───冒険の書65/煌くシュリさん───
【ケース223:裕希刹那/利用価値ばかり求める人はダメだと思う】 ───ガチャッ……シャッ……シャッ……カンコンカン…… アイルー『ゴ〜ニャッ、ニャッ……ゴ〜ニャッ……』 刹那  「ビーン、そっちの鉱石取ってくれ〜」 豆村  「あー。ホレ」 刹那  「おわっ!っとっと!!ば、ばかっ!投げんなって言ってんだろが!」 豆村  「アホー!こっちだって錬鉄してんだ!手なんて早々離せっか!!」 刹那  「ス、ストレートにアホーってお前!!」 泉をあとにした俺達は、また別の場所に行って万鍛冶屋(よろずかじや)
を開いていた。 万鍛冶屋ってのはまあ……今さら確認するまでもないんだが、 雑貨から武器防具の売買、そして鍛冶まで請け負う猫の店である。 俺達は今日も飽きもせず鉄を鍛ち、完成した武器を磨いては顔を緩ませている。 どんなものにせよ、自分が作り上げた武器を見るのは嬉しいものだ。 ……なぁ〜んて思ってた時である。 ピキュリィイイイインッ!!!! アイルー 『ある日猫は閃いたニャーーーーーッ!!!』 刹那&豆村『うおぉっ!?』 我が家の猫が突然謎の電波に襲われ、どこぞの真祖の姫猫のように叫び出したのだ。 豆村  「なんだよ猫……飯ならまだだぞ?」 アイルー『ペット扱いするなニャ!!』 刹那  「で、師匠?いったいどうしたんで?」 いきなり閃いたニャとか言われたって訳が解らん。 どんな毒電波を受信したんだこの猫は。 アイルー『お得意様を作るニャ!最近売り上げがとってもよろしくないのニャ!!      だからお得意様を作って、さらにこの猫の店の噂を広めるのニャ!!』 豆村  「刹那ー、鉄鋼ガエルの在庫、まだあったかー?」 刹那  「あと4匹ー」 アイルー『無視するんじゃねぇニャてめぇら!!』 刹那  「おおいきなりキレた!!」 豆村  「猫ォ……カルシウムが不足してるんじゃないか?      だから好き嫌いせず、ペディグリーチャムミキサーを食えとあれほど……」 アイルー『ペット扱いするなニャ!!』 そもそもこの世界にペディグリーメーカーは存在せんが。 刹那  「けどさ、師匠。お得意様作るったってこの店自体に客来ないじゃん」 豆村  「客寄せするにしても、やっぱ客寄せするなら女だろ?      俺達がやったところで誰も来やしねぇって」 アイルー『女装でもするニャ?』 豆村  「そういう体を張った物事は親父に薦めてくれ」 刹那  「お前って何気に失礼だよな」 アイルー『お得意様には心当たりがあるニャ。中々レアな物をよく持ってくる彼らニャ』 刹那  「レアって……もしかしてあの原中の?」 豆村  「猛者って呼ばれてるあの人たちか……」 アイルー『よく知らないけどそうニャ!中井出博光と名乗ってたニャ!』 ああ……そういえば元気ハツラツと自己紹介された気がする。 関係ないが、あの人って後先のこと考えてんのかな。 刹那  「お得意様にするっていったって、どうやって?何処に居るかも知らないのに」 豆村  「だよな───ってそうだ、tellシステムがあるじゃん。      ちと待ってろよ猫、今連絡取ってみる」 アイルー『……破門にしていいニャ?この無礼者』 刹那  「俺はべつに構わないけど」 豆村  「そこは友達として構ってくれよ……───ってダメだ、全然繋がらん」 刹那  「連絡不可設定にしてあるとか?」 豆村  「さすがにそこまでは解らんけどさ。      まあ本気でお得意様にするんなら探しながら旅しなきゃダメだろうな」 アイルー『だったらまた材料集めの旅をするニャーーーッ!!』 刹那  「なっ……師匠また客が少ないってのに材料の無駄遣いしたのか!?」 