───冒険の書83/思考に三点リーダーの無い世界───
【ケース271:弦月彰利/ビットバイパーの呪い】 空を自由に飛びたいな、などと、 蒼色ロボット猫を飼っている黄色い服の眼鏡小僧と同じことを考えていたのは、 俺がまだ月空力を覚える以前のことだった。 まだちっこく、世界の不満を口には出さずに親の顔色ばかり伺っていた頃だ。 しかし人間、 人生を呆れるくらいやり直してりゃあ主観そのものが根っ子から変わるもので。 いつしか俺は、空を自由に飛ぶことにそう浪漫を抱かなくなっていた。 月空力から死神飛行へと力が変異する頃には感動すら覚えなくなり、当然にまで至る。 そんな自分になってもテレビから流れる歌は“空を自由に飛びたいな”という歌であり、 いつまでこれで引っ張るんだろうかなどと青年心に思ったものだ。 さて、そんな俺だが親の呪縛や無限地獄から解放されて以来、 世の中にそう不満を覚えることは無くなったといえる。 人生はいろいろあり、必死こいて強くなろうと思っていたゼノという壁をブチ破った俺は、 いつしか強さへの探求をやめ、人生の普通さと平和さに埋没していっていた。 だってそうだろ?壁を破壊できたなら、少しは休みたいって思いもするさ。 まあそんな言い訳をしつつ、自分の力を正当化しつつ、ポクポクと歩いてきた俺だが。 誓って言おう、弱い自分に興味なぞ無かった。 いつしかドラゴンさえぶっ倒した親友の強さに、ああ、確かに憧れをもった。 しかし実行に移すのが遅すぎたんだろうな。 気づけば戦いらしい戦いなぞ遠い過去となり、 強くなれたと思った頃にはまた平和に逆戻りだ。 世の中って俺に対して上手く回ってねぇ、なんて思ったことくらいあるだろ? それと一緒さ。 その時の俺も、そうやって世の中の不出来さに呆れたもんだ。 人生に価値を見い出せるのは仕事をやめてから、って言うけど、 老人になってからの青春にそう興味なんて持てないもので。 でもものごっさ強いジジイな自分は想像してみると面白いとか思ったりもした。 所詮そこらが原中ってことだろう。 ああ、もちろん幾度となく繰り返した歴史の中、 俺は原中であることを後悔したことなど一度たりともない。 費用を出してくれた雪子さんにもえらく感謝している。 でも、この世界から出たらお別れしないといけないんだろうね。 正面切って言うのは恥ずかしいから手紙だけにしとこうと思ってる。 話がズレたな。 ともかく俺は、強くなる可能性を残している自分を褒めてやりたいと思ったわけだ。 もちろん俺だけの力だけではないものの、 それを展開するのが自分なら、そういうのもアリでいいだろ? そんなことを励みに、また俺は上を目指していけるのだ。 今後、大きな壁が現れてもきっとブッ壊せると信じてる。 そんな時が訪れても、結局最後は俺とアイツなんだろう。 俺がアイツを殺すなんて想像も出来なかったけど、 そういった未来が待っているっていうのなら、そんな運命はまた破壊するだけだ。 運命破壊の鎌はもう無いが、 自分が運命破壊の死神の力を背負っていることくらい解ってる。 大丈夫、きっとなんとか出来る。 だから、そのために、俺は強くならなきゃいけないのだ。 そのためには手段を選ばないことをここに宣言し、公言し、 だが、ハッキリと断言しよう。 この展開は想定外で予想外で予定外だった。  コトは獣人戦争から約一週間が経った頃に起こった。 ある日の俺は散々と頭を働かせて、心に決めたことを実行に移した。 それは獣人勢力を離れ、悠介のように武者修行に出る、といったものだった。 当然聖と椛は騒ぎ出したが、当身を食らわすことで黙らせた。 俺もそろそろ強い意思を持たなければならないと思ったのだ。 その第一歩だ、いくら愛しいベイビーたちだからとはいえ、 邪魔をさせるわけにはいかない。 そんなわけで俺は強くなってくる、と言い残して獣人勢力を去った。 もちろん戦が始まれば真っ先に助力しに戻るつもりだ。 俺の故郷は獣人勢力しかない。 その意思を以って、俺は旅路へと歩を進めた。 までは良かったんだが。 彰利 「あ」 夜華 「あ」 彰利 「アァアァアアァアーーーーーーーッ!!!!!」 なんと妻勢力に見つかってしまったのだ。 俺は逃げたね。 脇目も振らずに逃げたよ。 奇妙な歌さえ歌いながら逃げた。 神々の奏でし夜の調べを心に刻むがごとく、俺は逃げ出した。 だが相手が悪かったんだろうなぁ。 俺は風とともに駆ける武士な妻にあっさりと捕まり、 その場に正座させられてどれほど探したのかを延々と説教されるに至った。 惨め無様と笑わば笑え、だが俺は強くなることを放棄しない。 彰利 「あのー、夜華さん?俺、ちと用事が……」 夜華 「そうか。ならばわたしも行く」 彰利 「で、でもね?これは男のみが目指す最強への道でして……」 夜華 「そうか。ならばわたしも行く」 彰利 「あ、あの?男のみが行く道って……」 夜華 「そうか。ならばわたしも行く」 ようするに俺の言葉なんぞどうでもいいわけだ、キミは。 彰利 「うむぅ、で?粉雪や春菜やキリュっちや真穂さんはどぎゃんしたん?」 夜華 「……何故わたしたちの編成を知っている?」 彰利 「旅の途中で見かけたから」 夜華 「何故その時に声をかけなかった」 彰利 「見つけた瞬間逃げ出してたから」 その日、心に点ったウソをそのまま発した俺は、妻である夜華にボコボコにされた。 ───……。 さて、ボッコリーニョから30秒。 