極めて平凡な日々。 わだかまりの消えた景色の中を歩く。 なんの変哲もない日常に、笑みを浮かべられることが嬉しかった。 いまここにある自分の幸せ。 俺はそれを大切にしたいと思った。 もし人に幸せになる権利があるとしたなら、俺は願いたいと思う。 ───この日常が、いつまでも続きますようにと─── ───天敵来襲/地獄ママDSCブレンド仕立て───
夜である。 非難の言葉を言う悠季美を前に、俺は人生に悩んでいる。 そんな夜である。 柾樹 「なあ悠季美」 悠季美「……なんですか」 う〜ん、不機嫌な声だ。 柾樹 「アサリの味噌汁と豆腐の味噌汁、悠季美はどっちが好きな方だ?」 悠季美「関係無いです」 一蹴。 う〜ん、どうやらご立腹のようだ。 悠季美「どうして……わたしも誘ってくれなかったんですか?」 柾樹 「誘うって……あのなぁ」 悠季美「お昼……寂しかったです」 柾樹 「いや、だからな?俺はコヤツが話があると言うから……」 悠季美「言い訳はいいです」 ……言い訳じゃなくて、ありのままの真実なんだが……。 悠季美「なるべく一緒に居たいんです」 柾樹 「……そうだな、今度は声をかけてからにする」 悠季美「はいっ!」 いきなり上機嫌。 う〜ん、こいつの女心というものが解らん……。 悠季美「あ、柾樹くん」 柾樹 「ん?」 悠季美「来週の日曜日、わたし家に帰ります」 柾樹 「帰るって……グッドバイ?」 悠季美「違います」 柾樹 「と……言うと?」 悠季美「両親の結婚記念日です」 柾樹 「あ、そうか。お前の家は家族総出でやるんだもんな」 悠季美「はい、美希子姉さんも来れるそうです」 柾樹 「……え?」 悠季美「はい?」 柾樹 「美希子……姉さん?」 悠季美「はい、わたしの姉ですけど」 柾樹 「………」 同名ってヤツだろうか。 柾樹 「悠季美、お前学食行ったことあったっけ?」 悠季美「ないです」 柾樹 「………」 悠季美「?」 柾樹 「あのさ、俺……お前に姉が居るなんて初耳だけど……」 悠季美「当然ですよ、言ってないですから」 柾樹 「今まで見たことも無かったけど……」 悠季美「はい、祖父母の家で育てられてましたから」 柾樹 「そ、そうなんですか」 悠季美「そうなんです」 柾樹 「………」 悠季美「………」 多分、学食の美希子さんだな……。 柾樹 「料理上手いよな、美希子さん」 悠季美「はい、わたしなんか足元にも……って、どうして知ってるんですか?」 柾樹 「説明するより目で見た方が早いな。明日ちょっと付き合ってくれ」 悠季美「……そ、それって……」 急に頬を染める悠季美。 うん、これは誤解している時の顔だ。 悠季美「デートのお誘い……ですか?」 予感的中。 柾樹 「デートで学食行く奴なんて見たことが無い」 悠季美「学食?そういえばさっきも言ってましたね。何かあるんですか?」 柾樹 「明日教えるよ」 悠季美「う―……」 柾樹 「ところで……」 悠季美「はい?」 柾樹 「どうして夕が俺の布団でご就寝してるんだ?」 夕  「ぅく〜……」 ぅく〜って何だろう。 悠季美「そんなのわたしが訊きたいですよ」 柾樹 「だよなぁ……」 悠季美「あ、じゃあわたしはもう部屋に戻りますね」 柾樹 「ああ、おやすみ」 悠季美「はい、おやすみなさい」 カチャ……パタン。 自室のドアが閉ざされる。 柾樹 「じゃ、俺も寝るかな……」 ゆっくりと布団に倒れこむ。 ボスン! 夕  「ぶみゃっ!!」 潰された猫のようなハーモニーが醸し出される。 夕  「えうぅ……」 柾樹 「………」 夕が居るのをわずか12秒で忘れてた……。 柾樹 「悠季美ぃいいいいいいいいいいいっ!!」 絶叫。 柾樹 「悠季美っ!悠季美ぃいっ!!こいつをなんとかしてくれぇええええっ!!」 さらに絶叫。 すると開く扉。 凍弥 「近所迷惑だ」 叔父さんだった。 柾樹 「いや、だって夕が……!!」 凍弥 「そうか、それなら目には目を、だ」 柾樹 「え!?」 凍弥 「夕の部屋で寝てみろ」 柾樹 「ええぇえええええっ!?」 