───幼馴染/取り憑く島は下宿先───
家である。 柾樹 「家だ」 悠季美「家ですね」 柾樹 「実に家だ」 悠季美「実に家ですね」 柾樹 「………」 悠季美「………」 柾樹 「何をしたいんだ?俺達……」 悠季美「知りません」 柾樹 「だよなぁ」 悠季美「ハイ」 柾樹 「まぁ立ち話もナンだ、中に入るぞ」 悠季美「了解です」 悠季美の返事を確認したのち、家のドアに手をかける。 ヂャコッ!! 柾樹 「あら?」 ヂャコッ!!ヂャココッ!! 柾樹 「………」 悠季美「どうしたんですか?」 柾樹 「鍵……かかってる」 変だな……。 叔父さんは居ないにしても、夕が居る筈……。 だから俺は合鍵を机の上に置きっぱなしで持ってない。 あ、そうか。 この時間なら普通の人は学校だよな。 柾樹 「まいったな……」 悠季美「凍弥さん、居ないんですか?」 柾樹 「まあ待て、ヘアピンあるか?」 悠季美「カチューシャならあります」 柾樹 「うむ、それは一目瞭然だ」 悠季美「ヘアピンは代々禁じ手とされていますから」 柾樹 「そうなのか、なら仕方無いな……。     ならば見せてくれようぞ!!霧波川流開鍵術奥義!スパイラルハンガー!!」 悠季美「ハンガーなんて無いです」 柾樹 「………」 悠季美「………」 柾樹 「俺達の命運は尽きた……」 悠季美「尽きないでください」 柾樹 「うむむ……」 思考を回転させていると、カチャッとドアが開く。 柾樹 「あら?」 凍弥 「お?どうしたんだ?」 そしてその先に立っている叔父さん。 柾樹 「叔父さん、仕事は……?」 凍弥 「ああ、今日は大したものじゃ無かったんだ。……お、悠季美じゃないか」 悠季美「と、凍弥さん、お久しぶりです!」 ほのかに頬を染めた悠季美が言葉を繋ぐ。 柾樹 「熱でもあるのか?」 悠季美「ひゃっ!?そ、そんなこと無いです!」 柾樹 「明らかに変だぞ」 悠季美「普通通りですよ、ハイ」 柾樹 「そうか?」 悠季美「そうですよっ!」 凍弥 「まあまあ、上がっていきなさい」 悠季美「ハ、ハイッ!」 柾樹 「………?」 カチンコチンと固まった悠季美が中へ入ってゆく。 柾樹 「なに緊張してるんだよ」 悠季美「してません」 柾樹 「明らかにしてるだろ」 悠季美「わたしはいつも、こんな感じです」 柾樹 「というと、いつも緊張してるということか?」 悠季美「ええ、そうで……してませんっ!!」 柾樹 「矛盾してるぞ」 悠季美「何かの間違いです」 柾樹 「新手だな」 悠季美「そうでもないです」 凍弥 「玄関で論争してないで、入りなさい」 柾樹 「ウィ、失礼いたした」 悠季美「お、お邪魔します……」 柾樹 「うん、邪魔」 悠季美「誘ったのは誰ですか?」 柾樹 「冗談だ」 悠季美「失礼ですよ」 柾樹 「だからさっき、そう言っただろう」 悠季美「それとこれとは別です」 柾樹 「そうか?」 悠季美「そうです」 柾樹 「よし、解決したことだし上がるか」 悠季美「ハイ」 意味不明のまま、問題は解決した。 廊下を歩き、居間の前まで歩き、そこで止まる。 凍弥 「ん?どうした?」 柾樹 「柿の言いつけなので……」 凍弥 「柿崎か?」 悠季美「ハイ、柿崎先生です」 柾樹 「廊下に立っていろと言われたので」 悠季美「……こういう事ですか」 柾樹 「いいアイディアだろ?」 悠季美「どこがですか……」 凍弥 「なるほど、ナイスなアイディアだ」 悠季美「そうですよねっ!?アハハハ、柾樹くんエライ!!」 