……夏に吹く、暖かい風が好きだった。 たったひとつの奇跡を信じて、 そして叶った願いと一緒に喜びと悲しみを共にして、 思い返す季節と共に……俺は夏の景色を駆けていた。 夏の日に仰ぐ、綺麗な青空が好きだった。 空を見上げては、蒼く澄み切った空に感謝して、 夏を駆けては、明けない夜を望んでいた。 ……ひと夏の情景の中、俺はとても幸せだった…… ───マッスルージュ/雲の彼方に……───
目が覚めた。 いつもの朝。 暫くして、耳に届く半鐘の音。 夕  「ん……」 布団から出て、着替えた後、部屋を出る。 夕  「………」 夢を見た。 時々見る夢。 見覚えのない景色の中を走る夢。 それが何を意味しているのか、私には解らなかった。 ふとしたことから通い始めた学校。 記憶の片隅にある鈴問という名前。 そして……失った記憶。 私は誰なんだろう。 知らない記憶が私の中にある。 それは女の子だったり、男の子だったり。 まとまりを持たない記憶。 でも、見える景色は同じだった。 凍弥 「ん?おお、夕か、おはよう」 夕  「うん、おはよう」 気づくとダイニングに立っていた。 凍弥 「……どうかしたのか?」 夕  「え?」 凍弥 「ひどい顔してるぞ?あまり寝ていないのか?」 夕  「……ううん、よく寝てるよ。     そう見えるのは多分、昨日まで歩けなかった後遺症だよ」 凍弥 「そうか?まあ、あまり無茶は……ん?」 柾樹 「……ぬおお……朝の空気のなんと爽やかな……」 凍弥 「柾樹か、おはよう」 柾樹 「おはようござる」 悠季美「せめて、おはようでござるって言ってください」 柾樹 「駄目だ」 悠季美「外道!!」 柾樹 「ええい!朝からやかましい!!」 悠季美「やかましいのはそっち……って、凍弥さん、何を見てるんですか?」 凍弥 「ム?見ての通り、アルバムだが」 柾樹 「おお、懐かしい!」 夕  「ふえ?見た時あるの?」 柾樹 「FUFUFU、俺を甘く見るなよ?     子供が家を探索する時、確実に見つけるもの!!それはアルバムぞ!!」 悠季美「ようするに勝手に見たんでしょう?威張って言えるようなことじゃないです」 柾樹 「……相変わらずキツイお言葉……」 夕  「私も見てもいいかな」 凍弥 「ああ、構わんぞ」 夕  「やったあ!!」 柾樹 「やったあ!!」 夕  「うぅ〜……真似しないでよぉ……」 柾樹 「その場のノリは大切ぞ」 悠季美「まったく、その通りです」 凍弥 「相変わらず団結力の無い奴等だなぁ……」 柾樹 「力とはこういうものです」 悠季美「関係無いです」 夕  「いいから見ようよ」 柾樹 「任せろ」 悠季美「どういう返事ですか」 柾樹 「知らん」 夕  「見ないの?」 柾樹 「見るぞ」 悠季美「見ます」 凍弥 「見てて飽きないよ、お前等……」 柾樹 「お誉めに預かり光栄にてござる」 凍弥 「いや、別に誉めてないが」 柾樹 「そうですか……」 悠季美「わあ……この子供が凍弥さんですか!?」 夕  「………」 柾樹 「はう!?俺を無視するな!!」 ドカッ!! 柾樹 「いてぇっ!?」 モモンガが飛んできた。 柾樹 「なにをするか!!」 凍弥 「おお、そういえば名前はつけたのか?」 柾樹 「マッスルージュ」 凍弥 「却下」 柾樹 「マッスルメンタルグラフティ」 凍弥 「マッスルから離れろ」 柾樹 「冗談ですよ。     過去のゲーム大全ってやつを見たから、ちょっとアレンジしただけです」 どんな名前がいいだろうか? 元来、ペットの名前はカタカナだ。 と、なれば、それに背くのも悪くない。 柾樹 「人間のような名前はどうでショ」 凍弥 「フム?たとえば柿崎とかか?」 柾樹 「いや、それはちょっと」 凍弥 「当然だな」 ひどい言われ様ですぞ、柿よ……。 凍弥 「普通にカタカナでいいんじゃないか?」 柾樹 「むう」 凍弥 「それとも、親の名前でもつけるか?」 柾樹 「勘弁してください」 凍弥 「ああ、俺も嫌だ。そこでだ、五月逸兎なんてのはどうだ?」 柾樹 「名字までつける必要、ありますか?」 凍弥 「それもそうか。なら勝男だ」 柾樹 「なんか直感的に却下」 凍弥 「いい奴なんだが」 柾樹 「誰のことですか」 凍弥 「まあまあ、俺よりも女性陣に聞け」 柾樹 「むう」 それもそうかも知れない。 俺は向き直り、夕達に話し掛け…… 柾樹 「………」 悠季美「………」 夕  「………」 柾樹 「何事ですか?」 