───心と憧れ/ラヴミリタリー・怪鳥モモンガ風味───
放課後。 実に変わり映えの無い一日だった。 何か足りない気もしたが、大して気にもならなかった。 ……帰路を歩む。 隣には朝と同じように夕がいる。 いつも通りの話をしながら、ふと思うことがあった。 それは、朝程この状態が嫌じゃ無いということだった。 むしろ自然に話せる気がした。 柾樹 「なあ夕」 夕  「なに?」 柾樹 「なんとなく思ったんだが」 夕  「うん」 柾樹 「……いや、やっぱりいい」 夕  「え?なに?気になるよぅ」 柾樹 「それが狙いだ」 夕  「うーっ!遊ばないでよっ!!」 遊んでた訳でもない。 気になったのは悠季美のことだ。 なんか今日ほど、あいつを見てない日は無いと思う。 それはやっぱり…… 夕  「?」 柾樹 「なんでもないよ」 俺と夕が先走りするからだろうな。 なんか嫌な予感もするけど、今は今を考えよう。 柾樹 「いい天気だよな……」 夕  「うん、青空は好きだよ」 柾樹 「ネギは?」 夕  「嫌い」 こんな奇妙な会話をしながら、俺と夕は家に帰った。 そんな日から数日後。 以前感じた嫌な予感を胸に、俺は刹那と話していた。 すると、悠季美が話し掛けてきた。 悠季美「柾樹くん……」 柾樹 「ん?どうした?」 悠季美「ちょっと……来てください」 柾樹 「とわっ!?お、おいっ……」 俺は悠季美に強引に屋上まで連れていかれた。 柾樹 「ど、どうしたんだよ」 悠季美「久しぶりですよね、話すのも」 柾樹 「え……?」 悠季美「夕ちゃんと恋人になってから、ずっと話ができなかったから……」 柾樹 「(仮)だぞ」 悠季美「……本当にそうですか?」 柾樹 「なにがだ」 悠季美「本当に今でも仮の恋人ですか?」 柾樹 「………」 否定が出来なかった。 俺の中で、夕に対する気持ちは既に変わっていたのかもしれない。 悠季美「……どうして黙るんですか?」 柾樹 「解らん」 悠季美「そうですか」 悠季美は、俺の目の前まで近づき、手を振りあげた。 柾樹 「え?」 な、殴られる!?何故!? そう思った次の瞬間。 柾樹 「……!?」 そこには静寂があった。 いや、沈黙の方が相応しい。 悠季美が背伸びをして、俺に……って、説明できるか!! 柾樹 「なにするんだよ!!」 悠季美「キスです」 柾樹 「ハッキリ言うな馬鹿!!」 何がどうなっている!? 悠季美は叔父さんが好きなんじゃなかったのか!? 悠季美「もう一度訊きますよ?夕ちゃんとはまだ仮なんですか?」 柾樹 「今はそんなこと言ってる場合か!」 悠季美「場合です!!」 柾樹 「なんでだよ!大体お前、叔父さんが好きなんじゃなかったのかよ!!」 悠季美「放っておいてください!!     ……わたしのは……っ!!わたしのはただのあこがれだったんです!!」 柾樹 「なに……!?」 悠季美「柾樹くんが夕ちゃんとつきあい始めてから、     わたしはずっとひとりぼっちでした!!     朝起きても、学校でも、帰り道でも、家でも!」 柾樹 「………」 悠季美「いままで隣に居た人が居なくなって、     他の人と話しているのを見ただけで辛くて、     その時、気づいてしまったんです!     わたしが……本当に好きだったのは……!!」 風が吹いていた。 喉の奥が苦しくなるような風。 目の前で泣いている幼馴染み。 こんな時、どうすればいいんだろう。 考えてみれば、悠季美は安心出来る人が居ないと駄目だったんだ。 極度の男性恐怖症。 そんな荷物を背負った悠季美は、なにかがあると俺の所に来ていた。 