───冒険の書88/新魔王と柿崎くんと───
【ケース277:弦月彰利/パノラマのリズムで】 ドンチャカチャッチャ、ドンチャカチャッチャ、 チャカチャカチャッチャ、ドンッチャチャッチャ!! 彰利 「オーレイ!!」 さあ今日も元気に出発だ!! というわけで、ある晴れた日、僕は妻の皆様と一緒に宿を出ました。 同じ宿に居た閏璃凍弥たちも一緒にチェックアウトしたようで、 すぐ傍の道具屋でアイテム揃えてる。 柿崎 「あんまり無駄なもん買うなよ」 凍弥 「いや、無駄じゃないだろ。     見ろ、ハバネロだぞ?闇鍋とかに使えそうじゃないか」 来流美「無駄以外の何物でもないでしょうが!!」 凍弥 「ウ、ウヌー」 ガッシュのような声を出す閏璃くんだが、まあ、相変わらずのようだった。 人をからかうことを生業にしているようなヤツだが、 由未絵っちったらよくもまああげな人間を好きに…… 彰利 「………」 妻たち『?』 いや、俺も人のこと言えんけどね? なぁ〜んで俺ごときを好きになれたんだろうねぇ? 不思議だねぇ? まあそれはそれとして、今僕らは西の大陸とやらに来ています。 こっちにね?悠介が渡ったって噂が流れてるのよ。 なにせ船乗りさんが“悠介って名前は知らねぇが、 立派なモミアゲのあんちゃんが頭に空き缶つけた姉ちゃんと一緒に海を渡ったぞ” って言ってたし。 もう間違い無いね。 これを聞いて、彼らを知る誰が間違うネ? ガジェロマウンテンの一件から既に三日。 俺達は新たな新天地、西の大陸と東の大陸を繋ぐ港町、 ホークピクスでひと休憩をいれていたってことさっ。 彰利 「蒼い空ーーーッ!!綺麗な水色の海ーーーッ!!     なんて綺麗な海なんだーーーっ!!コノヤローーーッ!!」 真穂 「海にコノヤローって言ってもしょうがないよ。ほら、晦くん探すなら早く行コ?」 彰利 「そうだね」 本日快晴、今日もよい一日になりそうさ。 こんな日はなにかいいことが起こりそうだなぁ。 ───な〜んて思ってた今この時を、俺は盛大に後悔することになるんだが。  ガカァン……《西の大陸の魔王軍が壊滅しました》 彰利 「フオッ!?」 いきなりの報せがペンダントから聞こえてきたのです。 私は大変驚きました。 西の……西の魔王?タレ? とはいえ、魔王クラスのお方がやられるとは……もしや相手は悠介? 凍弥 「おーいトンガリくーん」 彰利 「なんだいベナウィくん」 凍弥 「そっちにも報せ、来たか?」 彰利 「オウヨ。つーことはそっちにも?」 凍弥 「おお。なにやら魔王軍が壊滅したとかなんとか。     これってお前ンとこのモミアゲさんの仕業か?     お前、確かこっちにはモミアゲ探しに来てたって言ってたろ」 彰利 「然り。多分、宅のモミーの仕業と考えていいと思うんだが」 凍弥 「派手なことしてるなぁ。空き缶さんとモミアゲの二人パーティーなんだろ?」 彰利 「そうザマス」 その二人だけで魔王軍壊滅ってのは相当にスゴイことなんじゃなかろうか。 などと思っていた時、ふと視界の横でパーシモンくんが誰かを抱きとめているのを確認。 彰利 「ややっ!?貴様白昼堂々街中でなにをしちょる!!」 柿崎 「うぇっ!?あ、いやっ!フラフラしてた女が急に倒れたんだよ!     悪いっ、ちっと宿屋のベッドで寝かしてくるから!」 凍弥 「襲うなよー」 柿崎 「襲うかっ!!」 顔を真っ赤にさせつつ、彼はマントのようなフードのようなものを羽織った、 顔はよう見えんかったけど、ともかくおなごらしい人を宿へと連れて行った。 彰利   「襲うほうに1ギミル」 凍弥   「なにぃ、じゃあ俺は襲うほうに2ギミルだ」 鷹志   「お前らさ、ちっとは知り合いを信用しろよ」 彰利&凍弥『断る!!』 来流美  「容赦ないわねぇ……」 遠慮なぞしていたら楽しいことは逃げ出しますから。 上質の味わいと楽しみをあなたに。それが原中クオリティ。
【Side:柿崎稔】 ───はぁ。 柿崎 「これでよし、っと」 今朝まで使っていた部屋をもう一度借りて、そのベッドに倒れた女性を寝かせた。 ひどい傷だ。 こりゃ早く手当てしてやらないと危険だ。 ……とはいえ、気絶中の女に触れるのってどうよ。 柿崎 「ああっ、言ってる場合かっ!!」 埒も無し。そしてさもありなん。 バックパックから薬草を取り出し、それを調合道具で磨り潰して傷口に塗りつけてゆく。 邪魔だからとどけたフードの下には、おっそろしい美人顔。 思わず見惚れてしまったが、そんなことは後回しだ。 柿崎 「さて……顔とか腕とかの傷には応急処置を施したが……」 流石に服の下はレッドゾーン及びデッドゾーンだ。 なにせ善意でやろうがなんだろうが、この場合は女性が黒だと言えば黒になる。 おまけに外にはからかい好きの凍弥と弦月。 最悪だ。 柿崎 「しゃーない、確か調合で作ったハイポーションがあったな。     それを飲ませ……どうやって飲ませるんだ?」 そのままゴッフゴッフと飲ませるわけにもいかんだろ。 なにやら口を閉じたまま開こうともしないし。 