───猫たちの葛藤/ビスケッティングオリ〜ヴィア───
【ケース18:ドナ様(再)/その男の名はオリバッッ!!】 パァンパァンパ・パァンパァンパ・パァンパァンパパンッ! 丘野 「ヘイッ!」 パァンパァンパ・パァンパァンパ・パァンパァンパパンッ! 中井出「ヘイッ!」 パァンパァンパ・パンッ! 蒲田 「ヘイッ!」 パァンパァンパ・パンッ! 田辺 「ヘイッ!!」 パァンパァンパ・パァンパァンパ・パァンパァンパパンッ! 島田 「ウッ!」 総員 『ハァアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ───     ポォーールトッ!!パラディーーゾォーーーゥ!!!     海は素晴らしィッ!!!!』 ドナ様「プフゥ〜〜〜、やはり叫ぶのは気持ちがいい。     キャメラメンどもも去ったし、蒲田も田辺も元に戻ったし。なんつーか爽快」 悠介 「たまにはこうして叫ばないと疲れるな」 いやいちいちごもっとも。僕たちとっても満たされてます。 ドナ様「しっかしいい天気だねぇ〜」 遥一郎「まったくだ。蒼空好きな蒼木には丁度いい空か?」 澄音 「うん、夏の空は広く高くて、見ていて気持ちがいいね」 オリバ「自分ガチッポケニ見エテクルゼ」 総員 『うわ似合わねぇ!!』 灯村 「ま、まあトチ狂ってるオリバは黙殺するとして。実際、こういう日っていいよな。     なんていうか夏ならでは?そんな感じがする」 丘野 「俺も」 岡田 「わいも」 瀬戸 「ミーも」 中村 「拙者も」 殊戸瀬「あたいも」 清水 「おいどんも」 蒲田 「それがしも」 島田 「やきいも」 真穂 「海とか行って泳ぎたくなるね」 仁美 「スイカ割りとかしたいね〜」 麻衣香「うんうん。楽しそうだね〜」 ドナ様「はっはっは、いや愉快愉快〜〜。     いや〜、やっぱこう……なんつーの?ほのぼのとした雰囲気っていいもんだよね。     こうしてみんなで語り合ってると、なにもかもを忘れてしまいそうじゃわい」 オリバ「解ってるじゃないかソノダ〜〜」 ドナ様「うるせぇ!!散眼しながら笑むなオリバ!!」 悠介 「───じゃなくて!マテ!     説明はどうなったんだ!?暴露というか、全部話すんじゃなかったのか!?」 オリバ「オヤオヤ……空気ノ読メネェ奴ダゼ……」 悠介 「お前にだけは言われたくない!!」 丘野 「つーかさ、オリバって物凄い言われようだよな」 春菜 「しょうがないでしょ、無理矢理話を捻じ曲げてくるんだもん。     頭の中まで筋肉ゴリモリだからしょうがないのかもしれないけど」 オリバ「解ってるじゃないかソノダ〜〜」 丘野 「いや……オリバ?今お前の悪口に近いことを言ったって解ってるか?」 オリバ「構わんよ。私には超規格外の情報力があるのからね。     それを頭が筋肉で出来ているなどと。とんだ誤解だ」 みさお「情報力と知力は関係ありませんけどね」 オリバ「………」(←腕力と防御力は上がったけど知力はそのままな藍田くん) 丘野 「おおっ!オリバが落ち込んでる!!」 灯村 「なにぃ!?おお!ほんとだ!」 島田 「オリバが悲しそうな顔をしてるぞ!ラオウばりに!!」 田辺 「元気だせオリバ!なっ!?     つーかパンツ一丁で体育座りしてイジケんな!物凄く不気味だ!」 丘野 「せっかくだから記念に一枚」 田辺 「おお、じゃあ俺も」 岡田 「わいも」 瀬戸 「ミーも」 中村 「拙者も」 殊戸瀬「あたいも」 清水 「おいどんも」 蒲田 「それがしも」 島田 「やきいも」 中井出「よし撮影終了!     この写真はカラープリントで葉書にでもして嫌いな誰かに送りましょう」 悠介 「なんていうか……その気は無いのに全自動で不幸の手紙になりそうだな」 丘野 「言われてみれば……だが楽しければそれでよし!」 総員 『実に面白そうだし!!』 ナイス原中魂。 中井出「というわけでドナ様!イジケたオリバにキツケの一発よろしく!」 ドナ様「おうさ!」 ズパァン!! オリバ「ウベッ!!」 で、例の如くオリバの頬をビンタで弾く。 もちろん続けて贈るのはこの言葉。 ドナ様「何故抜かぬ」 悠介 「あーはいはい。言ってたら進まないだろ?いい加減テレビ局も混乱する」 ドナ様「おっとそうだった。ではみんな注〜目〜。     そろそろ本格的に僕らの夢と希望を暴露してゆこうと思います故───」 悠介 「───すまん、制限時間切った。テレビ局が復旧完了した」 ドナ様「なんと!?」
【Side───豆村みずき】 マジュンッ!! 豆村 「ありゃっ!?」 刹那 「あれ……普通の画面に戻った」 柾樹 「……?なんだろうな」 暴露がどうのの話は流れた……って受け取るべきなんだろうか。 よく解らないけど、なんだか拍子抜けだ。 大体にしてなにを話すつもりだったのか。 俺にしてみれば、親父が妻を沢山もっていたって事実だけで十分暴露話だ。 頭痛はてんで取れてない。 でも……確かに刹那の言うとおりだ。 親父とお袋は別段変わった様子なんて無い。 元からそういう関係だったにしても、 お袋は俺が小さい頃から親父の隣で幸せそうにしていた。 その笑みが偽りだった筈が無い。 だったら…… 豆村 「……やっぱ俺、子供なのかな」 刹那 「認め合ったろ、ここに来る前に」 豆村 「───……」 思考をめぐらせて、それが終わると大きく溜め息を吐いた。 誰に届けるでもなく小さく放った、『それもそうか』って言葉とともに。 豆村 「よっしゃ、んじゃあアニメと漫画を読もう。     アニメは……いや、見るなら漫画で見た方が速いな。     アニメはやたらと時間を引っ張ろうとするから遅くなるし。     じゃあまず今日のノルマはこれな?グラップラー刃牙とバキ」 柾樹 「うお……あ、ああ……解った」 【Side───End】
