───柿崎教諭ホモ疑惑/魔人壊闘流ってなんザマショウ───
昼。 昼の屋上に居る。 腹が鳴り始めた。 しかしまいった。 夕と悠季美、その両方が弁当を作ってきたのだ。 自分の分、そして俺の分。 つまり俺の分は2つ。 それが少しだったら良かったのだが、男だという理由により量が多いのだ。 しかも、ふたりの料理はお世辞にも美味いとは言えない。 柾樹 「神よ……俺、あんたを恨むよ……」 ふと、泣きたくなるのは何故だろう。 涙が溢れるのは何故だろう。 とりあえず神の所為にしておく。 そして恐れながらも弁当をつつく。 柾樹 「南無三ッ!!」 パクッ!! 柾樹 「もぎゃぁっ!!」 ゲフゥッ!! 吐血せし者の如く、悠季美の作った料理を吐く俺。 一瞬、お花畑が見えたのは何故だろう。 柾樹 「は、はううっ!!おばあちゃんがっ……!!」 見たことのないおばあちゃんを垣間見た。 恐ろしい弁当だ。 無言で悠季美に弁当を返す。 何も言わずに、それを受け取る悠季美。 自身でも不味かったようだ。 肩を落とす悠季美を制して自分の弁当を俺に渡す夕。 柾樹 「………」 逃げ場の無いモルモットの気持ちが解るのは何故だろう。 渋々それを受け取り、蓋を開ける。 みてくれは普通なんだよな、ふたりの弁当は……。 それなのにどうして、それに反比例したジェノサイドランチになるかな。 いや、それよりも味見をしてくれ頼むから。 パクッ…… 柾樹 「………」 夕  「………」 柾樹 「なにぃっ!?」 夕  「ふぇええっ!?どどどどうしたの!?」 柾樹 「不味くないだと!?いや、むしろ……美味い……」 夕  「え!?ほんと!?」 悠季美「そんなっ!!そんなことって!!     き、きっとわたしの料理を食べた後だから美味しく感じて……っ!!」 柾樹 「………」 悠季美「………」 自分の言葉に深く傷つく悠季美。 悠季美「わたしなんか……わたしなんか……」 何かを呟きながら屋上の段差に『の』の字を書く悠季美。 柾樹 「まあまあ、これから頑張ればいいじゃないか」 悠季美「そう思いますか……?」 柾樹 「ああ」 悠季美「……そうですね、頑張ります」 ようやく、表情を和らげる悠季美。 なんか放っておけないんだよな、悠季美って。 夕  「うぅ〜……」 しかし、今度は夕がすねる。 困ったものだ。 柾樹 「それにしても夕、料理が上手くなったなぁ」 わざとらしくならないように、精一杯普通に話す。 夕  「……いま、取り繕わなかった?」 柾樹 「気の所為だろう、俺は潔白で有名だ」 夕  「そこらへんが一番怪しいよ……」 こいつも言うようになってきたよな……。 柾樹 「どうやって作ったんだ?」 夕  「ふぇ?自然に出来たけど」 柾樹 「自然に、って……」 夕  「体が勝手に動いたって言うのかな」 柾樹 「夕」 夕  「ふぇ?なに?柾樹くん」 柾樹 「夢遊病って知ってるか?」 夕  「関係無いよっ!!」 柾樹 「そ、そうか……?」 悠季美「不公平です……」 再び落ち込む悠季美。 柾樹 「あぁもう……」 夕  「柾樹くん」 柾樹 「ん……?」 夕  「いい天気だね」 笑顔で語る夕。 柾樹 「老人かお前は」 夕  「老人じゃないよ!私まだ18歳だもん!」 悠季美「あ、夕ちゃんが女を捨てた」 夕  「ふぇ!?ど、どうしてっ!?」 悠季美「女の過去と年齢は、ミステリアスな方が魅力的なんです」 夕  「で、でも別に捨てた訳じゃ……」 悠季美「駄目です、これは科学者の定めです」 夕  「私、科学者じゃないよ?」 悠季美「だから柾樹くんはわたしが貰います」 柾樹 「俺はモノかいっ!!」 夕  「ど、どうしてそうなるのっ!?」 悠季美「わたしの本能が叫んでいますから」 柾樹 「いや、聞けって!!」 夕  「柾樹くんは私のだもん!」 柾樹 「お〜い……」 悠季美「守銭奴!」 柾樹 「モノの次は金か!!」 夕  「ちょっと黙ってて柾樹くん!」 柾樹 「元々聞いてないだろうが!!」 悠季美「こうなったら柾樹くんに聞きましょう!」 柾樹 「なにぃ!?」 夕  「どっちが好きなの!?」」 柾樹 「黙ってろって言ったのは何処の誰だ!」 悠季美「はぐらかさないでください!!」 柾樹 「だあああっ!!いい加減にしろぉおぉっ!!」 夕  「だって!」 柾樹 「だってじゃない!!」 悠季美「伊達メガネ!!」 柾樹 「関係無い!!」 悠季美「冗談です」 柾樹 「お前らなぁ!