───強引に幼馴染?のコト───
10/馬鹿者どもの歌  ───……。 「うー……」  唸り声が聞こえた。  別に腹を下しているわけではないから安心してほしい。 「……うー」  唸り声が聞こえた。  別に難しい宿題を前にしているわけではないから安心してほしい。 「……うー」 「うるさいぞガッデム」 「ヘンなあだ名つけないでホギッちゃん」 「お前に言われたくない」 「はは、まったくだね」 「澄ちゃんどっちの味方!?」 「平等のつもりだよ。気分にもよるけどね」 「そういうことだ、ガッデム」 「うー……」  再びボソボソと唸り始める観咲。  なんとかならないだろうか。 「……んー」  しばし思案を進める。  しかしまあ、こやつならあっという間に回復するに違いない。俺がアレコレ考えるのも迷惑か。  兎にも角にも、観咲自身に任せることにした。……決して面倒だからじゃないぞーぅ? 「《ドスッ》くほっ!」  脇腹に唐突なる痛みが走った。  確認するまでもなく、観咲が俺の脇腹に地獄突きをキメてくれたのだ。  ◆地獄突き───じごくづき  掌を上にして、指を揃えて相手を突く技法。  貫手、とも言うかといったら……いうかもしれない。  やった方もやられた方も痛い。なのでやるなら脇腹にしましょう。  喉は危険です。  *神冥書房刊:『相手の集中を崩す様々な技法』より 「いきなり何をするんだ」 「ホギッちゃん今失礼なこと考えてた」 「そんなことはないぞ。俺はいつでも有礼だ」 「わけが解らないよ」 「お前が馬鹿だからだ」 「うーーーっ!!」 「ぬおーーーっ!!」  お互いに牽制し合う。  ゆ、譲れねぇ! この戦いはいわば聖戦! 今こそ俺が勉強馬鹿じゃないことを思い知らせ─── 「騒いでないで歩こう。今の行動の方がよっぽど意味が解らないよ」  ───る前にツッコまれた。  ……そう、実はまだ家についていなかったりする。  なにをのんびりしとるのかといえば……蒼木が死線を動かしては、いや死線じゃなくて、視線を動かしては、道にてお困りのどなたかを助けに走るのだ。  それを手伝っていたら……まあ、こうなっているわけで。  その過程、真由美さんは家の手伝いがあるからと途中で別れた。  そんな現在……俺は蒼木に行動の意味を求められたわけで。 「今の行動の意味か……そうだな、スキンシップだ」 「あっはっは、ホギッちゃんたら馬鹿だなぁ。それを言うならパイレーツシップだよ?」 「雪音……キミはマグロ漁船にでも行くつもりなのかい?」 「雄々しいな」  蒼木と二人、真顔で観咲を見つめてみた。  きょとんとしていた彼女はしかし、とても嫌そうな顔で 「行かないよぅ」  とても嫌そうな顔をされた。  あと蒼木、パイレーツシップは海賊船だ。船を襲いはしても、マグロを取りには行かないと思うぞ? 「遠慮するな、お前ならきっとマグロ漁船でも食っていける」 「無理だよ。私、か弱い乙女だから」 「……乙女? アマゾネスの間違いじゃ《ドフッ!》ぐおっ!」  喋り途中に観咲の拳が脇腹にヒットした。  喋るために吸い込んだ酸素が、衝撃で全部口から漏れるほどの衝撃であった。 「そっ……! そういうところがっ……雄々しいって言ってるんだ……!」 「今のはホギッちゃんが失礼なこと言ったからだよ」 「待て、俺は失礼なんじゃない……無礼なんだ」  失礼と無礼。  礼を失うのと、最初から礼が無いという意味。文字としては。 「……えと、一緒、だよね? ねぇホギッちゃん」 「大差ないって言ってくれ。頭が痛みに集中してて回らない」 「じゃあうん、大差ないと思うよ?」  律儀に言い直してくれた。  結構いいやつかもしれない。殴った本人じゃなければ。 「どうしてこういうことには素直なのに、“ホギッちゃん”は直さないんだよお前は……」 「言いやすいからだよー!《どーーーん!》」 「穂岸って言うのとホギッちゃんとどっちが言いやすいと思っとるんだこの触角は」 「じゃあ逆にホギッちゃんはどうしてわたしのこと触角言うの? 私のこと嫌いなの?」 「ホギッちゃん言うな」 「ヤ」 「お前なんて大嫌いだ」 「私は嫌いじゃないんだけど……」 「そうか」 「うん」 「けどな。お前にはもっとアグレッシヴな相手がいいと思うぞ? 俺じゃあ釣り合わないから」 「?」  俺の言葉に首を傾げる観咲。  まるで、“あぐれっしぶってなに?”と訊いているようだ。  ああちなみに、釣り合わないのは俺の方だ。頭でっかちなだけの俺だ、そもそも誰とも釣り合わん。 「あぐれっしぶってなに?」  そして言われた。 「蒼木、説明してやってくれるか?」 「僕でよければ力になるよ」  大袈裟な返答を真面目に穏やかに返すサワヤカさんの図。  ……なぁ観咲。やっぱり結構ノリがいいぞ、蒼木。 「いいかい雪音。アグレッシブっていうのはね」 「ふんふん……」 「“言い争える人”って意味だよ」 「…………そうなの?」 「違う」 「あはははは、力になれなかったね」  どうやら真面目に応える気はなかったよう……いや、彼は真面目にふざけただけだろう。  ある種、とっても強力だ。 「“攻撃的”とかそういう方向の意味だ。お前とじゃあ普通の人だと身がもたない」 「ガッデムゥ! 自分のお婿さんくらい自分で決めるからいいんだよっ!」 「その時、婚約指輪を指で曲げたりしないように気をつけろよ?」 「そんなことしないよ!」 「じゃあウェディングドレスを用意された時に、“こんな女っぽい服、着れるかぁーっ!”とか言って引き裂くなよ?」 「わたし女の子だから女っぽくていいんだもん!」 「なにぃ、丸太のような筋肉ゴリモリの足をしておいて何をいまさら《ドゴォッ!》おほう!? な、なにをする!」  突如として腕に衝撃が走る!  どうやら隣を歩く観咲さんが、俺の腕を殴りつけてくれたらしい。 「正拳突き! ホギッちゃんがそういうこと言うなら本気で怒るんだから!」 「なにを言い出すか、いくら俺でも女に遅れをとるような無様は」 「穂岸くん、雪音はこれでも空手有段者で」 「うっしゃあ話し合おう観咲。ヒトヲナグル、ヨクナイコト」 「賛同に値する思想だね。