───冒険の書92/目指せ浮遊島!───
【ケース283:穂岸遥一郎/老師トンペティのナマステ】 チュンチュン……チ、チチチ……ヂチチチチッ!!ピギィーーーーッ!!!! 遥一郎「………」 鳥の絶叫で目が覚めた。 体を起こして辺りを見渡してみれば、なんのことはなく昨日泊まった宿屋のベッド。 おかしなことは景色内にはないのだが、だったら先ほどの鳥の絶叫はなんだったのか。 そんなことを思いつつ、朝の空気を部屋に取り込もうと窓を開けた……のがいけなかった。 雪音 「やーほーホギッちゃぁ〜〜ん!!」 まず最初に目に付いたのは、 まるで誰かの霊を見送るかのように天へと立ち上ってゆく煙だった。 続いて、その煙の発生源を鍋から吐き出させている観咲雪音(炸裂馬鹿)。 さらに辺りを見渡してみれば、異臭により地面に倒れ伏している鳥たち。 遥一郎(……物凄い臭いだ) 少し臭いが届いただけで頭痛がするほどだ。 断言しよう、こんな景色には朝の臭いなんて存在しない。 むしろ異臭。刺激臭。というか目が痛い!きつい!! 遥一郎「ふんぬ!」 バスンッ!───全力の速度で閉めた。 朝の気分が台無しである。 シヌラウマの一件以来姿が見えないと思ったら、突然現れて地獄の香りを醸し出すとは。 遥一郎「はあ……これでまた、金の心配しなきゃいけなくなったわけだ」 さすがに無視して逃走するわけにもいかないだろう。 ああいや、今持ってる金だけでも預けておいたほうがいいか。 ヤツが悪魔降臨の儀式(先ほどの料理)に夢中になってるうちに、 みんなに話を通しておこう。 ……ヤツの野生の本能に気取られないように、tellで。 ───……。 そうして裏口から逃走、トランクルームに辿り着き、有り金全部を預けておいた。 トランクルームはモンスターハンターの財産のガードマンです、 と熱弁されたからには信頼しておくべきだろう。 ちなみにこの言葉はモンスターハンターではなくてメタルマックス系だったと記憶する。 こういう無駄知識ばっかり増えたのはひとえに、ヤツを知り合いに持った故だろう。 それを言うなら凍弥も案外ゲームとかはやっていたわけだが。 それはともかく、そうして俺達は金を安全な場所に逃がしてやってから宿へと戻った。 すると───異臭問題で怒られている馬鹿者が居た。 しかも俺と目が合うや、やーほーとか言って大きく手を振り俺を巻き込む。 ええい、どうしてくれようか、こいつは。 雪音 「やー、探したよホギッちゃん」 遥一郎「そうか。俺は忘れていたかったぞ」 雪音 「え?」 遥一郎「いや、なんでもない」 疑問符を浮かべる観咲を軽く流しつつ、 メシがどーとかこれ以上の迷惑がかかる前に移動を開始することにした。 雪音 「ホギッちゃん、わたし」 遥一郎「すまん、金なら宿代で全て消えた」 雪音 「えぇっ!?ここってそんなに高級な宿だったの!?」 遥一郎「そういうことだ」 澄音 「そんなわけだから雪音、今から冒険に出るよ」 雪音 「全国食べ歩きツアー?」 遥一郎「食から離れろ」 呆れつつ、これからの考えを一通り教えることにした。 どうせ金は預けてあるんだ、こいつの大食を抑えるいい機会なのかもしれない。 遥一郎「いいか?これから食の量は節約のため、俺達と同分量にしてもらう」 雪音 「馬力でないよ?」 遥一郎「……もしこの世界にルイーダの酒場があったら、     お前の職業は間違い無く戦士・男だ」 雪音 「あはははは、ホギッちゃん馬鹿だねぇ、わたし女の子だよ?     それにわたしそんなに食べないもん」 ええい、どこからツッコんでくれようか。 遥一郎「じゃあ俺達と同分量でいいんだな?」 雪音 「馬力でないよ?」 遥一郎「出なくていい。節約最優先だ。それから金銭問題は全て自分で解決すること。     今からはもうさすがにお前の金の面倒は見切れんぞ。むしろ返してくれ」 雪音 「金銭問題は自分で解決することになったんだよね?     だったら返さなくてもいいのかな」 遥一郎「……いいぞ」 雪音 「わ、言ってみただけなのに許可してくれた。