───バトルビーン/CP9の脅威───
【ケース08:弦月彰利/サクレイル】 マキュリィイイイン♪ 彰利 「ハートに届け、プラクティッス♪」 再び襲い掛かってきたのでボコったみずきを道端に倒したままに美しいポージング。 おお美しい……ステキ俺様。 彰利 「ハッフゥ、やっぱりこう何年も刺激の無い日々が続くと実戦経験が薄れるのぅ」 手を開いて閉じた。 どうにもこうにも、空界を離れて長いと実戦の手応えがこう……。 彰利 「…………こいつじゃ相手にならんしなぁ」 気絶したままの息子を見て一言。 粉雪に聞かれたら殺されるね、ほんと。 彰利 「さぁてどうしたもんかね。悠介に喧嘩でも吹っかけてみようか」 きっとこれ以上無いバトルになりますよ?ホント、マジで。 でも『経験が消えるから喧嘩売らせて〜』じゃあ呆れられてボコボコに殴られるだろうね。 彰利 「どうすっかなぁ……むっ!?」 豆村 「死にさらせクソ親父ィイイーーーッ!!!!」 急激に起きたみずきが拳を振るってきた……しぶとさだけは一級品のようです。 だが甘し!さらに甘し!こりゃまたとんでもなく甘し!! 彰利 「バッスー・ピンコオ拳!!」 ドボォッ!! 豆村 「おほぅっ!?」 彰利 「コノヤローーーッ!!!!     そんなチンケな技でこの将軍様に勝とうなんざ十年早いぜーーーっ!!!」 ドゴボゴゴスドゴガンゴンガン!! 豆村 「ギャーーーッ!!!」 腹にピンコオ拳をキメ、崩れるように倒れたみずきに慈しみの調べを流してボコる。 こうでもしなければみずきが耐えられんのだ。悲しいけど、これって現実なのよね。 彰利 「お前は弱かったよ……だが間違った弱さだった」 豆村 「よわっ……!?ゲフッ……!!く、くっそ……!!     俺はっ……弱くなんかないっ……!同年代のヤツには誰にも負けたことが……!」 彰利 「お?そうか?弱くないか?お?     だったら今こうして地べたに這いつくばってるキミはなにかね?ん?」 豆村 「親父が異常なんだっ……!!くそっ……こんな筈じゃっ……!!」 彰利 「ほっほっほっほっほ!!それは貴様が弱い証拠ぞ!!     言い訳が拙者の異常などと!ザコめ!ザコめ!!」 豆村 「くっ……くぅううう!!!くそっ!てっぺんきたぞクソ親父ぃっ!!」 再び復活マイサン。ほんに元気なことで───それは我が息子らしくて実に結構。 でも弱いです。 彰利 「キミは俺には勝てない」 豆村 「勝てないなんてあるもんか!!くぅらぁっ!!」 彰利 「───“鉄塊(テッカイ)
”」 ゴギィンッ!! 豆村 「ぐあっ!?っつぅうぁあああああっ!!!!いてっ!いてぇえええっ!!!」 身体を固めた状態のオイラを殴ったみずきが絶叫。 我が身体は鋼の如し……攻撃なんぞは無駄無駄無駄。 彰利 「無駄だ……我々“CP9”(シーピーナイン)は人を超えた存在だ。     身体の硬さを鋼鉄のように変え、足の強さは空を駆ける。     そして、それだけ強さがあれば鎌鼬を放てる。さらに───指銃(シガン)」 スボォンッ!! 豆村 「───!?」 みずきの横にあった電柱に、人差し指だけで穴を穿った。 ヒビなどない、純粋な穴を空けたのです。 彰利 「鍛えた指は銃にも勝る。今の私は無敵だ。     この脚力と、この指銃、そして鉄塊があれば敵など居はしない」 豆村 「こっ……これのどこが異常じゃないっていうんだよ!!     ヒビも無しに穴作るとか普通の人間に出来るかよ!!」 彰利 「だから我々CP9は人を超越した存在だって言ってるだろうが。     異常と思うのは貴様が人を超越していないが故だ。     私などCP9の中では二番だ。貴様はまだCP9の真の強さを知らない」 豆村 「お、親父が二番……!?じゃあ一番は───」 彰利 「CP9は俺、夜華、春菜、粉雪、     ゼノ、聖、みさお、ルナっち、悠介の9人で構成されている。     そしてCP9のボスは我が親友だ。     や、今のところはここ十数年のあやつの強さは知らんのだが」 実際どうなんだろうか。 あれから欠かさず訓練してるっつーなら相当に強い筈だ。 