争いはよくないよ」 「………」 「弁当、あげたろ?」 「………………うー」  構えを解き、とりあえず落ち着いてくれた。  ふう、なんたる危険な女だ……! 危うく殴殺されるところだった……!  女性関係をこじらせた男じゃあるまいし、そんな殺されかたはまっぴらごめんだ。 (………)  うん。女性関係、こじらせた男だったね、俺。自重というか、少し落ち着こう、俺。  それにしても……くっくっく、あの弁当が地獄の味わいを醸し出してくれるとも知らずに。  こういうパターンでは相手が偏食というのがセオリーだが、このサクラ作の驚愕弁当を口にして、ただで済む者が居るだろうか。いや、居るわけがない! ……反語。  というわけでレッツゴー! トゥ・マイ(?)ホーム!  観咲という名のこのお馬鹿さんには一度、内部からのショックを与えないといかん! そう、いかんのだ! それが成功した時、なにかしらの科学反応が起こってこの触覚が進化したりするかもしれない! 「うっふっふ……」 「ホギッちゃん、顔が変」 「え?」  言葉にしないが、蒼木も少し引いていた。  でもその顔は穏やかだった。  うーむ、何が言いたいやら。 「蒼木、俺とお前の仲じゃないか。何を遠慮しているんだ」 「今日友達になったばっかり」 「うっさい脳内お花畑」 「うんん!? うー! 回りくどい言い方しないでズバっと言ってよ!」 「馬鹿」 「ガッデムゥ! 澄ちゃんなんか言ってやってよもう!」 「的確な表現だと思うよ、うん」  うんうんと頷く蒼木の姿に、がーんとショックを受けている、どこまでも救われない観咲さん。 「裏切り者ー! 私と澄ちゃんの仲でしょー!?」 「幼馴染だね」 「そうだよぅ! 産まれた日も一緒で、名前も似せた仲だよぅ!」 「知ってるかい雪音。幼馴染はその幼馴染の相手にヒドイ仕打ちを受けるのが定義なんだ」 「え……えうぅ……?」 「冗談だよ、言ってみただけだから気にしないでいいから」 「……? えーと、よく解らなかったんだけど」 「ようするに馬鹿ってことだ」 「……殴っていい?」 「すぐに暴力に訴えるのはどうかと思うぞ。ロミオで表すところのタキオーニだ」 「うぐ……」 「穂岸くん、そのへんにしておいてあげてくれないかい」 「ん、悪い」 「待って澄ちゃん私まだ言いたいこと言ってな───」 「───《にこり》」 「───ひぅうっ!? うわやぁあっ! や、やめます! なんでもないですぅう!」  一瞬、蒼木の笑みが冷たい笑みへと変わった。  瞬間、観咲は怯えてすっかり冷めてしまった。  心無しかカタカタと震えている……ハテ? 「あのさ、蒼木」 「なんだい?」  いつもの笑顔……なんだけど、何か嫌な予感がした。  漠然としたものを信じすぎてもなぁとは思うけど、ここは何も訊かないほうがよさそうだ。触れてほしくないことなんて、誰にだってあるんだ、それくらいが丁度いい。  となれば、話題なんてさっさと変えるに限るだろう。 「家に来るって話だけどさ。鞄とか置いてから来るか? 案外邪魔になったりとかするかもだろ」 「はは、勉強道具が入っているんだ。これを持っていないと意味が無いよ」 「あ、そ、そうか……ハ、ハハ……」  ……思いのほか動揺しているのかもしれない。  そう思うんだが、潜在的な部分で自分が防衛体勢を取ってしまっている。  これはダメだ。訊けばなんとなく、表現的に地獄を見ることになる。 「じゃあ、家に直行ってことで……」 「うん、それがいいね。行こうか」 「はうう……はうぅう……」  やはりカタカタと震えている観咲を無視して、俺と蒼木は歩き出した。 「あっ、あっ、ちょ、ちょっと待って! 待ってよー!」 「断る」 「こんな時くらい頷いてよ!」 「……仕方の無い奴だな」  立ち止まり、観咲の希望通り頷いてやり─── 「断る」  改めて断った。うん、願いは成就された。 「結果が同じじゃ意味ないよ!」 「お前……俺をからかって何が楽しい」 「からかってるのはホギッちゃんでしょ!?」 「雪音、いいから行かない?」 「うー……だって澄ちゃぁん……」 「幼馴染の言うことは聞いておくもんだぞ」 「ホギッちゃんは聞いてた?」 「ん……俺か?」 「ん」  言われて、過去の思い出の景色へと、脳を回転させてみる。  ……そこに居た幼馴染、とは呼べない少女の姿を記憶が象ろうとすると、俺の頭は勝手にその行動をやめた。 「ああ、俺、そういうの居なかったから」 「そうなの?」 「ああ。どこにでもあるような人生を歩いてるからな。そんなどっかの恋愛物語みたいにお約束な幼馴染なんて居なかった。あー……そうだなぁ、蒼木や観咲みたいな幼馴染が居たら……もっと楽しく生きてたかもしれない」 「えへへぇ〜……照れちゃうなぁ」 「お前は騒ぐことしか能が無いからな。退屈はしないだろ」 「ガッデムゥ!」 「ええぃ黙れ触角娘!」  やっぱりこいつとは妙なところで波長が合う。  それはまあ今までひとり暮らしを夢見て勉強ばかりしてきた俺にとって、初めて出会うタイプの馬鹿女だからか。  真偽の程は定かではないにしろ、退屈はしないという言葉に偽りは無いことを実感する。  妙な波長同士がぶつかり合う中、ひとつの穏やかな波長だけが俺達を見て穏やかに笑っていた。 「……おかしいか? 蒼木」 「ああ、はは。すまない。変な意味で笑ってるんじゃないんだよ。ただ、こんなのもいいかなって思っていたんだ」 「……澄ちゃん、多分それってホギッちゃんウィルスに侵されてるんだよ」 「エターナルピーカンブレインのお前に言われたかないわっ!」 「エタ……? ……むー! わけのわからないこと言ってごまかそうたってそうはいかないんだから!」 「悠久お天気脳味噌女」 「……う?」 「ようするに馬鹿ってことだ」 「むきゃぁあああああああああっ! しょーぶだー!」 「出さなきゃ負けよじゃんけんぽん! はい勝った」 「うわーん澄ちゃあああん!」 「ふふっ……」  そんなやりとりを見て、やっぱり微笑む蒼木。  どことなく苦笑も混ざっているように見えて、ふと思う。  