───冒険の書96/空に浮かぶ聖地(ヴァース)とセントールの真実───
【ケース290:閏璃凍弥/ミスの連続がジャイアントスイングに繋がる】 サクサクサクサク…… 凍弥 「ハー、今日もいい天気だなっと」 鷹志 「オー、まったくだな、暑いくらいだ」 来流美「特に近くに居るラブラブ光線発射してる魔王とその夫とかね……」 全員 『あ〜、暑い』 柿崎 「うるさいよお前ら。べつにいいだろ?     ようやく俺にも訪れたステキタイムなんだから」 パーシモンが輝いていた。 ホークビクスの騒ぎから翌日の今、 特に何をすることもなくホークビクスから逃げ帰った俺達は、 シヌラウマを経由してまた東の大地をてほてほと歩いていた。 何故かって?西の大陸の魔王が原中どもになったっていうなら、 のんびりと旅も出来ないからである。 あいつら本当に情け容赦ないから。 それはちゃんと清水が説明してくれたし、見てるだけでも解るし。 そんなわけでまた東の大陸に逆戻りした俺達なんだが、 一緒についてきてしまったフェルネリアがパーシモンとイチャつきまくって暑苦しい。 見ているだけで目を逸らすほどのラヴラヴっぷりと、 耳を塞いでも聞こえてくるバカップルボイスがどうしようもなく俺達を脱力させた。 凍弥 「パーティーから除名していいか?」 柿崎 「いきなり除名問題かよ!!」 鷹志 「神聖なる旅の最中にイチャイチャと!何様だパーシモン!」 柿崎 「だから!いいだろべつに!初めて俺に訪れた幸せの瞬間なんだぞ!?」 凍弥 「恋人の居るパーシモンなんて僕らのパーシモンじゃないやい!!」 柿崎 「うわ!すっげぇ失礼!!それを言うならお前らな!     俺だって貴様らが恋人つくっていちゃいちゃしてるの見て、     どれほど寂しかったか解るか!?」 凍弥 「解らん」 鷹志 「微塵にも」 柿崎 「刺し違えてでもブッコロがすぞコノヤロウ……!!」 凍弥 「まあまあ落ち着けパーシモン」 柿崎 「今落ち着くべきは俺じゃなくてお前らだろ絶対……。     ……?ははーん?さてはお前ら、既に俺みたいにイチャつけなくて寂しいんだろ」 凍弥 「なんだとこの樹木野郎!!」 鷹志 「柿が咲いて実るみたいな名前のくせにその言葉!許せん!」 柿崎 「名前は関係ねぇだろ!」 凍弥 「お、俺だってなー!まだまだ由未絵への想いは消えちゃいないぞ!?     忘れたか!俺は若返ることでかつての想いを鮮明に思い出し、     さらにその時まで持っていた由未絵に対する想いも持ち合わせている!     つまり俺は当時と今の想いの全てを以って由未絵が好きなんだ!!」 言いながらガバシと由未絵を抱き寄せる! それは鷹志も同じようで、郭鷺を抱き寄せると俺と同じように熱弁を始めた。 来流美「………」 そして取り残されるマイ幼馴染。 凍弥 「…………旦那もヒロラインに呼んだほうがよかったか?」 来流美「べつにいいわよ。     どうせ現実に耐え切れずに頭おかしくするだけだわ、あの頭でっかち」 鷹志 「しかし一人だけあぶれるのも、なぁ」 真由美「来流美は再婚しないの?」 来流美「あー、あのねぇ。わたしべつに離婚した覚えも死に別れた覚えもないんだけど?     そりゃ結果的には死に別れってことになってるんだろうけどさ」 凍弥 「説明しよう。郭鷺と来流美はなんだかんだで付き合いが深く、     いつしか名前も呼び捨てで呼ぶようになっていたのだ。     時折以前のクセみたいに呼び方違う場合もあるけど」 来流美「誰に言ってんの?」 凍弥 「フォルネウス」 柿崎 「フォルネリアだ」 まあそれはそれとして。 凍弥 「でも実際死に別れたわけだし、あいつって海外行ったっきり戻ってこないうえに、     電話も滅多にかけてこない失礼無礼野郎だったろ。     どうせだし、再婚も考えてみたらどうだ?」 