柾樹 「………」 素直に喜べないのは何故だろう。 夕  「あ、おかえり柾樹くん!」 階段を降りて現れた夕が俺に挨拶をする。 柾樹 「ただいま……ってコラ!お前、学校はどうした!!」 夕  「それがね?結局、学校何処なのか解らないんだよ」 柾樹 「記憶喪失か?」 夕  「うん、多分……」 悠季美「………」 柾樹 「ん?どうした悠季美」 悠季美「この人……ここに住んでるんですか?」 柾樹 「ああ、一応……な」 悠季美「いとこかなんかなんですか?」 柾樹 「いや、知らん人」 夕  「………?」 悠季美「………」 柾樹 「……悠季美?」 悠季美「決めた!わたしもここに住みます!」 柾樹 「な!?」 夕  「ふぇ?」 悠季美「こんな羨ま……じゃなくて、凍弥さんはわたしの……じゃなくて!!     とにかくわたしも住みます!!」 柾樹 「な、何を無茶苦茶な……!!叔父さん、何か言ってやってください!!」 凍弥 「ああ、何日でも好きなだけ泊まっていきなさい」 柾樹 「そうそう!って、ぬおお!?」 悠季美「ハイッ!」 柾樹 「………」 夕  「え?何?なんなの?」 柾樹 「知るか……」 もう泣くしかなかった……。 ───……風が吹いていた。 途切れた丘に、やさしい夏の香りが溢れていた。 見えるのは町並み。 感じるのは風の心。 幾つもの違う風景を眺めていた。 季節は夏。 俺は夢の中に居た。 夢の中で夏の風を感じていた。 風と話をしていた。 柾樹 「……なあ」 風に問いかけた。 そのたびに風が揺れていた。 柾樹 「例えば……さ。たったひとつだけ、願いが叶うとしたら……」 ひとつひとつ、噛みしめるように言葉を繋いでいた。 柾樹 「みんな……何を願うのかな……」 ある冬のことだった。 雪が降っている、普通通りに訪れた季節。 普通通りに訪れた日常の中で。 叔父さんと母さんが泣いていた。 俺は母さんに手を握られながら、息を殺して泣くふたりを見ていた。 ……目の前には石があった。 花が飾られていた。 小さな緑色の棒が煙を出していた。 俺は母さんに言われるがままに目を閉じて、静かに手を合わせていた。 何も解らなかった。 俺は子供だったから。 叔父さんが泣く理由も。 母さんが泣く理由も。 どうして手を合わせるのかも。 何も解らなかった。 何も知らない子供だったから。 でも、これだけは解った。 そこには何か大切なものがあったんだと。 その次の日、誕生日パーティをした。 誰のために開いたのかも解らないパーティ。 叔父さんと母さんと俺。 そして、もうひとつ用意されていた椅子に、小さなペンギンのぬいぐるみが置かれていた。 雪が降っていた。 叔父さんが笑っていた。 今にも崩れそうな顔で笑っていた。 声が震えていた。 まるで泣いているかのように震えていた。 そこには、いつもの叔父さんは居なかった。 閉め切った部屋に、緩やかで暖かい風が吹いていた。 まるで、そこにある悲しみを慰めるように。 ただ……風が吹いていた。 夢を見ていたようだった。 どこから入ってきたのか解らないひと粒の雪が、静かに叔父さんの涙に消えていた。 そっと風が微笑んだ気がした。 それを確認する間もなく、風は消えていた。 柾樹 「もし……叶うのなら……」 緩やかな風が吹いていた。 柾樹 「俺の願いは……」 それに応えるように、セミが鳴いていた。 幾度となく繰り返される季節。 幾度となく草木を揺らす風。 柾樹 「俺が心から願うことは……」 そんなめぐりゆく日常の中で……。 