やたー!ホギッちゃん太っ腹ー!」 今の内にそうハシャイでおるがよいわ。 その言葉が、貴様の金銭問題が俺に降りかからない盾となるのだから。 澄音 「穂岸くん、物凄い悪代官顔になってるよ」 遥一郎「いいんだ。今なら年貢を無理矢理徴収される民の気持ちが解る。     それならばいっそ悪代官側に回ってしまったほうがまだ楽だ」 サクラ「ヤクザのほうがいいです」 よくないと思うが。 遥一郎「さ〜てと、じゃあそろそろ出るか。レベルもようやく200だ。     集中して戦った甲斐もあるってもんだ」 雪音 「え?わたし180だけど。ホギッちゃんずるい」 遥一郎「勝手に行方不明になったお前が悪い……って言いたいところなんだけどな。     お前、いったいどういう戦い方してたんだ?一人でそのレベルって」 雪音 「群がるザコモンスターをコロがしまくったんだよー!!     ヘンなおじーさんが魔物のエサっていうのを売ってて、     それを貰ったらもう物凄い数のモンスターが来てね?     その悉くをこう、鈍器で破壊したのさー!」 遥一郎「じゃあ、お前はもうペシュメルガにはなってるのか?」 雪音 「んーん?この服見て解らないかな、ホギッちゃん」 遥一郎「………」 エプロンドレス、だな。 ハテ、目でも腐ったか?俺。 雪音 「この度わたし、観咲雪音ちゃんは、     ホギッちゃん専属のメイドさんになったんだよー!!」 どーーん!!どーん……どーん……ど−……(エコー) 遥一郎「………」 雪音 「あー……あのね、ホギッちゃん?わたしべつに熱はないよ?」 気づけば観咲の額に手を当てていた。 遥一郎「それで、あなたは何処のマネマネさんですか?」 雪音 「モシャスでもないよ?」 遥一郎「……双子?」 雪音 「違うったら」 遥一郎「頭を打ったのか。そうか……」 雪音 「……ねぇホギッちゃん?わたしがメイドになるのがそんなにおかしいかな」 遥一郎「ハッキリ言おう。お前に家事は無理だ。     鍛冶の方が似合ってるから今すぐ武器職人になれ」 雪音 「ホギッちゃんそれ失礼だよぅ」 遥一郎「俺としては冗談で済ませたくないんだが……まあいい。     で、武器は相変わらず鈍器か?」 雪音 「んーん、空手を生かした体術にしたよ?鈍器もたまには使うけど」 遥一郎「なるほど……」 そういえばこいつ、空手を習ってたんだっけ。 時々下段回し蹴りとかされた学生時代が思い返されるな。 あの時は脚が折れるかと思った。 雪音 「というわけでホギッちゃん!     これからはわたしがた〜っぷりご奉仕してあげるからね!」 遥一郎「いえあの、結構です」 雪音 「あはははは、恥ずかしがらなくてもいいよ〜。     炊事洗濯掃除から魔物退治までなんでもござれだよー!!」 ハワー、とやはり両手を上げるこいつを、やはり俺はどうしてくれようかと思うわけだ。 だってな、さっきから後ろに控えてるノアの視線が物凄く怖いのだ。 サクラはホヤヤンとしてるけど、とにかくノアが怖い。 なあ、神様。 俺ってもしかして女難の相でも常備してしまってるのか? こういうのはもう勘弁してほしいんだが。 雪音 「ほらほら見て見てー!ちゃ〜んとパンツァーメイドさんだよー!     ハンドマシンガンが光ってうなるーーーっ!!!」 ドチュチュチュチュチュチュチュボッガァアアアアアンッ!! 村人 「ヒ、ヒイーーーッ!!オラの家がぁーーーーっ!!」 村人 「誰だぁ!こんなむごいことをしたのはーーーっ!!」 脇目も振らずに逃げ出したね。 これ以上巻き込まれるのはごめんだ。 すまない村人たちよ、せめて元気に生きていてくれ。 ───……。 ……。 そんなこんなで、半ばというかまるっきり逃げるように冒険に出た。 まったくもって不本意だが、言っても始まらないんだよな、悲しいけど。 雪音 「これから何処に行くの?」 遥一郎「何処って当てはないな」 澄音 「僕らは今、純粋に“旅”を楽しんでるんだよ、雪音。     