豆村  「いい加減にしろ猫この野郎!!あれほど節約しろって言ったろうが!!」 アイルー『うるさいニャ!お金があったら、      得意様がどうのと言ったり自分で仕入れに行ったりしないニャ!!』 刹那  「クハァア材料への拘りとかじゃなくて業者雇う金が無かったのかこの野郎!!」 豆村  「ぶっちゃけすぎだろオイ!!どーすんだよこれから!」 アイルー『だからお得意様を作るっつーとるニャ!!      そのためには押しかけ鍛冶でもいいからやるべきニャ!!      あ、もちろん無理矢理にやって無理矢理に請求するのは無しニャ』 刹那  「ビーン〜、そこのヘカトンハンマー取ってくれ〜」 豆村  「いや待て、俺にやらせろ」 アイルー『なにする気ニャ!?』 まあいい。 旅しながら商売するのは前から同じだったし、そこんところに今さら文句は無い。 むしろ旅をしない限り、自分を強くする機会が無いんだからそれはそれでいい。 しかしだ。 師匠の材料調達を手伝わされるのは正直骨が折れる。 大体、金が無いなら絶対に買取価格が安くなる。 もしくはツケとか……弟子にツケする師匠は嫌だな、うん。 刹那 (しゃあない……これはマジでお得意様を探すしかなさそうだな) お得意様じゃなくても、もっと客が来るようにしないとメシ食うだけでも大変になるな。 それは困る。 メシが食えないと精神が疲れ果てるらしいし、そうなったらさすがにヤバイ。 刹那  (じゃあ、まずは情報収集からだな。      知ってる人全員に武器強化は足りてるかどうかを訊いて、      どこか一箇所に集まってもらうかすれば───) 豆村  「んあ?どした?さっきからブツブツと」 刹那  「ビーン、ちっと知り合い全員にtellしてくれ。      どこら辺に居るかを訊いてみて、      全体から見て一番近い場所に集まってもらって鍛冶の話を出そう」 豆村  「うお……本気か?ただでさえ材料無いってのに」 ピキュリィイイイインッ!!!! アイルー『ある日猫は閃いたニャーーーーーッ!!!』 刹那  「うおっと!?」 豆村  「だ、だからなんだよ!さっきから!」 アイルー『業者からツケで仕入れて準備を万端にするニャ!      客が来るならツケの分くらいなんとかなるニャ!』 刹那  「金の貸し借りは却下」 アイルー『なんでニャ!?』 刹那  「ろくなことにならないから。材料は俺達が採取するから、まずは旅に出よう。      で、材料が集まったらみんなにtell送ろう。武器強化と防具強化を承る〜って」 豆村  「OK。ところで猫よ、なんでこの猫の店には怪盗ペリカンが居ないんだ?      ヤツが居ればもっと客増えるだろ」 アイルー『じ……じつは……』 刹那  「実は……?」 アイルー『僕はかつて、      怪盗ペリカンによって猫と合成させられた子供なのニャーーーッ!!!』 ドドォーーーーン!!! 刹那&豆村『なっ……なんだってぇーーーーーっ!!?』 豆村   「それは本当か猫てめぇ!!」 刹那   「生き物なら無理矢理合成させられるのか猫てめぇ!!」 豆村   「つーかそれが原因で怪盗ペリカンが苦手になったのか猫てめぇ!!」 アイルー 『いや、全部ウソニャ』 刹那   「ビーン、そこの青竜刀取ってくれ」 豆村   「おお、こっちもヘカトンハンマーの準備出来てる」 アイルー 『だからなにする気ニャ!?』 まあそれは置いといてだ。 刹那   「で?本当はどうして?」 アイルー 『僕が行商猫だからニャ。怪盗ペリカンは持ち物を盗むのが上手いから、       僕が行くと商売道具根こそぎ盗まれるニャ』 刹那&豆村『あー納得』 物凄く解りやすい答えだった。 