来流美「やめてよね、冗談じゃないわ。結婚だの恋だのなんてもうこりごりよ」 鷹志 「けどさ。このままじゃ柾樹がひとりっきりで暮らすことになるぞ?」 来流美「大丈夫でしょ?強さはここで鍛えられるし、生活資金だって財産全部渡すし、     ウチの旦那だって一応居るわけだし、恋人候補だって居るわけだし」 鷹志 「うちの悠季美はどうなんだかな。脈がありそうなのは確かなんだが」 真由美「いざとなると恥ずかしさが先立って、押しの一言が言えない子だからね」 凍弥 「それ言うならウチの紗弥香もだぞ?     なんだって柾樹の世話をずっとしてるのか解らんが、     脈がまったく無いわけじゃあなさそうといえばなさそうだ」 由未絵「おねーさんぶりたいだけなんだと思うよ?」 そうなのか? …………ああ、確かにあいつは一人っ娘だから、弟か妹が欲しいってよく言ってたな。 だから柾樹と悠季美には随分と甘いというかなんというか。 実の弟妹のように見てるのは確かだ。 だからって炊事洗濯掃除、 モーニングコールからおやすみの挨拶まで全てをするのもどうかと思うが。 あれで脈が無いなんて思うほうが普通はどうかしてるんだろうが、どうも解らん。 凍弥 「まあ、そのうちどうにでもまとまるだろ。     それを見る機会があるかどうかはべつとして、     放任する限りには幸せに育ってほしいもんだ」 鷹志 「だーいじょうぶ大丈夫。なにせ、知り合い仲のガキどもがついてるんだ。     みんな力合わせて生きていくだろ」 凍弥 「俺としてはいつか原中の猛者どもの息子たちが娘と出会うという可能性が怖い」 鷹志 「……ああ、それはなにやら解るような。     美希子や悠季美があいつらと会う可能性を考えると正直怖い」 来流美「まるで寄生虫みたいな扱いね……あんたと似たようなものじゃないの」 凍弥 「なにぃ、俺はあそこまで奇妙珍妙ではないぞ」 鷹志 「凍弥……それ説得力まったくねぇや」 柿崎 「お前はまず間違い無く原中側の男だ。周りに遠慮ってものを知らない」 凍弥 「そうか?言っとくけど俺、男女差別はするほうだぞ?」 来流美「あんたそれ、わたしの目を見てもっぺん言える?」 凍弥 「大丈夫だ。お前は細胞レベルで男なんだが、     体がそれを拒絶したために身体的に女にだな《コッパァン!!》痛い!!」 来流美「それは差別以前の問題でしょうが……!     あんたはわたしにだけは究極にやさしくないんだから、     男女差別以前にその態度をなんとかしなさいっての!」 凍弥 「む?言ってることがよく解らんが」 来流美「男女差別を謳うならもっと差別してみろって言ってんのよ!     わたしは女!女の子なの!解る!?」 凍弥 「……生物学上では?」 来流美「正真正銘女だって言ってんのに     なんだってそういうヒネクレた答えをだすのこの子はぁあああ……!!」 来流美の口調がオカンになった。 オカンといえば、我が父と母は今なにをどうしてるんだろうな。 相変わらず薙刀を振り回しているんだろうか。 凍弥 「話は変わるが」 来流美「だから!勝手に話をコロコロ変えるそのクセを治しなさいって言ってんのよ!」 凍弥 「なにぃ、言われてないぞ」 来流美「雰囲気で解りなさい!」 凍弥 「すまん。実は俺、エスパーじゃないんだ」 来流美「誰もあんたにエスパー性なんて求めちゃいないわよ!」 凍弥 「どうしろっていうんだお前は!!」 来流美「もっと頭使いなさいよ……お願いだから……」 お願いされてしまった。 失礼な。俺だって頭くらい使っている。 来流美「もういいわよ……で、なによ。     話変えるんだったらそれなりの話なんでしょうね」 凍弥 「ああ。あれに見えるは穂岸じゃなかろうか」 来流美「穂岸くん?───あ、ほんと」 鷹志 「……?