───キッチョマー降臨祭/毒霧青汁モモンガ大戦───
…………。 俺は考えていた。 今のこの状況を。 どうしてだろう。 それが当然だと言うように、その事態はここにあった。 ……もっと考えてみる。 この状況は自然な出来事なんだろうか。 周囲を見回してみる。 ……たしかに、よくある状況なのかもしれない。 だけど……それでも俺は考えた。 柾樹 「どうして、当然のように俺の部屋に居るんだ」 言ってみた。 モモンガ「ギョー」 応えられた。 柾樹 「………」 俺の部屋に起きていた事態。 そう、それはモモンガの来襲だった。 柾樹 「……なにか用なのか?」 なにやら最近、姿を見ていなかった気がするが。 ちゃんと何か食してたんだろうか。 モモンガ「………」 柾樹  「………」 目が合った。 既にネズミと化している気もしないでもない。 空飛ぶネズミ。 ……うん。 不気味かもしれないが、大差無い気がしてきた。 そうこう考えていると、モモンガが消えていた。 柾樹 「なにィ!?」 考え事をしている間に逃げられたかっ!? ゴリュッ……! 柾樹 「キャーッ!!」 首を噛まれた。 頚動脈付近だ。 や、野郎!俺の命を狙っているのかっ!? ゴリュゴリュ。 柾樹 「ギャアア!!」 噛みしめられてる。 こっ、殺される!? お、俺の人生がモモンガによってジ・エンド!? 冗談じゃない! 柾樹 「くそ!離せ!!」 強引に剥そうとする。 柾樹 「ぎぃゃああああああ!!」 すると、肉も矧がれそうな激痛に襲われた。 こ、こいつ……マジだ!! 俺の命を狙ってやがりますですハイ!! こうなったら……!! 俺は部屋を出て、階段を駆け降りた。 慌ただしく洗面所に転げ込み、水道の蛇口を捻る。 流れ出る水に身を乗り出して、モモンガにかける。 柾樹 「ギャア!!」 それでも無視して噛んでる。 柾樹 「グムゥウウ!!ならば奥の手!!」 俺はすぐ隣の蛇口を捻った。 柾樹 「ククク……!お湯なら我慢できまい!!」 湯気が出始めてから、ゆっくりと近付ける。 モモンガ「………」 ゴリゴリ……。 柾樹 「ギャアア!!!」 無視して噛まれた。 柾樹 「野郎!!もう情け無用!!喰らうがいい!!」 モモンガにお湯を直接かける。 結構な熱さだ。 モモンガ「………」 ゴリゴリゴリゴリゴリ……。 柾樹 「………」 あんた、ホントにモモンガですか? 無視して噛み続けるモモンガに感服した。 柾樹 「……どうしよう」 お湯も効かないとは、いよいよ困った。 柾樹 「おお、そうだ」 これは妙案(?)。 俺は点火用ライターを手に、モモンガの近くで点火した。 モモンガ「!!」 モモンガが逃げた。 そうだよ。 動物は火が苦手なんだよな。 ゴリッ!! 柾樹 「ギャアア!!」 鋭い痛みを足に覚える。 慌てて見てみると…… 柾樹  「………」 モモンガ「………」 モモンガだった。 柾樹 「ファイア〜」 しぼっ!! 火をつけた。 モモンガ「!」 逃げた。 柾樹 「……なんなんだ、まったく」 ゴリッ!! 柾樹 「ギェエ!!?」 腕を噛まれた。 柾樹 「………」 懲りない奴ぞ。 呆れながらも冷蔵庫の前に立ち、冷凍庫を開ける。 そして突っ込む。 モモンガ「…………!!」 震えながら噛んでる。 冬眠系は効かないか。 ならば………………。 冷蔵庫を開き、 その奥にあるどろりとしたパックを手にとった。 そして、それを開く。 モモンガ「……」 すこし引いた。 でも逃げる様子はなかった。 