自分が人をからかって遊ぶのが好き、なんて自覚はなかったんだけどな、と。  あれか。観咲がこう、なんというのか、打てば響くような性格だからか? ……いや、それは人の所為にしているだけだな、これはよくない。  つまらない自分を変えるにしても、あまり人を苛めるような性格にはなりたくないからな。あれだ、からかったとしても報復はきちんと受け取れる人になりたい。対価ってやつだ。  観咲の場合は───……殴られそうだな。まいった。けど、攻撃してきた時は素直に受けようと思う。それだけ相手が傷ついたってことだろうから。  もちろん痛すぎたら文句は言うが。がんばれ、もやしな俺。  両手を挙げてギャースカ騒ぐ観咲と、そんな彼女を見つつもうんうんと自分の思考に頷く俺とを見て、蒼木がひとつ、提案を投げる。 「穂岸くん、キミさえ良かったら今からでも僕達の幼馴染にならないか?」 「意義ありーっ! 絶対ヤーッ! ホギッちゃんなんてペッ! だよ、ペッ!」 「うっさい黙れこのキャベツ娘!」 「キャベ……!? ど、どういうことだよぅ!」 「無駄に芯が多くて所々が無駄って言ってるんだ!」 「いーもん! わたしキャベツ好きだもん! わたしがキャベツを愛するもん! ホギッちゃんなんて焼きそばに白菜入れたらいいんだよ! キャベツは芯がおいしいんだもーんだ!」 「ぐぬぅうう……! 緑野菜っていったらレタスだろ! レタスチャーハンは美味いんだぞ!?」 「焼きそばっていったらキャベツだもん!」 「いいや夏はスイカだ!」 「夏はスイカバー!」  途中から話題が逸れた。落ち着こう。 「はぁ、よし。じゃあ間を取ろう。焼きそばには確かにキャベツだ。たまにピーマンを入れる焼きそばもあるけど、あれは無しということで《がしぃっ!》うおっ!?」  目を伏せ、軽く両手を挙げて、降参というよりはちょっとストップ的な意味で宥める意味も込めてやさしく言う───と、観咲がきゃらんらした輝く瞳をして俺の手を握ってきた。  で、言うのだ。「同志!」と。 「そーだよね無いよね! 焼きそばにピーマンなんて邪道だよね! キャベツ! にんじん! 豚肉! トッピングに青のりとおかかだよね!」 「……観咲もそう思うか?」 「思う思う! そーだよねいらないよねー! お惣菜屋さんの焼きそばだとなんか入ってたりするけど、あともやしも要らないよね!」 「表出ろこの触角がぁああーーーーーっ!!」 「えぇええーーーーーーっ!!?」  もやしは要らないと言われて激怒。既に表だ、なんてツッコミは必要ない。  わ、悪かったなもやしで! 運動出来なくて悪かったなぁ!  逆上がり出来るのがそんなに偉いのかちくしょう!! 「ホギッちゃんてばもやし派なの!? 焼きそばにもやし!? あんな水っぽくてソースの味を殺しちゃうのを!?」 「貴様もやしを馬鹿にしたな!? もやしは万能なんだぞ!? 安いし調理次第ではなんにでも使えるし! ろくに料理もしないヤツがもやしを下に見ることほど腹の立つことなどあるまいよ!」 「だって美味しくないよ?」 「……観咲《にこり》」 「《うにゅっ》はひゅっ?」  にこりと微笑み、彼女の両肩にポムと手を置くくらいの気安さで、彼女の両頬を摘む。 「調理次第と言っておろうがァアアア……!!」 「《グミミミミ!!》いひゃーーーっふぁふぁふぁふぁ!!? ふぉふぃっふぁん! ふぃふぁひーーーっ!!」  聞く耳持たん! まったくこれだから料理というものをまるで理解していない女子は!  味付けもろくにしないものが美味かったためしがそうそうあるものか!  きみはあれか!? 焼きそばをソースで味付けもせずに食べて、美味しいと言えるのか!? ……あ、パリパリになるまで焼いた焼きそばは、案外いい味だったりするけど。  なんてことを語りつつ頬を引っ張っていると、負けてなるものかと観咲が俺の頬を摘んでくる。  なんの負けてなるものか! 言っておくが俺は我慢強さだけなら《ギチギチギチ》しぎゃあああああ千切れるぅうううっ!!  あまりの痛みに観咲の頬を離すと、彼女も離して距離を取った。 「ふ、ふふふ……暴力は……よくないな……《ズキズキズキズキズキズキ》」 「穂岸くん、物凄い涙目だよ」 「暴力を振るったことに涙してるんだ。世界は平和であるべきだな。俺、もっとやさしい人間になるよ」 「うん、それはとても素晴らしいことだね」 「じゃあ今回のお話は雪音ちゃんのしょーりってことでいいんだよね? キャベツ万歳」 「待て。お前、それはレタスに失礼だろ。俺もべつに特別好きってわけじゃないけど、そこはレタスも褒めておくべきだ」 「ホギッちゃんしつこい!」 「しつこいのはどっちだ!」 「ふぅうう……!!」 「ぬおおおお……!!」 「うにゃぁあああ……!!」  キャベツとレタスの好みで睨み合う高校生二人。異常だ。  けれど俺、別にキャベツが嫌いなわけじゃあない。ただ一度、芯の部分にお虫様がおられたのを食べそうになって、それが苦手の原因になっているだけだ。 「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」 「だってこの触角が!」 「だってこの解らず屋さんが!」 「ふふっ、やっぱりふたりはとても仲良しだね」 「なか……っ!?」 「澄ちゃん! 眼科検診受けた方がいいよ!」 「僕は正常さ。よく言うだろう? 喧嘩するほど仲がいいって」 「な───」  くっ───まさかここにきてその言葉を聞くことになるとは思ってもみなかった……!  しかしそういうことなら逆もまた然り! 「な……何を言う! 俺達は元々仲良しだ! なぁ観咲!」 「う、う……うん! そうだよ!」  観咲も同じ考えだったらしく、すぐにノッてくれた。 「そっか、それなら安心だ。僕が思っていたよりも仲良しだったんだね」 「観咲ィイ! やっぱりお前は敵だぁあっ!」 「上等だよホギッちゃん! わたしだってホギッちゃんなんてペッ! だもん!」 「あはははははっ……」  ……作戦、失敗。  なんにせよ、目の前で喧嘩されてもここまで穏やかなヤツも珍しいなとつくづく思う。  蒼木澄音。  こいつが怒ることなんてあるんだろうか。  