さて……それからどうなったかといえば。 中井出「マッスルマッスルマッスルマッスルごくろーさんハイ!!」 丘野 「フンッ!」 灯村 「ムッフン!!」 島田 「ヌゥッフゥ〜〜ン!!」 暴露話のことなぞスコーンと忘れ、カモノハで大いに騒いでおりました。 俊也 「逞しいよなぁあんたら……」 中井出「貴様も原沢南中学校迷惑部に生きていれば、きっと人生変わったぞ?」 俊也 「晦と弦月との出会い以上に人生変えたことなんてなかったよ」 総員 『然り』 悠介 「口を揃えてそういうこと言うなよ……」 丘野 「おお照れてるぞ!」 真穂 「うわー、顔真っ赤」 島田 「よっ!純情!」 悠介 「やかましい!」 みさお「父さま……未だに感情をぶつけられることに慣れていないのですか?     常日頃からあれほど母さまに感情をぶつけられているというのに。     ……ああいえ、母さまにぶつけられている時も赤面していましたね」 中井出「なにぃそうなのか」 ドナ様「赤顔魔人ルドラと呼んでいいだろうか」 悠介 「全力でお断りだっ!!」 言葉通り、全力でお断りされてしまった……。 もし了承してくれたら、白顔魔人ドナルドとして紅白コンビが組めたんだが。 まあなにはともあれ。 悠介 「深冬、身体の調子はどうだ?」 深冬 「う、うんっ!驚くくらいに軽くて……!     それに走り回っても全然息切れしない……!すごい……すごいよっ!」 悠介 「………」 親友の心のからの笑顔がヤケに眩しかったです。 まあそれと『なにはともあれ』は関係ないんだけど。 彰利   「ゆーすけー、そろそろいい頃だぞ〜。昼飯にせんか〜?」 悠介   「っと、もうそんな時間か。じゃあそろそろ───」 凍弥   「───昼?」 鷹志   「───飯?」 由未絵  「あ……!」 凍弥&鷹志『だっ……だぁああしまったぁああっ!!       店のこと忘れてたぁああああっ!!!!』 オリバ  「オヤオヤ……フフ、仕事クライデ取リ乱ス……。       意外トミミッチイト言ウカ……」 ズパァン!! オリバ  「ウベッ!!」 凍弥&鷹志『お前がパンツ一丁でポージングしながら脅迫してきたからだろうが!!』 彼らはあまりの出来事に大変驚きましたとさ。 ───……。 ……。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!! 紗弥香「お父さんお母さん……!!こんな時間まで何処でなにやってたの……!?」 ゾロゾロと皆様で帰ると、 なんとそこではひとりで仕事をする紗弥香嬢の姿がありました。 つーか物凄く怒ってます。 凍弥 「遊んでた!」(キッパリ) それに対して一歩も引かない父親トーヤ。 娘は頭を痛めてます。 紗弥香「鷹志さんは……!?」 鷹志 「遊んでた!!」(キッパリ) 由未絵「うぅ〜……ごめんね紗弥香……遊んでた」 紗弥香「うぅううう……!!目が醒めてから大変だったんだからね……!?     柾樹ちゃんは居ないし、仕事場に来ても誰も居ないし……!     でも暖簾は出てるからお客さんは来ちゃうし……!!」 真由美「え……じゃあ喫茶店の方は……」 紗弥香「悠季美ちゃんと祐二おじいさんがやってます……。     料亭の方は美希子さんとおばあさんが……」 真由美「そ、そうなの……娘たちとお父さんとお母さんが……」 鷹志 「時に紗弥香ちゃん。喫茶店の料理は誰が……?」 紗弥香「……悠季美ちゃんが」 真由美「早まっちゃダメ悠季美ぃいいいいっ!!!!」 ドタラタタタタタタタッ……!! 遥一郎  「おお……かつてない速さで走っていった。       流石はかつて、高ノ峰高校の完璧超人と呼ばれた女性」 中井出  「つーか親なのに子の料理を早まった行動って……」 総員   『愛情の為せる業だ……』 悠介&夜華『そうなのか?』 ドナ様  「細かいことは気にしません。それよか結局話も流れちまったし、       今は迷惑かけた嬢らのために仕事の手伝いでもしませうか。猫の姿で」 中井出  「おお!そりゃ名案!一度ウェイターアイルーやってみたかったんだよ!       さあヒヨッ子ども!躊躇無く猫になれ!       我らの身に猫ウィルスなど微塵もアラズ!ともに唱えよ“時操反転(プリーヴィアス)
”!!」 総員   『“時操反転(プリーヴィアス)”!!』 マキィイイインッ!!!! 猛者ども並びに知り合いの皆様が額に手を当てて叫ぶ。 と、皆様の姿が一瞬にして人から猫の姿にッ……!! ……ちなみにこの猫変身、悠介が腕時計に付け加えた能力です。 や、ほんと完璧超人が親友だとこういう遊びに困りません。 紗弥香「───……え?」 ですが目の前の彼女は突然現れた猫の軍に目をパチクリとさせています。 ドナ猫「嬢、さぁ指示を出せ。     我ら猫は伝説の猫神様、皇 桜殿の名の下に働きましょうぞ」 猫達 『ゴニャッ!!』 様々な服を着た猫達が一斉に敬礼する。 ちなみにこの服、変身した時の服と同じものである。 俺はドナ様、悠介は斬紅郎、丘野がアナカリスというように。 腕時計は『変身』と唱えれば人の姿のままに衣装を変え、 『時操反転(プリーヴィアス)』と言えば姿を猫にして衣装も変換。 ステキすぎです。 紗弥香「あ、あわ……あわわ……」 凍え猫「……むう、流石にインパクトが強すぎたか。     仕方ない、俺と由未絵がいろいろ説明する」 鷹目猫「よし、じゃあ料亭の方は俺が説明する。料亭側の方に何匹か来てくれ」 数名猫『ゴニャッ』 真穂猫「じゃあわたしたちは喫茶店の方に行くね。     真由美ちゃんが居るだろうから猫にして説明受けるよ」 数名猫『ゴニャニャッ』 斬紅猫「俺は蕎麦屋の方を手伝おう」 ドナ猫「まあ、予想の範疇ではあるな」 ……こうして。 伝説の人気旅館友の里は一瞬にしてカオスに包まれたのでありました。 ───……。 ……。 チリンリチ〜〜ン♪ 中村猫「ゴニャァアア〜〜〜ォオ」 トカカカカカ…… 客人A「うおっ!?ね、猫が出てきた!!」 中村猫「ゴニャッ」(ペコリ) 客人B「わはっ、お辞儀してるっ、かわい〜♪」 客人A「……で、この猫はなんなんだ?」 中村猫「ゴニャッ」(ササッ) 客人A「注文表……?え、もしかして猫に注文するのか?」 客人B「へぇ〜、面白そう。えーと、じゃあわたしは天婦羅そばで」 客人A「えっと……いいか。