柾樹 「……これだけは……やりたくなかったが」 俺は『それ』を口に含んだ。 途端、胃から込み上げる物を感じ、それを必死で抑える。 それが終わると、モモンガへ照準を合わせて───ぶしぃっ!! 毒霧を吐いた。 モモンガ「ギャーッ!!」 モモンガが逃走した。 かなりの速さだ。 柾樹 「ふ……ふふふ……ゲフッ……。お、俺の……うぇぇ……勝ちだな……」 勝ちを悟った後、パックに視線を落とす。 『青汁』。 そう記されたパック。 実に不味かった。 しばらく見たくないな。 柾樹 「ていうか……さっきあいつ、ギャーって……」 ……ますます、モモンガ離れしてるよオイ……。 とりあえず、うがいをする。 その度に口内に残った青汁の苦みが味覚を襲い、嘔吐しそうになる。 臭くて不味ぃ……。 しばらくうがいに専念することにした。 歯も磨いておこう。 ぐしゅぐしゅ……。 声  「ひぃやぁああああああああああああああっ!!」 途端に聴こえる絶叫。 悠季美の声……何事だ? 声  「緑色の物体がぁあああああああああっ!!」 柾樹 「………」 ……もはや何も言うまい……。 柾樹 「さて、これからどうしようか」 廊下でひとり、考える。 う〜ん、ゲームはもういいとして……。 夕と会うと、また泣かしそうだしなぁ。 柾樹 「………」 これじゃあただのイジメっ子じゃないか。 柾樹 「……よし」 俺は電話の前に立った。 ピポパポ……。 プルルルル……カチャ。 声  『はい、豆村ですが』 豆村が出た。 柾樹 「やあ豆村」 話し掛けてみた。 豆村 『んあ?なんだ、霧波川か。なんか用かぁ?』 柾樹 「暇だ。相手をしてくれ。俺を楽しませろ」 豆村 『……何様のつもりだ』 柾樹 「貴様」 豆村 『お前は俺なのか』 柾樹 「いや、お前ならきっとそう言うと思ってな」 豆村 『それは偏見というものだよアンソニー』 柾樹 「……そうでもないと思うぞ」 豆村 『で?何の用だよ。まさか本当に暇潰しか?』 柾樹 「いや……時間が無いことは重々承知している。     けどね、どうすればいいかが謎なわけで」 豆村 『いてもたってもいられずに俺に電話したと。     嬉しいこと言ってくれるじゃないの』 柾樹 「いや、これは単なる暇潰し」 豆村 『オイ』 柾樹 「何かないか?」 豆村 『何かって……なんだ』 柾樹 「ほら、面白い話とか」 豆村 『仕方無い。そこまで言うなら聞かせてやろう』 柾樹 「……俺がどこまで言ったっていうんだ」 豆村 『あれは一昨年のことだった……』 語り始めた。 柾樹 「おっと電話がかかってきた。切るぞ」 豆村 『なにィ!?電話なら今俺がして』 ピッ。 柾樹 「ふう、危なかった」 なんとも恐ろしい奴よ。 柾樹 「手強い相手だった……。貴様のことは、数分は忘れまい……」 短い命だった。 凍弥 「何をやっとるんだお前は」 柾樹 「うおっ!?」 いきなり叔父さんが現れた。 凍弥 「イタズラティックテレフォ〜ンか?」 柾樹 「いえいえ、友との友情ゲージのアップを」 凍弥 「電話し掛けて一方的に切っただけだろう」 柾樹 「話したよ、うん話した」 凍弥 「よし、俺もやろう」 柾樹 「え?誰に」 凍弥 「柿崎」 柾樹 「お供します」 うん、最強。 凍弥 「えぇと」 ピポパポプポポペ……。 柾樹 「で、どんな内容に?」 凍弥 「フフフ、こんな日もあろうかと、テープにステキな音声を録音してあるのだ」 プルルルル……カチャ。 凍弥 「オン!」 カチッ。 