アイルー『怪盗ペリカンの飼い慣らし方は、卵の状態から育てる以外に無いニャ。      だから日頃盗まれてる仕返しとしてこっちも盗めばいいんだけどニャ?      怪盗ペリカンの巣は行商猫にとっては地獄に等しいニャ。      かつて僕もどれほどの赤字地獄を味わったことか……』 刹那  「なるほど。じゃあ俺達がアイテム持たずに卵を取ってくればいいんだよな?」 アイルー『そうニャ。怪盗ペリカンは盗めるものがこちらに無いと無力ニャ』 ふむふむなるほど……そりゃ簡単そうだ。 豆村 「なぁ刹那?お前、簡単そーだーとか思ってないか?」 刹那 「へ?簡単だろ?アイテムなんにも持っていかなけりゃ───」 豆村 「いやいや待て待て。いいか?物を持ったら盗まれるんだぞ?     それってさ、“卵”を持っても盗まれるってことだろ?」 ───うおう。 あーそっかぁ、そうきたかー。 こりゃ……苦労しそうだぁ……。 刹那  「まぁいいや、ここしばらく冒険なんてしてないし、行ってみるか」 豆村  「おぅ賛成!つーわけで猫!とっとと用意する!」 アイルー『猫じゃなくて師匠だニャ!!』 とまあそんなわけで。 久しぶりに冒険の許可が下りたので、俺達は怪盗ペリカンの卵を盗むために─── 刹那  「……ペリカンって何処に居るんだ?」 アイルー『エコナ平原ニャ』 豆村  「うおう……健康に良さそうな名前だな」 アイルー『そうかニャ?ともかくそこに居るとニャ。      ただし、一緒に平原ダックっていう戦士アヒルが居るから気をつけるニャ。      そいつはちゃんと普通に攻撃してくるから、武器無しだと大変ニャ』 刹那  「戦士……」 豆村  「アヒル……」 ホワンホワンホワン…… 刹那&豆村『ウェエッ!!キモッ!!』 顔がアヒルで首から下が羽毛に覆われたマッチョ人間を想像してしまった。 しかも一度鮮明に想像すると頭から抜け落ちねぇ!! 刹那 「よ、よしビーン。なんとしても本物の平原ダックを見て想像を払拭するぞ」 豆村 「お前も妙な想像したのか?気持ち解るから協力するけどよ」 冒険の目的に余計なものまで追加されてしまったが、ともかく。 俺達は練習してた鍛冶を終わらせてから荷物を纏め、 エコナ草原近くの町まで移動することとなった。 ───……。 ……。 というわけでエコナ草原。 うん、準備は万端。 アイテム類や商売道具とかは全て師匠ごと町に置いてきたし、 武器は敵に奪われる心配のない篭手だ。 握ってる限りは加えれて奪われることはきっとない。 刹那 「よっしゃあどっからでも来いやぁーーっ!!」 豆村 「俺の拳が真っ赤に燃えるゥ!!(なんの属性も持ってないが気分的に)」 目標補足! アヒルが大きくなったような存在を確認!! 手に鈍器持ってる! 豆村 「丁度一人だクックック……!     まずは小手調べとしてあの鳥野郎を血祭りにクックック……!!」 刹那 「含み笑いが堪えられない笑いになるとみっともないぞ」 ともかくダッシュ。 平原をうろうろと歩いている平原ダックウォリアーにまずは奇襲攻撃を!! 刹那 「篭手ナックル!!」 ボカァッ!! ダック『グアッ!?』 振るった拳が平原ダックの後頭部を叩く! が───あ、あらぁ……?あんま効いてない……? 豆村 「一撃で仕留められないのは拳士の恥ですわよせっちゃん!!」 刹那 「誰がせっちゃんだ!!」 豆村 「ここは俺に任せとけ!!我が右手に力よ篭れ!家系全力ナックルーーーッ!!!」 パシィッ!! 豆村 「らっ───?う、受け止め───?」 刹那 「ばかっ!この世界じゃ月の家系の腕力なんて使えないだろうが!!」 