──友の里の集い/二度目の青春到来────
【ケース03:霧波川柾樹(3)/友の里の喧噪】 ───……翌日の夜。 それは突然やってきた。 母さんに訊いてみたところ、昨日豆村が言っていたような手紙は確かに来ていたらしい。 そして旅館に行ってみれば───夥しい人の数。 彰利 「ヨーゥメェーン!元気でやってたカネミスターマサキィー!ッハハァー!」 エセ外人風に笑い、俺の背中をバシバシ叩くこの人こそ、 このイベントの主催者にして豆村の父親、弦月彰利さんだ。 苗字が何故豆村じゃないのかは、家系の最後の苗字を守りたいからだとか。 母親の粉雪さんも苗字は日余といって、豆村じゃない。 彰利 「飲んどるか?ん?飲んどるか?ン?ンン〜?」 うわ、豆村そっくりだボゴシャア!! 彰利 「ウバァハァーーーッ!!!!」 ギュリギュリドシャアアア!! ……突然だった。 横から飛んできた拳が彰利さんの頬を捉え、彰利さんがキリモミで床に転がった。 振り向いてみれば───そこに居たのは深冬ちゃんの親である晦悠介さんが。 悠介 「……どうしてお前はそう見境無く絡むんだよ……」 彰利 「いやーんダーリン!どうしていつまで経っても殴るのさ!」 悠介 「ダーリン言うな!!     ったく……そういうお前はどうしていつまで経っても馬鹿なんだ」 彰利 「世界を変えてゆくのは馬鹿だからぞ」 悠介 「………」 彰利 「あら気に入らない?しゃあねぇなぁダーリンは。     そんじゃあアタイが気晴らしに手品を見せてあげましょう。     ハーイ、この俺の手を見ててくだサイネー。     卵が出るからYO〜。いくぞ!     ───ポコペンポコペンダーレガツツイタ……」 悠介 「ぎゃああ馬鹿!こんなところで卵吐くな!     ていうか手品じゃねぇ!何者だてめぇ!」 ……怖くて後ろ向けない。 俺は耳に手を当てると、そっとその場から離れた。 ───……。 ……。 旅館の中は広い。 この会場だけでも相当な広さであり、呆気にとられるほどの人の波に目を回した。 けど─── 凍弥 「お〜れた〜ちさーんにーん!」 鷹志 「精神誠意と真心込めて〜」 柿崎 「うーたいーまぁす〜〜〜っ!!」 凍弥 「ああっ……!御手洗カムバァーーーック!!」 鷹志 「歌はお前が居ないと盛り上がらんのじゃあーーっ!!」 柿崎 「カムバァーーック友よぉおおっ!!」 ……ここらへんは相変わらずだ。 でもなんか荒れてみたいだった。 豆村 「それについては俺が語ろう」 柾樹 「うわっ!?だ、だから急に……というかまず心を読むな」 豆村 「まあまあ。     刹那の話じゃあ実はあの三人、学生時代に四馬鹿だったことがあるらしい。     それで外国旅立っちまった男の友を思って歌ってるみたいだぞ。     一応その人にも手紙出したらしいんだけど、     仕事が忙しいとかで来れなかったらしくて」 『刹那』というのは俺と豆村共通の友人、『裕希刹那』という男である。 柾樹 「へぇ……仕事ってどんなのなんだろ」 豆村 「この旅館の遊技場、よく行くだろ?」 柾樹 「うん、いいゲームあるしね」 豆村 「プログラミングしてるのがその人だ」 柾樹 「うおっ!?」 豆村 「自分が変われたのは友のおかげだってことで、     毎度毎度作っては無料でここに送ってくるらしい。     ああ、柾樹の好きなあのゲームあるだろ?     あのここぞって時に歌の流れるシューティングゲーム」 柾樹 「ウィンド&ウィングスか?」 豆村 「そうそう。あの歌を歌ってるのもその人だ」 柾樹 「うそっ!?だってあれ、女の人の声にしか聞こえないぞ!?」 豆村 「だから言っただろ、歌の上手い人だって」 柾樹 「……すごいな」 信じられん。 あの歌を男の人が……!? 声  「と、友よぉおおっ!」 柾樹 「へっ?」 突然聞こえた高く綺麗な声。 どこかで聞いた声だと感じた。 男  「はっ、はっ……」 振り向けば、男の人。 相当走ってきたようで、額には汗が滲んでいた。 凍弥 「…………おまっ……!」 男  「っ〜〜〜!」 男の人は色あせた厚紙を掲げた。 その厚紙には真中に『友よ』と書いてあり、その周りには─── 鷹志 「みたっ……御手洗ぃいいっ!!」 