人が黙って聞いてればギャァギャァと!!」 悠季美「黙るどころか叫んでましたけど」 柾樹 「聞こえてたならその時点で聞け!!」 悠季美「ムー……」 夕  「そもそも、柾樹くんがハッキリしないからだよ」 悠季美「そうですよ」 柾樹 「見守るのも愛とかぬかした奴は誰だ」 悠季美「そんな昔のことを持ち出すなんて……外道!!」 柾樹 「誰がだ!」 夕  「で……どうなの?柾樹くん」 柾樹 「どうと聞かれてもな」 悠季美「わたしは柾樹くんが好きですよ?」 夕  「私は柾樹くんが好きだよ?」 悠季美「……どうして私『も』じゃないんですか?」 夕  「オマケみたいで嫌だもん」 柾樹 「はぁ……」 とりあえず神に対して殺意が芽生えた。 いつかチェーンソーで惨殺してやる。 そう心に誓った。 悠季美「どっちが好きですか?」 夕  「ハッキリしてくれないと夜も眠れないよ」 柾樹 「なるほど、だからいつも授業中に寝てるのか」 夕  「寝てないよ!!」 柾樹 「なにぃいいい!?するとお前はずっと寝てないのか!?」 夕  「言葉のあやだよ!!」 柾樹 「ひどいわっ!私を騙したのねっ!?」 スパァーン!! 柾樹 「ギャアア!!」 悠季美「はぐらかそうとしても無駄です!!」 チッ……。 悠季美「なんですか、その恨めしそうな顔は」 恨めしいんです。 柾樹 「よし、解ったよ。有りの侭に話そう」 俺はドンと構えた。 夕  「ふぇ?その構え……何?」 柾樹 「八極正拳奥義・扇動無形の形」 悠季美「訳の解らないことはいいです」 柾樹 「今日の悠季美さん、付き合い悪いですね。父さんは悲しいぞ」 悠季美「柾樹くんが異常なだけです」 正論だ。 柾樹 「揚げ足を取らないでくれ」 夕  「その前に柾樹くんがふざけるのを止めてよ」 柾樹 「俺から笑いを取ったら何が残る」 悠季美「シリアスな柾樹くん」 柾樹 「………」 今の俺より『まとも』かもしれない。 柾樹 「俺って……俺って……」 今度は俺が『の』の字を書く番だった。 夕  「ね、ね、柾樹くん」 チョイチョイと肩をつつく夕。 夕  「話、進めよ?」 柾樹 「………」 悪気は無いんだよな……。 今は放っておいてほしいのに……。 柾樹 「ああハイハイ、解った解りましたよぅ」 悠季美「随分投げ遺りですね」 夕  「つっこんじゃダメだよ」 柾樹 「俺は……」 夕  「うん……」 悠季美「ハイ……」 夕と悠季美がゴクリと息を飲む。 しかし、実際どうなのだろう、俺の気持ちは。 1:夕が好き 2:悠季美が好き 3:神が憎い 4:それよりゆっくりと弁当を食させてくれ 5:それより鳥はどうなった 確実なものは3、4、5だな。 鳥がフェンスの上から睨んでいるのは確かだ。 だが襲ってくる様子は無い。 こういう時こそ襲って来いっての! そうすれば逃げられるだろう!! ……これもまた神の陰謀か。 結論3への心が大きく膨らんだ。 柾樹 「……ハァ」 俺は多分、夕が好きなんだろう。 けれども、悠季美を放っておけないのも事実だ。 それが好いた惚れたに関連しているのかは解らない。 だが、幼馴染という感覚が 気持ちを麻痺させているのかもしれない。 いや、俺は悠季美を妹として見ているのかもしれない。 放っておけない存在。 男性恐怖症の幼馴染を放っておけないだけなのかも。 いや……だが……。 柾樹 「うー……」 頭が痛くなってきた。 まず、よく整理してみよう。 そう考えた時、答は出た。 待てよ?放っておけないのと、好きという気持ち。 これを重ねて見るのは真剣なふたりに対して失礼だ。 だったら……なんだ、答は出てるじゃないか。 柾樹 「悠季美」 悠季美「は、はい?」 柾樹 「ごめん」 悠季美「え……?」 柾樹 「俺、やっぱり夕が好きみたいだ」 俺は素直な気持ちを悠季美に伝えた。 悠季美「………」 沈黙。 その重苦しい空気の中、夕が口を開く。 夕  「柾樹くん……」 柾樹 「ん……?」 夕  「ほんとに……いいの?」 柾樹 「どうしたんだ?突然」 夕  「だ、だって……私は悠季美ちゃんみたいに綺麗じゃないし、     悠季美ちゃんみたいに柾樹くんのこと知らないし悠季美ちゃんみたいに……」 自信なさげにおずおずと話す夕。 そんな夕を見ていたら…… ブチィッ!! 俺の中で何かがキレた。 ボカッ!! 夕  「きゃぅうっ!!」 柾樹 「いいか!?よく聞け!お前が他の奴と比較される筋合いがあるか!?     他の奴と比較する理由があるか!?     