じゃ、鼻から……って凍弥か俺は!! いや待て、落ち着こう。 そんなだからいっつもあいつらのペースに巻き込まれるんだ。 一滴一滴、唇の間から滲ませるように飲ませよう。 いやその前に鼻でも摘んで、息苦しさに口を開けた時にハイポーションを? 柿崎 「人命優先だ。試せるものは全部試そう」 恥ずかしいとか言ってる場合じゃないよな。 頑張れ、俺。 ていうかほとほと情けないよな、俺。 いくら女に免疫がないからって、傷の手当てだけで顔が灼熱してるのが解る。 ああいやいやいや、今は集中、集中だ。 柿崎 「やれやれ」 俺はそうして、この誰だか解らんねーちゃんの看護を続けた。 これから起こる、とんでもない出来事に気づきもしないで、だ。 ───……。 ……。 それからかなり経った頃だろうか。 案外看病ってのは精神的に疲れるらしく、 さらに女に免疫もないことも手伝ってか酷く疲れた俺は、 彼女を寝かせたベッドに腕枕をして眠っていた。 で、ハッと気づいたら……彼女がモゾモゾと動き出しているところで。 そろそろ起き出すことを予想した俺は部屋を出て、 軽い食事と水を主人に出してもらって部屋に戻った。 すると丁度、彼女はベッドで上半身を起こしているところだった。 柿崎 「おっ、目ェ覚めたか?」 実に数時間。 既に世界が昼の頃合になる時間だった。 起き抜けで状況がよく掴めていないらしい彼女の横に腰を降ろすと、 持ってきた食事を見せてからまず水を渡した。 女性 「………」 で、何故か俺と水を見比べるように視線を上下させる彼女。 名前が解らんのは不便だが、まあ知っても知らなくてもどうせここだけの出会いだ。 すぐに別れることになるなら、わざわざ知る必要もないだろう。 女性 『……なんの真似だ』 柿崎 「お?」 初めて喋った、と思えば、その声はなんだかブレて聞こえた。 あれ?もしかして普通の人間じゃない? まあいい、傷ついて倒れたのは確かだ。 今はそんなことは後回しということで。 柿崎 「なにって、さあなぁ。詳しく説明できるほどの勉学は得てない」 教師ながらな、と笑いながら言う。 そういや俺、夏休みに入ってから全然教師らしいことしてねぇじゃん。 まあ、既に死んでることになってるんだからどうでもいいんだろうけど。 柿崎 「ま。まずは水でも飲んで落ち着け。腹は減ってるか?傷は痛まないか?」 女性 『───、───!?傷が塞がってる……どういうことだ?お前がやったのか?』 柿崎 「そんなところだ。それよりほら、メシだ。腹、減ってないか?」 女性 『騙されると思うか?どうせ毒でも───《きゅぐるぐ〜……》う、ぐ……』 柿崎 「ぷっ……だっはっはっはっはっはっはっは!!!」 女性 『笑うな!!私を愚弄する気か!!』 柿崎 「い、いやっ、悪い悪いっ!だぁっはっはっはっはっは!!     こんなタイミングで腹鳴らすヤツなんてホントに居るんだな!     だぁーーーははははははは!!!」 女性 『〜〜〜っ……不愉快だ!!貴様、殺されたいのか!?』 柿崎 「ああいや、はは、それはゴメンだな。     ま、そう心配しなさんな。毒なんて入ってないよ。     大体、なんで俺がお前を殺さなけりゃならん。理由が無いぞ?」 女性 『………………嘘を言っている顔じゃないな。お前、本当に知らないのか』 柿崎 「なにがさ」 女性 『私は───……、い、いや。いい。それより、本当に毒は───』 柿崎 「入ってない。入ってたら死ぬ間際に俺を殺してくれてもいいぞ?     まあ、その場合は俺は入れてないから、     入れたのはこの宿の主人ってことになるんだが」 女性 『………』 水を受け取った女性は、それをなにやら赤い顔でこくこくと飲み始めた。 で、飲み終えると俺の手からメシをかっさらい、 豪快に食べ始め、それが済むと息を吐く。 女性 『……まずい』 柿崎 「贅沢言うなよ、食えるだけめっけもんってもんだ」 女性 『フン……。ところで、どうして顔や腕だけしか手当てしなかった。     ところどころが痛むぞ、中途半端な治療の所為だ』 柿崎 「アホか!寝てる女の服ひんむいて治療なんて出来るかっ!!」 女性 『───……』 柿崎 「………?」 ああ、なんだろうか、この“なにを言ってるんだこの人間は”って顔は。 まるで、自分を女性扱いする存在が馬鹿者としか思えないって顔だ。 女性 『……お前は、本当になにも知らないのだな』 柿崎 「馬鹿にすんねぃ、学校で勉強教えるくらいは出来るぞ」 女性 『だったらその勉学とやらも底が知れる。     私の名を聞けばきっとお前も竦み上がるだろうよ』 柿崎 「へえ。じゃあ自己紹介ってことで。俺は柿崎稔。     で、思わず竦みあがりたくなるあんたの名前ってのは?」 女性 『フォルネリア。リグレス=フォルネリア=テオゲートだ。     ふふ、どうだ?驚いただろう』 柿崎 「おお。あまりにヘンテコな名前なんで驚いた」 ドグシャアッ!!───あ、ズッコケた。 フォルネリア『なっ……フォ、フォルネリアだぞフォルネリア!!        