いろいろなところに行って景色を眺めるだけでも十分なのさ」 遥一郎「そういうこと。ランチを作って山の上で食うのもいいしな」 雪音 「へー。だったらわたしが」 遥一郎「すまん、まだ死にたくない」 雪音 「大丈夫だよぅ。一人旅でわたしも料理を覚えたんだから」 遥一郎「ほう。で、その料理とは?」 雪音 「魔物肉の丸焼きー!」 遥一郎「……観咲、そりゃ料理とは呼べん」 雪音 「えー?料理だよ?だって食べられないものが食べられるようになるんだよー?」 遥一郎「お前が言ってるのは火にサツマの野郎を放り投げて、     出来上がった焼き芋を料理だという馬鹿者思考だろうが」 雪音 「焼き芋って美味しいよねー」 よし、何を言っても無駄と見た。 もういいじゃないか、料理でも。 観咲ならきっと、食べられないものが食べられるものになればなんだって料理なんだ。 その理論でいけば、飲み物である水が凍って、食べられる氷になるのも料理なのだ。 もう忘れよう、こいつは並大抵の馬鹿ではないのだ。 遥一郎「しかし、なんだな。こうやって旅をしてても、特に誰とも会わなくなったな」 澄音 「そうだね。以前なら原沢南中学校の誰かを時々見かけたものだけど」 レイラ「皆様、別の大陸にでも向かわれたのでは?地図の西側に大陸がありました。     恐らくそちら側か、それとも浮遊島という場所に居るのかもしれません」 サクラ「天界です?」 遥一郎「あれも一応浮遊島って言えるのか?」 ノア 「あそこは一つの世界ですよ。実際の空にあるわけではありません。     条件を満たした上で、空にあるゲートをくぐると辿り着ける世界です。     もちろんそこから放り出されれば空のゲートから飛び出ることになり、     浮遊方法のない者は等しく地界の地面に落下するだけですが」 空中に何処でもドアがあって、そこが天界っていう大地に繋がってる。 そういうことだろうか。 雪音 「ふゆーとー!」 遥一郎「Fool to you?」 雪音 「んうう?よく解らないけど、ふゆーとーだよふゆーとー!そこ行ってみよ!」 遥一郎「そりゃ構わないが……行き方知ってるのか?」 雪音 「実はノアちゃんにはそのヘルメットから出るジェットで空を飛べる能力が!!」 ノア 「そんな機能はありません」 雪音 「あれっ!?じゃ、じゃあサクラちゃんは杖から翼を生やして空を飛ぶ能力が!」 サクラ「杖なんてないです」 雪音 「うー……《チラリ》」 レイラ「…………《ニコリ》」 雪音 「レイチェルさん!」 レイラ「ありません」 雪音 「う、ううー……!じゃあホギッちゃんが空飛べばいいんだよぅ!!」 遥一郎「なにをいきなり怒りだしてるんだお前は!!」 雪音 「大丈夫!ホギッちゃんなら出来るよ!わたし、信じてる!!」 根拠もへったくれもない傍迷惑な信頼だった。 遥一郎「勝手にそんなこと信じられても飛べるもんか。     目的地が浮遊島への旅路でも構わないが、     それならもっといろいろ考えるべきだろ」 雪音 「飛べないの?」 遥一郎「飛べん!!」 ええい、この触覚娘は人をなんだと思ってるんだ。 翼も生えてなければ宇宙人でもない俺が飛べるわけないだろう。 そりゃ、精霊だった頃はやろうと思えば出来たかもしれないが。 澄音 「目指すのは空だね?ふふ、なんの因果かね」 遥一郎「なんの因果だろうなぁ」 レイラ「大丈夫です、わたしはちゃんとここに居ますよ」 雪音 「?なんのこと?」 遥一郎「お前に話しても仕方ないことだ」 雪音 「むむ、ガッデムだよホギッちゃん!話せー!」 遥一郎「断る」 以前話して聞かせてもまったく理解出来なかったのを思い出してみる。 そんな貴様が今話して聞かせたところで理解してくれるのかといったら……否だろうなぁ。 大喰らいで馬鹿でパワーがあるって、ほんとどこの“戦士・男”なんだろうなこいつは。 産まれる性別絶対間違えてると思う。 さて、そんなことはおいておくとしてだ。 