凍弥 「寝る場所はそこしか空いてないぞ」 柾樹 「……いや!まだぞ!ソファーにでも!!」 凍弥 「それなんだがな」 柾樹 「え?」 凍弥 「今日、どうして俺が出掛けたか知ってるか?」 柾樹 「仕事の用じゃないんですか?」 凍弥 「ああ、その方が良かったな……本気で」 柾樹 「……?」 凍弥 「ここで問題だ」 柾樹 「はあ……」 凍弥 「俺の部屋にも俺の布団を乗っ取った奴が居る」 柾樹 「え?」 凍弥 「その者の名前を当ててみろ」 柾樹 「その方は、その用とやらで家に来た人で?」 凍弥 「ああ……話をしていたら寝やがった」 さて、ここで問題です。 叔父さんがこんな口調で話す相手とは誰でしょう。 俺の思い当たるところでは……ひとりしか居ない。 柾樹 「あ───あぁのぉおお……」 凍弥 「……ちなみに俺もソファーで寝ようとしていた」 頭を抑え、溜め息を吐く叔父さん。 柾樹 「ま、まさか……」 凍弥 「ああ……そのまさかだ……」 柾樹 「イヤァアアアアアアアアアッ!!」 絶叫。 柾樹 「旅に出ます」 凍弥 「付き合うぞ」 柾樹 「さよならみんな……」 凍弥 「さらば、我が家……」 俺と叔父さんはドアを開け、逃走した───かった。 声  「あら、お出掛け?」 突如聴こえた声に驚愕する。 ギギギ……と、ゆっくりと後ろを向く。 来流美「久しぶりねぇ柾樹」 懐かしくも血の凍るような声。 母さんだ。 迷わず逃走!! 俺は階段を駆け降りると、玄関まで走り、外界へと旅立った。 柾樹 「ぬおおおおおおおおおおおおお!!!!」 暗い路地を疾走する。 ドゴォッ!! 柾樹 「ギャァア!!」 しかし何者かにラリアットされる。 来流美「何処に行こうっていうのよ」 母さんだ……何ィ!?そ、そんな馬鹿な!! どうやって先回りを!?物理的に無理でしょう!! 家を見ると、二階の窓が開いていた。 ……マジですか? 結構な高さですぞ……? 来流美「さ、積もる話はコーヒーでも極飲しながら」 柾樹 「ヒィイ!人殺し!!」 来流美「何がよ!」 柾樹 「だ、だって今、コーヒーを飲むって……」 来流美「飲まないでどうするのよ」 柾樹 「ギャァア!!飲人鬼!!」 来流美「だから何なのよ!」 柾樹 「いくらあいつが馬鹿だからってなにも飲むことないじゃないかぁ!!」 来流美「……ちょっと凍弥」 二階の窓から見ていた叔父さんに向き直る母さん。 来流美「どういう育て方したのよ……」 凍弥 「育て方って……あのなぁ」 来流美「いいわ、言い訳なんて結構!!」 凍弥 「訊いてきたのはお前だろうが!!」 来流美「あ〜もう、うるさいわね!とにかく!中に入るわよ柾樹!」 柾樹 「い、いやああああああああああ!!」 来流美「いいから来るっ!!」 俺は母さんに引きずられて家に帰宅することとなった。 片手だけで男を引きずる女もどうかと思うが、 言ったところで返ってくる答えは決まっている。 故に言わない。 しかし……大変なことになったもんだ……。 水を飲みに来た悠季美が固まっていた。 その顔色は蒼白である。 かつて母さんが俺の許嫁にしようとした娘だからな。 しかもそれを断った。 尚且つ、今は一緒に住んで、しかも好きと来る。 あのころから既に叔父さんに憧れてたんだろうな。 来流美「別に取って食すようなことはしないわよ」 柾樹  <嘘だ……> 凍弥  <嘘だ……> 来流美「何よ……」 凍弥 「なんでもないぞ」 柾樹 「いい天気ですな」 来流美「夜よ」 凍弥 「ごらん、月が輝いている」 柾樹 「まあホント」 スパァン!!コパァン!! 凍弥 「ぐはぁっ!」 柾樹 「ギャァア!!」 来流美「なにをやってるのよ!!」 凍弥 「チッ……ドラマのロマンの解らん奴め……」 柾樹 「ドラマ万歳」 来流美「はぁ、どうしてこんな奴に似ちゃったのかしら」 凍弥 「貴様が俺に預けっ放しだからだ」 来流美「仕事は大事よ」 凍弥 「仕事を大事に思うなとは言わないが、もう少し子供と一緒に居てやれ」 来流美「……それについては……悪いって思ってるわよ」 凍弥 「そうか、ありがとう」 来流美「な、なんで凍弥がありがとうなんて言うのよ」 凍弥 「ん?