お前っ、本当に知らないのか!?』 柿崎    「じゃあ訊くが。俺は柿崎だが、お前は俺を知ってるか?」 フォルネリア『知るわけないだろ』 柿崎    「だったらそれが答えだろ、馬鹿者め」 フォルネリア『…………なんだかな。調子がズレる。        お前、本当にわたしを知らないんだな?』 柿崎    「知らん。どっかで会ったか?だったら謝る、すまん」 フォルネリア『ああいや、いい。そうか、知らないか……。        だったら訊くが、わたしはどう見える?』 柿崎    「?、綺麗な女性、じゃないか?」 フォルネリア『そうじゃない、怖くないかと訊いているんだ』 柿崎    「何故恐怖せにゃならん」 フォルネリア『………』 なにやらジッと俺を見つめるフォルネリア。 しかして、しばらくするとその顔がポッと赤くなる。 フォルネリア『た、度々訊くが、お前は私を介抱してくれたんだよな?        疲れて寝てしまうほどに……』 柿崎    「ありゃ?なんだ起きてたのか?」 フォルネリア『お前が出て行った隙に逃げ出そうとしたんだ。        だが体のダメージが残りすぎていてできなかった。それより、どうなんだ』 柿崎    「まあ、そうだな。事実には変わりないと思う」 フェルネリア『体のほうの傷も手当てしたかったが、        私が綺麗な女性に見えるからおいそれと出来なかったんだな?』 柿崎    「そ、そうだが。わざわざ確認するなよ、恥ずかしい」 フォルネリア『で……だ。私の名を聞いても怖くないんだな?        お、お前はどうだ?ちゃんと私を綺麗だと思えるか?』 柿崎    「だ、だからどうしてそういうこと真正面から訊くかねっ……!!        お、おお!綺麗だぞ!?だから顔そんなに近づけるなって!!」 フォルネリア『そ……そうか。おいお前!名をなんという!』 柿崎    「さっき名乗っただろうが!」 フォルネリア『忘れた!!』 柿崎    「ヤロッ……!!ったく、柿崎だ。柿崎稔」 フォルネリア『柿崎……稔。稔……稔……』 柿崎    「な、なんだよ。そんな連呼するなよ」 さーてどうしたもんか。 なにやら酷く嫌な予感がするんだが。 “従者になれ”とか言ってきそうな雰囲気さえするんだが? フォルネリア『私が魔王でも綺麗だと言えるか!?』 柿崎    「俺ゃウソは嫌いだ。綺麗だぞ……って」 ───マテ。 今、この方なんておっしゃった? フォルネリア『〜〜〜……!!《きゅぅううん……!》稔さま……』 キュム。 柿崎 「えっ……お、えゎぁあああああっ!!?」 稔さま!?様って誰!? え!?あれ!?なんで俺抱きつかれてんの!?ホワイ!? フォルネリア『愛だの恋だのなんて下等な人間だけのものかと思っていました……。        でも私は今、あなたに心を奪われました……。        魔王である私にここまでやさしくしてくれて、        女性として見てくれるなんて……。        このフォルネリア、どこまでもあなたに連れ添います……』 …………………………エ? あの、なんですかこの状況。 もしかしてドッキリ?カメラ何処!? またか!?また凍弥!貴様の仕業なのか!? ああぁあいやいやでもでも待て待て待てぇ!! ならばこの女性のこの潤んだ瞳はなにを意味するの!? しかもそのまま俺をベッドに押し倒してなにをするつもり!? え……なに?契りを交わしましょう?やっ!契りって! ちょ、えぇ!?マッテ!!僕ハジメテ!じゃなくて!! 聴覚阻害の魔法を使ったから大丈夫!?いやそういう意味じゃなくて───ヒィ!! 物凄いパワーだ!!あっという間に衣服が剥がされてしゃぎゃーーーっ!! 【Side───End】
───……。 時刻は昼を回っていた。 僕ァなんとは無しに武器を鍛えてもらって、その時間を釣りをして潰していた。 時々宿屋から異様な気配とか感じたけど、それらは無視の方向で。 僕の長年の勘が、あの気配には近づいちゃいけないと叫んでます故。 ───さて。 そうして魚篭がいっぱいになったところで、 これを食材屋に売ろうかな〜と立ち上がった時、それは起こった。 町人 「う、うわぁーーーーっ!!!」 町人 「ヒ、ヒィーーーーーッ!!!」 彰利 「おや?」 突如として町の人々が騒ぎ始めたのだ。 んなもんだから何事かと、 逃げ惑う人々の間を縫って前に出てみれば……そこにはどっかで見た覚えのある人が。 藍田 「いいかぁ愚民(クズ)