あっという間にHPを回復させた俺は、ニコリと笑って妻たちの前に正座していた。 体育座りを申し出てみたんだが、これがあっさりと却下。 夫としての威厳なんて素粒子ほどにも残っちゃいなかった。 元から無い威厳振りかざして無理に威張るのは、夫としてのみ酷く嫌う俺にとって、 それは別にどうでもいいことだった。 妻に暴力を振るう夫なんて最低。そのことを、俺は深層意識に染み込ませてあるのだから。 けどな、だからって妻が夫に暴力振るうのもどうかと思うんだぞ?俺は。 彰利 「チ、チミィ、なんだねいったい。     私をこのような場所に……失礼ではないのかね。私は高貴で気高い漫画家だぞ」 春菜 「フリーター兼なんでも屋でしょ?」 彰利 「だからなんだコノヤロー!!」 粉雪 「いきなりキレなくても」 仁美 「アキちゃん、今まで何処居たの?」 彰利 「全ての19歳を心の底から憎んでました。……に、憎い!19歳が憎い!!     ギィイイ19歳めぇええええええっ!!!!」 春菜 「ホリック?」 解るだけで十分です。 もちろんギイイとか言うほど嫌ってるわけじゃないんだろうが、 歌を作った人は何故あれほどまでに19歳を嫌っていたのだろうか。 嫌な思い出でもあるのかもしれん。俺達には解りようもないのだが。 彰利 「話を原点に戻そう。     俺は最強を目指して己を高める修行の旅に出ようとしてたんだけどさ。     なんだってキミら、俺を捕まえたの?」 夜華 「貴様と一緒に旅をするためだ」 疑問を口に出した途端、今まで黙っていた夜華さんが即答でお答えにならっしゃった。 ならっしゃったってどういう言葉だ?ああまあいい。 今はソレよりもこの状況をどうするかだ。 彰利 「俺と一緒に旅をしてどうするんだべ!?」 夜華 「それだけでいい。貴様が強くなりたいというのなら、わたしも強くなる」 彰利 「ほほう……貴様らレベルいくつ?」 粉雪 「100台には入ってるけど」 彰利 「俺も100台にはとりあえず至ってる。     これから自分をもっと高めようとしてたとこだし」 春菜 「一緒に頑張れば、楽に上を目指せると思うけど?」 彰利 「ダメ。楽なのはダメだ。もう楽はしないって誓った。     だから俺は19歳を憎……ってそれはもういいんだ。     ともかく、俺は強くなることを望む。そのためならばなんでもしよう」 夜華 「そうか。ならばわたしを連れて行け」 彰利 「……ようするに俺と一緒に居られるなら、     俺の道徳とか都合とかどうでもいいんだな、キミは」 夜華 「失礼だな。わたしはきちんと夫を立てる女だぞ。     妙にでしゃばったりはしないし、貴様が望むなら、その、なんだって……」 彰利 「じゃあいい加減に夫を“貴様”って呼ぶの、やめない?」 夜華 「断る」 即答だった。 武士に二言は無いなんて言えとは言わんが、ちょっとは考えてみせてほしい。 いや、そもそもそんな融通が利くような常識人だったら俺と結婚しようなんて考えないか。 彰利 「そかそか。そんじゃあ───私を独りにしてくれないか?」 夜華 「だめだ」 即答だった。 つまり彼女は俺に対してなにをしてくれるわけでもないらしい。 食事はいくら火傷してもキリがないから丁重にお断りするが。 彰利 「ここで問答しててもしゃあない。ともかく俺は自分を高めなければならんのだ。     こんなところで道草食ってるわけにはいかない」 夜華 「だったらわたしも連れていけ」 彰利 「OKいいから進みましょう。じゃないと埒が開かん」 夜華 「よ、よし、確かに聞いたぞ?これでわたしを置いていってみろ、貴様───     八つ裂きだけでは済まさんぞ」 彰利 「……えっとさ、夜華さん?     それって俺だからこそ笑って許される言葉だって解ってて言ってる?」 夜華 「なにを言っている。貴様以外を斬るなど、そんなことできるわけないだろう」 ものすげぇ傍迷惑な愛情表現デスネ。 いつかそれが殺人に発展しないか恐々してた俺の気持ちが彼女に解るだろうか。 月の無い月齢は俺、極端に弱くなってたからね、ほんと参る。 言いたいことはまあ、受け取っておこう。 彰利 「付いてくるならべつによし。     ただし邪魔したらソッコー追い出すかンヨ。夜露死苦」 夜華 「いいだろう。邪魔になるかどうか、その目で確かめるがいい」  でってーけてーてーててーん♪《弦月ファミリーが仲間になった!》 いやなテロップが流れたな。ま、いいさ。 これからどんなことをしようとも強くなろう。 せめて、悠介が見たっていう未来を破壊出来るくらいに。 彰利 「よっしゃあ!諦めずに付いてきなさい!」 女性陣『オーライ!!』 夜華 「期待には応えよう」 独りオーライ言ってくれんかったが、それも良しだ。 夜華さんに横文字使わせるのって嫌だし。 さて、そんじゃあいっちょ強くなってみますか! 【ケース272:弦月彰利(再)/19歳は嫌いですか?】 彰利 「だァ〜いきッらァ〜いなぼッくッじゅ〜きゅっさ〜い〜♪     だァ〜いきッらァ〜いなぼッくッじゅ〜きゅっさァい♪     19歳の馬鹿ァーーッ!!アホォーーーッ!!トーヘンボクーーッ!!     てめぇなんて嫌いだカスっ!ゴミっ!クズ…………っ!!」 春菜 「どうして?」 彰利 「いや、歌ってる途中にカッとなる時ってあるっしょ?それと一緒。     ど〜して19歳をあげに嫌うのかと」 そんな出だしだが、既に俺達は道をほっほと走っていた。 何故走っているのかって?