───ナマモノ在中/モモンガポリスストーリー中編───
───次の日の朝。 悠季美もすっかり元気になり、いつも通りの朝を迎える。 柾樹 「そこで俺は考える」 悠季美「はい?」 夕  「?」 柾樹 「夕を学校に連れてゆく」 悠季美「無茶でしょう」 夕  「え?えええ?行けるの?」 柾樹 「任せろ」 悠季美「どうする気ですか?」 柾樹 「悠季美」 悠季美「はい?」 柾樹 「脱げ」 ボカァッ!! 柾樹 「ぐわっ!!」 悠季美「何を考えてるんですか!!」 柾樹 「待て!落ち着け!!」 悠季美「これが落ち着いてられますか!!」 柾樹 「俺が言いたいのはだな!?お前の制服を夕に貸してやれと、それだけだ!」 悠季美「わ、わたしに裸で登校しろと言うんですか!?」 柾樹 「代えの制服くらいあるだろう!?」 悠季美「言われてみればそうですね」 柾樹 「くはっ……」 この切り替えの速さ、俺、苦手……。 まあいいや。 柾樹 「というわけだ。君も今日から如月高校の生徒だ」 悠季美「柿崎先生が納得しますかね」 柾樹 「させる」 夕  「わ〜いっ♪」 柾樹 「見ろ、大喜びだ」 悠季美「……どうなっても知りませんよ?」 柾樹 「俺も知らん」 悠季美「………」 柾樹 「気楽に行こう」 そして、俺と悠季美と夕は家を出て、学校へと向かった。 柾樹 「いやあ、夏の空気のなんと清々しいことよ」 悠季美「朝の空気は嫌いじゃ無いです」 夕  「♪〜」 夕はご機嫌だ。 柾樹 「元気だな」 夕  「うんっ!!」 悠季美「………」 話しながら歩くと、急に悠季美が黙り込む。 柾樹 「………」 何気なく地面を見ると、血が滲んだ道路があった。 柾樹 「おお……」 ここで無謀な馬鹿が悠季美に抱きついたのか。 さすがに成長したせいもあるのか、過去の事件よりも血の量が多い。 柾樹 「強くなったな……」 悠季美「親が子の成長を見届けたみたいに、見直したような顔で言わないでください」 柾樹 「まあまあ、気にするな。そういえば落ち着いて登校するのは初めてだな」 悠季美「……そうですね」 柾樹 「ほら、暗くなるなって」 悠季美「……」 夕  「何かあったの?」 柾樹 「ああ、ちょっとな」 夕  「ム〜……」 適当な話をしていると、あっという間に学校に着く。 夕  「わあ……」 夕が歓喜の声を上げる。 夕  「ね、ねえ。私、どうすればいいのかな?」 柾樹 「ああ、ついてくればいいよ」 夕  「うんっ!!」 悠季美「教室一直線ですか」 柾樹 「ああ、他に行く所なんて無いだろう」 悠季美「まあ……そうですね」 柾樹 「じゃあ、行くか」 夕  「うんっ!!」 下駄箱を通り、階段を昇り、教室まで歩く。 柾樹 「ここだ」 夕  「ここ?」 悠季美「はい」 ドアを開けて中へ。 中に入るなり、夕の顔を見たクラスメイトがざわめく。 刹那 「おおう!?だ、誰だこの子!!」 柾樹 「クラスメイトだ」 豆村 「おおお!中々のベッピンさんじゃあ!!」 柾樹 「何歳だ」 山名 「ねえねえ、どういう関係!?」 柾樹 「企業秘密ってことで」 佐野 「娘さんを俺に下さい!!」 柾樹 「無茶言うな」 豆村 「ゲーム、好きかい?」 柾樹 「染めるな」 刹那 「ゲームって楽しいけどな」 柾樹 「煽るな」 中島 「ヘイか〜のじょ〜ぅ!!」 柾樹 「いつの時代の人間だ」 七峰 「可愛ければOKよ」 柾樹 「そうなのか……って、散れ!散れぇえい!!」 俺の怒声と共に散る人垣。 矢野 「ケチ〜」 柾樹 「やかましい!!いいか!?これから俺達がすることに口を出すなよ!?」 豆村 「何すんだ?」 柾樹 「柿という壁を乗り越え、夕をクラスメイトに!」 悠季美「本気ですか」 柾樹 「おうよ、どうだろうか」 男子等「ううむ……」 夕  「あ、あの……」 男子等「むむ……」 夕  「うぅ〜……」 男子等「……良いっ!!実に良いっ!!」 どうやら、はまったらしい。 何にかは伏せておこう。 夕  「え……?」 クラスメイトが一丸となって、夕・クラスメイト化計画に燃え上がった。 