───腹黒い来訪者のコト───
07/モーニングマイセルフ  ───とある日の朝。  目が醒めると知らない場所だった。 「……?」  ぐる〜りと部屋を見渡す。  ……うん、知らない場所だ。これ以上ないってくらい、知らない場所だ。  穂岸遥一郎はこのような場所は知らないだろう。ならば何故───などと考えていても始まらない。うん、始まらないだろう。 「………」  結局は体を動かすことにした。  とりあえずはまあ……外に出てみるとしようか。  そう思って、着替えてから部屋を出る。  で、階段があった。  ……二階だったらしい。  しかも出た途端に階段。  なんか凄い場所だな、ますます何処なんだここは。  突然やってきた緊張感に喉を鳴らしながら階下へと降りた。  「あ、与一。おはよです」 「え? あ、ああ……おはようサクラ」  階下には何気ない顔のサクラ。  ………………夢? 「なあサクラ、ここ何処だ?」 「ふぇ? マスターさんの家です」 「マスターの? なんで?」 「憶えてないです? 昨日の夜にマスターさんが来て、知人が数人で押しかけるから部屋を空けてくれないか、って言ってたです。それでサクラと与一、ここを紹介されたです」 「……そういえばそんなことがあったような……。それで、戻れるのはいつになるって?」 「戻れませんです」 「うん?」 「マスターさんがここで寝泊りしてくれって言ってたです」 「ここって……ここ?」 「ここです」 「………」 「?」 「……えっと、それってつまりここに寝泊りしろってことなのか?」 「さっきそう言ったです」 「……もしやこれは、めくるめく一人暮らしの再来!?」  “ぱぁっ……!”と目の前が明るくなった気がした。  が、サクラを見て色を戻した。  そうか、こいつが居た。  無理。  無理だ。  無理だな。  俺にはもう、ひとり暮らしという甘美なる響きは訪れない。 「……顔、洗ってくる」 「いってらっしゃいです」  何故か送り出しの声を背に、俺は洗面所に───何処にあるんだ。 「サクラ、洗面所って何処?」 「そこです」  そこって……ああ、今まで気付かなかったけど、ちゃんとドアがある。 「……構造を知らないっていうのも厄介だな。大体俺は、ここから学校に行けるんだろうか……」  怪しくなってきた。  大体にして俺はこの家が何処に建ててあるのかも解らないわけだ。  ヘタをすれば路頭を|彷徨《さまよ》うコトに……ッッ!  ああっ! 神さま───はチェーンソーで惨殺するとして、……誰を拝めばいいんだ? 「与一、なに拝んでるです?」 「俺は朝起きたらまず崇拝をするんだ」 「そだったです?」 「うむ、信仰心は……低いんだろうな」 「?」 「なんでもないなんでもない、ハテナ顔するな」 「ウィです」 「移されてしまったのはどうしようもないもんな。ここで頑張らなきゃいけないんだから」  言って、カチャ……とドアを開けた。 「………」  洗面所、だな。  うん、洗面所だ。  狭いけど洗面所だな。  で、確認したいことがある。 「サクラ」 「はう? なんです? なんです?」  てほてほと俺の傍まで小走りするサクラ。  なんとも頼りない足音だ。 「あのさ、もしかしてここって“家”っていうよりは“部屋”なんじゃないか? ほら、アパートとかって家っていうよりは部屋って数え方するだろ?」 「家です」  きっぱりと断言された。  や……だって、狭すぎないか? 部屋だろこれ。二階があることを驚ける狭さだぞ? 「外に出てみれば解るです」 「………」  言われるがままに外に───玄関はどっちだ。 「サクラ、玄関は───あった」  ほんと狭いな。  洗面所から出てぐるりと見渡しただけであっさりだ。  確かに洗面所と玄関は近いイメージはあるけど、それにしたってだ。 「………」  嫌な緊張感が何故か復活した。  それでもまあ玄関を開けて外に出るあたり、どこか肝が座っているのかもしれない。  