んじゃあ俺はざるそばで」 カリカリカリ…… 客人A「うお……ちゃんと注文書いてる」 中村猫「ゴニャッ」(サッ) 客人B「んっと……うん、合ってる合ってる。じゃあその注文通りにお願いね、猫さん」 中村猫「ゴニャッ。ゴニャアァアア〜〜ォオ」 トカカカカ…… 客人A「……世の中、わからないこともあるもんだな……」 客人B「どうやったらあんな猫育てられるんだろ───あ、     あっちのお客さん注文決まったみたい。呼んだらまた来るのかな」 客人A「や、さすがにそう何匹も居ないだろ?」 チリンチリ〜〜〜ン♪ ドナ猫「ゴニャァアアア〜〜〜ォオ」 客人C「オワッ!?」 客人D「ド、ドナ様の格好をした猫が!?」 ドナ猫「ゴニャッ」 ……。 客人A「そう何匹も……居た……みたいだな……」 客人B「そう……みたいね」 ドナ猫「ゴニャッ」 客人C「ぶふっ!クカカカカカッ……!!ちゅ、注文とってくれんのか……!?」 客人D「ぶほっ!ぶっ───ぶはははははははっ!!!     猫がっ!猫がドナ様の姿って!!ぶはははははははははは!!」 ドナ猫「………」 客人A「笑われてんなぁ……」 客人B「まあさすがにね……あ、今度はあっちのお客さんが押すみたい」 客人A「そか。まあさすがにこれ以上驚くようなことはないだろうけど───」 チリンチリ〜〜ン♪ オリバ猫「遠路はるばるようこそ訪」 お客様方『ほぎゃぁああああーーーーーっ!!!!      ばばばバケモノォオーーーーーッ!!!!』 オリバ猫「───。オリバだ」 ……その日。 猫な皆様が懸命に働いていた最中、 注文を取りに行ったゴリモリマッチョ猫にお客様が絶叫。 しかも喋ったりしたものだからみんながみんな恐怖した。 けどそげな絶叫も無視してしっかりと喋り続けてたオリバ猫は流石だ。てんで動じない。 オリバ猫「シャンパンが冷えてるんだがビールが好みかな?日本のもあるぞ」 客人E 「イヤァアアアアアアッ!!!!!!      ゴリモリマッチョな猫が何故かアルコールばっかり奨めてくるぅうっ!!」 客人F 「な、なんかヤベェよ……!!帰るぞ音羽!!」 客人E 「う、うん!」 ガタタ、とオリバ猫に恐怖して立ち上がる客人達。 それを───コロロ……ベキャアッ!! 客人F 「ゲッ……ゲェエエエーーーーーーッ!!!素手で胡桃(くるみ)を破壊したッッ!!」 客人E 「ヒィイ!!ねねね猫の筋力じゃない!猫の筋力じゃないよぅ!!」 オリバ猫「掛けたまえ園田くん。リラックスしたらいい」 客人F 「園田!?誰!?」 ドナ猫 「………」 あの客人どもには申し訳ないが、オリバがああなってしまっては何を言っても無駄だろう。 ここは彼らに犠牲になってもらおう。 ドナ猫「トーヤ、注文取ってきたぜ〜〜〜っ」 凍え猫「ゴニャッ」 天婦羅を揚げているトーヤに注文表を見せる。 ああちなみにそばを茹でてるのは悠介だ。 そばを茹でて、猫の姿の三倍以上はありそうな上げ笊(あげざる)でそばを掬い、 左手に上げ笊、右手に菜箸でもって 水が溜まった場所にそばを沈めながらぬめりを取りつつ冷やしてゆく。 流石に猫の手でそばを洗うわけにはいかんらしい。 でも器用だねぇ、ありゃ相当力無けりゃ出来ませんよ? 蒸篭(せいろ)にそばを盛る時も器用に箸でやってるし。 まあ見てて怖いのは悠介のほうよりトーヤだな。 なにせ油だ、誤って落ちたりしたら絶命もありうる。 しかしそこはそれ、案外器用にこなしてみせ、テキパキと揚げたり盛ったりしてる。 前足には悠介が創造した補助器具が付いている。 人の手に近い動きをするという便利な道具である。 凍え猫「ほい、天婦羅盛り合わせ」 由未猫「あんみつが出来たよ〜」 斬紅猫「ざるそば、もりそば、天婦羅そばな」 提督猫「うむっ!さぁヒヨッ子ども!気合を入れて運べ!!」 猫達 『サー・イェッサー!!』 それからの彼らの行動はとても早かった。 お膳に乗せたそばや天婦羅を両手でバランスよく持ち上げ、 客席のほうへと走ってゆくのだ。 もちろんこの際、『ゴニャァアア〜〜〜ォオ』と言うのも忘れてない。 中村猫「ゴニャッ」 ゴトトッ。 お客A「うおっ!?……おお、投げ置いたにもかかわらず形が崩れてない……」 お客B「すごいね……」 ちなみにこのお膳、 投げた際に上のそばなどの形が崩れないように奇妙な理力が働いているらしい。 まあ、さすがにそうじゃなきゃそばつゆとそばが大変なことになる。 お客Z「………」 ……などと、心の中でおさらいをしていると─── ひとりの男性客がコソコソと外へとんずらするのを発見。 ドナ猫「食い逃げだぁーーーっ!!!」 猫たち『Yah(ヤー)!!』 もちろんお代は頂いてなかったので、我らは逃げ出す男をすぐさま追いかけました。 接客する猫たち全員で。 お客Z「うおっ!?う、わ───うわぁああああっ!!!!」 そしてすぐさま追い着くと足にしがみ付き、爪をシャキィン!と伸ばして─── ドナ猫「ニャア!!」 ゾブシャア!! お客Z「いだぁあああああああっ!!!!!」 シュレック2の長靴を履いた猫ヨロシク、伸ばした爪を足に突き刺した。 その突然の痛みに怯んだお客Zへと、他の猫たちがどんどんとしがみついてゆく。 そのあとにすることといったらもちろん───シャキキキキィン!!! 猫たち『ニャア!!』 ゾブシャシャシャシャシャシャ!!!! お客Z「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」 ……もちろん、爪を伸ばして突き刺すことです。 よ〜く見ておくのだ客人たちよ……。これが食い逃げなんぞをした者の末路ぞ……!! お客Z「やめろクソ猫がぁっ!!」 猫たち『ゴニャーーーッ!!』 うがーっ!と我らを振り払う逆ギレ客人Z。 ぬう、やはり猫の爪程度では致命傷にはならんか。 しかしどうしたもんか───む? ドナ猫「ハッ……ア、アンタはッッ!!」 中村猫「へ?ア、アアーーーッ!!」 オリバ「ミスター食イ逃ゲZに質問……」 猫たち『ビスケット・オリバッッ!!!!』 丘野猫「つーかいつの間に猫化解いたんだ!?     