なんとなくそんな興味が沸いたけど……まあ、俺がどうこうするものでもないし。  ん、忘れよう。  今は目の前のガッデムさんをなんとかしないとな。  と、観咲の怯えた顔を一瞬思い出しながら、言い争いを続けた。……歩きながら。 11/桃色と金色  チャッ、と玄関の扉を開け、中に入る。  思い切り物置な外見への、観咲からのコメントはスルーした。 「はう、お帰りですー」  で、玄関先でサクラを発見した。  洗濯物を持っているところを見ると、どうやら洗濯をしていてくれたらしい。 「洗濯しててくれたのか? ありがとな」 「サクラ、居候ですから。これくらいお茶の子さいさいです」  両手いっぱいに洗濯カゴを抱えて、満面の笑顔で答えるサクラ。  ……ああ、裏の無いコっていいなぁ。天然すぎるのもどうかって、最近思い始めてるけどね。 「怒ってばっかのどっかの誰かさんとは大違いだ」 「……それ、誰のことかな」  ポツリどころかドバッシャアアとこぼした呟きに、家に入らずに様子を見ていた観咲が返す。  誰のことだろうなぁ。 「自覚が無いって素晴らしく嫌味だと思わないか? 観咲雪音くん」 「……うん、つくづく思うよー? 穂岸よーいちろーくん」 「───」 「───」  お互いがお互いをその代表だと言うが如く、俺と観咲は睨み合う。  そんな中、蒼木が「お邪魔します」と言いつつ、少し頭を下げて中に入った。 「ほら見ろ、あれが礼儀正しい客ってもんだぞ」 「客を粗末に扱う人に言われたくないもん」 「待て、俺だって客にはやさしいぞ。お前がつっかかってくるから」 「最初にからかってきたのはホギッちゃんだもん!」 「じゃあホギッちゃん言うのやめてくれ、まずはそこからだ」 「ヤ」 「よろしくガッデム……!」 「よろしくホギッちゃん……!」  睨み合う……ものの、まあ、そこまでキツく睨み合ってるわけでもない。  あくまでおふざけの段階だ。なんだかんだで観咲もへにょりと楽しそうに笑っている。 「与一、お友達です?」 「下僕だ」 「げぼぉっ!?」 「なんだ、汚いな観咲。吐くなら外で吐け」 「そっ! そんなことしないもん! それより下僕なんてヒドイよぉ!」 「ちょっとしたジョークじゃないか。さらっと流せ」 「ガッデムゥウウ!」 「ちくしょうです?」  ……こてりと首を傾げるサクラを見て、“天界にもガッデムって言葉はあるのだろうか”とちょっと真面目に考えてしまった。 「いや、こいつのガッデムの意味は、ちくしょうはちくしょうでも動物の類の畜生だ」 「恨畜生です?」 「そう、根がちくしょうなんだ」 「わけのわからないことで頷き合わないでよ!」 「───与一、こっちは誰です?」  叫ぶ観咲をあっさり無視したサクラが、俺の袖をくいくいと引っ張って蒼木を見る。  対する蒼木はにこりと笑い、その後ろのガッデムが、無視されたことに地味にショックを受けていた。 「友達だ。馬鹿でもアホでもガッデムでもない」 「……ホギッちゃん。それ、どういう意味かな」 「澄音、っていうんだ。よろしく」 「はう、ご、ごていねいに、です。サクラはサファイア・クラッツ・ランティスって《ディシィッ!》にゃうっ!?」 「ぉあっ───す、すまんサクラ!」  つい手、というか指が出てしまった。  まったくの無意識だった。  ただ、自分の立場や周りの目を気にするあまり、天界のフルネームを語るサクラにデコピンが……! 「あー! ホギッちゃんがぶったー!」 「───っ」  ぐさっときた……正直、今の言葉は効いた。  殴るつもりはまるっきり無かった。だからってデコピンが許されるわけでもない。  うおお……馬鹿か、なにやってんだ俺……。罪悪感……罪悪感が……! 「だいじょぶです、これくらいの痛み、すぐ消えるです。それよりごめんなさいです与一、名前は───」 「いや、謝るのは俺だ。女の子に手をあげるなんて最低だ」 「女の子に馬鹿馬鹿言ったり、髪の毛にデコピンするのも最低だと思うよ〜? 髪は女の命っていうんだからね〜? ホギッちゃ〜ん?」 「ここぞとばかりに容赦ないなお前! 対価だから受け取るけどさぁ!!」 「ふっふーん! たいか、っていうのがなんのことか解らないけど、ホギッちゃんを言葉で負かしたよー! んっふっふー、ばかばか言ってた相手に負けた気分はどーかなホギッちゃん! これでもうこの雪音ちゃんのこと、馬鹿って言えないでしょー!」 「雪音、仕方が無いよ。キミは馬鹿なんだから」 「《ゾブシャア!》ふぐぅっ!?」  幼馴染の無慈悲だけど純粋な言葉に、彼女の感情は喜びから悲しみへとクラスチェンジした。  が、すまん。今はそれよりもだ。 「……ごめんな、サクラ」  まず謝って、サクラの頭を撫でた。そして自分の立場ばっかり気にして、手まで上げたことを心の底から謝罪する。 「みぅ……」  サクラは嫌がる顔もせず、くすぐったそうに目を細める。  …………そんな顔を見たら、余計に胸が痛んだ。  そんな俺を見て、観咲が一言。 「…………ロリコン」 「《ざくっ》ぐっ───! お前なぁ! 人が真面目に苦悩してるのにそういうこと言うかぁ!?」 「言うね。わたしは。絶対に。だって馬鹿だもん。わたし。いーんだもん、馬鹿だもん」 「とっとと帰れ倒置法!」 「おじゃましまーす」 「あっ、こら! 勝手に上がるな!」  にっこり笑顔で俺の横を通って玄関へと侵入する触角さん。  止めに入るが、きょとんとした顔をしたのちに─── 「あがっていいかな、サクラちゃん」  俺じゃなくてサクラに許可を求めた。  なるほど、俺なら絶対に断ると確信しての行動か。けど甘い。 「駄目です。何様ですか勝手に。気安く呼ばないでくださいです。汚らわしいです」  宅のサクラは意外と遠慮がございません。  なにせ趣味が“極道”。嫌なことにはNOと言える少女なのだ。 「……わぁ、なんかすごい言われ様だよぅ澄ちゃぁん……」 「雪音が悪いよ。了承は得るべきだしね」 「ホギッちゃん、妹さんにどんなシツケしてるの?」 「い───」  “妹?”と言いそうになるのを堪える。  そうだ、普通は妹って考える。それを覆すのは愚かしい。  