フェイとの一件の時も、布団に潜り込んでいた時も。 子供の頃を思い返せばキリがない。 一緒にいすぎた所為で、忘れてしまってたんだ。 それなのに俺はこいつの前で夕とばかり話して……。 柾樹 「……ごめんな」 悠季美「……ううん、謝らないでください。     わたしは……ちょっと甘えすぎてたみたいです」 柾樹 「そんなことないぞ」 悠季美「あまりやさしくしないでください。     諦めきれなくなっちゃうじゃないですか……」 柾樹 「俺は生まれつき、こういう性分なんだ」 悠季美「そう……でしたね」 柾樹 「ほら、泣くなって」 悠季美「ひとつだけ、お願いがあります」 柾樹 「なんだ?」 悠季美「夕ちゃん、幸せにしてあげてください」 柾樹 「……そうだな。俺もようやく、自分の気持ちってのが解ったし」 悠季美「それと……泣きたくなったら、何も言わずに胸を貸してください」 柾樹 「ふたつになってるぞ」 悠季美「気にしたら負けです」 すっかり、いつもの悠季美に戻っている。 柾樹 「ん……そろそろ休み時間も終わるな」 悠季美「戻りますか」 柾樹 「ああ、って待て」 悠季美「どうかしましたか?」 柾樹 「殺される」 悠季美「え?」 柾樹 「落ち着いて聞いてくれよ?お前が男子に人気があるのは知ってるな?」 悠季美「知りませんし、嬉しくないです」 柾樹 「うむ、だから落ち着け」 悠季美「落ち着いてます」 柾樹 「……今、自分がどんな顔してるか解るか?」 悠季美「ふつうです」 柾樹 「涙でくしゃくしゃだ」 悠季美「あ……」 柾樹 「それなのに教室に戻ってみろ……。高い確率で俺が死ねるぞ」 悠季美「そうですね……」 柾樹 「と、いう訳で……エスケープだ」 悠季美「はいっ!」 柾樹 「……嬉しそうだな」 悠季美「最近、柾樹くんと一緒に何かやることなんて、なかったからです」 柾樹 「そうか……。じゃ、行くか!!」 夕  「うんっ!!」 柾樹 「ようしっ!!って、ギャァアアアァァッ!!」 夕  「ふえ?どうしたの?」 悠季美「わたしが呼んでおいたんです」 柾樹 「なっ……!?じゃ、じゃあお前……最初から……!?」 悠季美「見守るのも愛です」 ぐわぁああ!!恥ずかしいぞ!! 自分の気持ちってのが解ったし……ってギャアア!! 柾樹 「うわー!!うわー!!恥ずかしい!!」 夕  「悠季美ちゃん、ひどいよぉ!キスまでするなんてぇっ!!」 悠季美「いくら譲るからって、ファーストキスは譲れません」 夕  「う〜っ!柾樹くんのばかぁっ!避けてよぉっ!」 柾樹 「俺の所為かよ!!」 夕  「いいもん!セカンドもサードもフォースもフィフスも全部私が貰うから!」 悠季美「肝心なのはファーストです」 夕  「うぐっ……ふぇええん……。柾樹くんの馬鹿ぁ〜〜……」 柾樹 「いや……頼むから大声で話し合うな……。凄まじく恥ずかしい……」 悠季美「青春ですね」 青春には程遠い……。 柾樹 「じゃ、帰るかぁ!!」 悠季美「はい!」 夕  「うんっ!」 悠季美「あ、そうそう夕ちゃん」 夕  「なに?」 悠季美「もしふたりに亀裂が入ったら……容赦なく奪い取りますからね♪」 夕  「……う、うん」 生々しい……というか恐い。 ふたりの会話が聞こえたが、あえて知らないふりをした。 神よ……俺、多分あなた様が嫌いですぜ……。 朝。 通学路を歩く。 ちなみに俺ひとりで、だ。 いい朝だ。 ごらん、小鳥が絶叫している。 というか五月蝿い。 せっかくの爽やかな朝が台無しだ。 柾樹 「よし行けモモンガ!!」 