今の彼らならなんでもしそうで怖い。 ついにクラスが危険な集団へと化してしまった。 西野 「さささ、この席へ」 矢野 「何を言う!!ここの席が良いですぜ!!」 夕  「あ、あの……」 悠季美「……何事でしょうか、これは……」 柾樹 「みんな、童顔好きなんだろう。しかも、夕の性格は珍しいからな」 悠季美「……危険ですね」 柾樹 「……俺もかなり後悔した」 悠季美「なんか、みんなが怖いです」 柾樹 「安心しろ、俺もだ」 柿崎 「あ〜、席に着け〜」 ガラッという音と共に、柿が現れた。 男子等「………!!」 それと共に、クラスに殺気が溢れる。 柾樹 「………」 悠季美「………」 はっきり言って怖い。 柿崎 「おお、今日はみんな静かだな」 事を知らない柿は暢気なものである。 柿崎 「ん……ぬおお!?誰だその子は!!」 柾樹 「あ……」 豆村 「クラスメイトです」 俺が言う前に、豆村が即答する。 柿崎 「嘘つけ!!」 刹那 「嘘じゃないぞ」 柿崎 「昨日まで居なかっただろう!!」 矢野 「そんなことはない」 柿崎 「あるだろう!!」 日下部「授業、始めてもらえますか?」 柿崎 「まだ問題が……!!」 豆村 「いいから、始めて」 柿崎 「………」 今回ばかりは柿が可哀相に見える。 夕  「………」 当の夕は申し訳無さそうな顔で、席に着いている。 柿崎 「ん……?待てよ……?ああ!きみが例の転入生か!!」 夕  「え……?」 豆村 「うむ、そうなり」 柿崎 「そうかそうか、いや、悪かったね」 ……どういうことだ?転入生? よく理解出来ずに思考を繰り返していると、ガラァッ!と誰かが入ってきた。 少年 「こ、ここか!?(英語)」 謎の男が教室に入るなり、謎の言葉を放つ。 悠季美「〜〜〜!!???」 隣を見ると、明らかに悠季美が驚いていた。 しかも、凄く嫌そうだ。 柾樹 「……まさか……」 いや、絶対そうだろう。 奴の頬のアザが、全てを物語っている。 柾樹 「見るからに痛そうだな」 悠季美「潜在能力が発動しましたから……」 柾樹 「……怖いな」 フェイ「おおう!素敵な少女との再会!(英語)」 謎の男が歓喜乱舞して走り寄ってくる。 柾樹 「待て!それ以上近づくな!」 フェイ「……なんだお前は(英語)」 柾樹 「日本に来たなら日本語話せ」 フェイ「……それもそうだな、失礼した」 柾樹 「なんだ、喋れるのか」 フェイ「当然だ。それより、なんだお前は」 柾樹 「その前にお前がなんだ」 フェイ「質問を質問で返すな」 柾樹 「何を言う。人に物を訊く時はまず名乗るべきだ」 フェイ「……フフ、なかなかの武士と見える」 謎の男がニヤリと笑う。 柾樹  <変な奴だ……> 豆村  <変な奴だ……> 悠季美 <変人……> 柿崎 「で……キミは?このクラスに何用かな?」 フェイ「失礼、このクラスの担任ですね?     僕は今日、このクラスに転入することになった、     『カフェイン=レイヴナス』です」 豆村 「カフェイン……」 柾樹  <コーヒー……> 刹那  <コーヒーだ……> 悠季美 <コーヒーです……> フェイ「周りからはフェイと呼ばれている」 柾樹  <コーヒー……> 豆村  <コーヒー……> 柿崎 「転入生ならもう来てるが……」 フェイ「なにっ!?」 夕  「あ……」 夕が少し後ずさる。 フェイ「キミかっ!!」 フェイが夕に向かって歩いてゆく。 柾樹 「まあまあ、コ……いや、フェイ殿。落ち着き召されい」 フェイ「五月蝿い、お前には関係無い」 柾樹 「それがあるのだよコー……ゲフ!ゴフフン!フェイ殿よ」 フェイ「……その『コ』はなんだ」 柾樹 「知らん」 フェイ「前の学校でも、何故か言われたのだが……」 柾樹 「………」 なんか泣けた。 柾樹 「苦労したんだなぁ、コ……フェイ殿」 西野 「めげるなよ、コ……フェイ」 豆村 「俺達は心の友だぞ、コ−……フェイ」 フェイ「そう思うなら、その『コ』はやめてくれ」 柾樹 「すまん、当分は無理そうだ」 フェイ「………」 矢野 「ところでさ、なんだってここに来たんだ?」 