なんだいありゃ……法衣着た男二人にメイド服着た女が四人……?」 柿崎 「どういうメンバー編成なんだ?」 凍弥 「とりあえず今のお前には言われたくないと思う」 柿崎 「発言すら歓迎されないのかよ俺!!」 鷹志 「お〜いホギッちゃ〜〜ん!!」 声  「ホギッちゃん言うなぁああーーーーーっ!!!」 あ、呼んだだけで物凄い勢いで走ってきた。 凍弥 「やあ」 遥一郎「やあじゃない!天下の往来……じゃないが、     お天道様が広く見下ろすフィールドでなにを叫びやがりますか!!」 凍弥 「え?俺なの?まあいいや、何処かへおでかけ中か?」 遥一郎「おでかけじゃなくて旅なんだが」 凍弥 「そかそか。こっちの大陸はどうだ?相変わらず普通か?」 遥一郎「こっちの?なんだ、お前ら西の大陸に行ってたのか?」 凍弥 「そう。そこで柿崎が恋人をゲットした」 柿崎 「ゲット言うな」 遥一郎「恋人?」 凍弥 「そうだ。紹介しよう」 小首を傾げる穂岸を余所に、パーシモンを促す。 そうするとパーシモンとともにフォルネウス……じゃなかった、フォルネリアが前に出る。 凍弥 「パーシモンの愛の人、……フルネームなんていったっけ?」 柿崎 「リグレス=フォルネリア=テオゲート」 凍弥 「おおそうだそれだ」 柿崎 「お前ってホント、話の腰折るの上手いよな……。     なにもお前が名前を言うことなかっただろうに」 凍弥 「一度やってみたかったんだ」 知り合いに知り合いを紹介する瞬間って滅多に体験出来ることじゃないだろう。 しかし名前を知ってなきゃそれもカッコつかないのはもちろんだった。 うん、上手くいかないもんだ。 と、自分でも解るくらいの難しい顔をしつつ腕を組んで頭を捻っていると、 一歩前に出て俺の目の前で穏やかに手を上げる男が居た。 澄音 「やあ」 凍弥 「やあ」 蒼木澄音である。 聞いた話じゃ別の時間軸ではそれなりの仲だったらしいのだが。 それも霊体になってからの。 しかし俺にしてみればなにがなんだか。 もちろんこういう穏やか爽やかヒューメンは俺の周りには居なかったから、 新鮮味でいったらダントツの男なわけで。 俺は俺で結構この男のことを気に入っている。 澄音 「キミも冒険中かい?」 凍弥 「それが実はな、ウチの柿がハネムーンは世界一周旅行にしたいとか言い出して、     それの下見のために各地を放浪しなけりゃならんことに」 柿崎 「なってないだろ」 凍弥 「でもお前、こんな夢が続くのはここでだけだろ。     せめてもっと状況を大事にしてだな」 柿崎 「お前ってほんと、他の人なら言いづらいことをズバズバ言うよな……。     もしかしたら、地界……だったっけ?     ともかくそっちのほうに連れ出せるかもしれないだろ?」 凍弥 「地界に魔王様を連れていくのか?かなり怖いんだが」 柿崎 「精霊とかも居るし、月詠街側のやつらが居れば十分だろ」 総員 『あー確かに』 世の中ってやつは案外、異常に出来ていた。 その一片がそう遠くない町にあったんだから恐ろしい。 遥一郎「で、向うの大陸はどうだった?」 凍弥 「提督軍が魔王になった」 遥一郎「………」 沈黙された。 そりゃするか。 凍弥    「このフォルネリアが元魔王だったんだけどさ、        それを打ち倒して魔王になったそうで」 フォルネリア「不覚でしたわ。でも……今はもうそんなことどうでもいいの。        魔王で居ることよりもっと楽しいことを見つけてしまったから」 遥一郎   「…………わあ」 絶句するしかなかったのだろう。 何処か壊れたような笑顔で穂岸はそれだけを言った。 凍弥 「で、そっちはどうなんだ?」 澄音 「こっちかい?こっちはね、ちょっと大変なことになってるんだ」 凍弥 「大変なこと?」 レイラ「セントール王国が事実上没落したのです。