カチャ……と、ドアノブが回り、押し開くと……やがてゆっくりとその先の景色が広がる。  ……別に変わった様子もなく、何処にでもあるような穏やかな住宅風景が広がっている。  ───心配するだけ無駄だったか。  なんて思って歩を進め、太陽の下で大きく伸びる。 「ぬおお……」  おお、この朝の日差しのなんと素晴らしきことよ。  爽やかな気分だ。  胸いっぱいに朝の空気を吸い込んで、やがて吐くと同時に振り返る。 「───」  いざ家の中に戻ろうとして、固まった。  振り向いた先には、妙な形の……ほ、ほそっ……細いっ……い、家? が、あった。 「………………………………」  家だ。  文句なく家だ。  家……ではあるのだろう。  ……こんなでも家なんだよね? 「どうりで狭いわけだ……!」  どうりでバイトの俺なんかに貸す気になるわけだ……! 「ああっ……朝の気持ち良さ台無し……っ!」 思いっきり泣きたくなった。 それはもうヒステリックヴォイスで。 「ヘイゲリョォオオオオオオオオオッ!!」  とりあえずヤケになって叫んでみた。  しかし何も起こらなかった。  しかしそれでは気がおさまらず、“家?”の中に駆け込んだ。 「ササ、サクラッ! これは家なのかっ!?」 「家です。それに昨日、ぬおお、なんと素晴らしき高級住宅よ。こげな場所に住めてあたしゃ日本随一の幸せ者じゃあ、って言ってたです」 「誰が」  俺の質問に、無言で俺を指差すサックラさん。  ───あ、あの……サックラさん?  今の言動、どこらへんが俺のものなんでしょうか……。 「全部です」 「心を読むなっ!」 「口に出てたです」 「な、なんと!」  何故か野武士風に驚いてしまった。ほんとに野武士がこんな口調なのかは知らないしどうでもいい。  しかしなるほど、俺にこんな裏習性が。  これなら有り得るかもしれんどころか、まだまだ不発弾がありそうだ。  もしや一ヶ月も経てば老武士も真っ青のシブイ叔父様になっているかもしれん。  ああ恐ろしや。 「と、未来への不安と冗談はこれくらいにしてと。そろそろ用意しないとな」 「わ……立ち直り早いです……」  まずは先程果たせなかった洗面を。  ダカダカと洗面所に向かって顔を洗ってさっぱりしよう。  気分転換だ……なにかきっかけを得て、心を綺麗にリセット! 「《ドゴォッ!》ニーチェ!」  前方不注意で壁に衝突した。 「…………そうでもないみたいです」  “激しく動揺中です?”と問われて、“趣味の一環だ”と答えた。  いつも心にトキメケを。少年よ、大志よりも童心を抱き続けろ。  大志なんて無理に抱くもんじゃない。大人になっても諦めきれないなにかがあるなら、それこそを大志と断じて追い求める。そう、夢に年齢制限なんてないのだから。 「でもとても痛そうです」 「舞台の演義派女優に憧れているんだ。明日の舞台は任せてくれ」 「?、?」  自分でも訳の解らないことを口走っている。  見なさい、サクラもあんなに“?”を飛ばしていらっしゃる。 「いや、悪い……」  今度こそ洗面所に入って顔を洗った。  冷水をかぶったおかげか、意識はまとまってくれた。 「……よしっ。とりあえずこの真正面から見たら長方形の家は放っておくと! ……したいんだけどなぁ……」  意識的にはハッキリしても現状を把握出来ていない悲しい自分が尚も悲しかった。  この町に来てから悲しんでばっかりだよちくしょう。 「……いいや、長方形だろうと楕円形だろうと家は家だ。マスター、貴方の厚意、……厚意…………うう……」  どうしても厚意に思えないこの扱いが輪をかけて悲しかった。  人様の厚意は無駄にしないのが自分の信条だと信じていた自分が崩れてゆく気分だ。  だって……! だってどう見たってここ、物置なんだもの……ッ!! 「……帰ってきたらまず掃除だな……」  片付けられる場所があればの話なんだが。  まあなんにせよ《ピンポーン♪》 「ホワ?」  突如、思考を遮るようにチャイム(?)