いや、なんとなくな」 来流美「……まだ……引きずってるの?」 凍弥 「失礼な奴だな、引きずるなんて言い方はやめろ」 来流美「あ、ごめん……」 凍弥 「俺はこれでいいんだよ。無理に自分を変えたくないんだ」 来流美「……そう」 凍弥 「ああ」 来流美「……ところでさ、もうひとり家に居るの?」 凍弥 「ん?」 来流美「居候」 凍弥 「どうしてだ?」 来流美「靴がね……ひとつ多いのよ」 凍弥 「……いや、居ないぞ」 来流美「今の間は何よ」 凍弥 「答える時に考えてみるのは当然の行為ぞ」 来流美「……相変わらずねぇ」 凍弥 「今の間は何だ」 来流美「呆れてたのよ」 凍弥  <ま、柾樹……!ちょっと耳を借せ!> 柾樹  <な、なんでショ> 凍弥  <いいか?よく聞けよ?夕が居ることは絶対に悟られるな> 柾樹  <え?何故に?> 凍弥  <考えてもみろ!由未絵と口調が同じで、     しかも性格が少し似ている少女を家に置いてる!     なんてことが奴に知れたら、俺の人間性が疑われる!!     い、いや……ヘタすりゃお花畑が待っている!> 柾樹  <………> 凍弥  <無論、お前も同棲してるなんて言われて……> 柾樹  <ヒィイッ!!> 考えたらゾッとする。 柾樹  <協力します!!> 凍弥  <明日にはまた仕事だそうだからな!清しこの夜さえ乗り越えれば……!!> 来流美「なにコソコソ話してるの?」 柾樹 「ん、モモンガが見当たらないから相談を」 来流美「ああ、あのコね?」 凍弥 「送り主に似て馬鹿だったぞ」 来流美「……帰って早々、喧嘩売ってるの?」 凍弥 「そんなことはない」 悠季美 <あ、あのぉ……> 柾樹  <気にするな、風呂にでも入ってろ> 悠季美 <お風呂って……寝ようとしてたとこですよ……?> 柾樹  <気にするな。考えてみれば、まだそんな時間じゃない> 悠季美 <あ……ホントですね> 柾樹  <夜の切り上げは、おやすみが定番だからな> 悠季美 <それじゃあ、入ってきます> 柾樹  <ああ、ゆっくりな> 悠季美 <ハイ♪> とたとたとダイニングを出てゆく悠季美。 さてと……って、そうだ。 柾樹  <叔父さん> 俺は小声で叔父さんに語りかけた。 凍弥  <……どうした?> 柾樹  <机に置いておいた本、読みましたか?> 本というのは由未絵さんのレシピだ。 凍弥  <本……?いや、それらしき物は無かったが> 柾樹  <え?> あれ?そんな筈は…… 凍弥  <どんな本だ?> 柾樹  <……由未絵さんのレシピ本です……> 俺はより一層、小声で話した。 凍弥 「何ッ!?」 しかし、それとは逆に大声で反応する叔父さん。 凍弥 「何処だ!何処にあるッ!!本当に俺の机の上に置いたのか!?」 血相を変えて、叔父さんが一気に喋る。 柾樹 「ちょ、ちょっと待ってくれ叔父さん……」 凍弥 「何処だと訊いているんだ!」 来流美「何やってるのよ凍弥!     何があったかは知らないけど、少しは落ち着きなさいよ!」 凍弥 「うるさいっ!これが落ち着いていられるか!」 普段の叔父さんとは別人のような喋り方だった。 しかし、叔父さんが見てないとなると…… 柾樹 「あ」 俺はここでひとつの結論に行き着いた。 叔父さんの部屋に居た人と言えば、ひとりだけだ。 柾樹 「あのさ、母さん……叔父さんの机の上に置いてあった本、知らないか?」 来流美「知らないわよ」 いや、知ってるな。 必要以上に真面目な声になった。 母さんの嘘つく時の癖だ。 それには叔父さんも気づいたらしく、 殺気を巻き散らしながら母さんに歩み寄ってゆく。 凍弥 「帰って早々、タオチェイとはいい度胸だ」 柾樹 「タオチェイ=盗人」 凍弥 「説明しなくていい」 柾樹 「はい」 凍弥 「さあ、返せ」 来流美「う〜ん、別にいいんだけどね。ただ、ちょっと待ってもらえる?」 