悠季美「ドリームです」 柾樹 「妄想か」 悠季美「……怒りますよ?」 柾樹 「すまん」 夕  「………」 悠季美はいつも通りだが、夕の様子が明らかに変だ。 柾樹 「どうかしたのか?」 夕  「……ううん、なんでも……ないよ……」 そう言って、ダイニングを出てゆく夕。 柾樹 「………?」 まあいいや。 俺も久しぶりに見てみるか。 柾樹 「………」 心酔している悠季美を無視して、ページをめくる。 柾樹 「……あれ……!?」 そこで見覚えのある顔を見つける。 柾樹 「この子供って……」 凍弥 「それは俺だが?」 柾樹 「……え?」 凍弥 「俺だ」 柾樹 「……マジですか?」 凍弥 「嘘をついてどうする。アルティメット・マジモードだ」 柾樹 「だって……この子供は……」 凍弥 「……?どうかしたのか?」 柾樹 「じゃあこの子供は?」 凍弥 「来流美と……由未絵だ」 ……どう見ても、あの時の夢に出てきた子供達。 それが叔父さん達だったとなると、あの夢は……。 柾樹 「……そんな訳ないか」 ただ、過去に見た物が夢になって出てきただけだろう。 俺は考えを振り切り、ダイニングを後にした。 夕  「柾樹くん……」 柾樹 「どわっ!?」 しかし、いきなり夕に話し掛けられる。 柾樹 「お、脅かすなよ……」 夕  「ちょっと……いいかな」 柾樹 「どうした?」 夕  「話があるんだよ」 柾樹 「ああ、だから。どうしたんだ?」 夕  「あ……えと、外……行こ?」 柾樹 「ここじゃあ駄目なのか?」 夕  「……うん」 微かにダイニングに目を向ける夕。 その目は何か、脅えた様だった。 夕  「……駄目、かな……」 柾樹 「いや、いいぞ」 夕  「ほんとっ!?」 柾樹 「嫌ならいいぞ」 夕  「お願いしてるのに嫌も何も無いよ……」 それもそうだ。 柾樹 「何処に行くんだ?」 夕  「あ、うん。一緒に来てくれるだけでいいんだよ」 凍弥 「阿ーッ!!」 鷹志 「云ーッ!!」 柾樹 「うわっ!?」 鷹志 「……ハッ!?ここは何処ぞ!?」 凍弥 「……相変わらずだな」 鷹志 「お前にだけは言われたくない」 悠季美「あ……」 鷹志 「おお、悠季美」 なんか、えらいことになっている。 夕  「……柾樹くん、行こ?」 小さく服を引っ張り、俺に話し掛ける夕。 柾樹 「いや、でも……」 夕  「……お願いだよ……」 柾樹 「……解った。行くか」 夕  「うん、ありがとう柾樹くん」 柾樹 「気にするなって」 俺と夕は叔父さん達に気づかれないように、家を出た。 ……… 朝の町並みを歩く。 柾樹 「なあ、何処に行くんだ?」 俺の胸には落ち着いた気分の他に、 言い様の無い胸騒ぎが存在していた。 夕  「こっちだよ」 途中、道を逸れる。 柾樹 「こっちって……」 向かう先は俺も知っている場所かも知れない。 夕  「来れば解るよ」 柾樹 「夕……?」 変な感じだった。 そこに居るのは確かに夕なのに、まるで別人のような気がした。 もしかして二重人格で、人気の無い所で俺を殺…… 柾樹 「動機は何だ」 夕  「ふえ?何が?」 ……って、そんな訳あるか……。 そんなことを考えながらも、着いた場所は予想通りの場所だった。 夕  「前に言ったよね、森から来たって」 そう、森だった。 通り抜けば、そこにはあの丘がある。 柾樹 「中、入るのか?」 夕  「うん」 柾樹 「そ、そうか!突き落とす気か!!」 なるほど、転落死なら証拠は……!! 夕  「人聞き悪いよ……」 柾樹 「冗談だ」 俺は笑いながら、森の中へ歩を進めた。 柾樹 「道、知ってるか?」 夕  「大丈夫だよ」 自信100%の様だ。 夕の後を追う様に、森を歩く。 ふと、目につく目印。 そして、それを見て静かに微笑む夕。 風が吹いていた。 森の中で感じる風。 それは静かで、暖かくて、穏やかで……でも……悲しかった。 柾樹 「な、なあ……」 俺はその、どうしようもない気分を紛らわすために、夕に話し掛けた。 夕  「うん?」 柾樹 「どうして……ここに来る必要があるんだ?」 夕  「………」 でも、夕はそれに応えようとはしなかった。 そのまま、お互いが無言で森を歩く。 暫くすると、丘が見えてきた。 夕は途切れた丘に立ち、空を見上げていた。 柾樹 「……ふう」 俺は街を見下ろして、深呼吸をした。 