が鳴った。  誰だ? こんな物置に用事を唱えるお方は。  疑問を胸に、大して広くもない廊下を歩いて玄関をコチャリと開ける。  うん、この玄関独特の音って結構好きだ。 「はい?」  まあ好き嫌いは置いておくにしても、まずは玄関の先の誰かと話を───マテ。 「………」 「………」  ピザ屋が居た。  ピザ屋……だよな。  だってよく見るピザ屋の服着てるもん。  ピザ屋だ。 「えーと? 柏鷺さんのお宅……だよな? じゃなくて、ですね?」  ピザ屋なのに荷物持ってる。  伝票にはSAGAMA急便の文字。  ……おーいピザ屋さーん? 持ち物間違ってるゾー? 「え? えっと? ピザ? 宅配? え?」 「はーいはいはい、それではここにサインか判子を。あぁ、血判でもいいぞ?」 「───」  や、そんなこと言われたってな。  怪しいんだが。怪しさ炸裂しているんだが。 「はいです」  不審者を見る目で、じいっとピザ屋を見ていた俺の脇から、ひょいと玄関をくぐってきたサクラが判を押す。  キャップ式の、すぐに押せるタイプの印鑑だった。  って、いやちょっ……サクラ!? サックラさんっ!? 「よっしゃ確かに。んじゃ、荷物はここにっと。頑張れよ、おじょーさん」 「《わしゃしゃっ》みうっ……」  ピザ屋はサクラの頭を撫でると荷物を玄関に置き、チャッと手を上げた。 「うっしゃあ任務完了! っととこれ言わなきゃいけないんだったよな! こほんっ!《───バッ! ババッ!》お届け30分以内は当たり前ッ!!《ビッシィーーーン!!》」 「………」 「………」 「………じゃっ!」  妙なポーズを取って、あくまでピザ屋っぽい言葉を遺して走ってゆく。  ああ、とても元気に“ごしゃー!”と去っていったよ。  なんなんだ? この街ではピザ屋が荷物を運んでいるのか? 「な、なんだったんだあいつ……」 「…………レイル兄さんです」 「へー……ってなに!? あいつが!? お前の教育係だとかいう!?」  レイル。レイル・ベルナード。  天界で、サクラの教育係りとやらをやっていたらしい男。  天のお偉いさんの息子の友人らしく、天界人の中でも結構有名な人らしい。  ……その有名さ加減は、別に英雄的という意味ではなくて、むしろ面白い人という方面で。  アッハッハー、そんな人が荷物持ってきちゃったゾー。ドウシヨー。 「サクラも与一の所に送ってもらう時はレイル兄さんに頼んだです。この大きさからすると、高い確率で───」  サクラはダンボールに入っていた箱入り娘だった。  じゃあこの無駄にデカいダンボールは? 「……《ゴクリ》」  知らず知らずの内に喉が鳴った。  さ、寒気だと……!? 馬鹿な、この俺が───!?  頭脳戦ならば負けないといいなと希望を持っているこの俺が……!? 「………」  真面目に考えよう。  ウム、とひとつ頷いていると、そんな俺を無視してゾギゾギとガムテープを|匕首《あいくち》で切り始めるサクラさん───匕首!? どこから出した!? 「って、なにをいきなり開けておられるっ!?」 「気付いたです」 「え? 気付いたって───なにに」 「密封が完璧です」 「ん? ん、あ、ああ、そうだな。それで?」 「中に誰か居たら窒息するです!」 「……ほうわぁあああっ!? は、早く開けてやらないとっ!」  アワァアアワワワ!? ダンボール開けるのってどうやるんだっけ!?  ナナナナナマモノはカッターで切ったらダメとか書いてあったような!?  ってサックラさん!? 匕首って刃が長すぎやしません!? もうちょっと短いものに───なんでそんなもの持ってるんだよ!!  あぁああいやいやそれよりも早く空気穴をえーとえーと!! 「ハッ!」  そ、そうだ! 俺には信じて鍛え上げた崩拳が───ってソレはもういい! ともかく所詮ダンボール! 地獄突きの一撃でも入れれば、穴くらい───! 「キエエエーーーッ!!《ズボキャア!!》キャーーーッ!!?」  