王と、騎士団長を残して」 鷹志 「へぇっ!?な、なんだいそれ!?セントールが!?」 凍弥 「ぬうやはり……ついに没落したか」 鷹志 「し、知っているのか雷電」 凍弥 「いや知らん《コッパァン!!》痛い!!」 来流美「あんたちょっと黙ってなさい……!」 凍弥 「………」 すっかりスリッパが来流美の私物と化してしまった気がしてならない。 さよならドナルドマジック。 遥一郎「えっとだな、まず何から話したもんか。     セントールの民がエトノワールに移った話は知ってるか?」 凍弥 「初耳だが」 来流美「黙ってなさいっての」 凍弥 「返事することも許さないのかお前は……」 遥一郎「……なぁ、ちゃんと話聞く気あるか?」 真由美「あはは……与一くん、気にしないで話進めて……。     閏璃くんが話の腰を折るのが上手いのは、     この旅以前に友の里でも解り切ってることだから……」 鷹志 「言われてるぞ凍弥」 凍弥 「悔しいが事実だからなにも言い返せん」 鷹志 「虚勢でもいいから否定くらいしろよな。で、民が移ってどうしたって?」 遥一郎「民だけじゃない。兵士も大臣も、     王と騎士団長のレオンの二人だけを残して全部移っちまったんだ」 鷹志 「……?なんでまたそんなことに?」 凍弥 「フフフ、それについては……うおっ!?     ウソ!冗談だ!何も言わないからスリッパ構えるのやめろ!!」 来流美「だったら黙ってなさい!!」 ひでぇ扱いだった。 遥一郎「エーテルアロワノン、覚えてるか?」 鷹志 「忘れようにも忘れられないだろ、あれは」 遥一郎「うん、俺もだ」 柿崎 「で、そのエーテルアロワノンがどうか……ってまさか」 遥一郎「そのまさか。エーテルアロワノンを襲った斉王を     古墳から蘇らせたってのがセントールの王だったのさ。     もちろん自分でやったんじゃなくて、兵士にやらせたんだとさ。     それを力としようとしたんだけど、相手は古の王と呼ばれたアハツィォン。     人間が、蘇らせたこと程度で操れるような相手じゃない」 凍弥 「……アレってアハツィォンなのか?」 遥一郎「ああ、ぜ〜んぶ話していったよ。ノイってヤツだったかな。     それとエトノワール王が、全部。世界を統一するために古の王を蘇らせた罪、     さらにエーテルアロワノンを壊滅させた罪、     出来事の一切を、蘇らせに向かわせたノイに全て押し付けて殺そうとした罪。     そんなことが重なれば、民も兵も国を出たくなるってもんだ」 鷹志 「なるほどね。しっかしアハツィォンか。     確か空界の裏世界だった狭界の英雄だったよな。     古最強の竜族、九頭竜レヴァルグリードとサシでやりあったっていう」 柿崎 「そりゃ壊滅もするよな。     そして斉王の姿がサガフロンティアより恐ろしくデカかった理由が解った」 来流美「巨人だったらそりゃデカイわよね」 遥一郎「そんなわけで、セントール王はなにもかも手に入れるつもりが、     なにもかもを失っちまったってことさ。     今じゃモンスター軍団に攻め込まれたら壊滅するぞ、あそこ」 鷹志 「いやぁ……返り討ちに遭うだけだろ」 柿崎 「だな。レオンが残ってるんだろ?だったら雑兵やモンスター程度にゃ負けない」 遥一郎「たった二人だぞ?いつまでも保たないだろ。     むしろ俺は、騎士団長って地位になるくらいの実力を持つやつが、     そんな王にまだ就いてるのが不思議なくらいだ」 鷹志 「アイツ頭カタイから」 柿崎 「そうそう。どうせ“ニ君は要らない。仕えるのは一人だけだ”とか言ってるんだ」 有り得そうだ。 だってレオンだし。 でも逆に曲ったことが嫌いな雰囲気もあるから、辞めてしまってもいい気もする。 なんだってんだろな。 