レベルを上げるためである。 疲れないって条件下にあって、歩くより走るほうが速いってのはいいものだ。 当然なことなのだが、今はその当然が嬉しく思える。 走っても疲れる世界が不憫に思えてくるよな、こうなると。 そうして、走る中で見つけた魔物はどんなものだろうが必殺。 経験値にして、さらに駆けた。 強いやつと苦労しながら戦うより、 1ランク下のヤツと数多く戦ったほうが経験値は稼げる。 それらとすぐに回復するHP効果を生かした戦いをさきほどから続けている。 ギガンテス『ゴゥォオオオオオッ!!!!』 夜華   「遅い遅いっ!!貴様のその巨大な目は飾りか!!」 中には苦労するくらいの強いヤツも居るんだが。 夜華さんの武器はおっそろしく強く、 しかも夜華さんがそれを使いこなしているだけあって半端じゃなく強い。 夜華さんの体の周りを守るように飛んでいる鎌鼬がギガンテスを切り刻み、 それに怯んでいるうちに夜華さんが全力を以ってギガンテスを斬り刻む。 足首を薙ぎ払い、膝を破壊し、腿を断滅し腰を貫き、胸を刻んで首を払い、 最後に巨大な一つ目を貫き穿つ。 その手前は完全に戦い慣れた者の動きだった。 巨大な敵と戦うのはこれが初めてではないのだろう。 そんな疑問を打ち消すように、隣を駆ける粉雪が、 粉雪 「夜華なら大丈夫だよ。ミルギガンテスとだってサシで勝てるから」 と言う。どういうバケモノですか、宅の夜華は。 そんな表情を読み取ったのか、やはり笑む粉雪は“武器を一新してから強すぎて”と言う。 武器ね。煌く蒼い刀か。はて。 夜華 「はぁあああああっ!!せいぃっ!!!」 振るう一閃が新たな敵の胴を断つ。 一撃で消滅させられた敵は哀れの一言に付すが、 それでも次々と現れる敵に囲まれる夜華さんも気の毒だ。 しかしその時だ。 夜華さんが首に下げている首飾りの石の中に光が点り、剣に炎が灯ったのは。 彰利 「おお!?あれは!?」 真穂 「ああ、あれはね。えーと、フレイムヘイズって言えば解るかな」 彰利 「この世界ってあんなものまであったの!?」 真穂 「しっかりとあの刀には贄殿遮那(にえとののしゃな)
が合成されてるよ?」 ということはだ。 あの刀は贄殿遮那が溶け込んだステキ武器で、 さらにあの首飾りは天壌の劫火アラストールの首飾り? うおう。 彰利 「はて?でも炎髪灼眼になってないね」 真穂 「髪を染めるは日本の恥だ、って。     手に入れた二日目には根性で力をコントロール出来るようになってたよ?」 もう滅茶苦茶だ、あの人。 器用に死神の力もコントロールしてるみたいだし、対面してる相手が気の毒だ。 彰利 「で……贄殿遮那をベースにしないほどのあの刀ってなんなの?     見たところ、ただ綺麗なだけでそうステキな感じは……するか。ふむぅ?」 真穂 「稀蒼刀マグナス。六つの宝具の一つだって。提督さんに貰ったの」 彰利 「なんと!?」 おのれ中井出め!夜華さんにあげるくらいなら俺にくれりゃあよかったのに! ってそりゃ無理か、敵勢力だし。 それに夜華さんほど刀を上手く捌ける自信ねぇもんな。 だったらより良い武器ってのは持つべき者が持つべきだろう。 俺の場合、武器より自分が強くなる必要があるんだ。 武器のことでどうこう言ってる場合じゃない。 頷く俺は目の前を塞ぐように立ちはだかるギガンテスを見据え、闇黒の影(ブラックオーダー)を解き放つ。 八枚の翼が後方に出現し、渾身を込めるとともにギガンテスを一撃で葬る。 春菜 「ひえっ───!?」 OK、体は頗る調子いい。 拳に飛翼から解き放つ力を上乗せした拳は、魔人極光剣にも匹敵する。 もっとも、この世界では現実世界ほどの力は引き出せやしないが。  ぺぺらぺっぺぺ〜♪ レベルアップの音を聞く度に、今か今かと胸を逸らせる。 至ってしまえばビッグバンかめはめ波は撃てなくなるが、それはそれで仕方ない。 しかし、確かに大勢で戦ったほうがレベルアップは速い。 おまけにここの敵は経験値が大分安定している。 この分なら案外早くに、 夜華 「ん……百五十か。あ、あー……おい女。くらすちぇんじはどうやるんだったか」 真穂 「女じゃなくて桐生真穂だってばもう……。えっとね、これをこうして……」 夜華 「そ、そうか、毎度すまない。これをこうして……《ピピンッ♪》おお?     これでいいのか?なにやら力が漲るが……」  《夜華がエヴェンクルガにクラスチェンジした!“精刀氣”を会得した!!》 ラストクラスになれる、と思ったんだが。 あっさりと先を越されてしまった。 夜華 「精刀氣……?」 彰利 「説明しよう!精刀氣とは刀に精霊の霊氣を込めて撃となす神秘であり、     ようするに地の霊氣なら地精刀氣、水なら水精刀氣、火なら火精刀氣、     風なら風精刀氣と、いろいろなものが実行可能になるステキ奥義である!!」 夜華 「……なぜ……貴様が知っている?」 彰利 「だってゼノギアスネタだし」 アレには僕ハマりましたから、知ってますよ? つーかキミは届いたメールを見てないのか? じゃないな、見れなかったんだろう。なにせ夜華さんだ。 夜華さんと機械は相性が最悪なのだ。 テレビのリモコンでさえ、未だに操れないほどだ。 どうしたらテレビを付けようとするだけでリモコンが爆発するのかを知りたい。 機械音痴以前に相性の問題なのだろう。 もしくは異常空間カッパーフィールドが展開されているのか。 彰利 「それに精刀氣もどきなら俺結構遊んでましたよ?