騒ぎの渦中に問答無用の勢いで放り込まれた自分の人生に呆れる。 本気で嫌なわけじゃないけど、 限度を知って欲しいと思うのは欲張りじゃないということを俺は知っていた。 夏休みという長い休日を迎え、俺の一夏は穏やかな日々が訪れるはずだったのに。 そんなことを考えている自分でさえ、 もう懐かしく思える自分は果たして正常に時を刻んでいるのだろうか。 今はまだ───いつか目が醒めたとき、これが夢であることを願う。 そしていつも通りの朝を迎えるんだ。 こんな、滅茶苦茶な日々に手を振って─── ───詠え/我らの刻の歌───
【ケース05:霧波川柾樹(5)/騒がしモーニング】 朝、珍しく鐘が鳴る前に起きた。 と言っても、紗弥香さんに起こされてからの二度寝だが。 ……うっすらと目を開けると穏やかな陽気。 俺は余裕をもって起きれたことをなんとなく誇らしく思いながらベッドから出た。 時間はまだまだ余裕。 俺は窓を開けて一息つこうとして、窓に手を伸ばがしゃあああああんっ!! 柾樹 「うわぁっ!?」 豆村 「こンのクソ親父ィイイイイッ!!」 彰利 「ハッハッハ!動きが甘いぞマイサン!さっきまでの勢いはどうした!」 豆村 「朝っぱらから人の寝顔覗きにくるんじゃねぇよ!」 彰利 「覗く?馬鹿め!そんな甘っちょろことだけをするかと思ったか!ン見よッ!」 力を溜めるように言葉を放って、懐から何かを取り出す彰利サン。 ていうかあの……ここ、二階ですよ? 彰利 「しっかりとお前の寝顔をカメラに納めてやったわ!     しかもご丁寧に霊魂を呼び出す儀式までして撮った心霊写真!     マニアの人にオススメです!」 豆村 「こ、このクソミソッ……!!」 彰利 「はっはっはっは!この写真が欲しくば父を超えてみよ!     まあ無理だろうけど。ンなぁっはっはっはっはっは!」 豆村 「ト、トサカに来たぜこの野郎ォオオオオッ!!」 彰利 「こっちよ〜、トシく〜ん♪」 豆村 「気色悪い声出すんじゃねぇよ!っていうか誰だよトシくんて!」 彰利 「と見せかけ極道モンの右ィイイッ!!」 豆村 「なっ」 バゴシャア!! 豆村 「ぶぎゃっ!」 ドガシャパリィイイドガァアアアンッ!! ……豆村がとんでもない勢いで吹っ飛んでいった。 しかも勢い余って向かい側の家にまで飛ばされ、めり込んだ。 彰利 「……ふう、朝の親子スキンシップ終了♪」 死ぬって。 彰利 「これであいつも品行方正の良い子に育つだろう。ああ、俺ってば息子思い。     ……さて、この写真は服屋のオヤジにでも売りつけるか」 柾樹 「ど、どこが息子思いですか……」 彰利 「んお?オウ柾樹っちゃんじゃないか。モーニン」 柾樹 「モーニン……ってそうじゃないでしょ!豆村のヤツ死にますぞ!?」 彰利 「あー大丈夫、手加減してやったから。     あれでくたばるようじゃ俺の子供じゃねぇ」 柾樹 「………」 なんだか泣けてきた。 彰利 「オウオウ、友のために泣いてくれるのか。いい友達を持ったなぁみずきのヤツ。     思わず嫉妬してボコボコにしたくなっちゃうねィェーーーッ!!」 彰利サンが叫ぶ。 俺はまだやる気ですか?と呆れるしかなかドガシャアアンッ!! 彰利 「お?」 柾樹 「ぎゃああ窓があぁああっ!!」 豆村 「まだ終わってねぇぞ親父ィ!」 壊した窓を完全に無視した豆村が彰利さんに拳を放つ。 彰利 「掌握ッ!」 ブンッ───! 豆村 「へっ……?」 ───……ごしゃどがしゃぁああああああんっ!!!! 豆村 「げふっ……!」 触れられても居ないのに豆村が吹き飛ばされた。 彰利 「ほっほっほ、ワシほどに柔を極めれば空気投げなど容易いわい。     嗚呼、ストーンバスターが懐かしい」 豆村 「くそっ!まだだっ!」 彰利 「はははは!そうだかかってこい!父を超えてみよ!」 豆村 「うるせぇえっ!!」 