柿崎 『……柿崎だが』 『ZTTがお贈りする、テレフォン民話、キッチョム話』 柿崎 『なにィッ!?』 柾樹  <キッチョム!?> 俺は小声で叫んだ。 凍弥  <過去、とある電話番号を押すと流れた電話での昔話みたいなものだ> 叔父さんが小声で応答する。 凍弥  <柿崎はこれの大ファンだったんだ> ……どういう人だ。 柿崎 『バ、バカな!キッチョムはもう終わってしまった筈!!     お、俺は夢を見ているのかっ!?』 ヤな夢だ。 ピッ。 叔父さんが電話を切った。 凍弥 「うむ、やはり柿崎をからかうのは止められん」 満足そうだった。 しかしキッチョムとは……。 人の名前なのか? それとも……というか外国人だろうな。 それなら何故、日本で昔話……。 謎だ……謎すぎるぞキッチョム。 凍弥 「聴いてみるか?」 柾樹 「是非」 キッパリと頷いた。 凍弥 「ほら、テープだ」 柾樹 「多謝」 キッチョムテープを手に入れた。 早速階段を駆け登り、自室へと転がり込む。 コンポにキッチョムテープを入れ、再生。 しばらくはこれで時間を潰した。 ………………………。 ………………。 ………。 柾樹 「……奥が深いぜ、キッチョム」 聴き終わり、ひとり頷く。 というか、聴いていて思い出したのは一休さんだった。 しかし俺は考える。 ……ファンになる程のものだろうか。 柿の思考回路がいまいち解らん。 まあいいか。 パーンポーン。 柾樹 「ん?誰だ?」 誰か来たようだ。 階下で、叔父さんが出た様子を感じ取った。 声  「何ィ!?」 叔父さんが唸った。 そして階段を駆け登る音。 更に、ドアが開く。 豆村 「おまっとさぁーン!!」 豆村だった。 柾樹 「帰れ」 即答してやった。 豆村 「遊びに来た我に対して、そりゃ失礼ってモンザマスよチミィ」 柾樹 「遊べるものがあったらお前に電話し掛けないよ」 豆村 「つまり我で遊んだと」 柾樹 「そういうこと」 豆村 「遊ぶものならホレ、ゲーム」 柾樹 「さっき破壊したばかりだ。やりたくもない」 豆村 「ホレ、バット」 柾樹 「お前の頭を打ってやろうか」 豆村 「遠慮しとく。ホレ、緑色の物体……って、ギャア!?」 緑さん「ギョー」 豆村 「うわわぁああっ!?唸ったぁああああっ!!」 やはりモモンガだった。 柾樹 「ばかっ!さっさと捨てろ!」 豆村 「オーライトニー!!」 豆村が窓を開ける。 そして大きく振りかぶり……。 豆村 「グゥウウウウウッレイトォオオゥ!!」 ドシュウウウウ!!と投げた。 豆村 「……成敗」 豆村の髪が、風になびいていた。 これでキミもタイガーだ。 柾樹 「よし、じゃあ帰れ」 豆村 「なにが『よし』なんだ」 ドタドタドタ!! 突然の騒音。 そして開いているドアから人が飛び出す。 柿崎 「キッチョムァアアアアアアア!!」 柿だった。 凍弥 「落ち着け柿崎!歳を考えろ!!」 柿崎 「お黙りやがれィコンチクショウ!!キッチョムさんが俺を呼んでいるんだ!     大体同い歳だって言ってるだろうが!!」 柾樹 「おじいちゃん、お口臭い」 柿崎 「どぅぁああああまらっしゃぁああい!!     どこだ!どこに隠した!!キッチョムはどこだ!白状しろ!     言わんとためにならんぞ!!」 豆村 「こいつはいつもの柿崎じゃあ……ねぇぜ!!」 凍弥 「俺達は知らんぞそんなもの!」 柿崎 「黙れ!俺にいたずら電話を掛ける奴なんざ、     世界中探しても貴様しか居ないわっ!!」 