悠季美は悠季美、夕は夕だろうが!     そんなことで愚痴るなら俺だって怒るぞ!?」 夕  「ま、柾樹くん……」 夕は涙目で、怒っている俺を見上げていた。 柾樹 「悠季美」 悠季美「……!」 ビクッ、と悠季美の肩が震える。 柾樹 「俺は俺の気持ちを言っただけだ。     お前が泣く必要なんてないだろう……?」 悠季美「だって……やっぱり悔しいじゃないですか……」 柾樹 「………」 悠季美「見守るなんて言っても……気持ちが消えるわけないじゃないですか……。     好きな人が他の人と……一緒に居ると……     悲しいじゃ……ないですかぁ……っ」 悠季美は俺を見ずに、うつむいたまま泣いていた。 そんな悠季美の頬に伝う涙を拭い、俺は悠季美を抱き締めた。 悠季美「あ……」 一瞬抵抗する悠季美。 でもその抵抗は涙に変わり、悠季美は俺の腕の中で泣いていた。 柾樹 「ごめんな、悠季美」 俺はやっぱり謝ることしか出来なかった。 悠季美「謝らないでください」 悠季美はそう言うと微笑みを見せた。 悠季美「思いきり泣いたらスッキリしました」 嘘だ。 声がまだ震えている。 悠季美「これ以上、わたしの我侭で独り占めできません」 そう言って夕を指さす悠季美。 夕  「ふぇっ!?わ、私はいいんだよっ!?私のことは気にしなくても……」 悠季美「それが気にしないでいいって顔ですか?」 夕  「う……うぅ〜……」 柾樹 「………」 なるほど、こいつは顔に出るタイプだ。 悠季美「ハッキリできただけでも十分です。     柾樹くん、今度は本心からお願いします」 悠季美は俺に向き直り、笑顔でこう言った。 悠季美「夕ちゃんを幸せにしてあげてくださいね」 満面の微笑み。 その目には、まだ涙が残っていた。 そんな悠季美の気持ちに応える為。 そして、自分の気持ちに自信を持てたからこそ。 今なら俺も大きく頷ける。 柾樹 「ああ!任せとけっ!」 お互いに微笑み合い、そして笑い合う。 悠季美「絶対、変な幼馴染ですよね」 柾樹 「ああ、まったくだ」 幼馴染が笑い合う中でただひとり、 それをきょとんとした顔で見つめる夕が居た。 夕  「え?え?な、なに?どうしたの?」 突然笑い合う俺達を困惑顔で見比べする夕。 暗い雰囲気だったのに、いきなり笑う人が居れば恐い。 それでも俺は……俺達は……無邪気に笑い合った。 子供の頃のように。 それが今の俺と悠季美には必要だったんだ。 誰よりもお互いを知っている幼馴染なのだから……。 カラーン…… カラーン…… 何処か遠くから聴こえる鐘の音。 そんな音を耳に、朝を迎える。 布団から出て、窓を開ける。 いつもと変わらない景色。 目の前には鈴訊庵。 遠くに見える丘。 そのすぐ後ろにある風に揺られている森。 何も変わらない景色だ。 俺は自室に向き直り、時計を見る。 7時39分。 丁度いい時間だ。 壁に掛けてある制服に着替えて部屋を出る。 廊下に出ると独特の温度が俺の目を覚ます。 階下に降りて洗面所へ。 顔を洗っていると、後から悠季美が寝ぼけた顔で現れた。 顔を洗い終わるとタオルで顔を拭い、ダイニングへ。 牛乳を飲む叔父さんに朝の挨拶をする。 叔父さんはそれを挨拶で返し、外に出ていった。 用事が出来たらしい。 すぐ帰るが、と苦笑していた。 俺は食卓にある朝食に取り掛かる。 ───前に、ひとつ気になることがあった。 夕が居ない。 いつもなら2番目くらいに起きるのにな。 俺は手に持った箸を置き、席を立った。 階段を登り、廊下を歩く。 夕の部屋の前までいくと、そのドアをノックする。 ───が、応答は無い。 声も掛けてはみたものの、静まり返っている。 意を決してドアノブに手を掛ける。 中を見やると夕は寝ていた。 その状況にズッコケた俺は夕をスリッパで叩き起こした。 が、いつもの覇気は無く、ボ〜ッとした顔で俺を見ると、うや……?と小さく呟いた。 うや?という言葉の意味を考えてみるが、理解不能だ。 よく解らない言葉遣いで喋る夕。 その後パタリと倒れ、ご就寝。 そんな夕をスリッパ乱舞で叩き起こす。 すると今度は涙声で俺に非難の声を上げる。 起きない奴が悪い。 そう一蹴すると、うぅ〜……と、うつむく。 さっさと着替えるように言って、俺は階下に降りる。 降りたところで悠季美と遭遇。 朝の挨拶を交わし、ダイニングへ。 朝食に取り掛かろうとしたが、悠季美の提案で夕を待つ。 ───が、降りて来ない。 