俺はモモンガを飛ばした。 しかし、カーブして戻ってくる。 属に言う変化球という物だ。 柾樹 「……小鳥にも勝てないのか」 まあ無茶な話だが。 突っ込んだら食される。 柾樹 「まあいいか、ここ通り抜ければ鳥の関門は……」 小鳥 「………」 ……というか追ってきてる。 柾樹 「………」 もしかしてモモンガ!? モモンガを食そうと!? そう思った瞬間!鳥が襲いかかってきた!! 柾樹 「うおっ!?」 それに次いで他の鳥も。 動物は愛情を持って接すると応えてくれるんですね〜。 そんな言葉が脳裏に浮かぶ。 ありゃ嘘だ。 ゴスッ!! 柾樹 「(つう)ッ!!」 鳥が頭をつつく。 将来はハゲワシになれそうな鳥だ。  *一種類の鳥が種族変化することはありません。 柾樹 「ええぃ!散れっ!!」 俺は鞄を振り回し、鳥を追い払った。 しかし鳥は間合いを取るだけで、逃げない。 野郎……!! しかし多勢に無勢。 仕方無く逃走。 しかし追ってくる。 柾樹 「ギャァア!!」 今の日本で鳥に食されて大往生なんて絶対にいやだ!! かと言って、外国ならいいという訳でもない!! 俺は学校までの残りの距離を疾走した。 途中、公園を走る。 柾樹 「おおお!!」 ふと、前に武器を発見する。 柾樹 「少年!その銃を貸してくれ!!」 俺は叫んだ。 俺の危機迫る言葉から漢の何かを感じ、銃を投げる少年。 それをキャッチし、砂場へ駆ける。 柾樹 「喰らえ!世界共通単純かつ痛快なる闘技!!     過去の名作大全流奥義砂かけババァァァッ!!」 バサァッ!! 俺は砂を掴み、鳥の群れに投げつけた。 鳥が怯んだ瞬間、銃を構え、BB弾を発射する。 柾樹 「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」 バチン!バチン!!バチン!!! BB弾が当たる度に鳥が逃走する。 使い勝手が良く、カスタマイズされている。 いい銃だ。 動物保護委員会の方々が見たら怒るだろうが、これは正当防衛というやつだ。 鳥に通用するかは別として。 カチン! 柾樹 「グワッ!?」 玉切れ!? 少年 「兄ちゃん!これ使って!!」 少年が武器を投げる。 柾樹 「サンクス!って、ぬおお!!?」 俺は正直驚いた。 BB弾の機関銃だ。 しかし驚いている暇はない。 柾樹 「時の歯車を司りし大いなる身芯!!」 ガチャッ!!とガトリングを構える。 柾樹 「ガトリングブラストォオッ!!」 そして撃ちまくる。 ズババババババババババッ!!!! ビシビシと連発してヒットする。 これは爽快だ。 柾樹 「貴様等なんぞにモモンガは渡さん!!     散れ!!さもなくば塵と砕いてくれる!!」 さすがに勝てないと思ったのか、逃げる鳥。 柾樹 「ふう……」 ……と、思わせておいて襲いかかる鳥! 柾樹 「なにぃ!?」 しまった!構えてる暇が無い!! それならば!! 柾樹 「ドナルドマジック!」 素早く懐からスリッパを取り出し、振り下ろす。 柾樹 「成敗ッ!!」 スパァーン!! 地面に叩きつけられる鳥。 それを見た鳥達が再び襲ってくる。 柾樹 「ぬおお!キリがない!!」 少年 「兄ちゃん!下がって!!」 柾樹 「!?」 俺は後ろに退き、少年を見た。 なにやら謎の銃を構えている。 少年 「目をつぶって!!」 柾樹 「任せろ!」 目をつぶった後、何かが発射される音が響き、 そして何かが破裂して、幾つかの何かが俺に当たった。 柾樹 「な、なんだ!?」 目を開けた俺が見た物は鳥が逃走する姿だった。 柾樹 「何をしたんだ?」 