柿崎 「友よぉおおっ!!」 四人はぶつかり合うように抱きつき、はしゃぎ合った。 凍弥 「来れないって聞いてたのに!どうしたんだよぉっ!もったいぶらせやがって!」 御手洗「あっはははは!ごめん、仕事が忙しかったのは本当なんだ!     でもこれを逃すともう会えないんじゃないかって!それで、それでぼく……!」 鷹志 「みなまで言うなぁっ!会いたかったぜ友よぉおおっ!!」 柿崎 「いっ……祝いぞっ……!今日は祝いぞぉおおっ!!」 四人はまるで離れ離れになっていた兄弟のように涙の再会を果たした。 やがて御手洗さんがマイクを取って歌い出す。 Wind&Window……蒼い風に抱かれて。 聞いたことの無いグループと曲名だったけれど、 それは泣きそうになるくらい体を震わす歌だった。 柿崎 「あぁっ……!やっぱいい歌!」 鷹志 「御手洗最強ーーーッ!!」 御手洗「はは、ちょっとなまってたかな」 凍弥 「なに言ってるんだ、十分すぎるぞ!」 四人は談笑する。 久しぶりに会ったのだから積もる話もあるだろう。 柿崎 「誰か歌うやつは居ないかー!?マイク空いてるぞー!」 柿のその言葉を聞いて、豆村がニヤァと笑う。 やつめ……!音痴のクセに歌う気か!? ぱしっ。 豆村 「なにぃ!?」 しかしマイクは他の誰かが先に取った。 雪音 「一番、観咲雪音!うったいまぁ〜す!」 遥一郎「ひっこめ〜」 雪音 「ホギッちゃんうっさい!」 ……また知らない人だ。 あ、いや、喫茶店の方に何度か食べに来たことのある顔だ。 鷹志さんと真由美さんとよく話してたっけ。 確か……うん、真由美さんの同級の…… ノア 「マスター、マスターがお歌いください」 サクラ「()
るです」 遥一郎「歌って苦手なんだよ。誰か観咲以外で他に……」 澄音 「レイラ、どうかな」 レイラ「わたし、ですか?」 サクラ「はう、お姉さま歌うです」 レイラ「サクラ……」 雪音 「澄ちゃん歌お歌おー!」 遥一郎「こら、無理に勧めるなアースガッデム」 雪音 「もうガッデムなんて言ってなぁーい!」 澄音 「みんなも変わらないね」 遥一郎「それが一番さ。童心だけは捨てないで取っておくことが大事なのさ」 澄音 「……違いないね」 数人がマイクの取り合いで争う中、ふたりの男は微笑み合いながら話していた。 そんな彼らに真由美さんが近寄って談笑する。 豆村 「……予想以上に混雑してるな」 柾樹 「……だな」 刹那 「ふはっ……はぁ、はぁ……ったく、歩くのも一苦労だぞ……」 柾樹 「あっ……おーい刹那ぁー!」 刹那 「んお?おー、柾樹じゃないかー!あ、ついでに豆村も」 豆村 「ついでかよ!」 ふたりが騒ぐ中、俺は気になって深冬ちゃんを探した。 豆村がここに居るってことは、来てないんだろうけど…… 悠季美「ああ、柾樹さん。奇遇ですね」 柾樹 「お、よお悠季美。壮健かい?」 刹那 「やあ郭鷺、今日もキレイだね」 柾樹 「うおっ!?」 悠季美の気配を感じ取った刹那がいきなり隣に現れてポイント稼ぎに走る。 悠季美「見え透いた嘘は嫌いです」 刹那 「ギャア!」 が、あっさり撃沈。 悠季美「不愉快です、失礼します」 刹那 「あ、あ〜っ……あ〜あ……いっちゃった」 いきなり去ってゆく悠季美を見て落胆する刹那。 豆村 「刹那よ、もう少しソフトな方がよかったぞ。     ああいう娘は誉められて嬉しがる性格は持ち合わせてない」 刹那 「うう……そうかなぁ……」 絶対違う。 だいたい、今回の作戦を練ったのも豆村だ。 豆村 「しかし郭鷺もヒドイね。なにもいきなり去ることないんじゃない?」 柾樹 「あいつはあれで気紛れだから」 豆村 「さすがだな、幼馴染」 刹那 「うう……柾樹……攻略法を教えてくれ……」 柾樹 「攻略したわけなじゃいんだから知るわけないだろう?     それに人のことで攻略とか言うのってどうかと思うぞ。     それじゃあ悠季美に嫌われてもしょうがない」 刹那 「ふむふむ、なるほど」 真剣に俺が言ったことをメモする刹那。 豆村 「……めげないな」 柾樹 「こういうところは感心するんだけどね」 刹那 「情報は物理力」 柾樹 「いきなりそう言われても」 刹那 「しかしアレだね、ここもスゴイことになってるな」 柾樹 「ああ。