮無しでいいんだと思うよ、真由美さん。 「まあ一生のことは置いておくとして、観咲。お前の言う幼馴染は休んだってわけじゃないんだよな?」 「澄ちゃん? うん、一緒に来たし途中までは隣を歩いてたんだけどね? 気づいたら居なくなってたんだよねー」 「忍者かなにかなのか、その人は」 「忍者……うーん、どっちかっていうとこう……趣味が天体観測っぽい、静かな男の子? 真面目ではあるけど冗談も解るって、そんな人だよ? 冗談が解っても張り合いが無いからつまらないけど。ネタを振っても“ふふふ、雪音は元気だね”って笑うおじいちゃんみたいで、ダメダメ。平和すぎてなんかこう、張り合いが……うん、やっぱり張り合いがないんだよ」  会話に張り合いを要求されてもなぁ。 「朝は一緒だったのか?」 「うん、一緒に登校したよん」 「これっ! はしたないっ! 語尾に『ん』を付けるんじゃないの!」 「はしたないかな」 「そんなことないけど」  にこーと笑って言う観咲にオカン風にツッコんでみれば、きょとんとした顔で問う観咲さん家の雪音さん。  まあはしたないってことはない。  そして俺は勉強づくしだった自分から離れたいから、敢えて普段は言わないような口調を目指してみている。  成功したかって? もちろん失敗だ。恥ずかしい。恥ずかしいが、ここから一歩進めてこその改善なのだろう。だから怯まない。 「真由美さん? あなたがそうやって甘やかすから、この娘がこんなにねじ曲がった性格に」 「どうしてねじ曲がってるって決めつけるの?」 「俺の直感が叫んだんだ」 「……面白い脳を持ってるね、ホギッちゃんて」 「あ、あはは……」  ごめん無理だ、やっぱり恥ずかしい。  そして観咲に脳の心配をされて、物凄いダメージを受けている。  いっそ殺してくれ。  いや、死を望むくらいなら恥ずかしさに飲まれつつも自分を変えよう。  いつか慣れるさ。 「それで、何処に向かってるんだ?」 「とりあえず空が見える場所」 「空? 空って空か?」  軽く、上を指差す。天井があるだけだ。 「そ。空がよく見える場所に行けば大抵会えるよ」 「空か……屋上とか?」 「ん、そこは有力候補のひとつだね」  テクテクと歩きながら、にぃっと笑う観咲は、やっぱり二人分の荷物を軽そうに振り回しながら歩いている。  こやつの筋肉はどうなっているんだろうか。俺じゃあこうはいかない。勉強ばっかりでモヤシな自覚が多少なりともあるからだ。  ……体、鍛えよう。 「それよかさぁ、少し持ってくれないかなぁ。か弱い乙女に二人分の荷物を持たせたままなんて、男としてはいけないとかなんかそれっぽいことが本に書いてあった気がするんだよね」 「ごめんよ観咲。貴様が苦しんでいるのにぼくは見ていることしか出来ないんだ」 「見なくていから、持ってってば」 「実は腕を複雑骨折中なんだ」 「その腕に持ってるのは何?」 「見て解らん程に脳が腐ったか。これは教科書というものだ」  胸を張って答える。  うん、教科書だ。あと制服。 「与一くん、雪ちゃんには容赦ないね」 「いや、なんか頭から言葉が自然と出るんだ」 「ヘンな言い回しだね。まぁいいや、まゆちゃん持ってくれる?」  真由美さんに向き直る観咲。  ……いつの間にか雪ちゃんまゆちゃんで通じる間になっている。 「ごめんね、実は教科書アレルギーなんだよ」 「……その手の物は?」 「? 教科書だよ?」  平然と言ってのける。すげぇ。 「手伝うのがヤなら、そう言って?」 『うん、嫌だよ』 「そんなぁ、二人して一緒に言うなんて。私達の長い友情はその程度のものだったの?」 「会って1時間も経ってないぞ?」 「うん、そうだね」 「時間なんて関係ないよ、だから手伝って?」 「長い友情はどうした」 「あうぅ……ガッデムゥ……」  がっくりと|項垂《うなだ》れる観咲。  