───死国お姉さん(ベアハッガーさやか)/嫉妬する馬鹿と馬鹿息子───
【ケース06:霧波川柾樹(6)/ジェイコブズ】 ───喫茶店を出てから適当に歩いていた。 解くに目的もなかったので、これは散歩という形になっている。 彰利 「やれやれ、こう暇だとお空を見てても飽きてしまう」 やがて呟いた。 確かにその言葉は───って 柾樹 「人のモノローグを自分のもののように扱わないでくださいよ彰利さん」 彰利 「いやんバレた?」 柾樹 「バレないとでも思ったんですか……」 彰利 「オウヨ〜。なんせアタイの演技力ってば、     ハリウッドスターも自信満々に勝ち誇るほどですぜ?」 だめじゃないですかそれ。 柾樹 「あ、ところで柿は?」 彰利 「ご臨終です」 柿崎 「即答で殺すなよ!」 彰利 「おうブラザーもう復活したのか。     俺の攻撃を受けて立ちあがったのはお前で50人目だ」 柿崎 「お前ってさ、そんなに人を殴ったわけ?」 彰利 「まあまあ。青年の頃に追いかけっこした仲じゃないか」 柿崎 「あれは襲われたって言うんだ」 柾樹 「え?会ってたんですか?」 彰利 「ンム。あれはまだアタイが汚れのない純情バリバリボーイの時だった」 柿崎 「純情バリバリボーイは人を四足歩行で追いかけ回したりしないぞ」 彰利 「俺の中ではあれが究極の純情だったんだ」 いやな純情だ。 柿崎 「それで?こんなところでなにやっとんのだお前らは」 彰利 「愛の逃避行」 柿崎 「柾樹、お前っ……」 柾樹 「うわーぁあ!信じないでくれよそんなの!!」 彰利 「実は先ほど告白されまして」 柿崎 「……いや。先生は人の趣味にとやかく言うつもりはないが……」 柾樹 「言ってくれ!今だけは思いっきり抗議してくれ柿!」 彰利 「というわけで失せろパーシモン」 柿崎 「パーシモンじゃない!変な言葉だけ覚えるな!」 彰利 「そんな……せっかく先生が教えてくれた授業なのに、     覚えないなんて失礼じゃないか……」 柿崎 「1979年に大業を果たした者は?」 彰利 「え?誰それ」 柿崎 「憶えてないじゃないか!」 彰利 「まったく何をわけのわからんことを言っているのだこの柿は」 柿崎 「……俺さ。当時お前の担任だった先生を心底尊敬するよ」 彰利 「ん?あ〜あ、まあ及川は教師としては最高株だったしな」 柿崎 「及川?……ああ、担任か」 彰利 「そうだ」 ムン、と踏ん反り返って言葉を返す彰利さん。 ……どうしてそこまで偉そうなのかは謎だ。 柿崎 「どうしてそこまで偉そうなんだ……」 柾樹 「同意見……」 彰利 「偉そうなんじゃない……偉ェのよ。     ンマッ、なにせ?アタイには……ネタがない」 柿崎 「おいおい……何言いたかったんだよ」 彰利 「お黙り!言いたかったのに言えなかったアタイの気持ち、     カキノキ科の落葉樹に解ってたまるかこのパーシモン!」 柿崎 「…………なぁ柾樹。     どうしてこの親睦会とやらにはこういう馬鹿しか集まらなかったんだ……?」 柾樹 「……類は友を呼ぶ、って言葉……知ってますか?」 柿崎 「……凍弥か」 いや、恐らく貴殿自身もですよ、柿崎センセ……。 柾樹 「ところで、話逸れたから戻すけど。どんな出会いだったんで?」 彰利 「んお?おーおー、そういえばそんな話もしてたな。     アタイとしたことが。さて、アタイと悠介の出会いの一面だが」 柾樹 「いえ、そうでなくて」 彰利 「なにぃ!?じゃあ誰!?誰との出会いだって言うのYO!!」 柾樹 「……柿との出会い」 彰利 「アー、ソウイエバソンナコトモ言ッテタネィェー」 柿崎 「……真面目に話す気があるのかこいつは。     あー、もういい。俺はちと鷹志に用があるからこれで失礼するよ」 彰利 「フッ、俺に恐れをなしたか」 柿崎 「口の減らんヤツだな……そういうとこ、絶好調の凍弥みたいだ」 彰利 「なにぃ!?誰だそいつ!最強は俺ぞ!?」 柿崎 「俺は馬鹿さ加減の話をしているんだが。