俺達の旅は本当に、そうややこしいものじゃあなかった。 ただの思いつきで移動して、道が分かれていれば棒を倒して行き先を決めるようなものだ。 そんな行動の所為か、レベル不足で死んでしまったことも当然何回もあったわけだが、 それに見合うレベルアップは出来たつもりではある。 正直ノア、サクラ、レイチェルの姐さんのジョブがメイドじゃなければ、 こうも上手くはいかなかったと断言できるところであろう。 何故なら主人の傍に居るだけで滅法強くなるという誓約の中、 彼女たちの強さはそれはもう言葉では言い表せないくらいに強かったのだから。 むしろ相手の敵が可哀相になるくらいの戦いっぷりだったね。 加えて俺と蒼木は回復役兼サポート役で、 攻撃はメイド達に任せて裏周りをやるというなんとも地味な戦いをしていた。 でも仕方ないだろ?目の前で激しい戦いが繰り広げられているのなら、 どっかで地味さがないと釣り合いがとれないってもんだ。 しかし、目の前の触覚娘がキラーメイドとして舞い戻ってきた時は正直驚いた。 だって、観咲雪音だぞ? 俺の記憶する限り、かなりの高確率でメイドが似合わない日本人である。 いやそもそも日本人はメイドをするべきなのかが解らないところだが、 そんなことを言っていたら弦月に呪われそうなので話を飛ばそう。 ともかく、ただでさえ単独行動で戦っていたっていうのに、 周りに主人が居ない状態でメイドとなった触覚娘が どうやって立ち回っていたのかは疑問の極みではあったんだが。 今思うと少しは納得出来るわけだ。 ようするにこいつは相手がどんなヤツだろうが、 パンツァーメイドを解放して蜂の巣にしてしまったんだろう。 相手モンスターに同情したくなる想像が俺の中で休むことなく膨らんでいっている。 不憫な。 雪音 「ホギッちゃん?おーい、ホギッちゃ〜ん?」 遥一郎「べつに意識は失ってないから目の前で反復横飛びするのはやめてくれ」 普通は目の前で手を左右に振るもんだろう。 雪音 「浮遊島に行くことは決定でいいんだよね?」 遥一郎「あのな、べつに俺はリーダーじゃないんだぞ?     行き先ならむしろこのメンバー最強のレイチェルの姐さんに訊いてくれ」 レイラ「わたしは澄音さんの行きたいところにどこまでも付いて行くだけですから」 澄音 「僕はどこでもいいよ」 ノア 「わたしはマスターとともにあります」 サクラ「与一と一緒がいいです」 雪音 「みんなこう言ってるよ?」 ええい、どうしてこのチームは誰一人主体性を持つヤツが居ないのか。 観咲はそうなんだろうが、こいつに任せるといつの間にか巨大生物の胃袋の中に居そうだ。 そうなると自動的に物事の判断は俺に委ねられる、と。 そうなってしまうのだろうかなぁ……。 むしろこいつに全てを任せて、人生の厳しさというものを学ばせるのも手だが、 それまでに何度死ぬのか想像に容易い大博打なので考えなかったことにする。 俺には自己犠牲の覚悟は出来ても、自殺の趣味はないのだから。 遥一郎「解った、解ったよ。行くのは浮遊島で、     そこまで行くのに調べるべきことはどうせ俺に調べろっていうんだろ、お前は」 雪音 「だってホギッちゃん、頭いいし。この世界ならレベルが上がればひ弱じゃないし」 遥一郎「……お前は、なんだ?     人に物事押し付けてなお喧嘩でも売ってるのか、この魔法使いに」 雪音 「だって。男の子なのに後ろで戦ってるし」 遥一郎「お前今すぐ世界中の男性魔法使いさんに謝れ。     それを言うならお前は前線で戦う戦士・男みたいな女じゃないか」 雪音 「ホギッちゃんたらボカ全開。わたし、メイドな格闘家さんで戦士じゃないよ?」 遥一郎「うるさいSTB」 雪音 「ムキー!!えすてぃーびー言うなぁ!!」 STB=救いようの無い、てっぺん、馬鹿。 ようするに頭の悪さは救えない馬鹿者という意味だが。 ちなみにボカってのはボケバカの略らしい。 それにしても、やれやれ。 結局は面倒ごとは俺が背負い込むことになるわけか。 まあ、金が無くなるわけじゃないなら我慢するべきなんだろうけどさ。 まずは各地にtellをして情報でも集めてみるか。