柾樹 「いつ来ても悪くない場所だ」 夕  「そうだね」 柾樹 「夕もよく来るのか?」 夕  「………」 柾樹 「夕?」 夕  「ねえ、柾樹くん……。私ね、夢を見るんだよ」 柾樹 「俺だって見るぞ」 夕  「うん。でもね?多分……普通の夢じゃないんだよ」 柾樹 「オジキか?」 夕  「うぅ〜……」 柾樹 「いや、悪かった。続けてくれ」 夕  「……うん……。さっきアルバム見たよね?」 柾樹 「ああ」 夕  「あの子供達が夢の中に出てくるの」 柾樹 「………!」 俺と……同じ……? 夕  「元気な子供が走っている暖かい夢だけど……暖かい筈なのに悲しいんだよ……」 柾樹 「たとえばさ、公園で遊んでいる夢とかか?」 夕  「え?う、うん……」 柾樹 「やっぱりか……」 夕  「どうして解ったの?」 柾樹 「俺も見るからだ」 夕  「ふゎ……奇遇だね」 そうなのか? 夕  「たまにね?ここで女の子が空を見上げてる夢を見るの」 それは叔父さんの大切な人……。 夕  「雪が降っててね?すっごく綺麗なんだよ」 それは叔父さんと由未絵さんが好きだった景色……。 夕  「女の子が雪を見て、静かに微笑んでるの」 それは叔父さんがずっと見ていたかったもの……。 夕  「そしてその女の子を見て、隣にいる男の子も笑ってた……」 それは……蒼い季節に交わされたひとつの約束……。 夕  「そんな幸せそうな夢だった……」 柾樹 「……そうか」 夕  「……私ね、柾樹くんのことが好き」 柾樹 「そうか……なにい!?」 夕  「一緒に居て楽しくて、面白くて、そして安心できるの……」 柾樹 「気のせいだ」 夕  「ううん、気のせいなんかじゃないよ」 柾樹 「目の錯覚だ」 夕  「違うよぉ」 柾樹 「他人の空似だ」 夕  「もっと違うよぉ〜……」 柾樹 「なんと!違うと申すか!」 夕  「申すよ」 柾樹 「ぬう……」 夕  「柾樹くんは?柾樹くんは私のこと好き?」 おいおい……そういうこと正面きって訊くか? もしかしたら俺をからかっているのかもしれない。 柾樹 「………」 夕  「?」 いや、それが出来る程、こいつは賢くないな。 夕  「なんか今、ムッと来たんだけど」 柾樹 「気のせいだろう」 夕  「うぅ〜……」 柾樹 「それより、いつまでここに居る気だ?」 夕  「……解らない」 柾樹 「……そうか」 俺は溜め息を吐いて、その場で横になった。 目に映る景色は青い空と白い雲。 いい天気だった。 丘に吹く風を体に受けて、俺は夏を感じていた。 そんな夏の景色の中……ドサッ!! 柾樹 「ギャッ!!」 何かが俺を襲った。 柾樹 「な、なにをする!」 俺は夕に叫んだ。 夕  「え?」 柾樹 「なに!?」 違う。 夕は隣で寝ていた。 と、なると…… モモンガ「………」 柾樹  「………」 モモンガだ。 しかもまた、目が合った。 柾樹 「よく来たな勇者よ」 夕  「え?勇者なの?」 柾樹 「いや、どちらかと言えば人の平穏を乱す者だな」 当の本獣は平和そうに俺の顔を見て、首を傾げている。 そして俺に顔を近付けて…… モモンガ「ギョ〜」 柾樹  「うおっ!?」 鳴いた(?)。 夕  「ふぇっ!?ど、どうしたの!?」 柾樹 「い、今……こいつが……」 夕  「?」 柾樹 「い、いや……気のせいだよな!ハ、ハハハ!」 夕  「………?」  拝啓、御母様。 モモンガとは喋る生き物なのですか? 仮に喋れたとしても、『ギョ〜』はないんじゃ……           柾樹、心の疑問 夕  「どうしたの?」 柾樹 「ああ、ちょっと親と子の以心伝心」 もちろん届く訳がない。 夕  「ところでさ」 柾樹 「なんぞ?」 夕  「うぅ〜、真面目に聞いてよ……」 柾樹 「任せろ」 夕  「うん、任せるよ。えっと、さっきの返事、まだかなぁ」 柾樹 「……返事?」 はて? 何かをもの申されただろうか? 夕  「……忘れたでしょ」 柾樹 「任せろ」 夕  「うぅ〜っ!!私の告白の返事だよぉ!!」 柾樹 「馬鹿なミスタァーッ!!!」 俺は叫んだ。 夕  「ミスターじゃないよ、女の子だもん」 柾樹 「いや、ミスタという名前なんだ」 夕  「誰?」 柾樹 「過去の文献によれば、ジョルノの仲間らしい」 夕  「ジョルノ?」 