お前は最強馬鹿でいいのか?」 彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」 柾樹 「柿よ……キリがないよ……」 柿崎 「俺に言うな。この最強馬鹿に言え。じゃあな」 最強馬鹿って……。 とか思っている内に、柿は何処かへ歩いていってしまった。 彰利 「チィ……また妙なところであだ名を作ってしもうた……。     ワシとしたことが、歳かのぅ」 柾樹 「歳は関係ないと思いますが」 彰利 「まぁよ、まぁよ。ここは俺のフェイスに免じて喧嘩はよしゃんせぇ」 柾樹 「さっきから喧嘩売ってるの、彰利さんですよ」 彰利 「なにぃ俺がいつ!」 柾樹 「……常時」 彰利 「情事!?」 柾樹 「じょっ……って違います!常に、の方の常時です!!」 彰利 「まさっちがそんな子だとは思わなかったわ……!     きさん、そうやって深冬ちゃんを手懐けたんだろ!えーっ!?     あたしにゃちゃーんと解るよ!?」 柾樹 「解ってないじゃないですか!」 彰利 「ああ……!こんな情事にボインにパンチラが好きなヤツが深冬ちゃんを……!     はぁあ……っ!な、なんてことだ……!天変地異の前触れじゃ……っ!!」 柾樹 「何者扱いですか俺は……」 彰利 「なにって……天変地異?」 柾樹 「俺は彰利さんほどバケモノヒューマンじゃありませんよ!」 彰利 「なにぃ人様をバケモノ扱い!?許せねぇ!許せねぇぞまさっち!     人が態度を細くしてりゃあ図に乗りやがって!!」 柾樹 「い、いつ細くしたんですかぁーーーっ!!」 彰利 「そんな昔のことは忘れた」 柾樹 「うっわ卑怯!すごい卑怯ですよそれ!」 彰利 「馬鹿者!卑怯者こそが人の上に立つのだ!これギブアンドテイク!」 柾樹 「うわー!間違ってる上に無茶苦茶だぁあーーーっ!!」 彰利 「ということで深冬ちゃんとの出来事を事細かに話して聞かせぇ……!     アタイのツボにヒットする情事があったら見逃してやらんでもない……!     きっちり始末してやるからさぁ言えホレ言えさっさと言え……!」 柾樹 「見逃す気が全然ないじゃないですか!!」 彰利 「馬鹿野郎!!『見逃してやらんでもない』って言ったでしょう!?     もう何を聞いているのこの子ったら!     そんなだから他の子達に遅れをとるザマス!」 柾樹 「どこの教育ママですかあんた!     って、そもそも俺と深冬ちゃんの間にはなにもありませんよ!」 彰利 「嘘おっしゃい!!」 柾樹 「嘘じゃないって!ああもう!     どうして俺の周りって人の話を聞かないヤツばっかりなんだ!?」 彰利 「類は友を呼ぶ、って言葉を」 柾樹 「知ってるけど同類扱いはなんか嫌だ!」 彰利 「なにぃ!?何故かね!今の世、馬鹿の方が断然お得でっせ!?」 柾樹 「人の話は聞くべきだって言ってるんですよ!!」 彰利 「───深冬ちゃんに『お兄ちゃん』と呼んでもらったってホントかね?」 柾樹 「わぁ、空が蒼いですよ」 彰利 「人の話聞けこの野郎!!」 柾樹 「ほっといてください!人には聞いちゃいけない時があるんですよっ!!」 彰利 「ってこたぁやはり呼んでもらったのか!なんて羨ま……もとい羨ま……もとい!     と、とにかく羨ま……じゃなくて!     畜生!羨ましくなんかないんだかんなーっ!!」 ……羨ましかったんだな……。 彰利 「うぉおおおおおおおおおなんてこったぁぁああああああああっ!!!!!     こぉんな人畜無害そうな顔しといてからにぃいいいい!!     まさかまさっちが深冬ちゃんに『お兄ちゃん』と呼ばせて、     喜ぶような男だったなんてぇええええええええええええっ!!!!!」 柾樹 「うわぁあっ!ちょ、ちょっとやめてくださいよ!誰かに聞かれたら」 豆村 「まっさ〜きくーん?あっそび〜ましょー♪」 柾樹 「ギャア出たあああああああああっ!!!!」 豆村 「あ、待て待て、俺だよ俺。