どがしゃーん! ごしゃっ!ぱりーん! 柾樹 「あ、あの……そのくらいで勘弁して……」 彰利 「どうしたどうしたマイベイビー!     当たらない!当たらないなぁ水越ぃ!!見えている!見えているぞ水越ぃ!!」 豆村 「水越って誰だよ!くっそコノヤロコノヤロコノヤロコノヤロ!!」 ブンブン!ビュバッ! ボッ!ブファッ! 豆村の攻撃はことごとく避けられている。 ……次元が違うな。 彰利 「ほうれアッパーカットォオッ!!」 ビュッ───ボガァアアッ!! 豆村 「───!」 歯がぶつかる音のあとに豆村の体が勢いよく浮き上がり、天上に叩きつけられる。 ……人間じゃないっすよこの人達……! どしゃっ……。 豆村が糸の切れた人形のように倒れた。 どうやら失神したらしい。 彰利 「チッ、もう終わりか。馬鹿が、肩慣らしにもならぬわ」 な、何者ですかアンタ! 柾樹 「って……な、なんですか?」 彰利 「んー…………友の仇、討ってみるかい?」 柾樹 「勘弁してください、俺まだ死にたくないっす」 彰利 「オーウ、正直な子じゃのう。でも安心おし、殺すわけないっしょ」 柾樹 「……息子さん、ピクリとも動きませんが」 彰利 「へ?あーあー大丈夫、あと2秒程度で復活するよ」 ガバァッ!! 豆村 「てっぺんきたーっ!!死ねぇっ!!」 彰利 「踏み込みが甘いわクソマイサン!」 ボリュッ───ドゴォン!! 豆村 「あっ───は……?」 ぐしゃあ……。 心臓部分を射抜くように殴られた豆村が膝から崩れ落ちる。 彰利 「いいかセニョール。今のが豆村親父直伝のハートブレイクショットだ」 柾樹 「豆村親父って……あのじいさん?」 彰利 「おう、スパーリングの練習に付き合ってたら自然に身についたんだがな」 ……この人は一体、どういう青春時代を過ごしてきたんだろうか。 彰利 「そんじゃ、騒がせてソーリーネ、後片付けはキミに譲ろう。チャオ♪」 柾樹 「あ、はあ……って待ったぁっ!こんなの母さんに見つかったら殺されますよ!」 彰利 「もう手遅れみたいだぞ」 柾樹 「へ?」 ───殺気!? 来流美「……まぁ〜さぁ〜きぃ〜…………!!」 柾樹 「キャーーーッ!!」 振り向くと修羅が居ました。 とてつもない殺気です。 ああ誰かヘルプ! どうしてサワヤカになる筈だった朝にこんな恐怖が俺を迎えてくれるんですか!? 俺、なにか悪いことしましたか!? 柾樹 「俺じゃない!俺じゃないぃいいっ!話聞いて母さん!     そこに居る彰利さんと豆村がっ!!」 バッ!と窓際を指差す。 そこにはカーネルサンダースのおじ様が居た。 柾樹 「イヤーーーーァアアアアアアアアアッ!!!!なんでカーネルサンダース!?」 来流美「フッ……!面白い冗談だわ……ッ!!」 柾樹 「ちがっ……ちがぁああっ!!お、俺じゃ……はうあぁあーーーーッ!!!」 ドゴゴシャボゴドゴバキベキドゴシャア!! ───……。 ───。 紗弥香「それで、来流美さんに半殺しにされたの?」 柾樹 「俺じゃないって言ったのに……」 俺は紗弥香さんに手当てしてもらいながらカーネルサンダースへの憎しみを増量させた。 ええ、もちろん逆恨みです。 逆恨みですとも。 柾樹 「あー、そういえばその母さんは?」 紗弥香「久しぶりに授業してくるわーって、旅館の方に行ったけど」 柾樹 「……本気で柿が先生やってるの?」 紗弥香「うん、そうみたい」 柾樹 「………」 ちょっと想像してみた。 ───青春を取り戻した柿が先生役。 ……見てみたい! 柾樹 「あ、俺もちょっと行ってくるよ。どんな授業内容なのか気になるし」 紗弥香「そう?まあ気になることは確かだけど……気をつけてね?」 柾樹 「相変わらず心配性だなぁ」 紗弥香「心配のタネが何言ってるの」 柾樹 「…………俺ってそんなに子供っぽい?」 