凍弥 「結局残ったのはエトノワールだけか」 柿崎 「確かにいくらレオンが強かろうと、連戦が続けばいずれ負けるよな」 遥一郎「ところでさ、さっきから訊きたかったんだが」 来流美「うん?なに?」 遥一郎「いや……あっちの空、なんだってあんなに曇ってるんだ?     ヴォルトの居る雷雲山はあっちじゃないだろ?」 凍弥 「おろ?」 真由美「……?なんだろう、あれ」 由未絵「光ってる……雷雲?」 ノア 「マスター、同じく向こう側の海から船が来ている模様です」 鷹志 「船?ホークビクスとの運搬船か?」 一度こういう異常事態を見ると、 気になってしまうのは人間のサガなのか野次馬根性なのか。 ともあれこの世界で起こる天変地異は、 自分だけはまったく関係無いなんて言えるようなものじゃない。 だから俺達は海のすぐ傍まで駆けつけ、 人がぎっしり乗ってる物凄い速さで移動する船を見た。 鷹志 「速ェエ!なんだありゃ!船!?俺達の時はあんなに速くなかったぞ!?」 遥一郎「ノア」 ノア 「はい。風魔法行使を確認。     あれは帆に風魔法を当て、全速力で進んできているのです」 鷹志 「あ、あれってホークビクスの住人だよな?」 真由美「うん、見覚えのある人も居るよ」 凍弥 「つまり?───うおっ!?地図見てみろ地図!西の大陸が消えかかってる!」 来流美「えぇ!?うわっ!ちょっと本気!?どうなってるのこれ!!」 凍弥 「───思うに。また原中の猛者どもがなにかやらかしたんじゃなかろうか」 全員 (否定出来ないところがさすが原中……) 由未絵「でも、それが原因で町の人が全員逃げてくるようなことになるのかな」 凍弥 「由未絵……あいつらをナメちゃいかん。     付き合いは短いが、それでもあいつらが楽しみのためならなんでもする     猛者集団だということくらい理解しているつもりだ。     きっと大陸の自爆スイッチでも発見して、     我が祖国に栄光あれーとか言って押しちまったんだ」 来流美「や……さすがにそれは……(無いと言えないのが凄まじい……)」 鷹志 「よ、よし。じゃあ俺、ちと中井出にtellしてみるわ。     tell:中井出博光、っと……───お、出たな?どうしたってんだ?     ホークビクスの民たちが物凄い速さでシヌラウマの港に入っていったんだが」 声  『晦が暴走した!!西の大陸を海に沈めちまったんだ!!     俺ゃ今猛者どもと合流して妖精さんを助けてるところだ!!     つーか助かる道が皆無!船が無い!!』 声  『ヒィ提督!海水が既に腰の位置まで!!』 声  『ええい騒ぐなヒヨッ子ども!!こうなりゃ武術の達人のように海面を走るんだ!』 声  『無茶言うな提督てめぇ!!』 声  『このクズが!!』 声  『クズとまで言うか!だがその意気や良し!!     いつでも諦めない精神だけは持っておくのだ!!』 声  『提督!その剣よこせ!空を飛んで俺だけでも助かるんだ!!』 声  『なにを言っているのだ!!俺だ!俺が助かるのだ!!』 声  『キミらちょっと黙ってなさい!!よし、妖精さん回収完了!!』 声  『こんな時にまで妖精さんとか言ってんじゃねーこのエロマニアが!!』 声  『う、うるせー!!貴様らこそもっと余裕もって行動しろクズが!!』 全員 『………』 向こう側は滅茶苦茶大変なことになっているようだった。 声  『チィイ!こうなりゃ海面凍らせて走るしかない!     麻衣香!ナギー!シード!出来るか!?』 声×3『サーイェッサー!!』 声  『そんなわけだから我らは無事だ!この魔王軍が滅ぶわけなかろう!     だからそっちの大陸に辿り着いたら征服してやるぞ冒険者どもめ!』 声  『ヒロミツ!凍ったのじゃー!』 声  『よっしゃあではまず俺が《ズルゴシャ!!》ゲファーーーリ!!』 声  『ああっ!