……というかさ、刹那?お前のところに手紙って来たのか?」 刹那 「んにゃ、来てない。情報では知ってたけど今日はゲームしに来ただけだ。     ……ったのに、どうしてこんなに人が居るかね。驚いたよ」 まさかここまでとは思わなかったと唸る刹那。 それには俺もまったくの同意見だった。 刹那 「まああれだな、俺も誰かとの話に加わって楽しむかな」 ドンッ! 刹那 「うわっ!?」 刹那が余所見しながら歩いていた所為で人に当たる。 刹那 「うわわっ、すいません!大丈夫ですか!?」 夏純 「……、……」 俊也 「大丈夫か夏純。……すまないな、こいつ、いつもボ〜っとしてて」 夏純 「!、!」 俊也 「こら叩くなっ!」 夏純 「………」 刹那 「お、俺の方こそ……すいません」 俊也 「いいって。こいつなら殴られてもボ〜っとしてるから」 夏純 「!」 俊也 「ははは、だ、だから殴るなって……」 佐知子「俊也〜、こっちに麦茶あるわよ〜」 俊也 「あ、そりゃ助かる。それじゃ、悪かったね」 そそくさと離れてゆく人。 刹那はそんな人々を見て俯いた。 刹那 「あー、悪いことしたな」 柾樹 「これだけ人が居るのに余所見するのは危ないって……」 刹那 「解ってるんだけどな」 豆村 「情報の取り入れ以外に取り得がないからな」 刹那 「よし、お前にはもう情報提供してやらん」 豆村 「笑えない冗談だぜブラザー」 刹那 「やかましい、お前なんて友達じゃねぇ」 豆村 「ここに郭鷺悠季美の笑顔写真があるんだが」 刹那 「はっはっはっは、もちろん冗談だブラザー」 ふたりは友情を固く誓った。 柾樹 「それ、まさか隠し撮りじゃないよな?」 豆村 「違う違う、刹那を利用するために女子に撮っておいてもらったやつだ」 刹那 「本人の目の前でそういうこと言うかよ普通」 豆村 「ほう?要らんのか?要ら」 刹那 「いる」 豆村 「……最後まで言わせろよ」 ふたりはまた妙なオーラを出して語り合う。 息が詰まる状況だ。 と、そんな時。 真凪 「そこのキミ達、ジュースはいかがかな?」 ひとりの人のよさそうな御方がジュースを手に近づいてきた。 真凪 「───ああ、キミは来流美さんの息子さんだね?」 柾樹 「え?知ってるんですか?」 真凪 「大人になると先詠みが出来るんですよ」 柾樹 「……それ、あんまり関係ないと思いますよ」 真凪 「あっはっはっは、そうかもしれませんね、失礼。     私、来流美さんが居たクラスで一時期担任をしていた者です」 柾樹 「担任!?すごく若そうに見えますけど……」 真凪 「いろいろありまして」 柾樹 「はぁ……」 真凪 「それはそうと、どうですか?ジュース」 豆村 「いただこう」 豆村が偉そうにグラスを構える。 真凪 「ははっ、元気がありそうですね。まあ一杯」 豆村 「くるしゅうない」 コポコポと注がれるジュース。 それをクイッと優雅にゲボハァッ!! 豆村 「ブゥッヘェエッ!!!」 吐いた。 豆村 「グハァーッ!ゲホゴホゥ!ゲホーリゴホーリ!!わっ……わさっ……ワサビ!?」 豆村が苦しむ。 俺は驚きながらもこの仕打ちの意図を確かめようと───居ないし。 柾樹 「なっ……忍者かあの人は!」 豆村 「フッ……舌と眼が痛い……まるでトリカブトを盛られた気分だぜ……」 刹那 「その割には余裕に見えるのは気の所為か?」 豆村 「当然だ。満身創痍だぞ、今、かなり、俺」 刹那 「倒置法使う元気があれば十分じゃ……あ、深冬ちゃん」 豆村 「なにぃ!?」 刹那 「あー……人込みに飲まれていっちゃった……」 豆村 「み、深冬ーーーっ!!」 ゴシャーアーッ!! 豆村が鬼のような形相で人垣に突っ込んでいった。 刹那 「……ホラ見ろ元気じゃないか。冗談なのにな」 柾樹 「深冬ちゃんのこととなると元気がなくても動くよあいつは」 ……クイッ。 柾樹 「うん?」 くいくい。 柾樹 「なんだよ刹那、服引っ張らないでくれよ」 刹那 「へ?俺の両の腕ならここに健在しているが」 柾樹 「え……?」 じゃあ誰さね。 と振り向くと……涙目の深冬ちゃん。 柾樹 「ホントに来てたのかっ!?