俺は風にひとつの願い事を繋いだ……。 ……カラー……ン……。 ……カラー……ン……。 朝。 遠くに聴こえる鐘の音を耳に、布団を被り直す。 意識は覚醒して……なかったりする。 俺はまだまだ夢の中を放浪していたかった。 しかし……ドサッ!! 柾樹 「ギャッ!!」 何かが俺を襲った。 ……というか脇腹に誰かが乗っている。 ポムポム。 声  「もっしも〜し」 ポムポム。 声  「朝なんだよ〜?」 ポムポムと肩を叩いては、聴こえてくる声。 柾樹 「嘘をつくな」 それが夕の声だというのは既に解っている。 夕  「朝だよ」 柾樹 「まだ暗いぞ、何も見えん」 夕  「目、閉じてるからだよ」 柾樹 「心眼を開眼するためには、過酷な修行が必要なのだ」 夕  「心眼?」 柾樹 「うむ、言葉通り心の目で見るのだ」 夕  「ふゎ……スゴイんだね」 柾樹 「うむ、だから邪魔するな」 夕  「朝は起きるべきだよ?」 柾樹 「今日は休みなんだ、修行させろ」 夕  「平日なのに?」 柾樹 「うちの学校の伝統でな。毎月28日は休みなんだ」 夕  「へえ……知らなかったよ……」 柾樹 「解ったら退いてくれ。胴体が千切れそうだ……」 夕  「大丈夫だよ。私、重くないから」 柾樹 「重いぞ」 夕  「そんなことないよ」 柾樹 「息しづらいぞ」 夕  「気のせいだよ」 柾樹 「……見えてるぞ」 夕  「ふぇ?……わッ!!」 慌てて飛び退く夕。 柾樹 「馬鹿かお前は。スカートでも無い上に、目を閉じながら見えるかボケ」 夕  「……スカートだよ」 柾樹 「………」 夕  「………」 柾樹 「おやすみ」 夕  「寝たらだめだよ〜!!」 柾樹 「俺が許可する」 夕  「反則だよ〜!!」 柾樹 「眠いから寝て何が悪い」 夕  「……起きないの?」 柾樹 「ああ」 夕  「眠るの?」 柾樹 「ああ」 夕  「ん、解ったよ。もう何も言わないね?」 柾樹 「ああ」 トストスと部屋を歩く音が聴こえ、カチャッとドアが開く音が響く。 夕  「一応知らせるケド、今日は27日だよ」 パタン。 ドアが閉められる。 柾樹 「………」 27日? というと…… 柾樹 「………」 休みは明日なのか。 そうか……。 柾樹 「ぐー……」 眠かった。 布団が暖かかった。 意識がゆっくりと夢の扉を開いていた。 カチャッ。 しかし、開き切る前に部屋のドアが静かに開く。 トストスと足音が聴こえる。 やがて足音はベッドの横。 つまりは俺の側で止まり、ゴソゴソと何かをやっている。 そしてベチャッ!! 柾樹 「ぎぇええええええええええええっ!!!!」 冷たくも、ぬるぬるした感触が俺の首筋を襲った。 柾樹 「な、なん……ぎゃぁああああああああ!!!」 目玉だった。 謎の眼球が俺のベッドの上で俺を見据えていた。 柾樹 「なななななな何がどうなって……!?」 声  「遅れますよ」 俺が困惑していると、横から聴こえる女の声。 柾樹 「お、お前の仕業か悠季美っ!!」 振り向くと、悠季美がそこに立っていた。 悠季美「遅刻するのは流儀に反します」 柾樹 「そんなことはどうでもいいっ!!この目玉はなんだっ!!」 悠季美「見ての通り、目玉です」 柾樹 「おお、確かに……って違うわぁああああ!!」 悠季美「目玉ですよ?間違い無く」 柾樹 「そんなのはどうでもいいんだ!」 悠季美「どうでもいいなら訊かないでください」 柾樹 「どうでもよくないから訊いてるんだ!!」 悠季美「どっちなんですか?」 