【Side───その頃の提督さん】 チュンチュンチュン……チ、チチチ……ゲキャーッコゲキャーッコ。 中井出「んー……む」 鳥のさえずりと謎の声で目が覚めた。 場所は……ドリアードが作ってくれた、自然の寝室。 何故宿で休まなかったんかって?部屋が無かったからさ。 彰利ファミリーと数人の旅人が泊まるだけで、ホークピクスの宿はいっぱいだったのだ。 だから適当な森に移動して、 そこにドリアード特製の木々の家を作ってもらって寝泊りしたわけだ。 いやしかし、葉っぱをいっぱい敷いた場所で寝るのも案外ひんやりしてて気持ちいい。 虫も現れなかったし、こういうのならまたやりたくなる。 ……ちと人数が多くて困ったもんだが。 36人はちと多いよな。ああいや、ナギーとシードとロドを合わせると39人か。 エルは竜珠の中に居るわけだし。 中井出「ぬーむむ……ぐう。ちと遅くまではしゃぎすぎたか。まだ寝たりない」 この世界での寝不足は即ち、精神の疲労を意味する。 時間にすれば十分寝たんだろうが、精神はまだ回復していないのだろう。 なかなかに精神力を使ったらしい。 大元の原因はオリバとの対峙だろうが。 精神削るなってほうが無茶だろ、あれは。 中井出「……さて」 両脇に寝ていたらしいナギーとシードを眺める。 寝ていたらしいもなにも、現在進行形で就寝中なわけだが。 わざわざ起こすのも可哀相だよな。 ま、いいか。 適当に起き抜けの散歩でもしよう。 と、そこらで寝ている猛者どもやナギーとシードを起こさないように、 そっと樹木住宅を抜け出した。 ───……。 さて。 なんとか無事に……でもないが、永田の足を踏んでしまうという事態が起きてしまったが、 それでもなんとか無事に脱出できたわけで。 まあその、永田はお得でっせと唸るだけだったが。 何がお得なのかは僕らの永遠の謎である。 中井出「早朝の散歩ねぇ。いやいや随分と懐かしい」 空界じゃ散歩らしい散歩なんてしなかったし。 空中庭園はそりゃもう広いが、広いからこそヘタすると迷子になる。 そんなことを懸念したために広い範囲は動き回らなかった。 ……はてさて。 それはそれとして、この朝露に包まれた空気のなんと澄んだことよ。 空界の空気に勝るとも劣らず、なんとも落ち着ける空気だ。 や、いーもんだね、たまの早起きも。 徹夜明けの朝よりゃまだ澄んでるように感じるってもんだ。 徹夜明けの朝なんて目も疲れてるわ体が固まってる感覚はするわで重い。 それに比べてどーだいこの空気。 悪くないどころか心地よいかぎりである。 中井出「さて」 散歩はいいんだが、なんの目的もないのは嫌だな。 一応武器も持ってるし、運動がてらに敵と戦うか? いやはは、まあ、そんな都合よく敵が出てくるわけもないんだが。 普通こういう場合、そんなことを思ってると敵が現れるー、とかもあるわけだが。 周りを見渡したところでモンスターのモの字も無し。 だったら地面から産まれるか? ハハハ、まさかなー、とか思ってると出るのもパターンだが。 全然出てくる気配もなし。 モンスターのことは忘れよう。 ではどうするかといえば、やっぱり散歩しかないわけで。 俺は森を抜けた道をトコトコと歩き始めていた。 視線の先には、といってもかなり遠くになるが、ホークピクスが見える。 西の大陸であるここと東の大陸を繋ぐ唯一の船継場であり、 柿崎くんが結婚式を挙げた場所でもある。 その後の彼がなにをどうしているかなんて知りもしないが、はてさて。 魔王を嫁にもらう一般人の気持ちってのはいったいどういうものなのだろうかな。 知り合いにゃあ死神を奥さんに持つヤツや多人数を奥さんに持つやつまで居るくらいだが、 だからといってその心情が解るといったらウソになる。 結局のところ、彼らが彼女らを好きならば、 それはどこにでもある家庭の心内とそう変わらないのかもしれないな。 ああもちろん、俺の一般論としてだが。 