そして突き指する男子高校生。  悶絶しつつも、中の人はもっと苦しいんだと我慢して、今度は左の貫手を《モゴキャッ!》ギャアーーーーッ!!  やはり突き指。ならばと小指から人差し指までの四本からなる指の先をそれぞれの付け根くっつけるように曲げて、関節ナックル! 「《ゴデシッ! ズキィーーン!》ヒギャアーーーーッ!!」  被害が増す一方だった。  なにせ殴った場所が悪かった所為で、間接がメキョリと妙な音を立てて、のちに襲い掛かる大激痛。  そうして悶絶している間に宅の桃色さんが冷静に匕首でガムテープを切ってくれて、静かにダンボールは開封された。 「………」  泣いてないよ? 一人暮らしを夢見る男子高校生は、こんなことじゃ泣かないのだ。  ともあれ、ダンボールの封印は解かれたわけだ。当然中が見える。  ごくりと喉を鳴らして覗いてみれば……いや、覗くもなにも、もう見えるんだが。 「───ひっ」 「…………!」  ぐったりと動かなくなった少女が居た。  な、なんてことを……! よもや死人が……死人が送られてくるとは……!  ああ、どうしたものだろう。どう説明すれば? これで仕事は無くなってしまうのか? 俺の独り暮らしの夢は永久に潰えて、牢獄でそげな夢を果たすことに……!? 「ノ、ノノノノアです……! ノアが来たです……!」  混乱している中、冷静な自分が、慌てている自分を見るなんて心境の中、サクラが少女の顔を見てカタカタと震えた。 「サ、サクラ? この死体の正体を知ってるのか……?」 「死んでなんかないです! 頭についてる魔器が生命維持装置になっているです! あそこから酸素が送られてるから、窒息なんかしないのです!」  続けざまに三回、“です”を言われてしまった。  ていうか魔器ってなに? 「サクラ、魔器ってなに?」 「……言ってなかったです?」 「聞いた憶えもないです」 「魔器はこの機械のことです。下界に降りる時や仕事の時に渡されるです。サクラの場合は腕に装着するタイプですが、ノアの場合は頭につけるメット式なんです。しかもこのメット、生きてるです」  恐ろしいです……と喉を鳴らすサクラ。  生きてる……ねぇ。機械のようにしか見えないんだけどなぁ。 「で、このコとは知り合いなのか?」 「……生まれた時からの腐れ縁です……!」  ああ、とても嫌そうだ。  察するに、嫌なコなのだろう。 「名前はノア・エメラルド・ルイード。通称ノエルです。でもノアのままがいいって、通称を捨てた女です」 「へぇ……」  ダンボールの中で寝ている少女は、それはもう大人しそうで清楚な雰囲気を醸し出している。  これで長髪だったら“あ〜、見るからに清楚だよコノヤロー”って感じで完璧だったんだろうな。  などと考えていると、ごぞりと蠢くダンボール娘。 「お、起きるですっ!」 「起きなかったら秩父山中に埋めるところだ」 「───ふう。それは、一種の証拠隠滅と言うのですよ」  目をうっすらと開けた少女が言う。  そんな彼女が伸びをするようにウゴゴゴと震えながら、ダンボールの中で起き上がる姿は……ええとうん、その、なんだろう。笑っていいのだろうか。 「ああうん、知ってる。冗談だ」 「失礼致しました。突然の来訪、まずは謝罪します。では続いて自己紹介を。私はノア・エメラ」 「知ってる」 「───」  ゆっくりとサクラを見るノア。  サクラもノアを見て───一瞬、コクリと頷いた……うん? 目配せ? 気の所為か……? 「自己紹介くらい自分でさせていただけますか?」 「何しに来たですノア。ここはサクラの管轄区域です」 「チャリス様からの伝言です。 “サクラが彼のもとに訪れてから、彼の幸せメーターが著しく低下している。それならば不幸の摂取もせっかくだからしてきなさい”と。これを聞いて、なにか言いたいことはありますか?」 「……与一、不幸です?」 「訊かなきゃ解らんのかお前は……」  今の俺の何処をどう見れば幸せそうに見える。 「あなたがマスターの穂岸さまですね。