提督が氷で滑って脇腹をしこたま打ち付けたぞ!』 声  『提督!?提督ーーーっ!!』 声  『我先に助かろうとするからだクズが!!』 声  『カスめ!カスめ!!』 声  『コケた人に向かって言う言葉かそれ!!』 声  『黙れクズが!!』 声  『死ね!!』 声  『てめぇらぁああああああっ!!!』 …………。 大変そうだけど大丈夫そうだな。 鷹志 「通信、切るか」 凍弥 「んだ」 柿崎 「それがいいべ」 ブツッ。 こうして通信は終了した。 さてそうなるとこれからのことがいろいろと心配になってくるんだが……どうしたもんか。 凍弥 「これからどうする?」 鷹志 「普通に旅してりゃいいんじゃないか?」 遥一郎「晦が暴走したっていうのがヤケに気になるんだが。     もしかしてあの雷雲と関係あるのか?」 などと穂岸が言ってたそばから、突如として空中に映像が! しかもその映像ってのが晦の姿をしていたのだ!! 悠介 『あー、すまん。こっちの方まで映像飛ばせなかったみたいだからもういっちょ。     この世界は我々モンスターユニオンが支配することに決まった!     それを阻止したくば、このモンスターキング晦悠介率いる魔物軍団を倒してみよ!     もちろんこっちも全力で迎え撃とう!!     もっともまずここまで辿り着けるかが見物だがなぁ!ィヤッハッハッハッハ!!』  ざわ…… 鷹志 「うわ……なんだありゃ」 柿崎 「晦がエネルの真似してら……」 凍弥 「しかもモンスターキングって」 遥一郎「おっ……おい!あれを見ろ!なにかが向こうから飛んできてるぞ!」 鷹志 「なにぃ!?あ、あれは!」 刮目!! なんと巨大な大陸がこちらへ向けて飛んできている!! これはいったい!?もしやあれが噂の浮遊島!? 彰利 「フッ、そうだ」 凍弥 「居たのか」 彰利 「やあ、実はさっきの運搬船に乗ってきておりました。     加えて言うと、夜華さんが船酔いしてた」 夜華 「わざわざ言うことかっ……う、うぶっ……!!」 真穂 「あぁほら篠瀬さん、無茶しないで」 夜華 「す、すまない女……」 真穂 「……お願いだからいい加減名前覚えてね」 凍弥 「ところでナチュラルに心を読んでた黒男。あれってなんなんだ?」 彰利 「オウ?ああ、ありゃあ聖地ボ・タじゃよ。     悠介がなにやらあっち行ったりこっち行ったりしてるのを見たんで、     鍛錬の休憩中に尾行してみたんだけどねィェ?     なんとルナっちの魔の力で聖地ひとつ丸々が浮くじゃありませんか。     あたしゃびっくりして妻たちのもとに急いだね。     で、とっとと船に乗って逃走してきた」 なにやらきっちり解説してくれた。 なんていいヤツなんだ。まるでゲームの村人だ。 彰利 「どうどう夜華さん!今の俺、ゲームの村人に似てた!?」 夜華 「話し掛けるな……言葉を発するのも辛い……」 彰利 「グムー」 凍弥 「でだが。その晦はなにをしたいんだろうか」 彰利 「世界征服っしょ」 凍弥 「……本気で?」 彰利 「ヤツは普段はカタイが、やると決めたら突っ切るタイプだ」 来流美「あー……解る気がするわ」 彰利 「恐らくヤツは既に本気で、全力で潰す気でかかってくるぞ」 凍弥 「アー」 困ったことになった。 だって晦だぞ? 竜王たちを統括したり伝説の黒竜王ブッ倒したり、 精霊と契約したり神になったり死神になったり竜になったり精霊になったり、 とにかく普通じゃない道を歩み続けてきた相手だぞ? 来流美「まあ……みんなで囲んで攻撃すれば案外簡単に倒せたりするんじゃない?」 凍弥 「おお!マウス殺法か!!」 彰利 「あーそれ無理。忘れたかい?まだ強さが極まってなかった時でさえ、     空中庭園でそこらじゅうから襲い掛かる     エメオ=ノヴァルスを一人で壊滅させた男だよ?