さっきまで店の中で無茶な注文の取り方してただろ!!」 中村猫「人間じゃないッッ……!!」 なにやらただオリバ姿で現れただけで人間じゃないとまで言われてるオリバ。 何気にちょっと悲しい顔してる。 つーかなんでパンツ一丁なんだ? オリバ「君ハ、マンマト店カラ逃ゲオオセタワケダガ猫タチニ囲マレテイル。     所詮ハ猫ダガ、果タシテ君ハ逃ゲラレタト言エルノダロウカ、言エヌノダロウカ」 お客Z「な、なんだァてめぇはッッ!!近寄るんじゃァねぇっ!!」 シャクンッ!! 丘野猫「オオッ!客人Zが飛び出しナイフを!!」 真穂猫「……効くと思う?」 猫たち『絶対無理』 オリバ「ドウヤラ───後者ノヨウ……」 猛者どもの問答の最中、オリバが客人Zの襟へと手を伸ばし───ベキョリ。 ドナ猫「あ」 丘野 「襟にカミソリを仕込んでるッッ!!つーかオイ!!     掴まれたカミソリが襟ごと折れてるぞ!?」 オリバ(襟にッッ……カミソリッ!!) 中村猫「いやオリバ!そこお前が驚くところじゃねぇって!!     手に傷すらついてねぇじゃねぇか!!ていうかどういう手の硬さ!?」 お客Z「シヤァアッ!!」 客人Zのナイフが奔るッッ!! その軌跡は迷うことなく、渾身の勢いを込めてオリバの腹へベキャア!! お客Z「オワッ!?」 ……刺さることなく折れた。 オリバ「ド……イ……ル……!!」 ドナ猫「いや刺さってない刺さってない!!     刺さってないぞオリバ!!なんで苦しげなの!?」 お客Z「えっ……あ、え───えぇっ!?」 丘野猫「いかん!刺した客人の方が混乱してる!!」 田辺猫「ヘタすれば殺人にさえなってた筈なのに、どうしてこう長閑(のどか)かねぇ……」 清水猫「ようするに弦月や晦を基準にしたら、     こんな相手じゃあ大事にもならないってことだろ」 蒲田猫「なるほど……」 オリバ「わたしの筋肉の厚さは世界一だ。     こんなちっぽけなナイフじゃとてもとても内臓までは…………」 中村猫「おい……なんか勝手に自己解決してるぞ?」 丘野猫「筋肉どころか皮膚さえ通さなかったくせに……」 オリバ「キミはつまらん」 ボリュッ───!! ドナ猫「ってちょっと待てぇええーーーーーーっ!!!!」 もう無茶苦茶ですこのオリバッッ!! やることやったらいきなり暴力ですよ!! あの超規格外の破壊力で一般人なぞ殴ったら即死!! 思わず俺は客人Zの胸辺りへと猫である自分の身体を跳躍させマゴシャアッ!! ドナ猫「ゲベェウェッ!!!」 お客Z「うえげぇっ!!!」 呆気なく殴り飛ばされ、 お客Zを巻き込んで道路の先の先まで地面と平行に素っ飛んでいきました。 丘野猫「ド、ドナ様ァアアーーーーーーッ!!!!」 中村猫「ドナ様がやられたぁあーーーーっ!!!!」 真穂猫「わぁあっ!!白目!白目剥いてるよ!?」 清水猫「ヒィイ!!骨がぐちゃぐちゃだ!!弦月!?弦月ぃいーーーーーっ!!!」 オリバ「ど〜よソノダ。見事なイッポンだったろう」 灯村猫「誰がソノダだ!!つーかいつから柔道に!?」 オリバ「わかったよ……。ミスター俵矢、もう一度だ」 猫たち『なんにも解ってねぇええーーーーーーっ!!!!』 オリバ「解ってるじゃないかソノダ〜」 丘野猫「自慢げに言うなよそんなこと!!」 ───……。 ……。 ゴトゴトゴロロロロロ…… 猫たち「ゴォ〜ニャッ、ニャッ……ゴ〜ニャッ……ゴニャッ!!」 ドゴロシャッ! お客Z「ウゴッ!!」 猫たち「ゴニャァアア〜〜〜ォォ」 ゴロロロロロ…… さて、気絶から奇跡の逆転復活を遂げたオイラは他の猫たちとともに、 気絶したお客Zを木製の台車に乗せて運び、おもむろに遠くの路地に捨てた。 これぞモンスターハンターの敗北した姿……!! これに懲りたら二度と食い逃げなんぞするでねぇぞ!! しかしいやはやまったくけしからんばい!! 人々が穏やかにメシを食している時に犯罪に走るなど!恥を知りなさい恥を!! ドナ猫「………」 などと思ってみましたが、 自分も過去の地界でみさおさんとさんざん食い逃げしたことを思い出して悲しくなった。 うむ、なにはともあれ引き返してゆく台車と猫達とともに、俺も友の里へと戻りました。 で、戻ったら戻ったでどこぞのパティさんのように ドナ猫「クソお騒がせいたしましたお客様!どうぞ食事を続けてください!」 と、とても礼儀正しく客席の真ん中で叫びました。 のちにトーヤに店裏に引っ張られ、散々説教されましたが。 ドナ猫「いいかぁ小僧。俺みたいな親になっちゃいかんぞ。     じゃないと息子があんな風に育つ」 中村猫「物凄い説得力だ」 ドナ猫「まだ一度しか会ってないヤツにそこまで納得されるとオラ辛ェ」 ともかくお客人の小僧にステキな説法してたらツッコミ入れられたんで黙ることにした。 集中集中。 ……ちなみに、オリバのさっきの拳はオリバ自身途中で止めるつもりだったそうな。 そげなところへ俺が割り込んだ所為で俺は骨がぐちゃぐちゃで死に掛けたと。 げに恐ろしきは超規格外の腕力よ。 【ケース19:霧波川柾樹/ホップステップジャンピングニーパッド】 柾樹 「………」 刹那 「………」 豆村 「………」 そうして、豆村の部屋で黙々とグラップラー刃牙を見る時間が流れゆく。 ふと気づけば昼は過ぎ───菓子パンで昼を済ませた俺達は、 訪れた闇夜なる今も漫画を見続けている。 柾樹 「ん……刃牙ってさ、幼年期のほうが関心が持てるな」 刹那 「ちゃんと修行して強くなってるからなぁ」 豆村 「最大トーナメント始まってからは     修行してる姿さえ見せてないのに理不尽に強くなっちまって。     まあそれでもバキになってからよりはマシなわけだけど」 柾樹 「うあ……そうなんだ」 豆村 「うむ。女と寝ただけで理不尽なパワーアップを果たしてる。     しかも寝たら寝たで酷く冷たくなってるし」 柾樹 「男として最低の域だなぁ……」 刹那 「彼女の気持ちを優先させてるみたいなこと言ってるけど、     傍から見れば冷たく突き放してるようにしか見えないんだよなぁこれ」 柾樹 「そうなのか。