どうやら諦めたらしい、よかったよかった。 「あはは、冗談だよ」  と、俺が安心を得ている横で、微笑をもらした真由美さんがススッと観咲が手に持つ余分な教科書を半分持つ。 「あはは、冗談だよ」  そこに、真由美さんの真似をして俺の教科書を乗せてやる。 「ちょ、ちょっと、なにをっ……」 「いや、手が軽くなって寂しそうだったから」 「がっでむぅ! そんなことないもん!」 「やれやれ、わがままな娘っこじゃて」 「ほんとに容赦ないね」 「自分でも驚いてる」 「グムムー……!」 「唸るのはいいから階段を登れ。ていうかどういう唸り方なんだ」 「むぅう……がっでむ」  たとたとと階段を登る。  一階、二階、三階と登っていき、そしてそのまた上へ。  踊り場に着くと、目の前にあるドア。……よくある立入禁止は無い。  不思議と屋上への扉って立入禁止のイメージが強い。  小学中学と、そうだったからだろうか。 「ああ、ここは出てもいいんだな。小、中の時は俺の学校だと立入禁止だったよ」 「わたしのところも」 「わたしもそうだったけど、無視して出てたよん」 「ギャア不良!」 「あっはっはぁ、やだなぁホギッちゃんてば。誰でもすることだよ?」 「だからってやらなきゃいけない義務はないぞ」 「まあそうだけど」 「うむうむ、解ればいいんじゃ、解ればな」 「まゆちゃん、やっぱヘンだよホギッちゃん」 「うん、雪ちゃんに対しての際は、わたしもそう思う」  ひどい言われ様だ。けど、自分でも不思議なくらいにテンションがおかしい。  やっぱりあれか。勉強ばかりでろくに友達が居なかったからか。  もしかしてこんな関係が嬉しくて仕方ないのか、俺よ。 「いいから、早く行こう」  自分の中の寂しさを誤魔化すようにドアノブを掴み、ゆっくりと回す。  それを開け放つと、そこは眩しい世界だった。  思わずそれを遮るように腕で庇いに出る。 「………」  ようやく目が慣れる頃、その先のフェンスの前に立つ人影に気がついた。  そして、目を疑う。  その人の周囲に鳥が集まっていたのだ。  鳥はその人の肩などにとまり、チュンチュンと鳴いている。  けど、俺達が近づくことで、鳥は空へと逃げてしまった。  それで気づいたのか、その人は俺達に振り返る。 「………」 「………」  とても穏やかな目。  それ以上に悲しそうな瞳の奥。  まるで泣き腫らしたような、そんな表情。  それが、こいつに対する俺の第一印象だった。 「澄ちゃん」  どうしたらいいものか迷う俺の横から、観咲が前へ出た。  それに対して、相手……蒼木、らしい人は、こちらの心情を知らずか「やあ、雪音」なんて穏やかに応えた。 「どうかしたのかい?」  微笑んでみせ、ゆっくりと喋る蒼木。  初めて会うタイプだ。“穏やか”が人になった印象ばかりが突っ走る。 「どうもこうもないってば。澄ちゃんが居なかった所為で、わたしが教科書と制服を持つハメになったの!」  「ほらー!」と、苛立ちを言葉で発散するように、大きく言い放つ観咲。  ……なんて口調の印象とは裏腹に、表情は笑顔だ。器用だなぁ。 「ごめん、決して悪気があったわけじゃないんだ」  そしてこの返事である。……なるほど、これは張り合いがない。 「それは解ってるけどね……いいや、はい」  そんな蒼木の反応に、とっくに慣れているんだろう。そこで話を打ち切り、てこてこと近づいて制服と教科書を渡した。 「ありがとう、うれしいよ」 「ちょっと待ってくれ、悪い、俺の分も混ざってる」 「ふふーんだ! わたししーらない! ホギッちゃんが悪いんだもんねー! 恨むなら乗せたままにした自分を恨むんだよー!」 「そっか、じゃあ返すね」 「ありがとう」 「澄ちゃん!?