サクラの“居候”って言葉は聞こえてなかったらしい。心の中でガッツポーズをとった俺は、極めて冷静に言葉を返すことにした。  ……そんな俺を見て、なんだかくすぐったそうに笑う蒼木は……ええと、なんだ? 俺の顔、心の中でガッツポーズを取っているだけあって、にやけてたりするのか? 「あ、あー……こほん。躾って……サクラは動物じゃないんだぞ?」 「です。そして与一の敵はサクラの敵です。与一をホギッちゃんと呼ぶとはなにごとです?」  “キッ!”と睨んだつもりなんだろうが、“チラッ?”、って感じだった。が、ともかく観咲を睨むサクラ。  ……うーむ、極道云々を思い浮かべてはみたものの、こんなサクラは初めて見る。珍しい。 「澄ちゃん、なんか怖いよぅ」 「自己紹介くらいしたらどうだい?」 「あ、う、そ、そうだね。えーと、わたしは」 「別に訊いてないです。知りたくもないです。だから結構です。そして帰るです」 「うわーん澄ちゃぁああん!」 「嫌われちゃったみたいだね。日頃の行いが悪いからかな」 「そんなぁ……わたしが何したっていうの……? わたしここに来てからまだなにもしてないよ……?」 「不法侵入です《ずびし》」 「はう!?《がーーーん!》」  まさにその通りだった。  一応通報されたらやばいレベルのことをしているにはしている。 「あ、じゃあ外に出て、許可を貰えばいいんだよね?《タトトッ》ほ、ほら出たよ!? あがっていいかなー!」 「今です与一! 閉めるです!」 「がってんだソリャァアーーーッ!!」  観咲が玄関から外へ! 次の瞬間、扉を閉め《がしぃっ!》ハオッ!? 片手で押さえられた!?  だが閉める! 掴まれた扉をその片手ごと引き込む勢いで……あ、あれ!? 閉まらない……どころか開かれてゆく!? 「ぐおお!? 馬鹿な! こっちは両手なんだぞ!?」  なのに片手で! そんなっ……まさかっ……! 俺、男としてそこまでもやしか!?  ややややめろぉおお! 男としての自信をこれ以上滅ぼすのはやめろぉおお!! 「ホギ〜ッちゃん♪ い〜れてっ♪」 「やめてください人を呼びますよ!?」 「そっちこそやめてぇええっ!? その叫び方だとご近所さんがほんとに来ちゃうよぅ!」 「考えてもみろばかぁ!! 男の全力に片手で勝る女に強引に侵入されそうになってるんだぞ!? 叫びもするだろ!」 「お友達として入れてくれれば全部解決するんだよホギッちゃん!」 「俺にナメック星人の友達なんていない! アジッサの苗木ならそこらへんに生えてるから、それやるから帰ってくれ!」 「落ち着くです与一! それは与一のものじゃないです!」 「そうだけど今だけはそういう正論はやめてほしいかなぁ!!」  Q:どうしてそんなに中に入れるのを嫌がりますか?  A:仕事場のマスターから家を借りた途端に別の女を連れ込んで、しかも天界とかいう知識を植えつけて笑って過ごす変態アルバイターのレッテルを貼られそう  結論:理由としては十分だろう  などと悩んでいる内にも観咲がサクラに訴えかけ、その悉くを却下されていた。  ……今回ばかりは同情するよ、観咲。むしろ俺がヘンテコに対応した所為だった。  これはさすがにフォローしないと。そもそも心の底から本当に来て欲しくなかったのであれば、道中でなにがなんでも断ればよかったのだから。  よし、と───早速行動に移ろうとした矢先。 「与一、そんなことよりお願いがあるです」  観咲のことを“そんなこと”で片付けたちっこいピンクさんは、俺の服を引っ張ってそう仰った。  そしてまたもショックを受ける観咲。  その拍子に扉は閉まったものの、蒼木がその扉を開けたから……まあその、なんか普通に入ってきた。 「お願い?」 「“ろくが”のやり方、知りたいです」 「録画?」 「はいです」  録画って。……この家にビデオデッキなんてあったか?  そもそもあったとして、テープなんてないんじゃ……。 「ん……なぁサクラ? そもそもビデオデッキが無いんじゃないか? 少なくとも俺は、そんなものは持ってなかったし送ってもらってもないぞ?」 「レイル兄さんが届けてくれたです」 「……ピザ屋の格好でか」 「はう、ピザ屋の格好でです」  その状況を身振り手振りで伝えようとするサクラが、「お届け30分以内は当たり前! ……です!《ヘニャーーーン!》」とキメポーズを取っていた。ビシィーンとポーズをキメたつもりだろうが、やっぱりキレが全然なかった。  ……それはそれとして、そか。ほんとに来たのか。 「そ、そっか、じゃああとでな? 今から勉強会をやるんだ」 「あと……です?」 「んー……なにか録画したいやつでもあるのか?」 「すぐ始まるです」 「あ、そりゃヤバイな。じゃ、ちょっと来い。……って待て、デッキは何処にあるんだ?」 「お茶の間です」 「そっか」  頷くと同時に動き出す───が、ハッと思い出して、玄関で待っている二人に向き直った。 「あ、ふたりとも上がって待っててくれ。俺の部屋は階段上がったとこだから」  むしろ上ってもそこにしか部屋がない。なにせ階段を上ったら扉しかないから。 「オトコノコの部屋かー……あははっ、えっちな本とか見つかったりして。ねぇねぇホギッちゃん、探索していい?」 「そんなものはないと胸を張って言えるし、そんなものに金を使うほど裕福でもエロくもない。けどな、部屋を漁られるって解ってて誰が頷くか。殴るぞ(触角を)」 「叩くです(触角を)」 「ごめん、雪音は僕が見張っているから」 「頼む」 「お願いしますです」 「うん、身命にかけて」  蒼木はサクラに微笑むと、ギャーギャー喚く観咲を連れて階段を上がっていった。  途端、静かになるこの場。  どれほどやかましいんだ、あのガッデムは。 「………」 「どした?」 「与一、澄音と居ると落ち着くです?」 「───そう思うか?」 「思うです。表情が柔らかです」 「ん……そか。そうかもな」  あんな友達が居たら、とかずっと思ってた。  重くもなく、軽いわけでもない。  自分にとって何もかも話せるような存在で、一緒に居ると全てを許せるような気分になってしまう。  