だがしかし、こちとら様々な死神の様々な鎌をコピーして卍解に導いた存在。 努力は怠らなかったが、卍解習得と卍解時の能力の飛躍は相当だ。 だからそれを考えれば、俺の方が……───いや、楽観は弱みだな。 悠介のことだ、いつだって無茶な修行とかやってるんだろう。 ……先のこと考えよう。ちゃんと、未来での喧嘩が喧嘩になるように。 悠介相手に修行をして、しすぎるってことは絶対に無い筈だ。 ……あ、こげなこと思ってはいますが憎んだりなど微塵にもしてませんよ?マジで。 彼はいつでもどこでも僕の親友です。 それはどれだけ時間が経とうが変わらんのです。 豆村 「じゃあ───悠介さんの強さを超えれば親父にも勝てるってわけか……!!」 彰利 「へ?いやどうだろうね」 豆村 「ははっ……悠介さんか……。     落ち着いた感じはするけど、あんまり強そうには見えないよな」 彰利 「………」 本質を見極められないなら、この馬鹿息子は空飛ぶだけでしょうな。 豆村 「よっし!だったら強くなってやろうじゃねぇか!!     そんで強くなって深冬との仲を認めてもらってやる!!」 ああそりゃ無理だ。 こいつ、俺より強いってのがどういうことかまるで解ってない。 豆村 「俺……この夏休み利用して絶対に親父を越えてやるからな!!     人間を越えるだとかなんとか言ってたけど、     それって結局月の家系ってことだろ!?」 彰利 「キース、そうじゃない。私が言いたいのは───」 豆村 「誰だよキースって!」 彰利 「知らん!だがホームドラマとかではありそうな名前だから使った」 豆村 「……とにかく。親父を越えるのは俺の目標なんだよ。     ずっとそうだった。あんたはいつもいつも俺の先に立ってた。     親だから?───違う。先に産まれたから?───それも違う。     どれもこれも違う。あんたは俺なんかが敵わない“なにか”を背負ってる。     だからこそ勝ちたいって思った。俺はあんたを越えて───」 彰利 「キミは俺には勝てない」 豆村 「なっ……なんでだよ!」 彰利 「何故って、キミが幸せだからさ」 豆村 「幸せ……?なんだよそれ。俺が幸せになれる時があるとしたら、     深冬と一緒になった時か親父を超えた時だ!」 彰利 「………」 そう思えることが幸せだ。 そして───無限地獄を味わわなかったことや、幸福の中で産まれたことも。 彰利 「み〜ずき。現実を見ろ。お前は幸せだ。なのになんで強くなろうなんて思う」 豆村 「へ?だ、だから親父を越えるために───」 彰利 「ハッキリ言おう。お前じゃ無理だ」 豆村 「なんでだよ!俺だってちょっと強くなろうと思えばどこまでだってなれるさ!」 彰利 「人間がするトレーニングで?」 豆村 「……?なにが言いたいんだよ。親父、なんかヘンだぞ?」 彰利 「ふむん?んー……じゃあ訊くわ。お前、強くなってなにがしたい?」 豆村 「だからっ!親父を───」 彰利 「俺を越えて。それから?」 豆村 「それから?……それからって?」 彰利 「それを決めるのはお前だ。悠介も俺も、『それから』を持って強くなった。     だからだ。強くなりたいならまず『それから』を持て」 豆村 「それから……」 彰利 「親としての俺から言えるのは『幸せをないがしろにするな』ってことと、     『自分の力を信じすぎるな』ってこと。     そして───『強くなれても天狗にだけはなるな』。これだけだ」 豆村 「…………『力を信じすぎるな』と『天狗にだけはなるな』は似てないか?」 彰利 「それだけ気をつけろってことだ」 強くなれても慢心すれば死ぬ。 勇気と無謀は違うのだ。それを誤れば英雄だって死ぬ時は死ぬのだ。 彰利 「強くなりたいか?」 豆村 「なりたいさ───けど親父の力を借りたら意味がない」 彰利 「そりゃ結構。じゃ、いい師匠を紹介してやる。腕が上がるぞ」 言って、懐からメモを取り出すとサラサラとペンで情報を記入。 それをマイサンに渡した。 いつかこげな日が来ると思い、毎日持っていたものだ。 豆村 「これは……?」 彰利 「言ったろ。お前の師匠だ。そこでみっちり教えてもらえ。     “弦月彰利の紹介だ”って言えばすぐに通る」 豆村 「親父……───いいのかよ。俺、あんたを越えることが目的だぜ?」 彰利 「構わん。息子の成長を見守るのは親の務めだ。……楽しみにしてる」 豆村 「……吠え面かくなよっ!!」 そうしてマイサンは走り出した。 何処へかって?そりゃ地図が示す場所だぜキース。