《がーーーん!》」  張り合いは無いけど話は解る人のようだ。  なるほど、いい人じゃないか。 「それで、えっと……きみたちは?」 「ほえ? ……ああ、この人達は雪音ちゃんの新しいお友達なのだ! んっふっふー! 入学早々、二人もお友達を作っちゃったよー! ぶいぶいー!」 「へえ、雪音の?」 「騙されるな、全てこいつの妄想だ」 「うわヒドイ! なにそれホギッちゃん!!」  いきなりウソをついてみたが、これまたいきなりツッコまれた。 「冗談だって。で───」  顔を見てからずっと微笑んでいるような男に目を移す。 「………」 「?」  そうすることで、もちろん視線が交差する。  つまり、蒼木も俺をジッと見ている。 「僕は蒼木澄音。よろしく」  突然に自己紹介された。  ……返さなきゃ失礼だな。その前に小さな質問をしたい。 「女みたいな名前だな」 「よく言われるよ」  だよなぁ。“言われ慣れてるよ”って苦笑を漏らす彼に、じゃあと俺も自己紹介。 「俺は穂岸遥一郎。よろしく」 「私は柏鷺真由美。よろしくね」 「そして私は雪音ちゃん! お母さんが空手道場をやってて、お父さんがなんちゃらカンパニーで働いてて、おばあちゃんが薙刀を教えてておじいちゃんが盆栽マスター!《どーーーん!》」 「そしてお前は触角か」 「なにそれ違うモン!」  そんなこんなで自己紹介が終わった。  隣で騒ぐガッデムさんは置いておくとして、終わった。 「………」 「………」  再び、蒼木と視線が交差する。  それは長引くものでもなく。蒼木はニッコリと笑って言葉を発した。  “唐突”って言葉が似合う質問だった。 「……幸せは、何処にあると思う?」  幸せだぞ、幸せ。急にそんなことを訊いてくる人なんて初めてだ。 「幸せ? 個人によるんじゃないか?」 「……そうだね。そうかもしれない」  真面目に答えてみると、蒼木はさっきもした悲しそうな目をする。  人の目を見てどうやってそんなものを理解しろっていうんだ、なんて訊かれたら言葉に詰まるだろうが、それは説明のしようがないからであって、見てみれば解るのだ。  どう見たって悲しそうなんだから仕方ない。 「僕の幸せはね、この空にあるんだ」 「空?」  言われてから空を眺める。  見上げた空は丁度、太陽が雲に覆われた時だった。 「そう。だからいつも眺めているんだよ」  彼もまた、空を見上げる。 「僕の名前……澄音はね、澄み切った空を喩えてつけられたんだ。蒼木……あおぎは『仰ぎ』の名残だそうだよ」  「親はとっくに居ないんだけどね」と言う彼は、微笑んでいるようにも見えたが……目は笑っていなかった。  真っ直ぐに空を見上げ、言葉を繋いでいる。  その目にはさっきと同様、悲しみが見てとれた。 「なんの因果かな……。名付けられてからずっと空と一緒だった僕なのに、今は空が嫌いなんだよ」  どうしてこいつは、俺にこんな話をするのかが解らない。  俺は『ああ』とも『うん』とも言えず、ただ目の前の男───蒼木の話を聞いていた。 「残酷だよね。手を伸ばしても届かないんだ。目の前にある幸せを掴むことが出来ない。見上げることしか出来ないんだ、僕は」  それだけを言い終えると、蒼木は空から視線を戻す。  俺はそんな彼に、浮かんだ疑問をそのままぶつけてみることにした。  詩人様でいらっしゃるのでしょうか、なんて不躾な質問ではなく、普通に湧いた疑問をだ。 「どうして嫌いなのに見上げるんだ?」  当然の疑問だろう。訊いてみることに抵抗がなかったけじゃない。なにか理由があるのだろう。初対面で探るようなことを言うべきか、なんて考えもした。けど、それは相手だって同じだ。初対面の俺に対して言うような言葉か?   だからこそ遠慮はしないで訊いてみた。  