豆村 「ああ、それは俺も気になるな」 西野 「見るからに頭よさそうだしなぁ……」 柾樹 「もっといい学校に行けたろうに」 フェイ「そ、それは……」 コーヒーが横目で悠季美を見る。 悠季美「………」 ちなみに悠季美は真っ青だ。 一応貴族っぽいからな、コーヒーは。 後ろに執事が居るし。 案外、ビンタの恨みを晴らすために……。 フェイ「僕は恋をしてしまったんだ!!!」 日下部「なにぃっ!?」 豆村  <コーヒーのクセに……> 矢野  <コーヒーの分際で……> 別に恋とコーヒーは関係無い。 フェイ「そしてその相手は……!!」 バッとコーヒーが悠季美に向き直り、声を上げる。 フェイ「この人だ!!」 悠季美「……ッ!?」 案の定、悠季美を指差すコーヒー。 当の悠季美は俺の陰に隠れた。 フェイ「ハハ、つれないね」 コーヒーがゆっくりと悠季美に近づく。 それと共に、その場から離れる男子達。 フェイ「?」 その行動に疑問を感じながらも、近づくコーヒー。 悠季美「いっ……!!」 や、やばい!!逃げられん!! 悠季美「いやぁあああああああああああっ!!!!!」 絶叫と共に繰り出されるビンタ。 見境を無くしている分、質が悪い。 ズパァアアアアアアアアアアン!!! 柾樹 「いってぇえええええええっ!!!!」 突如、背中を叩かれる!! 柾樹 「落ち着け悠季美!!俺は柾樹だ!!」 悠季美「いやっ!いやぁああああああっ!!!!」 嫌なのはこっちの方だ!! 豆村 「それゆけ勇者よ!」 ドンッ!!! フェイ「え!?」 豆村がコーヒーを押した。 悠季美「……っきゃぁああああ!!!」 ッパァアアアアアアアン!!! 教室に見事で綺麗で壮快な音が響いた!! 一撃必殺の破壊力を持つ、クリティカルビンタだ。 その勢いに身を任せ、コーヒーが床に叩き伏せられる。 柾樹 「うわっ……」 倒れたコーヒーの頬には、見事な手形があった。 柾樹 「ドラマよのぅ」 悠季美「ひぐ……うっく……怖かったよぉ……」 柾樹 「どうでもいいが、人の制服で涙を拭うな」 夕  「……ねえ、柾樹くん」 柾樹 「ん?なんだ?」 夕  「この人、動かないよ?」 見ると、コーヒーが息絶えたように倒れている。 柾樹 「………」 豆村 「………」 ゴクリ……と、冷や汗を倍増させるよるな喉鳴り。 柾樹 「背中で良かった……」 心からそう思う。 柿崎 「……HR、始めるぞ」 柾樹 「……そうしてください」 倒れたコーヒーなど無視して、HRが開始される。 豆村 「結局、何やりたかったんだ?コイツ」 それは謎である。 まあ、これで懲りただろう。 夕  「大丈夫かなぁ……」 柾樹 「なに、ああいう輩はすぐ復活するものぞ」 やはり夕だけは申し訳無さそうだった。 ……… 下校系の時間。 結局、昼頃まで死んでたコーヒーは続行不能と看なされ、執事に連れていかれた。 まあ、2発目だしな。 しかも同じ所。 明日も悠季美が好きだなんて言ったら、奴は真の変態ぞ。 というか、明日も来れる保証は無いか。 柾樹 「………」 悠季美「………」 夕  「………」 沈黙が続いている。 何も喋らず、ただ帰路を歩む。 柾樹 「というか、離してくれませぬか?」 悠季美「嫌です」 即答だった。 柾樹 「夕、歩きづらいよ」 夕  「ヤ」 即答だった。 早い話、俺の両腕がふたりの少女に捕まっている。 柾樹 「何故こんなことに……」 それもこれもコーヒーのせいだ。 あの一件から悠季美は落ち着かず、怖いだのどうのと、俺の腕を離さない。 夕に関しては一切、謎である。 こやつも俺の腕を掴んでいる。 まあ、真似したい年頃なのだろう。 柾樹 「はぁ……」 なんにせよ、歩きづらい事は確かだった。 しかも、先の帰路には八百屋さん。 神よ、あなたは俺にどうしろと? 柾樹 「なあ、解るだろ?八百屋があるんだよ」 夕  「レタスが安いよ」 柾樹 「おだまり!」 夕  「うぅ〜……」 悠季美「………」 沈黙。 