───冒険の書94/モンスターユニオン───
【ケース286:晦悠介(再)/エルメテウス】 変化ってのは案外、当事者には解らないものだという。 しかし今回訪れた変化っていうのは物凄く解りやすいかたちで、俺達の前に現れた。 それがなんなのかなんて目の前を見れば解ることなのだが、ともかく。 かなり遅い新婚旅行を始めた俺達の前に現れた敵は、力を合わせて倒していった。 けど何処のなにが間違いで、なにが捻じ曲がっていたんだろうな。 倒したモンスターはむくりと起き上がると再び構え───ることもなく、 羨望の眼差しで俺とルナを見ると仲間にしてほしそうにこちらを見てきた。 相手が遊び人じゃないだけ安心出来るってもんだが、 それだけで仲間にするわけにもいかないだろ、とか思った。 いや、思ったりもした。 こういう時に大体後悔するのが決断力の乏しさ故なんだろうが、 だからこそ俺は敢えて頷いた。 せっかくの二人旅だったが、 そろそろ魔物でもなんでも、助力を得るのも悪くないだろうと。 ……それがきっかけといえばきっかけだったんだろうな。 何気なく振り分けておいたカリスマステータスや、 人外に好かれるというエキストラスキルがこんな状況を呼ぶきっかけとなったのだ。 そう。きっかけ、なんてものは案外近くに、しかも忘れた頃に物事を呼ぶものなのだ。 気づけば俺とルナの周りは魔物の軍勢が出来ていて、 さらに気づけばナビが勝手に人をモンスターキングとして認定しやがったのだ。 当然獣人勢力からは勝手に除名。 俺はルナとともに、自分でも気づかないうちにモンスターキング様と化していたのだ。 それに気づいたのは定期連絡が如く、ナビに届いたメールを見てからであった。 “あなたをモンスターキングとして認めます。  日々殺されてゆく魔物の明日のためにも、あなたが導になってください” なんてことが書かれていやがった。 なにかの悪い冗談か、とも思ったんだが、まるで俺の考えを読んでいたかのように、 メールの隅っこに“冗談ではありません”とか書いてありやがったのである。 悠介 「………」 絶句するなってのは無茶な注文だよな? だから俺は好きなだけ絶句した。 周りのモンスターどもは俺をモンスターキング様として崇め始めるわ、 ルナは楽しそうに笑ってるわで、俺はもう何処に安堵していいのか解らなかった。 ああいや、まあその。 ルナが笑ってるならそれでいいか? とも思ったのだが、それにしてもこれはないだろうと思ってしまうわけで。 あー……どうやら俺は、とことん人間以外に縁があるらしい。 ここまで来たらいっそ、ヤケクソになった方がいいんだろうかな。 悠介 「ビ、ビバ?」 魔物 『モンスターユニオン!!』 ゴォオオオオン!!という絶叫を聞いた。 周りに居るモンスターどもが一斉に叫ぶ中、 どうしてかいつの間にかモンスター語を理解している俺が居た。 なぁ神よ、これはいったいどんなマジックだ? ギガンテス 『モンスターキング様!!』 ミノタウロス『モンスターキング様!!』 悠介    「……………」 バカデカいモンスターどもに囲まれて。 しかもそいつらが俺を見下ろしながらキング様だぞ? なにか根本的に間違ってるような気がしてならないんだが。 そりゃ、確かに勝ちはしたからこそ仲間になったのはよく解る。 解るが、どうにも違和感が先立ってしょうがない。 当時、皇竜王とか呼ばれた時の俺の心境と今はきっと似てるんだろうな。 ルナ 「……どーするの?これ」 悠介 「どうするって」 どうしようかなぁ……。 ああいや、ひとまずは彰利にでもtellを入れよう。 悠介 「もしもしー、彰利かー」 声  『はい、こちらタケモト引越しセンターと申しますが』 悠介 「そうか。じゃあ二度とかけん」 声  『ギャア待って!!そう僕彰利!     ステキで無敵な愛の死者!あれ?じゃあ死んでる?まあいいや、どうせ死神だし』 いいのか? 声  『で?なにヨ。この俺にtellなど珍しい』 悠介 「ああそれなんだが。俺、たった今からモンスターキングになったから」 声  『なにそれ』 悠介 「なにそれもなにも、そのまんまの意味なんだが」 声  『キング?』 