まるで───そう、穏やかな蒼空の下で、柔らかい風に包まれているような─── 「……複雑です」 「え?」 「うや? なにか言ったです?」 「……それはこっちのセリフだが」 「…………わかんないです」 「そうか? まあいいけど」 「………」 「ところで───何を録画するんだ?」 「“極道の阿修羅たち”です! 極道と来たら見逃せないです!」 「……………………」  俺の中で時が止まった。  えーと、聞き違いかな。 「ごめん、なに?」 「“極道の阿修羅たち”ですっ!」 「……………………」  …………疲れているんだろうか。  それとも……? 「ご、極道?」 「はいです」 「極道って、あのヤクザとか任侠とか、銃でバンバカ撃ち合って血がドバドバって」 「銃じゃないです、チャカです」 「───」  …………もしかして。  信じたくないが、まさかまさかまさか───!  そりゃ今までそれっぽい反応がなかったと言えば嘘になるが、もしや心の底から───!? 「ご、極道マニア……?」 「マニアじゃないです、ファンです」 「──────」  一瞬、目の前が真っ白になった。 「…………えーと、それは誰に習ったんだ?」 「レイル兄さんです」  野郎……。 「いいかいサクラ。そのことは忘れろ」 「?」 「ホントは好きじゃないんだろ?」 「大好きです」 「───……」  ……少女は微笑んだ。  それはそれは、とてもいい笑顔だったそうなぁ……。 ───……。  少しののち。  テレビから発せられる啖呵を背に、自室へと続く階段を上る俺の姿があった。  番組が始まれば案外無理矢理好きって言ってるだけなのかも、とか表情で解るかもと思っていたんだ。  けれど現在の俺、難しい顔で階段を上っている。  ───仕方ないだろ……?  文句の付けようが無いくらいに綺麗な満面の笑顔だったんだよ……。 「悪い、待たせた」  やがてドアを開て、中に。  そこにはにこやかな蒼木と、ぶつぶつと呟く観咲と───………… 「やあ、穂岸くん」 「あ、ホギッちゃんやっと来た」 「お待ちしておりました、マスター」  ニコリと笑う、ノアの姿があった。 (……そうだ。札幌、行こう───)  ……………………北海道には興味があった。  いつか家出しようかとも考えたこともある。  それを実行するのは今ではなかろうか。  意識を北の彼方へ飛ばしつつ、別の方向で状況を整理してゆく。 1:妥当に考えて妹。 2:で、妹に“マスター”とか言わせてる俺。 3:よろしくない。 4:よろしくないよ、うん。  結論:……終わった。 「………………ホギッちゃん、変態さんだったんだ」 「《ぐさぁっ!》ゴウハ!? 〜〜〜〜っ……!!」  くあぁあああ! 言い抗いたい! 俺は無実だと告発したい!  だが! だがしかし……! 妹じゃなければそれこそ部屋を借りた途端に少女を連れ込むロリコン的な存在に! ぐあああああああああああああっ!! 「大変そうだね」 「………………蒼木、解ってくれるか……?」 「でも、“エプロンドレス”に”マスター”はどうかな」 「俺は何も言っちゃいないっ!」 「そんな……! 昨夜は“綺麗だよ……俺のためにずっとその服を着ていてくれ”と言って、わたしを抱きしめてくださったのに……!」 「うあ……」 「まぁああああままま待て! 誤解だ! 断じて違う! そんな目で見るな!」  ふたりの視線が俺に向いているのをいいことに、ノアがくすくすと笑う。  くはあああっ! やっぱりこいつ腹黒い! 「楽しく暮らしてるみたいだね、安心したよ」  人の葛藤なんて華麗にスルー。相変わらず笑顔で言ってくる蒼木はとってもいい笑顔。  それは本当に安心した顔で、嫌味で言っているようなものじゃあなかった。  ───イコール……変態確定!? 「待て! 待ってくれ! ち、違うぞ!? 俺はそんな───!」 「そっかー、妹さんにこんな格好させて喜んでたんだー。そっかそっかぁ。だからわたしには冷たかったんだー」 「馬鹿言え、あれは素だ」 「真顔で即答!? だったら何が気に入らないのさホギッちゃん!」 「俺をホギッちゃんと呼ぶな」 「……あれ? ホギッちゃん? それ、本気で渋ってたの?」 「当たり前だ! 妙な呼ばれ方して喜ぶやつなんて居るか!」 「でもでも、特別っぽくてスペシャルだよ?」 「特別は元々スペシャルだばかたれ!」 「ホギッちゃんもしつこいねー。もう何度も呼んで、何度も振り向いてるんだから諦め───」 「あの、失礼ですがこれをどうぞ」  観咲の声を遮って、ノアが黒い塊を観咲に渡す。  有無も言わさず、観咲の手を取り、ギュッと握らせて。 「え? なにこれ」 「───ヘルユー《ぼそり》」  ノアがぼそりと物騒なことを《キュボォンッ!! ……どさり》─── 「…………はっ!?」  なにやら唐突すぎて状況が呑みこめなかった!  えーと、爆発した……よな?  モワモワと漂っていた煙を払うと、そこで煤だらけになった観咲が発見された。  どうやら気絶しているらしい。 「ご安心くださいマスター、ただの黒煙弾です。身体に致死を及ぼすようなものではありません」 「いや、それは良かったけど……どうして?」 「なぜこのようなことを、ですか?」  質問に頷く。  と、ノアはムフンと胸を張って、その胸に手を添えるようにして言った。 「主を“変態”、などとコケにされて黙っている使用人がおりましょうか。マスターの敵はわたしの敵です」 「………………」  そんな、今まで見せたこともない笑顔で言われたってなぁ。そもそもキミがそんな格好して俺をからかおうとしなきゃ、観咲は変態だなんて言わなかったんじゃなかろうか。  あれ? 観咲全然悪くないぞ?  そんなことも理解出来るくせに、自分のために動いてくれたって事実が嬉しくて、緩みそうになる顔をなんとか抑えようとした。 「はは、顔が赤いよ穂岸くん」 「うぐっ……!」 「……? ───雰囲気が……」 「うん?」 「あの、マスター。失礼ですがその方は?」  そして、黒いままで転がる観咲はほったらかしで話を進める、自称主思いの従者。  ……まあ、うん。