凍弥 「駄目だ」 柾樹 「即答!?」 来流美「私も見て料理の練習したいのよ」 柾樹 「……やっぱり向こうで料理の練習もしてなかったのか……」 来流美「やかましいわね……」 凍弥 「いいから返せ……!!」 来流美「随分と焦ってるわね」 凍弥 「………」 ゴキッ……!! 叔父さんが指を鳴らす。 来流美「喧嘩ね……?買ってやろうじゃないの」 母さんがソファーから立ち上がり、ギパァッ!と目の色を変える。 そして掴み合い、柔道もどきを始める。 もどきとは言っても、思い切り投げている。 というかドグシャァッ!! 柾樹 「ヒイィッ!!」 来流美「やったわね!?このぉっ!!」 ドガッ!!ゴシャァッ!! 柾樹 「や、やめてくれぇぇっ!!」 仕舞いには巻き込まれる始末。 柾樹 「ちょ、ちょちょちょちょっと待ギャア!」 掴まれ、そして投げられた。 ……空を飛んでいた。 いつも見る家の景色を飛んでいた。 そして床が目前になった時…… 柾樹 「受け身ッ!!」 俺は身をひねり、受け身をとった。 しかし、ひねりすぎてダメージ倍増。 グシャアッ!! 柾樹 「ギャアア!!」 脇腹を打った。 柾樹 「ガハッ……!!」 これは痛い。 柾樹 「あいたたた……まったく無茶をする……」 某ネオナチの暑苦しい男を思い出す。 大体、何故に俺が投げられなければならないんだ。 そんなことを疑問に思っていると、悲鳴が聴こえた。 柾樹 「うわっ!?」 いまのは……悠季美? 来流美「何事!?」 凍弥 「よし行け来流美!」 来流美「オーライ任せて!」 母さんが走る。 そして……ドンガラガッシャンドカバキゴワシャァッ!! 轟音が轟く。 そして戻ってくる母さん。 来流美「凍弥!柾樹!来なさい!のぞきよ!!」 柾樹 「なにぃっ!?」 凍弥 「よし!任せろ!!」 外に出る───前に、窓際に人の気配を感じた。 凍弥 「チェストォッ!」 どがしゃぁあああああああああん!! 窓ガラスを破壊してまで、のぞき魔に飛び蹴りをキメる叔父さん。 柾樹 「うわ……無茶するなぁ……」 来流美「このくらいしないと、こういう輩は懲りないのよ!!     デストロォオオオオオイ!!」 ゴシャァッ!! ダブルニープレッシャーをキメる母さん。 謎ののぞき魔が襲われている。 というか……この場合、のぞき魔が可哀相に見える……。 ???「ヒ、ヒイィィィッ!!」 母さんがスライディング。 叔父さんがフランケンシュタイナー。 その瞬間に母さんがジャンピングパイルドライバー。 叔父さんが倒れたのぞき魔の足を掴み、ジャイアントスイングをする。 空に投げ飛ばした刹那の瞬間に母さんが飛び、 首根っこを掴み、スイング式DDTを決めた。 見事なDSCだ。 柾樹 「………」 凄まじい景色を見ていた。 はっきり言えば恐い。 のぞき魔はピクリとも動かない。 柾樹 「あ、あの……もしかして死んでるんじゃ……」 来流美「安心しなさいな、起こせばいいのよ」 母さんがのぞき魔の背中に喝を入れる。 ゴキッ!! ???「ギャァア!!」 ガクッ……。 来流美「あら?」 凍弥 「………」 柾樹 「………」 来流美「………」 ……風が吹いていた。 夜の景色を撫でる風を身に受けていた。 柾樹 「ギャァア!!人殺し!」 来流美「だ、大丈夫よ!」 凍弥 「………」 叔父さんがペンライトの光をのぞき魔の目に当てる。 そして腕を手に取り、脈を計る。 そして……首を振る。 来流美「………」 柾樹 「………」 か、風が……吹いて……。 柾樹 「ヒィィッ!!人殺し!」 来流美「せ、正当防衛って知ってる……?」 柾樹 「……そんな次元の問題なのかな……」 来流美「………」 柾樹 「……って……こののぞき魔の顔、見覚えが……」 凍弥 「いや、実は俺も……」 来流美「え……?」 柾樹 「というか……」 コ、コーヒー!? 凍弥 「ゴールドブレンド……」 な、何故!?嫁探しで去ったんじゃ…… フェイ「ヘ、ヘルプ……」 ゴールドブレンドが息を吹き返した。 しかし…… 来流美「さあ、白状してもらいましょうか?