柾樹 「訊きたい」 悠季美「そうですか」 柾樹 「うむ」 悠季美「目玉です」 柾樹 「なるほど……って、うがぁあああああ!!!」 悠季美「近所迷惑です、静かにしてください」 柾樹 「叫ばせてるのは誰だ!」 悠季美「個人の意志だと思います」 柾樹 「違うわっ!……って、そうかもしれんが、とにかく違う!!」 悠季美「なんか滅茶苦茶ですね」 柾樹 「ほっとけ!」 悠季美「早く行きましょう、遅刻は嫌ですので」 柾樹 「待て、問題が解決していない」 悠季美「しつこいですね」 柾樹 「誰の所為だ!!」 悠季美「柾樹くん」 柾樹 「悠季美の所為だ!!」 悠季美「そんなことないです」 柾樹 「あるんだよっ!!これは何だと訊いている!!」 悠季美「目玉ですけど」 柾樹 「……いや、同じように聞いた俺が馬鹿だった」 悠季美「仕方無いですよ、馬鹿ですから」 柾樹 「シャラップおだまり!!俺が訊いてるのはだな!?     コレが何の目玉かということだ!!」 悠季美「朝からやかましいですね……。     カルシウムを多く摂取することをお勧めします」 柾樹 「誰の所為で怒ってると思っている!」 悠季美「柾樹くんのカルシウム不足の所為ですね」 柾樹 「ムッハァーッ!!カチンときたぁあああああああ!!!!」 悠季美「こなくていいです」 柾樹 「なにぃ!?ならばこの怒り、どうしてくれる!」 悠季美「いい案があります」 人指し指をピンと立て、微笑む悠季美。 悠季美「これは家で偶然見つけた、父の所持していた本に描かれていた方法なんですが」 柾樹 「描かれていた?」 古い巻物とか、そういうやつかな……? なんか本格的だな。 悠季美「まず、仁王立ちします」 柾樹 「こうか?」 言われるままに行動する。 悠季美「そして夥しい程に筋肉を隆起させます」 柾樹 「こうか?って出来るかっ!!」 悠季美「やってください」 柾樹 「無茶言うな!」 本当に無茶だ。 悠季美「うー、仕方無いですね……」 柾樹 「やかましい!」 悠季美「静かですよ」 柾樹 「そういう意味じゃない!」 悠季美「そうですか、なら関係ないですね。飛ばしましょう」 柾樹 「待て!」 悠季美「では、次のステップです」 柾樹 「待てと言っている!」 悠季美「もぅ……なんですか?」 柾樹 「何をやってるんだ俺達は!」 悠季美「何って……ストレス発散法の説明です」 柾樹 「目玉は!?」 悠季美「……次に両手に力を込めて───」 柾樹 「おい!」 悠季美「いいから、やってください」 柾樹 「……解ったよ」 このままでは埒があかない。 ここは悠季美につき合うしかないか……。 柾樹 「えっと?仁王立ちして手に力を入れて、それで?」 悠季美「秘孔を突きます」 柾樹 「出来るか馬鹿!!」 悠季美「無茶ですか?」 柾樹 「当たり前だ!秘孔なんて解るか!!」 悠季美「突いたら全身の力を拳に委ね、渾身の闘気を天へと……」 柾樹 「放てるかっ!!」 悠季美「放ってください」 柾樹 「それこそ無茶だろ!?」 悠季美「無茶でいいです、放ってください」 柾樹 「無茶だから出来ないと言っている!!」 悠季美「あっ♪かけ台詞は『我が生涯に一片の悔いなし!!』ですよっ?」 柾樹 「勝手に話を進めるな!っていうか、その本って何だ!!」 悠季美「えと……文字が掠れていたんですが、辛うじて『北』という文字は読めました」 柾樹 「帰れ!!」 悠季美「今はここが我が家です」 柾樹 「ぬおお、あ〜言えばこう言う……!!」 