どもぉぉぉぉ!!!!     このお方がこの大陸の新たなる魔王、中井出博光様だぁあああっ!!!」 丘野 「貴様らが生きていられるのも魔王様のお蔭!!     つまり同じ猛者たる我ら原中のお蔭なのだぁああああ!!!!」 町人 「ヒ、ヒィイイイッ!!!」 皆川 「あぁ〜〜ん?なに倒れて道を塞いでやがる〜〜〜っ!!」 町人 「ヒイイイ!!お助けぇええっ!!!」 ……あの。 これはどういった怪奇現象なのでしょうか。 つーかさ。 彰利 「ちょいと皆川クン!?キミこったらとこでなにやってんの!?」 皆川 「あぁ〜〜ん!?あれ?弦月じゃないか。どした?」 彰利 「そりゃこっちの台詞ですがね。キミ、我らの勢力に居たっしょ?」 皆川 「寝返った!!」 彰利 「速ェエーーーーーーーッ!!!」 皆川 「ちなみに原中メンバーはほぼ全員提督軍となった!!     何故って!?こっちの方が面白そうだからさ!!」 彰利 「何処までいっても原中なんだねキミら……」 何よりも面白さと楽しさを優先させてあっさり裏切るとは……さすが原中。 皆川 「丁度昨日あたりかな?提督から連絡があってさ。     “魔王のおなごに世界の半分をやる”って取り引きを出されたらしくて。     で、我ら原中ならば誰もが夢見たことを提督はついにやってくれたのさ」 彰利 「……もしかして」 皆川 「そう!猛者ならば誰もが言ってやりたい伝説の一言!     “半分じゃない、全部よこせ”!!     で、激怒して集中力を欠いた魔王さまを全員で文字通り袋叩き。     逃げられちまったらしいけど、こうして代わりに魔王様になったってわけだ」 彰利 「うわぁ……」 いろんな意味が込められた“うわぁ”が口から漏れた瞬間だった。 つーか……うわ、清水とかも居るじゃん。 我らと別れてからなにが起きたのか知らんけどさ、 あいつらエトノワールはどうしたんだ? 清水 「いいかぁ愚民(クズ)どもぉぉぉぉ!!!!     このお方がこの大陸の新たなる魔王、     中井出博光様の血を引くシード様だぁあああっ!!!」 岡田 「貴様らが生きていられるのも魔王様のお蔭!!     つまり同じ猛者たる我ら原中のお蔭なのだぁああああ!!!!」 田辺 「さあ働けぇっ!!働くのだぁっ!!」 いかんなぁ、これじゃあ我が勢力はボロボロだ。 いやまあそれはそれとして、 なんでみんなわざと顔をゴツく見せながらガン飛ばしてるんだろうか。 別のほうでは神輿担ぎで揺らされまくってる少女まで居るし。 ……ありゃ?あれはかつて僕が攫ったドリアードさんじゃないか? 佐野  「シェッケナベイベェッ!!」 猛者ども『シェッケナベイベェッ!!』 佐野  「シェッケナベイベェエイ!!」 猛者ども『シェッケナベイベェエイ!!』 佐野  「シェッケナベイベェッ!!」 猛者ども『シェッケナベイベェッ!!』 佐野  「シェッケナベイベェッ!?」 猛者ども『シェッケナベイベェッ!?』 ナギー 『ややややめるのじゃーーーっ!!もういやなのじゃーーーっ!!』 ドリッ子は顔面蒼白だった。 ああ、ありゃすぐにでも吐きそうだ。 他の二人とのこの扱いの違いはなんなんだろうな。 皆川 「というわけでキミもどうだい?」 彰利 「んー……面白い提案ではあるんだがね?僕はこのままでいいや。     個人的にレベルアップを図りたいから」 皆川 「そかそか。桐生と日余もそれでいいのか?」 真穂 「ん」 粉雪 「掴んでないとすぐにどっか行っちゃうからね、彰利は」 皆川 「そっか。そりゃ残念。じゃあ次会った時は敵かね」 彰利 「そうかものぅ。なんなら今やってもよいけど?」 皆川 「ほほう。新たな魔王様に勝てるつもりか?」 彰利 「フッ……馬鹿にしてもらっちゃ困るぜ?こちとらもうレベル250よ!!」 皆川 「じゃ、やめとけ」 彰利 「なんで!?」 皆川 「提督軍上層部は既に平均レベル420だ。貴様じゃ勝てん」 彰利 「どんな戦い方してたの中井出!!」 皆川 「こっちが訊きてぇよ……」 彰利 「な、なんの!こっちにゃレベル倍化能力が───」 皆川 「それでも500だろ?提督の愛用アビリティ忘れたのか?」 彰利 「ウィ?それって……」 ちょほいと考えて見たら、すぐに鬼人化の三文字が頭に浮かんだ。 ああ、確かにそりゃ勝てん。 皆川 「あ、話は変わるんだが、     とうとうこのゲームのタイトルも適当なもんじゃなくなったぞ」 彰利 「む。それって……ああ、つまり中井出が野望を持ったってこと?」 皆川 「その通りだ。“俺……一度でいいから世界征服してみたいかも”って」 彰利 「そんな早食いラーメンに挑戦するみたいな軽いノリで!?」 皆川 「おお」 もうなんでもアリだな原中も。 一番“力らしい力”を持たせちゃならねぇやつらに力を持たせりゃ、まあこうなるよね。 しかし野望の一歩が世界征服とは……初っ端からブッ飛んだ発想だぜ中井出よ。 さすが僕らの提督だ。 藍田 「聞けぇクズども!!これより提督様のありがたいお言葉が聞けるぞぉ!!」 ざわっ……! 町人 「い、いったいどんな無理難題を押し付けてくるんじゃろうか……!」 町人 「私たちはただ静かに賑やかに暮らしたいだけなのに……!」 中井出「えー、みなさんこんにちわ」 総員 『すげぇ普通だぁーーーーーっ!!!』 皆川 「いや違う!これは……“はじめの一歩”の千堂武士のマイクパフォーマンス!」 彰利 「言われなきゃ気づかねぇよそんなん!!」 中井出「この博光が魔王になったからには、     全ての国家勢力をブッ潰して民主主義世界を創っていきたいと思っております。     