少年 「拡散BB弾だよ。撃った後、破裂する仕組みになってるんだ」 柾樹 「………」 ここまできたか、BB弾技術……。 少年 「それより、兄ちゃんこそ何やったんだ?鳥に追われるなんて」 柾樹 「俺は何もしちゃいない。あの鳥共がこいつを狙ってたんだ」 少年 「わ……これってモモンガだよね!?初めて見たよ!小さいんだなぁ〜!!」 柾樹 「うむ、親が送ってきた異種系モモンガだ。普通はもっと大きい」 少年 「へ〜……」 興味深々な眼差しでモモンガを見る少年。 柾樹 「しかし、助かったよ。ありがとう。記念に名前を教えてくれないか?」 少年 「うん、いいよ。僕は閏璃 紫穏。兄ちゃんの名前は?」 柾樹 「ああ、俺の名前はなにぃっ!?」 紫穏 「うわっ!?」 柾樹 「い、いまなんて言った!?」 紫穏 「え……兄ちゃんの名前は?って」 柾樹 「その前!」 紫穏 「えっと……閏璃……」 柾樹 「そこだ!!」 紫穏 「僕の名字がどうかした?」 柾樹 「親の名前を聴きたいんだが……」 紫穏 「え……?だけど……」 柾樹 「よし、なら俺が当てる」 紫穏 「う、うん」 柾樹 「閏璃 葉香」 紫穏 「せ、正解……」 柾樹 「……やっぱり」 俺は溜め息を吐いた。 紫穏 「どうして知ってるの?」 柾樹 「うむ、実は葉香さんの弟様と共に住んでるんだ」 紫穏 「え?弟って……じゃあ息子さん?」 柾樹 「いや、俺は居候だ。     叔父さん……凍弥さんの友人の息子。名前は霧波川 柾樹だ」 紫穏 「へぇ〜……」 何が珍しいのか、俺をキョロキョロと見る紫穏。 紫穏 「兄ちゃんがあの霧波川さんの息子……」 柾樹 「知ってるのか?」 紫穏 「うん、力を権力とする母親を持つ者が、     弟と一緒に住んでるって母さんが言ってたんだ。     それが兄ちゃんだったのかぁ……」 ……感心しないで欲しかった。 柾樹 「まあ、間違ってはいないが……」 改めて言われると悲しい。 柾樹 「って、しまった!遅刻する!!」 紫穏 「今日日曜だよ?」 柾樹 「話すことがあるって柿に……担任に呼ばれたんだっ!!」 紫穏 「……いってらっしゃ〜い!!」 そんなこんなで走る。 今こそ!音速を越えよ我が肉体!!(無理です) 武器が無くなって不安に思っていたら、皆様(誰だ)の期待通りに鳥に襲われた。 柾樹 「ギャァアアアアアア!!!」 学校まで全力疾走。 朝からフルマラソンを制覇してしまった。 静かな教室の中に居る。 窓からは光が差し込み、 室内の温度を必要以上に上げていた。 ただでさえ暑いっていうのに……。 そんな考え事をしながら、俺は教室で来るべき人を待っていた。 ふと窓を見れば青く澄んだ町並み。 ……ではなく、鳥の大群。 しつこいな。 このモモンガがそんなに欲しいのか? モモンガ「ギョー」 柾樹  「………」 恐いだけだぞ? いや、異種だから美味なのかも。 俺には理解出来ないが。 柾樹 「……遅いな、柿」 スイカの美味しい季節に人を待たせるのは死を招く行為。 俺の頭に怒りの文字が現れ始めた。 大体何の用だよ。 人の休日を破壊しやがって……!! 自業自得な理由ならまだしも、呼んだ本人が現れず、その理由も解らないんじゃ辛い。 非常にムカついてきたので、刹那の机を漁り、罠の道具を取り出す。 それを教室のドアに仕掛ける。 柾樹 「普段、どういう態度で授業受けてるんだ」 刹那に少し恐怖する。 この罠だって何に使用するのか謎である。 柾樹 「これでよし、と」 無駄な体力を使った気分もあるが、良しとする。 と、そんなところで教室のドアが動く。 