悠季美「人のこと言えたものじゃないです」 柾樹 「悪かったな、屁理屈屋で」 悠季美「まったくです、少しは自制してください」 柾樹 「………」 何故ここまで言われなければならんのだ? 悠季美「もういいでしょう?早く行きましょう」 柾樹 「目玉が解決してないぞ」 悠季美「マグロです」 柾樹 「マグロ?」 悠季美「ハイ、マグロの目玉です」 柾樹 「……それを何故俺に?」 悠季美「馬鹿だからです」 柾樹 「………」 悠季美「解決しましたね?では、行きましょう」 柾樹 「………」 悠季美「行かないんですか?」 柾樹 「いや、行く……行くよ……」 悠季美「じゃあ行きましょう」 柾樹 「いや待て」 悠季美「なんですか?」 柾樹 「朝食がまだだ」 悠季美「時間ありませんよ?」 柾樹 「努力と根性と腹筋でなんとかする」 悠季美「……主に?」 柾樹 「根性」 悠季美「外道ッ!!」 柾樹 「何故!?」 悠季美「何故……!?当然じゃないですかっ!!     どうして……ッ!どうして腹筋をないがしろにッ……!!」 柾樹 「ない……がしろ……って……コラ!何故に腹筋がそんなに大事なんだ!?」 悠季美「血族の伝統です」 柾樹 「嘘つけ!!」 悠季美「嘘じゃないですよ。わたし達はずっとそうやって生きて来たんです」 柾樹 「もっともらしいこと言うな!」 悠季美「もっともらしいから事実なんです」 柾樹 「信じろと?」 悠季美「別に信じなくてもいいです」 柾樹 「お前な……」 悠季美「遅刻しますよ?」 柾樹 「フフフ、一度壊れた物に興味などない」 悠季美「?」 柾樹 「既に俺の無欠席は崩れている。故に、遅刻がどうとかの問題ではないのだ」 悠季美「いつの話ですか?」 柾樹 「24日」 悠季美「その日、学校側で問題があって休日でしたよ?」 柾樹 「ハッハッハ……マジですか?」 悠季美「マジです」 柾樹 「今、何時だ?」 俺の問に、悠季美が腕時計を見る。 悠季美「……外道……」 悲しい目で俺を睨みながらの一言。 その言葉自体で、酷い時間だというのは確信に値する。 柾樹 「そんなにヤバイのか?」 悠季美「………」 悠季美が無言で時計を見せてくる。 柾樹 「……なるほど」 酷い時間だった。 柾樹 「だが安心しろ、我に柿を破る策はあり!!」 悠季美「どうする気ですか?」 柾樹 「イエ〜ス、簡単なことさ。まず電話を使う」 悠季美「はあ……」 柾樹 「当然、かける先は学校だ」 悠季美「はあ……」 柾樹 「え〜と……」 ピポパポプポポペ……… プルルル……… カチャ! 声  『はい、如月高等学校です』 柾樹 「ふへへへへ……(裏声:バス)」 声  『悪戯は間に合ってますんで』 カチャ! ツー、ツー。 柾樹 「………」 悠季美「……策?」 柾樹 「用件も聞かずに切るとは……!!」 しかも、間に合うと言えるほどに学校側への悪戯電話がてんこもりだったとは。 驚きの瞬間だ。 ……それはそれとして。 柾樹 「くそ!もう一度だ!!」 ピポパポプポポペ……… プルルル……… カチャ! 声  『はい、如月高等学校です』 柾樹 「いいか?一度しか言わないからよく聞け。     その学校に爆弾を仕掛けた(裏声:バス)」 声  『……はい?』 柾樹 「爆弾を仕掛けた、と言ったんだ(裏声:バス)」 悠季美「二度、言ってます」 柾樹 「ほっとけ(裏声:バス)」 声  『悪戯は間に合ってますから』 あ!切られる!? 柾樹 「待て!