魔王だからといって悪に走るのではなく、むしろ正義に走る魔王!!     OHソウルフル!!この博光の心の巴里が燃え盛っておるわ!!     やはり常識外の実行はなんとも甘美なる気分に味わわせてくれるものよ!!     というわけで皆様は今まで通り普通に過ごしてください。     キミたちは大事な労働源なのですから。ただし邪魔をしたら全力で潰します」 彰利 「中井出てめぇ!そりゃどっかの議員投票を受けるための文句か!?     魔王でしょキミ!役員になりたいわけじゃないんでしょ!?」 中井出「世界は征服する!だがその征服とは善の方向での征服!!     魔王としてこれほど真逆なことはあるまい彰利一等兵!!」 彰利 「そりゃそうだけどねキミ!     そんなこと続けてりゃ誰もキミを魔王って呼ばなくなるよ!?」 中井出「む。一理ある。でもね?こうでもしないとナギーが拗ねちゃってだめなのよ」 彰利 「そんな平和主義な魔王が居てたまるかネ!!     魔王ってのはもっと闇っぽい存在っしょ!!」 中井出「バカモーーン!!貴様それでも誇りある原中の一等兵か!!」 彰利 「ハッ……!!」 中井出「魔王ってのはもっと闇っぽい!?そんな常識に囚われていてどうする!!     我ら原中はそういった“当然”を破壊するために居るんだろう!!」 彰利 「グ、ググーーー」 しまった、状況についていけずについ口が滑ってしまった。 この彰利ともあろうものが、不覚ナリ。 彰利 「そ、そうだった〜〜〜っ!!     わ、我らはとにかく楽しめればそれでいいんだった〜〜〜っ!!」 中井出「お、思い出してくれたか〜〜〜っ!!」 春菜 「や、なにもそこまでキン肉マン語を使わなくてもいいんじゃないかな」 中井出「まあまあ更待先輩。というわけで諸君!この大陸は我ら原中が乗っ取った!!     締め上げられたくなかったら普通の暮らしをしていろ〜〜〜っ!!」 藍田 「ジョワジョワジョワ〜〜〜ッ!!そうだ〜〜〜っ!!普通の───普通!?」 中井出「ただし普通から外れて我らに刃向かう愚か者には容赦しねぇ〜〜〜っ!!     頭の毛という毛を剃ってFF11の紋章ハゲみたいにしてやる〜〜〜っ!!」 真穂 「うわー、物凄く迷惑な政権」 まったくだと思います。 でもね、彼らはむしろそれをやりたいって気でいっぱいさ。 だからこんなところまで来て演説してるんだろうし。 町人 「ワ、ワシらの安全は保障されるのか……?     な、ならば前魔王などよりよっぽどよいじゃないか!」 町人 「そ、そうだよな!だったら魔王様!俺達ぁアンタについていきますぜ〜〜っ!!」 中井出「()びなど要らぬ!!」 町人達『ヒィッ!?《ビビクゥッ!!》』 中井出「我が魔王軍に必要なものは力!!媚びなどいらぬ!!」 町人 「ア、アワワ……!!」 中井出「あ、でも愛想は欲しいかも」 総員 『どっちなんだよ!!』 中井出「う、うるせーーーーっ!!媚びなどいらぬわ!!だって僕魔王だもん!!     魔王然としてりゃいいんだろコノヤロー!!」 藍田 「お、落ち着け提督!言ってることが暴走し始めてる!!」 とことんまでに凡人な彼らだった。 それでも強いんだから不思議ですゴッド。 中井出「やってやるぞ世界征服!     だがその前にヒヨッ子ども!貴様らのレベルアップを実行する!!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「いやちょっと待て!どうせならまだ言ったことのない場所へと向かいつつ、     出会う敵全てと戦いながら進むものとする!!」 皆川 「はっきりしろ提督てめぇ!!」 田辺 「このクズが!!」 中井出「なんで言葉訂正しただけでクズとまで言われなきゃならんの!?     え、ええい黙れ黙れヒヨッ子ども!!ともかく冒険だ!!     いくら魔王になったからって冒険心まで捨てた覚えはねーーーーっ!!     というわけでこれより各地への冒険を開始する!!異存は無いかぁっ!!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「旅立ちの準備は出来ているか!!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「ホントか!?」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「グミとか買い忘れてないか!!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「うむよし!ならば猫の店を探し、回収次第冒険を開始する!!     全員大いにロマンと状況を楽しめぇえええいっ!!     イェア・ゲッドラァック!!ライク・ファイクミー!!」 ザザァッッ!! 総員 『Sir(サー)!!YesSir(イェッサー)!!』 ナギー『おおお……!迫力があるのじゃー!!     