どうしてのぞきなんてしたの?」 フェイ「……ワ、ワタァシ、ニポンゴワッカリマ……」 ゴキィッ!! フェイ「AAAAAAGGH!!」 来流美「アーグーじゃないわよっ!!」 柾樹 「こんな例えはどうだろうか。昆虫は光る場所に集まる」 フェイ「昆虫とはヒドイなマサキ!」 来流美「日本語知ってるじゃないの!」 ゴキィッ!! フェイ「AAAAAAGGH!!」 来流美「アーグーじゃないわよっ!!」 凍弥 「……このままでは殺されるな」 柾樹 「なあフェイ、どうしてのぞきなんて……」 フェイ「のぞき!?失敬な!     このカフェイン=レイヴナス!!腐ってもそんなことはしない!!」 来流美「なら腐敗しきってるのね」 キツいツッコミだ。 フェイ  「ノー!チガウチッガァアアウ!       元々この家に用があったのは確かだ!だが……」 来流美  「だから、それがのぞきだったんでしょ?」 フェイ  「人の話を聞いてくれ!」 来流美  「原料が豆の分際で何をほざくのよ」 フェイ  「豆!?ノー!人間であります!」 柾樹&凍弥『ヒューマノイドコーヒー豆ェエエエエッ!!』 来流美  「うるさいわね!」 凍弥   「場のノリ万歳」 柾樹   「万歳」 来流美  「はあ……ホント、どうして凍弥に似ちゃったのかしら……」 凍弥   「考えたところで後の祭りであった」 来流美  「解説しなくてもいいわよ」 凍弥   「残念だ」 悠季美  「やっぱり男の人って嫌いです……」 柾樹   「居たのか悠季美」 悠季美  「もっとマシな気づき方は無いんですか?」 柾樹   「これが普通だろう」 悠季美  「それにしても、やっぱり最低ですね」 フェイ  「ち、違うんだよユキミ!ここに来たのは報告のためなんだ!」 柾樹   「報告?」 来流美  「で、そのついでにのぞいたと」 フェイ  「チガウ!ついに嫁が見つかったんだ!」 柾樹   「なにっ!?本当か!?」 フェイ  「ハハハ!こんな大事なことで嘘はつかないよ!」 柾樹   「おめでとうフェイ!」 フェイ  「ありがとうマサキ!」 俺とフェイは歓喜乱舞の舞を踊った。 スパァン! 柾樹 「ギャア!」 突然、悠季美にスリッパで叩かれた。 柾樹   「なにをする!」 悠季美  「のぞきはのぞきです!」 柾樹   「いや、むしろコーヒーだ」 フェイ  「コーヒー?」 柾樹   「なんでもないぞ」 フェイ  「そうか……おや?そういえばユウは?」 柾樹   「───ッ!?」 凍弥   「バッ───!!」 来流美  「ユウ?」 柾樹   「は、ははは!こ、この人は俺の母さんだ!」 来流美  「ああ、YOUね」 フェイ  「え?いや……」 凍弥   「サランラップ!(訳:黙れ!)」 フェイ  「な、なんなんだ!?」 柾樹   「いいから!少し黙っててくれ!」 来流美  「……なんか怪しいわね……」 凍弥   「俺は潔白だ」 柾樹   「潔白万歳」 来流美  「余計に怪しいわ」 凍弥   「バ、バカッ!怪しまれる行動は控えろ!」 柾樹   「俺は普段と変わらぬ態度ですぞ!?」 凍弥   「なら何故、いきなりバレるんだ!」 来流美  「解りやすい性格だわ……あんたたち」 柾樹   「なんですと!?」 凍弥   「貴様!誘導尋問とは卑怯だぞ!」 来流美  「引っ掛かる方が悪い」 フェイ  「あの……」 柾樹&凍弥『サランラップ!!(訳:黙れ!!)』 フェイ  「ヒィッ!」 悠季美  「ヒィじゃないです!」 来流美  「中に居るのね?」 凍弥   「そんなことはない」 来流美  「そう、じゃあ何処かには居るのね」 凍弥   「ハッ!しまった!」 来流美  「……ホント、解りやすいわ……」 柾樹   「叔父さん……」 凍弥   「どうしてフォローしないんだ!」 柾樹   「矛盾してますぞ」 来流美  「そうねぇ……柾樹の部屋辺りかしら」 柾樹   「行ってみれば解るよ」 来流美  「それもそうね」 家に入ってゆく母さん。 