悠介 「そう」 声  『魔物の?』 悠介 「そう」 声  『キミって……』 悠介 「あー、解ってる、みなまで言うな。どうせ俺ゃ人外に好かれやすいよ。     どうせエキストラスキルにそんなものが混ざってるのは俺くらいだろうさ。     だがな!俺だって好きでこんなことになったんじゃないってことくらい理解しろ!     そう、そうだ!俺はいつの間にか、というよりはなにかの巨大な陰謀により、     知らぬ間にこんな事態に……!!」 声  『………』 沈黙されちまった。 あの彰利にだ。 声  『今思ったんだけどさ。知らぬ間にって言葉ってシヌラウマに似てるよね』 悠介 「ンなこと考えてただけかよ!!」 声  『お、おおっ!?なに!?なに怒っとるの!?』 悠介 「うるせー!!とにかく俺はモンスターキング様になったんだ!     それだけだ!それだけ伝えたかっただけ…………!それだけっ……!!」 声  『言葉使いが途中からカイジになってるが』 悠介 「うーさい!」 声  『おお……暴走しとるね。もしや上手くいった?』 悠介 「……予想はつくが、それでもなにがだと言っておこう」 声  『感情ですよ感情。     ルナっちと繋がることで、結構上手くいったんじゃないかな、って』 悠介 「………」 やっぱり計算づくか、この野郎。 悠介 「上手くいったもなにも。     お蔭でこっちはいろいろ大変だったよってこら!懐くな!」 声  『お?ほほ?もしやステキな恋愛ドラマが展開中?』 悠介 「お前はなにか?ビットバイパーに懐かれることが恋愛ドラマだとでもいうのか?」 声  『早合点ッスカ……』 少々大きな蛇がウネウネと俺の周りをうろついている。 名前はビットバイパー。灰色のヘビである。 声  『そんで?感情は蘇ったかね?』 悠介 「完全じゃないながらな。けど好きって気持ちは解った。一応、サンキュ」 声  『そか。そらよかった。でさ、今どれくらいモンスターが仲間におるの?     つーかそうなるとキミのレベルってどうすりゃ上がるん?』 悠介 「モンスター以外の生き物の殲滅である」 声  『……つーことは俺も?』 悠介 「もちろん」 ヤケクソになった男の怖さを見せてやろう。 これでも王だなんだと言われた経験なら他の誰よりもありそうな感じではある。 なにせ、国の王になったり竜の王になったりと、 普通ではありえない経験を確かに積んでいるのだから。 ……個人的に誇れたもんじゃないと思うが。 声  『キミって懲りねぇねぇ……。とことんそういうのに縁があると思ってええの?』 悠介 「うるせぇっ!好きでなってるわけじゃないわ!!     国の王になったり竜の王になったり     モンスターの王になったりする俺の身にもなれよ!!」 声  『正直……解りたくもねぇっす』 ああそうだろうよ、俺だってごめんだ。 それがなんでこんなことに。 悠介 「とーにかく。次会ったらお互い敵だ。そして俺は既に魔物の王。     魔物と対立する者は容赦なくツブす。     そんなわけだ、残念だが獣人勢力を成長させることはもう俺には出来ない。     だからそっちはお前に任せる」 声  『うおう、そういやそういうことになるのか。オーケ、こっちは任せときんしゃい。     小僧の話だと、遠くに旅に出てた獣人の何人かが戻ってきたらしいからね、     こっちはこっちで世界を大いに盛り上げるとするさ』 悠介 「ああ。じゃあ、いずれまた会おう」 声  『クォックォックォッ、その時はお互い敵同士か……腕が鳴るのぅ。     って、ルナっちも一緒なん?』 悠介 「当たり前だろ」 声  『………』 悠介 「お前、震えてないか?」 声  『そ、そんなことねー!!むしろドンとこいだよ!?     俺がおなごにビビるわけねぇじゃんYO!!     むむむしろいつまで経っても上達しない料理に、     こっちが呆れ果てて教えてやってるぐらいだよ!ハハハハハ!?』 悠介 「ハッ!!お前の後方から先輩の声が!!」 声  『ヒィッ!!ごめんなさいごめんなさい!!