危ないよ、こんなところに来ちゃ……」 刹那 「こんなところって……何気にヒドイなお前」 深冬 「あの、あの……」 柾樹 「落ち着いて、深呼吸〜」 深冬 「は、はい……」 小さな体で深呼吸をする深冬ちゃん。 刹那 「………………可愛い……」 刹那が魅了された。 刹那 「豆村が居なかったら俺もアタックしてたかもしれん」 深冬 「っ!?」 刹那 「あっ、例え例え!例え話だよ深冬ちゃん!そんな警戒しないで……っ!」 深冬 「………」 深冬ちゃんに近づこうとする輩は強引な手段が多かったため、 深冬ちゃんはそういう人に異様な警戒心を持っている。 もちろんそいつらが強引な手段に出なければならなかった原因は豆村なんだが。 柾樹 「それで、どうしたんだ?」 落ち着いた頃合を見て、俺は深冬ちゃんに訊ねた。 深冬 「あの……お父さんとお母さんも来ると思って……会いたくて……」 柾樹 「そっか……うん。解った、悠介さんならさっき見かけたから、案内するよ」 深冬 「わぁ……っ!あ、ありがとうございます柾樹さん……」 深冬ちゃんは俺の服を掴んで微笑んだ。 ……やっぱり可愛い。 刹那 「やっぱ柾樹だけには懐いてるよな。どうしてだ?」 柾樹 「俺と豆村が親友だからだろ」 刹那 「……なんか納得いかん。俺に隠し事してないか?」 柾樹 「してるぞ」 刹那 「しとんのかいっ!」 柾樹 「人間誰でも隠し事はするって。ね、深冬ちゃん」 深冬 「はい……でも、本当はしたくありません……」 刹那 「ぬう……」 柾樹 「ほらほら、深冬ちゃん案内するからどいたどいた」 刹那 「俺も同行しよう」 深冬 「〜〜っ……!」 ビクッ!と、俺の影に隠れる深冬ちゃん。 刹那 「いやっ!な、なにもしないって!なんで俺ってこんなに警戒されてんの!?」 柾樹 「俺に訊かれても」 刹那 「……と、とにかく同行するから」 柾樹 「俺は構わないけど……深冬ちゃん?」 深冬 「……ごめんなさい、来ないでください」 刹那 「!?」 あ、傷ついた。 深冬 「その……わたし達のことは……     わたし達のことを知っている人じゃないと……きっと、驚くから……」 刹那 「うわああああっ!嫌われたぁああああああっ!!」 刹那が走り去っていった。 遥かなる旅路……さらば友よ。 深冬 「あっ……そんなつもりじゃ……」 柾樹 「仕方ないよ。刹那はあとでフォローしておくから。……行こうか」 深冬 「は、はい……」 俺が歩き出すと、深冬ちゃんは俺の服を掴んで一緒に歩いた。 深冬 「……柾樹さん、なんだかお兄ちゃんみたいです……」 柾樹 「それなら豆村が居るだろ?よく守ってくれてるし」 深冬 「みずきさんとは違います……。     みずきさんは幼馴染だけど、柾樹さんは……     一緒に居てくれるとあったかい、お兄ちゃんみたいです……」 柾樹 「……ありがとう、光栄だよ。そう言ってもらえて」 俺の言葉に深冬ちゃんは微笑む。 その笑顔がカワイくて、俺はその頭を撫でた。 深冬 「あっ……く、くすぐったいですよぅ……」 頭を撫でられて照れくさそうに微笑む深冬ちゃんは本当に可愛い。 そんな、のどかな家庭のワンシーンのようなことをやっていた時。 豆村 「深冬ー!深冬、深冬ー!?どこ!?どこぞー!深冬ー!」 少し離れた人垣に豆村を発見。 豆村   「あ、親父に悠介さん!深冬見ませんでした!?」 悠介&彰利『こンのゴクツブシがぁああああああああっ!!!!!』 バゴロシャァアアアアアアアンッ!!!!! 豆村 「ぶるぇあぁあああああっ!!!!」 ギュリギュリギュリギュリギュリドシャアアア!! 友が空中をキリモミで大回転しながら床に落下した。 それでもすぐに起き上がるのはさすがだ豆村。 豆村 「ぐはっ……!な、なにを……!?」 悠介 「貴様よくも大事な娘を攫ってくれたな!」 彰利 「よくもダーリンの深冬ちゃんをさらいやがったな!」 悠介 「おめおめ顔を見せやがって!くたばれ!くたばって詫びろこのボケ!!」 彰利 「おかげでラブリーな深冬ちゃんを見れなくなったじゃねぇの!この耳毛!!」 豆村 「ギャッ!ギャアアアアアアッ!!!」 ああ、豆村がボコボコにされてゆく。 