柾樹 「夕……」 夕  「柾樹くん……」 これは覚悟を決めるしかないか……。 ジョリジョリジョリ!!! 夕  「ゎやぁああああああああああっ!!髭が!髭がぁあああああああっ!!」 服屋 「ん〜もう!相変わらずカ〜ワイイわぁ〜ん!」 柾樹 「うぎゃあああああああああ!!離せ!離してくれぇえええええ!!」 噂が流れるのを避けようと裏の道を通る。 しかし、予想通りに服屋に見つかる。 覚悟を決めても嫌なものは嫌だ。 今回、悠季美に捕まってることもあり、 速く走れなかったために、あっさりと襟首を捕まれる。 そして、例の如く頬擦りされる夕。 悠季美「な、なんですかこの人!!」 服屋だ。 それ以外の何者でもでない。 ただ、オカマなだけ。 その時点で、かなりの問題なんだが。 柾樹 「ああ!!お客さんですぞ!!」 その時、丁度客らしき人が来る。 ナイスタイミングだ。 服屋 「あんら〜、嬉しいやら残念やら」 悠季美「歓喜乱舞してください」 服屋 「それもそうね、ンいらっしゃ〜い!!」 客目掛けて走る服屋。 柾樹 「今だ!いくぞ!」 俺達は全力を持って服屋を後にした。 そしてそのままの勢いで家に転がり込む。 凍弥 「うお!?」 その慌しさに驚く叔父さん。 柾樹 「た、ただいま……」 悠季美「ただいまです……」 夕  「うぅ〜……」 とりあえず挨拶をする。 その直後…… 声  「ギャォオオオオオオオオオオオオ!!!!」 後ろの方から絶叫。 柾樹 「何事!?」 俺はとっさに身構えた。 そして振り向くとそこに…… フェイ「………」 コーヒーが居た。 ……何故? 凍弥 「知り合いか?」 悠季美「いえ、全然知らない人です」 フェイ「ノー!?」 これまたキッパリと。 柾樹 「一体、何の用だ」 フェイ「まずはその変質者を見るような目はやめろ」 柾樹 「……違うのか?」 フェイ「僕はただ、焦がれた想いを胸に、彼女を追ってただけだ!!」  *世間一般では、それをストーキングと言います。 凍弥 「そうか、ストーカーか。実物を見るのは初めてだ」 フェイ「………」 凍弥 「記念に名前でも聞こうか。俺は閏璃凍弥だ」 フェイ「……カフェイン・レイヴナスだ」 凍弥 「そうか、コ……いや、カフェインか」 どうやら、叔父さんも同意見らしい。 フェイ「ひとつ訊きたい。お前、彼女とはどういう関係だ」 俺に向き直り、喋るコーヒー。 まいったな……。 一緒に住んでいることがクラス中に知れ渡ってしまう。 フェイ「……もしや……兄妹!?」 勝手に結論を出すコーヒー。 フェイ「お義兄さん!!僕に妹さんをください!」 しかも暴走。 柾樹 「落ち着け」 フェイ「ソーリー。突然、失礼でしたね」 まったくだ。 フェイ「で、お義兄さん」 柾樹 「違う」 フェイ「な……!?ならば……まさか!?」 なんというか、変な奴だ。 凍弥 「………」 柾樹 「………」 俺と叔父さんは溜め息を吐いた。 悠季美と夕は既に家に入り、寛いでいる。 なんで俺が事情を聞かねばならぬのだ。 フェイ「そうか!!イトコとかいうやつだな!?」 意地でも他人で同居という説は出したくないらしい。 柾樹 「………」 俺は困った。 叔父さんを見ると、叔父さんも困っていた。 柾樹 「叔父さん……説明してくださいよ……」 俺は叔父さんに耳打ちした。 凍弥 「無茶言うな」 予想通りの答だった。 フェイ「どうなのだ!?」 こうなったら全部話してしまうか? 柾樹 「……違う」 フェイ「ワッツ!?」 柾樹 「やかましい」 フェイ「それはどういうことか!!」 柾樹 「一緒に暮らしてるんだよ、あいつらと」 フェイ「家族仲、睦まじく」 柾樹 「違うと言うとるのだ」 フェイ「ワッツ!?」 柾樹 「やかましい!」 フェイ「それはどういうことか!!」 柾樹 「ちゃんと聞けボケ!!」 フェイ「よし聞こう」 柾樹 「………」 もうイヤ、こいつ。 柾樹 「俺の名前は霧波川柾樹。     おぬしが追いかけているのが郭鷺悠季美。     