空界人になっちまった俺の一般論が果たして、地界での一般と呼べるのかは謎である。 中井出「ふーむ」 しかしなんだ、ほら。 一人きりってのも随分と懐かしい。 学生時代は学校以外ではいっつも一人だったようなもんだが、 仕事をやり始めて、家を奪われて、空界に住むようになって…… 麻衣香と一緒になってからは、もうずっと一人になることなんてなかった。 俺はその時になって初めて、 幼馴染の“綾瀬”という女の子が以外にお節介焼きだったこと知って、 そんな彼女に随分と救われた。 遠慮なく麻衣香と呼べるようになってからは、 それこそあいつは率先して俺の身の回りの世話をしてくれた。 逆に手伝おうとすると、いーから好きなことしててー、と笑顔で言われたもんだ。 ほんと、正直俺にはもったいないくらいの幼馴染だ。 だってのに、ずっと誰とも付き合ったりしなかったのはどうしてなのかな、と時々思う。 中井出「自惚れてもいいところ、なのかねぇ」 たまにはな。 こんな一時があってもいいだろう。 ただ男に興味がなかっただけかもしれないし、もろもろの事情があっただけかもしれない。 それでも、ただひとり俺だけは受け入れてくれたって事実は、素直に喜ぶところだろ? 中井出「……いい天気」 ちょっと顔が緩むのを感じながら、それを整えるようにして見上げた空。 まだうっすらと暗いその空に、 遠くから明るさが広がってゆく様は空界では見れない景色だった。 中井出「……うん?」 と、そんな時だ。 顔を空から下ろして、普通に景色を眺めた時。 遠くに動く影を発見して、それが晦と空き缶さんだと気づくや、 俺の心の巴里にいい具合に着火された火を確認。 風に乗るような速度で、しかし気配は殺して彼と彼女へ近づいた。 こんな時に、いつか開花させた隠密の才能(タレント)
が役に立つとは。 まあもっとも、晦相手にいつまで尾行できるかは知らんが、 この世界ではヤツの六感もそう敏感ではない筈だ。 ならばこそ、いろいろとピキキーーーン!! 中井出「ハワ───!!」 悠介 「うん?なんだ?」 中井出(…………!!) 突如届いたtell受信に思わず魂吹き飛ぶ驚きを齎された俺だが、 絶叫までは至らずに茂みに隠れることでやりすごした。 くそ、誰だ。 人がせっかく面白そうなことに首を突っ込もうとしてるってのに。 中井出(こ、こちらアルファワン……誰だ、このクソ忙しくも緊張感ある任務の最中に) 声  『あー、テステス。こちら穂岸遥一郎。そっちゃ中井出ってやつでいいんだよな』 中井出(おおよ、こちら西の大陸の魔王たる博光である。何用か、) 声  『いや、ちょっとな。     もしかしてでいいんだが、浮遊島への登り方とか知ってないか?』 中井出(浮遊島?なんだ、貴様も目指してるのか?) 声  『え……ってことはそっちもか』 中井出(おお。残念だが有力な情報は無しだ。むしろこっちが教えてもらいたいくらいだ) 声  『そっか。邪魔した』 中井出(おおまったくだ!) 声  『……お前ら原中生は、少しは歯に衣着せようとか思わないのか?』 中井出(思わん) 声  『そ、そか。それじゃ、今度こそ邪魔した』 ブツッ─── 中井出「むう。っと、tellにばっか気を取られてると晦見失うな」 とりあえず通信は切れたし、このまま声が聞こえるあたりまで近寄りたいと思います。 無音の神よ、どうかこの博光の気配を完全に断ちたまえ。 【Side───End】