豆村 「ゲェエエ!!しまった思い切り忘れてた!!」 刹那 「そういう馬鹿っぽいところばっか父親に似るなアホォーーーーーッ!!!」 ダック『グワァアッ!!!』 ブォンゴペキャア!! 豆村 「へぶぉぇっ!!」 刹那 「ゲェエ!ビーーーン!!!」 ダックが振るう鈍器(太めの突起がいくつもついた鉄製棍棒)が ビーンの頬にメキョリと沈む! すげぇ!!あんな羽だか手だか解らんモノでよく鈍器を持ってられるもんだ! 豆村 「お、おのれやりやがったなこのっ!!こぉおおぶし拳拳拳拳ィイイ!!!!」 ダック『グワッ!《ガッ!ゴッ!パシッ!パシッ!スパァンッ!!》』 豆村 「ギャアア連撃が全て捌かれてるぅーーーーーーっ!!!!」 ダック『グワゥ!!』 豆村 「《グブチャア!!》ぷぉるぁあああっ!!!」 ああ、また顔面。 っと、冷静に分析してる場合じゃないな、俺も参戦しないと───!! 刹那   「こぉおおのっ!!はっ!とっ!セィイッ!!」 豆村   「よっしゃ挟み撃ちで一気にキメる!!そりゃそりゃそりゃあっ!!」 ダック  『グワッ!!《シパパパパパパパパァンッ!!!》』 刹那&豆村『同時攻撃でも捌かれてるーーーっ!!』 何者だよこのダック!神!? こっちの攻撃が悉く捌かれて─── ダック『グワッ!』 刹那 「うわ《ゴギィンッ!!》───ぁ〜……《ボテッ》」 鈍器が俺の頭にメテオストライク。 物凄い勢いで振り下ろされたソレは、あっさりと俺を神父のもとへと送った。 豆村 「せ、刹那!?刹那ァーーーッ!!?こ、このアヒル野郎!     そんな鈍器そんな勢いで頭に振り下ろしたら危ないだろがぁっ!!」 ダック『───グワッ!』 豆村 「だ、だから待ギャアアアアアーーーーーッ!!!!」 ───……。 ……。 ───。 神父 「おお旅人よ!死んでしまうとは情けない!」 刹那 「………」 豆村 「………」 まいった……あのアヒル強ぇえよ……。 どうかしてるよあの強さ……。 豆村 「こりゃ……骨を通り越して脊髄をも折る大変さだな……」 刹那 「喩えが訳解らんが、確かに」 豆村 「いやほら、大変なことを『骨が折れる』って言うだろ?」 刹那 「ああ……だから脊髄か」 さて……これは困った。 本気の本気で大変すぎる作業になりそうだ───が、 これを乗り切らねば猫の店に明日はねぇ!!  そんなわけで─── ROUND2!!───ボッコボコにされて昇天しました。 だがめげない!ROUND3!!───一撃で屠られました。 今度こそ!ROUND4!!───ジワジワとなぶり殺されました。 まだいける!ROUND5!!───……相手にされませんでした。 こうなったら禁断のROUND6!! ダック無視して卵奪還!……回り込まれてコロがされました。 ───……。 ……。 刹那 「つーわけで無理」 豆村 「ありゃバケモンだ。言うなれば……アヒルという名の兵器?」 兵器と書いてダックとルビりたくなる強さだ。 ありゃ希少だぜ? いっぱい居るかと思いきや、どうやらあの一匹だけみたいだし。 ちなみに“ルビる”とはネットとかでふりがなに使われるタグ(ruby)のことである。 この(ruby)で読み仮名を振るうことをルビる、と言う。染まらん方が身のため。 日常会話で自然にネット用語言ってるようじゃ、 本人がどれだけ否定しても既に廃人間(ハイマノイド)だ。 アイルー『なんとかならないニャ?』 刹那  「傭兵でも雇うか?」 アイルー『そんなお金ないニャ』 豆村  「じゃあどうすん───」 声   「ねーねーゆーすけー、あれ食べよあれー」 声   「あ、あのなぁ……ここには食い物ツアーに来てるわけじゃないんだぞ?」 