もうひとりが佐奈木夕。     俺達は家族じゃない。ハッキリ言えば、ここに下宿してるんだ」 フェイ「……ウィ?」 柾樹 「つまり、ここは我等のスウィートホーム」 フェイ「つまり、僕も下宿できると?」 柾樹 「無理だ」 即答。 フェイ「ナニィイイイイ!?下宿もできんと、何がスウィートか!」 柾樹 「あんた本当に外国人か!?外人らしく喋ってみろ!!」 フェイ「ワタァシ、ニポンゴ、ワッカリマセーン」 柾樹 「………」 フェイ「満足か?」 キミの持つ祖国レベルはその程度なのか。 そう思うと泣けてきた。 柾樹 「まあとにかく、そういうことだから」 フェイ「ムムゥ……」 柾樹 「それとな、悠季美は冗談抜きの男嫌いだ。     触ったり、近づいたりしなければ無害だから」 フェイ「ワッツ?マサキは平気なようだが?」 柾樹 「まあ……長い付き合いだからな。幼馴染と言えるだろうし」 フェイ「……羨ましいな……」 柾樹 「楽しいことばかりじゃないぞ?疲れることばっかりだ」 フェイ「それはそれだけ、信用されている証拠さ」 柾樹 「……そうとも限らん」 フェイ「まあいい、すまなかった。もう帰るとするよ」 柾樹 「ああ、じゃあな」 フェイ「……最後にひとつ」 柾樹 「ヌ?」 フェイ「ユキミはマサキのステディーか?」 柾樹 「フフフ、そういう質問は感心出来ぬな」 フェイ「……ソーリー、では、アディオス」 走り去るコーヒー。 柾樹 「………」 気づけば、叔父さんも既に部屋に戻っていた。 俺も自室に入り、ベッドの上に倒れた。 今日という一日だけで、えらく疲れた気がする。 いつも通りと言えなくもないけど、さすがに今日は疲れた。 夕を連れていったところまでは、まだ普通だったが…… クラスがおかしな集団と化し、コーヒーが現れ、そして教室の床に沈んだ。 そこで考える今日の出来事で一番謎なこと。 それは…… 柾樹 「……なに人なんだ?コーヒーって……」 やはり、そこだった……。 朝である。 必ず訪れる朝。 カーテンの隙間からこぼれる朝日。 それが丁度俺の目を打ち、朝という時間を迎える。 窓まで歩き、カーテンを開く。 窓を開けるといつも通りの景色が広がる。 いい朝だ。 心地良い風とは素晴らしいものよ。 俺はもう一度ベッドに倒れこみ、目を閉じた。 静かな朝だった。 微かに聴こえる鳥の鳴き声を耳に、静かに息を吐く。 そんな時だった。 柾樹 「……ん?」 ベッドに異様な感触を覚える。 あっという間に意識は覚醒した。 夕  「すぅ……」 夕だ……。 柾樹 「またか貴様ァアアアアアァァァッ!!」 バサァッ!! 俺は布団を引き剥し、夕をベッドから転がした。 ドサッ!! 夕  「きゃうっ!!」 当然の如く夕が倒れる。 というか落ちた。 夕  「うぅ〜……」 そして好例の一言。 柾樹 「なんば人ん部屋ば忍び込んみょるか!!     まったくけしからんばい!こん娘っ子は!!」 夕  「はうう……日本語喋って……」 柾樹 「理解しろ」 夕  「無茶だよ……」 柾樹 「で?今回は何の用だ」 夕  「……オジキ……」 柾樹 「またそれか!!」 夕  「だ、だって目に手足の生えたデカイ人だよ!?どう考えても怖いよぅ!!」 柾樹 「そうだとしてもだ!!俺の部屋じゃなくて、悠季美の部屋に行け!!     女同士の方が安心出来るだろう!?」 夕  「だって……」 夕がゆっくりとベッドを指差す。 柾樹 「………」 振り向きたくなかったりする。 ハッキリ言って、予想はついているから。 しかし、やはり確認せねば。 ゆっくりとベッドに向き直る。 悠季美「くぅ……」 柾樹 「………」 やっぱり……。 そこに居たのは悠季美だった。 というか、布団引き剥した時点で気づけよ俺……。 柾樹 「起きろ」 悠季美「すう……」 柾樹 「起きなさい」 悠季美「ん……」 柾樹 「よし、起きろ」 悠季美「あと5分……」 柾樹 「お前は漫画やゲームの主人公か!!」 悠季美「違います」 柾樹 「よし、起きたな?」 