スリッパを手に輝かせ、今まさに席を立たんとする。 そんな俺を慌てて止める悠季美。 そしてわたしが行きますからと言い、足早にダイニングを出ていく。 戻るまで食べないでくださいね?と釘刺しまでされていたりもする。 仕方無く、言われた通りに待つわけだが。 しかし時は無情に過ぎてゆく。 学校に行くに値して、朝食を食す時間は残っていない。 俺は今度こそスリッパを輝かせ、元凶を滅ぼす旅に出た。 夕の部屋の前に立つ。 御丁寧に先程開けておいたドアは閉まっている。 仕方無いのでノックをする。 ジェントルメンは礼儀を重んじるものぞ。 ───が、返事は無い。 俺のジェントルメンハートにも限界があるのだぞ。 俺はドアを開け放ち、中に進入した。 ジェントルメンハートは簡単に消滅したことになる。 夕の部屋を見渡すと、困った顔で座り込む悠季美が居た。 俺の顔を見ると、起きないんですよぉ……と、情けない声を上げた。 とりあえず時間が無いことを伝え、強行手段に移る。 まずはスリッパ乱舞。 起きたが、すぐ寝てしまった。 叔父さんの部屋から発掘した激烈破璃戦。 効果無し。 冷凍庫にて結晶化せし氷のかけら。 絶叫。 ようやく起きる。 それを確認すると、後は悠季美に任せて部屋を出た。 しばし待つ。 さらに待つ。 すると悠季美に呼ばれる。 中に入ると夕が制服に着替えた状態で寝ていた。 相談した結果、俺がおぶって行くことになった。 朝食も食さないで何をやっているんだろうなぁ。 そんな言葉がこぼれる。 夜更かしでもしたのか?このボケは。 悠季美が寝る子は育つと言うじゃないですかと微笑む。 そういう問題でもないと思うのは俺だけだろうか。 溜め息を吐きつつ、通学路を歩く。 別に夕を連れてこなくても良かったんじゃないだろうか。 悠季美に疑問をぶつけても、微笑むだけだった。 昇降口に立つ。 靴を履き替えようとするも、夕が邪魔である。 何故にここまで眠るのだろう。 悠季美に聞いてみたが、夜更かしなどしていないそうだ。 ……まあ、春だしな。(夏です) それにしても……だ。 どうして俺がこの暑い中、少女ひとりを背負って登校せにゃならんのでしょうか。 俺にはそれが納得いきませんぞ神よ。 相変わらず騒がしい教室の中に居る。 階段を登るのがこんなに辛いとは。 俺は肩で息をしながら机に突っ伏していた。 悠季美「どうぞ」 悠季美が麦茶をくれる。 柾樹 「サンキュ……」 それを一気飲みすると、ようやく一息つける。 柾樹 「どうしたんだ?この麦茶」 ふと思った疑問を悠季美に唱える。 悠季美「お昼のお弁当用に持ってきた物です」 なるほど、なんて用意周到な奴なんだ。 柾樹 「ついでにさ、ひややっこなんかがあると嬉しいんだが」 悠季美「ありません」 柾樹 「あ、なんならスイカでもいいぞ?」 悠季美「何処の世界に学校にスイカ持ってくる人が居るんですか」 柾樹 「いやぁ?風の噂では弁当のデザートに持ってきた奴が居るとのことだぞ」 悠季美「誰が言ってたんですか?」 柾樹 「詳しい話は俺も知らん」 悠季美「なんですかそれは」 柾樹 「さあ……」 俺と悠季美が謎の会話をしていると、柿が現れた。 柿崎 「席に着け〜!」 その声を合図にクラスが動き出す。 豆村 「きりィイイイイイイイイイイィィィつッ!!」 ザシャァッ!! 豆村 「礼ィィェエエエエェェェェェッ!!!」 ザシャァッ!! 豆村 「着席ィイイイイイァァァァァアアアァッ!!!」 ズアシャァアァァッ!! 今日はえらく気合いが入っている。 まあ、ただの暇潰しのようなものなのだろう。 それにつき合うクラスの皆様も暇人と言える訳だが。 柿崎 「軍人か……お前等は……」 相変わらず柿は頭を痛めている。 柿崎 「まあいい、出席をとるぞ」 出席確認が始まる。 柿崎 「矢野」 矢野 「押忍ッ!!」 柿崎 「豆村」 豆村 「ハイィィィィイイヤァアアアアッ!!」 返事なのか? 柿崎 「裕希……」 刹那 「ウィーーッ!!」 返事……じゃないな。 柿崎 「西野……」 西野 「髭が……髭がぁああああああああっ!!」 髭は関係無い。 柿崎 「佐藤……」 佐藤 「シュガァーッ!!」 それは砂糖だ。 柿崎 「長瀬……」 長瀬 「奇霊なお姉さんは好きですか?」 嫌いだ。 柿崎 「佐々木……」 佐々木「真知子さーん!!好きだぁーッ!!」 誰じゃい。 柿崎 「長谷川……」 長谷川「はせがわじゃなくて、ながやがわです」 そんなことはどうでもいい。 