アイツ」 凍弥 「ぬおお、言われてみれば」 思い返される彼が戦う映像。 ……ああ、ありゃ無理だ。 彰利 「力の行使が封じられてて、     尚且つ身体能力も無かったらそりゃ楽に倒せるだろうけどさ。     悠介ってどっちかっつーと対一の修行より一対多数の修行を何度もやってたから」 鷹志 「……マジ?」 彰利 「はいマジで。そうじゃなけりゃ狭界に乗り込んだ時、     幻獣に囲まれた状態で無事で居られたと思うかね?いいや無理だね。     しかも今はあの頃よりもめがっさパワーアップしちまってるにょろよ。     いや、ほんに狭界バトル時の北の大地での彼の暴れっぷりは凄かった」 柿崎 「力の行使が封じられてて身体能力がない、って……ただの人間じゃないか」 彰利 「そ。じゃなきゃ勝てん。けどまあ、現実世界じゃないだけまだマシだけどね。     現実世界でスッピーに力を返してもらったら、彼はもう鬼神ですぜ?     真正面からぶつかって勝てるヤツなんてそうそう居ねぇんじゃねぇかなぁ……」 凍弥 「乗り込む前から嫌なこと言うなよ……」 鷹志 「努力して身に付けた力だからこそ嫌味に感じないのが救いだな。     お前なんて力をクダサーイとか言って手に入れたようなもんだし」 彰利 「し、失礼な!俺だって空界の戦いが終わってからは     ずっと自己鍛錬に励んでたやい!!努力の人ですよ!?」 真由美「えっと。晦くんの能力は今、精霊の力に纏められてるんだよね」 彰利 「お?いきなりですがイエス。それがなにか?」 真由美「それはつまり、この世界で成長を遂げれば、     現実世界と変わらない力を得られるっていうことなのかな」 彰利 「オー、もちろんそういうことになりマース。で、それがどったの?」 真由美「じゃあ、もしもだけど。     その力が分断されたりしたら、また神とか死神の力に分かれるっていうこと?」 彰利 「そりゃもちろんそうじゃろうね。     スッピーに力を預けているとはいえ、それは一部分を預けてるだけさ。     残った力を鍛えて、大きくなったそれを割ればそりゃ神や死神の力に戻るさ。     でも割れるなんてことは無いだろうけどね。     だって悠介の話じゃああの力は     スッピーたち精霊が全員で精霊の力として固めたものらしいし。     んだから、スッピーにだってあの力を元の神魔霊竜に戻すのは無理じゃろうて」 凍弥 「そか?不可能を可能にするような無形を有形に変えちまう精霊だろ?     やろうと思えば出来ると思うけど」 彰利 「だとしても、スッピーがそうと決めたんなら変えないデショ。     それに、今の悠介は精霊として成長してる。     そんな悠介を急に神魔霊竜人に戻してみなさい。     精霊という存在としてまとまった悠介の回路が、     急に戻った体の在り方に付いてこれずにきっとタダじゃ済まない事態になるさね。     それに今の悠介の体からは“人”の回路が抜き取られて抹消されちまっとる。     そうなったらちゃんと“人の姿”として安定できていられるかどうか」 遥一郎「十数年前の映像みたいに、竜になってしまうこともありえるってことか?」 彰利 「そ。だからね、精霊になっちまったんなら精霊のままが一番えーのよ。     力の中には精霊になる前の要素は詰まってる。     でもね、今さらそれを戻したって、     回路の準備が出来てない体にはあれだけの力の量はめがっさ大きすぎるのさ。     解ったにょろ?」 なるほど、よく解らん。 しかしともかく晦は既に精霊のままのほうがいいってことだけは解った。 彰利 「して、何故にそげなことを?」 真由美「もしそれが精霊として力が纏まることで強い状態にあるなら、     それを解除した一瞬の隙をついて、とか……」 彰利 「甘し!