お前を永遠に狙い殺すライバル、豆村みずき」 柾樹 「キャーッ!何気に代名詞が変わってるーっ!!」 豆村 「黙れ裏切り者!お前がそんなヤツだなんて知らなかったぞ!     道理で俺のことを『お兄ちゃん』って呼んでくれないと思ったら……っ!!     ぐっ……うぐっ……く……ふっ……うぁあああ……!!」 マジ泣きしてるーーーっ!!! 柾樹 「あ、あの……豆村?」 豆村 「触るなぁっ!」 ばしぃっ! 柾樹 「つっ……!」 豆村 「く、くそっ……!くそぉおっ……!     深冬が言ってた『呼ぶ人は決まってる』っていうのがお前だったなんて……!     俺はっ……───なんだってんだよぉっ!!」 柾樹 「あっ───豆村!」 怒りと驚愕を露にした豆村が走り去っていった。 彰利 「うう、青春よのう」 柾樹 「なんてことすんですか!豆村のやつ泣いてましたよ!?」 彰利 「あーだいじょぶだいじょぶ」 柾樹 「今回ばかりは呆れましたよ!人の関係壊して嬉しいですか!?」 彰利 「だいじょぶだと言っとるでしょう。ホレ」 キヒィイイ───……ン! 彰利さんが手に黒い剣を構えると、それを唸らせた。 ……何処から出したのか解らないけど。 彰利 「───時の剣よ。時の流れに逆らいし我が力を増幅し、     我が願いを受け止め───彼の者を我が下へ届けたまえ……!     異翔転移!深冬ちゃんカムヒアーッ!!」 ガガァッ───キィインッ!! 深冬 「───……っ!?」 轟音の後、突然……その場に深冬ちゃんが現れた。 彼女の反応は当然のように混乱。 彰利 「使うのは久しぶりだったから不安だったんだけどな。     ルナカオスもまだまだサビないな」 彰利さんの言葉に、ルナカオスと呼ばれた剣が『ヴンッ』と赤黒く灯った。 けどそれも一瞬。俺が瞬きした一瞬のうちに、剣はいつの間にか消えていた。 彰利 「さあ深冬ちゃん。みずきの名前を呼んでくれないか?」 深冬 「彰利おじさま……?」 彰利 「んーん♪『お兄ちゃん』でいいのよ……!」 深冬 「………」 彰利さんの言葉に、チラリと俺を見る深冬ちゃん。 彰利 「……この小童が」 柾樹 「えぇっ!?」 彰利 「いやいや、俺ゃ何も言ってないぞ。     みずきの気持ちが殺したいほど解るだなんて俺ゃ」 柾樹 「……俺は別に……」 彰利 「あ〜ん?嬉くねぇってのか〜い?えぇ〜?     深冬ちゃんに『お兄ちゃん』言われて嬉しくねぇってのか〜い?」 柾樹 「い、いや……俺は、ですね」 深冬 「………」 いやっ、深冬ちゃん……!そんな不安そうな顔で俺を見ないでくれっ……! 彰利 「嬉しいのか嬉しくねぇのか!はっきりしてもらおうか旦那!」 柾樹 「だ、誰が旦那ですか!」 彰利 「話題逸らそうったてそうはいかねィェーッ!!さあ答えろ!」 柾樹 「う、ぐっ……!」 深冬 「……柾樹さん……」 あぁーっ!み、見ないでくれ!そんな目で見ないでくれぇーっ!! 彰利 「……で?どうなん?」 柾樹 「…………その」 彰利 「なに!?なによ!ハッキリ言いなさいよ!あなたっていつもそう!     適当に調子合わせてそれで乗りきってばかりじゃない!!」 柾樹 「それこそ適当なこと言わないでくださいよ!」 彰利 「え〜?でもねぇ、今だってそげなこと言って逃げようとしてんじゃにゃあの?     これだから逃げ腰ボーイは始末が悪いダニ」 柾樹 「なっ!い、いいですよ答えてやろうじゃないですか!人を馬鹿にして!」 彰利 「さっすがまさっち!キミならそう言ってくれると信じてたぜ!」 柾樹 「───はっ!」 しまった!ついカッとなって! ってうわぁ!なんかうるうると潤んだ目で深冬ちゃんに見られてる! 柾樹 「お、俺は……」 彰利 「俺は!?」 ハァハァと怪しい息遣いで俺に詰め寄る彰利さん。 柾樹 「俺は……」 深冬 「………」 口の前で拝むように手を絡ませ、やっぱり潤んだ目で俺を見る深冬ちゃん。 柾樹 「…………う、嬉しい、です」 彰利 「このゴクツブシがぁあああっ!!!!」 