悪気はなかったんですごめんなさい!!     ごめヒキャアアアーーーーーーッ!!!!』 ドゴッ……!ごしゃ、めしゃっ……!───ブツッ…… 悠介 「………」 冗談で言った筈が、どうやら本当に居たらしい。 ああすまん、だが自爆したのはお前だ、責任は取れん。 あいつもいい加減、いろいろ学習したほうがいいんだろうが…… いや、学習したところですぐ忘れるんだろうな。 なにせ彰利だ。 ルナ 「ゆーすけ?」 悠介 「通信が切れた。まあ、一応言うだけのことは言えただろ」 あとは野となれ山となれ。 俺は俺で、目の前や両横、 さらに後方までに広がるモンスター軍団を統括しなければならんらしいから、 他勢力の心配をしてる暇はないのだ。 悠介 「じゃあ、いっちょ頑張ってみるか」 ルナ 「旅行をしても楽しいだけじゃ済まないのが悠介らしい、って納得していい?」 悠介 「もう好きにしてくれ……」 むしろこっちは泣きたいくらいだった。 ───……。 ……。 ブルリザードマン『モンスターキング様がご到着なされたぞ!!』 魔物の軍勢   『ビバ!モンスターユニオン!!』 悠介      「………」 魔物の軍勢に案内されるがままに到着したのは、 西の大陸の北の果てにある魔物の巣窟だった。 そこにあった凶々しい玉座に座らされて、思うことはひとつ。 俺、なんの精霊だったっけ?と。 少なくとも魔の精霊じゃあなかった気がするんだが。 ギガンテス『うおおお!モンスターキング様ァアアアッ!!!』 トロル  『もんずだぁぎんぐざまぁあああ!!』 モンスターたちが、高い位置にある玉座に座る俺を見上げ、喝采する。 しかし、俺はそれどころじゃない。 考えることが山ほどあって、それを整理するのに手一杯なのだ。 差し当たってまず確認するべきことは、 悠介 「なぁルナ……こういうのって中井出がやるべきじゃないか?」 これだった。 しかし隣に座るルナはむしろ楽しそうに“そーかな”と言って笑ってる。 やっぱり俺と一緒に居られれば何処でもいいらしい。 嬉しいが、さすがに場所くらいは選びたいと思うのは俺の贅沢なのだろうか。 悠介   「で、モンスターキングってのはなにをすればいいんだ?」 ブルオーガ『人間をブチコロがそう!!』 即答だった。 しかも微妙に質問と答えが噛み合ってない気がするんだが? ブルベア『そうだ!我らに害を及ぼす者をコロがすんだ!!』 悠介  「ふむ」 どうでもいいがどうしてコロがすが共通語になってるんだか。 まずそこらへんからツッコミを入れていいのだろうか。 悠介      「そりゃいいが、何処を狙いたいんだ?」 ブルリザードマン『最近、我らの聖地ボ・タで暴れる者がおります。          魔王軍だと名乗っておりますが、倒しても蘇るのです』 悠介      「あー……」 そいつらは無視するべきだと言ってやるべきだろうか。 関わるとろくな目に合わないし。 しかもリザードマンの言い方はまるでアンデッドモンスターへの言葉だ。 よかったな、猛者ども。 こっちから見るとお前らも十分アンデッドっぽく見えてるらしいぞ。 ブルベア 『幸い、コロがされようが聖地で蘇ることは可能だが、       それでも何度もコロがされて喜ぶヤツなんて居ねぇ』 ブルバット『だからモンスターキング様の力でなんとかしていただきたいんです』 と、言われてもな。 べつに何処の誰がどうなろうが知ったことじゃないんだが、 それを自分の手でやるとなると話はべつになってくる。 しかしまあこの世界がゲームであり、コロがされても皆蘇るのも事実。 ただし、NPCは死ぬと蘇りはしないが。 けどドリアードとちっこい魔王は大丈夫だろう。 どういうわけかナビネックレスをつけてた。 あれをつけてる限りは死んでも蘇れる筈だ。 悠介   「…………」 ルナ   「悠介?」 ブルバット『キング!』 ブルベア 『キング!!』 しゃーない、いっちょやったるか。 悠介 「よし。ルナ、相当に滅茶苦茶な新婚旅行になるが、いいか?」 ルナ 「えへー、なんでもいいよー」 ほにゃりと笑うルナは、本当になんでもよさそうだった。 