【Side───豆村みずき】 豆村 「すんません!!」 そうして───俺は親父にもらった住所をもとに、そこへ駆け込んでいた。 使命感とかそんなんじゃないけど、 ともかく熱くなった頭のままだったから……正直何処をどう走ったのかなんて覚えてない。 けど俺は叫んだ。 ドアを開けて、思いっきり叫んだ。 豆村 「すんません!!     お、俺、親父っ───弦月彰利の紹介で来た豆村みずきっていう者です!!     その、あのっ……お、俺を弟子にしてくださいっっ!!」 櫻子 「あらあら、お安い御用よ」 豆村 「───へ?あ、あれ?櫻子おばあちゃん?」 ……あれ? あ、あれぇっ!!?えっ───こ、ここって蒼空院邸じゃん!! あれ!?なんで!? 櫻子 「彰利ちゃんの紹介で来たのよね?     はぁ〜……いつ来るのかってずっと待ってたのよ〜?     息子が成長したらいつかそっちに修行させに向かわせるから、って。     おばあちゃんもう楽しみで楽しみで……あ、お茶飲む?紅茶大丈夫かしら」 豆村 「え?あ、あっと……それは、まあ。で、あの……ここに誰か居るんですか?     俺、ここに来れば腕を上げられるって聞いて……」 櫻子 「ええ、わたしがお師匠よ?わたしがあなたに一からお茶を教えてあげるわ?」 豆村 「へ───お、お茶ぁっ!!?」 櫻子 「ええそうよ?そういう約束だもの。彰利ちゃんから聞いていないの?」 豆村 「あっ……あンのクソ親父ぃいいいーーーーっ!!!!」 くぁあああ騙された!! あの親父がメモ持ち歩いてる時点でおかしいって気づくべきだった!! しかも親父の言葉にちょっとジーンときちまった自分が許せねぇ!! 豆村 「うぉおおおおおおーーーーーっ!!!あンのド腐れがぁああーーーーっ!!!!」 俺の怒りは爆発寸前───というより爆発した。 今頃親父は俺のこの状況思い浮かべて笑ってやがるに決まってる! この怒り───もはやスピルバンでも止められん!! 豆村 「待ってろよ親父……!!今すぐ復習に───」 櫻子 「さ、座って。お茶を淹れるわ」 豆村 「櫻子おばあちゃん!今お茶どころじゃ───」 櫻子 「まあなに?わたしのお茶が飲めないっていうの?     弟子入りしに来たわりに随分と態度がヒドイんじゃない?     それともなに?師匠がこんなおばあちゃんでがっかりなのかしら?」 豆村 「やっ……そうじゃない、そうじゃないけど……」 櫻子 「そ?だったらそこにかけなさい。今美味しい紅茶を淹れてあげますからね?」 豆村 「うう……ちくしょう……!」 櫻子おばあちゃんは深冬の大事なおばあちゃんだ……その人の厚意を無駄には出来ない。 ちくしょう親父め……!こうなることさえ読んでたな……!? 【Side───End】
彰利 「ぶぐふははははははっ!!!ブフッ!!オブフッ!!     あ、ああもちろんだキース……!ぜぜ全部読んでいたさ……ブフホッ!!」 マイサンの行動を読んでいた俺は、それはもう笑った。 確認のために“影”を忍ばせておいてよかった、もうかなり笑わせてもらったぞマイサン! 彰利 「いやはや最高だ!最高の気分だよ!これだから息子をからかうのはやめられん!」 みさお「相変わらずのようですね。言いたいことがあるならはっきりと言ってやればいい」 彰利 「むっ!?みさおでねが!どぎゃんしたとよ!!」 みさお「どうもこうもない……。     彰衛門さん、あなたはいつまでみずきにこんな接し方を続けるおつもりですか」 彰利 「さぁねぇ」 みさお「幸せの中に居る息子を、そこから遠ざけるようなことを奨めるのは嫌だと?」 彰利 「そりゃ当然だ。俺と粉雪の息子だ、嫌う理由なんて無い。     