ぼぐしゃああああっ!! 柾樹 「ぐはぁあああっ!!!」 ───ごしゃあっ! 鋭い拳が俺の頬を捉えた。 体が浮いて、そして大地に倒れる。 深冬 「あっ、あ……!柾樹さんっ……!」 彰利 「おっと動くなよ深冬ちゃん。動くと……まさっちの貞操が危ないぜ!?」 悠介 「なぁにトチ狂ったこと言ってやがる馬鹿者がぁあああああああっ!!!!」 ボゴロシャァアアアアンッ!!!! 彰利 「ほぎゃあああああっ!!」 どがっ!ぐしゃっ!ごろごろごろ……キキィイイッ!ドグシャアッ!! 悠介 「あ゙」 深冬 「きゃっ……!?」 【ケース07:晦悠介/ジャネットさん】 思いっきり殴った拍子に吹っ飛んだ彰利が車に轢かれた。 その車には───見慣れた顔が。 俊也 「うわぁあっ!彰利ぃいいっ!?」 佐知子「ひ、轢いちゃったわよ!?大丈夫なの!?」 夏純 「……!……!」 彰利 「……と、俊也……俺はもう永くねぇ……」 俊也 「あ、彰利ぃっ……!」 深冬 「彰利おじさまぁっ!」 深冬が彰利を気遣って傍に走る。 ……別に放っておいても勝手に蘇るんだがなぁ。 彰利 「お、おお……深冬ちゃん……俺はもうダメだよ……」 深冬 「おじさま……!」 彰利 「俺の……最後のお願いだ……」 深冬 「は、はい……」 彰利 「………」 俊也 「彰利……?」 彰利が何気にショッキングな顔をした。 あっさりと“最後”を認められたのがショックだったんだろう。 彰利 「……深冬ちゃん……俺を、お兄ちゃんと呼ん───」 深冬 「嫌です」 彰利 「!」 うっはー、即答だったな。 悠介 「……ほら、起きろ柾樹───って、あの野郎……相当強く殴ったな……?」 ピクリとも動かない柾樹を見て呆れる。 悠介 「仕方ない───な。柾樹を回復させる霧が出ます」 イメージを弾かせると、柾樹の体の周りに霧が立ち込める。 しばらくすると柾樹の頬に存在した大きな痣が消える。 やがてうっすらと目を開く柾樹ボグシャア!! 柾樹 「ギャウッ!」 悠介 「うおっ!?」 突然、何者かに柾樹が殴られた。 彰利 「ちっ───畜生ォオオオオッ!!羨ましくなんかないぞぉおおっ!!」 ……彰利だった。 その目には涙。マジ泣きだ。 彰利 「うおっ……うぉおおっ!なんでなんで貴様だけぇええっ!!畜生ォオオッ!!」 ごしゃっ!ごしゃっ! 悠介 「だぁっ!馬鹿!死ぬだろマジで!落ち着け!!」 彰利 「ああ大丈夫大丈夫。慈しみの調べを最弱出力で装備してるから」 悠介 「ああ、なんだそれなら安心───意味ねぇっ!!     最弱じゃ意味ねぇだろうが!! 彰利 「このゴクツブシを亡き者にすれば、     時期『お兄ちゃん候補』はみずきか我のものぞ……!?     さすればみずきごときは我の手にかかりゃぁ……!クォックォックォッ……!」 悠介 「───彰利を吸い込んで転移させるブラックホールが出ます」 彰利 「なにぃ!?」 イメージを弾かせるとその場にブラックホールが現れる。 彰利 「ええっ!?あ、いや───今のウソ!ウソだからこれ引っ込めて!     ていうかどこ行きなのコレ!?」 悠介 「これ、なーんだ」 彰利 「お?ケータイだべさ。ダーリンたらいつの間にこんな文明機器を」 悠介 「携帯電話じゃない。     景色まで見れて、あたかも自分がその場に居るような感覚にさえ陥る創造物だ」 彰利 「おー、なに?アタイにくれるの?」 悠介 「いや、これは景色投影側。説明した方は転送先に居る人が持ってる」 彰利 「…………」 彰利が急に黙った。 かなり真顔だ。 彰利 「……アノー、ツカヌコトヲオ訊キシマスガ」 悠介 「訊くな」 彰利 「イヤァ訊かせてぇええーーーっ!!ま、まさかアレですか!?あの人ですか!?」 悠介 「たっぷり殴られてこい。半泣きしてたから高い確率で気絶するまで殴られるぞ」 彰利 「いやぁあああっ!!に、逃げる!俺は逃げるぞ!月空力!」 悠介 「───カオスエクリプス」 彰利 「ギャア!?」 彰利の月操力を無効果した。 彰利 「うわぁああっ!