私のことはノアとお呼びください。任務が終わるまで、これからよろしくお願い致します」 「───え? 住むの?」 「はい、そうなります。知っての通り、は下界に家など持っておりませんので」 「そら、そうだわな……」  気の抜けた声が出た。むしろそれしかこぼれやしない。  こんな状況で元気よく返事をしろ、なんて無理だ。誰か助けてくれ。 「ご安心ください。いくら私が不幸を集めるために来たからと言いましても、自らマスターを不幸にするようなことは致しません」 「……マスターって、誰?」 「あなた様です」 「……マスターはやめてくれ、知人にそういう人……いや、そう呼んでる人が居る」 「これはとんだご無礼を。お許しくださいませ。それではご主人様でよろしいでしょうか」 「それはもっとダメッ!」 「あの、それでは一体、どのような呼び方がお気に召されるのでしょう……」 「与一でいい」 「そんな! とんでもありません! 主人をあだ名のようなもので呼ぶなど! よろしいですかマスター! あなたさまは今日を持ちまして私の主です! そのような方が私のような使用人の位である者に、そのような人称を要求するなど! 主として不出来でございます!」 「…………」 「ね、話してるととっても疲れるです……」  サクラが苦手ぶってた理由が解った気がした。  もうちょっと気安くならないものかなぁ。 「大体サクラ! あなたもあなたです! 主に対してその態度はどうかと思います!」 「うにゅ〜……うるさいですノア……」 「うるさくて結構です。あなたはもう少し、従順になるべきでございます」  ていうかなにやら丁寧語が妙に感じるのは俺の気の所為か?  いや、明らかに変だろう。本当の丁寧語なんて知らないけど、少なくともおかしく感じるのは確かだ。 「ノアの敬語はレイル兄さん仕込みだから、どこか変なんです」 「………」  なんだか悲しくなってきた。  もう帰っていいかな、俺………………ここが家だった。 「それでもだ。サクラには俺のことは与一って呼んでもらうよ。俺はな、人に“さま”とか上の者扱いされるのが大嫌いなんだ。必要なことならまだしも、急に来て急に決めた主従関係なんて知ったこっちゃない」 「……ッ」  俺からの拒絶を聞いて、ノアが少し歯を噛み締める。  人の見た目で年齢を見極める、なんてことが出来るほど人間観察は得意じゃないから何歳くらいなのかは解らないが、明らかに見上げる格好の少女は……少し悔しそうだ。 「どうしても、でございますか?」 「呼び方くらい好きにさせてくれ」 「それは命令でございますか?」 「頼みだ。命令なんか出来るほど人間としての器が大きくないんだよ、俺は」 「………」  はぁ、とノアが溜め息を吐く。  ああ、これは呆れられたな。  相手にしてみれば仕事で来ているようなものなんだし、仕事だって割り切ってくれって意味も混ざってたのかもしれないけど、俺にとってのそれは話が別だし─── 「合格です」  ───なぁ……って、えぇ!?  満面の笑み!? え!? なにごと!? 「ゴウ……なに?」 「ですから、合格です。失礼とは思いましたが、私とてひとつの人格です。仕える人種くらいは選ばせてもらう権利はありますから。……ですが、それも取り越し苦労でした。マスター、改めてこれからよろしくお願い───」 「マスターは無しッ!」 「ノリでいけるかと考えたのですが……私はまだまだ未熟でございますね。|不束者《ふつつかもの》で申し訳ございませんがよろしくお願いいたします、遥一郎さま」 「だ、だから“さま”はっ!」 「聞く耳持ちません。今の遥一郎さまは私からの確認書を受け取らない者も同然。私をあなたさまの使用人として認めてくださるのであれば───」 「いきなり脅迫しにきたよこの娘!」 「……こういうヤツです。だから苦手です……」  サクラが呟く言葉に、思わず向き直ってまでじっくりと頷いてしまった。  