紗弥香「まだ幼さが抜けきってないね、うん」 柾樹 「………」 ちょっとショック。 柾樹 「それでもそんなに子供扱いはやめてくれよ」 紗弥香「子供を子供扱いしちゃいけない道理なんてないと思うけど」 柾樹 「うー……」 融通の利かない人だ。 俺は諦めて旅館を目指すことにした。 ─── ……さて。 キーンコーンカーンコーン……と、チャイムが鳴った。 何故旅館で!?と思ったが、どうやら悠介さんがチャイムを創造したらしい。 総員 『3年B組ィッ!柿崎先生ェエエエエエエエエエッ!!!!!』 ォオオッ!と教室が震える。 柿崎 「……よもや本当にすることになるとは思わなかった」 旅館の部屋を改造して作った教室の教壇では、柿がなにやらブツブツと言っている。 彰利 「早く始めろー」 柿崎 「やかましいわっ!心の準備くらいさせろ!」 彰利 「キャーーーッ!?教師が反乱を!?てめぇ本当に現役教師かこの野郎!」 柿崎 「おー教師だとも!どうせ俺はオーマイコンブに泣かされた男の中のひとりだ!」 彰利 「なにおう!?俺だってそうだとも!」 柿崎 「……弦月……」 彰利 「……柿崎……」 ふたりは何故か友情を築き合っている。 悠介 「妙な関連性の友情築いてないで始めるなら始めろ」 柿崎 「冷静にツッコミ入れるやっちゃなぁ。     ノリが無いのはイカンよ、出席番号6番の晦クン」 悠介 「わざわざ出席番号まで確認したのか……」 柿崎 「フフ……現役教師をナメるなよ……!」 凍弥 「誰がお前みたいな汚物を舐めるか」 柿崎 「おぶっ!?と、友を汚物とまで言うかぁっ!泣くぞこの野郎!」 由未絵「ま、まあまあ柿崎くん……」 柿崎 「……ったく……心は大人でも性格は全く変わってないなお前らは……」 来流美「柿崎くんが変わりすぎたんでしょ。本当に教師になるとは思わなかった」 柿崎 「俺だって永遠の18歳だぞ」 彰利 「ウソつけ」 柿崎 「即答!?お前って誰の味方だよ!」 彰利 「正義の味方」 柿崎 「悪者扱いかよ俺は……っ!」 ああ、柿が当然のようにからかわれてる。 遥一郎「ほい質問」 柿崎 「へ?あ、ああ、出席番号10番の穂岸遥一郎くん」 遥一郎「……ほんとにわざわざ出席番号調べてるんだな」 柿崎 「勝手に座った順に決めてるだけだが」 遥一郎「あー、それでさ。どんな授業するんだ?」 雪音 「あーおーう!気になるっすー!教えてぷりーず!」 遥一郎「黙れガッデム」 雪音 「いちいち突っ掛からないでよ!」 遥一郎「お前ってさ、いつまで学生の頃のノリを引っ張るつもりだ?」 雪音 「心は永遠の少女!」 遥一郎「似合わん」 ゴスッ! 遥一郎「ぐおっ!」 雪音 「次言ったら蹴るよ……」 遥一郎「もう蹴っただろうが……!後ろの席だからって好き放題しおって……!」 柿崎 「あーはいはい喧嘩はやめなさいねー。     で、只今の質問だが、授業は現在の学校の授業内容でいく」 彰利 「えー?かったるいぞセンコー」 柿崎 「いきなり不良学生気取ってんじゃねぇ!堕とすぞコラ!」 うお、教師らしくないことを。 悠介 「悪い、この馬鹿は無視して続けてくれ」 柿崎 「あー……まあ続けるって言ったって話自体は終わってるようなものだし。     それじゃあ授業を始めるか?」 彰利 「そんな、俺様心の準備が」 柿崎 「ではまず現国の124Pを開いてくれ」 彰利 「うわお、ホントに無視した」 鷹志 「中々サマになってるな。柿崎のヤツ、本当に教師だったんだなぁ〜」 柿崎 「出席番号11番、旧姓・橘鷹志ィ!私語は慎め!」 彰利 「やっだぁ〜ん!怒られてるぅ〜!うっそ〜!信じらんな〜い!みたいな〜!」 柿崎 「うっせぇぞ出席番号2番、死語は慎め締め出すぞボケ」 彰利 「ウヒョオ!?すげぇ言い方!」 真由美「あの……柿崎くん?