むしろ……ああそうだな、可愛いもんだ」 みさお「調査官のような喋り方はやめてください。いつものようにお願いします」 彰利 「む……了解っと。んで?そっちの方はどうよ。     こっちは言った通り、息子を馬鹿にしながら遊んで暮らしてる」 みさお「こちらは……はぁ、まあ。変わりはありません。     というよりまず解らないのが、     何故親友関係にある彰衛門さんと父さまがここ数年もの間、     会おうとしなかったのかです」 彰利 「子育て……というか、『家族との交流を第一に考えよう』って約束だったから。     ホレ、俺と悠介って親がアレだろ?     だから自分たちが親になったら家族を大事にしようって思ったわけよ。     で、無事に育ってくれたらいい加減肩の荷を降ろそうってな」 みさお「………」 なにやら納得いかなさそうなみさお。 いかんな、脳まで夜華ウィルスにやられたか? 彰利 「あのねぇ、親友だからって常時一緒に居るわけじゃあねぇんだぜ?     そこんところ、ちゃんと解ってる?」 みさお「納得はしませんが、一応は。     大体それを言ったら、十八年前まではずっと一緒に居たではないですか」 彰利 「子供が居なかったからね」 みさお「………」 彰利 「ともかく。みさおさんもいい歳なんだから、     そろそろ恋人のひとりでも見つけてみたらどうかね?」 みさお「必要ありません。わたしは実力を度外した現状に満足しています」 彰利 「そうなん?だったら我らの現状にも満足しとるのよね?」 みさお「え……あ、いえ……」 彰利 「ほっほっほ!!だったら最初っからそう言やぁいいんだよぉおお〜〜っ!!!     しょおぉおおお〜〜〜〜がねぇえなぁあああ〜〜〜〜〜っ!!!     ひょっとして俺に構ってほしかったのかぁ〜〜〜っ!!?     しょぉおおおがねぇえなあぁああ〜〜〜〜ナランチャァアア〜〜〜〜ッ!!!」 みさお「〜〜〜っ……しばらく見なかったけれど全然変わってなかったようですね……!」 彰利 「俺だし」 自分で言っておいて、凄まじい説得力だった。 彰利 「で、キミはどうする?前みたいなちっこい体形になるかね?」 みさお「……現状に満足していると言った筈です。眠る時は刀になって眠っている分、     わたしはその分だけ時間に流されていないのです。     子供たちが生まれる前を遡ればあれから十八年経ちましたが、     わたしは十八年も歳をとってはいません」 彰利 「……何歳くらい?」 みさお「自分が一番活力に満ちた歳で時を止めてあります。     ……まあ、わざわざその年齢を彰衛門さんに報告するほど暇ではありませんが」 彰利 「相変わらず俺のこと嫌ってるのね……ハゲるよ?」 みさお「どうとでも言えばいいです。聖が父さまを嫌うように、わたしはあなたが嫌いだ」 彰利 「みさおさんのオタンコナスーーッ!!     バカー!ボケー!向こう見ずーーっ!!バッカみてぇ!!」 みさお「いきなりなんてことを言うのですか!!」 彰利 「なんとでも言えって言ったのは貴様だろうがこォのタコ助ェ!茹でるぞコラ!!」 みさお「……頭が痛い。よくも昔はこんな人に懐いていたものだと呆れます」 彰利 「私は一向に構わんッッ!!」 嫌われるのは慣れてるしね。 今さら誰にどう言われ様があたしにゃ関係ないねェ。 今の俺は家族と親友と悪友さえ居てくれりゃあなんも怖いモン無し!! むしろ今では嫌ってくれるヤツの方が新鮮味感じるくらいじゃわい。 彰利 「まぁともかく。現状で満足してるようではより一層楽しむことが出来ねぇぜ?     今が最高の時だって思ってても、     俺や悠介みたいにこうして楽しめる時間ってのはいつか必ず来るんだから」 みさお「……そこは先人の言葉として受け取っておきます。     それではわたしはこれで。父さまに報告することがありますから」 彰利 「報告?なにそれ」 みさお「空界でメルヘンが自爆したので、その補修をしたという報せです。     大空で自爆したので死者は零でしたが」 彰利 「まだ居るんかメルヘン……」 出来ればもう聞きたくない名前だったなぁ。 ……そういや涼香さん───というかイモ子はどうなったんだろうか。 相変わらず歳もとらずに肉じゃが食わせまくってるんかね。 彰利 「まあええわ、俺ゃちょほいと空界行ってくるわ。自分で見た方がいろいろと早い。     あぁみさお?しばらく地界に居るんだったらガキどもには     『俺はどこかを適当にうろついてる』って言っておいてくれ」 みさお「知ったことではない───と言いたいところですが、     それは父さまが良しとしない対応でしょう。解りました、訊かれたら答えます」 彰利 「……ほんに随分な嫌われっぷりですな」 みさお「そうしたのは貴方です。それでは」 トンッ───と地を蹴って消えるみさおを見送った。 まあ嫌われていようがいまいが、どうとでもなりましょう。 考えてみりゃあ未来で初めて同調した頃から随分と振り回していた。 それを思えばあの頃まで嫌われなかったのは奇跡に近いものだろう。 だから俺は案外落ち着いていた。 みさおも結構ノリは良かったけど、 迷惑だと思う時にはしっかりと迷惑そうな顔をしていたわけだし。 それを無理矢理説き伏せて謎的な行動に付き合わせたのは俺だ。 だったら俺はそれで満足さね。十分楽しんだしね。 彰利 「よっしゃ、そんじゃあ空界に行きますかぁ」 夜華ったら今頃なにやってるかなぁ。 向こうに行ったらしっかりと成長を戻してやらんと。 【ケース09:豆村みずき/ファイティングロード・ビーン】 オガシャアアアーーーーーン!!! 豆村 「とんずらぁああーーーーっ!!!!」 櫻子 「あっ───待ちなさい!まだお勉強は終わっていないのよ!?」 早々と焦燥感に駆られた俺は蒼空院邸というか櫻子おばあちゃんの魔の手から逃走した。 ごめんおばあちゃん……俺、こんなことしてられないんだ───!! もっともっと強くならなきゃいけない……! 豆村 「俺の『それから』はもう決まってる……!俺は強くなって深冬を守りたい!」 そのためにはまず目標である親父越えをしなければならない。 それも、普通のトレーニングじゃないトレーニングで。 ───……。 ───俺は走った。 走って走って───そして、あることを考え付いた。 豆村 「……親父は───」 親父は、悠介さんが自分より強いようなことを言っていた。 だったら悠介さんくらいの強さを得れば親父なんて簡単に越えられるのでは……? それなら悠介さんに弟子にしてくれ、って頼んで───いやダメだ。 悠介さんには深冬の件ですごく嫌われてる。 だったら……あ───だったらそう、そうだよ。 まずはその『嫌われてる』って部分を利用して闘ってみよう! そうすれば悠介さんの強さがどれくらいか解る筈だ! 豆村 「よしっ!そうと決まれば───おっ!?」 早くも悠介さん発見。 しかも深冬が一緒じゃない……千載一遇のチャンスだ!! ……けど深冬は何処に……って今はそれよりも強くなることだ! 豆村 「悠介さん!」 悠介 「ん───みずき?どうした」 豆村 「え?えっとその……」 意外なほどに普通の声に、勢いを殺された。 もっと敵意満々なら遠慮なく殴りかかれたのに。 豆村 「ええいままよっ!!悠介さん!俺と戦ってください!!」 悠介 「戦い?穏やかじゃないな。ひとまず理由を聞かせてもらっていいか?」 豆村 「強くなるための───親父を越えるための一歩です!!     そのためにも悠介さん!CP9のボスであるあなたに決闘を挑む!!」 悠介 「CP9って……あの馬鹿、また妙なことに人を勝手に巻き込みやがったな……?」 豆村 「胸、貸してもらいます!!」 拳を硬く握った。 大丈夫だ、きっとなんとかなる。 今まで悠介さんに殴られたことはあったけど、親父に殴られるより随分と痛くなかった。 悠介さんが親父より弱いなんて、どうせまた親父のデマカセに決まってる───!! 悠介 「はぁ……一回戦えばそれで気が済むのか?」 豆村 「勝つまで何度だって挑みます!」 悠介 「あのタコ……本気で面倒ごとに巻き込みやがって……!     ああもういい、解った。で?どんな勝負にするんだ?」 