柾樹 「あ」 ゴムが千切れ、罠が発動する。 ドゴォッ!! 柿崎 「ギャッ!!」 叫びも刹那(瞬間的な物のコト)に、柿が吹き飛ぶ。 クリーンヒットだ。 ピクリとも動かん。 柾樹 「……結局何の用だったんだろうな……」 俺は静かに柿の亡骸を横切っていった……。 特にすることもなく校内を歩く。 学校には俺と気絶している柿だけのようで、 いつも過ごす時間とはかけ離れた世界に居るようだった。 それにしてもだ。 休みの日に人を時間指定で呼んで欲しくなかった。 走った時の熱は消えず、今も体にまとわりつく。 なんとも嫌な休日になってしまった。 しかし静かな学校っていうのも悪くない。 素直な気持ちだった。 これで鳥が追って来なければ最高なんだが。 柾樹  「お前さ、あの鳥達に何か恨みを御購入するようなことしたのか?」 モモンガ「………」 ふるふると首を振るモモンガ。 柾樹 「そうか?だったらどうして……!?」 え!?今こいつ首振って!? 柾樹  「言葉が解るのか!?」 モモンガ「………」 首を傾げるモモンガ。 柾樹 「………」 き、気の所為……だよな、うん。 俺は溜め息を吐いて、廊下を歩いた。 ふと、目に映るドア。 柾樹 「……ここって確か……」 よくある話だが、幽霊が出るとの噂の教室。 実際、誰も使ってないし入ろうともしない。 ……ゴクリ。 俺は喉を鳴らし、そのドアに手を…… ドンガラガッシャンドカバキゴワシャァアアアン!! 柾樹 「ひえぇえええいっ!!??」 突然聞こえた轟音に飛び退く。 柾樹 「ななななんだぁっ!?」 訳も解らずに辺りをブンブンと見渡す。 と、首がゴキィッ!と鳴った。 柾樹 「──────!!」 痛みのあまり、言葉が出ない。 例えるならばシュビドゥバ(激痛)。 夕  「あ、柾樹くーん!」 廊下の先に夕がいた。 夕  「退屈だったから来ちゃったよ」 柾樹 「ゆ、夕!?」 夕  「うん、私だよ?」 柾樹 「いやおまえあれほらなんていうかさっきごうおんどんがらってさっきのあれおまえ     がいやあのな」 夕  「……落ち着いて、柾樹くん」 柾樹 「任せろ」 夕  「………」 悠季美「わたしが考えますに、さっきの音はこの中からだと思います」 柾樹 「よお悠季美」 悠季美「おはようございます、柾樹くん」 いつの間にか隣に悠季美がいた。 柾樹 「どうしたんだ?ふたりして」 夕  「理由ならさっき言ったよ?」 悠季美「わたしは退屈だったんです」 柾樹 「なんだ、同じ理由じゃないか」 悠季美「それより柾樹くんは先生に呼ばれたんじゃなかったんですか?」 柾樹 「ああ、なんか気絶してた」 悠季美「……気絶させたんじゃないんですか?」 柾樹 「俺は罠を仕掛けただけだ」 夕  「十分だよ、それで」 柾樹 「そ、そうなのか」 夕  「うん」 問題が解決した。 悠季美「中に入るんですか?」 柾樹 「そのつもりだが」 夕  「ええぇ?や、やめようよ柾樹くん……」 悠季美「楽しそうじゃないですか」 夕  「恐いよぉ」 柾樹 「まあまあ、入ってみようじゃないか」 俺は手を伸ばし、学校独特の戸式ドアに手をかける。 そしてゆっくりと……開ける。 柾樹 「………」 悠季美「………」 夕  「………」 妙な緊張が我等を襲う。 柾樹 「あ、開けるぞ?」 悠季美「はい……」 夕  「ほ、ほんとに開けるの……?」 柾樹 「俺達が真実を見てみせよう」 夕  「わわわ私はこういうの苦手だから……」 逃げようとする夕の腕を悠季美が掴む。 悠季美「一蓮托生って知ってます?」 夕  「し、知ってるけど!!