柾樹 「うむジョルノ」 夕  「凄まじい名前だね」 柾樹 「俺もそう思う」 夕  「で、返事」 柾樹 「ぬおお……なんと良い天気ぞ……」 夕  「返事〜……」 柾樹 「ぐー」 夕  「いきなり寝ないで……」 柾樹 「………」 夕  「無視しないでぇ〜……」 柾樹 「どうしろと言うんだお前はっ!!」 夕  「うぅ〜……返事が欲しいんだよぉ〜……」 柾樹 「まあまあ、ご覧なさいお嬢さん。空が綺麗じゃあ〜りませんか」 夕  「お嬢さんじゃないもん」 柾樹 「野武士」 ボカァッ! 柾樹 「いてぇっ!?」 夕  「極端すぎだよぉっ!」 柾樹 「お前がそうしろと」 夕  「言ってないよ!!!!」 柾樹 「な、なにぃいいいい!?お嬢さんの対立語は野武士じゃないのか!?」 夕  「柾樹くん、一度病院行った方がいいよ……?」 柾樹 「野武士を唱える者は正常ではないと?」 夕  「そうは言ってないよ……」 そうでもない気がする。 柾樹 「まあいいか、少し寝よう」 夕  「駄目だよぉ、まだ返事聞いてないもん」 柾樹 「まあそう急くな。急いては事をし損じる」 夕  「うぅ〜……」 俺は再び空を眺めた。 丁度、太陽が雲に隠れた広い空。 俺は静かに目を閉じ、眠りについた。 ……… ……………… ………………………ゴリッ!! 柾樹 「キャーッ!!」 夕  「わわっ!?柾樹くん!?」 柾樹 「ジュラァアアァァッ!!鼻がぁあああああぁぁぁっ!!!」 突然、モモンガ鼻に噛みついてきた。 柾樹 「こッ……このクソモモンガァアアアァァッ!!」 夕  「ま、待ってよ柾樹くん!エサ、あげた?」 柾樹 「家畜は友」 夕  「あげてないんだね……」 柾樹 「任せろ」 夕  「どういう返事か謎だらけだよ……」 柾樹 「しかしだな、俺はモモンガが何を食うかなんて、まったくもって知らんのだ。     まさか人の鼻を主食とするとは思わなかった」 夕  「うん、私も驚いたよ……」 恐ろしい奴だ。 こやつは危険ぞ!! 今の内に餌づけしておくか。 柾樹 「ハム食うか?」 俺は冷蔵庫から物色してきたハムをモモンガに見せた。 しかし……ベシッ!! 柾樹 「ぬおッ!?」 ボサッ。 ハムはモモンガに叩き落とされて、大地に降り立った。 柾樹 「こ……こここ……ッ!!」 なんて贅沢な!! 柾樹 「このバチ当たりィイイイイイイ!!!」 夕  「わわわっ!!お、落ち着いてよ柾樹くん!!」 柾樹 「ならぬ!この場で成敗してくれようぞ!ハムを笑う武士はハムに散る!」 夕  「モモンガだよぉっ!!」 柾樹 「荒岩流!クゥッキング!!!ぬおぉぉおおおおおおおぉおぉおっ!!!!」 モモンガの料理仕方! 柾樹 「まず、ハムの外側にある硬い皮の部分を……と、このように剥きます」 夕  「うん」 柾樹 「次に、その皮でモモンガの首を締めます。     証拠が残らないところがメリットです」 夕  「経済的だね」 柾樹 「そうか?」 夕  「うぅ〜っ!!柾樹くんがふったんだよぉっ!!」 柾樹 「さあ、あなたもこの方法で、モモンガをたっぷり料理してあげましょう」 夕  「途中でハムの皮が切れると思うよ?」 柾樹 「だろうな」 夕  「それに悪気は無かったんだと思うよ?     もしかしたら取ろうとして叩いちゃったとか」 柾樹 「いや、明らかに殺意があった」 夕  「ハム相手に殺意出しても意味無いよ……」 柾樹 「くっ、正論だ……仕方無い。受け取れモモンガよ!お詫びのソーセージだ!」 俺はモモンガに、やはり物色してきたブツを見せる。 柾樹 「おお」 今度は手で掴み、食している。 柾樹 「いやあ、良かったよ。     賞味期限が切れていたから、その辺に捨てようかと思ってたんだ」 夕  「え……?」 次の瞬間、モモンガの体がゆっくりと傾く。 夕  「ふゎわわわわぁあっ!?」 それを受け止める夕。 夕  「賞味期限の切れた物をあげちゃだめだよぉっ!」 柾樹 「安心しろ。食えぬと解った以上、もう食わさん」 夕  「うぅ……なんかこのモモンガが他人(他獣)に見えないよ……。」 そうだろうな。 柾樹 「じゃあ、帰るか」 夕  「え?あ……う、うん……」 柾樹 「どうかしたか?」 夕  「あ、あの……返事……」 柾樹 「あ……ああ、忘れてた」 夕  「……うくっ……」 柾樹 「おわわっ!馬鹿!泣くな!!」 夕  「だ、だって……」 柾樹 「……ああもう!解ったよ!言えばいいんだろ!」 夕  「………」 柾樹 「え〜と、だな……嫌いではない」 夕  「中央辺り……?」 