悠季美「……おはようございます」 柾樹 「訊く事はひとつだ。何故俺の布団の中に潜り込む」 悠季美「……怖いから」 柾樹 「お前もオジキかっ!?」 夕  「怖いんだよ?」 柾樹 「シャラップお黙り!!」 夕  「うぅ〜……」 悠季美「……オジキじゃないです」 うん、一応解ってる。 柾樹 「ゴールドブレンドか……」 悠季美「……はい」 なんてことをしてくれたんだコーヒー……。 俺の爽やかな朝が台無しじゃないか。 今度砂糖でもかけてくれる!! 柾樹 「はぁ……解ったよ、今回は大目に見る。     だからもう二度と忍び込むな。いいな?」 悠季美「嫌です」 夕  「ヤ」 こんチクショウ……。 柾樹 「俺の部屋じゃなくて、叔父さんの部屋に行けばいいだろう!?」 夕  「そうだよ。悠季美ちゃん、あの人のこと好きなんでしょ?」 柾樹 「え?そうなの?」 悠季美「……夕ちゃん……?」 夕  「あっ……!!」 殺気!?殺気が溢れてゆく!! 柾樹 「待て!!殺るのはまだぞ!!」 悠季美「………」 夕  「えぇ!?私、殺されるの!?」 柾樹 「落ち着け!」 夕  「ふえぇ……」 柾樹 「しかしさ、好きなら尚更、何故?」 悠季美「……解りません。足が自然に動くんです……」 柾樹 「ふむぅ……」 夕  「むむぅ……」 柾樹 「これはどう説明しましょうか、佐奈木さん」 夕  「えと……解らないよ……」 柾樹 「そうだよな、お前に聞いた俺が馬鹿だった」 夕  「ふえぇ……ひどいよぉ……」 柾樹 「ひどくないぞ」 悠季美「なんでそう、自信を持てるんですか」 柾樹 「知らん」 夕  「ふえぇ……」 柾樹 「何を泣く、アジジ」 夕  「違うよっ!!」 柾樹 「すまない、アボボ」 夕  「柾樹くん……わざと?」 柾樹 「うむ」 夕  「ひどいよ〜っ!!」 柾樹 「ひどくない」 悠季美「話を元に戻しましょう」 柾樹 「……そうだな。怖いからって、俺の布団に潜るのは止めろ」 悠季美「嫌です」 夕  「ヤ」 柾樹 「何も変わらないだろうが!!」 悠季美「変えたかったんですか?」 柾樹 「あたりまえだ!!夏は暑いだろう!!」 夕  「普通だよ」 悠季美「はい、気になりません」 柾樹 「俺はなるんだ!!」 悠季美「そんなことないです」 柾樹 「あると言っている!!」 夕  「でも、たまぁに悠季美ちゃんが裏拳するの」 悠季美「夕ちゃんこそ、蹴ってきます」 夕  「してないもん」 悠季美「わたしだって、してません」 夕  「してるよぉ!」 悠季美「夕ちゃんが、してくるんです!」 夕  「蹴りなんてしてないもん!!」 悠季美「わたしだって裏拳なんてしてません!」 なんかもう、何が起きてるのやら……。 今、俺に解ること!それは……こいつらと一緒に居ると疲れるということ!! うむ、きっとそうに違いない。 柾樹 「ふたりとも」 悠季美「はい?」 夕  「?」 柾樹 「とりあえず論争するなら他でやれ」 悠季美「解りました」 夕  「うん、解ったよ」 すんなりと承諾。 なんだ、理解のあるオナゴさん達じゃないですか。 悠季美「じゃあ行きましょう」 ガシッ!と腕を掴まれる。 柾樹 「待て」 夕  「場所、換えるんでしょ?」 柾樹 「俺も行くのか?」 悠季美「当然です」 柾樹 「いや、俺のことなど気にせずにだな。あとは若い者同士……」 悠季美「駄目です」 爽やかな中にも、ドスのきいた声ですな。 しかも即答。 夕  「主役が居ないと盛り上がらないよ」 ……いつから俺は主役になったんだ? というか何の主役だ。 夕  「……行かないの?」 柾樹 「……いや、朝飯の後に学校だろう」 夕  「あ、それもそうだね」 悠季美「……行きたくないです」 柾樹 「………」 嗚呼、コーヒーよ……。 柾樹 「無遅刻無欠席はどうする」 悠季美「栄光を捨ててでも会いたくないんです」 うん、素晴らしい嫌われっぷりだ。 柾樹 「はあ……少し待ってろ」 俺は電話の小機を取り、知り合いに電話をかけた。 るるるるる……ブツッ。 