拳で打ち上げられたり夢のタッグコンビネーション・DSCをやられたり、もう大変だ。 でも……目を見れば解る。あのふたり、全然手加減してる。 殴るというよりはむしろ遊んでいる感じだ。 深冬 「お父さん……」 柾樹 「今行くのはマズイと思う……火に油をそそぐだけだよ……」 深冬 「でも……」 ルナ 「大丈夫よ、加減してるみたいだから」 深冬 「お母さん……っ!」 ルナ 「うん。深冬、元気してた?」 深冬 「はいっ……はいっ……!」 ルナ 「そっちのキミは……まさっち、だっけ?」 柾樹 「……柾樹です。ごぶさたしています」 ルナ 「畏まったのは勘弁してよ、義妹達だけで十分だわ」 若葉 「誰が義妹ですか誰が……!」 木葉 「姉さん、殺っちゃいましょう」 柾樹 「若葉さんに木葉さん、お久しぶりです」 若葉 「黙っていてください、今はそれどころじゃありません」 木葉 「姉さん、非道い」 柾樹 「うわ……」 さすがだ。 あくまでマイペースだ。 春菜 「ほらほら、こんなところで喧嘩したら旅館が壊れるよ。落ち着こうね」 水穂 「そうですよ、そんなことになったらおにいさんが怒ります」 若葉 「水穂……いつから人に意見できるようになったのかしら……!?」 水穂 「はうっ!?い、いえ、あの……!あ、柾樹くん久しぶり〜……」 柾樹 「……逃げた方がいいですよ」 水穂 「そ、そうだよね、……さよならぁっ!!」 若葉 「待ちなさい水穂!今日という今日は摂関です!」 水穂 「いっつもされてますよぉっ!」 木葉 「姉さん、今日は街頭で日記朗読の刑がよろしいかと」 水穂 「そ、それだけはやめてくださいぃいいいいっ!!!!」 春菜 「あっ、こらぁーっ!喧嘩はダメだって言ってるでしょーっ!?」 疾風怒濤。 嵐が去るように、みなさんは走っていった。 ルナ 「元気ねー。それより深冬、出てきて大丈夫なの?     ここまで来たんだから、わたしから家に侵入してもよかったのに」 侵入と言いますか。 深冬 「会いに来たかったの、自分の足で……だから……」 ルナ 「うん、その調子。引き篭もってばっかりじゃ気が滅入るからね。     ありがと、まさっち。深冬を連れてきてくれたのね?」 柾樹 「途中からですよ。大したことじゃありません」 ルナ 「またいつでも遊びに来るといいわ。櫻子さんも喜ぶし」 柾樹 「………」 ルナさんは深冬ちゃんが生まれてから変わったそうだ。 悠介さんがそう言っていた。 前は自由奔放で、突然居なくなるような性格だったらしいけど。 今は……なんか、きさくなお母さんって感じだ。 ……まさっちって呼ぶのは勘弁してほしいけど。 凍弥 「心にぃいい宿るゥォオオオッ!!ハールマーゲドォオオオンッ!!」 御手洗「今こそぼくらのぉおおっ!!夢よ鳴り響けぇえええええっ!!」 柿崎 「オーウファイヤ!レッツファイヤ!」 鷹志 「まーきぃおこぉーれ!バーニンッ!!」 四馬鹿『あーしーたーも燃ぉおおえぇぁあああがりゃぁああああッ!!センキュウ!!』 考え事をしている中、マイクから鳴り響く声に苦笑する。 四人集まったからか、叔父さんも普段よりかなり暴走しているみたいだ。 ルナ 「元気ね。どう?混ざってきたら?」 柾樹 「遠慮しておきますよ。大人には大人の楽しみがあります。     変な言い方だけど、友達がずっと友達であるのって、いいじゃないですか」 ルナ 「ふーん……解ってるじゃない」 いい子いい子〜と言いながら俺の頭を撫でるルナさん。 柾樹 「や、やめてくださいよ……」 ルナ 「気にしない気にしない。     そんな頃から悟ってたら、いつか他のことにも線引いちゃうんだから。     楽しめる時に楽しみなさいな、ほら」 トンッ。 柾樹 「うわっ!?と、とととっ!?」 どさ。 背中を押された拍子に誰かにぶつかってしまった。 ゼノ 「……む。なんの真似だ貴様。勝負事なら喜んで───」 柾樹 「ぎゃあああ!!ゼ、ゼノさんっ!?」 ゼノ=グランスルェイヴさん。 俺が晦神社で地獄を見た原因だ。 豆村に誘われてあそこに行った時、 彼が趣味で育てていた盆栽を落とし、壊してしまったのだ。 その時のキレざまと言ったら ゼノ 「ぬぅうううううう!!