……ふむ。 遥一郎「提督軍にも情報無しか」 既に何人かに話は聞いてみてるが、どれも有力情報は無しとくる。 どうやって昇るんだ?あんな場所。 地図には一応浮遊島の存在が記されてはいるんだが、 上り方まではさすがに書いてないのである。 そりゃそうか。 雪音 「どうだった?ホギッちゃん」 遥一郎「だめだ、情報一切無し。まだ誰も行ったことがない可能性が高いな」 それにしても西の魔王ってのはいったいなんのことだろう。 原中のことだから敢えて聞き流したが、まさか本当に、ってことはないよな、さすがに。 うん、多分、きっと。 さて、次はどうしようか。 この感じだと誰かに訊くよりは自分で探したほうがよさそうなものだが、 それでも少しの手掛かりくらいは欲しいもので。 晦───は、なんとなく忙しそうってイメージがあるからやめとこう。 こっちがこういう状況なのだ、むこうも周りのごたごたに巻き込まれてる可能性は高い。 閏璃には連絡とってみたが、柿崎稔氏が結婚したという情報を手に入れただけである。 しかも魔王と結婚したらしい。 驚天動地、とまではいかなかったものの、やはり相手のイメージが出来なかった俺は、 魔王という先入観だけで恐ろしい想像をしてしまったわけで。 柿崎氏の安否が気遣われる。 その一方で朝月俊也陣営に連絡をとってみると、 彼と彼女らはトレジャーハンターらしきものをやっているらしく、 遺跡や洞窟の中に入ってはお宝目当てに奮闘しているんだとか。 地味に力を上げているとかで、そういえば時々町でも噂を聞くようになった。 もっともそれと浮遊島の話は別で、彼と彼女らも知らないとくる。 さて、困ったもんだ。 などと言いつつも、ついつい世間話をするかのように、 トレジャーハンターまがいのことをやっている彼の話に耳を向けていた。 最初に入った遺跡では第一歩目から罠にあって死亡確認。 リベンジ時にはそれから六歩進んだところで死亡確認。 それから何度も挑戦し、お宝安置所に辿り着いたはいいが、 気が緩んだところでトラップ発動、やはり死亡確認。 しかし宝はきっちりとバックパックに詰めたらしく、そこは攻略できたんだとか。 ……さて、トレジャーハンターの定義についてちと考えなくもないが、 確かに死んでも生き返れるトレジャーハンターってのはある意味無敵なのかもしれない。 とはいえ、そこまで死にたくないのも確かだが。 そんな話もあって、どこからか“俺が頭のキレるやつだ”的なことを知ったらしく、 ……まあ、その話がどこから来たものなのかは ここしばらく姿を見せなかった触覚娘が暗躍していることなど想像にたやすいわけだが、 彼は俺に“一緒にトレジャーハンターをしないか”と言ってきたが、俺はこれを断る。 宝目当ての冒険ではないが、冒険をしていることは確かなのだ。 約一名金喰い触覚娘が居るが、 それならゆっくりと金喰いを辞めさせていけば……いや、いけたらいいな、ほんと。 遥一郎「はぁ」 雪音 「どったのホギッちゃん。溜め息なんて吐いて。     溜め息吐くとね、幸せが逃げてっちゃうんだよ?」 サクラ「!?よ、与一、ダメです!溜め息吐いたらダメです!」 遥一郎「こいつの話には耳を傾けてもいいが、あまり信じないように」 雪音 「真実はいつもひとつだよ!ホギッちゃん!!」 遥一郎「少なくともお前が放った言葉で俺達が救われたことは、     数えても無駄なほど皆無だろ。真実はな、観咲よ。とても厳しいものなのさ……」 雪音 「うわ、とっても遠い目してる」 ノア 「お察しします、マスター」 雪音 「で、でもわたしだってみんなを救えた名言くらい残してないかな、ひとつくらい」 遥一郎「………」 皆様 『………』 雪音 「あ、あれ?なんでみんな黙っちゃうのかなぁ」 遥一郎「さ、情報収集を再開しようか……」 雪音 「ほ、ホギッちゃぁあ〜〜〜ん!!なにか言ってよぅ〜〜〜っ!!」 遥一郎「なにか」 雪音 「そういう意味じゃないよぅ!!」 そんなわけで。 俺はまだまだ情報収集に身を費やさなければならないらしい。 そりゃな、俺の武器っていったら知識程度しかないんだろうが、考えてもみろ。 こんな場所に訪れる経験なんて他のやつらと一緒くらいの俺の知識が、 こんな場所でどう生かされるというのか。 いや、言ったって無駄なことくらい解っているのだ。 解っているが、人間の心理とは難しいもので、 愚痴りたくないものでもいつの間にか愚痴ってるのが人間ってもんだろ? 遥一郎「はぁ」 ……さて。 気を取り直して次は弦月あたりにtellをしてみるかな…… Next Menu back