地精-崩-とか」 ちなみに地精は地面から巨大な鉄剣を出現させて相手を串刺す技である。 素手では刀氣とは言わんので、掌で地面を叩いて巨鉄剣を召喚する奥義。 それが地精-崩-である。 刀技は確か、風精刀気-宴-、地精刀気-轟-、火精刀気-朧-、水精刀気-鏡-、だったか。 宴が自分の腹を刀で貫いたうえで敵を攻撃するっていう、よく解らん奥義。 敵に背を見せて刀を振ろうとしているうちにボコられそうだった。 轟が地面から巨鉄剣を突き出させる奥義。 これは案外使い勝手はいいかもしれない。 朧が火炎の剣閃を輪状にして三回放つ奥義。 これも、アラストール装備した状態なら使い勝手がいいかもしれない。 最後に鏡。 これはゼノギアスの中でもかなり演出が良かった奥義だ。 抜刀斬撃から回転しての払い斬撃ののち、宙に飛ばした相手を5回連続で斬りつけ、 地面に落とした敵をさらに落下の勢いも付けて斬る技だ。 水というよりは氷属性って感じだったな。 氷の加護がもらえてりゃあかなり使いかってはいいが、対一用だな、間違い無く。 さて、それはそれとしてややこしいことに気づいたんだが。 こっち、つまるところのヒロラインでは精刀気の“気”の文字が“氣”になってるようだ。 まったくややこしい。 彰利 「夜華さん、確か風の宝玉持っとったよね?     だったらさ、ストックはどうかね?使っとる?」 夜華 「い、いや……使えと言われているんだが、     どうにもわたしはこういったものごとが苦手でな……」 彰利 「その割りに死神の力には振り分けしとったじゃん。あれはなに?」 夜華 「ああいやその、実はそこの女にやってもらったものでな……」 真穂 「……いつになったら名前で呼んでくれるのかな」 真穂さんか。 なるほど、いろいろ面倒見てくれそうではある。 教えてもビデオの録画さえ出来ない夜華さんだからな、構いたくもなるだろ。 俺達は既に諦めてるけどね。 彰利 「よいかね?まずナビのここを押す」 夜華 「こ、ここか?」 ポピム、と音がなってナビ画面が拡大される。 その中の言語設定をいじり、夜華さん用に用意されたであろう“純日本語”を選び、決定。 するとどうでしょう、夜華さんはあっという間に理解を示し、 ピポパとナビの文字をタッチしてゆくではないか。 ちなみに言うと俺では何が書かれているのかさっぱり解らない。 すげぇ、昔の人はこんなミミズがのたくって腕立て伏せしてるような、 花丸森写歩郎文字を理解し描いていたというのか。 すげぇ、俺にはこんな文字読めねぇぞ? あたかもアイラブジャパン、ユーラブジャパンの花丸(父)の文字と、 花丸(息子)の文字の見分けが出来ない倉地さんのようにだ。 夜華 「うん、これはいい。まったく、ややこしく“かたかな”、だったか?     そんな文字や“えいご”などを混ぜるから読めなくなるのだ。     やはり日本語はいい。外交など知らない、民は自国の文字だけ読めればいい」 彰利 「その意見にゃ賛成だけどね。     いざって時に馬鹿にされてんのかどうなのか解らないのもね」 あからさまに“You are silly!!”とか叫ばれたり書かれたりしても読めないんじゃあね。 ちなみにこの場合、You are sillyは“お前は馬鹿だ”的なものとなります。 夜華 「“すとっく”を使え、と言ったな。経験がかさみすぎていたところだ。どれ……」 言いつつ、さっきまでとは比べもんにならんくらいの速度で 軽快にナビを操作する夜華さん。 こう見ると別人のようだ。 普段の夜華さんを知る人なら、絶対に別人に見える気もするが。 やがて夜華さんが満足げに頷いた頃には、 ナビの中のエキストラスキルはかなり充実していた。 きちんとアストラル刀術にまでポイントが入ってる。 もちろん、なんとか読める程度で言ってみてるだけなんだが。 ああくそ読みづらいなコノヤロー。って、ナビに文句言っても始まらないな。 夜華 「なぁ彰衛門?この“あすとらる刀術”とはなんなのだ?」 彰利 「うむ、説明いたそう。     アストラル刀術とは、アストラルを発端の地とするエダール流両手刀術のことだ。     これは思いっきりスターオーシャンのネタだな。     いくら皆様の知識からゲーム制度を作ってるからって、ここまで真似るとは」 夜華 「……?もっと解りやすく言ってくれないか?」 彰利 「ようするに、刀術の精度を上げてくれるエキストラスキルってことさね。     それにポイント振っときゃあ、刀での攻撃が強くなるってもの。解るかね?」 夜華 「なるほど。ではこれはこのままでいいんだな?」 彰利 「オウともヨ。で、ストックの仕方だけどね?」 夜華 「ああうん、どうすればいいんだ?」 ナビの説明見れば早いYO、と言おうとしたが、これも家族コミュニケーション。 コミニュケーションだっけ?まあいいや、そう、それはどうでもいい。 どっちだって似たようなもんだ。 ともあれ俺は夜華さんにストックの仕方を教えた。 読み方さえ解れば案外楽らしく、 なにが悲しゅうて今までリモコンを無駄にしてきたのかと呆れる限りだ。 すまんリモコンたちよ、修理しまくった甲斐はあまり無かったと見える。 学習能力が無いとかじゃなく、 自国の文字以外を読む気が彼女にはまったく無かったのだ。 これでは天に召され続けまくった我が家のリモコンが報われない。 夜華 「なるほど、よし。“すとっく解除”!」 ギキィン、と耳の奥に届くような音とともに解除されたのは、 実験として埋め込んだ火精刀氣である。 