柾樹 「まあ、そんなところだ」 だいたい、夕が来てから1ヶ月も経ってない。 相手は謎につつまれた少女。 好きかどうかなんて解るわけがない。 でも…… 柾樹 「叔父さんは……」 叔父さんは気づくのが遅すぎたために、大切な人を幸せに出来なかった。 もし。 もしも、だ。 俺は心の何処かで夕のことが好きで、ただそれに気づいていないだけだとする。 そうしたら……俺は叔父さんのように後悔する時がくるのだろうか……。 柾樹 「………」 駄目だ。 そんなことはもう、あっちゃいけないんだ。 柾樹 「……ハッキリ言うぞ。俺はまだお前のことが好きだとかは解らん」 夕  「……うん」 柾樹 「嫌いなのか?と聞かれたら、曖昧に返すことしかできないだろう」 夕  「……うん」 柾樹 「これは……あくまで俺の提案だ」 夕  「……うん」 柾樹 「つき合ってみるか?」 夕  「……うん……え?」 柾樹 「もちろん恋人と書いても、(仮)が付くが」 夕  「ま、柾樹くんっ!も、もう一回言って!!」 柾樹 「駄目だ」 夕  「はうぅ〜っ!お願いだよぅっ!」 柾樹 「恥ずかしいから駄目!!我慢なさい!!」 夕  「いじわる〜っ!!」 柾樹 「生まれつきだ」 夕  「はうぅ〜……」 柾樹 「さ、帰るか夕」 夕  「あ……」 俺は夕の手を取り、来た道を戻った。 夕  「あ、あははっ!柾樹くん、顔真っ赤だ〜!!」 柾樹 「う、うるさいっ!人のこと言えるかっ!!お前だって真っ赤じゃないか!!」 夕  「わわっ!?ほんとっ!?」 柾樹 「嘘ついてどうする!」 夕  「あはは、そうだねっ♪」 柾樹 「ああそうだとも!ヌハハハハハハ!!!」 夕  「アハハハハッ!!変な笑い方〜!!」 俺と夕は、笑いながら帰路を歩いた。 いい天気だった。 本当にいい天気だった。 でも、その時…… 柾樹 「え……?」 町並みを歩く俺の前に、ひと粒の雪が舞い降りた。 柾樹 「雪……?」 空を見上げても、他に雪なんて降っていなかった。 最初は紙きれだと思った雪も、俺の手の中で溶けていた。 柾樹 「………」 夕  「ふえ?柾樹くん、どうかしたの?」 柾樹 「……いや、なんでもない」 俺は再び路地を歩き始めた。 夕  「ふやゃぁっ!待ってよ柾樹くん!!」 慌てて後をついてくる夕。 俺はただ、雪の溶けた手の平を見て、溜め息を吐いた。 雪、か……。 柾樹 「……季節外れにも程があるぞ……」 空を見上げて呟く。 手の中で消えた雪を思いながら。 過去に見た同じ出来事を想いながら。 夢を見るように……。 夢を願うように……。 ただ、幸せだけを求めていた……あの頃。 蒼い季節、丘の上で願ったひとつの希望。 その時も雪のかけらが降り注いでいた。 綺麗な景色だったのを覚えている。 でも……俺が……あの瞬間に何を願ったのか……。 今もその答が見つからない……。 カラーン…… カラー……───ン……。 朝。 鐘の音を耳に、ゆっくりと目を開ける。 柾樹 「ん……」 ……朝、だな。 実に朝だ。 現状を確認した。 というか……だるい。 何故か空気がだるさを増幅させている。 まだまだ眠れそうだ。 しかし……だるい。 むう、腹が減っ……だるい。 柾樹 「ぬああああ……」 だるさを無くそうと、気分的に伸びる。 しかし、余計にだるくなる。 時間は……うん、余裕さ。 という訳で……寝よう。 柾樹 「ぐー」 目を閉じると、大した間もなく就寝。 しかし心の何処かで時間が気になったのか、覚醒。 柾樹 「……ぬう」 仕方無く、もぞもぞと布団から出て、カーテンを開ける。 カシャァッ!! 柾樹 「………」 ザーーーーーーーーー……… 雨ザマス。 『ザ』を抜けばアメマス(魚)。 しかしそんなことはどうでもいい。 なるほど、理解出来た。 どうりで空気だけでだるい訳だ。 雨が降ってちゃだるいよ。 そこで俺は考える。 柾樹 「……夕って傘、持ってたっけ」 めくるめく嫌な予感。 い、いや待て!落ち着け! 叔父さんの傘を借りれば……!! そうだよ、安心だ。 問題解決!! 柾樹 「………」 叔父さん、居るよな……。 もしかしたら早出で既に居ないとか……。 いやいやいや!!こういう場合はマイナス思考は撤去だ! 俺は叔父さんの存在を確認すべく、階下へと降りた。 柾樹 「え〜と……」 まずはダイニング。 ここに行くと叔父さんが『おはよう』と……。 