目の前の聖職者が暴走していた。 恐るべし、キッチョムパワー。 柿崎 「なっ!?頼む!この通り!聴き終わったら大人しく帰るから!なっ!?」 凍弥 「だめだ」 キッパリとした重く冷たい口調だった。 柿崎 「お前には良心ってものがないのかっ!!」 凍弥 「失礼な。俺にだって両親は居るぞ」 柿崎 「その『りょうしん』じゃないっ!」 段々、柿が叔父さんのペースに乗せられてきた。 豆村 「何事?」 柾樹 「キッチョムさん」 豆村 「キッチョム?なんだそれ」 柾樹 「……よく解らん」 溜め息まじりに呟いた。 柿崎 「頼む!知ってるだろ!?俺、ファンなんだよ!」 凍弥 「知らん」 柿崎 「キッパリ言うなぁあああっ!!」 柿、アルティメットヒート。 奴が熱い。 豆村 「ここにあるのか?」 俺にだけ聴こえるように呟く。 柾樹 「ホレ」 俺はヘッドホンを豆村に渡した。 そして再生する。 豆村 「………」 ……聴き入ってる。 豆村 「な、なにぃ、そうくるかっ」 ブツブツと呟き始めた。 豆村 「ば、ばかっ。そこはそう言うんじゃないだろう」 また何か言っている。 ……もしかして夢中になってるのか? 柾樹 「な、なぁ豆村……」 豆村 「な、なんだっ?今いいとこなんだ、悪いけど邪魔しないでくれっ」 柾樹 「………」 ヤバイ。 ハマッてる。 ハマッてるよ……。 豆村 「ばかなっ!あの選択でこんな結末に!?や、やってくれるぜキッチョム!!」 柾樹 「ばか、声が大きいっ!」 豆村 「邪魔するなって!いま感動してるんだからっ」 柿崎 「キ、キキキキキミタタタタチィィィ……!!     ワ、ワレレワレワワレヲサシオイテ、ナニヲキイテイルノカナァァ……?」 柾樹 「ギャア!?」 柿が凄まじい形相で俺達の間に入り込んだ。 柿崎 「……ハァッ!ま、まさかこれがキッチョム!?     かっ、貸しなさい!!今すぐ貸しなさいっ!!」 柿が豆村からヘッドホンを奪った。 そして耳に当てる。 柿崎 「キッ……キッチョムァアアアアアアア!!!」 柿、歓喜乱舞。 豆村 「い、今俺が聴いてたのにっ」 柿崎 「黙れ!!他はともかく、これは譲れん!!男の尊厳に賭けて!」 柿が鬼人と化した。 逆らったら斬られそうな殺気を醸し出している。 今の彼奴は危険ぞ。 柿崎 「……イカン!これではいかん!!     やはりヘッドホンなどではなく、直に聴かなくては!!」 突如首を振り、叫んだかと思えば、今度はヘッドホンのコードを引っこ抜いた。 すると、室内にキッチョム話が轟く。 凍弥 「音量デカすぎだ!抑えろ!!」 柿崎 「ダメさ!」 凍弥 「即答するな馬鹿っ!!」 悠季美「なんですかこの音はっ!!」 夕  「うるさいよぅ!」 豆村 「あらっ?郭鷺に佐奈木!?」 柾樹 「うわっ!?」 豆村 「なに?お前らも来てたの?」 柾樹 「は……」 疑り深くなくてよかった。 柿崎 「うおおおお!!キッチョム!キッチョムゥ!!」 凍弥 「うるさい!黙れ!!」 夕  「あ、先生」 悠季美「一体、何事なんですかっ?」 柾樹 「俺に訊くな……こっちが知りたい」 結局、今日はこんなことばかりで過ぎていった。 ……よく解らない一日だったけど、悩みなんてものを忘れられたのは事実だった。 明日で夏は終わるのだから、これが最後かもしれない。 今日を楽しく過ごせたことを、俺は忘れないだろう。 ……ホントに楽しかったかどうかは、追求しないでくれ。 いやホント、お願い……。 Next Menu back