まだそこまで読んでないから解らないんだけど───     ああなるほど、これがオリバか……」 刹那 「そう、それがオリバだ」 漫画のページに筋肉ゴリモリマッチョさんの姿が現れた。 そして謎だった『ソノダ』という人も、既にここで出ている。 柾樹 「んー……」 …………。 柾樹 「よし、っと。ちょっと休憩しようか」 豆村 「んお……ああ、そだな。そろそろ目が疲れてきた」 刹那 「それにしても見るスピード速いなぁ柾樹」 柾樹 「いや、なんていうか……単にこの漫画が大ゴマばっかりだからじゃないかな」 豆村 「ああそりゃ確かに」 刹那 「なにせ、小さなことを説明するだけなのに何ページも使うほどだ。     しかも説明してるだけなのに無駄にコマが大きい。     だから見せ場って時には必ず一ページ丸々使ったり、     見開きで演出を見せたりが多いんだよ」 豆村 「漫画は『見せ場だと思うところは大きなコマで』が鉄則だからなぁ。     その所為で普段から大ゴマばっかり使ってると、     こうして一ページとか見開きとか使わないと見せ場にならないんだろ」 柾樹 「それって漫画としては酷く欠陥なんじゃないか?」 刹那 「欠陥だろ。一度さ、本誌のほうで     『一挙二話掲載ッッ!!』てのがあったらしいんだけど、     あんな大ゴマ漫画、一挙二話やったって5分も要らずに読み終わる」 柾樹 「うわぁ……」 豆村 「それでも内容が好きだから、こうして全巻そろえてしまう悲しいSAGA……」 刹那 「バキSAGAは買ったんだっけか?」 豆村 「BOOK・ONで立ち読みで済ませた。見たら爆笑して叩き出されたけど」 柾樹 「爆笑って……なんでまた」 豆村 「それだけ面白い……いや、面白いとは意味が違うんだけど、笑えたってこと。     見てて恥ずかしくなって、しかもその恥ずかしさが笑いに変換されたわけよ」 刹那 「まあ……内容が内容だからな」 柾樹 「?」 よく解らなかった。 けど『俺も見てみようかな』と言うと『それはやめておけ』と即答された。 なんなんだろうか。 豆村 「んじゃ柾樹、茶ァ淹れてくれ茶ァ。ロシアンティーな」 刹那 「あ、俺ルプサンスーチョンでよろしく」 柾樹 「無いもの強請(ねだ)りで客人に茶を任せないでほしいんだが」 大体ルプサンじゃなくてラプサンスーチョンじゃあなかっただろうか。 といっても、悠季美のところの喫茶店で少しかじった程度にしか知らないんだけど。 柾樹 「紅茶なんて置いてないだろ?」 豆村 「おうよ。文句あっか」 柾樹 「頼んでおいて威張るな。インスタントコーヒーでいいか?」 刹那 「ダッチコーヒーよろしく」 柾樹 「道具が無いから無理だ!」 刹那 「おお、さすが柾樹。ダッチコーヒーを知ってたか」 豆村 「や、あれ俺達が飲めるような渋みじゃねぇだろ」 刹那 「いや、俺鷹志さんに奨められて飲んだ時あるぞ?     なんつーか……あれぞコーヒーって感じ」 豆村 「そうなんか?よしゃ、今度俺も頼んでみよう」 まあいいや……そう観念して、テキパキと行動に移った。 ───……それからしばらくして。 柾樹 「ほいコーヒー。豆村は砂糖二杯でクリープ無しだったよな」 豆村 「おおサンクス」 柾樹 「刹那はガムシロップと砂糖五杯にクリープ……毎度毎度甘すぎないか?」 刹那 「これ飲まないと頭が回転してくれねぇんだわ、俺」 言って、ほどよい温度のコーヒーをンビンビと飲む刹那。 刹那 「ふはっ……いや〜、やっぱ柾樹の淹れてくれるコーヒーは飲みやすくていいわ」 豆村 「飲み物で思い出したというか、思ったんだが……ビールって美味ぇええんかな」 柾樹 「さあ。ただ紗弥香さんと悠季美にだけは飲ませちゃダメだ」 刹那 「へ?なんでまた」 柾樹 「暴れるから」 豆村 「そ、そうなんか」 語りつつも俺もコーヒーを飲んで一息つく。 すると漫画を読んでいた緊張がほぐれたのか、途端に視界がぼやける。 どうにも相当に目を酷使してしまっていたらしい。 だめだなぁ、面白いものがあると歯止めが利かない。 などと思いつつ、ふと豆村や刹那を見れば─── ふたりとも目を押さえて、瞼を少し揉んでいた。 俺はそこで思い立って、常備用の目薬を取り出した。 柾樹 「使うか?」 豆村 「おお、用意周到だな」 刹那 「げに恐ろしきは家庭的が基本となって育った男よ……」 柾樹 「恐ろしいってなにがさ……」 刹那 「いやいや、家事が苦手な女でも見栄張らなくて済むって話だよ」 柾樹 「………」 豆村 「おや、なにやらご不満?」 柾樹 「正直、いろんな方向から話が色恋沙汰に向かうのが基本的に嫌みたいなんだ俺。     だからどうしても、顔に不満が表れるっていうか」 刹那 「なるほど。確かにそういう感情が芽生えた時のないヤツにしてみれば、     色恋沙汰関連の話は鬱陶しい会話かもしれないなぁ」 いや、鬱陶しいとまでは言わないけど。 なんて思ってみても、口には出せなかった。 それを考えてみれば、結局心のどこかで鬱陶しいと考えていたんだろう。 ……いやなヤツだな、俺。 刹那 「ほらほらそんな顔するな〜?     興味の無い話をごちゃごちゃされたら鬱陶しいって思うのは当たり前だろうが。     まして、興味が無い上にどういう感情なのかも解らないんじゃあ、     イライラも募っていくってもんだろ。気にすんなよ」 豆村 「そーそー。大体、恋愛感情に疎くなくちゃ柾樹じゃない」 柾樹 「……褒めてないだろ、それ」 豆村 「?希少価値って意味では相当な褒め言葉だけどな。あ、おかわり」 柾樹 「はいはいっと」 差し出されたマグカップに、多めに作ったコーヒーを入れてゆく。 一杯じゃ済まないところが所詮子供って感じだ。 豆村も刹那もそんなことを思ってたのか、コーヒーを見ながらクスクスと笑っていた。 刹那 「はぁ〜……楽しいよなぁ。なぁ、友たちよ」 豆村 「まったくだ。───こんな日が、いつまでも続けばいいよなぁ」 柾樹 「………」 先に不安があるのは誰もが同じだ。 俺達は来年の春には卒業しなくちゃならない。 