こんなに大勢でやったのは初めてなのじゃー!!』 中井出「うむナギーよ!これが真の原中の号令である!!     やはり面白いものとは少数より大勢でやったほうが楽しいものである!!     ではな、彰利一等兵に桐生二等兵、日余二等兵。     我らはこれより猫の店を探し、さらなる冒険へと旅立つ」 彰利 「オ、オウヨ。次会った時は俺の方が強者だぜ?」 中井出「フフフ、返り討ちよ」 岡田 「つーか重ッ!!いい加減降りろコノヤロー!!」 中井出「《ドグシャア!!》オギャーーーリ!!」 北斗の拳のように大層なデカい物体に乗ってた中井出が、 それを担いでいた猛者どもに投げ捨てられた。 中井出「な、ななななにすんのーーー!!今とってもキマってたところだったのに!!」 岡田 「ハッ!重かったので下ろしました!サー!!」 中井出「だったら普通に下ろそうよ!投げ捨てる意味なんてなかったよね!?ねぇ!?」 田辺 「魔王様にあらせましては、きっと華麗に着地すると思っていたのです!!     決してこっちが身動き取れないから邪魔だとかそんなことは思っていません!!」 岡田 「その通りです!サー!!いい加減重いなぁとかそんなことは思っておりません!」 中井出「今岡田くん“つーか重ッ!いい加減降りろコノヤロー!”とか言ってたけど!?     あれって邪魔って思ってたんじゃないの!?」 総員 『気の所為です!サー!!』 中井出「てめぇらぁあああああっ!!!!」 町人が哀れみの目で中井出を見ている。 ああ……町の皆様に同情される魔王様ってどうなんだろうね。 なんて思ってた時、我が後方で別のざわざわ感が波立った。 何事? 凍弥   「おや柿崎。そっちの女はもういいのか?」 柿崎   「ウン……モウ……元気アリスギテ……」 来流美  「……?大丈夫?柿崎くん、やつれてない?」 柿崎   「ソンナコトナイヨ」 鷹志   「ところでさっきから気になってるんだが……       なんだってその女、お前の腕に抱きついてるんだ?」 おなご  『そんなことは簡単よ。私が稔さまの連れ添いだから』 友の里連中『───ひきっ!?』  ざわ……!! オウ?今ナンテー、言イマシター? 凍弥 「か、かき、柿崎……?お、おまっ……お前、まさか……!?」 鷹志 「マ、ママママジで……!?俺達の賭けに貢献しちまった……のか……!?」 柿崎 「ままままま待て待て待て!!確かに事実上そういうことになっちまったけど!!     それでも俺からじゃない!むしろ俺は襲われたんだよ!!」 凍弥 「……さよなら柿崎。キミはもう俺の知ってる柿崎じゃないんだな……」 鷹志 「柿崎……いいヤツだったよ……」 柿崎 「僅か数秒で人を亡き者にしてんじゃねぇよ!!」 由未絵「え?え?ど、どういうことなのかな」 来流美「ちょっっっ……と待っててね、由未絵。今頭の中整理してるから……」 彰利 「なんぞね。つまり、そこのパーシモンが、     そっちのおなごと夫婦仲になったってことっしょ?気分的に」  ざわっ……!! 凍弥 「え……やー、その。えっと……………………マジ?」 おなご『本当ですわ』 鷹志 「は、はぁ……で、声がブレて聞こえるんだけど、ご職業はなにを……?」 おなご『つい先日まで魔王を努めておりましたわ。     けど今日からはこの方の妻一筋にいかせていただきます……Y』 来流美「あ、あー、そ、そうなんですかー、あ、はははは魔王ォオオッ!!?」 町人 「え……うわっ、うわぁああああっ!!!魔王フォルネリアだぁあああっ!!!」 町人 「なっ!?う、うわぁああああっ!!」 彰利 「フオッ!?」 なんと!町の人々がおなごを見るや否や、奇声を上げて逃げ出した!! 物凄い恐怖のスリコミ……!迫力の無い中井出とは大違いだぜ……!! 中井出   「オ……これはこれは、前魔王様じゃねぇか〜〜〜っ!!」 フォルネリア『あら、お久しぶり。小さな魔王はお元気?』 中井出   「……あの。言葉遣い変わってない?」 フェルネリア『悪いけど、もう魔王だのなんだのには興味がないの。        魔王の実権が欲しいのならあなたにあげるわ。        私は稔さまの妻として、誠心誠意尽くすことに決めたからぁ〜〜……♪』 中井出   「ヘァアイイーーーーーッ!!!!《プツプツプツ……!!》」 おお!中井出のむき出しの腕が鳥肌に!! 恐らく、こんなんになる前のこのおなごはかなりの実力だったのだろう。 そのあまりのギャップに鳥肌が立ってしまった、と。 いったいどんなおなごでどんな魔王っぷりだったのやら。 中井出   「だ、誰だてめぇ!!僕の知ってる魔王フォルネリアは、        そんな緩んだ顔したおなごでは───」 フォルネリア『ああ……稔さま……私、一生ついていきますわ……』 中井出   「聞いちゃいねぇ……」 しかしそんな中でも僕らの中に確信の時が訪れた。 そう、彼女のこの状態は…… 中井出「闇に生きたおなごが女としての究極の愛に目覚める、か……。