柿崎 「霧波川……」 柾樹 「インドに育まれしパンジャブの奇跡」 柿崎 「………」 なにやら柿が泣き出した。 いつものことだが。 柿崎 「このクラスで休む奴なんて居ないよな……」 出席簿を片付ける柿。 野田 「何ィッ!?貴様それでも教師か!?」 柿崎 「そう言うならもう少し生徒らしくしてくれ……」 正論である。 柿崎 「では、授業担当の先生が来るまで静かにな!」 矢野 「嫌ザマス」 柿崎 「………」 溜め息を吐いた後、教室から去る柿。 豆村 「我!解放されたし!!」 佐々木「故に待つのは帰宅の喜びぞ!!」 凄いクラスだ、まったく。 っと、そうだ。 柿に昨日のことを訊かなければ。 俺は席を立ち、柿を追った。 それに何故か連いてくる夕。 柾樹 「起きたのか」 夕  「うん、ぐっすりだよ」 柾樹 「それは寝ている時の状況だ」 夕  「あはは、そうだね」 柾樹 「………」 何故か、いつもの夕じゃないような気がする。 前にもこんなことがあったっけ。 柾樹 「なあ夕」 夕  「ふぇ?」 柾樹 「夕……だよな?」 夕  「……?うん、私だよ?」 柾樹 「……悪い、今の忘れてくれ」 夕  「うん、解ったよ」 その言葉を最後に、お互いが沈黙する。 柾樹 「……と、ところで夕」 その沈黙を破ったのは俺だった。 夕  「なに?柾樹くん」 柾樹 「どうしてついてくるんだ?」 夕  「ん……なんでだろ」 どぐしゃぁっ!! 夕  「わぁっ!?」 俺は見事にズッコケた。 柾樹 「なんだそれは!!何も用は無かったのか!?」 夕  「う、うん。多分」 柾樹 「………」 夕  「体が自然に動いたんだよ」 そりゃ器用だ。 柾樹 「またそれか。確か昨日の弁当の時もそう言ってたな」 夕  「あれ?そうだったっけ?」 柾樹 「忘れるなボケ」 夕  「ボケじゃないよ」 柾樹 「ボケ者」 夕  「違うよ〜……」 柿崎 「廊下でズッコケるな」 柾樹 「やあ柿さん」 夕  「あ、先生」 柿崎 「どうしたんだ?授業始まるぞ?」 柾樹 「大丈夫、貴様が早く出ていったから、まだ時間はありますぞ」 柿崎 「誰の所為だ」 柾樹 「夕」 夕  「ふぇぇっ!?わ、私の所為なのっ!?」 柾樹 「信じるなっ!!」 夕  「うぅ〜……」 そんなやりとりをしている俺と夕を見て苦笑する柿。 柾樹 「どうなされた?」 柿崎 「お前等を見ていると、閏璃と支左見谷を思い出すよ」 夕  「凍弥……さん?」 柿崎 「ああ、閏璃 凍弥だ。     よく、こんな漫才じみたことをやっていたんだ。支左見谷と一緒に……」 支左見谷は天然でボケだったがと付け足す柿。 夕  「うぅ〜……」 それを聞いて唸る夕。 柾樹 「どうかしたのか?」 別に夕が怒るようなことは言ってない筈だが。 夕  「ふぇっ!?え、あ、あうぅ……?ど、どうしたのかな、私……」 駄目だ、本人が一番混乱している。 柿崎 「そういえばな、佐奈木の言葉遣いが支左見谷にそっくりなんだ」 夕  「え……」 柾樹 「このボケが?」 夕  「ふぇぇ……ボケじゃないもん……」 柿崎 「それと、霧波川の言葉遣いは閏璃にそっくりだ」 柾樹 「……よく言われます」 夕  「えぇ?似てないよ。凍弥さん落ち着いてるもん」 スパァン!! 夕  「きゃうぅうっ!!」 柾樹 「それじゃあ俺が落ち着いてないみたいじゃないか!」 夕  「うぅ〜……そういうところが落ち着きがあるように見えないんだよぅ……」 柾樹 「力とはこういう物だ!!」 夕  「ふぇえ……滅茶苦茶だよぉ……」 柿崎 「まあまあ、落ち着け。それで何か用があったんじゃないのか?」 柾樹 「おお、そうでござった」 夕  「野武士……」 柾樹 「それはお前だろう!」 夕  「ち、違うよぉ!あれは柾樹くんが勝手に……!!」 柿崎 「お前等なぁ……」 夕  「はうぅっ!ご、ごめんなさい……」 柾樹 「え〜と、昨日のことなのです」 柿崎 「昨日?ああ、呼び出した理由だな?」 柾樹 「そう、それです」 柿崎 「これを閏璃に渡して欲しかったんだ」 柾樹 「これ?」 柿崎 「ほら、これだ」 スッと、ひとつの本を渡す柿。 開いてみると、それは手書きのレシピ帳だった。 柾樹 「これを?」 柿崎 「ああ、閏璃に」 柾樹 「………」 ゴクリ……。 俺は息を飲んだ し、信じられん……!! まさか柿にそんな趣味があったとは……!! 微妙に間合いを取る。 柿崎 「……なんだ?」 