あんまりヒドイ言い方は……」 柿崎 「先生と呼べ」 真由美「うわ……なりきってる」 彰利 「いや〜、このご時世に人を庇ってくれる人が居るとは。     青春が蘇る気分じゃわ」 粉雪 「………」 彰利 「い……」 粉雪 「………」 彰利 「…………あ、……あ〜……き、気の所為だな、うん。     夏の陽炎なんてよくあることだよなぁ、は───あははははははっ」 ……彰利さんが折れた。 どうやら粉雪さんには滅法弱いらしい。 悠介 「お前って見境無いくせに日余には弱いのな」 彰利 「ほっといてくれ……俺は粉雪を裏切る気はこれっぽっちもない……。     むしろ愛してる。抱き締めてリンボーダンスしたいくらいだ」 悠介 「お前……」 彰利 「むしろヤキモチ焼いてくれるのが嬉しくてヤンチャやってるんだけどな」 悠介 「いつか泣かれるぞ」 彰利 「その顔も見てみたい」 悠介 「…………性格変わってないよな、お前って」 彰利 「任せろ」 柿崎 「はい、この時代の覇者を……弦月、答えなさい」 彰利 「いっぱしのカキノキ科の落葉樹の実の分際で俺に指図する気か」 柿崎 「うわぁ偉そう!って、俺は今教師だろうが!」 彰利 「フフフ、俺は学生時代もこれくらいは言ったものぞ?」 柿崎 「その頃から不良だったんかい……!」 凍弥 「お前も似たようなものだっただろ?」 柿崎 「俺はこんなこと言ってないわっ!」 凍弥 「頭から煙出して真凪のヤツを困らせてたじゃないか」 柿崎 「あ、あれはっ……!」 サクラ「はう、サクラが答えるです」 柿崎 「へ?なにを?」 サクラ「へう?」 鷹志 「今お前教師だろが……。さっき問題出したろ?」 柿崎 「あ、ああ、そうだった」 凍弥 「さすがだパーシモン」 柿崎 「パーシモン言うな!」 来流美「授業進まないわよー」 柿崎 「誰の所為だっ!」 来流美「出席番号2番の所為」 彰利 「そうだそうだ!誰だよまったく!」 悠介 「……お前だろうが」 彰利 「え?ギャア!!」 彰利さんがショックを受けていた。 若葉 「ざまぁないですね」 木葉 「姉さん、同意見です」 春菜 「まあ仕方ないよ、アッくんだもん」 水穂 「ですねぇ〜」 彰利 「おんどれらなんでここに居るんじゃい!年齢違うんなら出てけ!」 凍弥 「俺達もお前より年上だけどな」 彰利 「うおうそうだった。ならいいや。さあ授業だパーシモン」 柿崎 「だからパーシモン言うな!」 凍弥 「騒ぐな柿〜!堕とすぞー!」 柿崎 「お前なぁ!〜〜〜ああもういいわ!授業再開!サファイアさん!答えて!」 サクラ「お〜らいです〜。     えーと、地上暦1194年の時代の覇者は、     グロウ=ケルヴィム=ジェライヴさまです」 柿崎 「………………………………………………………………………………………誰?」 サクラ「グロウ=ケルヴィム=ジェライヴさまです」 柿崎 「……違います」 サクラ「はうっ!?」 ノア 「馬鹿ですね……それは天界の覇者でしょう……」 サクラ「あううう……」 柿崎 「最近の若者はこんな問題も解けないのか」 凍弥 「若者じゃないだろ、本質は」 柿崎 「おだまらっしゃあ!じゃあ1979年に大業を為した者は」 凍弥 「随分適当な問題だな」 柿崎 「答えるだけで十分だよ……合ってる合ってないなんてどうでもいい……」 サクラ「はいですー!」 柿崎 「…………他の誰も答えないのか。仕方ない、サファイアさん」 サクラ「ゼロ=クロフィックスです」 柿崎 「……いや……誰?」 サクラ「ゼロ=クロフィックスです」 柿崎 「…………不合」 サクラ「やぅう!?」 レイラ「混沌と呼ばれる魔人、ゼロ=クロフィックスですよ?解りませんか?」 柿崎 「いや……そんな人居たっけ……」 柿がペラペラと教科書をめくる。 レイル「よし、ここは俺がレクチャーしてやろう。     そもそもゼロとは俺を精製するためのファクター……。     