柾樹 「………」 居ないザマス。 柾樹 「な、なぁに!きっと別の所サ!!」 家中を端から端まで調べ尽くす。 柾樹 「………」 居ないザマス。 柾樹 「まいったな……」 嫌な予感って、滅多に覆せないよね……。 つまり何か? 夕か悠季美と相合い傘でもしろと言うのか神よ。 柾樹 「……って、待てよ?」 そうだ。 なにも俺がすることないんだ。 夕と悠季美で一緒の傘に入れば……。 柾樹 「オオウ!ナイスアイディーア!!!」 俺はエセ外人風に……って、それはどうでもいい。 そうと決まれば朝食だ!! 俺はパンにマヨネーズを塗り、 その上にふりかけをかけて焼いた。 柾樹 「……朝に食す様な物じゃないよな……」 なんとなく後悔したが、一応美味だったので良とする。 さて、腹も満たしたところで…… 夕  「おはよう、柾樹くん」 柾樹 「ぬおっ!?」 いつの間にか降りてきていた夕に声をかけられて驚いた。 柾樹 「な、なんだ、夕か……」 夕  「うん、私だよ」 柾樹 「おはよう」 夕  「うん、おはよう」 柾樹 「………」 夕  「………」 なんか会話が続かない。 『つきあってみるか?』 思えば、恐ろしいことを言ったもんだ。 だがしかし、つきあっているからといって、大した変化など見当たらないのは事実である。 まあ……この沈黙だけでも十分なのだが。 柾樹 「なあ夕」 夕  「え?なに?」 柾樹 「お前さ、傘持ってたっけ」 夕  「ん……多分無いよ」 柾樹 「今日、雨降ってるんだが」 夕  「えぇっ!?」 初めて知ったのか、慌てて窓まで小走りする夕。 夕  「ふややぁ……ほんとだぁ……」 凄まじくダークサイドな溜め息を吐く夕。 柾樹 「俺の傘に入っていくか?」 ……バカ!! 悠季美の傘に、だろうが!! 夕  「えぇっ?いいの?」 柾樹 「おう、いいぞ」 ぬおお!!口が!口が勝手に動きおる!! 夕  「え、えへへ……なんか嬉しいけど、恥ずかしそうだね……」 うむ!そのとぉおおおおり!! さあ!じゃあ止めようと言うぞ!! 柾樹 「まあな、でも濡れて行く訳にもいかないだろう」 ギェエエ!!やりやがった!! 夕  「うんっ、嬉しいよっ!!……って、柾樹くん?     なんで目頭押さえて泣いてるの?」 ……もはや何も言うまい……。 ザーーーーーー……………… 雨が降っていた。 遠く、果ての無い曇った空から降る雨。 その中を傘をさして歩く。 すぐ隣には夕がいる。 柾樹 「はぁ……」 思わず溜め息が出る。 今度は俺の意志通りに発動する溜め息。 夕は恥ずかしそうに顔を赤くして歩いている。 それでも楽しそうに見えた。 柾樹 「なあ、夕」 夕  「わぁっ!」 柾樹 「うおっ!?」 夕  「な、なんだぁ……柾樹くんか……」 ……誰と歩いているつもりだったんだろうか。 柾樹 「隣から声が聞こえれば解りそうなものだろう」 夕  「うぅ〜……だって、視線が気になって……」 柾樹 「それならひとりで走るか?」 夕  「ヤ」 柾樹 「お前なぁ……」 夕  「濡れるのヤだもん」 柾樹 「俺だって嫌だぞ」 夕  「うん、当然だよ」 はあ……何をしているのだろうか俺は……。 柾樹 「……お?雨、止んだな」 夕  「あ、ホントだ」 神め……。 俺で遊んでおられるおつもりか!? ならば叫ぼう!! 柾樹 「オーマイゴォオオオオオッド!!」 叫んだ。 夕  「神様は柾樹くんの物じゃないよ」 つっこまれた。 柾樹 「そういう意味じゃない」 夕  「う?そうなの?」 柾樹 「う?じゃない」 夕  「うぅ〜……」 結局いつもの様に話す俺と夕。 そして再び降る雨。 柾樹 「……野郎」 なんか悲しくも腹の立つ天気模様。 田畑が恵まれるじゃないか。 柾樹 「……いいことだ」 既に自分でも訳が解らない。 夕  「学校、見えてきたよ?」 柾樹 「ん?あ、ああ、了解」 俺と夕は下駄箱まで行き、靴を履き替える。 そして教室へ。 着いたところで後ろから聴こえる声を耳にする。 なにやら薄情者と聞き取れた。 間違いない、悠季美だ。 というか向こうから走ってくる姿が見える。 悠季美「ど、どうして置いていくんですかっ!?」 柾樹 「走って来たのだろうか。息を切らせながら熱く語る悠季美」 悠季美「走って来たじゃないですか!わざわざ文章風に解説しないでください!」 一応、熱く語っていたようだ。 なにせ否定しない。 