そうなれば、進む道が同じじゃない限りはここでお別れなのだ。 などと、少し寂しい気持ちになっていた時。 刹那 「えー……では、コホンと。キミたちの夢はなんだ?」 刹那が芝居掛かった風に人差し指を突きつけて訊いてきた。 突然のことにポカンとする俺と豆村だったけど、すぐに小さく笑みを漏らした。 豆村   「俺の夢は───K1選手?       深冬を守りたい〜とかいうのって、願望であって夢じゃない気がするし」 刹那   「柾樹は?」 柾樹   「料理とか好きだし、料理関係の仕事が持てればいいなって思ってる。       雰囲気としてはそば屋とかより       喫茶店の落ち着いた雰囲気のほうが好きだから、       夢として目指すなら喫茶店のマスターとかかな」 刹那   「なるほど。確かに格好いいなぁ喫茶店のマスター」 豆村   「年がら年中グラス磨いてるオッサンの何処が格好いいんだ?」 柾樹&刹那『ビーン、そりゃ偏見中の偏見だ』 豆村   「そか?まあええやん。───っと、そろそろ俺おいとまするわ。       これからゼノさんと修行があるんだ。       今日は夜間訓練っつーんで、夜に集合と言われてた故」 柾樹   「お(いとま)っていうか、ここ豆村の部屋だろ」 豆村   「まあまあ細かいことは気にしな〜い。       ほんじゃな、鍵はべつに掛けていかんでいいから。       盗られて困るものもないし、修行終われば帰ってくっから。       その間に家に帰るか泊まっていくかは適当に決めといてくれ」 刹那   「ラジャ。じゃ、頑張れな」 豆村   「任せろ」 ビジュン、という音とともに豆村の姿が消える。 俺と刹那はそんな異能力を目の当たりにするに至り、顔を見合わせて笑った。 刹那 「お前らと初めて会ってから、随分経つよな」 柾樹 「俺も今そう思ってた」 刹那 「しかし寂しいのはお前とビーンが俺に隠し事してたことだ。     あ〜んな便利能力があるなんて知ってたら、     もっと楽しいことを発掘できたろうに」 柾樹 「事情が事情だから。そう簡単に見せていい能力じゃあなかったんだよ」 刹那 「結局、知るきっかけになったのが大人連中を俺達と同年代にした時の能力だし。     俺ゃキミたちのことを親友として疑ったね」 柾樹 「悪かったって」 刹那 「まあ、これで深冬ちゃんが柾樹に懐いても俺に懐かない理由は解ったわけだ。     そこんところは納得。理解者じゃなければ受け入れられないのは道徳ってやつ?」 そんな道徳は知らないけど。 納得してるみたいだからいいか。 刹那 「さぁってと……どうすっか」 柾樹 「俺は……ん、一応ここに泊まっていくよ。紗弥香さんに泊まるって電話してくる」 刹那 「そか。じゃあ俺もそうすっかな。あの家にはあんまり帰りたくないし」 柾樹 「着替えとかどうする?」 刹那 「あー……一泊くらい同じ服で構わん。望むものは平穏以外に無いし」 柾樹 「そっか。じゃあ電話し掛けとこうか?」 刹那 「いーよ、気持ちだけで十分だ。     サンキュな、柾樹。俺、お前のそういうお節介なとこ嫌いじゃないよ」 柾樹 「お節介って受け取り方はどうかと思うけど。じゃあ」 刹那 「おー」 部屋を出て、電話の前に立った。 まずは家に電話して───って、さすがにもう起きてるかな。 起きてたら鈴訊庵行ってるだろうし───よし、鈴訊庵に電話よう。 ピポパポプポポペ……ルルルルル……ガチャッ。 声  《ワタシダ》 柾樹 「誰!?」 突如として聞こえた声に驚愕して、 すぐに押した番号を調べた───が、間違いはなかった筈。 ちゃんと鈴訊庵の番号だ。 声  《オイオイ、電話シテオイテ誰トハゴ挨拶ダナ》 柾樹 「いやあの……誰?そちら鈴訊庵ですよね?」 図らずとも敬語になってしまう電話の魔術……ミステリーだ。 しかしそんな謙虚に対し、相手さんは─── 声  《オリバだ》 ガチャンッ。───なんていうか物凄く説得力のある言葉で返してくれました。 ああ……なんかどっかで聞いたことあるかなって思ってたけど、 思い出せなかったのは脳内が必死で認識を隠してくれていたからなんだなぁと納得。 ああ、もちろん電話は切ったけど。 柾樹 「えーと……料亭の電話番号は……っと」 連絡用の電話番号を記憶の中から選出して叩く。 しばらくののちに通話。 俺は受話器に向かって声を出そうとして─── 声  《ワタシダ》 音速を超えかねない勢いで受話器を電話本体に叩き付けた。 柾樹 「……?ああいやいや、次は喫茶店のほうに───と見せかけて、鈴訊庵に」 ピポパポプポポペ……ルルルル……ガチャリコ。 声  《ほいもしもし、鈴訊庵〔ボゴチャアッ!!〕ギャアア!!!》 柾樹 「ひぃいっ!?」 声  《……ワタシダ》 柾樹 「………」 犠牲になった誰か(声からして多分柿崎教諭)の冥福を祈った。 妙なフェイントをかけなければ彼は死なずに済んだのかもしれない……。 今となっては後の祭りなのかもしれないが、 俺の心にひとつの罪悪感が生まれたのだった……。
〜完〜
刹那 「や、完じゃねぇって。     さっきからなに賑やかなテレフォンショーやってるんだよお前」 柾樹 「ん」 刹那 「んあ?電話?誰」 言いつつも受話器を手に取って耳に当てる律儀な親友刹那くん。 だが─── 刹那 「ぉあっ!!」 ガチャーーーンッ!!! 次の瞬間には受話器を本体に叩きつけていた。 柾樹 「あっはっはっは、なに賑やかなテレフォンショーやってんのさ刹那」 刹那 「あー、いや。人間生きてりゃいろいろ事情はあるよな。悪かった」 微妙顔の刹那。どうやらよっぽど説得力のある電話だったらしい。 柾樹 「実はさ、紗弥香さんに連絡しようとしたらオリバが出てさ。     もちろんすぐに切ったわけだけど。     それから次は料亭のほうに電話したらオリバが出て。     で、次に喫茶店……てところでフェイントかけて鈴訊庵にかけたら、     柿が出た後に奇妙な炸裂音ののちにオリバが出て……」 刹那 「呪いじみてて嫌だなそれ……。