小僧ォオオオオオオオオオッ!!!!!!」 柾樹 「ヒ、ヒィイイイイイイッ!!!!」 ルナ 「あちゃ……ちょっとゼノ、やめなさい」 ゼノ 「黙れ腑抜けが!人に溺れて力を無くした貴様に用など無いわ!     おのれおのれおのれぇええ……!!     小僧……我が盆栽の恨み、忘れたことなど一秒たりとて無かったわ……!!」 盆栽でここまで怒る人って初めて見た。 顔立ちはいいのに、普段閉じてる目を見開くと怖いのなんのって……! フレイア「───ゼノ。やめろと言っているのよ」 ゼノ  「……フレイアか。黙っていろ、これは正当なる神罰だ。      あの盆栽は長い年月をかけて育てたのだ……!それを……それをォオ……!!」 セレス 「その盆栽なら悠介さんに壊れる前の状態まで復元してもらったでしょう」 ゼノ  「黙れ吸血鬼……!これはケジメの問題なのだ……!」 フレイア「……人に溺れたのはどっちかしらね……」 セレス 「まったくですね。……あら、柾樹さん。お久しぶりですね」 柾樹  「ど、どうも……」 フレイア「ゼノ、ハッキリ言うわよ」 ゼノ  「ぬ……?」 フレイア「盆栽なんてものをやりだした貴方が悪い」 ゼノ  「……フン、貴様の意見など元より関係ない。      退屈たるこの世界に戦い以外の『楽しみ』を得た我の気持ち、      ……フレイアよ、貴様には到底解るまい……!」 フレイア「昔そう言ったわたしを異端だって言ったのは何処の誰よ」 ゼノ  「そのような昔のことは忘れた」 フレイア「……この中で一番変わったのって絶対貴方よ、ゼノ」 ルナさん……いや、フレイアさんが呆れている。 ルナさんは二重人格みたいなもののようで、時折フレイアという人と人格が入れ替わる。 フレイア「深冬ちゃん?あんな風に育っちゃダメよ?」 深冬  「……はい、おばあさま」 フレイア「おばっ……!ぐくっ……い、いつ聞いても響く言葉だわ……!」 ゼノ  「やはり子など生むものではないな、フレイアよ」 フレイア「ふん、それでもそこの1000歳ババア吸血鬼よりはマシよ」 セレス 「なっ───!どうしていきなりわたしの話になるんですか……!」 ゼノ  「老人扱いされているフレイアにババアとは……ヤキがまわったものだ」 エドガー「───……死神。もう一度言ってみろ」 うあっ!?セレスさんまでエドガーさんに入れ替わった! ゼノ  「フッ……エドガーよ、      貴様の痛みと我が盆栽の痛み……比較するまでもなく貴様の負けだ」 柾樹  「あのー……なんの勝負をしてるんですかあんたら……」 ゼノ  「黙れ小僧!      貴様に破壊され、己自身で幕を閉じれず散った我が盆栽の生涯……誰が知る!」 柾樹  「す、すいません……。      でも俺も盆栽が壊れた時に妙な絶叫聞いて、鼓膜が破れたし……。      あれ、悠介さんが居なければかなり危険だったんじゃ……」 ゼノ  「黙れ!貴様だけは許さん!」 フレイア「まーまー落ち着きなさいよゼノー」 エドガー「怒ってばかりではハゲるぞ、少しは落ち着くのだな」 ゼノ  「だ、黙れ!」 ああ、なんか恐ろしいことに……くいくい。 柾樹 「え?」 深冬 「……行ってください。ゼノさんは一度怒るとキリがありませんから……」 柾樹 「……ごめん、深冬ちゃん。ありがとね」 深冬 「……いえ。お気をつけてください、お兄ちゃん」 柾樹 「ええっ!?」 深冬 「ふふっ……一度言ってみたかったんです……」 柾樹 「そ、そう……それじゃ」 深冬 「はい、それでは」 ……焦った。 本気で焦った。 お兄ちゃんって……あー、心臓に悪い。 刹那 「……鼻の下、伸びてるぞ」 柾樹 「うわっ!?刹那!?」 刹那 「帰ってきたんだ、ウルトラマンの如く」 柾樹 「まだ何も訊いてないよ……それより言い掛かりはよしてくれ」 刹那 「まあ鼻の下が伸びてるってのは冗談だけどな。     いいよなー、柾樹は。     あの娘にお兄ちゃんって言われるのって、男子達の密かな憧れだったんだぜ?」 柾樹 「そ、そうなんだ……」 刹那 「豆村でさえ言われたことが無いらしい。