声  「はい、祐希です」 柾樹 「よお、刹那」 刹那 「おお、柾樹か。どうした?」 柾樹 「ひとつ訊きたい情報がある」 刹那 「お!なんだなんだ!?何でも言ってみろよ!」 柾樹 「コーヒーの……カフェイン・レイヴナスの、その後の行動についてだ」 刹那 「ああ、あいつだな?チェックしてあるぜ。     最新情報だから500円な。えぇと……お、これだ。     え〜と……ああ、そうだった。今日で学校去るそうだぞ」 柾樹 「……はい?」 刹那 「なにやら、本格的に嫁探しをするらしい」 柾樹 「………」 あいつらしいと言えば、あいつらしいが……。 柾樹 「サンキュ、助かったよ」 刹那 「なに、金は天下の回り物。またいつでも言ってくれ」 ブツッ!ツーツー……。 柾樹 「だそうだ」 夕  「解らないよ……」 柾樹 「うん……そうだよね……」 悠季美「誰に電話を?」 柾樹 「知り合いの情報通だ」 夕  「コーヒーがどうとかって……」 柾樹 「それだけど、コーヒーは今日で転校らしい」 悠季美「かつて無い速さですね」 柾樹 「嫁探しに没頭するらしい」 悠季美「……ここに来たりしませんよね……」 柾樹 「ハハハ、案外もう玄関辺りに居たりしてな」 ピンポ〜〜〜〜ン……。 ピンポ〜〜〜ン……。 柾樹 「………」 悠季美「………」 夕  「………」 予感的中、というやつですか? 柾樹 「よし行け夕」 夕  「えぇっ!?い、嫌だよっ!柾樹くんが行ってよ!!」 柾樹 「なにぃっ!?お、俺が!?」 悠季美「お願いです……」 柾樹 「………」 ハハハ……解ってるさ……。 男ってのは、こういう時のみに頼られるものなのさ……。 俺は自室を出て、玄関へ向かおうとした。 しかし、叔父さんが先に辿り着く。 柾樹 「………」 こういう時って……あるよね……。 声  「御苦労様です」 叔父さんの声。 どうやら、ただの御届け物だったらしい。 少し気にしすぎだな。 コーヒーから離れよう。 溜め息を吐きつつ、自室に戻ろうとする。 声  「おーい、柾樹!起きてたら降りてこーい!!」 しかし轟く叔父さんの声。 俺は階段に向き直り、階下に降りる。 ダイニングに足を踏み入れたところで、叔父さんを発見。 柾樹 「どうかしました?」 凍弥 「ああ、これだ」 それは先程届いたと思われる包みだった。 柾樹 「これは?」 凍弥 「包みだ」 柾樹 「おお、確かに包み以外の何物でもない」 凍弥 「うむ」 柾樹 「開けてもいいんですか?」 凍弥 「ああ、安心しろ。既に開いている」 柾樹 「あ、ほんとだ……」 ゴソソソソ……。 発泡スチロールやダンボール特有の音を耳に、包みを開ける。 柾樹 「………」 中身を見た。 というか目が合った。 バタッ。 無言で包みの蓋を閉じる。 柾樹 「……なんですかこれは」 凍弥 「知らん。こっちが聞きたい」 柾樹 「………」 おそるおそる、蓋を開ける。 ………………また目が合った。 バタッ。 再び閉じる。 柾樹 「………」 俺の思考回路がサイクロンが如き速さで回転する。 モモンガ……だよな、どう見ても……。 何故、家にモモンガが……? 蓋を開けて、もう一度鑑定する。 しかし、その時!! 柾樹 「うわっ!?」 中身の生物が飛び出した!! そのままの勢いで空を飛び、そしてドゴッ!! 天井に頭をぶつけて落ちる。 柾樹 「………」 凍弥 「………」 見事なバカモモンガだ。 凍弥 「なるほど、道理で……」 包みを見ていた叔父さんが、関心したように頷く。 凍弥 「見ろ、差し出し人が来流美だ」 柾樹 「あ……」 なるほど、道理でバカモモンガ……。 なんか納得してしまう。 柾樹 「どうしろというのでしょう……」 凍弥 「……食うか?」 柾樹 「本気ですか?」 凍弥 「もちろん冗談だ」 柾樹 「ですよね」 凍弥 「飼うしかないだろうな……」 柾樹 「……ですよね……」 そんな溜め息度マキシマムな会話の中、バカモモンガが静かに動き出す。 そして何故か俺目掛けて飛んでくる。 柾樹 「おほうっ!?」 