だってしょうがないだろう、いきなり来ていきなり人を試していきなり脅迫してくるなんて。 「サクラ、それは聞き捨てなりません。私は昔からこういう性格であって、曲げられたわけでもありませんよ。それならば誰かにどうこう言われることは不愉快の極みです」 「───天然で腹黒いです」 「……天然ポケポケピンクに言われたくありません」 「ノアこそドスグロキンピカです!」 「………《ゴゴゴゴゴゴ》」 「………《ドドドドドド》」  二人の幼女……とまではいかないまでも、少女が何故か少し姿勢を斜にして睨み合う。妙な迫力があって近寄りがたい上に、なんかもう首を突っ込まずに逃げ出したい。  けれど今はここがマイホーム。逃げ場などなかった。  ならどうするか? 早急に事態を治める以外に方法はないだろう。 「あーもー! 解ったよ! 使用人でもなんでもいいからっ! 喧嘩だけはするなっ! ここに住むならみんな仲良く! いいな!?」 「───はい、受理されました。あなたさまは只今を持ちまして、私の主でございます」 「あ゙ぁっ!? ア……いっ……勢いで……!」 「……ばかです」  困惑していた我が心に、サクラの素直な言葉がザクリと突き刺さった。  ああ馬鹿だ、目先の平穏を求めたばかりにこんなことに……! 「そ、それなら取り消してもらえばっ!」 「無理です、与一……」 「え?」 「ああ、そうでございました。先程の契約のお言葉、寸分の漏れも無く正確に録音させていただきました」 「なぁあああーーーッ!!?」  言いつつも、被ってるメット型の魔器とやらをいじくると、先ほどの会話が流れ出す。  しかも器用に巻き戻しと再生を繰り返して、“使用人でもなんでもいいから!”という俺の言葉が何度も何度も繰り返されてギャアアアーーーーーッ!! 「与一……与一はノアをもっと知るべきだったです……」 「………………」 「あ……放心したです……」 「これはいけません。すぐに気つけの準備を」 「……魔器を使うです?」 「ええ、一種の電気ショックでございます。これで目を醒まさない者はおりませんでしょう?」 「……サクラ、それで一度死にかけたです……」 「貴女の貧弱な身体と遥一郎さまの身体を同一と唱えることは愚でございます」 「うー……」 「胸が薄いから衝撃が多かっただけのことでしょう? 私の所為にしないでくださいますか」 「………………ノアに言われたくないです」 「ぐっ……! ま、まあいいでしょう。人の良し悪しは胸では語れません。それでは」  スチャッ、と魔器が操作されるのが視界に入った。  途端、心が放たれると書いて放心していた心が我が胸に戻って、意識が浮上する。 「ストップ!」 「あら、遥一郎さま起きてしまわれたのですか? せっかくこれからダンスパーティーが見られると思いましたのに」 「こここ殺す気かぁっ!」 「電気ショックでございますから死にはしませんよ。麻痺はいたしますけど。ほら、この程度です《ヂガァアアンガガガガガ!!》」 「巨象も一撃でお亡くなりになりそうな電流ですが!? 直視して目が痛い電流なんて見せるなぁああっ!!」  やばい、この娘本当にヤバイ。  天界っていったいどうなってるんだ!? 教育は!? 地界の常識は!?  なんかもうひどく偏った知識を持った存在が教えているとしか思え───ああ、そういえば教育係がピザ屋の制服着て人間を送り届けたんだった。  なにを願って“常識”なんて言葉を求めていたのだろうか、俺は……。  あのピザ屋が教育係りなら、根本的にもう無理じゃないか……。  しかしそれとこれとはやっぱり別だ! 「おっ……俺はまだやりたいことが山ほどあるのっ! 真の幸せを掴むまでは死ねるか! だから電流は要らない!」 「───失礼致しました遥一郎さま。処罰はなんなりとお受けします」 「俺を与一と呼」 「承伏致しかねます」 「なんなりとじゃなかったのか!? ていうか最後まで言わせてくれせめて!」 「それは承伏致しかねます」 「………」 「……それでは、部屋の片付けを致しましょう。