主のことは思ってはいるんだよな。……思っては。  その思い方がどうとかは言わないあたり、ほんといい性格している。 「ああ、そういえば自己紹介もしてなかったね。僕は澄音。穂岸遥一郎くんのクラスメイトだよ」 「級友……それで、親密度は?」 「ノア、あまり根掘り葉掘りしたら失礼だろう」 「僕のことはいいんだよ。今更そんなことを気にする人間じゃないから」 「今更って。そんなにカオスかこの家は……」 「はは、否定はしないよ」  笑みながらも即答だった。  ちょっとは躊躇してほしい。 「…………主に俺か?」 「そうかもしれない」 「ぐはっ……ちちち違うんだぞー? 俺は変態じゃないんだぞー? そこのところを理解してくれよ? ……いや、ほんと頼む」 「うん、解っているつもりだよ。それで、僕と穂岸くんの関係だったね」 「───」  うん、と頷く蒼木を前に、ノアの目が鋭くなる。  ……こういうところで真面目だから、嫌いになれないんだよなぁノアって子は。  この短期間でそれをわざと認識させているのであれば、相当な策士な気もするけどさ。 「僕は友達だと思っているよ。害を及ぼしたりはしないつもりだ」 「……そうですか。それを聞いて安心いたしました。わたしはノア。ノア・エメラルド・ルイードと申します」  うなっ!? だっ、だからフルネームはマズイって───! 「あっと───僕もフルネームを言うのが礼儀だね。僕は蒼木澄音。改めてよろしく、ノアさん」 「呼び捨てで結構です。自分の名前は好きですから」 「そうかい? それならそうさせてもらうよ」  ……………………はい?  それでいいのか蒼木サン。 「ノア───」  ノアを軽く引っ張り、傍へ寄せる。 「白昼堂々と接吻でしょうか」 「違わいっ! フルネームはまずいだろ……!?」 「ん…………それなら問題ありません。解っていたから連れてきたのではないのですか?」 「え?」  解っていた───って……なに? 「気づいていなかったのですか。マスター、あの方は……」 「穂岸くん、そろそろ始めないか」 「え? あ、ああ………………そうだな、始めるか」  ノアの言葉を遮るように発せられた蒼木の言葉に、俺はノアに「悪い」と言って向き直る。  考えても埒が明かないな。  一応納得してくれたんだからいいじゃないか。 「観咲のヤツはどうする?」 「起こしても勉強はやらないと思うよ。彼女は本質からして勉強が駄目だから」  世界の皆様。  これ、幼馴染の言葉です。 「あ、悪いノア。お茶と茶菓子、あったら用意してくれないか?」 「命令でしょうか」 「お・ね・が・いっ! 命令は嫌いだって言ってるじゃないか」 「それにしましては、そこに転がっている無法娘とは激しくやりあっていたようでしたが」 「こいつは別だ。命令したって聞くヤツじゃない」 「それでしたら、無法者になればわたしにも命令をしてくださると?」 「…………あのさ、ノア。訊こう訊こうとは思ってたんだけど。どうしてそこまで命令にこだわるんだ?」 「それは“言え”という命令ですか?」 「………………」  クスクスと微笑むノア。ほんと、人をからかうのが好きな従者だ。  くっ───いいだろう、ノってやる! 「───命令だ」 「え?」  ノアが驚いた顔で俺を見る。  …………もしかしなくても、やっぱり純粋にからかわれていただけなのだろうか。 「も、もう一度お願いします」 「そうか、もう一度チャンスをくれるのか。だったら前言撤回する」 「結構です! ご命令通りお話しします!《クワッ!》」 「………」  落ち着き払った今までの印象さえ吹き飛ばすほど、元気に声を張り上げるノアさん。  軍人じゃないんだからそんな大声ださなくても。 「元気なのはいいことだよ」 「かもしれない」  自然と苦笑が混ざる……まあその、いわゆる困った顔なのに笑ってしまう自分に呆れる。こうして少しずつ、状況ってものにも慣れていくんだろう。  友達が居なかった自分が、こうして家に人を呼ぶだけでも大冒険だ。  いける……青春、送れるよ……! と心のときめきを育んでいると、興奮してしまっていたらしいノアが呼吸を落ち着かせ終えたようで、にこりと笑って声を放つ。 「わたしとの契約には、純粋に出会うだけでなく、“命令を下される”という必須事項もあったのです。最初は───本音を言ってしまえば、つまらない人の下につくのであれば、さっさと天界に」 「あぁあーーーっ! アーーーッ!! ほわあああっ!」  天界、という言葉に裏返った声が飛び出た。  別にバレたって何がどうなるかって言われれば、……べつになにも変わらないような気もするけど、なんかやっぱり隠しておくべきだと思うんだ。  むしろわざわざ話すことでもない。  “そういう設定”で生きているとか思われるのだとしたら、それはそれで嫌だし。  けれどもそんな俺の心境とは裏腹に、蒼木はきょとんとしているだけだ。 「……どうかしたのかい?」 「えっ……あ、いや、突然雄叫びをあげたくなってだな……」 「……マスター、大丈夫だと言った筈ですが……」 「だ、だからなにが……!」  ボソボソと小声で話す。  くそう、そんなに俺を追い詰めて楽しいのかノアさん。 「何を話しているんだい?」 「なんでもない! おお、なんでもないぞーーーぅ!?」 「天界のことです」 「キャーーーッ!?」  さらっとバラされた。  もういや、泣きたい。 「マスター、あまり大声をあげないでください。恥ずかしいです」  それならまずは説明からしてほしかったんだが!?  こっちののちのスクールライフを思えば当然の反応だろ!?  “借りてる公認物置に少女二人を連れ込んで天界ごっこしている男子高校生”なんて嫌だぞ俺! 「天界……そっか、メルヘンチックだね」  で。そんな心の葛藤をさらりと微笑みで受け流す友人が居た。原因であるノアも、「ええ、わたしもそう思います」なんて言っている始末だ。 「それでいいのかっ!? それっ……えぇええっ!? それで納得できるのかっ!? え、なっ、ちょっ……俺の苦労って何!?」 「苦労? ええっと、うん……べつに苦労をすることはないと思うよ、穂岸くん」 「……マスターにはこう言った方がよさそうですね。