とりあえず柿の魂よ不浄なれ。エイメン」 柾樹 「不浄を願ったらダメだろ。でもエイメン」 どうか不浄霊にならずに成仏してくれ。 ちなみに不浄を哀れむ際に放つ言葉としてエイメンは適当ではないと思う。 ノリだから別にいいんだけど。 柾樹 「この様子だと電話したら余計な犠牲が増えそうだから無断で泊まることにするよ。     えぇっと、そうなると次に考えるべきことは晩飯なんだけど」 刹那 「またヘブントゥエルブで菓子パンでも買ってくるか」 柾樹 「だね。さすがに人様の家の材料使って勝手に食事というのも」 刹那 「いや、俺はべつにビーンの家の材料使うことにはなんの抵抗も無いが。     むしろ柾樹の腕がどこらまで至ってるのか気になるところではある……うむ。     悪い柾樹、カレー以外でなにか作ってみてくれ」 柾樹 「刹那。お前って絶対、結婚した相手を苦労させるタイプだ」 刹那 「へ?なんでだ?」 料理を作る人にとっては、頼まれるよりも『なんでもいいから』が一番困るのだ。 でもすぐにエプロンを手に取ってしまうあたり、俺は相当に馬鹿なんだと思う。 ───……。 ……。 そうして調理すること十と数分。 簡単な料理を並べ、俺と刹那は手を合わせていた。 刹那 「今日も食事にありつけることを脳内神に感謝します。おお、エイメン・ゴッド」 柾樹 「エイメン」 何処からどう見ても異質なふたりだったが、そこのところは気にしない。 “人生ノったもん勝ち”が刹那の座右の銘だからだ。 ちなみに俺は“人生、是常と泰平に添れ”。人生、これ常に平和とともにあれ、って意味。 ようするに平和であれば高望みはしない。 面白みのないことではあるけど、 ひとりでもこういう馬鹿が居ないとブレーキが効かないのだ、刹那と豆村は。 ほんと、奇妙なバランスで成り立っている。 刹那 「んぐむぐ……へぇ〜〜……この短時間でよくこれだけの味付けを。     わり、メシ食い終わったらレシピ教えてくれないか?家で試してみる」 柾樹 「りょーかい。お袋さん、相変わらずメシが美味いと上機嫌なのか?」 刹那 「ああ。自分からは料理作ろうとしないくせにな。やれやれだ。     こんなことなら親父と一緒に裕希の家出りゃ良かったかな」 柾樹 「親がオカマでお前は我慢できたのか?」 刹那 「あんな重苦しい空気吸ってるよりゃあ親がハジケてたほうがまだマシだよ。     ビーン見てたらますますそう思った。     俺からしてみればあんな面白い親が居るのに文句言うビーンが贅沢ってもんだ」 柾樹 「そっか」 刹那の両親は離婚し、別居状態にある。 言ってみれば、離婚したのに同じ家に住んでるほうがどうかしてるんだけど。 でもそんな環境で育ったからか、刹那は家族の絆にひどく敏感だった。 例えば今の会話にも出てきたように、 豆村が自分の感情論だけで彰利さんを否定しようとすれば説き伏せるし、 誰かが親と喧嘩したって聞けば相談に乗って、ちゃんと和解するようにと奨める。 俺がお節介だというのなら、それこそ刹那もお節介だろう。 奔放なのは豆村だけだ。 でも基本的にはノリのいいヤツだから、こうして奇妙なバランスの上で親友をやっている。 刹那 「ま、あれだ。若いうちの苦労は買ってでもしろって?     ンなことしてたら胃に穴を穿つようなもんだっての。     けどまあ今さら親父のところ行っても、それはそれで裏切りなんだよな。     俺はちゃんと『選べ』って言われて、その上でお袋を選んだわけだし。     そんなんで親父のところ行ったら親父にもお袋にもなに言われるか」 柾樹 「……そんなこと言って、どうせ心配とか迷惑かけたくないだけだろ。     刹那ってそうやって、大体自分の内側に溜めるよな」 刹那 「───そんな立派なものじゃないんだよ、俺は」 ふぅ、と呼吸を忘れた食事の合間に息を吸うかのように息が吐かれた。 喩えがちぐはぐだけど、なんだかそう見えたのだ。 刹那 「正直な話さ、俺は郭鷺のどこが好きなのか、って言われても即答できなかった。     いきなりな話だけどさ、実際そう立派じゃないんだ、俺。     最初見た時は一生懸命仕事してる時。次も仕事、次も仕事。     でも嫌な顔ひとつせず、家のこと手伝ってる郭鷺が羨ましかった。     いや、眩しかったっていうのかな、この場合。     気づいたら面と向かって告白して、あっさりフラレた。     で、フラレてみて解ったわけだ。俺のはただの『憧れ』だったんだって。     ……もちろん、今は普通に好きだ。     自分の感情の暴走をあっさり崩されて拍子抜けしたわけだけど、     それでもまあ───気になっちまってさ。で、気づいたわけだ。好きだって」 でもその感情が憧れから来たのが痛かった、と刹那は続けた。 刹那 「実際さ、親に離婚されると子供は悩むよ。     うちは『自分を選んでくれた子供のために親が頑張る』なんて美談とは無縁だし。     ただ適当に仕事して、その金で『生きてるだけ』なんだ、お袋は。     充実なんて言葉はそこには無いし、ただ機械的に人生を歩んでる」 柾樹 「刹那の面倒は見てない、って言ってたな」 刹那 「金だけ渡して『これで適当に』って感じだ。     いや、渡してもいないな。朝目が覚めるとテーブルに金が置いてあるだけ。     もう慣れたからいいけどさ、最初の頃なんて泣いたもんだぜ?     朝起きたら誰も居なくて、メシもなにも無いのに金だけが置いてあるんだ。     俺、いきなり捨てられたのかと思ったくらいだ」 柾樹 「………」 刹那 「そんな顔すんなよ。べつにお前が悪いって言ってるわけじゃないんだ。     むしろ無関係なんだから、そんな自分がそういう仕打ちにあったみたいな顔」 柾樹 「刹那は友達だ。無関係なんてことはない」 刹那 「───……悪ぃ、失言だった。     ったく……お前、なんだって恋愛感情は無いくせに友情には闘志を燃やすんだよ。     つーか頼むから真顔で、真正面からそういうこと言わないでくれ。     