凍弥 「ラオウか」 柾樹 「誰ですか!!」 凍弥 「世紀末覇者」 ますます解らん。 凍弥 「よく懐いてるな」 柾樹 「……なにゆえ?」 凍弥 「刷り込み、って知ってるか?」 柾樹 「ウィ、漫画などの印刷のことですな?」 凍弥 「そっちじゃない」 柾樹 「違うんですか?」 凍弥 「当たり前だ」 それもそうですな。 凍弥 「モモンガと印刷に、なんの接点がある」 うん、ごもっとも。 柾樹 「いや……知ってますけど、今、ここで産まれた訳じゃあるまいし……」 凍弥 「そこで俺は考える。     暗い包みの中に閉じ込められた生き物が光を得た時、     そこにあった顔に安心するのは当然ではないかと」 柾樹 「……つまり?」 凍弥 「結果上、刷り込みとたいして変わらん」 柾樹 「………」 凍弥 「飼育、頑張れよ」 ポンっと肩を叩かれる。 そしてダイニングを出てゆく叔父さん。 俺の頭の上で蠢くモモンガ。 嗚呼……母さん……。 俺の平穏ブチ壊すのが、そんなに楽しいのですか? 柾樹 「それにしても、何故モモンガなんだ……?」 謎は深まるばかりだった。 …… 朝の町並みを歩く。 ……頭にモモンガを乗せて。 擦れ違う人々が振り返り、俺の頭の上を見る。 柾樹 「ぬおお……人々の視線が恥ずかしい……」 俺は今、この街で一番目立っているに違いない。 ちなみに悠季美と夕は遥か後方を歩いている。 見事に他人のフリをしている。 ……まあ、他人なんだが。 それにしても、これはあんまりだろう……。 こうなったら大声で呼んでくれるわ! 柾樹 「おーい!!早くこっちに来いよ!!」 俺は叫んだ。 柾樹 「あれ?」 しかし、叫んだ方向に夕と悠季美が居なかった。 ……横道を使って行きやがった……。 まいった……。 行動パターンを読まれてる……。 しかも余計に視線を集めてしまった……。 柾樹 「うう……ちくしょう……」 いつもながら、泣けてきた。 柾樹 「お前のせいだぞ……?」 当の本人(本獣?)は実に平和的に御就寝だ。 柾樹 「く、くそ……この野郎……」 そこで俺は考える。 モモンガって何を食すんだろう……。 今の現状とは、なんら関係無かったりする。 悲しみつつも見えてくる学校。 俺は……行くのか……? ハッキリ言えば、笑われに行くようなものだろう。 だがしかし、これもまた栄光のため。 覚悟を決めて行きやしょう。 柾樹 「………」 ところで俺は考える。 モモンガは暗き世を尊ぶ者と聞く。 ならば鞄の中に入れれば起きるだろうか? 試してみよう。 ゴソゴソ……。 柾樹 「………」 間。 暫くすると、鞄が蠢く。 柾樹 「おお、起きた」 しかし俺は考える。 夜に尊ぶ者だとしても、暗くしたからって起きるのか? 柾樹 「………」 やっぱり変なモモンガだ。 柾樹 「まあいいコテ」 俺はモモンガを鞄から出し、校舎へと歩いた。 が、気が変わって、再び鞄の中へ。 柾樹 「いいかい?坊や……。     ワシがよいと言うまで出てはイカンぞ……?」 親しみを込めて、老人語で話す。 しかし容赦無く蠢く鞄。 柾樹 「こ、これ!頼むから大人しくしとくれ!!」 それでも老人語。 俺がそう言うと、静まる鞄。 柾樹 「おうおう……可愛いコじゃて……」 尚も老人語。 柾樹 「よし、いざ出陣!」 俺は気合いを入れた。 しかし、それに呼応するかのように蠢く鞄。 柾樹 「お、落ち着けボーイ!大人しくしてくれって!!」 しかし蠢く。 柾樹 「このままじゃ遅刻してしまうんじゃ!!     のう!?頼むから静かにしとくれ!!」 途端、静まる鞄。 柾樹 「………」 もしかして……? 柾樹 「静にしてくれ」 ゴソゴソ……。 柾樹 「静にしとくれ、坊や……」 ………。 柾樹 「こ、この野郎……ッ!!」 どうやら、老人語には従うらしい。 嫌な奴だ。 柾樹 「これは……まいったな……」 対処法を見つけたものの、俺にずっと老人語を話せと? 柾樹 「はは……悪夢だ……」 俺はハッキリと母さんを恨んだ。 Next Menu back