柾樹 「まあそう怒るな」 悠季美「怒りますよ!!」 柾樹 「大体、お前が起きないのが悪いんじゃないか」 悠季美「過ぎたことです」 柾樹 「ならそれで十分だろう」 悠季美「うー……」 夕  「早く入らないと先生来ちゃうよ?」 論争を繰り広げていると、既に教室に入っていた夕が声をかけてくる。 柾樹 「おう」 俺と悠季美は夕の言葉に促され、教室に入った。 教室に入ると、このクラスならではの喧騒に襲われる。 ……ちなみに勉学の話題など1ミクロも無い。 だからといって、勉学が苦手という訳でもない。 このクラスのトップは悠季美。 そして最低が豆村だ。 俺は中の上あたり。 普通といったところだ。 夕は……よく解らない。 高校過去系の勉学なら、かなり出来る。 しかし高校現代系勉学はさっぱりだ。 いいとも悪いとも言えない。 それでも応用して、確実に悠季美に近づいている。 勉学だけはステキと俺は見た。 で、コツを聞いてみたところ、なんか自然に出来る、とのことだ。 それならば3人の中で下位を守り続けている俺は一体なんなのだろう。 なんだか悲しい気分と疑問を胸に、俺は今日を走っていた。 昼。 俺は学食でうどんをすすっていた。 前の席には刹那。 隣には夕。 刹那 「お前さ、よくこの暑い日にうどんなんて食せるよな」 柾樹 「ふふふ、これこそ通ぞ」 刹那 「ただのチャレンジャーだ、ばかたれ」 柾樹 「ひどい言われようだぞ夕」 夕  「私じゃないよ」 刹那 「しっかし……」 刹那が俺と夕を交互に見る。 刹那 「柾樹が恋人を作るとは……」 柾樹 「(仮)だ」 刹那 「いや、俺は(仮)だけでも驚きだ」 柾樹 「何故?」 刹那 「だってなあ……俺は絶対お前は郭鷺とくっつくと思って……」 ブファッ!! 刹那 「ぎゃああああああああああああ!!!」 俺は吹き出してしまった。 刹那が叫ぶ。 刹那 「ぬおお!あげ玉が俺を襲う!!」 案外冷静に状況説明をする刹那。 柾樹 「さすが情報屋」 刹那 「うるさい!!」 ハンケチーフを取り出し、服を拭う刹那。 柾樹 「うどん汁もしたたるいい男」 刹那 「誰の所為だよ!!」 柾樹 「俺の前に座る汝の所為だな」 刹那 「俺か!?俺が悪いのかっ!?」 柾樹 「いや、俺はだな……」 刹那 「いいから話を戻そう」 柾樹 「ああ」 刹那 「男衆の中でまともに郭鷺と話せるのはお前くらいだから、     さっきはああ言った訳だが……」 柾樹 「まさかうどん汁が飛んでくるとは……って?」 刹那 「うどんはもういい!」 柾樹 「うどん汁だ」 刹那 「やかましい!!!」 夕  「なんか愉快な人だね」 柾樹 「これだから面白いんだ」 刹那 「お〜の〜れ〜ら〜……!!」 柾樹 「いや、別に遊んでいるわけじゃないぞ」 刹那 「嘘つけ!!」 柾樹 「まあまあ、話、するんだろう?」 刹那 「邪魔してるのは誰じゃああああああああ!!!」 柾樹 「ハンバーグラー」 刹那 「なっ……マジか!?」 柾樹 「もちろん嘘だ」 刹那 「ウガァーッ!!!期待させといてそりゃないだろう!?」 期待してたのか……。 柾樹 「いいから話をしよう」 刹那 「くっ……わかったよ……」 柾樹 「実はな……悠季美と普通に話せる人が俺の他にひとりだけいるんだ」 刹那 「お、おおお!ま、待て!え〜とメモメモ……と」 柾樹 「その人というのが下宿先の叔父さんでな」 刹那 「ほ、ほほぅ……メモメモ……それで!?」 柾樹 「証言者Uの話では、悠季美はどうやら叔父さんが好きだそうなんだ」 刹那 「なにっ!?郭鷺に好きな人が!?で、で……?その証言者Uって人は?」 柾樹 「こいつだ」 俺は刹那の反応を楽しんでいた夕の頭にポンと手を乗せ、 そう言った。 刹那 「……こ、こんな身近に……?」 夕  「?」 刹那 「キ、キミッ!!名前は!?」 夕  「夕」 刹那 「おおう!証言者U!!って、まんまやあああああああああ!!!」 夕  「ユーじゃないよ、ユウだよ」 刹那 「まあまあ!名は記憶に叩きこんだ!して……姓は!?」 夕  「姓?」 柾樹 「名字のことだ」 夕  「わかってるよぅ……。佐奈木だよ」 刹那 「むうう!なるほど!で、脱皮はいつごろ?」 スパァーン!! 刹那 「ぼぱぁっ!」 夕  「脱皮なんてしないもん!!」 刹那 「あいたたたあ……」 柾樹 「刹那、そこは脱皮じゃなくて羽化だろう」 夕  「サナギじゃないよ!!」 