ああ、これは……」 総員 『う、うむ……超絶・キャス子症候群……』  ◆超絶・キャス子症候群───ちょうぜつきゃすこしょうこうぐん  闇に生きた少女が、ある日出会った男に惹かれ、初めて本当の愛に目覚めること。  その際、他の存在には容赦無いが愛する者にだけは酷くラヴリーなのが決め手となる。  さらに言うなら決定打として契りを交わしてしまっていると、もうホンマにキャス子。  魔力が高く、大きなフードを被っている風貌からしてももうほぼパーフェクトといえる。  ただし魔女だの魔王だのの経歴がとことん家事スキルをないがしろにしているため、  家庭的な女性が好きな男性ならば、受け入れがたい存在かもしれない。  *神冥書房刊:『新説/魔女メディアの恋』より 凍弥    「で……お前、ここまで本気にさせといて、        まさか捨てるってこたないよな……さすがに」 柿崎    「あ、当たり前だ馬鹿野郎!        襲われたにしても、彼女も俺も初めてだったんだぞ!?        責任は取る!!相手が魔王だろうが関係ねぇ!!」 フォルネリア『稔さま……Y』 彰利    「ああ……見える……見えるな……」 中井出   「ハートが飛んでるよ……。        鬱陶しいほどのラブ臭を撒き散らしながら飛んでる……」 来流美   「て、いうかさ、その。        大声での“初めてだった”って言葉へのツッコミは無し?」 総員    『彼の精一杯の勇気と覚悟だ……無視しよう』 真穂    「無視とはちょっと意味合いが違うと思うんだけど」 凍弥    「しかしなぁ、まさかあのパーシモンに女が出来るとは」 鷹志    「しかも出会って数時間で両人公認の将来夫婦仲……」 凍弥    (解ってるのかパーシモン。ここはゲームの世界で、彼女は……) 柿崎    (委細承知!一時だとしても、それはもう問題じゃないんだ!        俺はもう彼女にぞっこんなのだ!) 凍弥    (え……マジ?) 柿崎    (惚れた!彼女居ない暦が人生暦と同等な俺に訪れた春だ!        いや!そんなことを抜きにしても俺は彼女に惚れている!!) 凍弥    (大好きだとか愛してるとかは言わないのか?) 柿崎    (え?だって物凄く嘘くさくなるだろ) 凍弥    (ごもっとも) なんぞか話し合ってる友の里陣営。 しかし驚いたね、まさかゲーム世界のおなごと恋に落ちる者がおるとは。 中井出「おお!ここに愛の誓いを受けました!!     我ら原中、面白いことには相手が拒否しようが潜り込む!!     昨日の敵は今日の友!だがしかし、状況によってはどうにでもなる!     つーわけで今この時は互いに敵同士ということを忘れて二人を祝うものとする!!     さあ!そこに隠れてる晦一等兵!一緒に騒ごう!」 彰利 「なんと!?悠介!?そこにおるのかね!?」 悠介 「フフフ……バレちゃあしょうがない……」 総員 『誰だてめぇ!!』 悠介 「呼ばれたから出てきたのにそりゃないだろ!!」 彰利 「キミがそんな登場の仕方する時点で疑われるのは当然だろコノヤロー!!     大体キミは今まで何処に居たのかね!?」 悠介 「ずっと聖地ボ・タで鍛錬してたが」 ルナ 「そうそう」 彰利 「おやルナっち。キミも?」 ルナ 「や、ホモっち」 彰利 「………」 いつまでホモっちなんだろね、俺。 でもこげに機嫌のいいルナっちも珍しい。 なにかしら言ってくると思ったのに。 彰利 「だがなーーーっ!!悠介のことを一番知ってるのはこの俺だーーーっ!!」 中井出「おおっ!?いきなりどうした彰利一等兵!」 彰利 「いや、ちっと思い出したことがあってね?」 ルナ 「ホモっち……ホモっちが知ってるのは少年の思い出の頃だけで、     それ以降の悠介のことなんて知りもしないの。解る?」 彰利 「解らぬ!!」 中井出「聞き分けの無い駄々っ子みたいだな」 彰利 「うるせー!ともかく俺より悠介のことを知ってるヤツなど存在しちゃならねー!」 悠介 「それって告白か?」 彰利 「違いますよ失礼な!!つーかキミがそういうこと言うかね!!」 悠介 「ん……まあ、人から離れていろいろやってるうちに、いろいろ悟れたってこった。     こっちの修行は順調だ。そっちは?」 彰利 「修行って……まあ、俺たちにとっちゃ似たようなもんか。順調だァヨ」 ポムポムと悠介の肩を叩きながら言う。 やぁ、ほんにいろいろ経験してからの悠介って猫みたいで困る。 気づくと居なくなってるし、性格が物凄く気紛れだし。 でも怒る時はめがっさ怒るし。 ところで“めがっさ”ってどういう意味なんだろね?教えて鶴屋さん。 まあそれはそれとして、学生時代の悠介なんて物事に特に関心もなく、 降りかかる火の粉のみを弾いては、 俺や中井出や猛者たちが実行することに悉く巻き込まれるだけの物静かな……やっぱ猫? 本質ってそうそう変わらんもんなのかねぇ。 彰利 「で、悠介よ。ちっとは落ち着いた?人にはやっぱり嫌われたい?」 