柾樹 「いえ、気にしないでください」 柿崎 「そう言われてもな。なんなんだ?その間合いは」 柾樹 「いえ、気にしないでください」 柿崎 「……何か誤解してないか?」 少し柿が近寄る。 柾樹 「イ、イヤァアアアアアアアッ!!」 絶叫と共に、より一層間合いを取る。 夕  「わわっ!?どうしたの!?柾樹くん!」 柾樹 「ち、近づくなぁっ!!俺にそんな趣味は無いんだぁあああああっ!!」 柿崎 「……完璧にしてるな」 夕  「な、なになに!?」 柾樹 「気を付けろ夕!彼奴はホ●ぞ!!」 夕  「ふぇぇっ!?●モ!?」 柿崎 「誰がホ●だっ!!俺は通常人だ!!」 柾樹 「うるさい!生粋の●モはみんなそう言うんだ!」 夕  「ねねね!柾樹くん!!ホ●って何!?」 柾樹 「説明しよう!ホ●とはな」 ドゴォッ!! 柾樹 「ギャァアアアッ!!」 柿崎 「説明せんでよろしいっ!!」 柾樹 「じょ、冗談ですよ……」 柿崎 「本気の目だったぞ……」 夕  「大丈夫?柾樹くん」 柾樹 「ちなみに今のがホ●ナックルだ、覚えておけ」 夕  「ふぇえ、そうなんだぁ。ためになるね……」 柿崎 「なるかっ!!大体それは俺のじゃない!」 夕  「うぅ〜……」 柿崎 「よく見ろ!後ろに名前が書いてあるだろう!」 柾樹 「あ、ほん……え……っ!?」 支左見谷……由未絵……!? 柾樹 「こ、ここここれって……えぇっ!?」 柿崎 「落ち着け」 柾樹 「無茶言わないでくださいよ!!     どうして由未絵さんの本があるんですか!?」 俺が疑問をぶつけると、柿は困ったように話し始めた。 柿崎 「まあ……その、な。     この学校がまだ工事中の時に、瓦礫の中から発見された物なんだ。     俺が無理言って作業員から預かったんだが、     あの頃の閏璃に渡してしまえば、悲しませるだけだったからな」 柾樹 「………」 柿崎 「せめてもう少し時間が経ってから渡そうって、そう思っていたんだ」 なるほど……。 そういう経緯だったのか。 柾樹 「了解、これは俺が責任持って叔父さんに渡すよ」 柿崎 「ああ、頼む」 柿はそう言うと、廊下を歩いていった。 柾樹 「いや……しかし……」 思わぬ所で物事というものは起きるものだな。 そしてこの本。 管理状況が良かったらしく、目立つ傷は無い。 ただ、瓦礫に引っ掛かったのか、破けたページもある。 しかし、しっかりとそれも発見したようで、 切れた部分のページは最後のページに挟んであった。 流石だな、柿。 夕  「ねえ、柾樹くん。ちょっと見させてもらっていいかな」 夕が訊いてくる。 柾樹 「ああ、多分いいんじゃないか」 俺は曖昧に返答し、レシピ帳を夕に渡す。 それを受け取り、じっくりと見る夕。 柾樹 「どうだ?」 何がどうだ?なのかは俺にも理解出来ないが。 夕  「これ……」 柾樹 「ん?」 夕が何かを呟いた。 が、小さくて聞き取れなかった。 柾樹 「なんだ?」 夕  「あ、えっと……なんでもないよ、うん」 レシピ帳を閉じて俺に渡す夕。 夕  「そうだ!柾樹くん、私、頭が痛い!」 柾樹 「……なんだそれは」 夕  「うん、早退理由だよ」 柾樹 「エスケープ、だろ」 夕  「違うよ?早退だよ」 そう言うと夕は、早退理由のために壁に頭突きをした。 ゴスッ!! 夕  「───ッ!!」 当たり所が悪かったらしい。 夕  「痛いよ……」 柾樹 「当たり前だボケ!!」 夕  「うぅ〜……」 柾樹 「で、本当にエスケープするのか?」 夕  「早退するんだよ、頭痛がするから」 柾樹 「じゃあ付き合うぞ」 夕  「早退理由は?」 柾樹 「頭蓋骨陥没」 夕  「死ぬよ!」 柾樹 「腸チフス」 夕  「それは病院直行系の大病だよ!!」 柾樹 「手術で治れば問題無い」 夕  「早退するんじゃなかったの!?」 柾樹 「おお、そうだった。ぬおお、肺に穴が」 夕  「呼吸困難で死ぬよぉ……」 柾樹 「どうしろと言うんだお前は!!」 夕  「柾樹くんが無茶苦茶すぎるんだよ!!」 柾樹 「我侭な奴だな、仕方の無い。無難なところで車に跳ねられたということに」 夕  「何処の世界に校内を車で走る人が居るの!?」 柾樹 「運転は任せたぞ夕」 夕  「しないよぉっ!!」 柾樹 「非協力的な奴だな、薄情者め」 夕  「うーっ!!」 うん、かなり御立腹の様子だ。 柾樹 「まあいいや、行こう」 夕  「早退理由はっ!?」 