こんな状況じゃ知っていたくないよぉ!!」 ガラッ……。 騒動の中、ドアをガララと開けてゆく。 途端、静まるふたり。 俺は少し中を覗き見る。 柾樹 「ッ!!」 ズバン!! しかしすぐ閉める。 悠季美「どうしたんですか?」 夕  「で、出たの……?」 柾樹 「………」 俺は無言で逃走した。 悠季美「あっ!柾樹くんっ!?」 夕  「え!?なんなの!?」 悠季美「中に何かあったみたいですね」 夕  「恐いけど……開けて見る?」 悠季美「そうですね」 柾樹 「バッ……開けるなぁああああああああッ!!」 悠季美「え?」 ガラ…… 時、既に遅し。 ゴワァッ!! 開かずの扉と言われた場所から謎の物体が溢れる。 柾樹 「うわぁあああああああっ!!!」 そして一直線に俺に襲いかかる。 そう、鳥だ。 柾樹 「ゆ、悠季美ぃいいいいいいいいっ!!」 俺は悠季美を呼んだ。 悠季美「なんですか?」 飛ぶように走ってくる悠季美。 こ、こいつってこんなに足が速かったっけ!? 悠季美「愛ゆえに」 柾樹 「そ、そうか……」 悠季美「で、なんですか?」 柾樹 「こいつを頼む!!」 ポンッ!と悠季美にモモンガを渡す。 悠季美「え?え?なんですか?」 柾樹 「好運を祈る!表現するならグッドラック!」 悠季美「わわわっ!?ふみゃあああああっ!?鳥がっ!鳥がぁああああああっ!!!」 もの凄い勢いで鳥から逃げる悠季美。 柾樹 「お前の尊い犠牲は未来永劫語り継がれるであろぉおおおう!!!」 悠季美「後で覚えておいてくださいよぉおおっ!!?」 よく解らない言葉を放ち、疾走する悠季美。 あの速さなら世界新記録が狙えそうだ。 柾樹 「さてと」 来た道を戻り、ドアを開ける。 柾樹 「え〜と」 先程の騒ぎの所為で緊張なんてものは消えてしまった。 中に入り、見渡す。 柾樹 「……デマだったんだろうか」 幽霊どころか何も無い。 机も無ければ椅子も無い。 ただ、カーテンが揺れていた。 となれば、さっきの音はなんだったんだろう。 柾樹 「う〜ん、ポルターガイストか?」 いや待て、何も無いのにあんな音が鳴るか? 窓も割れていない。 てっきり鳥が壊したのかと思ったが、そんなことが一介の鳥に出来る訳がない。 柾樹 「まいったな、これは本当に……」 霊的な物か……? 消えていた緊張が溢れてくる。 夕  「……ここって……」 ぽつりと夕が呟く。 夕  「何処かで見たことあるような……」 柾樹 「そうなのか?ただの教室だろう?」 誰の噂からこんないわく付きの教室になったのか解らんが。 夕  「なんかこの教室だけ色が違うような……」 柾樹 「ハハハ、もしかしてこの教室だけ鈴問の教室をそのまま使ってたりして」 夕  「………」 柾樹 「………」 なんか的を突いていそうで恐かったりする。 噂で聞いたことはあるが、信じたくないものがある。 多分、怪奇話が出てから手を付けられていない所為で、黒ずんでしまったのだろう。 実際過去に先生が幽霊を目撃したという説も聞いている。 その先生は辞めてしまったそうだが。 今ここの学校に居たとしたら、結構な年齢だろう。 そう、幽霊話は鈴問だった頃から続いている。 建て直してからはその噂も消えかけているそうだが、 このテの話は続く物だ。 柾樹 「いや待て、本当にただのデマ話か?     さっき、学校には俺と柿しか居なかった筈だ」 それなのにこの教室から物音。 そして開いている窓。 誰が開けたんだろう。 一瞬、寒気がする。 夕  「……懐かしい」 柾樹 「え?」 窓から外を見て、風を受ける夕。 