刹那  「───……」 豆村  「………」 ……居た。 無料で傭兵やってくれそうな人。 豆村 「よぅし待ってろ猫!今すぐ用心棒雇ってくるから!」 刹那 「もし!もし、そこの御方ーーーーっ!!」 俺達の救いはここにこそあった! さあ駆け出そう!そしてブチノメしてもらおう!あのアヒル野郎を! 悠介   「ダメね!断るね!!」 刹那&豆村『速ェ!!』 そしていきなり断られた。 刹那 「あ、あのー?まだ何も言ってないんですけど……?」 悠介 「あぁ大丈夫だ、気にするな。断ってみたかっただけだから」 豆村 「悠介さん……ヘンなモン拾い食いしました?」 悠介 「いきなり失礼なヤツだな……」 刹那 「話も訊かずに断るのも失礼ですってば」 悠介 「ハハ、大丈夫だ。原中ではそんなもん正当化される」 豆村 「ここは原中じゃねぇッスよ!!」 なんっ……つーか……性格変わったか?悠介さん。 前はとっつきにくいというか、近寄りがたい雰囲気があったんだけど─── 悠介 「それで?話ってのはなんだ?」 豆村 「あっと、そうだったそうだった。悠介さん!     何も言わずに俺達に付いてきてください!!」 ビーンが有無も言わさず悠介さんの手を取って駆け出す!! するとサクシュッ。 豆村 「ぉゎいってぇえっ!!!」 ビーンが絶叫した。 ルナ 「許可なくわたしのゆーすけに触るなこの豆ーーーっ!!」 ルナさんである。 どこからともなく取り出した妙な形の剣で、 悠介さんの手を取ったビーンの手を軽く刺したのである。 豆村 「い、いきなりなんてことを!!今なに刺したンすかちょっと!!」 ルナ 「クチナワの剣」 豆村 「何故にそんな女神転生方面の武器を!?」 悠介 「時の大地ってあるだろ?あそこの神殿の中でちょっとな」 刹那 「え───あそこ入れたんですか?」 悠介 「入れたぞ?ムカツクこと津波のごとしだったが」 刹那 「そ、そすか」 入れなくて正解だったかもしれない。 刹那 「まあそれは置いといて。ちょっと欲しいものがあって困ってるんです。     欲しいもの自体はそう遠くない場所にあるものの、番人が居るというか。     だからパパーッと倒してくれませんかね?」 悠介 「あぁすまん、俺今戦いより純粋に冒険楽しんでるだけだから。だから断る」 豆村 「そんなあっさり……」 悠介 「もっと頑張ってみたらどうだ?いきなり番人に挑むんじゃなくて、     レベルを上げてから立ち向かってみるとか」 豆村 「無責任に頑張れとか言うんじゃねー!こっちはもういっぱいいっぱいなんだよ!」 刹那 「というわけで殺せ!殺すのだ!!」 悠介 「お前らなぁ……承諾しなかったからっていきなり本性出すなよな」 豆村 「聞けば悠介さんは困った人を見捨てておけない性格と聞く!だから助けろ!」 刹那 「正義の未来のために助けるんだ!!」 悠介 「神降の極悪巫女か貴様らは……」 何かを思い出したのか、物凄く嫌そうな顔をしている。 なにかあったんかな───ってそういや、 見せてもらった記憶の中で神降に行った記憶があったっけ。 どっちかっていうと彰利さんが地獄を見ただけだった気がするけど。 悠介 「とにかく断る。悪いけどな、あまり時間が残されてないんだ。     頼むんだったら誰か別の人にしてくれ。必要な時以外はもう戦いたくない」 刹那 「なんで!?戦いっていったら悠介さんじゃないっすか!どこぞの戦闘民族並に!」 悠介 「人をサイヤ人みたいに言うなばかっ!!     俺はべつに好きで戦ってたわけじゃ───〜〜〜っ……とにかく、     悪いが他をあたってくれ。     俺はもう、自分が必要だと思う瞬間以外じゃ戦いたくない」 ルナ 「そういうことだからゲットアウト!