さらに甘し!そげなもんで倒されてるなら既にこの世に存在しねー!!     いいかねカチューシャさん!!     努力をするってのはそれに相応する報酬が無ければならぬ!!     そして“守りたいものを守る”なんてほざいてがむしゃらに修行したあいつはね!     誰もが真似できるようなヤワな努力なんざしちゃいねー!!     そんな滅茶苦茶な努力の末にあいつが得た報酬があの強さ!     そして俺が返す報酬も無しに受け取ったものがこの強さです。     だから今、手に入れたものを扱えるように努力中なわけですが。     つまりね、あいつと普通に戦って勝ちたいなら地獄を見なさい。     一家惨殺に遭って一家心中に巻き込まれて義理の親の死を見届けて、     死神と戦ったり月の家系と戦ったりリザードマンやミノタウロスと戦ったり、     ドラゴンや精霊や黒竜王と死線を繰り広げて勝ってみせなさい。     その遙か先にヤツは居るから」 すまん、普通に無理だ。 彰利 「けどま、実戦経験でヤツに敵うヤツはおるまいよ……。     もし居るとしたら、せいぜいでゼットくらいデショ。     狭界でのアイツの暴れっぷりは相当だったらしいし」 凍弥 「……で。親友を散々褒めてるお前だが、     そんな魔人相手に俺達にどうやって立ち向かえと?」 彰利 「レベルをお上げ。それ以外に方法はござーませんことよ?」 全員 『アー……』 全員が全員、やっぱりそれしかないのか……と脱力した。 凍弥 「じゃああれだ。お月さんを人質にとって」 彰利 「すまん無理。今のルナっち、ヘタすっと俺より強いから」 全員 『どうしろっていうんだお前は!!』 彰利 「どうしまショ……ほんと」 凍弥 「手でも組むか?」 彰利 「ソレはダメネ。ワタシ、チト忙しい」 凍弥 「けどこのままじゃこの世界がモンスターキング様に支配されるぞ?」 彰利 「じゃーじょーぶ!俺達は俺達で頑張るから!」 鷹志 「そうなのか?」 彰利 「オウヨ!だからキミらも仲間集めておくれ?     そんでもって全員でメロスの戦士となってモンスターキング様を打倒するのだ!」 凍弥 「勝てそうか?」 彰利 「なんとかなるんでない?」 凄まじく不安な返事だった。 前途はとても多難だ。 それに仲間以前の問題もちゃんとあるわけで。 凍弥 「なんとかなるかどうかより、どうやってあの浮遊島まで行くんだ?」 彰利 「空飛べ」 全員 『飛べるかぁあっ!!』 彰利 「じゃあ“人力風起こし”でも作るか手に入れるかするとか」 鷹志 「ロマンシングサガかよ」 彰利 「それがダメなら───別の浮遊島に上る手段を探して、     そっから飛び移るか移動するかするっきゃないっしょ」 他の浮遊島に上る手段か。 そこに島があるなら、きっと空界の空中庭園みたいに上る手段はあるんだろうが…… 果たして俺達にそれを見つけることができるだろうか。 いや、どのみちやられるかもしれないなら、探さなきゃならんのだろう。 まったく。 味方に居ると頼もしいが敵に回るととんでもなく嫌な相手が敵に回ってしまったもんだ。 彰利 「したらな!俺ゃちょほいとヤボ用でエコナ平原近くまで行かんと行けないから」 澄音 「あの健康によさそうな平原だね?どんな用かは訊かないほうがいいかな」 彰利 「おお、話が解るね澄ちゃん。訊かないでくれると感謝感激。     つーわけで急ぐゆえこれで失礼する!キミらも早く逃げて仲間を集めんしゃい!」 ごしゃー!と物凄い速さで弦月が去ってゆく。 それに付いてゆくのは彼の妻な人々だ。 ……約一名、死にそうな風情で走っていた女性が居たことには、敢えて触れないでおこう。 さて、こっちも少しは頑張らないとな。 いつまでもふざけてなんていさせてくれないようだ。 Next Menu back