お前、知られたら決闘申し込まれるぞ」 柾樹 「勘弁してくれ……勝てる要素が見つからない」 刹那 「如月高校のキリングマシーンだからな。深冬ちゃん関連ならまず殺されるぞ。     豆村にしたって深冬ちゃんに『お兄ちゃん』って呼ばれるのは、     心の底からの宿願だったらしいから」 柾樹 「……死ねるな」 刹那 「間違い無く」 柾樹 「刹那クン?今日のことは……」 刹那 「安心しろ、友達を売るようなことはしないよ」 柾樹 「せ、刹那……お前ってやつは……!」 ああ俺、こいつと友達でよかった……! ありがとう刹那、ありがとう……! 刹那 「その代わり、郭鷺の好きな物を教えろ」 柾樹 「………」 うわ……一気に冷めたよオイ……。 声  『さてさてぇええっ!!レディース・ゥエーンドゥ・……レディース!』 レディース以外にも居るでしょうが! というツッコミは心に任せ、聞こえた声に振り向いてみれば─── 会場の奥にある壇上に立ってマイクを握る彰利さんが。 彰利 『今日はよくぞ集まってくださいました皆様この野郎!     えー、今日皆様を呼んだのは他でもござんせん!     あの日の約束を今、あの日のままの姿で果たしたいと思った故である!!』 あの日の約束……?なんのことだろう。 彰利 『つーわけで子供は外に出てなさい!じゃないと大変なことになるザマス!     ルナーっち!セレーっち!ゼノーっち!計画通り子供らを強制退場ヨロシクー!』 柾樹 「え?え?」 ざわ……と周りがどよめく。 その中で人影がザァッと動いて───がばしぃっ!! 柾樹 「うわっ!?」 ルナ 「ごめんねー、そういうことだから。ゼノに襲われる前に外へ行ってね」 気づけばルナさんに抱きかかえられていた。 柾樹 「な、なにが始まるんですか?」 ルナ 「とっても面白いことよ。十数年ごしの計画ってやつね。     まあともかく子供は外にでてましょー」 柾樹 「アァアアアレェエエエエエエエエッ!!!!」 物凄い勢いで宙を飛ぶルナさん。そして目の前には壁が───って!当たる!ヤバイ! ───そう思った瞬間、俺の体は壁を通り抜けてその先の外へ降りた。 柾樹 「あ、あれ?」 ルナ 「いい?絶対に中に入っちゃダメよ?死にたくなかったらね」 柾樹 「死!?だ、大丈夫なんですか!?」 ルナ 「大丈夫よ、子供以外はね」 そこまで言うとルナさんは旅館の中へ消えていった。 それとほぼ同時に───ドゴゴシャッ。 刹那 「オフッ!」 突然虚空に出現し、俺の隣に落ちる刹那。 その横には豆村が降り立った。 刹那 「あー……いちちちち……!な、なんだぁ?     急に辺りが暗くなったと思ったらいきなり外……?」 豆村 「ゲフッ……!や、やっぱり親父達には勝てないな……強制排除された……」 見れば、首の後ろをさする刹那とボコボコにされて満身創痍の豆村が。 柾樹 「だ……大丈夫か豆村……」 そんな心配をした次の瞬間だった。 急に閉め切られた旅館の隙間から尋常じゃない黒い光が飛び出したのは。 柾樹 「なっ───!?」 俺はつい反射的にその出入り口に手を掛け─── 豆村 「ば、馬鹿っ!死にたいのか!」 たが、豆村が俺を押さえた。 柾樹 「し、死ぬって……!?」 豆村 「この光は月空力だ……しかも相当圧縮されてる……!     触れれば一瞬にして胎児以上に体を巻き戻されて消滅しちまう……!」 柾樹 「そ、それじゃ……みんなはどうなるんだよ!母さんは!?叔父さんは!?」 豆村 「……親父が言ってただろ、二度目の青春って。多分、その答えが……」 光が治まってゆく頃、閉まっていた出入り口が開かれた。 豆村 「……こういうことだ」 豆村が促す視線の先。 そこには…… 少年 「イッツァ!ヤーングメェエエエエエエエエン!!」 拳を突き立てる、少年が居た。 柾樹 「……これって?あいつ……誰?」 豆村 「……親父ぃ……」 柾樹 「───はいぃ!?」 豆村が呆れ顔で言う。 見れば、中に居た全ての人が俺達と同年代くらいまで戻っている。 彰利 「フハッ……フハハハハハ!!さあ!約束の時が来ました!!     皆様、かつての姿に戻ったからには心もあの頃に戻し、存分に楽しんでくだされ!     まあリミット決めなきゃ人として怖いからこの夏休みの間だけだけど。     