いやだぁあああっ!!     せめて回復系くらい使えるようにしてぇええっ!!     死ぬ!死にますよマジで!ねぇ!ねぇ!?頼むよダー」 きゅぽん。 消えた。 彰利 「いやぁああっ!!やっぱイヤァアッ!!」 あ、出てきた。 彰利 「負けられねぇ!これで負けたら───はうっ!?     あ、いやっ!やめれ!足引っ張るな粉雪!     俺まだ死にたくうひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!     やめひゃはひゃひゃっ!!足くすぐるっひゃひゃ───ヒャアアッ!!」 きゅぽん。 消えた。 最後に殴打音と彰利の悲鳴が聞こえたが、俺は無視してブラックホールを閉じた。 悠介 「それで?騒ぎの原因はなんなんだ?」 深冬 「それが……みずきさんが、柾樹さんを嫌ってしまって……」 悠介 「いや……だからその理由だよ、深冬」 深冬 「……その、わたしが『お兄ちゃん』と呼ぶ人の話で……」 悠介 「…………あの馬鹿どもが……」 まったく呆れる。 そんなことでここまで騒ぐのか……? ルナ 「そうね〜、人の娘で遊ぶのはやめてほしいわ」 悠介 「よっ、ルナ」 ルナ 「はお、悠介」 深冬 「お母さま……」 豆村 「お母さま……」 ざくっ。 豆村 「ギャーーーッ!!?」 ルナ 「……あのね。わたし、あなたのこと大嫌いなの。     お母さまだなんて言わないでくれる?」 豆村 「何故!?」 ルナ 「人の娘さらったくせに、何故だなんてよく言えるわね」 豆村 「深冬の居ない世界など考えられんね!     そのためなら───母者!貴様とも戦ってくれるわ!」 ルナ 「───いい度胸だわ……」 豆村 「あ」 ルナの髪の毛がざわめく。 フレイアと意識を交代したんだろう。 フレイア「……喧嘩売ったこと、後悔させてやるわ」 豆村  「は、はぁあ……!フレイアさんっ……!!」 悠介  「あー、ちょっと待てフレイア」 フレイア「───む。どうして止めるのよ悠介」 悠介  「みずきには俺から話があるから。ちょっと黙っててくれ」 フレイア「ちょっとー、仮にも母親にそういう言い方って」 悠介  「すりおろしニンニクが出ま」 フレイア「ひゃぁああああああっ!!!!」 ドシュゥウウウウウウンッ!! ……フレイアが物凄い速さで消え失せた。 豆村 「は、はふぅ……助かりましたお父さん」 悠介 「誰がお父さんだ。貴様なんぞに深冬はやらん」 豆村 「ええっ!?そんな!それじゃあまさか……柾樹に!?」 悠介 「……お前な。深冬の気持ちを無視して楽しいか?」 豆村 「へ?……あ」 悠介 「深冬が誰を好きになるのかなんてお前には関係ないだろう。     好きでいてくれるのは構わないが、それを押しつけるのはどうだ?」 豆村 「で、でもっ……!」 悠介 「俺はお前のそういうところが気に入らない。     一途なのはいいが、気持ちを押し付けすぎだ」 豆村 「………」 悠介 「お前は友達を大事にするところは彰利に似ていると思ったんだがな。     買い被りすぎだったか」 豆村 「ど、どうしてそう思うんですかっ!」 悠介 「呼び方の云々で友達を拒絶したお前がそれを訊くか?」 豆村 「あ───!」 悠介 「柾樹が深冬のことを好きだとでも言ったのか?」 豆村 「……い、いや……」 悠介 「深冬に手を出そうとしたヤツを排除してくれていたのは感謝する。     だがな。友達まで拒絶するヤツを、俺は認められない」 豆村 「拒絶だなんて、俺は……」 悠介 「ほう?あれは一方的に罵倒して勝手に逃げ出したんじゃないのか?」 豆村 「───!いつから見て───!?」 悠介 「最初からだ」 豆村 「う……」 悠介 「反省してるか?」 豆村 「………」 悠介 「……まあ、どうでもいいか。お前らの問題だ。     俺が首突っ込むのもどうかしてる」 豆村 「───……」 悠介 「けどな。