正直とんでもなく嬉しかったけど、同じくらい恥ずかしかった」 言葉通り、赤くした顔を片手で覆って俯く刹那。 ……べつに、そんな恥ずかしいことを言ったつもりはないんだけど。 刹那 「………」 柾樹 「……?」 ふと、赤い顔のまま片手をどけて俺を見る刹那。 俺はきょとんとしながらその様子を探って───突然、刹那が照れくさそうに笑った。 刹那 「なんか納得だ。あのヒネクレ者のビーンが心を許すわけだよ。     俺ももっと早いうちにお前に会えてたら、まだ心に余裕を持てたのかもなぁ」 柾樹 「それってもう手遅れってことか?」 刹那 「いや親友。ここはフォローとして     『そんなことねぇ!お前の人生はここからじゃないか!』と言うところでだな」 柾樹 「刹那って真面目な話から一転することって多々あるよな」 刹那 「基本的に重苦しい雰囲気って苦手なんだわ。こういう環境で育つと」 なるほど、納得。 刹那 「まあそんなわけで、お前と豆村のお陰で楽しい学園生活送らせてもらってる。     感謝感謝だ。今度なにか奢らせてくれ」 柾樹 「断る」 刹那 「即答かよ!!」 柾樹 「刹那、友人関係のことで本当に感謝してるなら、     奢るとかいう金銭的なものに走ったらダメだ」 刹那 「お前は俺の良き理解者であり親なのか……?     まさかいきなり説教される羽目になるとは……。     つーか実際の親にもそんなありがたい説法は受けなかったぞ?」 柾樹 「ありがたくない」 刹那 「それに俺、お前にモーニングセット奢ってもらったと思ったが」 柾樹 「家族割引だったんだ」 刹那 「いや、訳解らんが」 柾樹 「ええいやかましい!あれは友人関係のことじでの金銭じゃなくて、     ただ相談料金として支払っただけ!アンダスタン!?」 刹那 「柾樹って時々コワレるよな。まあ俺はそれでいいけど。友情フォーエヴァー」 柾樹 「エヴァー」 などと話しながら晩飯を平らげた。 『あまり小難しいことは考えない』が親友間の暗黙のルールとはいえ、 これはどうかと思う時はまああるわけで。 それでも楽しんで食事が出来たなら、会話の意味不明っぽさも気にしなくていいだろうか。 刹那 「さて、腹も膨れたところで───って、なにやってんだ柾樹」 柾樹 「うん?ああ、豆村の分のラッピング。向こうで食ってくるかどうか解らないし」 刹那 「……主婦」 柾樹 「ぐっ……!!き、気にしてるんだからそういうことは言うなっ!!」 刹那 「気にしてるのにやっちまうんだとしたら、そりゃ末期だ」 柾樹 「叔父さんにも鷹志さんにもそう言われてからかわれてるんだよ、     頼むから主婦って言うのだけは勘弁してくれ───と、これレシピな」 刹那 「なるほどなるほど。ほいあんがと」 頭を痛めながらも走り書きで書いたレシピを刹那に渡した。 柾樹 「じゃあ歯を磨いて───布団はどうしようか」 刹那 「お前ってとことんマメな……。ビーンの部屋だけに」 柾樹 「駄洒落はいいから」 とりあえず持ってきておいた携帯歯ブラシセットを持って洗面所へ。 きっちりと時間をかけて歯を磨くと部屋に戻り、刹那と寝る場所について話し合った。 刹那 「や、普通に考えてこのビーンルームでそこらへんで雑魚寝だろ。     もしくはビーンの布団を奪って寝るとか」 柾樹 「いや、豆村のことだから俺達が自分の布団を使ってると、     それを理由にして深冬ちゃんの布団で寝かねない」 刹那 「おおそりゃ確かに。つーか信用されてないなぁビーン」 柾樹 「信用問題じゃなくて、     やりそうならそれが犯罪的にならないように止めるのが友人の務めだろ」 刹那 「なるほど確かに。親友がお縄につくのを見るのは本意には至らなさそうだ。     じゃあアレだ、ビーンが奇行に走らんようにお前が深冬ちゃんの部屋で寝るか?」 柾樹 「それこそ豆村に殺されるって。俺も豆村の部屋でいい」 言いつつ、押入れを開けて毛布を一枚取る。 夏だから不要な毛布などは押入れに詰めてあったようだ。 刹那 「まあ、普通に考えてビーンの布団を使わなけりゃ素直にこの部屋で寝るだろうし。     んじゃあ俺の分の毛布も取ってくれ」 柾樹 「ほい」 刹那に毛布を渡すと、そのまま部屋の畳に横になった。 ……朝、多分身体が痛くなってるだろうなぁ。 刹那 「もう寝るか?」 柾樹 「ん……漫画見ながら眠たくなったら寝よう」 刹那 「よっしゃ」 刹那も畳に横になると毛布を被り、漫画を適当に手に取ると読み始めた。 俺もそれに習い、バキを見てゆく。 ……うーん、やっぱりどの巻を見ても大ゴマばっかりだ。 一ページに六コマ以上のページが滅多に無い。 しかも六コマ以上のものは大体が無駄な動作ばかりというか…… 柾樹 「刹那」 刹那 「んあ?どした?」 柾樹 「この“バキ”ってさ、     コマを詰めて書けば15巻も行かずに終わったんじゃないかな」 刹那 「俺もそう思う」 コマを詰めて、無駄な動作を省けば絶対に30巻も行かなかったと思う。 ひとりが喋り始めて、喋り終わるまでに一体何コマ使えば気が済むのか─── 刹那 「これ、よく編集者が許したもんだよな」 刹那がバキの適当な巻を取って見せてくれた。 そこには数ページに渡り、一ページ丸々使ったコマが存在していた。 捲っても捲っても、一ページ丸々使っている。 ……これはやりすぎ、というか……本当によく編集者が許したものだ。 刹那 「まあ……どっかの誰かさんは     見開きページを集中線と『カッ』て擬音だけで潰してたわけだけど」 柾樹 「なんだいそれ。全然見せ場でもなんでもないじゃないか」 刹那 「まったくだ」 呆れながらも読み進める。 それを30分くらい続けたあたりだろうか。 気づけば寝息が聞こえて、ふと見てみれば刹那がくか〜と寝ていた。 柾樹 「………」 俺は小さく苦笑とともに息を吐くと電気を豆電に変えて、毛布を被り直して息を整えた。 どうか、明日もいい一日でありますように、などと思いながら。 ……この時俺は、 この世界が大変な事態に巻き込まれるだなんてことを───予想もしていなかった。 Next Menu back