マスター、物事というのは隠そうとするから怪しまれるものです。天界があれだこれだと言って、誰が信じましょうか」 「………………」  …………言われてみれば、そうかもしれない。  ……神よ、俺はホントに馬鹿なんでしょうか……。  い、いや……当事者じゃないと解らんわな、この悩みは……。 「それに……───いえ。それで、“契約”の話の続きですけど」 「いや……疲れるからもういいや……。もう勘弁してくれ、ノア……。もう命令でもいいから……」 「そうですか、残念です。それではお茶を淹れてまいりますね」  言って立ち上がり、音もなく歩いて静かにドアを開けて、やっぱり静かにドアを閉めると……これまた静かな時間が訪れる。  ……あんまりにも物音を立てずに行動されると怖いから、やめてくれな、ノア……。 「……賑やかそうでいいね」 「いらない心配も増えた気もするよ。俺はもっと穏やかで静かなのがいい」 「人は悩んだり心配したりするものだよ。だったら人は人らしくあるべきだ。そうは思わないかい?」  まったくだ。 「それじゃあ始めようか」 「そだな……」  こうして、気絶している観咲をあっさりと無視して、俺と蒼木は勉強を始めた。大体の範囲は教えてもらってあることだし、要領とコツを教えればなんとかなる。   ───そう思っていたが、中々どうして。  確実ではないにしろ、頭がいいと思っていた蒼木は手強かった。  呑みこみや理解力や応用力は大したものだが、問題に向き合うとやはり現実が現れる。  そんなときになると決まって“この問題を考えた人は凄いね”と言うのだ。  悔しがらずに穏やかに笑ってみせる。まるでその人物を尊敬するかのようにだ。  やっぱりこいつはどこまでも穏やかだ。  ───途中、目を覚ました観咲が俺と蒼木の傍らに置かれたお茶と茶菓子を見て喚き、ノアに一服盛られて再び気絶したことは───まあ、言うまでもないということもないが、自分の中で大体は“案の定”と化していた。  観咲雪音という触角は騒がしいものなのだ。それがもはや常識だ。  その日の勉強は俺がバイトに出るまで続き、終わる頃には観咲が5回目の夢の旅に出ていた。  ───まああれだ。  その最後のフライトがサクラの弁当であったかどうかは……もはや、何も言うまい。
ネタ曝しです。 *わけが解らないよ  ネタじゃなかったけど、つい思い出してしまったので。  魔法少女まどかマギカより、インキュベーターさんのお言葉。  ちなみに本文書いたのが本気で8年以上前なので、ネタとして書いたものではございませぬ。 *ゆ、譲れねぇ!  もはやハッキリとは覚えてはいないものの、とあるショートマンガであったネタ。  作者は南ひろたつさんで、おそらくジャンプ読み切りの“コンチク笑ゥ!”。  ゾンビが徘徊する町で、ゾンビのフリをしてやりすごしていた男のお話。  何故かゾンビ同士って襲わないんですよね。あのゲームでも。  それのパロっぽいアレかと。  しかしとうとう気づかれてしまい、全力でゾンビのフリをする男の熱さがステキだった。  「信じろー! 俺はゾンビだ! 退かねーぞ俺は! 譲れねぇ!!」  そんな心の声とともにンア゙アアア!! ジア゙アアア!! とゾンビ的唸り声を上げていた。  ギャフター側でネタにしていたウゴバシャドアシアもこっちだったっぽいです。  何故解ったかというと……漢魂、全巻買って調べましたが、ありませんでした。  同作者の“もぅスンごい!”も買って調べてみたものの、やっぱりない。  あるのはポルナレフ・ザンドリア・チャーリードラッグソンの名前が懐かしかったという事実だけでした。  え? ええ、略してポチです。犬の名前ですとも。 *パイレーツシップ  パイレェエーーーツシィップ!  ワールドヒーローズより、キャプテンキッドの技。  こちらも思い出しただけで、べつにネタではございません。 *うっふっふ……え?  くにおくんの時代劇だよ全員集合より。  たまに敵がそんなことを呟いている *タキオーニ  技はタックル。  ロミオの青い空に登場する少年。  主人公ロミオのライバル的存在。 *いいや夏はスイカだ! 夏はスイカバー!  スイカバーのCM。  皮まで食べられます、でスイカを裏切ったお爺様の図。  この言い合いで思いだしたのはテイルズオブファンタジアのフェイスチャットだったりした。  「いつ来ても、砂漠は暑いよなぁ……」  「だから夏はアイスに限るんだってば」  「いいやスイカだ。これは譲れないな」  「ぁン……夏っていったら、花火じゃないのか?」  「なぁにを言ってるんだっ、花火なんか食べられないじゃないか!」  「そうよ! あんたバッカじゃないの!?」  「あの……そういう問題ではないと思うのですが……」  テイルズオブファンタジア、リメイクデスティニーみたいな感じで出してくれないかなぁ。  正直3Dバトルになってからのテイルズシリーズはエフェクトが長すぎてテンポの部分で苦手で……。 *アジッサの苗木  紫陽花のこと。アジサイ。  ナメック星人が好んで食べる植物。  ナメクジだからアジサイ。水とアジッサがあれば生きていける。  ……それだけでいいのに戦闘可能な戦士が居るんだ。  きっと高たんぱくなんだ。しっかり筋肉がつけられるんだから。 *そうだ、札幌、行こう───  そうだ、京都、行こう。  JR東海。 ◆後書きです  やりたいことが多すぎて編集の時間が……!  睡眠時間削って編集しております。  え? 時間? 今早朝です。ここ書いている今、4時です。  この後UP作業と微調整とかいろいろ……。  何時間眠れるカナ……。  でもやっぱり小説楽しい。  むしろ既に自分が見なくなって久しい部分を編集するのって面白いです。  書き方がやたらと説明的なものもまたこう……恥ずかしい。  二日に一話か、根性出せば一日一話くらいやってみたいものです。  加筆してる部分が結構あって、多分無理でしょうけど。  では……寝ます。  また次のお話で。 Next Menu back