柾樹 「さてと」 凍弥 「いっちょ、やるかぁ」 悠季美「何をです?」 柾樹 「ハンガー、あります?」 凍弥 「ホレ」 ポン、と渡されるハンガー。 柾樹 「よし。霧波川流開鍵奥義スパイラルハンガー!」 俺は叔父さんの隣の家。 つまりは自分の家のドアの鍵をハンガーで開け、中に進入した。 一気に二階に駆け上がり、窓を開けて、叔父さんの家のベランダへ飛ぶ。 そして窓を開け、寝ている夕をさらい、再び飛ぶ。 これでOKだ。 夕  「ん…………」 安心も束の間、夕が目覚める。 夕  「あれ……?ここどこ……?」 寝ぼけてる。 夕  「うやゃぁあ…………」 ぐぅ〜っと伸びをする夕。 夕  「………」 そして俺を見る。 夕  「おはよう……凍弥くん……」 ……完全に寝ぼけてるな。 柾樹 「だれが凍弥くんだ」 夕  「ふぇ……?」 視点も落ち着かず、ゆらゆらと体が傾いている。 夕  「うぅ〜……」 と、母さんが叔父さんの家のベランダに出てきた。 柾樹 「うわっ……!?い、いいか夕ッ……!声、出すなよ……!?」 夕  「やぅ〜……」 柾樹 「やぅ〜じゃない……っ!!」 来流美「布団には温もりが残ってるわね……。さっきまでは居たようね」 探偵ですかアンタはっ!! 思わずツッコミたくなる自分を必死に抑える。 そんな中、夕の視界に母さんが映る。 夕  「……来流美……ちゃん……?」 そして何かを呟いた。 柾樹 「え?今なんて言……」 夕  「来流美ちゃ───」 叫ぶように母さんに向かって言葉を放つ夕を抑える。 柾樹 「ば、馬鹿っ!!そんな大声で喋ったら……!!」 来流美「そこねっ!?」 母さんの目が、再びギパァッ!と鋭くなる。 柾樹 「ヒィッ!?」 例えて言うなら獲物を狩る鷹の目だ。 一気にベランダを飛び越え、俺の目の前に現れる母さん。 来流美「中々に手を混んだ事をしてくれるわね」 柾樹 「お手数を御掛けします」 来流美「いえいえ……って、そうじゃないでしょ」 柾樹 「そんな冷たいことおっしゃらずに」 来流美「この子がユウ?」 柾樹 「まあ、こうなった以上は隠せませんな」 来流美「素直でよろしい」 柾樹 「このボケは佐奈木 夕。     記憶喪失だそうなんで引き取った、幸薄き天涯孤独の鵜飼いガール」 来流美「鵜飼い!?」 夕  「私、そんな名前じゃないよ……」 来流美「……嘘はいけないわねぇ」 柾樹 「えぇっ!?ちょっと待った!少なくとも名前は本当だって!!」 来流美「どうなの?」 夕  「ふぇえ……?聞かなくても解るでしょ……?」 来流美「解るわけないでしょ……」 夕  「うぅ〜……ひどいよ……」 来流美「……この口調……」 ヤバイ。 このままでは明日の朝刊のトップに載ってしまう。 柾樹 「では、俺はこれで……」 来流美「ちょぉっと……待ちなさい」 ガッと腕を掴まれる。 来流美「この子……どうして由未絵と同じなの?」 柾樹 「いや、同じなの?って訊かれても」 来流美「言い方が悪かったわね。……この子の口調や仕草。     ついでに言えばボケッぷりから何まで、全部由未絵そのものなのよ!」 柾樹 「い、いや!それは解ったけど……!襟首掴むのは止めてくれ母さん……!」 夕  「く、来流美ちゃん!喧嘩はダメだよ!」 来流美「口出し無用よ由未───……え?」 柾樹 「な……」 来流美「柾樹……」 柾樹 「母さん……」 来流美「わたし、この子に名前、教えたかしら……」 柾樹 「いや……教えてない……」 夕  「?」 来流美「この子……まさか……」 母さんはひとつの本を出すと、夕に見せた。 来流美「これ、知ってるわよね!?」 夕  「ふぇ?あ、これ私のレシピ帳……」 柾樹 「なっ……!?わ、『私の』!?」 来流美「………」 母さんはその場にヘナヘナと座り込み、頭を抱えた。 来流美「理解に苦しむわ……この状況……」 本気で悩む母さん。 その点、俺は平然としていた。 前に聞いた通り、夕は由未絵さんの夢を見て、 まだ目が覚めてないだけなんじゃないだろうか。 