それを振るうと刀身から円状の炎が放たれた。 そう距離は長くはないが、足跡の飛び道具としては中々のものではなかろうか。 ただ“すとっく”の発音がどうにも台本を読もうとして 棒読みっぽくなってしまった初心者声優の声のように聞こえるのは俺だけ? 夜華 「む……一度振っただけで消えてしまったか。     使い勝手が良いとは言えないぞ、これは」 彰利 「むう。ならばストックには     10分アビリティか上級アビリティを備えておきなされ。     “怒り頂点也”か“明鏡止水”はほんに攻撃面では役に立つっしょ」 などと言ってたら思い出した。 そういえば俺、 明鏡止水の技は見たことあるけど怒り頂点也の一閃や連ね斬りは見たことないや ここはひとつ、やってもらうべきでしょう。 丁度適当なことをやってたお蔭で敵に囲まれてることだし。 彰利 「皆様!僕らいつの間にか囲まれてます!だからみんな!     今より作戦をお知らせします!“ガンガンいこうぜ”!!」 総員 『了解!!』 夜華 「がんがん?なんだそれは」 彰利 「全力を以って殲滅せよ!って意味です!!」 夜華 「よし解った!!余力は残さない気で行くぞ!!“怒り頂点也”!!」 ドゴォン、と地響きめいた震動が一瞬広がる。 目を見開きその光景を直視すれば、 炎髪灼眼となり髪や剣から火の粉のようなものをはらりはらりと風に流す夜華さん。 どうやら全力モードになると炎髪灼眼も抑えきれないらしい。 夜華 「はぁああああっ!!!!」 紅蓮の武士が姿勢を低くし、横に飛ぶように駆ける。 やがて群れ為すギガンテスどもの傍に辿り着くや、そのままの勢いで刀を振るう。 いわゆる“一閃”というものだ。 それは容赦なくギガンテスの足を斬り裂き、後方や周囲に居た魔物まで斬滅。 脚を失い倒れ伏した巨大生物には火炎の篭った無限砲を放ち、これを殲滅。 それだけでは終わらず、マグナスの固有秘奥義らしき技まで繰り出し、 辺り一帯に居た敵を竜巻で巻き込み、 上空に舞った敵へと鎌鼬を圧縮したような風の大砲を放ち、これも殲滅。 なんでしょう、この馬鹿げた強さ。 その横では真穂さんが雷神を呼び出して敵をボッコボコにし、 さらにその付近ではキリュっちが仲間にしていたらしき魔物を召喚。 拳や脚を振るう粉雪とともに魔物をどんどんとブッ潰していき、 怯んだ魔物を春菜が閃光弓-熾天-で狙い穿つ。 あの、この人たち物凄く連携が上手いんですけど。 彰利 「っと、ホウケてる場合じゃあねぇよね」 俺もとっとと闇黒の影を発動させ、飛翼をはためかせる。 鎌の力は全て消滅して黒一点に絞られたが、月操力は残ってる。 かつてのそれとは比べものにならんほど強力なのが嬉しいところだがね。 そんなわけだ。俺は早速両手に月壊力を込め、 八枚翼の爆発的な飛翔とともにギガンテスに拳の弾幕を見舞った。 一撃で決めてしまえばいいんだろうが、こうしたほうがパンチのスキルが上がるのだ。 だからステータスはAGIのみに振り分けてある。 もちろんそれなら闇黒の影も発動させないほうがいいんだが、 これは自分が力に慣れるためでもある。 まあ、レベルが倍になったところで割り振りするのはAGIだけなんだから、 直接的に攻撃力は変わらんのだが。 問題はスキルにあるのだ。 何故って、レベルが高すぎるとスキル上げるのにも、 格下が相手では望む以上にゃ上がってくれんのだ。 どの道、戦いに手抜きしてると見做されるわけだ。 ええい忌々しい。 だから今の状態なら闇黒の影、 いわゆる“死皇に至りし鎌獄の死神”は使わない状態で殴ったほうが良さそうだ。 彰利 『それでも効果が続いてるうちは殴る!!オラオラオラオラオラァーーーッ!!!』 容赦無く殴った。 泣こうが喚こうが知らんと堂々とした風情で殴った。 逆に殴られようが殴った。 そりゃな、速度が速くなっただけで敵にはほぼダメージ与えてないんだ。 相手がその気になればいつだって仕返しくらいはするだろう。 もちろんこちらは一撃で瀕死だ。 それでもグミを噛み締めると殴ったね。 さすがにVITにも割り振ったけどね。痛かったし。 で、しばらくして闇黒の影の効果が切れたところで本領発揮だ。 俺はAGIとVITにステータスを振り分けるとアウトボクサータイプっぽく構え、 真穂 「無惨弾!!」 雷神 『憤激じゃぁあああーーーーーーっ!!!!』 どっごーん、と轟音とともに粉砕されたギガンテスを見て唖然とした。 雷神に掴まれて武器のように振るわれた真穂さんとかはこの際気にならなかった。 だが今ぞと感じた瞬間が無に帰したことに、俺は多大な悲しみを抱いたのだった。 いや、うん、強いね無惨弾。 ヘタにレベルがあるから余計に強いよコレ。 さすがHPを半分使うだけのコトは、ってパパ感心しちゃったよ。 でもね?僕の見せ場がね?これじゃあね? ああいや見せ場なんてどうでもいいんだ、強者になれよ俺。 今はカッコツケよりも自分を高めることが第一!それを忘れるな! 彰利 「ん……はぁ。よし、コンセントレーション完了!かかってこい!」 夜華 「敵なら全滅したが」 彰利 「あら……」 所詮そんなもんだった。 ───……。 時間が経つのは案外速いもんだ。 子供の頃は経験することが多いから、そのために時間が長く感じるんだという。 しかし大人になると子供の頃ほど経験することが少ないため、 時間の流れが速く感じるんだそうだ。 衝撃的な事実ってのは印象に残るもんだろ? 