豆村 「喧嘩です喧嘩!言ったじゃないですか!!」 悠介 「喧嘩ね……で、手加減はどれくらいしてほしい?」 豆村 「いりません……全力で来てください!!」 悠介 「───……本気で言ってるか?」 豆村 「え───あ、当たり前です!俺はあんたを倒して親父も越えるんだ!」 悠介 「……たわけ。相手の力量も読めない馬鹿が大層な口を利くな」 豆村 「……?だからこうして戦って力量を見極めようって───」 なにを言ってるんだろう。 戦わなきゃ相手の力量なんて解ったもんじゃない。 そんなことは常識の筈だ。 悠介 「お前は勝負云々よりも“自分”を高めろ。     家系の身体能力に頼ってるだけで誰かに喧嘩売ろうなんてたわけてる」 豆村 「武者修行なんだから戦わなきゃ意味がないんだよ!!     もう問答はいいから戦ってくれよ!!     いくら悠介さんでも、来ないなら遠慮なく殴るぞ!!」 悠介 「……先を見ない突っ走り方は親譲りか?……まったく。     解ったよ、この状態で出せる全力で戦ってやる」 豆村 「あ───は、はい!!ありがとうございま───」 悠介 「ただし。……どんな状況になろうが“最後まで戦え”。それが条件だ」 豆村 「望むところッスよ!!     そっちこそ、親父が居ない所為で負けましたなんて言い訳しないでくださいよ!」 そうだ。悠介さんが俺を殴るとき、いっつも親父と一緒に殴ってた。 だから強いかもしれないとか思ってたけど、こんな人が強いわけない。 やっぱり親父のデマカセだったんだ。 悠介 「“戦闘、開始(セット)
”」  ゾワッ───!! 豆村 「───!!ッ……、ヒッ……!?」 殺気が溢れた。 余裕に包まれていた俺の身体は縮こまるように固まり、 俺の意思に反して動こうともしない。 身体はだらしなくガタガタと震え、歯がガチガチと音を鳴らし、思考が混濁する。 ヤバイ……ヤバイヤバイヤバイ! なにやってるんだ俺!なんでこんな人と戦おうなんて!? 冗談じゃない!勝てるわけがない!馬鹿か俺! 勝てる!?親父のデマカセ!?あの親父が親友である悠介さんのことでウソをつくか!! 死ぬ……!殺される!!ダメだ!勝てるとか勝てないとかの問題じゃない!! 馬鹿だ俺は……!こんなの───勝負にさえなりはしない……!! 悠介 「……寝言は寝て言え。不幸自慢をするわけじゃないが、     幸福の中で産まれたクソガキに鼻で笑われるほど弱い人生を生きてないぞ俺は」 豆村 「はっ……!はっ、はっ……!!はひっ……こ、こないで……くれ……!!」 悠介 「何処に行くんだ?お望みの全力じゃないか。     先に言った筈だぞ、どんな状況になっても戦えって。それでお前はどう返事した」 豆村 「うあ……うあぁああ……!!」 悠介 「はぁ、ったくしょうがない……。後悔してばっかりなのも親譲りか」 豆村 「は───、あ……あ?」 殺気が消えた。 涙が出るほどの状況の中、その束縛から解放された俺はその場に尻餅をついてしまう。 身体は未だガタガタと震え、立つことさえままならない。 悠介 「みずき。強くなりたいならまず家系の力に頼ることをやめろ。     家系の力じゃなくて自分で鍛えた力を頼るようにしろ。     ……そうだな、ゼノにでも稽古つけてもらうといい。     基礎からみっちり叩き込んでもらえ」 豆村 「あ……う、あ……」 まだ上手く回らない思考の中で必死に頷いた。 助かったという思考ばかりが渦巻いていて、まともな思考はてんで回転してくれない。 だから、一刻も早く解放してもらえるように頷いた。 悠介 「それから、ここで起きたことは忘れるように」  ───シパァンッ!! 豆村 「あ───」 デコピンをされた。 覚えていたのはそれだけ。 デコピン一発で空を飛び、気絶した。 けれど、目が覚めてみれば─── 誰になにをされて、どうして気絶したのかをまるで覚えてなかった。 ただ『ゼノさんに戦いというものをご教授してもらう』という意思だけは残っていた。 それからゼノさんに弟子入りして───俺の修行の日々が始まった。 Next Menu back