俺も彰利も、友達を信用出来ないヤツは信頼におけないと思ってるよ」 ───…… 【ケース08:霧波川柾樹/ヴ・オンジョルノ】 柾樹 「あ……っ、いってぇ……」 痛む頭を押さえながら起き上がった。 豆村 「柾樹っ!」 柾樹 「うわっ!?あ、ま、豆村……?」 そこへくる怒声にも似た……叫び?なんと喩えたらいいやら。 豆村 「あ、あの……な。その……」 柾樹 「……豆村?どうかしたのか?」 豆村 「へ?」 柾樹 「悩みとかあるなら聞くぞ?……珍しく深刻そうな顔してるし」 豆村 「…………俺……」 柾樹 「?」 豆村 「ごめん……ごめんな……」 柾樹 「へ?───えぇっ!?」 豆村が突然泣き出した。 いつもの冗談かと思ったけど、その涙は本物で。 どうして泣き出したのかがまるで解らなかった。 柾樹 「ど、どうしたんだよ一体!     え!?俺、もしかして殴られどころが悪くて死にそうだとか!?」 豆村 「……はっ……はは……」 柾樹 「……ま、豆村?」 豆村 「……俺、どうかしてた……ごめん」 柾樹 「………」 話が見えないんですが? 柾樹 「ん……あ、そうだ。ごめんな豆村。     俺、お前に深冬ちゃんのこと話しておくべきだったよな……ごめん」 豆村 「い、いやっ!謝るのは俺の方なんだよ!     呼び方なんかで怒ったりして……ほんと、どうかしてたよ……」 柾樹 「……いいんじゃないか?それで」 豆村 「え───?」 柾樹 「それってさ、豆村がそれだけ深冬ちゃんのこと大事に思ってるってことじゃん。     確かに突っ走りすぎて深冬ちゃんの気持ち無視してることもあるけどさ。     そこまで大切に思ってくれる人、そうそう居ないよきっと」 豆村 「柾樹……」 柾樹 「まあ、深冬ちゃんに言い寄ってくる男どもを見てればそんなの解るだろ?」 豆村 「……そうだな」 ……なんかちょっと調子狂うな。 豆村は馬鹿やってなんぼな気がするんだが。 豆村 「なぁ柾樹。ひとつだけ正直に答えてくれ」 柾樹 「ああ」 豆村 「……深冬のこと、どう思ってる?」 柾樹 「唐突だな」 豆村 「頼む、真面目な話だ……聞かせてくれ」 柾樹 「……ん」 俺はしっかりと頷いた。 言うことは決まっている。 いや……ずっと、深冬ちゃんに対する気持ちは変わっていない。 柾樹 「俺は深冬ちゃんを妹だと思ってるよ」 豆村 「……そ、そうか……悪い」 柾樹 「悪い?……おいおい、悪いってことはないだろ。     俺はべつにお前のためにウソついてるとかそんなことじゃないんだ」 豆村 「……疑ってたんだよ、俺……。お前の信頼裏切ってた……だから……」 柾樹 「そっか。まあ大切なものを守りたい気持ち、解るし。そんなに気にするなよ」 豆村 「柾樹……」 柾樹 「俺はお前のこと、友達だって思ってるから」 豆村 「……うん」 柾樹 「だから、疑いがあっても謝れるのって友達ってことだろ?     ……俺はそれで十分だよ。こうして真剣に謝ってくれたじゃないか」 豆村 「…………ありがとう」 柾樹 「お、おい豆村?」 豆村が再び涙を流した。 柾樹 「な、泣くことじゃないだろっ!?」 豆村 「情けねぇ……っ」 柾樹 「へ……?」 豆村 「信じきれなかった……!俺……っ……情けっ……!!馬鹿だっ……!」 柾樹 「豆村……」 彰利 「そうだ、貴様は馬鹿だ」 柾樹 「うわっ!?」 いつの間にか背後に居た彰利さんが俺と豆村を見下ろしていた。 彰利 「そして俺も馬鹿だった」 その頬には殴痕がくっきりと。 言ってしまえばそれはひとつやふたつではなく、ヒドイものだった。 柾樹 「……また粉雪さんに殴られたんですか」 彰利 「今ようやくここまで回復したところなんだ……」 柾樹 「………」 これで回復した方ですか? 言いたくないですが、相当ですよ? 豆村 「親父……」 彰利 「……なぁみずき。人を信じるってのと友達ってのは違うぞ」 豆村 「親父?」 彰利 「何度も疑って、相手の事をもっと知ってな?     嫌な部分もいい部分も自分で出来る限り知ってさ。     