人ってのはそういうのを強く覚えているからこそ、 その記憶を何度も思い返すことでその時間が長いものだと感じるらしい。 さて、そうなると無限地獄の中で大体のことを経験した俺にとって、 一日がどれほどの速さで過ぎるのか、というと……これが案外普通だったりする。 他人の速度というものが解らないから普通としか言いようがないんだが、 それなりに普通なのだと俺は思う。普通だよな? 最近ヤケに時間が経つの速いなー、とか思うのは現代の日本人から見れば普通。 そう、普通だ。僕全然異常じゃないよ? いやごめん、嘘、時間経つのメチャメチャ速いです。 彰利 「もう152レベルか……」 この彰利も老いたものだ。 つーか150になってから戦闘が格段に楽になった。 なんですかこのサウザンドアームズという最終兵器は。 まさに最終兵器だぞ?群がる敵も寄せ付けないぜ?まるで虫除けスプレー(攻撃型)だ。 闇、影、黒から腐るほど武器を精製出来るわ。 HPがある限り制限なぞ無し。 これぞ無限の剣製?と思わせる力が俺に宿った。 そう、俺は既にラストジョブを手に入れた。 確かにこれならビッグバンかめはめ波を手放す価値がある。 ま、あくまで武器としてだ。 悠介のインフィニティ・バレット・アームズみたいに飛び道具になってくれたりはしない。 しかしこの彰利をナメてもらっては困る。 モノが黒ならなんでも操ってみせましょう。 それくらい出来なくて何が黒の秩序か。 などと意気込みを宣言してみせましたよええ。 だがコトは失敗に終わる。 武器として精製した時点でそれは武器になっていたらしく、黒としては扱えなかったのだ。 しかも10秒かそこらで消えちまう始末。 だから俺は工夫したね。 この能力、あくまでただの武器としての錬成しか出来ない。 それの意味するところは、特殊能力のあるフランベルジュを錬成してみたところで、 それは炎を纏ってるわけでもなんでもない。ただの切れ味のあるハリボテだ。 だが、だからこそそれを弾丸にすることに決めたのだ。 武器を錬成したら、月空力と月醒力を合わせた力で虚空から弾き飛ばすのだ。 HPと一緒にTPまで削っちまうが、元々TPの使い道があまりなかった黒な俺である。 そこんところはこの世界の創造主に感謝。 ああ、創造自体をしたのは悠介だったっけ。 だったらルールを作った誰かさんに感謝を、だな。 悠介には普段から感謝しっぱなしなわけだし。 彰利 「よ〜〜〜し!どんどん進むぜ〜〜っ!!」 真穂 「アイテムがそろそろ尽きてきたんだけどー!?」 彰利 「構わん!どうせそろそろ山頂!マップによれば山頂には町があるのだ!     そこまで耐えれば俺達の勝ち!!」 ところで、俺達が今何処に居るのかと言えば。 ギガンテスどもを楽に倒せるようになって調子に乗った俺達は今、 ガジェロマウンテンというデッケェ山に登っていた。 なんでもここは巨人どもが鉱石を掘りに来るっていう山らしく、 その噂通りになにもかもがとんでもなくデケェ山だった。 もう、モンスターひとつをとっても通常のモンスターよりデカいわけだ。 その分経験値もデカく、スライム一匹とっても規格外の経験値だった。 もちろんその分は倒すのにも一苦労だが。 まるで自分たちが子供になったかと思うくらいだ。 ここの敵を楽に倒せるようになれば、レベル上げももっと楽になるんだろうな。 そんなヤツが居るなら見てみたいが。などと思いながら上を目指す。 が、その途中でまた巨大な魔物の姿が濃い霧の向うから現れ、 彰利 「りゃっ!?」 攻撃する前に崩れ去ってしまった。 何事?ホワァイ? 田辺 「何奴!?」 彰利 「冷奴。って、田辺じゃねぇかてめぇコノヤロー!!」 田辺 「なにぃ!?そういう貴様は冷奴!!」 彰利 「誰がひややっこだこの野郎!!」 なんと、敵をコロがしたのは田辺だった。 こんなところでなにをやってるんだー、お前はー。 などとツッコミをする前に。 田辺 「つーか。何奴?って訊かれて冷奴って答えるヤツなんて初めて見た」 彰利 「いやほら、漢字にすると文字似てるじゃない?     それよりキミ、なしてこんなところに?」 田辺 「世界をこの目で見るためだ!もちろん清水と岡田も居るぞ?     魔王様とドリッ子は今は提督ンとこに居るけど」 彰利 「ほほう。で、その中井出たち提督軍は?」 清水 「tellで聞いた話じゃあ、妖精の里に居るらしい。     妖精のペンダントを呪いから解いたお蔭で入ることが出来たとかなんとか」 彰利 「なんとまあ……マジすか?」 岡田 「マジもマジ。提督、反狂乱しながらテルしてきたから間違い無い。     もう何喋ってんのか解らんくらいだったし。     なにやら叫びまくって、何かがブチッと切れる音とともにテルが切れてさ。     少し後に綾瀬からテルが来たんだけど。提督、興奮のしすぎで気絶したって」 真穂 「さすが提督さん……」 彰利 「さすが中井出だな……」 さて、そこで気になるのが妖精の大きさなんだが。 岡田 「ああ、妖精の大きさならやっぱり小さかった〜って言ってたぞ?     声が鼻声だったからな、多分感動の涙さえ流してたんだと思う」 粉雪 「さすが提督さん……」 春菜 「さすが中井出くんだね……」 今日も僕らの提督は絶好調のようだった。 彰利 「そんで田辺貴様この野郎」 田辺 「なんなんだよ、その名前を呼びつつ散々な罵倒を浴びせてるような文句は」 彰利 「んなこたどうでもヨロシ。それよりキミ、レベルいくつ?」 