返ってきた言葉は……想像もしないものだったが。 「……好き、だからかな」 「はい?」  ……待とう。  ほんとにポエティックさんでいらっしゃるんじゃああるまいな。  ちらりと観咲を見てみると、何故だか「……深いね……!」と解った顔をして頷いていた。いや、これ哲学とかそういう方向の会話なのか? 「ああごめん、からかっているわけじゃないんだ。好きだけど、嫌いなんだ。それはどうにもならない感情さ。好きなのに届かないから嫌いなんだよ」  そんな混乱に対して、蒼木は少し戸惑ったふうに言葉を繋ぐ。  頼むからもっと解りやすい言葉で話してくれ。  ほら、真由美さんも首を傾げてる。 「……好きだけど嫌いか……よく解らないな」 「そうかもしれないね。でも、これは知らないでいる方がいい」 「……もしかしてお前、ヘンな奴か?」 「想像の範囲は任せるよ。人の存在は他人の評価で決まるそうだから」 「……大雑把な奴だな」 「そんなものだと思うよ。例えばひとつの意志があったとして、それは周囲にある意志とは違ったものだった。叩きつけられる多くある意志の中で、その意志は抗い続けられると思うかい?」 「……いや、きっと尊重も出来ずに飲まれるしかないんだろうな」 「そう。長くは続かないものだよ。自分がそうであるとどれだけ主張しても、それを決めるのはいつも周囲だ。個が多に勝つことは、とても難しい」  言って、フェンスに向き直って街の景色を眺めながら、彼は言葉を繋ぐ。 「徒党を組めばそれが正しいだなんて言うつもりはないよ。でも、それに抗うことが出来るのは力のある人だけだ」  どんなに意志が強くても、それだけは変わらない。  蒼木はそう続けた。 「だけど諦めたくないから。諦められないから、僕は空を見上げている」  再び空を見上げて、小さな溜め息を吐きながら…… 「確信があるわけじゃない。でも解るんだ。この空が僕の幸せであることが……」  そう呟いて、空に手を掲げる。 「でも……」  その手が、握り拳を作った。  まるで、そこにある何かを掴もうとするように。 「……僕は、ちっぽけだ……」  それは力無い握り拳だった。  空気を掴みたいんじゃなく、空の蒼に届かせたいのではない。  ただそこにある、なにか大切なものを抱き締めたいのだと……どうしてか、その時はそう感じた。 「いくら手を伸ばしても、高い場所に登っても、この手は届きはしないんだよ……」  その言葉を最後に、話は終わった。  静寂が訪れる。  そして俺と真由美さんは…………反応に困った。 (……真由美さん。なにかフォローを) (えぇっ!? え、えーと、えと……あの、与一くん? この人ってその、ポポポ、ポエティックな人……なのかな……?) (……冗談とかで言ってる顔じゃないのは解るんだけどさ。本当だとしても、どう返せばいいやら……!)  彼の幸せは空にある。  じゃあ宇宙飛行士かジャンボジェットパイロットとか目指したらどうか。  ……いや無理だ。そんな言葉を言える雰囲気じゃあない。 (でもゆきちゃんの幼馴染さんなんだし、このままはちょっと空気が悪いよねっ、う、うんっ!) (《ハッ》ま、真由美さん!?)  急にガッツポーズを取った真由美さんが一歩前へ!  なんだか嫌な予感がして止めようとするも、彼女は止まらなかった。 「そ、空に届きたいなら、風になればいいんだよっ!《どーーーん!》」 (真由美さぁあーーーーーんっ!!)  そして人である存在にとっても無茶な注文を投げた。  案の定、蒼木はぽかんと硬直して…………フッと笑うと、とてもやさしい顔になった。  そんな表情のままに、「うん。僕も……そう思うよ」と言ったのだ。 「───!《ぺかー!》」 「ああ……うん、通じたのが嬉しいのは解るから、こっち見て嬉しそうにしないで……」  なんだかあなただけを向かわせた罪悪感が半端じゃないから。  