落ち着け!切るな切らないでお願い!(尚も裏声:バス)」 悠季美「随分とレベルの低い脅迫ですね」 柾樹 「ほっとけ(やはり裏声:バス)」 声  『悪戯電話はやめてください』 柾樹 「まあ、信じる信じないは、おたくの勝手ですがねぇ?     もし本当だったら……。     おたくの判断で生徒が死ぬことになるんですよ?(裏声:バス)」 悠季美「その自信は何処から来るんですか」 柾樹 「俺の娯楽精神からだ(裏声:バス)」 声  『……何が目的だ?金か?』 柾樹 「愛だ(裏声:バス)」 声  『愛!?』 柾樹 「安心しな、冗談だよ(裏声:セス)」 声  『くぅ……』 柾樹 「おっと、誰にも話すなよ?話した途端、ドカンだ(裏声:バス)」 悠季美「ボカンじゃないんですか?」 柾樹 「場合による(裏声:バス)」 悠季美「そうですか」 なんにせよ、あとひと押しだ。 柾樹 「人質として、おたくの子供を預かっている(裏声:バス)」 声  『俺は未婚者だ』 ガチャッ!! ツー、ツー。 柾樹 「………」 悠季美「馬鹿」 柾樹 「爽やかに言う言葉か……?」 悠季美「完全に遅刻ですね」 柾樹 「まあ待て、ようは柿より先に教室に入ればいいんだろ?」 悠季美「簡単に言ってくれますね」 柾樹 「頭の使いどころだな」 悠季美「少ない脳であがいても無駄ですよ」 柾樹 「やかましいっ!いいから任せろ!」 俺は廊下へと行き、声を張り上げた。 柾樹 「夕!夕〜!ちょっと来てくれ〜!!」 悠季美「?」 暫くすると、夕がパタパタと駆けて来る。 夕  「呼んだ?」 柾樹 「ああ、ちょっと頼みがあるんだ」 夕  「このコロネはあげないよ?」 柾樹 「安心しろ、頼まれても受け取らん」 夕  「うぅ〜……それはそれで悔しいよ……」 柾樹 「いいから、ちょっとこっち来い」 夕  「ふぇ?なになに?」 柾樹 「え〜と」 ピポパポプポポペ……… プルルル……… カチャ! 声  『はい、如月高等学校です』 柾樹 「あ〜、すみませんが、柿崎氏をお願い出来ますか?(裏声:ソプラノ)」 声  『すみません、今さっき職員室を出て……』 柾樹 「『今』なの『さっき』なの、どっちなの!」 声  『えっ!?』 ぐはっ!しまった!ついツッコミを入れてしまった! 柾樹 「捕まえてください。急ぎの用なんです(裏声:ソプラノ)」 声  『は、はあ……解りました』 コトッと受話器が置かれる音が聴こえ、そこから遠くなる足音を確認する。 柾樹 「ほいタッチ」 夕  「え?」 受話器を夕に渡す。 柾樹 「なるべく引き留めておいてくれ、頼んだぞ?」 夕  「え?えっ!?」 悠季美「なるほど、いいアイディアですね」 柾樹 「そうだろう?」 悠季美「何気なく見直しました」 柾樹 「盛大に見直せ」 悠季美「嫌ですよ」 柾樹 「まあいいか、走ろう!」 悠季美「はい」 夕  「わわわっ!柾樹くん!?私、どうすればいいのか解らないよっ!」 柾樹 「A定食について語ってみろ!」 夕  「A定食って何〜!?解らないよ〜っ!!」 柾樹 「己の力を信じてみろ!」 夕  「意味不明だよ〜っ!!」 柾樹 「そんなことないから安心しろ〜っ!!じゃ、頼んだぞ〜!!行ってきま〜す!!」 夕  「ふぇぇ〜っ!!待ってよ柾樹く〜〜〜〜〜ん!!」 俺と悠季美は全てを夕に託し、家を出た。 最後に泣き声にも似た夕の声が聴こえたが、今は振り返っている暇など無い。 俺と悠季美は知り得る限りの近道を駆使して、光の如き速さで如月高等学校へと走った。 