そして……それでもこいつとなら馬鹿やっていけるって思えるのが友達だ。     ……俺は、そう思ってる」 豆村 「親父……うん」 彰利 「泣いて、少しは周りが見えるようになっただろ。     だったら深冬ちゃんばっか見てないで、もっと周りを見てみろ」 豆村 「………」 彰利 「俺が教えてやれるのはそれくらいだ。     ……前ばっか見ててもどうにもならない時があるってこと、憶えておけ」 豆村 「……ああ」 彰利 「そんじゃな。俺は帰るが……いい加減、道端で青春ドラマするのはやめとけ」 柾樹 「へ?ってうおっ!?」 いまさら、俺達を見る人々の視線に気がついた。 といってもそれらが全員知り合いだからたまらない。 豆村 「〜〜っ……!!」 これにはさすがの豆村も真っ赤だ。 豆村はどうもこういう不意打ち系には慣れていないらしい。 豆村 「こんのクソ親父ィッ!世間体気にして真面目ヅラして声かけやがったなぁっ!」 彰利 「ふはははははは!今頃気づいたかマイサン!甘いなぁ!甘すぎる!」 豆村 「こ、殺すっ!絶対に殺す!」 彰利 「くっはっはっはっは!!殺ってみろ!───俺を捉えられたらな!     アディオース!追えるもんなら追ってみろトシく〜ん♪」 ドシュンッ! 彰利さんが闇に紛れるように消えた。 豆村は彰利さんがどこに飛んだのかを気づいているのかのように走り出した。 ……その早さはスプリンターもびっくりの早さだった。 柾樹 「お、お〜い……」 ……ひとり残された俺は、ただ呆然とするだけだった。 柾樹 「………」 ───ぐるるぅ。 柾樹 「む……」 ……腹が減った。 モーニングじゃ軽すぎたかな。 柾樹 「うん、ここは紗弥香さんに作ってもら───って、     紗弥香さんは今頃鈴訊庵の手伝いか。どうしよ」 紗弥香さんの料理、結構好きなんだが……。 って、それなら鈴訊庵行けばいいんだよな。 作ってもらうってわけじゃなくて、ただ行く場所確定ということで。 作ってくれるならそれに越したことはないし。 柾樹 「……昔っから料理上手かったよな、あの人」 不思議な人だ。 昔っから元気で料理上手くて掃除も出来て…… あ、でも今じゃあ昔ほど元気はないよな。 なんか時々寂しい顔するし。 柾樹 「……昔か」 そう言えばいつからかな。 紗弥香さんのことを『紗弥香姉ちゃん』と呼ばなくなったのは。 小学……いや、中学上がったばかりあたりまでは呼んでたんだよな。 でも悠季美に注意されてやめたんだよな。 ……なんかその時からか? 紗弥香さんの元気が無くなったの。 呼び方が変わったから───ってことはないよな。 まさかなぁ。 柾樹 「紗弥香姉ちゃん、ねぇ」 ははっ、と笑った。 なんだか久しぶりに口にしたその発音が照れくさかっ───ズドドドドドド……!! 柾樹 「……オウ?」 なにやら嫌な予感がした。 な、なんだ?なんなんだこの寒気は!! 柾樹 「や……やばい!なんかやばい!とにかく逃げ」 どかぁっ! 柾樹 「げうっ!?」 突然の衝撃。 どこか柔らかく、しかし勢いの所為でとてもキツイ衝撃。 何事かと体勢を立て直─── 紗弥香「あうーん!柾樹ちゃぁああああああん!!」 ───す前に聞こえた声にハッとする。 紗弥香さんだった。 俺をギュムゥウウと抱き締めて暴走してる。 ああ、これだ。 昔はしょっちゅうこれで気絶させられてたんだった。 紗弥香「懐かしさも余って可愛いよぉおーーーっ!!らぶりぃいいいいいいっ!!!!」 ───ミキッ。 柾樹 「ぐえっ!?」 紗弥香「もう一回!もう一回言って柾樹ちゃん!     お姉ちゃんって!ね?ねっ!?ねぇったら!!」 ギリギリギリ……!! 柾樹 「げほっ……!さ、さや……!くるし……!」 ああ、お花畑が見える……!! ヤバイですよコレ……やばい!本気でヤバイです! 柾樹 「……───」 あ、あ、……い、息が出来ない……! だ、誰かたすけて……! 凍弥 「っと、見つけたぞ紗弥香───ってうおっ!?     こ、こら離せ紗弥香!柾樹が泡吹いてる!!」 