どれ、試しにスリッパでドグシャァッ!! 柾樹 「ギャアア!!」 来流美「女の子に手を挙げるとは不届き千万!!」 母さんに前方回転ミサイルキックをされて吹き飛ぶ。 柾樹 「し、死ぬ……」 来流美「それにしても、まいったわね……。凍弥は知ってて家に置いてるの?」 柾樹 「いや、知ってたら俺も驚かないよ……」 来流美「そうよね……」 柾樹 「でもさ、多分……寝ぼけてるだけだと思うよ」 来流美「寝ぼけ?」 柾樹 「夕も俺と同じでさ、よく母さんとかの昔の夢を見るらしいんだ」 来流美「……その時点で十分よ」 柾樹 「え?」 来流美「赤の他人が私達の過去なんて知ってる訳ないでしょ!?」 柾樹 「う〜ん、そうかもしれないけど……」 来流美「ああもう……凍弥に似て馬鹿なんだから……」 とりあえず、馬鹿なのは遺伝だと思う。 来流美「じゃあ誕生日、言える?」 夕  「……来流美ちゃん、もしかして馬鹿にしてる?」 柾樹 「確認しなくてもお前は馬鹿だ」 夕  「私、馬鹿じゃないよ!」 柾樹 「ボケ」 夕  「違うよぉっ!!」 柾樹 「ボケ者」 夕  「うーっ!!違うもん!」 来流美「やめなさいっての!」 ボカッ!! 柾樹 「痛いっ!」 来流美「ん〜……どちらかと言うと……     由未絵とわたしと凍弥を足して、割ったような感じかしら……」 柾樹 「なるほど、道理で馬鹿……」 来流美「何か言ったかしら?柾樹……」 柾樹 「いえ、別に何も。え〜と、俺の推測が正しければ……     O型の1月18日生まれで、好きなものはハムサンド。     嫌いなものは冷えたコロッケパンでどうだ?」 夕  「うんっ、正解!さすがだね凍弥く……あれ?え〜と……誰?」 柾樹 「……寝ぼけ人には何を言っても無駄か」 声  「お〜い!どうかしたのか〜!?」 ふと、聴こえる叔父さんの声。 来流美「……ヤバイわね」 柾樹 「何が?」 来流美「この子が由未絵だとしたら……」 夕  「凍弥くんの声っ!?」 主人を発見した犬が如く、これでもかと言うほどに反応する夕。 そしてハウハウと辺りを見回し、窓から飛び出そうする。 来流美「はあ、由未絵も凍弥と同じね……。     大切な人のこととなると、手に負えないわ……」 それを母さんが捕まえ、チョークスリーパーで落とす。 ゴギュッ!! 夕  「ぴぃっ!!」 膝から崩れ落ちてゆく夕。 来流美「これでよし、と」 いいのか? 来流美「いい?柾樹。これは凍弥には内緒よ?」 柾樹 「え?どうして」 来流美「凍弥が知ったら、どんなことをしてでもさっきの状態にしたがるわ」 柾樹 「そうかな」 来流美「それこそショック療法とか言って、     ロバで殴るとかするかもしれないじゃない」 ……何気ない一言が胸に痛い。 柾樹 「そ、そうですな……」 来流美「じゃ、遺体を下まで運びましょうかね」 柾樹 「………」 ショック療法がどうとかより、 さっきのチョークスリーパーが一番危険なんじゃ…… 俺はそんな考えを飲み込むのに苦労していた。 久しぶりに自宅の中に居る。 とは言っても、叔父さんの家の方が住み慣れていたりもする。 なにせ、叔父さんの家に住んで居た時間の方が多い。 などという考えより今は…… 来流美「え〜と?小さじ2杯分の砂糖と……」 ……それどころじゃなかったりする。 母さんが夕飯を作ってくれるそうだ。 いくら由未絵さんのレシピを読みながらだと言っても、 作るのが母さんじゃあ結果など見えている。 ならば何故に逃げないのかと言われれば、俺はこう返す。 『縛られているからだ』。 柾樹  <ぬおお、なんとかして逃げなければ> 人間、死ぬくらいなら、なんだって出来るものぞ!! 秘義!関節外し!!ポキポキ……ピキィーン!! 柾樹 「つったぁああああああああっ!!」 絶叫。 柾樹 「ギャアア!ギャァアアア!!     ギャァアアアアアアアアァァァァァッ!!!」 ちなみに手は支柱に縛られている。 酷い拷問だ。 来流美「うるさいわね!静かにしなさい!」 