まあ、素体みたいなものでな、俺とレインはこいつの目から作られたわけで」 柿崎 「だーっ!いきなり訳の解らんことを語るな!」 レイル「魔人、ていうのも魔王カオスエグゼプターの加護を受けて産まれた所為で、     ヤツ自体は人のイイヤツだったんだが……     俺とレインに力を分けた所為で歳も取らなくなるわ、死ななくなるわ。     今のヤツはただの団子好きの最強人間だな」 柿崎 「……廊下に立ってなさい」 レイル「うおっ!?いきなりか!?」 でも廊下へ出てゆくレイルさん。 柿崎 「……と、とにかくそんな人は知らん。知らんから却下する」 彰利 「自分の無知を正当化してやがるぜあの柿野郎」 柿崎 「やかましいわ!」 彰利 「ぶーぶー教師失格ー」 柿崎 「生徒失格に言われたくない!」 彰利 「フフフ、そんな資格など学生時代に捨てたわ」 柿崎 「……どんな生徒だったんだよ」 彰利 「知りたがりは長生きせんぞ」 柿崎 「だったら意味深なこと言ってないで黙ってろボケ」 彰利 「……なにやらさっきからアタイばっか中傷されてるんですが?」 悠介 「お前が悪い」 彰利 「キミまでそんな!」 柿、なんか青年に戻ってから口調が厳しくなってるなぁ。 ……多分、知り合いと一緒だからだろうけど。 遥一郎「まあ細かい話は抜きにして、さっさと進もう」 柿崎 「……細かくないと授業にならんだろ……」 遥一郎「なんだったら指名してみればいいだろ」 柿崎 「……ふむ。それじゃあ130ページのちょっと注目の部分の答えを───」 ぐるうりと教室(?)を見渡す柿。 柿崎 「───うむ、観咲雪音さん」 雪音 「解りませ」 ゴピシィッ!! 雪音 「ふぎゃっ!?」 がたたっ!どたんっ! ……観咲雪音さん、高速で投げられたチョークにより転倒。 柿崎 「……そうそう、     即答まがいに解らないだとか謳ったヤツぁ堕とすから覚悟しやがれ」 ロクに考えねぇヤツは俺の生徒じゃねぇとまで言って、彼は微笑んだ。 その極上の笑みが殺気を帯びていることに気づいたのは恐らく全員だろう。 ……チョークを投擲されてノビている雪音さんを見ると、余計に寒気が増した。 ストレス、溜まってたんだろうなぁ。 柿崎 「次、豆村みずき」 豆村 「なにぃ!?せっかく今まで息を潜めてたのに!」 柿崎 「答えろ」 豆村 「グ、グウム」 柿崎 「グウムじゃない、答えろ」 豆村 「……8?」 ドゴォッ! 豆村 「ばぶら!」 どがしゃあんっ! チョークをブチ当てられた豆村が豪快に倒れた。 柿崎 「歴史の授業でどうして数字の答えが出るか……!」 とっても正論だ。 柿崎 「次、凍弥」 凍弥 「お?俺を指名か?断っておくが俺が本気を出したらスゴイぞ?     なにせ卒業するまでは勉強しまくってたんだからな。     ……パーシモン、貴様のストレス発散劇もここまでだ」 柿崎 「御託はいい、さっさと答えろ」 凍弥 「こ、こいつはいつもの柿崎じゃあ……ねぇぜ!?」 柿崎 「茶化してないで答えろ」 凍弥 「………」 柿崎 「………」 凍弥 「柿崎よ」 柿崎 「なんだ」 凍弥 「こんな歴史、俺が子供の頃には無かったぞ?」 柿崎 「当たり前だ。俺達が生まれるずっと前の歴史なんだ」 凍弥 「……それに俺が勉強したのは主に数学であってだな」 柿崎 「……つまり、解らないと?」 凍弥 「馬鹿野郎、お前の教え方が下手なんだ」 ドゴォッ! 凍弥 「ぐおっ!」 どしゃあ。 柾樹 「ああ……叔父さんまで……」 由未絵「か、柿崎くん、わたしが答えるよ」 柿崎 「ん?……そうはいかん。俺が指名するのだ」 由未絵「わ……」 彰利 「や、野郎……楽しんでやがる……!この状況を鼻で笑ってやがる……ッ!」 柿崎 「それでは次……橘鷹志」 鷹志 「チッ……!おい柿崎、さっきから頭の悪いヤツばっかり狙ってないか?」 