柾樹 「………」 なにやら退けぬ何かがあるらしい。 柾樹 「なんなんだお前は」 夕  「そのまま返すよ、その言葉」 柾樹 「否定はしないが」 夕  「一応、先生に断ってから帰るんだから」 柾樹 「……何ィ!?柿なんぞ無視すれば良いだろう!何故そんな面倒なことを!?」 夕  「早退だもん」 柾樹 「………」 なるほど。 エスケープと早退の違いが解った。 柾樹 「待てよ……?ってことは、夕が俺の早退許可も取って来てくれるのか?」 夕  「ん〜ん、違うよ?」 柾樹 「………」 夕  「?」 柾樹 「ならお前に早退理由を話す意味は何だ?」 夕  「訊きたいだけ」 コパァアアアアアアアアアアン!! 夕  「きゃうぅっ!!」 柾樹 「もういい!帰るぞ!!」 夕  「はうぅっ、待ってよ柾樹くん……。     私、早退なんて初めてだから、どんな理由が通じるのか聞きたいんだよ……」 柾樹 「それなら最初からそう言え!」 夕  「だって絶対叩くもん!」 柾樹 「当たり前だ!」 夕  「やっぱりぃ〜っ!!」 柾樹 「早退理由で悩むくらいなら早退なんてするな!」 夕  「うぅ〜、それは嫌だよ……」 柾樹 「どうして」 夕  「柾樹くんと話したい事がいっぱいあるから」 その時点で俺の道連れは決まっているわけか。 柾樹 「解った、それなら行こう」 夕  「早退理由……」 柾樹 「やかましい!!」 夕  「うぅ〜……」 そんなこんなで逃走。 夕は柿に断ろうとしたが、 俺がさっさと逃走したら泣きながら走ってきた。 そんなホームルーム終了後の物語であった。 公園の木製ベンチに座る。 柾樹 「で?話って?」 夕  「うん……」 異様な程に真剣な表情で俺を見る夕。 夕  「すっごく重要なことなんだよ……」 柾樹 「そうなのか……」 ゴクリ。 思わず息を飲む。 これほど真剣なんだ。 きっと、よほど大変なことなのだろう。 夕  「えっとさ……」 柾樹 「あ、ああ……」 俺の中に緊張が走る。 どんな話なんだ……? もしかして記憶が戻ったなんて言うんじゃないだろうな。 夕の口が再度動いた瞬間、俺の全神経が集中する。 夕  「お腹……空いたね」 柾樹 「………」 く〜〜〜。 小さな音が耳に届く。 柾樹 「……バッ……!」 夕  「?」 柾樹 「馬鹿かお前はぁあああああああああああっ!!」 息を吸い込み、絶叫! 夕  「ひゃうぅっ!?」 その声に驚く夕。 柾樹 「真面目な顔して何をぬかすと思えば!     腹が減った!?ヒューマンである証拠だろう!」 夕  「あ、違うの。言うことは他にあるよ。今はお腹が空いたから言っただけだよ」 柾樹 「くは……!!」 呆れた。 確かに朝は何も食してないから腹が減るのは解るが…… 柾樹 「一度家に戻るか」 家に帰れば叔父さんが居た筈だ。 夕  「うん、そうだね」 俺が歩くと、夕は小走りに連いてくる。 そして何か落ち着かない雰囲気を見せた後。 柾樹 「うわっ!?」 腕を組んできた。 柾樹 「ど、どうしたんだいきなり!!」 あまりに突然のことだったので、しどろもどろになる。 夕  「え、えへへ……一度やってみたかったんだよ」 自分から行動したというのに、真っ赤になる夕。 なんというか忙しい奴だ。 当の俺は……やっぱり恥ずかしかったりする。 人々の視線が痛い。 あのコ達、学校サボって逢い引きかしら……。 そんな声まで聴こえる。 こういう場合、逢い引きとは言わないと思うが。 柾樹 「まあ、いいけどな……」 空を見上げる。 そこには夏を見守るような澄み切った空が広がっている。 夏の終わり頃って、あまり雨は降らないよな。 夕  「ふぇ?どうしたの?」 急に立ち止まった俺を見上げるように問いかける夕。 柾樹 「ん……いや、いい天気だなってな」 苦笑しながら夕の頭にポンと手を置く。 夕  「みぅっ……」 ついでに撫でた後、歩く。 夕  「?」 なにやら首を傾げる夕。 それでも腕を放すことなく連いてくる。 というか腕が暑い。 ちなみにこの状態は『腕を組む』と言うより、 『しがみつく』が妥当な回答だと推論される。 俺の腕を両手で抱き締める感じで歩いている訳だが……。 疲れないのか?こいつは。 夕  「あ、旅のアイスクリーム屋さんだ」 突然、夕が旅のアイスクリーム屋に目をつける。 柾樹 「ぬおお大変だ夕。時間が無い、急ごう」 俺は一気に言いくるめて逃走した。 いや、正しくは逃走しようとした。 