悠介 「お前なぁ、その話はやめろって言っといただろうに」 彰利 「ままま、聞かせなさいって。こうして落ち着いた顔もしてるし、     中井出の呼びかけにわざわざ応じて出てきたくらいだ。     なにか心変わりくらい───」 悠介 「ないぞ」 即答でした。 彰利 「なんで!?」 悠介 「なんでもなにもないんだって。     嫌われておきたいのは確かだ。そうしておいた方が後が楽だぞ?」 彰利 「グーム……キミさ、いったいなにしでかすの?それだけ教えてくんない?」 悠介 「んー……世界崩壊?」 彰利 「ぶっほ!?そ、それって嫌う嫌わないの問題じゃねぇじゃねぇか!!     って、だから俺がそれを止めるためにお前を殺すって!?」 悠介 「おお、察しがいいな。その通りだ」 彰利 「ちょっとお待ち!キミいったいどういう理由で世界崩壊なんぞを!?」 悠介 「そこんとこだが俺にも解らん。未来になってみないと」 彰利 「その未来を曲げることは……」 悠介 「が〜んばれ。お前ならきっと出来るさ」 彰利 「キミは努力せんの?」 悠介 「俺は俺に出来ることをする。その結果が世界崩壊で、それをお前が止める。     大丈夫だ、きっとなんとかなるさ」 彰利 「……冗談?」 悠介 「んー……なにひとつ冗談は混ざってないな。俺は俺に出来ることをするし、     世界は崩壊に向かうし、お前はそれを止めようとする。     ただし実力が伴わなけりゃその時点でドカーンだ。     だからお前はそのまま順調さを継続させといてほしい」 彰利 「出来ることをやるって、それが世界崩壊に繋がる理由が解らん」 悠介 「だーから。俺も全部知ってるわけじゃないんだって。     そう何度も訊かないでくれ、いい加減疲れるしうんざりだ」 彰利 「だったら答えをいいたまえよ!!僕は何故キミを殺さねばならんのだね!!」 悠介 「それが、俺が辿り着く“運命”だからだ。それだけだよ」 彰利 「───」 運命、ときましたか。 あれだけ運命を嫌ってた悠介が運命と。 つまりそれは、それほどまでに抗うことの出来ない未来だというのか。 出来ることなら止めてはいけないのか。 悠介を殺す以外の方法で。 彰利 「たとえばだ。ここでお前を殺したら、未来はどうなる?」 悠介 「ん、そりゃ崩壊するだろうな」 彰利 「へ?」 ……ありゃ?オイマテ。 それってヘンじゃないか? 世界を崩壊させるのが悠介なら、今ココで悠介をコロがして……あれ? 悠介 「言ったろ、俺は俺に出来ることをする。     世界は崩壊に向かうし、それを阻止するためにはお前は俺を殺す。     何ひとつ嘘は言ってないし、嘘になりようがない。     べつに世界が崩壊しようが俺はそれで構わない。     けど、そうなるとお前との約束が果たせなくなる。それだけは死んでもゴメンだ。     だから出来ることをする。お前だって同じだろ?」 彰利 「待て、話がかみ合ってない。“お前が”世界を崩壊させるんだろ?」 悠介 「ああ、“晦悠介”が世界を崩壊に導く。……ひとつ訊いておく。     彰利、お前に“俺”を殺せる勇気はあるか?」 彰利 「………」 悠介 「あるなら俺が知ってる全てを話す。無いなら、このことについては忘れろ。     全部忘れて、やがて滅びる世界とともにせいぜい束の間を生きろ」 彰利 「殺す殺さないもない。聞いてから決める」 悠介 「……はぁ。そうくると思ってたよ。だったらやめとけ。     最初からやる気じゃないと出来やしないって。     それに俺もまだまだこの状況を楽しみたい。     つまらないことを考えるのは事態がつまらなくなってからでいいだろ?」 彰利 「む……キミがそう言うならよいがね。とにかく強くなりゃいいんだな?」 悠介 「そーいうこった。特に精神的なものとかをな。     お前の場合、どれだけ強くなっても肝心なところが非情になりきれてないんだ。     それが出来れば、お前はいくらでも強くなれるさ」 彰利 「キミは?」 悠介 「……ほんと言うとな、もう力の行使は完璧なんだ。     それを自分の力として扱うことも出来てる。壁は越えたよ。     あとは時を待つだけだ。でも待つだけじゃつまらないだろ?原中として」 彰利 「おや……悠介からそったら言葉が聞けるとは」 悠介 「せいぜい楽しむよ。これからは本当に自由奔放だ。     そういうことに関してとても詳しい妻も居るしな。     はは、ほんと、あいつが一緒で良かった」 彰利 「俺は!?」 悠介 「たわけ、そんなの喧嘩の時に全部解るだろ」 彰利 「む」 それもそっか。 まだまだ先の話だけど、嫌だったこととか楽しかったこと、 全部ぶちまけて喧嘩するって約束した。 だったらなにもこんなところで話す必要なんてない。 それに、悠介はきちんと言ってくれた。 “喧嘩は出来る”って。 だから今は安心して、自分を高めながらこの世界を楽しもう。 もしかしたら本当に最後になってしまうかもしれない、この楽しい一時を。 Next Menu back