柾樹 「いや本気で助けて母さん!足が!足がぁああああ!!」 来流美「そのテは喰わないわよ」 柾樹 「は、薄情者っ!鬼っ!悪魔!人でなし!!外道!柿!!ボナンザ!!」 来流美「柿とボナンザの意味に悩むわ……」 柾樹  <ぬぐおおお!!     我が母ながら、ここまで薄情だったなんて……!!こうなったら……> 俺は片足で、つった方の足を抑え、捻った。 ギシィッ!! 柾樹  <……いッつうううっ!!> 激痛。 しかし、つり状態悪化は防いだ。 柾樹 「あとは……」 俺は目を閉じ、念じた。 柾樹  <悠季美……悠季美……協力を求む!> ……なんて、やってみたりする。 しかし届けば苦労しない。 柾樹 「さて、何か抜け出す方法はありませんか?ある方は、こちらの宛先まで!」 空気中に漂うゴーストさん達に募集する。 見えるわけではない。 言ってみただけである。 柾樹 「どうしよう」 うむむ、困った。 声   <今、助けます> 柾樹 「え?」 背後から聴こえる声。 柾樹  <ゆ、悠季美ぃっ!!> 俺は小声で絶叫した。 歓喜乱舞したい気分たァこのことよ! 多分。 来流美「……?なにやらネズミが侵入したようね」 悠季美「!?」 どうやって解るんだ!!? 悠季美 <どうやって解るんですかっ!?> 悠季美も同意見らしい。 母さんの持つ包丁が光も受けずにギシャァ!と光る。 悠季美 <グッドラックです> 悠季美は床の一部分を外し、そこから逃走した。 柾樹  <賢明な判断だ> 来流美「……そこっ!!」 ゴシャアッ!! 母さんが床に『魚サバキ用長包丁・正宗』を突きたてる。 柾樹  <うわぁああああっ!悠季美ぃいいっ!!!> そして抜いた包丁には血が…… 来流美「ミートソース!?チィイッ!逃したわ!!」 と思ったが、ミートソースだったようだ。 来流美「こんな芸当が出来るのは……凍弥ね!ちょっと行ってくるわ!!」 外へ駆け出す母さん。 悠季美「フェイントは大事です」 そして床下から現れる悠季美。 柾樹 「え!?お前、さっき戻ったんじゃ……」 悠季美「刺された場所に居たのは凍弥さんです」 柾樹 「………」 悠季美「……ハイ。ロープは切りました」 柾樹 「嗚呼、自由」 凍弥 「いやはや、笑わせてくれる」 柾樹 「うおっ!?」 悠季美に続き、叔父さんが現れる。 凍弥 「これはミートソースではなく、デミグラスソースだ」 それも違うと思う。 凍弥 「さてと、奴のことだ。どうせ味見はせずに柾樹に食させる気だろう」 悠季美「………」 悠季美がグサァッ!と痛い所を突かれたように半歩退く。 凍弥   「味見してみるか」 柾樹   「死ねますよ」 凍弥   「安心しろ。       この世に適材適所という言葉があるように、ステキな人材が居る」 柾樹   「………………ああ!そういえば!」 凍弥&柾樹「さあ悠季美!彼の名をそっと呟いておくれでないかい!」 悠季美  「えぇ……?呼ぶんですか……?」 心底、嫌な顔をする悠季美。 凍弥 「作戦成功の暁には、柾樹と喫茶店へ行ける券をプレゼント」 悠季美「殺りますっ!」 心底、嬉しそうな顔をする悠季美。 『やります』とは明らかに違った発音だった。 柾樹 「ちょ、ちょっと叔父さんっ!?」 凍弥 「よきかなよきかな」 よくない。 悠季美「……カフェインさ〜ん」 小声で呟く悠季美。 フェイ「呼んだかい?ユキミ」 床下から現れるフェイ。 かなり速い。 凍弥 「ここに悠季美が作った料理があるんだ。味見してみてくれ」 フェイ「オールライトゥ、任せてくれたまえ!」 手慣れた手つきで小皿に小量を盛り、味見をする。 ズズッ……。 フェイ「ギィイヤァアアアアアアアアア!!!!」 悲鳴を挙げて倒れるフェイ。 凍弥 「……やっぱりな」 柾樹 「やっぱり……」 凍弥 「奴が作った時点でアウトだ」 柾樹 「協力を感謝するよ、フェイ」 凍弥 「お前の尊い犠牲は未来永劫語り継がれるだろう」 その後、天に召される魂を見送った後、我等は床下から逃走した。 Next Menu back