夕  「ここ、懐かしい香りがする」 柾樹 「そりゃあ……教室だしな」 夕  「そうじゃなくて、この教室自体が」 柾樹 「そりゃあ……教室だしな」 夕  「……柾樹くん?」 柾樹 「そりゃあ……教室だしな」 ドスゥッ!! 柾樹 「むぶオォッ!!」 夕  「無視しないでよ!!」 柾樹 「いや……悪い。お前が恐ろしいこと言うから……」 夕  「恐ろしい?どこが?」 柾樹 「だってお前、ここが懐かしいって」 夕  「うん」 柾樹 「さっきは誤魔化したけど、ここって昔の教室そのまま使ってるんだ」 夕  「……え?」 柾樹 「そこを懐かしいと言うんだから、お前は古代インド人ということになる」 夕  「そんな時代からこの学校ってあるの?」 柾樹 「ギリシャの方がいいか?」 夕  「嘘だね?」 柾樹 「まあ冗談だが」 夕  「びっくりさせないでよ……」 柾樹 「そのまま使ってるっていうのも、ただの噂でしかないからな」 夕  「噂?」 柾樹 「ああ、幽霊騒ぎと似たようなもんだ。     それに窓を開けてあったのも案外柿が開けていったのかもしれないしな」 夕  「そうなんだ」 柾樹 「推測だけどな。じゃ、戻るか」 夕  「そうだね」 ドアを開け、そして廊下に出る。 夕  「ごめんね……」 柾樹 「ん?なんか言ったか?」 夕  「……?私、今なんて言ったの?」 一応言ったようだけど、自分でも解らなかったらしい。 柾樹 「馬鹿かお前は」 夕  「うぅ〜……馬鹿じゃないもん」 柾樹 「ボケかお前は」 夕  「そういう意味じゃないのに……」 廊下に出ると丁度、悠季美が校内フルマラソンを制覇していたところだった。 悠季美「ふみぃいいいいいいっ!!たっ、助けてくださいぃいいいいっ!!」 悠季美が本気で泣きながら走ってきた。 そして飛びついてきた!! 柾樹 「くおっ!!」 どうする!? このまま飛びつかれるか!? それとも……!! 1:飛びつかれる 2:クロスカウンター 3:水になる 4:むしろ俺からビッグバンタックル 結論:3 俺は水だ!水になるんだ!! 俺は悠季美が手を伸ばしてきたのを確認し、 それを無心で掴み、相手の無駄な力を我が物として…… ビタンッ!! 悠季美「みゃぁっ!!」 投げた。 柾樹 「し、師匠!!俺、やったぜ!!」 俺は何処かの誰かに胸を張った。 ロコも笑ってくれるだろう。 柾樹 「………」 ロコって誰だろう。 悠季美「何をするんですかぁ……」 涙声で語る悠季美。 柾樹 「水になってみたかったんだ」 悠季美「うう……わたしはもう駄目です……」 柾樹 「なにぃ!?もうか!?」 悠季美「こんな暑い日に走らせたのは誰ですか……」 柾樹 「だ……大丈夫か!?もう駄目なんて言うな!!」 悠季美「……嬉しくないけど……まあいいです。     最後にこれを……受け取ってくれますか?」 柾樹 「ゆっ……悠季美ぃ……っ!!」 涙ながらにそれを受け取る──────…… 柾樹 「断る」 ……──────ことはなかった。 悠季美「いけず……」 ガクッ。 悠季美が力尽きた。 柾樹 「ごめんな悠季美……。モモンガを受け取ったら俺が死ねる」 そう、差し出されたのはモモンガだ。 夕  「モモンガ?いるの?」 柾樹 「ほれ」 ポン、と夕に渡す。 夕  「あはは、可愛い〜!」 喜ぶのも束の間、今度は夕が校内を走ることになった。 夕  「きゃうぅうううううううううっ!!!」 そんなここんなでモモンガをパスする時間が続き、 結局最後に動くのはモモンガと鳥だけだった。 Next Menu back