柿崎 「黙れ、勉強をしない貴様らが悪い」 鷹志 「うおっ!言いきりやがった!」 彰利 「パーシモンがダークパーシモンにクラスチェンジしやがった!     この短時間で……なんて成長の早さだ!」 柿崎 「やかましいぞ出席番号2番!」 彰利 「なんだとこのハゲ!」 柿崎 「ハゲ!?だ、誰がハゲだ!」 彰利 「キミ」 ズビシと柿を指差す彰利さん。 柿崎 「人を指差して言うな!───ああもうお前答えてみろ!」 彰利 「ほう……このワシに指図するとは面白い……。     いいだろう!……小僧……だがそれはワシを倒さんと……無理だな」 柿崎 「ジャファー!?って、いいから答えろ!」 彰利 「いい度胸だ!でやぁーーーッ!!」 ギシャアアアアアアアアアン!! 柿崎 「キャーッ!?」 彰利さんの顔が黒く光り輝く。 当然その場に居た大半の人が心底驚いた。 ……やがてその光が治まった頃、彰利さんが殺気を撒き散らしながら立ち上がった。 そして─── 彰利 「わかりません」 何故か丁寧にそう答えドシュウ! とか見解を得ている内に投擲されるチョーク。 彰利 「オラ返すぜェッ!!」 ガシッ!ブオォン! だがそのチョークを掴み上げ、 そのままの勢いで振り投げる彰利さドゴォッ!! 柿崎 「ぐおっ!!」 ───……どしゃあ。 柿崎をやっつけた。 柾樹 「って、やっつけちゃ授業続けられないじゃないですか!」 彰利 「強敵だったぜ?」 柾樹 「そういう問題じゃないですよ!」 彰利 「なにぃ、それじゃあ地球温暖化に携わる問題なのかこのパーシモンは」 柾樹 「わけが解りませんよ!」 彰利 「馬鹿野郎!そんなことじゃあエースを狙えなくてよ!?     貴様程度のランクじゃあ、     ライバルのトゥシューズに画鋲入れることでさえ遥か上級の話ですわよ!?」 柾樹 「なんの話してんですか!」 彰利 「なにって……エースを狙えだろ?何言ってんだよまさっち」 柾樹 「………」 何を言っても無駄だと悟った。 ───諦めよう。 ───……。 ……。 ……さて。 暴走した柿が始末されてからというもの、微妙にやることがない。 ゲームも飽きたしなぁ。 柾樹 「……うん、まずは朝食をとろう」 考えてみれば紗弥香さんには手当てしてもらっただけで、朝食食させてもらってなかった。 ……しかし、どこかで食すのもアリですよ? 柾樹 「って言っても、実際家の周りより美味い店って思いつかないんだよなぁ」 友の里・鈴訊庵:美味 友の里・料亭:美味 友の里・喫茶:美味 紗弥香さんの料理:美味 母さんの料理:不味い 柾樹 「……うん。母さんの料理だけは却下しよう」 身のためだ。 刹那 「なにブツブツ言ってるんだ?」 柾樹 「え?あ、ああ、刹那か。それがさ、朝食を食してないことに気づいてね。     ていうかいつの間にまたこっちに来たんだ?」 刹那 「いや、暇だったから遊びに来た。って朝食か。そういや俺も食してなかった」 柾樹 「そか。ふーむ、どこか美味しい店を紹介してくれないか?」 刹那 「あー、俺の情報って人物関連ばっかりなんだよ。店とかはちょっと……」 柾樹 「あら……」 ふたりして項垂れた。 まいったなぁ、腹は減ってるんだけど。 柾樹 「刹那はどこがいいと思う?」 刹那 「カルディオラ」 柾樹 「……即答だな。なにかあったっけ?」 刹那 「まあまあ……助けると思って……な?」 柾樹 「……?」 ─── カランカラ〜ン。 悠季美「いらっしゃいま───なんだ、柾樹さんですか」 柾樹 「なんだ、って……一応お客サンなんだが」 悠季美「いいえ、営業スマイルする必要がなくなったから言っただけですよ」 柾樹 「ハッキリ言うなぁ。あ、モーニング頼んでいいか?」 悠季美「解りました。飲み物もいつも通りですね?」 柾樹 「うん、頼むよ」 悠季美が下がってゆく。 