これでは遥一郎さまが快適に過ごすことなど夢のまた夢でしょう」  アナタがこの天然ピンクさんを連れて天界に戻ってくれると、きっと僕の幸せメーターはうなぎ登りだと思うんだ。 「………………あのさ、ノアさん」 「ノア、でございます。遥一郎さま、もう少し主である自覚を持たれてくださいませ」 「……それじゃあノア、やっぱり“さま”はやめてくれないか? どうにも体中に、その……こそばゆさが……」 「遥一郎さまでは不愉快であらせられますか?」 「不愉快っていうか……まあとにかく、“さま”さえつけないんだったらなんでもいいから」 「よ、与一っ!」 「へ?」  丁寧にお願いをしていると、突然サクラが悲鳴にもにた慌てた声で俺の服を引っ張る。  当然何があったのかも解らない俺は困惑するしかな───い、わけでもなかった。  ノアがゆっくりとした動作で魔器に触れて、とてもとてもやさしい笑顔でニコリと笑ったのだ。  メット。さっき録音された。スイッチ、同じ場所。  俺、なんて言った? ええっと。  様付けじゃなかったら、なんでも…………ナ、ナンデモ─── 「あ、あぁあああーーーーっ!」  しまった! 録音! 様付けじゃなかったらって、こうなると───! 「……録音、させていただきました。それではマスター、改めてよろしくお願いいたします」  ペコリとお辞儀をされた。  やめてと言っても、録音された俺の言葉を無言で流されまくるだけだった。  なんかもう泣いた。  まいった……このコ、腹黒いわぁ……。 「与一、ノアに話術で勝てると思わないことです……」  いつ録音してるか解らないです、と言って溜め息を吐くサクラ。付き合いが長いのか、本当にうんざりしたような顔だ。  サクラのこんな顔は初めてだな。意味もなく、俺はうんうんと頷いた後に溜め息を吐いた。  そんなこんなで、俺の新しくも先行き不安な日常は始まったのでした───。
ネタ曝しです。 *神をチェーンソーで惨殺  魔界塔士Sagaより。  まずは人間男にチェーンソーを持たせましょう。  そして雑魚敵をチェーンソーでコロがして、惨殺熟練度を上げます。  ここで焦ってはいけません。  チェーンソーを持っていれば神を確実にバラバラにできるわけではないのです。  熟練度があります。隠れた熟練度が。  それをしっかりと育てて、チェーンソーはたっぷりと持っておいて、神に挑みましょう。  迫力ある神のBGMの中、かみはバラバラになった! という文字とともにサワヤカなBGMが流れます。  その後の主人公たちのセリフ、「やっちまったな……」がひどくしみじみと心を突き刺します。 *ヘイゲリョー  棒人間語でヤケクソを指す。  別にホギっちゃんはそれを知っていたわけではない。  ネタというか、まあ凍傷小説ネタ。 *ニーチェ!  フリードリヒ・ニーチェ。神は死んだ。  人が生きていくことで常識的なものに感謝するなら、日常ってものは一度壊れてしまえば二度は得難いもの……神なのですか? いえ、知りません。  ともかく、なにかとても大事なものがなにかによって壊れ、手から離れてしまった時。  OHMYGOD!と叫ぶのではなく、ちくしょう俺の中の神は俺にやさしくねぇ! 神は死んだ! なんて時。  叫びましょう。ニーチェと。  長ったらしい話は置いておいて、浦安鉄筋家族ネタ。  最近はあまり言ってくれない、ダメージリアクションの中のセリフ。 *サックラさん  サクラ大戦より。神埼すみれさんがさくらさんを呼ぶ時、たまになる。 *秩父山中に埋める  どうしてか、埋めるといったら秩父。なんでだろう。 *姿勢を斜にして睨み合う  ゴゴゴゴゴゴと地鳴りのような音とともに、斜めっぽい姿勢で睨む。  ジョジョキャラの睨み方……アレ、いいですよね…………ウン。  Q:この小説のジャンルはなんですか?  A:謎や矛盾を楽しむRPG、もとい小説。むしろ凍傷小説はほぼそれである。 Next Menu back