柾樹 「悠季美っ!時間は!?」 俺は走りながら悠季美に聞いた。 悠季美「見ても見なくても同じ時間です」 淡々とした答。 つまり、俺達の明日の全ては夕にかかっている訳だ。 柾樹 「うああ……絶対無比に不安だ」 悠季美「任せたんですから、信じてあげるべきですよ」 柾樹 「まあ、それはそうなんだが……」 俺はチラリと横目で悠季美を見た。 何やら相手を殴り易そうなトーテムポールを磨いている。 柾樹 「ならその見るからにクリティカル率が高そうなトーテムブリンガーは何々だ?」 悠季美「記録が消えたらあの子の……ただの特産品です」 柾樹 「それで恨みを晴らすのか?」 悠季美「アハハッ♪実はですね?     これって恨みに比例して破壊力が増加……晴らしませんっ!!」 柾樹 「実に腹黒いぞ。もう少し女の子らしい思考回路を持て」 悠季美「考えてみれば今ごろ家で凍弥さんと、     あげなことそげなこと……って、何言わせるんですかっ!!」 柾樹 「俺の所為かっ!!」 悠季美「あぁもうっ!!ぐずぐずしている暇なんて無いんですよ!?     もっと急ぎましょうよ!!」 柾樹 「お前がトーテムポールなんかを磨いてるから、俺が注意したんだろうが!!」 悠季美「必要ありませんっ!!」 柾樹 「なら急ぐぞ!」 悠季美「言われなくてもわたしは走ってます!!」 柾樹 「俺だって走っている!」 悠季美「それが全力ですか?ハン!笑わせてくれますね」 柾樹 「………」 俺は悠季美に合わせるのをやめて、全力で走った。 悠季美「わっ!冗談ですよ待ってください!!大人げないですよ薄情者〜っ!!!」 何故ここまで言われなければならないんだ? 柾樹 「やかましい!俺はお前の言葉を忠実かつ、繊細に実行しているだけだ!!」 悠季美「うー、外道〜っ!!」 柾樹 「外道って言うな!!まるで俺が悪人みたいじゃないか!」 悠季美「天地崩壊的アルティメット大悪党ですよ〜っ!」 柾樹 「そこまで言われる程のことかっ!?」 悠季美「アイドゥー♪」 柾樹 「いっぺん死んで、その馬鹿治してこいっ!!」 悠季美「あっ!それは言いすぎですよ〜!?大体、一緒に行こうって言い出したのは」 柾樹 「お前のようなものだろっ!!」 悠季美「それもそうですね」 実にやりづらい。 柾樹 「いいから急ぐぞ!」 悠季美「了解ですっ♪」 やがて見えてきた学校。 俺達は下駄箱で靴を履き替え、教室へと急いだ。 タタタタタ……!! 柾樹 「………」 タッタッタッ……!! 悠季美「………」 ズドドドドドドドッ!!! 柾樹 「………!!」 悠季美「………!!」 ドガシャァアアン!!!! 柾樹 「ギャアア!!」 悠季美「………!!!」 豪快なまでの衝突。 柾樹 「ぬおお……!!同時に入ろうとするなよ……!!」 悠季美「それは……こっちの台詞ですよぉ……」 勢いに任せて教室に入り込もうとするも、悠季美に行く手を阻まれた。 柾樹 「まあ、怒声が来ないところを見ると……」 悠季美「どうやら、やってくれたようですね」 柾樹 「実に絶妙なチームワークだ」 悠季美「柾樹くんはわたしにタックルをぶちかましただけです」 柾樹 「悠季美だって俺にタックルしただけだろう」 悠季美「………」 柾樹 「………」 悠季美「チームワークってなんですか?」 柾樹 「俺も知りたい」 悠季美「ですよね……」 俺と悠季美は廊下で溜め息を吐いた。 結局こんな朝である。 Next Menu back