この状況が、ではなく、俺に好きと言ってもられたことがだろう。 本気でなんでも許してしまいそうな笑顔がそこにあったのだ。 悠介  「全モンスターに告ぐ!これより我々モンスター軍団は、      人間どもとの全面戦争を意思の中に組み込むものとする!!      人間を見つけたら女子供でも容赦することなく殺っちまえ!!      モンスターだということで勝手に攻撃を仕掛けてきたのはヤツらだ!!      しかも勝手に領地がどうとかほざいたのも人間!!      その勝手な意見を我々に押し付け、目の仇にするのは間違っている!!」 魔物  『ウォオオオーーーーーーッ!!!』 悠介  「ならばどうするか!?破壊しろ!!全ての民をブッ潰せ!!      いいか!まず西の魔王を東へ追い遣る!!」 ブルベア『数で追い出すんですかい?』 悠介  「いいや、違う。悔しいがあいつらの武力はホンモノだ。      特に提督軍と云われる六人と二人の力は相当だ。      いいか?やつらは魔王になる前は旅人だった。      だったらそこを利用してやればいい」 ブルベア『へぇ、と……いいますと?』 悠介  「情報操作で東の大陸に楽しい冒険が待っていると噂を流してやるんだ。      そうしてあいつらが東へ行ったところでこの大陸を魔物のものとして支配する」 魔物  『ざわっ……!!』 ブルベア『し、しかしですぜ大将、そう上手くいきやすかね』 悠介  「いくさ。お前たち、東の魔物には連絡がつけられるか?」 ブルベア『へぇ、それは』 悠介  「だったら出来る限り聖地ボ・タに集まるように言ってくれ。      これからそこが本拠地になる」 ブルベア『オッ……なるほど!あそこを本拠地にすりゃ、      どれだけ責められてもすぐに復活できるって寸法ですかい!』 悠介  「ああ。それにあそこなら魔物の強さも向上する。そうだろう?」 ブルベア『はっ……よ、よくご存知で』 そういうものは結構分析してるからだ。 場の属性加護も見極めないと、ザコだと思った相手にも足元を掬われる。 リザード『しかしキング。東の大陸全ての魔物をこの大陸に、というのは無理が。      数はもちろん入るのですが、食料が』 悠介  「問題はそこなんだが、さて」 創造しちまえば早いんだが、流石にそれは反則だな。 けどボ・タという場を奪われるわけにはいかないだろう。 だったらどうするか、だが…… 悠介  「なぁ。この大陸に詳しい魔物は居ないか?」 ジャミル『それならば、このジャミルが』 静かに手を上げたのは、瞼を閉じた人型のモンスターだった。 人と違うところといえば、 頭の両脇から飛び出たねじれた角と、背中から出た赤いコウモリのような羽根だった。 ルナ 「ふかーーーーっ!!」 で、女性とみるやルナが威嚇を開始した。 悠介  「こーらっ。縄張り争いをする猫かお前は」 ルナ  「うー、だって……」 ジャミル『この大陸には古くからの言い伝えがあります。      それはもちろん魔物にしか伝えられていないものですが、      忌々しいことに人間どもにその伝説が記された石版を奪われてしまったのです』 悠介  「石版?誰にだ?」 ジャミル『ランダーク王国のサイナート率いる騎士軍団です。      今では滅びたと聞きますが、      果たして堕ちた国で都合よく石版が残っているかどうか』 悠介  「石版の内容は覚えてないのか?」 ジャミル『聖地ボ・タに関するなにかだったのは確かだったのですが。      なにしろ宝ということもあって、      見ることさえあまり長くは許されなかったのです』 悠介  「そうか……じゃあ、まずやることはその石版の回収だな」 ジャミル『ハッ。ではすぐに選りすぐりの魔物を───』 悠介  「ちょーっと待ったジャミル。ランダークに行くのは俺とルナお前だけだ」 ジャミル『なっ……モンスターキング様!王たるものがそんな───!!』 悠介  「これは俺のモンスターキングとしての決定だ!誰にも文句は言わせん!!」 ジャミル『〜〜っ……は、はっ……!』 