失せなさい!」 豆村 「うわ〜、ルナさんに英語ってすげぇ似合わねぇ〜」 ルナ 「ほっといてよこのマメ!!行コ、ゆーすけ」 悠介 「はいはい」 ……それっきり、悠介さんは振り向きもせずに町の雑踏に消えてしまった。 豆村 「なんだよ。困った人は見捨てられないんじゃなかったのか?     それとも子供だからって差別ですか?まったく……」 刹那 「言ってても仕方無いだろ?素直にレベルでも稼ごうや。     冒険に出ること自体が少なかったんだから、     こんな低レベルで卵を奪えってのは確かに無茶だった」 豆村 「いきなり理解者ぶるなよぅ。俺だけが悠介さんに愚痴こぼす悪役みたいじゃんか」 刹那 「や、俺も悠介さんに文句ならいっぱいあるぞ?     でもそれこそ言っても仕方ないことだろ?     どんな理由があるにせよ、自分の都合だけ相手に押し付けて、     断られたら罵倒するんじゃあ最悪に格好悪いぞ」 豆村 「ウグ……」 刹那 「戦いといったら悠介さん、って、俺達妙に考えすぎてたんだよ。     もうほっときゃいいじゃん。逆に“戦いすぎだ”って思えるんだから」 そうだ、もういい。 あの人が守りたいのは俺達なんかじゃなくて、たった一つだけなんだ。 茶化すつもりも馬鹿にするつもりもない。 頭の中で文句なら言うが。 なんだよチクショー、少しくらい手伝ってくれてもいいじゃんかタコー。 【ケース224:晦悠介/夏空の休日】 ───……。 ルナ 「ねぇゆーすけ。こうして逃げてきちゃったけど、ほんとによかったの?」 悠介 「いいのいいの。それより次の精霊が居る場所に行こう」 ルナ 「むー、お腹空いた」 悠介 「あのなぁ……」 刹那たちをほっぽって歩き始めて数分。 俺とルナはまだ町の中を歩き、ぽつぽつと会話をしていた。 精霊の加護集めも至って順調。 敵と会えば全力で挑み、危険と思えば素直に逃げ、 素直に冒険者としての醍醐味を堪能していた。 ルナもすこぶる機嫌がいい。 こいつに言わせれば、一緒に居るだけで楽しいというのだが…… 自分の感性から言うと、俺なんかの何処がいいんだろうかって感じだ。 まだ好きって言葉も言ってやれてないし、それを言うにはまだ感情が足りない。 言ってやりたいんだが、それに伴った何かがまだ足りないんだよな。 うむぅ……。 ルナ 「……ゆーすけ?」 悠介 「よしっ!」 ルナ 「わひゃっ!?な、なになに!?どしたのゆーすけ!」 悠介 「ルナ!」 ルナ 「は、はいっ!?」 悠介 「…………好きだぞ?」 ルナ 「…………………………」 向き合って肩に手を置き、言ってやった。 すると───みるみるうちに顔が真っ赤になって、 言われたままの表情で───ポテッと大地に倒れた。 それはまるで、回転しすぎて倒れた某大王の大阪さんのようだった。 悠介 「え───ちょ、ルナ!?ルナァーーーッ!!?」 その後、ルナが再び目を覚ますのはこれより30分もあとのことだった。 ───……。 ……。 で…… ルナ 「もっかい言ってもっかい!ね!ね!?ゆーすけーーーーっ!!」 目覚めてからはこんな状態である。 現在俺は、無責任な言葉というのがのちほど、 どれだけ影響を及ぼすものなのかを身に染みて感じている次第である。 ルナの性格を考えれば解りそうなものなのに、俺もまだまだ馬鹿だった。 むしろ俺だから馬鹿だったのか、くそぅ。 俺は後ろから首に抱きついてスリスリと頬擦りしてくるルナを鬱陶しがるわけでもなく、 ただどうしたものかと思案していた。 ふーむ……普通に“好きだ”って言えたよな。 これって俺の感情が乏しいからか? はたまた普通に好きだからなのか?解らん。 