この夏休みの間は料理は悠季美のお爺さんとお婆さん、 おまけに美希子さんが担当している。 と言っても真由美さんもやる時はやるんだが、 今日はどうやら旅館の方の手伝いをしてるようだ。 柾樹 「大変だよな、あっち行ったりこっち行ったり」 刹那 「思ったんだけどさ。お前はバイトしなくていいのか?」 柾樹 「んー……うん。こづかい稼ぎのチャンスなんだろうけどさ、     悠季美が居て美希子さんも居るんじゃ、俺がやることなんて無いんだよ」 刹那 「それじゃなくても鈴訊庵とかさ」 柾樹 「ああ、そういうことか。     そうだなぁ……まあ、叔父さんと由未絵さんって究極だから」 刹那 「よく解らない答えだな」 柾樹 「つまりね、紗弥香さんも混ざれば恐いもの無しなの、あの家族は」 刹那 「……なんで?」 柾樹 「紗弥香さん、炊事洗濯掃除、すべて完璧だから」 刹那 「……なんか解った気がする」 柾樹 「おまけに朝は俺の世話。……感心するよ、本当に」 刹那 「でも説教は長いんだよな」 柾樹 「………」 黙るしかなかった。 昨日……いや、今日か? 散々説教くらったなんて報告はしたくない。 ───かたん。 柾樹 「ん?」 悠季美「モーニングセットです」 悠季美が営業奉仕のようにトレーからモーニングセットを俺の前に置く。 その顔は恐ろしいほどに接客スマイルである。 その、あまりのしおらしさに俺と刹那が固まってしまったほどだ。 悠季美「ごゆっくりどうぞ」 柾樹 「あ、ちょっとストップ」 お辞儀をして下がる悠季美を引き止めた。 悠季美「はい、なんでしょう」 柾樹 「あの……なんですかそれ」 悠季美「なに、と申されましても……仕事ですが」 柾樹 「………」 まあ俺も客なわけだけどさ……。 悠季美「それではごゆっくりどうぞ……」 もう一度ペコリとお辞儀して、悠季美は下がっていった。 刹那 「………」 そんな悠季美を見てポヤ〜〜〜っとした顔をしている刹那。 刹那 「……イイ」 柾樹 「なにが?」 刹那 「おぉゎっ!?」 柾樹 「うわっ!?」 刹那 「な、なんだ……柾樹か……脅かすなよ……!」 柾樹 「脅かすって……俺、話し掛けただけだけど」 刹那 「…………」 刹那は顔を赤くして俯いていた。 刹那 「いやさ、ウェイトレス姿の郭鷺もイイなぁ……って」 柾樹 「そうかな」 刹那 「そうだって。……まあ、何着ても似合うと思うけど。     あ〜……好きなヤツとか居るのかなぁ……居なきゃいいなぁ……」 柾樹 「……ん〜……そうかなぁ……」 あまりピンと来ないよな。 こういう仕事は慣れてるみたいだけど料理は下手だし、不器用だし。 どこらへんが好きなのかがまず解らない。 柾樹 「刹那ってさ、悠季美のこと好きなんだよな?」 刹那 「っ!…………お、おお……」 真っ赤になりながらも、やっと頷く刹那。 柾樹 「どこらへんが好きなんだ?」 刹那 「どこらへん、って……料理が苦手だけど頑張り屋なとことか……。     不器用だけどめげないとことか……笑った顔も可愛いしさ……」 柾樹 「………」 よく見てるんだなぁ。 俺、そういうの解らなかった。 柾樹 「そんなに好きならさ、告白とかしないの?」 刹那 「……したよ。そしてフラレた」 う…… 柾樹 「ごめん、俺……」 刹那 「気にするなよ。それでも郭鷺ってちゃんと今まで通りで居てくれてるんだ。     なんか嬉しいじゃん、そういうの。……恋じゃなくてもさ。     こうやって片思いでも、好きな人の近くに居られるのって嬉しいし」 柾樹 「………」 ……人のことアレコレ詮索するの、よくないよな。 失敗した。 刹那 「お前こそ誰か気になる娘とか居ないのか?」 柾樹 「え?お、俺?」 刹那 「そ。霧波川柾樹」 ……話しながら食べていたサンドウィッチを一旦皿に戻す。 柾樹 「俺……解らないから、そういうの」 刹那 「解らないって?」 