みんなぁああああっ!青春は蘇ったかぁあああああああっ!!!!」 ……しーん。 彰利 「アレアレェ!?ど、どうしたんだみんな!嬉しくないの!?」 いや……ただ単に驚いてるんだと思うけど。 凍弥 「由未絵……?」 由未絵「凍弥くん……?」 来流美「うわぁ……ほんとに若返ってるわ……」 柿崎 「せ、青春がカムバック……!?」 御手洗「すごい……こんなことが現実で有り得るんだ……!」 鷹志 「真由美……」 真由美「鷹志……」 ノア 「……また、随分と背が縮みましたね。こんなに小さかったんですかわたしは」 サクラ「ガキです」 ぼかっ! サクラ「みうっ!」 遥一郎「……青春というか……この頃ってほんといろいろあったよな」 雪音 「ホギッちゃん!ホギッちゃん!ほらほら、ぴちぴちギャルだよー!」 遥一郎「……脳内は老いたままなんだな」 雪音 「うぐっ……ガッデムーーーーッ!!」 レイラ「不思議な力ですね……」 澄音 「……いいや、面白いよ。どこか清々しい気分だ」 レイル「うむ、こんなのはアルの親父でも出来るかどうか」 真凪 「ですね。まあ天大神なのですから、これくらいは出来るでしょう」 レイル「嫌味か?」 真凪 「さあ、どうでしょうね」 葉香 「……ふむ。やはり若い方がいい。     自分の力でもどうとでもなるが、一応喜ぶべきか」 俊也 「彰利のヤツ……心の準備くらいさせろっての……」 夏純 「……、……」 俊也 「っと、怖がる必要は皆無だぞ、夏純。     むしろサチ姉ェが泣いて喜びそうだし《ドゴシュ!》ぶっほぉっ!!」 佐知子「一言多いのよアンタは……!」 粉雪 「ね、これってあの頃より若くないかな……高校生くらいみたいなんだけど……」 彰利 「ポイントは女子高生であることですよ?」 粉雪 「変態」 彰利 「うわヒデッ!!」 でも確かに今の言動はどうかと。 悠介 「あ〜……この姿の頃は本当にいろいろあったなぁ……」 彰利 「青春、感じてる?」 悠介 「いや……思い出すのは苦労したことばっかりだ」 彰利 「よっ!苦労人!」 悠介 「やかましい!!」 若葉 「青春ですか……。この時におにいさまがわたしを見ていてくれたら……」 木葉 「姉さん、多分現状は変わらない」 若葉 「うるさいわね……」 春菜 「うん、やっぱりこの頃が一番動きやすかったかな」 水穂 「わー、すごいですすごいです!あの頃のままですよー!」 旅館の中に居た人達は次第に騒ぎだした。 彰利 「オーウその調子ネーッ!!みんな騒げー!     タイムリミットは夏休み終了までぞー!」 総員 『ハワァアアーーーーッ!!!!』 その場に居た大半が叫んだ。 拳を突き上げての咆哮は凄まじく、外に居た俺達が驚いてしまうほどだ。 彰利 「そう……!例えるならばキミ達はシンデレラ!     時間を限られたプリンス&プリンセスYO!     さあ!せいぜい楽しむがいい灰被りども!     ふふふはははははは!はぁっはっはっはっはっはっは!!!!」 悠介 「わざわざ腹の立つ言葉選んでるなぁ……」 俊也 「いつかの仕返しか……?」 旅館の中は本当に騒ぎの渦中といった感じだった。 豆村 「……予想以上だな」 柾樹 「……だな」 刹那 「な、なにが……どうなって……!?」 ばたっ。 柾樹 「あ、刹那が気絶した」 豆村 「チッ……クズが。この状況に精神が付いてこれなかったか」 深冬 「あたり前です……みずきさん……」 豆村 「あ……深冬。よかった、見当たらないから心配したんだぞ」 深冬 「遭難するより……いいです」 豆村 「うぐっ……!」 確かに。 柾樹 「でも……なんか入り辛くなっちゃったな」 豆村 「気持ちは解る」 深冬 「変わったのはきっと外見だけですよ……」 そうだろうか。 豆村 「うむ、深冬が言うんだから間違いない。俺は輪に入ってくるぜよ!」 ヒャッホーイ!と叫んで人垣に潜る豆村。 柾樹 「あっ!ちょ───あー……行っちゃったよ……」 深冬 「じっとしていられない性格だから……仕方ないです」 柾樹 「そうだけどね。無茶しなきゃいいけど」 不安は残るばかりだった。 豆村だし。 Next Menu back