よく好きな人と顔を見つめあってると恥ずかしくなるというかむず痒くなるというが…… 悠介 「よしルナッ!」 ルナ 「う、うん!なになにゆーすけ!」 悠介 「………………《じー……》」 ルナ 「?」 悠介 「《じー》…………」 ルナ 「…………………………、……!《なにか理解に至ったらしい》」 悠介 「《じー…………むちゅっ》むぐっ!?」 ルナ 「んー♪」 悠介 「むぐぅっ!?んぐむぐぅうぅううううっ!!!!」 ルナの顔を見ていたら、突然上機嫌な顔のルナに唇を奪われた。 しかもルナは遠慮なく、周りを気にするでもなく俺の頭を掻き抱くが如く掴むと、 さらにさらにと唇を合わせ、やがて舌を(略) ───……。 ……。 悠介 「………」 アア、空ガ蒼イヤ。 などとホウケている場合ではなく。 悠介 (……鏡が出ます、弾けろ) 鏡を創造して、自分の顔を覗いてみた。 すると、信じられないくらいに真っ赤になってる自分がそこには居た。 あぁ〜あ、情けない顔しやがって。 なんだいその困ったような顔は。 などと思っていたら、鏡の中の俺の顔の横に、ひょいと現れるルナの顔。 その顔がヤケにツヤツヤしてるのは、恐らく気にしたらいけないことなんだろう。 ルナ 「どうしたの?」 悠介 「……ん。なっさけない顔してんなー、ってな。     昔の俺だったら、いったいどんな顔して鏡に映ってたんだかって」 無表情だっただろうか。 それとも不良を気取った仏頂面だったらろうか。 まあ、今となってはどうでもいい過去のことだ。 その時に自分が何をしてたのか、何を思ってたのかも。 ───父さんはこの世界を、つまんなくても生きていけるって言ってた。 でも俺はこの世界が尊い。 この世界に産まれ落ちたことを、心から感謝する。 現在に至ることが出来た事実を、今までの人生を以って祝福できる。 俺が辿り着くことの出来た現状は、きっとつまらなくなんかない。 だから父さん───俺は、この世界を楽しみながら生きていくよ。 なにもかもを忘れちまってもいい。 ただ、この世界がこんなにも楽しいことだけは───ずっと胸にとどめておく。 いつか時が来た時、俺は悔いの無い生き方が出来たよ、って父さんに言えるように。 それでもいつか、この世界をつまらないって思えた時は─── 俺も家族を支えながら生きていこう。 つまらなくても生きていけるって、そう思えるように。 ルナ 「……悠介、お父さんのこと考えてる」 悠介 「え……解るのか?」 ルナ 「だって悠介がそうやってやさしい顔になるのって、     お父さんのこと考えてる時だけだもん。     ホモっちの時は困ったような楽しそうな顔だけど、やさしい顔になるのは……」 悠介 「へえ……」 そうなのか、初めて知った。 父さんを思い出すと、俺はやさしい顔になるのか。 悠介 「はは……自分のことなのに解らないことだらけだ」 でもそれでいいと思えた。 そうだ、今はまだいい。 自分の力を信じて、自分の力にしていって、それで……あとは夢の続きを見るとしよう。 越せぬ壁など我が身にあらず、我が意思こそが無限の自由。 その意を以って、出来るところまで。 悠介 「よし、メシ食いにいくか」 ルナ 「ヤ。わたし悠介の作ってくれたゴハンがいい」 悠介 「お前さっきあそこのメシ食いたいって言ってただろうが!!」 ルナ 「ぶーぶー!違うよゆーすけー!     わたしはあそこにあった料理を悠介が作ってくれたものを食べたかったのー!!」 悠介 「げっ……ゲーム世界の料理のレシピなんざ知るかぁーーーーっ!!」 今はまだ、この“楽しい世界”を堪能しよう。 俺の運命が辿り着く場所に、俺自身が辿り着くまで。 Next Menu back