ポカンとしたジャミルだったが、すぐにハッとして顔を凛々しく整えた。 しかし……あ〜あ、言っちまった。 もう引き返せないぞ、俺。 しかしわざわざ誰かさんの真似して叫ぶ意味はあったのだろうかな。 誰にも文句は言わせんって、何様のつもりなんだかなぁ。 言って早々に後悔した。 やっぱり俺、上に立つガラじゃないよな。 ───……。 ジャミルは翼があるということで、 船を使わなくても空を飛んで東の大陸に向かうことが出来た。 当然俺も精霊化を実行し、体質変換のエキストラスキルを用いて飛翼を生やし、飛翔。 自らで飛ぶルナとともに、海をまたいでランダーク王国跡地に来ていた。 ジャミル『……無様だな。かつての栄光も、こうなってしまっては見る影もないだろう。      これがかつて我らを追い詰め石版を奪い去った勢力だというのか……』 悠介  「時代は変わるもんだろ。それこそ“かつて”だ。      ジャミル、経験者からの助言を言っておくけどな、過去にはあまり縛られるな」 ジャミル『モンスターキング様……?』 悠介  「縛られたって、ろくなことないからな」 ほんと、ろくなことがない。 良かったものがあったとすれば、アイツに出会えたことくらいだ。 まあもっとも、それは縛られるって意味とは違うんだが。 悠介 「さて、宝物庫は何処だろうな」 ルナ 「あっちかな」 適当な方向を指差すルナ。 一方ジャミルはまったく反対の方向を、キリっとした顔で指差していた。 さて、こういう場合、キミならどうする?よし、キミって誰だ。 ともかく、まったく適当な方向を指差す我が妻ルナの方向か、 確信を以ってキリっとした面持ちで指差すモンスターの中でも威厳がありそうなジャミル。 俺としては妻を立ててやりたいところだし、 他の女の示す方向なんて行こうものなら拗ねそうで怖い。 やれやれだ、感情っていいこと悪いことがごっちゃになりすぎだ。 悠介  「ジャミルはここに来たことがあるのか?」 ジャミル『過去、戦の際に。      奪われたものを取り返しにと躍起になりましたが、結果は惨敗でした』 悠介  「そか。で、宝物庫は発見できたのか?」 ジャミル『いえ……』 そっか、あれは確信とかの目じゃなくて、 早く進もうという意思表示だったのかもしれない。 だったらもう適当でいいだろう。 二択に問題があるのなら三択目を創造するぞ、俺は。 悠介 「二人とも、こっちだ」 ルナ 「え?ゆーすけ、こっちはー?」 悠介 「あとでなー」 ルナ 「ぶーぶー」 悠介 「ぶーたれるのは構わないけど、そのカモノハシみたいな口はやめろ」 ほっとくといつまでもぶーぶー言いそうなルナだが、 俺がとっとと歩きだすと颯爽と付いてきた。 しかも構ってくれないオーラを醸し出し始めるわでちと困っている。 ジャミル『…………。おい、貴様』 悠介  「手刀」 ジャミル『《ズビシッ!》ぉがっ!?モ、モンスターキング様!なにを!?』 悠介  「貴様言うな。俺の妻だ」 ジャミル『はっ……し、失礼しました!モンスターキング様の伴侶だとは……!』 ルナ  「頭がたかーい!」 悠介  「お前も調子に乗るな、ばかもん」 ルナ  「うー」 泣いた子供がなんとやら、ってか。 ルナは俺が言った“俺の妻だ”って言葉であっさりと機嫌をよくしたらしく、 俺の首に抱きついて頬擦りをしてくる。 ……正直暑いんだが、文句を言うと拗ねそうだ。 はぁ……。 ───……。 ……。 そうして辿り着いた宝物庫は、 宝物庫と呼ばれるだけあって……いや、実はなにも無かったりした。 原中あたりに荒らされたんだろうかと真っ先に考える俺は間違いか? いや、どうしても間違ってるって気がしない。 なんでもかんでも売り払って金にしたか、それとも合成したかのどっちかか。 しかしこうまで見事になにもないと宝物庫と言えないよな。 ジャミル『───!ありました!聖地の石版です!』 悠介  「あったのか!?」 それはすごい。 よくもまあ今まで誰にも盗られずに……! 悠介  「って……壊れてるのか?」 ジャミル『はい……砕けてしまっています。      しかも丁度読んでいなかった文字部分が。