柾樹 「ああ、つまりさ。刹那みたいに誰かに夢中になったことがないんだ、俺。     なんか流されっぱなしっていうのかな。     ホントに自分の意思でここまで成長したのか、時々不思議に思う」 刹那 「ふーん……まあ、人間誰しも悩みって抱えてるものだと思うけど。     あまり気にするなよ。背負いすぎはよくないぞ」 柾樹 「ん、ありがと」 最後の一口を食べて、俺は一息ついた。 刹那 「あ」 柾樹 「うん?」 刹那 「俺注文してなかった」 柾樹 「ははっ、要領悪いなぁ」 刹那 「そう言うなよ。忘れやすいのは世の中が平和だって証拠だ」 柾樹 「……そうかもな」 刹那 「すんませーん!俺もモーニングー!」 …………。 刹那 「ん?どうかしたか?」 柾樹 「ああ、いや。刹那に相談して良かったかな、って」 刹那 「おだてても何も出ないぞ?」 柾樹 「そんなのじゃないよ。ありがとう」 刹那 「あ、ああ……まあ、ホント気にするなよ」 柾樹 「うん、サンキュ」 席を立って悠季美を探す。 会計をしないで出るわけにはいかないからな。 刹那 「会計済んだら出るのか?」 柾樹 「ああ。刹那はゆっくりしていくだろ?」 刹那 「俺も食し終わったら出るよ。何も無いのに長居しちゃ悪いだろ?」 柾樹 「はは、お前って律儀だよな」 刹那 「礼節を忘れた人間は腐ってるってだけだよ」 水を飲む刹那に軽く手を上げて、俺は悠季美を探した。 柾樹 「悠季美ー?って、居た」 悠季美「ああ、柾樹さんですか。もう食べ終えたんですか?」 柾樹 「うん、美味かった。サンキュ」 悠季美「作ったのはわたしじゃありませんよ」 柾樹 「いいからいから。それより会計済ませたいんだけど」 悠季美「あ、はい。ちょっと待ってください。このお皿で最後ですから」 悠季美は皿の整理をしていた。 何枚かの皿を小分けする作業。 俺もやったことはあるが、非常に面倒だった。 そういえば悠季美は料理は苦手だけどこういうことは得意だったな。 悠季美「それでは、お会計が───」 柾樹 「あ、ちょっとストップ。刹那の分も俺が払うよ」 悠季美「いいんですか?」 柾樹 「あー……まあ、賭けごとをやって負けたんだ。だから俺が奢る」 悠季美「……相談料ですか」 柾樹 「うぐ。な、なんのことだ?」 悠季美「……いいえ。ただ柾樹さんは友人にはやさしいんですねって言いたいだけです」 柾樹 「なんだよそれ」 悠季美「なんでもありませんっ」 チーン。 ガガガ、ガガ。 悠季美「お金払ったら早く出ていってください」 柾樹 「む。いきなりどうしたんだよ。俺、なにか気に障ること言ったか?」 悠季美「知りませんっ!」 柾樹 「……むう」 訳のわからないヤツだな。 ……ん?でも、実際こいつって好きな人とか居ないのかな。 柾樹 「なぁ、悠季美。怒りついでに質問していいか?」 悠季美「なんですか、怒りついでって」 柾樹 「え?だって怒ってるじゃないか」 悠季美「怒ってません!」 柾樹 「…………」 このパターンで同じことを言うのは危険だよな。 柾樹 「えーとさ。好きな男って居るのか?」 悠季美「!!」 柾樹 「?」 質問の途端、悠季美の顔が真っ赤に染まった。 『何を言っているんだろう、この人は』って顔をして、やがて赤いままに俯いた。 柾樹 「……悪い、なんか怒らせたみたいだな、やっぱり。もう帰るよ、ごめん」 悠季美「あっ、柾樹さん!」 柾樹 「おつりならいいから。それから、サンドイッチ美味かったよ悠季美」 悠季美「あうっ……!」 耳まで真っ赤になる悠季美。 ……まあ、あの味で解らなかったら相当な馬鹿だ。 でも悪い味じゃなかったし、文句はない。 ……さて、これからどうしようか─── そんなことをぼ〜っと考えながら、俺は喫茶カルディオラをあとにした。 Next Menu back