柾樹 「そう怒るな」 夕  「うーっ!!」 随分とご立腹の様子だ。 柾樹 「ほら、これでも食して機嫌を直せ」 俺は夕に蒲鉾(かまぼこ)をあげた。 夕  「いらないよぅ」 しかし率直に断られる。 刹那 「なにぃいっ!?ここのうどんは蒲鉾が一番美味いんだぞ!?」 そこで何故か割って入る刹那。 そしてそんな刹那の後頭部にボコッ!! 刹那 「ぐあっ!?」 発泡スチロールが飛んできた。 美希子「大きなお世話よっ!!」 振り向くと学食の看板娘、美希子さん。 刹那 「あ、別に文句言ってる訳じゃないんですよ!?     ただ蒲鉾は格別だなぁって……!!」 美希子「え〜ぇ、そうでしょうとも!?     手間暇かけて作ったスープは不味くても、     市販の蒲鉾が美味いって言うんでしょ!?」 刹那 「い、いや、だからですね……!!」 柾樹 「墓穴掘ってるぞ〜」 刹那 「うるさいっ!」 ほんと美希子さんだけには弱いな、こいつは……。 まあ、学食の看板娘というのも変なものだが、美希子さんはこの学食で働いている。 この若さで……と言っても年齢は教えてくれないが、 既に調理師の免許を持っている恐ろしい人だ。 かと言って、店を開く様子もなく、ただこの学校の学食で料理を作っている。 刹那の話では、美希子さんはこういう場所でこそ、料理を作りたかったらしい。 そして刹那はどうやら美希子さんのことが……いや、ここは言わないでおこう。 まあこんな感じでも、会話出来ること自体が刹那にとっては至高の喜びだそうだ。 でも、頼むからストーキングだけはしてくれるなよ……。 柾樹 「ふう、ごちそうさま」 刹那 「あっ!俺が片付けるぜ!!」 半ば強引に俺のトレイを奪う刹那。 そうまでして近づきたいか……。 刹那 「ごちそうさまでしたぁ〜ん」 美希子「コラッ!」 ズビシッ!! 刹那 「あたっ!」 美希子「刹那クンは何も食べてないでしょう?」 刹那 「いえ……っ!愛ならたっぷり……ッ!!」 刹那は感動の嵐だ。 注意的なツッコミチョップとはいえ、美希子さんから触れられたのだから。 美希子「柾樹クン、刹那クンを持ち帰って……」 呆れたように溜め息を吐きながら言う美希子さん。 柾樹 「……いや、ここに置いてた方がこいつ幸せですから」 美希子「これじゃあ仕事になんないのよ……」 入り口を見ると、生徒がうろうろしている。 いつものことだが。 説明すれば、生徒にとって情報通というものは、情報元か驚異でしかないわけだ。 という訳で、敵には回せないのだ。 柾樹 「さて……」 しかし、俺はもう慣れている。 柾樹 「夕、何か書く物無いか?」 夕  「うん、あるよ」 スッとメモ帳とペンを差し出す夕。 って、これ……刹那のメモ帳じゃ……。 まあいいや。 俺はメモ帳の最後のページを切り、文字を連ねた。 『私物で何かいらない物はありますか?』 そう書かれた紙を美希子さんにだけ上手く見せる。 美希子「!」 どうやら気づいたようだ。 視線だけ動かして、ひとつの消しゴムを指し印す。 あれか!! 柾樹 「あ、これ美希子さんの消しゴムですか?」 美希子「うん。そうよ」 何事も無かったように自然に話すのが定である。 柾樹 「あ〜……思い出した……。今日俺、消しゴム買い忘れたんだった……」 美希子「そうなの?よかったらそれ、あげようか?」 柾樹 「えっ?いいんですか?」 刹那 「!!」 これでもかと言うくらい反応する刹那。 それを見て『してやったり顔』をする俺と美希子さん。 刹那が光の速さで俺の側まで走り寄り、耳打ちする。 刹那  <俺のν消しゴムやるから、それ譲ってくれ……> 柾樹  <ん〜、でもくれた人に悪いからなぁ……> 刹那  <頼むぅうっ……!!> 柾樹  <ここじゃなんだから、教室で話し合おうじゃないか> 刹那  <チィッ……足元見やがって……> 俺は美希子さんにOKサインを見せた。 すると、安堵の溜め息を吐く美希子さん。 夕  「人生いろいろ、だね」 柾樹 「せめて心の中で言ってやれ。それじゃ、ご迷惑をおかけしましたーっ!」 美希子「いつもごめんね〜っ!」 そんな美希子さんの声を背に俺達が学食を出ると、他の生徒が一斉に学食に入る。 当たり前だ、時間が無い。 ちなみに購買なんて無いから余計に性質が悪い。 俺達は、くだらない話をしながら教室に戻った。 Next Menu back