これでは……』 悠介  「……よし、ちと貸してみろ」 ジャミル『え?は、はい』 悠介  「ルナ、出来るか?」 ルナ  「できるできる」 にこー、と笑うルナは本当に余裕そうだった。 ジャミルはいぶかしむようにルナを見ていたが、ルナが石版を手にとると、 落ちやしないかと今度は石版の方に目がいって離れない。 ルナ 「えっと。んー……」 ここでルナがすることといったらなにか。 そんなもの、もちろんあれに決まってる。 辺りに溢れる気配は紛れ間もない月操力の気配であり、 回路を満たしたルナの力なら、こんな石ッコロの再生なんてお手の物だろう。 ルナ 「うん、終わり」 月癒力によって輝いていた石版が輝きを失うと、 そこには見事に綺麗に整った石版があった。 これにはジャミルも驚きだ。 ジャミル『こ、れは……いったい……!?』 悠介  「今のが伝説の法術、月癒力だ」 ジャミル『げつ……?』 悠介  「扱える者は数えられるほどしか居ないという大変貴重な能力だ。      今の能力に免じて、あまり睨まないでやってくれ」 ジャミル『そ、それは!睨むなどと滅相も無い!こうして石版が手に入ったのです!      むしろさすがモンスターキング様の伴侶だと感心していたところで!!』 悠介  「………」 いや、あれは睨んでたようにしか見えなかったが。 でも確かに今は信頼の眼差しでルナを見ている。 しかしハッとするとすぐに石版に視線を落とし、 ジャミル『……!これはっ……なんということだ!』 悠介  「どした?」 ジャミル『い、今すぐ聖地ボ・タに戻りましょう!      この言い伝えが真実ならば、わたしたちは縛られる必要はないのです!!』 悠介  「そうなのか?」 よく解らん。 だがしかし、戻ろうというのなら戻ろう。 ジャミルがなにを見たのかは知らないが、そうする必要があるのならそうするべきだ。 さて、どんな物事が待っているのやら。 今から楽しみだ。 【ケース287:中井出博光/フランソワが消えた日】 ザッザッザ…… 藍田 「ジョワジョワジョワ〜〜〜ッ、今日もいい天気だぜ〜〜〜っ」 田辺 「それじゃ、今日も頑張りますか」 清水 「なにを頑張るんだよ。宴会か?」 総員 『うぇっひゃっひゃっひゃっひゃ!!』 ONEPIECEのノーランドの船の乗組員の真似をしている猛者どもと道をゆく。 あれから晦一等兵と別れた俺は、 今こうして猛者どものレベルアップのために聖地ボ・タへと向かっていた。 人数が多くてもレベルが少ないのでは最強集団は名乗れないだろう。 むしろ魔王軍をより強力にするためにも、 魔物たちを尊い犠牲にしなければどうにもならんのだ。 ……なにか言葉的に間違ってる気がするよな、尊い犠牲にしなければならん、って。  ドッゴォオオンッ!!!! 中井出「おっ……あっ……!?」 岡田 「ギャッ!!」 丘野 「地震でござるか!?しかも相当大きいでござる!!」 蒲田 「おわぁーーーっ!立ってられーーーん!!《ドサッ!》」 島田 「こ、これはたまら〜〜〜ん!!《ドザァッ!!》」 藍田 「なにを情けないことを言っとるかーーーっ!!     こうして二本の足で立つのだーーーっ!!」 灯村 「ゲゲエ!!どういう足のバランス感覚だ!?」  ガゴォッ!!  ズガガゴォオオンッ!!!! 総員 『うわおわぁあああああっ!!!!』 今まで感じたこともないくらいの地震だ。 剣を杖代わりに地面に突き立てておかないと倒れてしまうほどに。 しかしそんな中で二本の足で立ち続けてる藍田は何者なんでしょうかゴッド。 殊戸瀬「……!ねぇ!ねぇちょっと見て!地図!!」 中井出「どうした殊戸瀬二等(眼鏡無し)!!」 殊戸瀬「地図が変わっていってる!聖地ボ・タがある位置あたりが消滅していってるの!」 総員 『な、なんだってぇーーーーーーっ!!?』 殊戸瀬の言葉に、それぞれが転げたりバランスを崩したりしながらも地図を開く。 すると、確かにゆっくりとだが聖地ボ・タがある部分が消滅していってるのだ。 こりゃ……なんだ?  ゴッ……ゴゴ、ココォ……ン…… 殊戸瀬「え……?