紗弥香「あうぅーん!柾樹ちゃぁんっ!!」 は、はぁあ……!星が見えるよ……! チカチカと……き、綺麗です……か? 凍弥 「ったく───!紗弥香っ!」 輝く星々の中、叔父さんが紗弥香さんを押さえる。 その途端、器官が大きく息を吸い込んだ。 柾樹 「がはぁっ!はあっ!はぁっ!は……!げほっ!ごほっ!」 し、死ぬかと思った……! 凍弥 「ほらっ!注文書き途中で仕事ほっぽらかすなっ!戻るぞ!」 紗弥香「やぁああっ!やだぁあっ!もっと柾樹ちゃん可愛がるのーーーっ!!!」 ……やがて紗弥香さんは叔父さんに引きずられていった。 柾樹 「……封印しよう、あの言葉は」 そして俺は『紗弥香姉ちゃん』という言葉を封印することを決意した。 まったく、あんな細い腕のどこからあそこまでの怪力が……。 なんか理不尽だ……。 柾樹 「……またカルディオラで食すか……」 結局紗弥香さんに遭遇するのが怖くて、俺は鈴訊庵行きを変更した。 ……当然の行動だよなぁ。 【ケース09:晦悠介/親子と親友と友人の葛藤】 悠介 「ところで深冬」 深冬 「はい、お父さま」 悠介 「実際、どうなんだ?気になる男とかは」 深冬 「………」 ……ふむ。 悠介 「そっか、居るのか。そりゃなによりだ。     正式に付き合うことになったら紹介しなさい。     お前が選んだ男だ、よっぽどのことがない限りは追い出したりはしない」 深冬 「お父さま……」 悠介 「まあ、ルナとフレイアがどう出るかが問題なんだがな……」 深冬 「………」 どうなるやら。 親になるってのも複雑なもんだな……。 ……もちろん、面白くもあるが。 彰利 「YOダーリン」 悠介 「彰利か。どうした?」 彰利 「いやぁんもう、なんか息子どもの青春見るのが面白くてねぇ。     やっぱ息子と同じ目線で景色見るのって面白いわぁ」 悠介 「……まあな」 彰利 「そんじゃそろそろマイサンが来るから全力でからかってくるな。っと、悠介」 悠介 「うん?」 彰利 「愛してるぜ」 悠介 「寝言は寝て言え」 彰利 「っはは、その口癖だけは治らないな」 悠介 「ほっとけ」 彰利 「オホホホホ!照れやがってこの子ったら!でもそんな顔もステキねィェーッ!」 悠介 「手榴弾が出ます」 彰利 「ギャア!?前振りもなく!?」 俺はゆっくりとした動作でピンを抜いた。 5。 豆村 「見つけたぞ親父ィイイイッ!!」 4。 彰利 「ぐぅぅぃいぃいいいいゃぁああああぁぁぁぁ〜〜〜……っ!!!」 何故かスローモーションを実演する彰利。 3。 俺はそんな彰利に手榴弾をポンと投げた。 彰利 「ゲェッ!?」 彰利のスローモーションが解けた。 2。 彰利 「オラ返すゼェッ!!」 が、彰利が手榴弾を手に取り、その反動を殺さずに投げた。 1。 豆村 「へっ!?」 その先にはみずきがどっがぁああああああああああああああああんっ!!!!! 悠介 「あ」 深冬 「───っ!」 彰利 「た〜まや〜っ♪」 みずきがキリモミをしながら吹っ飛んだ。 深冬 「いやぁっ!みずきさんっ!」 豆村 「呼んだか深冬」 深冬 「きゃあっ!?」 悠介 「……普通に不死身なのは遺伝なのか?」 彰利 「いやん、そんな真顔で言われても♪」 豆村 「───悠介さん」 悠介 「ん?」 みずきが真剣な顔をして俺を見た。 豆村 「……俺、子供でした。すいません」 悠介 「……はぁ。俺は俺の道徳を謳っただけだ。     反省の気持ちがあるだけで十分なんだ、俺に謝ったりするな」 豆村 「………」 俺の言葉に、みずきはただ頭を下げた。 俺はただ苦笑して、深冬を連れてその場を離れた。 深冬は不思議そうな顔をしていたが、その場で乱闘が起こることは感じ取れたから。 そしてその数秒後、先ほどまで立っていたその場所から聞こえる炸裂音。 やっぱり苦笑するしかないその情景。 けど俺は楽しいと感じることが出来る。 ほんと、いつまで経っても退屈しないなと呟いて、 俺はその情景の中をのんびりと歩いた。 Next Menu back