田辺 「レベル?182だけど」 彰利 「ぶっほ!?て、てめぇ!!田辺のくせに!」 田辺 「たっ……田辺のくせにってなんだよ!     俺達だって必死こいてレベル上げやってんだぞこの野郎!!」 清水 「ちなみに俺が174で」 岡田 「俺が180」 む。つまり田辺がトドメを刺しまくってるってことか? 同じパーティーでレベル差があるってことは、そうに違いない。 彰利 「しかしそれにしてもいったいどういう強さかね?     ここらの敵をずんばらりんと斬り伏せるなんて」 田辺 「フッ……それは完成まで一歩手前!の燕返しに秘密あり!!」 彰利 「燕返し?明鏡止水からの派生の刀技?」 田辺 「それも混ぜてるんだけどね、まあそんなとこさ。     十連撃を一度にやる妙技!おお、これぞ漢の為せる技!!」 清水 「まあそこんところは所詮田辺で、     怒り頂点也の連ね斬りと明鏡止水の     抜刀燕返しの特種効果があって初めて成功する技なんだけどね」 田辺 「う、うるせー!いつか俺だってなににも頼らず出せるようになってやるのさ!     その時のスーパー田辺一郎の姿にドギモ抜かれりゃいいんだ!!」 彰利 「見る機会があったらな……」 田辺 「え!?な、なにその哀みを込めた俺を見る目!!     まるで俺が修行の成果を見せることなく息絶えるみたいな……!!     い、言っとくけど俺すごいんだぞ!?あれから必死に強くなったんだかんな!?     この一週間の間、どれほど頑張ったことか!!」 彰利 「ウソく……」 田辺 「くさくねぇーーーっ!!」 彰利 「でもそんな話、聞いたことが……」 田辺 「あるわけねぇだろボケ!!     普通に旅しててわざわざ“強くなったYO!”とか誰が知らせるってんだよ!!」 彰利 「俺ならやりそうだと思いません?」 田辺 「今話してるのって俺の話じゃなかったっけ!?」 岡田 「精神面が原中なのは仕方ないとして。田辺は確かに強いぞ?     特に燕返しは戦闘に特出した技能さ。対一だったらほぼ負け知らずかもな。     複数相手だとボッコボコだけどな!ウハハハハハハ!!!!」 田辺 「わざわざ大声で言うとこじゃねぇっしょそれ!!」 清水 「まあそんなわけでさ、俺達ゃレベル稼ぎをしつつも旅を続けてるのさ。     そうしないといけない気がしてね。     なにせ最近、敵の数が増えてる気がしてならん。そう思わないか?」 それは、確かに。 最近になって、特に我ら獣人勢力が潰されて以来、 ヤケにアンデッドモンスターが増えてきた。 アンデッドモンスターで連想するのはアノヤロウ一人なのだが、 アイツとは出来れば会いたくない気分だ。 戦いたくない理由とは関係ないが、ジュノーンの動作って何気にレオンに似てるんよね。 あれって偶然か?よし偶然だろう。そういうことにしとこー。 彰利 「とまあそれはそれとして。結局キミらここでなにやってんの?」 清水 「冒険の旅」 彰利 「冒険と旅って何が違うんだろうな」 清水 「それはガリバーボーイの歌を作った人に訊いてくれ」 彰利 「果てないワンダーランドか」 清水 「果てないワンダーランドだ」 待て待て、こんな話をしてたんじゃあ話が進まん。堂々巡りだ。 彰利 「で、つまりここにはレベル稼ぎに?」 岡田 「それもあるし普通にまだ見ぬ場所を見に、ってのも。     まあいろいろとだな。弦月、お前は?」 彰利 「俺はもちろん強くなるため!     その旅に出た当日に妻たちにあっさり捕まりました」 田辺 「随分あっさり捕まったんだな。結構逃げてたって聞いてたのに」 まあそんなものさ。 世の中って自分に対してやさしくないものなんだよきっと。 人はそれは神様が与えた試練だ〜とか言うけど、 僕ァ“創造主”の説なぞ最初から信じてません。 この世は誰かの手によって生み出されたわけではなく、自然に発生したものだ。 進化論を唱えるなら最初の人がアダムとイヴだったってのも眉唾だしな。 矛盾だらけの状態で結論急いでも仕方ないだろ。 進化論の果てを人は“人間こそが進化の最果てだ”と言う。 でもそれは人が人でありたいと願い、 生きていく上でこの体が一番都合がいいと願ったからこそ生まれた理想論だ。 いずれ世界が滅びに向かう過程で、 人もやはりそれに見合った体に変異していくんだろうさ。 文明社会に溶け込むのが人間だというなら、 いつか滅びるだろう世界にこそ適合したモノへ、人はいつしか変異する。 “進化論”ってのはそういうものだろ? 人間で居たいから人間はこれ以上の進化はしない、なんてとんだ理想論だ。 神だって生まれるし、死にもする。 都合のいい万能創造主なんて存在しない。 生きる上で試練と感じるものがあるのだとしたら、それは誰から齎されるものでもなく、 その人がそう思ってしまう故に現れるものだろう。 余程に捻じ曲がった事態以外、試練だなんて呼べるものはなにひとつないのだ。 俺だって、無限地獄を試練だったなんて思いはしない。 いつかは思ってたんだろうけど、今はもうそんなことはないのだ。 全てはここに至るための過程で、こうしてる今も未来への過程だ。 試練なんてものは無い。 あるとしたら、ゲーム感覚で唱えるもののみだろうと、俺は思うわけだ。 彰利 「ヘイユー!人生とはなんぞや!?」 清水 「いきなり訳解んねーよ!!」 彰利 「まったくだ!!」 夜華 「人生是鍛錬也。他になにがある」 彰利 「黙ってたと思ったら、開口一番にそれっすか?」 