ボ・タの消滅と一緒に……」 麻衣香「地震が……やんだ……?」 ナギー『……!しまった!やられたのじゃ!!』 中井出「むう!?どうしたナギー!!」 シード『ボ・タです!父上、上空を!!』 中井出「なにぃ!?上空!?」 言われるままに上空を見上げる。 と───その時こそなにもなかったが、次第にその意味が飲み込めていけた。 ずっと遠くだ。 だけど、それでも迫力のある大きさであることは間違いない。 間違い無い、ボ・タだ。 聖地ボ・タが……宙に浮いていく……!? ナギー『愚かだったのじゃ……!     ランダークの宝物庫に行った時、壊れた石版を見て安堵したのじゃが……!     あの時、修復不可能なほどに粉々にしておくべきじゃった……!』 藍田 「ナギ助、ありゃいったい……?」 ナギー『超古代都市エルメテウスじゃ……!     かつて上空にあったとされる魔物が住む大地……!     浮遊するための魔力を失い、     地上に降りてからは魔物の聖地ボ・タとして人々には伝わった……!     じゃ、じゃがいったい何故今になって浮遊するのじゃ……!?     魔力が無いのは同じことのはずなのじゃ……!』 中井出「…………!」 ゆっくりと空へと向かう台地を見上げる。 その大きさは、やっぱりとんでもない。 さらに言えば、あの聖地……いや、 エルメテウスにはあの大陸を浮かせるほどの魔力を持つヤツが居るってことだ。 いったいどういう魔力だ? そんなの、無尽蔵じゃなけりゃ到底無理ってもんだ。 いったい…… 【ケース288:晦悠介/動き始めた浮遊都市】 ゴォオオ……!! ジャミル『すばらしい……!これがかつての聖地の姿……!!      しかし一番の驚きはあなただ、王后。      お一人でこの巨大都市を浮かせるとは……!』 ルナ  『……今は話し掛けないで』 ジャミル『ハ……失礼を。しかしモンスターキング様、この王后様の変わりようは……』 悠介  「今はフレイアモードだ。なに言ったって聞きやしない」 ジャミル『は、はあ……』 いまいち解らないといった顔のジャミルをよそに、聖地ボ・タは空へと昇ってゆく。 まったく笑ってしまうくらいの仕掛けだ。 魔力、というよりは力になるものならばなんでも糧にして空を浮く巨大要塞。 過去の魔物はこんなものに乗っていたのだ。 それが石版から得た知恵であり、場所を選ぶ必要もない魔物の聖地の真の姿だ。 しかも一度力が補給されると、数年はなにもしないでも浮いていられるのだという。 ルナ  『───。終わったわ。あなたの言うことが真実なら、      これで数年は浮いていられるんでしょうね』 ジャミル『あ、は、はい、もちろんです』 ルナ  『……?あなた、おびえているの?大丈夫よ、怖がらなくても。      わたし、興味ないものには関わらない主義なの』 ジャミル『〜〜〜っ……』 ジャミルはすっかり真死神のルナの力に飲まれている。 目を見ただけでも物凄い冷や汗だ。 そりゃそうだ、今のルナの力は尋常じゃない。 ルナ 「ん……ん。はふー」 悠介 「おつかれさん、ルナ」 ルナ 「あ、ゆーすけ。うん、おつかれー」 にこー、と笑うこいつは既にいつものルナだった。 すぐに真死神を解くところからして、まず間違いない。 こいつフレイアのこと嫌いみたいだしなぁ。 意識が同調してるのがよっぽど嫌なんだろう。 悠介  「さて。ジャミル、動く聖地は手に入れたぞ。これからどうしてやろうか?」 ジャミル『………』 悠介  「おいジャミル?ジャーミール」 ジャミル『はっ!は、はい!      まず東の大陸に行き、乗り込む意思のある同志を集めましょう!』 悠介  「よし。それじゃあお前ら、これから移動を開始する。覚悟はいいな!?」 魔物ども『グゥオオオオオオゥウウッ!!!!』 大地さえ痺れるくらいの咆哮が返事として返って来た。 上等だ、それくらいの覇気がなけりゃ、誰とも戦えやしない。 さあ、他勢力の野郎どもをじっくりブッ潰してやろうか……!! 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