しかし、甘い物を目の前にした女には勝てなかった。 こういうパターンでは絶対おごらされる。 俺の財布の中身をまるで理解していないな。 し、仕方無い。 これだけは使いたくなかったが、生きるためだ。 いくぞ必殺……!! 1:DSC(デンジャラス・スープレックス・コンボ) 2:八極正拳奥義 波動旋風脚 3:魔人壊闘流最終極技 機神黒掌 4:滅殺項チョップ 結論:他のものは出来るわけないので4 説明しよう!! 滅殺項チョップとは、相手方の後ろ首!! つまり!項(うなじ)に痛烈なチョップを叩き込むことで、 気絶にまで至らせる気絶流常連闘技である!! 柾樹 <ふふふ……気は十分に練れた……!!> いまこそ見せてくれる!闘技・滅殺項チョップ!! 柾樹 「キィエェエエエエエエエッ!!」 ズビシィッ!! 夕  「かふっ!?」 ……決まった……。 俺は髪を撫でるように吹く風を身に受け、決めポーズを取っていた。 ドスゥッ!! 柾樹 「ぐぼぅ!?」 しかし何者かに脇腹をナックルされる。 夕  「ひどいよ柾樹くん!なにするのっ!?」 夕は元気だった。 涙目ではあったが。 柾樹 「な、なにぃ!?」 気絶していないだと!?何故!? 柾樹 「そ、そうか!ヒットする瞬間に自ら後ろに飛び、     ダメージを軽減していたんだな!?」 注:後ろに飛んだりしたら威力倍増で大ダメージである。 柾樹 「ば、馬鹿な……!!」 教訓。 漫画などでよく使われるからといって、 一介の清純高校生の俺などが出来る芸当じゃない。 ならば俺は少女に突然チョップを喰らわせた変人である。 なんとかしなければ。 柾樹 「項部分に蚊が止まってたんだ」 ぬおお、なんて素晴らしいチョップ理由なんだ……。 季節は丁度夏。 これほど素晴らしい理由は無いだろう。 夕  「キェエとか言ってたけど……」 柾樹 「俺は蚊には手加減の3文字を知らん男なんだ」 夕  「大体私、項なんて見えないよ?」 柾樹 「フッ、俺の心眼にかかれば造作も無いこと……」 夕  「うぅ〜……まあいいや、許してあげる。     その代わり、結果的には殴ったんだから、アイスおごって?」 ぐあ……!!そう来たか……!! だが……仕方が無い。 俺も男だ。 柾樹 「夕……」 俺は改めて夕に向き直る。 夕  「ふぇ?」 そして……がばぁっ!!と抱き締めた。 夕  「わっ……!?」 そして怯んだ隙に夕を抱えて、帰路を全力疾走する。 夕  「きゃぅ〜っ!!卑怯だよ〜っ!!」 夕が暴れるが、この際完全無視。 柾樹 「アイスなら今度食させてやるからっ!」 俺は制するよう言い放つ。 夕  「え?ホント?」 柾樹 「約束するよ!」 夕  「うんっ!やったあっ!!」 俺に抱えられながら喜ぶ夕。 ちなみに抱え方は米俵を抱えるかの如く。 夕  「ね、ねえ柾樹くん。降ろしてくれないかなぁ」 柾樹 「駄目だ」 夕  「ちゃんと帰るから……ね?」 柾樹 「駄目だ」 夕  「うぅ〜……」 意地でもアイスを食したいらしい。 しかしそうなれば、俺におごらせるつもりなんだろう。 夕  「アイスがぁ……」 甘いぞ夕。 柾樹 「そんなにおごらせたいのか」 夕  「だって……おごりで食べる方が数倍美味しいって、     悠季美ちゃんが言ってたんだもん」 柾樹 「……なるほど、あいつの入れ知恵か」 夕  「あ……」 しまった!といった感じで口を塞ぐ夕。 夕  「ゆ、悠季美ちゃんは私のことを思って……」 柾樹 「……思って、俺におごらせようとしたのか」 夕  「ふぇぇ……ち、違うよぉ……」 柾樹 「何か仕返しでも考えておくか」 夕  「だ、駄目だよっ!」 柾樹 「冗談だ」 夕  「うぅ〜……冗談に聞こえなかったよぉ……」 なんて疑り深いオナゴぞ。 まあいい。 丁度家も見えてきた。 残り少しの距離を走ると、程無くして家に着く。 柾樹 「ただいま〜」 玄関への扉を開け、家に侵入する。 もとい、帰宅完了する。 叔父さんを探してみるが、何処にも居ない。 柾樹 「……この本、渡そうと思ったんだけどな……」 本人が居ないんじゃ仕方が無い。 俺は叔父さんの部屋の机に本を置き、自室に入る。 ベッドに倒れ込み、目を閉じる。 大した間も無く眠れたわけだが…… 起きた時、時間は素敵に過ぎていて、帰ってきた悠季美が俺に非難の言葉を上げた。 なんでも、今日は悠季美と掃除当番だったらしい。 何故か隣で寝ていた夕も交ぜ、俺は人生について考えた。 Next Menu back