夜華 「完璧なものなどないのなら、それを目指して日々鍛錬をする。     それが人というものだろう」 彰利 「強くなるって点に関しては同意見だけどさ。娯楽もないとつまらんよ?」 清水 「人生……人生ねぇ。原中の猛者として言わせてもらえば、楽しみ探しだな」 彰利 「俺も似たようなもんかね。     ちなみにこの中で人生とは試練だとか思ってる人居る?」 夜華 「降りかかる火の粉は叩き落すのみだが。     強くなるために障害が出るというのなら、それは……」 彰利 「試練ではなく邪魔者では?」 夜華 「む……た、確かに。だが限界などにぶつかった場合はそれをなんと喩える?」 彰利 「おお任せろ。屁理屈なら得意だ」 清水 「屁理屈って認めてる時点でダメなんじゃないか?」 彰利 「う、うるせーーっ!!」 でも確かに屁理屈と認めてる時点で話になんかならないんだろう。 それならそれでもいいんだ、自分の思考を否定されるのは誰だって嫌だろうし。 うんよし、暗い考えはシャットアウトだ。 いくら黒だからって、考え方まで暗いのは勘弁さ。 明るく元気に、されど暗黒。 モットーモットーサービスモットー。 彰利 「そんなわけで僕はこれで失礼するよ?」 清水 「脳内でどんな自己完結を展開したのか知らんけどさ。頂上にゃあなにもないぞ?」 彰利 「エ?またまた、地図によればこの山の頂上には町が……」 岡田 「ああそれな?ここ数日のうちにジュノーンにブッ潰されたぞ?     今じゃアンデッドモンスターどもが住まう腐敗都市になってる」 彰利 「わあ……あ、でも火事場泥棒っつーか、なにか拾えるやもデショ?」 田辺 「それは既に俺達が回収済みである。ふはははは残念だったな!!」 彰利 「なんと!?寄越せてめぇ!!」 田辺 「断る!!拾ったモンは既に俺達のだぜ〜〜〜っ!!」 春菜 「そこまで断言出来るんだ……」 田辺 「アイム原中!!それが原中!!     現実世界ならもちろんこんな死者を冒涜するようなことはせん。     だが!勇者が人様の家のタンスからアイテムを盗んでいいように!     クロードくんが人からモノをスッてもいいように!!     そういう遠慮無い世界に憧れていた我らが何を後悔しようか!!     そんなわけでこれは我らのものだ!誰にも渡さん!!」 物凄ェ根性の持ち主がそこに居た。 そりゃ俺も原中だし、火事場泥棒ドントコイなんだが。 くそ、せめてもっと早くにここに辿り着けていれば……! 岡田 「あ、ちなみに崩壊前のここになら、提督が来たことあるらしい。     なんでも珍しいモン手に入れたとか言ってたけど……」 彰利 「宝具シリーズとか?そろそろ斧あたりが発掘されるのではと踏んでいるんだが」 清水 「斧なら黒竜王が持ってたって提督が」 彰利 「彼らどんなとこ旅してんの!?」 岡田 「今やモンスターからキラーマシンとして恐れられるほど、     そのブレイバーっぷりは有名だ。     提督軍の通った道には生きた魔物は残ってないとは、     噂ながらに真実味を感じさせるぜ?」 なにやってんだろね、彼ら。 だが今の俺なら負けねぇぜ? レベル倍にしてかかれば楽勝楽勝!ボハハハハハ!!! レベル300とかに達してなけりゃの話だけどね。 そういえば、俺より先に旅に出た悠介は今頃何処でなにをしているのだろう。 元々ヤツを追って旅に出た筈だったのに、何故こんな状況なんでしょうね僕は。 彰利 「しかし、そうか。ゼットが斧宝具をね。俺も宝具欲しいなぁ。     お知り合いのお偉いさんに聞いた話じゃあ、そうとうに強いらしいし」 岡田 「聞いた話じゃあ今のところ、     稀黄剣を提督、稀赤斧を黒竜王、稀蒼刀を篠瀬さん、稀緑杖を綾瀬、     稀紫槍をレオン、稀黒装を藍田が持ってるらしい」 彰利 「ほぼ提督軍が持ってんじゃん!ナニソレ!?奪えるとしたらレオンからだけ!?」 岡田 「そういうことになるかな」 彰利 「しかし、藍田が稀黒装をね……。     それってアレだろ?レヴァルグリードの力が宿ってるっていう……」 田辺 「そうそう。なんでもTP半分消費するだけでとんでもねぇ力発揮出来るんだとか。     あれ?でも藍田、稀黒装はお前に貰ったって言ってたぞ?」 彰利 「オイラが?ほっほっほ、そりゃ間違いってもんでしょう。     俺が彼に上げたのなんてせいぜい錆びた塊でホォオーーーッ!!?」 岡田 「うおっ!?ど、どした!?」 錆びた塊!?もしやあれがそうだったと!? 馬鹿な!獣人鍛冶屋にダメ出しされたガラクタですよアレ!! いったいどんなカッパーフィールドがあんなガラクタを至高の武器に!? 岡田 「顔色が優れないようだが……」 彰利 「い、いや……なんでもない」 そうかそうか、以前からもかなり強かった藍田くんがさらに急に強くなった理由はそれか。 そういや後方に出してた、“九頭竜闘気”だっけ?確かに九つの黒い光を出してた。 思えばあの時、既に稀黒装を装備してたんだろう。 道理で滅茶苦茶強ェエエ筈だ。 普通に強いってのも確かにあったんだがネ。 OK、状況は大分掴めた感じではある。 ま、ともかく今は頂上を目指そう。 なにも無くとも経験値にはなりそうだ。 そう思った俺は清水たちに別れを告げると、 霧が立ち込める山をさらにさらにと登っていった。 話が中途半端なこともあって、 ヘンテコな表情されたが、そこらへんは適当に流させてもらった。 Next Menu back