俺にもなにかを言えと言いますか? ……ごめん、思いつかない。 「この話題で澄ちゃんスマイルをさせるなんて、まゆちゃんやるねー!」  そんな苦悩の瞬間、普段なら……ああいや、普段とか言うほど一緒に居ないけど、想像がつくであろう騒がしさを潜めていた観咲が喋りだす。  そのお陰……というか、その能天気ぶりのお陰で、場に残っていた重かった空気が一瞬にして晴れた。  ……張り合いはないんだろうけど、調和はできてるのかもしれない。 「ごめん、気をつかわせちゃったかな」 「いいっていいって気にしてないから。澄ちゃんのこれにはもう慣れてるしねー。それにしても、よく喋ったねぇ」 「……いい天気、だからかな」 「せっかく数年ぶりに語り始めたなら、気の済むまでって思ってね。ねーねーホギッちゃん、雪音ちゃんたらやさしいよね! ぶいー!」  言ってケラケラと笑う。何故か俺に向けて。  やめなさい、俺に向かってXサインは。 「……穂岸くん」  溜め息をだはぁと吐いていると、ふと、蒼木が俺に向き直る。  その目は……また、悲しみが込められている。  いったい何が悲しいんだろうか、この男は。 「ん、なんだ?」 「きみの未来が幸せであることを願っているよ」 「え?」 「それじゃあ、帰ろうか」  ……いきなり幸せを願われて、しかもさっさと屋上を出てゆく蒼木。  え? いや、ちょっと待て! 話の流れが全く掴めないんだが!?  これって俺の理解力が足りてない所為なのか!?  勉強ばっかりでコミュニケーションレベルが足りてないから理解が足りないのか!? それとも俺が馬鹿なだけなのか!? 「あっ、ちょっとぉっ! 待ってよぉ!」  人の葛藤など解るわけもなく、ドアの先に消えた蒼木を観咲が追うように走ってゆく。 「………」  幸せ……か。  随分と幸せにこだわる奴だった。  でも、いい奴だった。たぶん。  ポエティックなところがあるかもだけど、悪いやつには思えない。 「それじゃあ、わたし達も帰ろっか」 「……そだねぇ」  真由美さんが先に歩いて、屋上を出てゆく。  それに次いで、俺も。 「………」  最後に屋上に向き直る。 『諦められないから、僕は空を見上げている。解るんだ。この空が僕の幸せであることが……』  あの時、あいつは確かに泣いていた。  人は悲しみを背負うほど、やさしくなれるって、そんな言葉を誰かが言っていた。  ……あいつはどんな悲しみを背負っているのだろう。  届かない空に、何を望んでいるのだろう。  吹いた風の勢いに任せて、屋上の扉は閉ざされた。  その先にあるであろう、届かない幸せを守るように。  ……とりあえずアレだ。  あの触角にしてあの友人あり。  蒼木澄音に対する第一印象は、ヘンなヤツだった。  え? 観咲? ……触角でいいだろ、もう。
ネタ曝しです。 *インディアン嘘つかない  白人、嘘つく。  ローン・レンジャーより。たぶん。  いろいろ話が飛んでて、どれが元なのか判断しづらい。  ちなみに凍傷が初めてこの言葉を聞いたのは、父の口からでした。  いえ、父はインディアンではなく生粋の日本人ですよ? *ビエネッタ  我が愛と青春のララバイ。ララバイは関係ない。  小僧だった自分にとって、ビエネッタこそアイスの王であった。  ハーゲンダッツ? 知らんヨそんなもの! *知らんヨそんなもの!  ブリーチより、マユリ様。 *グムムー  キン肉マンより。  肉語。 *なにそれ違うモン!  お前は既にパー子だよ。  ジャンプ読み切りCOSMOSより、パー子扱いされたナイーブことなっちゃんの叫び。  作者さん、まだNARUTOのアシスタントをやってらっしゃるのでしょうか。 Next Menu back